Fate/zero × MTG のクロスでも書こうかなと 作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会
そこに、宇宙があった。
それ自体は、なんの味気も無い、一切れのパンにすぎない。それがどういうわけか、そこにバターとシロップが加わると、とたんに黄金の塊と化すのだ。舌の上で溶けるバターは、シロップと混ざり、絶妙なハーモニーを、至福の電気信号という形で、脳に叩きつけてくる。ふわふわと、まるで雲のように軽いパンが、それらの台座だけでは終わらぬと、喉を刺激する。そしてその後で、ミルクを口内に流し込むと、言葉に出来ない解放感と満足感が、脳を満たすのだ。そう、そこには、宇宙があった。
「セ、セイバー、だいじょう…ぶ?」
「こっ…このような…、こんな…こんな食べ物が…」
冬木に降り立った、清純を夢見た戦士が、感動に打ち震えていた。
サーヴァントは食性を持たない。だが、何も食べずにいると、どうしても心が渇くのだ。だから、セイバーは食事がしたいと言った。しかし、聖杯戦争は既に始まっている。まだ、どの陣営のサーヴァントも、顔を出していない。しかし、セイバーは、だからこそだ、と言って、食事を所望した。お互いに警戒しあい、先に姿を晒す訳にはいかない、この状況だからこそ。それに、兵站は兵士の士気に関わるのだ、食べなければ戦えない、そう言って。そう、力説して…。
結果、無線の向こうで折れた
「感服した。これほど素晴らしい食事に、出会えるとは…。聖杯戦争に参加出来たのは、真に僥倖であった」
「そ、そう? 喜んでくれたのなら、私としても嬉しいけど…」
「では! 腹も膨れたし、心も満たされたし。いざ、参るとするか!」
そう、衛宮切嗣ならば、こう言うだろう。『
聖杯戦争は既に始まっているのだ。舌鼓を打っている暇なぞない。それを忘れてほしくないものだ、衛宮切嗣は、一人、心の中で愚痴を溢した。
――――――
そこに、奇跡があった。
それ自体は、ガヴォニーでも食べられ、ネファリアでも売られている、ケーキと呼ばれる高級スイーツに過ぎない。それが、まるで別物であるかのような、桁違いの美味しさなのだ。スポンジ、クリーム、どれひとつ取っても、イニストラードの物とは、まるで比べ物にならない。いったいどれほどの修行を積んだ職人が手掛ければ、このような奇跡の味を産み出せるのか。そう思ったアヴァシンは、バイキング形式で並べられるスイーツの山を見て、気が遠くなりそうになる感覚を覚えた。
「ランサー…、お前…いったいなにをしている…?」
「あっ。…いえ、これはですね」
言い逃れは出来ない。右手にあるのは、クリームまみれのフォーク。左手にあるのは、大量のスイーツが乗った取り皿。そして、口元には、はしたなくケーキの残りカスが付いていた。これは、どう言い訳しても、通らない。
「仕方がっ、仕方がなかったのです!」
そう、アヴァシンの目には、このスイーツの山が、金銀財宝の山に見えたのだ。あまりの美味しさに、アヴァシンは涙すら流した。持ち帰りたい、皆に食べさせてあげたい、これを一人占めするなんて良心が痛む、そう思いつつも、体が求めてしまっていた。気が付けば、テーブルとケーキの間を、何度も往復していた。今は霊体、太る心配もない。食べても食べても、霊体の胃袋は満杯にならない。
そして、またケーキを突き刺し、口に入れた。
「ランサーッ!」
「美味しい…! こんなっ…こんなに、美味しいケーキは、初めてで…! 私…! 私…どうすればいいのか…!」
「手を止めろ!!」
「ごめんなさいっ! それだけは、それだけは令呪の命令でも聞けませんっ!」
そこに、大天使の威厳は無かった。もっとも、今は羽を持たない、人間の姿をとっているのだが。
感涙を流し、同胞の天使たちに心の中で詫びながら、希望の化身は甘味を口にする。
口の中に、奇跡が広がった。
――――――
時は夜。ということは、闇の時間。つまり、吸血鬼の時間である。
では、その吸血鬼は何をしているのか。ここ冬木の吸血鬼は、優雅に、ワインを飲んでいた。
「平和って…、いいわねぇ…」
「…ええ、間違いなく」
「ずぅーっとこうしていられたら、どれだけ幸せかしら?」
「その幸せを守るためにも、どうか!」
「いやぁよ、面倒臭い」
そう、遠坂時臣は、自分のサーヴァントを御しきれていなかった。それもそのはず。呼び出されたのは、カラストリアの血の長、ドラーナだったからだ。
ドラーナは女王である。血の眷属達を従えて、夜の街を支配する、闇の女王なのだ。その女王が腰を上げるのは、それこそ、一族の危機くらいのものだ。
だからドラーナはこうして、高級な椅子に座り、ワイングラスを傾けて、優雅な一時を楽しんでいる。それが女王の特権であり、それが女王の楽しみであり、それが女王の振る舞いというものだから。
「どうか! 女王よ、私の願いを…!」
「なんで私が人間のお願いを聞かなきゃいけないのよ?」
吸血鬼には、吸血鬼の法がある。吸血鬼には、吸血鬼の誇りがある。そして、吸血鬼には、吸血鬼の価値観が存在する。
夜の支配者である吸血鬼。それも、一族の長という椅子に座る、ドラーナほどの女であれば、『人間の言葉なぞ聞くに値しない』といったところなのだろう。それは、他の吸血鬼からしても、同じだっただろうが。
遠坂時臣は途方に暮れる。どれだけ煽てても、どれだけ貢ごうとも、この吸血鬼の女王は、私のために戦ってはくれない。そう、確信したのだ。残る手段は、ただひとつ。その手にある、令呪のみ。
意を決した遠坂時臣が、立ち上がり、腕を上げたとき。ドラーナが、顔色を変えた。
「やめなさい」
強い、拒否の言葉だった。それと同時に、その鋭い真紅の瞳が、遠坂時臣を射抜く。それだけで、遠坂時臣の喉は、言葉を飲み込んでしまった。
「他に選択肢はありません」
遠坂時臣はハッキリと言った。令呪の拘束力で、従わせるしかないと。
しかし、吸血鬼はそれを嘲笑うかのように、酷な現実を突きつける。
「無駄だから言ってるのよ。令呪を一画使ったとして、それで、私を従えられるワケじゃない。二画使えば、後が無い。全部使えば、アナタは死ぬ。ほら、無駄でしょ? だから諦めなさい」
諦めろ。ドラーナはそう言った。それは、人間という獲物を捕まえた、吸血鬼が決まって掛ける言葉でもある。
遠坂時臣にも、その言葉は、理解出来ていた。ドラーナのサーヴァントとしてのクラスは
そう、遠坂時臣には、キャスターを従わせる
「安心なさい。アナタを眷属に引き入れるつもりはないし、殺すつもりもないわ。今のところはね。降り掛かる火の粉は掃ってあげるし、マスターとサーヴァントの契約も破棄しないであげる。どうせ、現界するにはマスターが必要なんだから」
キャスターは現状維持を宣言した。しかし、遠坂時臣は、それが困るのだ。
反英霊を象徴するかのような残虐さを見せたライダーがいる。それに、問題はこれだけで終わるとは、到底思えなかった。
時間を掛ければ掛けるほど、人が死ぬのだ。遠坂時臣の焦りは当然だ。しかし、彼には、現状を変える手立てが無かった。
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