今日はいい天気だ。空は雲ひとつなく、風も柔らかい。そんな朝はこの前仕事の報酬のついでにもらった茶を飲みながら、ぼーっとするに限る。暖かい茶に口をつけると同時にドアの戸を叩く音がした。
「どうぞ」
ドアが開くとそこには、18歳くらいの黒髪細身の女性と15歳くらいの黒髪細身の女性がいた。
「あの、ここに来ればどんな事件も解決してくれるって聞いたんですけど…」
18歳くらいの女性がおずおずと尋ねた。その表情はどこか必死そうに見えた。
「事と状況と金による。まぁそこに座りな」
旧は二人を客用のソファーに座るよう指示し、残っていた茶を入れ始めた。
「粗茶だが飲んでくれ。それでお前さん方の願いはなんだ?こんな怪物に相談なんだから、相当切羽詰まってるんだとは思うんだが」
旧の姿は他の人からは、怪物のように見えるらしい。ある人は一つ目の大巨人、ある人は全身骨の怪物にも見えるみたいだ。
だから皆は総じて旧のことを<異形>と呼ぶ。
「私達の母が消えたんです。地元の警備隊にも捜索を頼んだのですが、どうにも見つからないのでここに来ました」
「いつ頃消えたんだ?」
「3日前です」
「3日前か… おっと自己紹介まだだったな。儂の名は旧。年齢は60だ。お前さん方の名前とその母親の名を教えてくれるか?あれば写真も見せてくれ」
「私の名前はミーナです。それでこの子はアリナ。母の名はイノっていいます。写真はこれです」
写真を見ると母親はその姉妹によく似た顔立ちをしていた。とても二児の母とは思えない若さだ。
「わかった。じゃあお前さん方の家の事情や、消えた理由に繋がるような出来事があったら教えてくれ」
「二日前の夜、知らない男の人と揉めてました」
「話していた内容は思い出せるか?」
「お金とか体を売るとか言ってました」
「大体目星ついた。多分イノさんは、奴隷市場か娼婦館にいる可能性高い」
「しょ、娼婦館ですか!?嘘ですよね?」
ミーナは身体を乗り出し、その場にへたり込んだ。すると今まで喋らなかったアリナがこんなことを聞き出した。
「どうしてそんなことがわかるの?」
「女は肉体労働には使えない。だから大抵は奴隷市場か娼婦館へ飛ばされるのさ。しかもこんな美人なんだからもう買われてる可能性高いな…」
「お願いします!どうにかして助けだして下さい!」
突然ミーナが立ち上がり詰め寄った。
「わかったわかった。とりあえず三日、時間をくれ。それまでに探し当てる」
多分イノがいるのは、奴隷市場や娼婦館が集まる街ナナヤだろう。そこに行くのにはバイクを飛ばしても一日はかかる。
しかも数も多いので探すのにも時間がかかる。だから三日欲しいのだ。
とりあえずルートとかは後で考えればいいだろう。旧は肝心な報酬について話を切り出した。
「それで成功報酬のことだが、料金は全て後払いになってるから了承してくれ。それで今回の件にだと30万とさせていただく」
「えっ!?こんなに払えませんよ!?」
「払えないならこの話は無しにさせてもらう」
「待ってください!そこをどうにか!」
「ふざけるな。これはボランティアじゃねえんだ。仕事なんだよ。分かってるか?」
「わかってます。だから家にある食料全てでどうでしょう?私達の家は農家をやっていて、野菜がたくさんあります。それで手を打っていただけないでしょうか」
「…わかった。それで手を打とう」
「いいんですか!?」
「30万相当なら構わん」
こうして旧とミーナ姉妹の契約は成立した。この後、見つけたら家まで送り届けるので住所を聞き姉妹を帰らせた。
姉妹が出て数分後、旧はジャケットを羽織りバイクに飛び乗った。今からナナヤに行くつもりだ。家から持ってきた500万は入ってるだろうキャリーケースをバイクの後ろにくくりつけ、出発した。このバイクは少し改造しており、最高速度は翼竜の中で3番目に早いとされるワイバーンと同じ速度で走ることができるのだ。
しばらく走っていると山賊がバイクの前に現れた。
が。
「おいそこの怪物!金と食料置いてぐほっ」
「ん?何か跳ねたかの?」
山賊をバイクで跳ねつつ目的の街ナナヤを目指す。8時間後ナナヤについた。しかしもう外は真っ暗だった。好都合だ。今なら奴隷市場や娼婦館も営業を開始したところだろう。
バイクを降り、旧はバイクに<寄生>をした。 するとバイクはみるみる旧の身体に入っていった。
「<捕食>も上手く行くようになったな。さて、対象は何処へ」
街に入ると賑やかだった。奴隷を連れて引き歩くもの。娼婦と一緒に宿屋に行くもの。ふと横を見ると強姦も行われていた。
その中である声が聞こえてきた。
「あれが異形かよ。気ん持ち悪いな」
「何しにきたんだ?近づきたくねぇな全く」
「噂によると無差別殺人も行ったみたいだぜ」
「怖いもんだね。早く消えて朽ちればいいのに」
こんな噂話はもう慣れっこだ。事実なのだからしょうがない。
旧は歩くスピードを速め、奴隷市場を探した。
10分くらい歩くと一際大きい店があった。そこにはでかでかと奴隷市場と書いてあった。
「ここか。さて、対象はいるかの」
入ると奇異の視線が旧に向けられた。それはそうだろう。いきなり異形が入ってきたのだから。
「イノって言う女をくれ」
「あんたよそ者か?だったら早く出てけ。お前に売る人間(モノ)なんてない」
「金ならある。ほら」
店主らしき中年の男性に、キャリーケースの中に入っていた札束を渡した。男性は少し考えた後
「待ってろ。今持ってくる」
と言い奥へと行ってしまった。 手元にカタログがあったので老眼鏡をかけ読むことにした。するとそこには腕っ節の強い男や現役アイドルらしい女などが売り出されていることが判明した。気分が悪くなったのでカタログを閉じると同時に、首輪に繋がれた女性と店主らしき男性がこちらへ来た。
「ほらよ持ってけ」
「感謝する。釣り銭はもらっとけ」
「毎度あり」
連れてこられた女性は間違いなくイノだった。写真と同じ顔をしていた。旧は思わず胸を撫で下ろした。やはり自分の考えは間違ってはいなかったんだと感じ、意気揚々と店を出てこうとすると一人の若い男性に声をかけられた。
「おい怪物!俺と勝負しやがれ!」
「やめておけ。こんな老人に手を出したって得はないぞ」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言わず勝負しろ!」
どうしても男は勝負しないと帰してはくれないみたいだ。
こういう人間は旧はすこぶる嫌いなのだ。
「わかったよ」
怒気を交えながら渋々返事をした。
面倒なのですぐ勝負をつけるため、<寄生>状態から<吸収>に変化し戦うことにした。旧はこの仕事を続けて、寄生、捕食、吸収の三つのモードに分けることが可能になったのだ。
「死ねぇ!怪物!」
男性が殴りかかろうとしたので旧はしゃがみ男の首を掴んだ。
掴んだ手が男性の首に食い込む。男性はもがき苦しみながら抵抗をしたが、その攻撃は旧に届くことはなかった。
「お前は儂の任務の邪魔をした。本来ならばこのままこの女をこの女の娘のところまで持ってくつもりだったのに予定が狂った。今儂は気が立っている。悪いが死んでもらうぞ」
そう言うと旧の手から鈍い紫色の光が放たれた。男はポケットからナイフを取り出し旧の腕に切りつけたが、次第にその動きも鈍くなっていきそして動かなくなった。その死体は痩せ細っていた。 暫くすると店の中はざわつき出し、人々が旧に向けて銃や魔法を撃とうとしていた。
「やり過ぎたか。早い所ずらからねぇとな」
旧はイノを担ぎ店を大急ぎで出ていった。
後編は近いうちに出そうかと思います。