地下二階へと降りるとそこには五十匹を超えるゴブリンが旧を待ち構えていた。
「これはこれは。嬉しい歓迎、誠に感謝する」
「ヤレ」
リーダー格と思われるゴブリンの一言により、他のゴブリンが旧に襲い掛かる。しかしそんなことは意にも介せず旧はリーダー格のゴブリンに歩みを進める。襲い掛かったゴブリンを凝視すると、次々とゴブリンは倒れていった。
「ナ、ナゼダ!」
「殺気というものを知っているか?儂の殺気はちいと強すぎてな。向けられたものは何故か事切れてしまうのだ」
「ドウヤッテタチムカエバイインダ!?」
「無理だよ。諦めろ」
そう言うと旧はトラップに使われていたロープを引っこ抜き、残ったゴブリンを拘束した。
「さて、地下3階の入り口を教えろ」
「コノマママッスグイケ!ソコニカイダンガアル!」
「分かった。感謝する」
床に落ちたゴブリンの武器を拾い、言われた道を進む。拾ったのは先に槍、横に斧がついた。ハルバードと呼ばれるものだ。これも街の中から奪ったのだろう。
「あっそうだ忘れるところだった」
旧は拘束したゴブリンのところまで戻るや否や胸の中から油を取り出し、ゴブリンにかけ松明を近づけた。
「ギャァァァァァァァァァァ!!!!アツイアツイアツイ!!!」
「黙って死ね」
そう吐き捨てると今度こそ、地下三階へ通づる道をたどっていった。
〜 〜
ここに来てどれくらい経っただろうか。数日?数ヶ月?それくらいの時間も分からないくらい私は拉致されていた。ゴブリンを討伐しようと思ったらなす術なくパーティは壊滅し、男性陣は無残に殺され、私達女性陣はゴブリンに拉致され凌辱の日々だ。エルフ騎士、ヒーラー、そして武闘家の私が持ってしても敵わなかった。というよりもトラップに気がつかなったというのが正しいだろう。エルフ騎士とヒーラーは何処かへ連れていかれ、私は丁度襲われたところでゴブリン達の慰み者となっている。
「ホラ!チャントアルケ!」
「くっ…まだ私は諦めていな ひうっ!?」
反抗すると、ゴブリン達は私を押し倒し、拘束した。
「ダマレ!オマエハオレタチニマケタンダ!オトナシクイウコトヲキケ!」
「や、やめてくれ!もうこれ以上犯されたくない!」
「ヤメロトイワレテヤメルバカガドコニイル!」
そういうとゴブリンは自分のイチモツを私の膣内に挿入した。気持ち悪い。何度犯されてもこの気持ち悪さは耐えられない。
「あっ ひゃうんっ もうやめてくれ!」
「ニンゲン!キモチイイ!」
ゴブリンは必死に腰を振っている。膣内に入ってるゴブリンのイチモツがヒクヒクと震えだした。
「ダスゾ!」
「嫌だ!やめてくれ!やめてください!ゴブリンの子供産みたくないぃ!」
その時だった。私を取り巻いていたゴブリンの頭が宙に浮いたのは。私の眼の前にいたのは、一匹のゴブリンだった。
〜
地下3階に下りると鼻が曲がるような匂いがした。この匂いで旧はここがゴブリン達の乱交場というのがわかった。
「気配から感じるこの反吐が出るような感覚。間違いない。ここに女が集まっているな」
偶々偵察に回っていたゴブリンを捕まえ、脳髄に直接ウィルスを流し込んだ。ウィルスというよりは寄生虫というような感じだ。仲間同士で反乱を起こさせた後自殺をする思考をゴブリンにさるよう仕込んだ。埋め込まれたゴブリンは走って仲間の元へ向かった。その後を付いていくように旧も走った。
ゴブリンについていくとそこは広場になっていた。そこで女が一人犯されていた。作戦通りゴブリンは仲間を殺し回った後自らの喉に刃を突き立てた。
「そこの女よ、何をしている。お前も戦士の端くれなら武器を持て。何故抗わない?」
「うるさい!人の気も知らないで!私がここでどんなに傷つけられ、汚されたのかわかっているのか!」
「知らないな。儂は今ここに来たばかりだ。お前の事情など知る由も無い」
旧は武器庫の扉らしきものを破壊するとそこには全裸のエルフと人間の女がいたが猿ぐつわを咬まされ、簀巻きにされていた。とりあえず猿ぐつわを外し、縄から解放させることにした。
「ふむ…女はこれだけか。おいそこの黒い髪の女。お前処女か?」
「な、何を言ってるんだ!そんなこと聞いてどうする!あと私には名前がある!」
「ほう。何という?」
「ユウカ・アーテンスベルクだ!由緒正しいアーテンスベルク家の出身だ」
「分かった。それでユウカよ。処女か?」
「…奪われた」
「そうか。でそこのエルフは?」
「私はまだ」
「そこの金髪の見た目が明らかにヒーラーらしき女はどうなんだ?」
「私もまだです」
「そうか」
旧はそう言うとジャケットから白く輝く剣を取り出し、ユウカに向けた。
「ユウカに手を出さないで!」
エルフの女が激昂して叫び、旧を羽交い締めにした。しかしそれを華麗に抜け出し、ユウカの腹部に剣を突き刺した。腹部からはおびただしい程の量の血が流れ出た。
「あっ…がぁっ…」
「貴様、貴様ぁ!ユウカに何をした!」
エルフの女は旧の胸ぐらを掴み殴った。
「何って治療だよ」
「こんな治療があるわけない!明らかに刺されて苦しんでいるじゃない!」
「待ってくださいミユさん!たしかにこう言う治療法はあります!」
金髪の女がエルフを引き剥がし宥めた。どうやらこのエルフはミユというらしい。
「ヨーコまでおかしくなったか!明らかに奴のやったことはユウカにとどめをさしたんだよ!?」
「多分あの剣は織天使の剣です!あれで悪いところを突くと一時的な出血と引き換えに健康な状態の体に戻るという神具です!」
「分かってるじゃないか小娘。ほら、ミユとやらユウカの様子を見てみろ」
「ふざけないで!そんなはずが…何!?」
ユウカの腹部は白い光に包まれ、刺した傷も元どおり何もなくなっていた。
「嘘…そんなはずが…」
「だから言っただろ?治療だと。おいユウカ。調子はどうだ?処女は戻っているか?」
「分からないが、不快感は無くなった」
「そうか」
旧は地面に座り、近くにあった石を拾い<寄生>した。するとその石は蚊になった。蚊は時として伝染病を運ぶ生き物である。この蚊には致死量の毒が含まれており、体内に入ると数分で死に至るというものだ。この蚊を使い、地下4階のゴブリンを潰そうと考えた。蚊を放した後ヒーラーと思われし者が話しかけて来た。
「す、すみません。異形さん」
「何だ?ヨーコよ」
「何で私の名前知ってるんですか?」
「そこのミユが言っていたからな。それで?本題は違うのであろう?おおよそその織天使の剣を何故、異形の儂が手に入れ、そして扱えるのか。それが疑問なのだろう?」
「はい!そうです!」
「分かった。説明するからとりあえず服を着ろ」
旧は武器庫から三人の服らしきものを見つけ、女達に渡した。
「まず儂はこの剣をギルド協会とやらから受け渡された。そしてこの剣は少々儂仕様に変更した」
「と言いますと?」
「普通の状態で使うと浄化の力とやらが働き使えない。だが、儂がこの剣に<寄生>したことにより性能を撹乱させ、一時的に使えるようになっていると言うわけだ」
旧は剣をジャケットの中にしまうと耳を床につけ、下の階の生命反応を調べた。下の階からは生命反応はなかった。
「儂はそろそろ行くぞ。お前らは今すぐ地上に戻れ」
「待て!私も戦う!」
「やめておけユウカ。今のお前じゃ勝てない」
「何故だ!」
「下っ端にやられてる時点で戦力がお察しだ。行っても足手まといになるだけ、ん?」
突如洞窟内に金属が擦れたような音が響いた。どうやら飛ばした蚊がくたばったみたいだ。
「じゃあな。せいぜい生きて帰れよ」
そう言い残すと旧は地下4階へ向かった。地下4階への階段の所で余分な武器を置いていく。
「重くて持てないな。杖と籠手と弓矢は置いていくか」
武器を置いていき、地下4階へ潜った。
地下4階へ降りると案の定大量のゴブリンが横たわっていた。全員の死亡を確認し、地下5階への階段を探すと、ヒタ、ヒタと何かが歩くような音がした。その音は旧の背後で止まった。振り向くとそこには小さなゴブリンがこちらを見ていた。身なりからして、多分ここのボスの息子だろう。傷一つついてないあたり蚊からは何とか逃れたらしい。とりあえず人質にしようと考えた
「コロサナイデ!」
「殺さねえよ。ちょいと話聞くだけだ。地下5階への階段は何処だ?」
「ワカラナイ」
「分からないってことはねえだろ。まぁいいや。教えてくれたらこれやるよ」
旧はジャケットの中から子供達が遊んでいるような変身ベルトを取り出した。
「コレッテ?」
「人間の子供の中で流行っている変身ベルトというものだ。あとおじさんの宝物でもある。欲しいか?」
「ホシイ!」
「じゃあ教えてくれるよな?」
「ウン!コッチ!」
子供ゴブリンは地下5階の階段への道を歩いていった。何もかも作戦通りである。残るは親ゴブリンとこの子ゴブリンだけだ。 旧は気を引き締めながら地下5階への階段へ歩いっていった。
〜
「ユウカ、どうする?追うか?」
「追うに決まっているだろう!ミユとヨーコはどうするんだ?」
「私も行きたいです。でも」
「勿論。だけど」
今の自分たちには武器がない。当然武器がなければ不利なのは目に見えている。どうしようかと考えていたその時だった。地下4階への階段の近くに武器が置いてあった。武器はどれも黒ずんでおり、汚かったが素のステータスは高いように感じた。
「何だこれは…?」
拾うと声が聞こえた。それはドスの効いた老人の声だった。
(戦うなら勝手にしろ。この武器を有効に使うことだな。少々穢れているが、もう穢れているお前らにはぴったりだろ?)
「あの異形…」
ユウカは口元に笑みを浮かべると地下5階へと向かった。それに続くようにヨーコとミユも駆け出していった。
〜
「パパ!オキャクサン!」
「キャクダト?」
「ウン!コノオジサン!」
「お初にお目にかかる。儂は旧という者だ」
「オマエカ、オレノブカヲコロシタノハ」
「襲われたからな。ほらガキ、行っていいぞ。あとこのベルトつけてやる」
子ゴブリンにベルトをつけさせ親元のゴブリンに戻させた。すると子ゴブリンは一直線に親ゴブリンに向かって走っていき抱っこをせがんだ。親ゴブリンの身長は3メートルを越していた。
「ダッコシテ!」
「ワカッタワカッタ。ヨイショト」
「なぁ親ゴブリンさんよ。こういう兵器を知ってるかい?」
「ナンダ?カトウナルシュゾクヨ」
「対戦車犬と言う兵器だ。儂が元いた世界での兵器でな、犬の背中に爆弾をのせ戦車の下に潜り込ませ、爆発させ破壊させるといったものだ」
「ソレガドウシタ?」
「見てな」
旧はポケットの中からペンを取り出した。ペンの上に付いているボタンを押す。すると先程子ゴブリンにつけた変身ベルトが爆発を起こした。爆炎が二人のゴブリンを襲う。爆風の範囲はおよそ300メートル。爆風に耐えつつ旧は二匹が燃える様を眺めていた。
「対戦車犬ならぬ対ゴブリン兵器といったところか。これで葬れてるといいが」
爆風は収まり、爆炎が消えたのを確認した旧は出口へ向かおうとした。その時だった。何かが風を切った音がした。振り向くと親ゴブリンが黒こげになりながらも、こちらに拳を振るった。旧はそれを避けると、顔面に回し蹴りを食らわした。しかしその足は掴まれ床に叩きつけられる。体制を立て直そうとするが、上手く立てない。そうこうしてる間に、親ゴブリンが持ってきた棍棒で旧の頭を殴る。体を起こすと巨大な足で蹴られた。そのまま吹っ飛ばされ壁にぶつかる。間髪入れずに棍棒の連撃を腹に受ける。
「かはっ」
「コロスコロスコロス!」
親ゴブリンは棍棒で殴り続ける。殴られた衝撃で意識が飛ぶ。しかしその意識を戻すかのような痛みが襲う。それはまるで不死身の体を持った蟻が象に何度も踏み潰されるような痛みだった。棍棒の衝撃をまともに喰らったので息が出来ない。多分内臓はやられているだろう。再び旧の意識が飛ぼうとしたその瞬間、
「グァァァァァ!!!」
親ゴブリンが腕を抑え倒れた。腕は黒い蟲で埋め尽くされていた。蟲を払うとそこには骨となった腕があった。
「儂の能力の<捕食>。お前の腕には血が付いていた。それは紛れもなく儂の血液だ。その血液を蟲に変化させ喰わせた。お陰で先程受けた傷もこの通りだ」
腕を見せると折れていたはずの骨が接合しており、出血していた部分も止まっていた。
「ドウナッテイル!?」
「捕食したんだよ。お前の体を。さて、次は此方の番だな」
旧はハルバードを構え直した。そしてじりじりと親ゴブリンとの間合いを詰める。距離が足元にまで狭まった。
「何か言いたそうな顔をしているな。遺言か?」
「ナゼムスコヲコロシタ!」
「それか。ここにいるゴブリンは全部殺せと依頼されたからだ。それにしても残念だったな。あのまま死んでおけば息子と一緒に逝けたのにな」
挑発すると、親ゴブリンは足元にいる旧を踏み潰した。確かに感触はあった。何かを潰したという感触は。足をあげるとそこにいたのは旧ではなく、旧の形をした何かだった。
「今お前が踏んだのはあらかじめ作っておいた泥人形だ。潰れた肉の感じ、良くできるだろ?」
振り向くと肩の所に旧がしゃがんでいた。股の間から後ろに回り、肩まで跳躍したのだ。それにも関わらず重さを感じない。咄嗟に首を掴もうとするが、するりと抜けられ足首をハルバードで切りつけられる。親ゴブリンはそのまま地に干された。
「遺言なら聞いてやる」
首に斧を置いた。断頭の合図だ。
「フザケルナヨ!オマエミタイナイセカイテンセイシャガイルカラオレサマタチガアンシンシテクラセナインダ!チートノウリョクナンカツカイヤガッテ!」
「そのことか。そのことに関しては儂も言わなければいけないな」
旧は静かな口調で語り出した。今までの自分への扱い、悪魔との契約、長きに渡る修行の日々、これらを赤裸々に語っていると後ろの方から何か音が聞こえた。振り向くとそこにはユウカ、ヨーコ、ミユが先程置いていった武器を持って戦闘体制に移ろうとしていた。
「何の真似だ」
「異形よ。私達はお前に借りを作った。それを返しに来ただけだ」
「異形さんの力になりに来ました!」
「少しは手伝ってやろう」
「その必要はない。もうすぐ終わるからな」
旧は再びハルバードを構え直すと親ゴブリンに対して遺言を求めた。
「終わりか?」
「コノオクノトビラノナカニツマガイル。シカモオレサマノコモミゴモッテイル。ドウカソイツラダケハタスケテクレナイカ?」
「…考えておこう」
そう言うと旧は親ゴブリンの首に<寄生>を行い、首の骨を脆くし、ハルバードで断ち切った。ぐしゃっという音共に首は落ちた。意外にも出血量が多く、返り血を全身に浴びながらこれからのことを考えた。どうやら奥にはこの親ゴブリンの妻がいるようだ。いつもならば子供諸共殺していた。だがその時一つ考えが思いついた。
「おい、そこの3人。儂の力になりたいのならば頼みがある」
「何だ?」
「奥に此奴の妻がいるんだと。そいつらの処分を任せる」
〜
私達は奥へと進み扉を開けるとそこには人間の女性が腹を大きくして座っていた。見たところ妊娠8ヶ月くらいだろう。女は状況を理解したのか、怯えと憎しみを孕んだ視線をこちらに向けてきた。
「どうする?助けるか?」
「助けた方がいいに決まってるって!だってゴブリンと結婚したとしても人間なんだよ!?ヨーコは助けるよね?」
「私は、私は…」
このまま助けてもこのお腹の子がいつか人間を襲うかもしれない。そう考えると殺すのが最善の選択である。だけど一人の人間を殺すのは抵抗がある。仮にも聖職者が人を殺すだなんて言語道断である。私は考えた。どちらが最善の選択か。考えると武器を拾った時に響いた声が聞こえた。
(何を悩んでいるんだ?そいつはゴブリンの仲間なんだぞ?殺されて当然に決まっている)
(でも相手は人間です。殺してしまっては神の教えに背きます)
(神は悪魔を滅ぼせという教えを説いていたな。今がその時なんじゃないのか?)
(でも…)
(そう考えてるってことは殺す気があるのだろう?奴は悪魔だ。この世の悪だ。お前がやらずして誰がやる?)
「ヨーコはどうするの?」
ミユが催促をかけてきた。もう戸惑っている時間はない。
(この人を助けなきゃ)
「私は助けま…!?」
私は自分の目を疑った。さっきまでそこにいた人間がいないのだ。代わりにいたのは一匹の怪物だった。目を凝らしてもその姿は変わらない。それは紛れもなく、自分が読んだことある聖書にある悪魔の姿だった。
「助けるよね!良かった意見が同じで」
「殺シます」
「え!?なんで!?さっき助けるって言おうとしたじゃん!」
「ミユさんハ見えないンでスか?目の前ニいるのは人間じャなくて悪魔なんでスよ?」
「何言ってるの?どう見ても人間…じゃない」
ミユが目の前に見たものは人間ではなく蠢く何かだった。ミユはそれに見覚えがなかった。しかしそれは嫌悪感を感じるほどおぞましいものだと理解できるようなものだった。
「うん。殺ソう」
「ちょっと待て!お前等今何をしようとしているのか分かっているのか!?」
「分かッてイます。目ノ前の悪魔ヲ殺スことですよネ」
「そうダよ。殺サなきゃ。悪ハ殲滅すべキだよ」
「お前等…遂に狂ったか!よく見てみろ!お前等は一つの大切な人の命…人なのかあれは?」
ユウカが見たものは人の形をした何かだった。何かを言っているように聞こえるが、その言語の理解が出来なかった。ただ聞こえているのは耳障りな音だった。
「そうだナ。殺そウ」
「ユウカも分かっテくれタんだ。じゃアどうヤって殺ス?」
「まずは腹のナかにいる邪悪ナものを取り出すトすルか。ミユ、この女ヲ拘束してクれ」
「リョーかい」
ミユは背中から一本の矢を取り出し、放った。その矢は女の足元に落ちると小さな爆発を起こした。そこから何本もの蔓が伸び、女の両手両足を拘束した。
「拘束シたヨ」
「ありガとう。後ハ私ガやる」
ユウカは女のところまで行くと拳を構えた。
「助けて!そこのお爺さん!この娘達のリーダーですよね!?止めて下さい!お願いします!」
女は悲痛に叫ぶ。その姿を見て旧は侮蔑の眼差しを向けた。最後まで生に必死になるのは良いことだが、抵抗せず助けを求める姿にどこか苛立ちを覚えた。
「残念ながらそれは無理だ。もう止められない。これも運命だ。受け入れろ」
「そんな…このひとでなし!」
「そうだな。もう儂は、人ではないからな」
旧は女を一瞥すると一服し始めた。今回の依頼はゴブリンの殲滅なのでそれに関係している人間も潰しても問題ないだろう。
「堕チろ」
「うあ"っ!?」
ユウカは女の下腹部に拳を打った。所謂腹パンというやつだ。しかも彼女の拳には棘がついた籠手となっており、そんなものが腹に打ち込まれたらタダではすまない。
「出産サせてヤるヨ。違っタな。堕胎といウやつか」
「あ"あ"っ ぎぃっ!?」
「イい声だ!こノ悪が苦シむ声!なんと甘美ナことカ」
「た、助け、お"ぶっ」
「残念だっタな!こコニはお前の味方ナんて一人モいなイんだヨ!」
「う"ぅっ い"ぃっ!?」
洞窟内にグシャっとした音が響き続ける。女の股と腹からおびただしい程の血液が流れる。時々子宮を外し膓の方を殴り吐瀉物も出る。吐瀉物と血液の匂いが充満し、一般人なら意識を失いそうな匂いをした時、突然物体が女の股から出てきた。
その物体はモゾモゾと地を這っていた。
「出てキたヨ。コれが此奴ノ子供」
「気持チ悪いデす。浄化しマすね」
「アぁ。頼んダ」
ヨーコは杖を構え、浄化の魔法を唱えた。先程拾った武器の能力か詠唱しなくとも魔法が発動した。物体に白い光が包み込み燃え出した。数秒もかからずそれは燃え尽きた。
「私の…私の子が…」
「終わリだ。死ネ」
ユウカがとどめの一発を脇腹に叩き込む。女は最後にくぐもった声を漏らすと動かなくなった。その姿を旧は嬉々として見ていた。女が死んだから喜んでいるのではない。人を殺すのに葛藤していた者が、躊躇なく残酷な殺し方で殺したその変化を喜んでいた。旧がゆっくりと屍の方へ向かうと背後で銃声が鳴った。
「動くな!」
「あぁ、入り口で助けた男か。何か用か?」
「その場から一歩も動くな殺人犯!動いたら撃つぞ!」
男がこちらに銃を向けた。この状況に旧は臆せず余裕を持って問いかけた。
「ほう、殺人犯とは
この4人のどれのことを言っているのかな?」
「何を言っているんだ!この中で殺人犯はお前しかいないだろ!」
「両手両足を拘束されている女性を見てみろ。あれは儂が殺したのではない。この小娘達がやったのだ」
「嘘をつくな!こんな酷い殺し方をするのはお前しかいないだろ!そして俺のパーティメンバーがそんなことするわけない!」
「嘘ではない。まぁ仮に殺したとしよう。儂が殺したなら、まず所々が骨になっているはずだ」
「どういうことだ?」
「儂の殺し方は、対象者の体に<寄生>して内側から喰いつぶすのが定番だ。ところがこの女性はどうだ?骨になっているところが一つもないではないか」
旧は女性を指差した。見るとどこも骨になっているところはなく、打撃による痣や打ち身が残っていた。
「ユウカ。あノ人間ハ敵?」
「そうダナ。殺スに越シたことはナい」
「私ガ行キマス。今ノ私ナラ即座ニ殺セマス」
ヨーコは男に攻撃を開始した。しかしその攻撃はその男に当たることはなかった。魔法は見当違いの方向に行き、壁に大きな風穴を作った。魔法が発動する直前、ヨーコが急に倒れ、その後ユウカ、ミユは糸が切れたように地に伏せた。
「洗脳が解けたか。すまんすまん。怖い思いをさせてしまったな」
「どういうことだ…洗脳や寄生って…お前は何者なんだ!」
「そうだな。殺しからペット探しまでやる何でも屋と考えてくれ。儂は仕事が終わったから帰る」
旧は出口を向かおうとすると男は発砲した。弾は胸にめり込んだ。その弾を引き抜き、男の足元に投げつけた。弾は足にクリーンヒットした。
「最初にも言ったであろう。死にたくなければ大人しくギルド管理協会の者を連れて来いと。何故守らなかった」
「ふん。悪しきものを倒すのも勇者の役目だ。他の人間に頼るなどあってはならないことだ」
「そうか。お前にいいことを教えてやる。今の行動は勇気ではなく、無謀だ。これからは戦力差を考えてから挑め」
吸っていた煙草を手でもみ消し携帯灰皿に仕舞うと勇者を名乗る男は旧に向かって銃を構えた。
「何故俺のパーティメンバーを洗脳させた!」
「洗脳させるつもりなど無かった。ただこの小娘達が勝手に儂が置いていった武器を使った。そこにはたまたま目の前に見た人間を殺すウイルスが仕込まれていただけのことだ。しかもそのウイルスは、多少の自我や思いがあれば死滅するように出来ていたのに」
「意志が弱かったとでも言いたいのか!」
「そういうことだ。悪いことは言わない。今すぐ冒険者やめて田舎でのんびり暮らしな」
男は何か言おうとしたが。その場に倒れた。多分足の痛みに耐え切れなかったのだろう。このまま放っておこうと考えたが、ここで死なれても寝覚めが悪いので通信でギルド管理協会の方に連絡をし、救援を呼んだ。その30分後救援部隊と依頼人が来て、勇者を自称する男とユウカ達が運ばれた。
「この度は協力頂き感謝する」
「別に良い。これも仕事だからな」
「しかし、次からは民間人が魔物と組んでいた場合は連絡してほしい。明らかにこれはやり過ぎだ」
「まぁ儂がやったわけではないのだが…考えておく」
「宜しく頼む。報酬は既にそちらの事務所に置いておいた。少し色もつけてある」
「了解。またどうぞご贔屓に」
一服した後事務所に戻った。デスクの上には報酬の肉と水と生活には困らない分の金が置いてあることを確認すると、そのまま死んだように眠った。肉が腐っていたのに気づいたのは翌日になってからであった。
次回は仲間とか登場させるつもりです