曇りない晴天の空。そんな日に外で煙草を吸っていると一人の鬼が現れた。鬼というよりは人間の男に角が生えた程度の者だった。顔には無数の傷がついており、腰には刀が差してあった。
「お前さんが噂の異形さんかい?」
「如何にも。儂がここの事務所の責任者の異形だ」
「そうか。じゃあ一つ頼みがある。聞いてくれるか?勿論礼は弾むぜ」
そう言うと男は土下座をし始めた。そのフォームは絵に描いたように美しかった。
「本日俺の弟の結婚式がある!その結婚式をぶち壊して花嫁を奪いに行く予定だ!どうかその手伝いをして欲しい!」
「それは構わないが、代金は支払ってもらうぞ」
「後払いだろ?結婚式の会場にあるもの持ってけ。一応こう見えて俺の家は金持ちだから金品掻っ攫って売ればいい」
「いいだろう。取り敢えず顔を上げてくれ」
男は顔を上げた。このままにしておくとまるで自分が恐喝してるように見えてしまう。それだけは避けたい。事務所に入るとコーヒーのいい匂いがした。
「あぁ、族長おはよ。コーヒー淹れたけど飲む?」
「二人分頼む」
「はーい」
先程起きてきたミヤビがコーヒーを淹れる。コーヒーは本格的なものではなくインスタントだ。だがこれが結構美味しいのだ。
「お待たせしましたー。あれ?こっちの人は?」
「今回の依頼人だ。お前もこっち来い。で、プランは既に決まっているのか?」
「あぁ。これを見て欲しい」
ミヤビが旧の隣に座ると同時に男は、持ってきた式場の見取り図を広げる。式はどうやら大聖堂で行われるらしい。ここから10分もかからないところにあるそうだ。
「随分と大きいな。まるで王家の結婚式みたいだぞ」
「金だけはあるからな。作戦としてはあんたらが下の奴ら引きつけてる内に、俺がここのステンドグラスを割って外に出る。これじゃ駄目か?」
「構わないがこの作戦は成功するのか?というかそもそも金品はどこだ」
「金品は聖堂内の装飾から剥がして取って行け。作戦は多分うまく行く」
「ならいいが。ミヤビはどうだ?」
旧はミヤビに問いかけた。ミヤビはなにかを一点に見つめていた。多分目を開けて寝ているのだろう。こういう輩は起こすと色々と面倒くさいので放っておく事にした。
「そこの女の子大丈夫か?」
「いつもこんな感じだから大丈夫だ。依頼は引き受けた」
「助かる」
男は安堵した顔でこちらを向いた。しかしその顔にはどこか後悔の色も含まれていた。旧はそれを見逃さなかった。心配するわけではなく、こういうのは絶対何かおもしろいことがあると確信したからだ。
「男よ、浮かない顔しているな」
「そんなことないさ。少し疲れているだけだ」
「何もないわけ無いだろう。この仕事何年やってきたと思ってるんだ。大方予想はつく。弟かなんかに世話になったから、幸せを邪魔したくないとかそんなことだろう?」
「よくわかったな。まさにその通りだ」
(おいおい、適当に言っただけなのに当たるのかよ)
男は今置かれてる状況を赤裸々に語った。要約すると、男の家は由緒正しい家柄の一族の一人であり、出来損ないでもあった。男には弟がいた。弟は兄と打って変わって優秀であり、将来有望とも言われた。弟は男に対して寛容であり、優しくしてくれた。
そんな男にも彼女はいた。名前はユイといい、街一番の金持ちであり令嬢だ。器量もよく、優しい人間だ。そんな彼女を男は好きになった。ある日告白したところ、彼女はすぐ返事をくれた。私と付き合って欲しい、との一言だったそうだ。それから2年が経った。そして昨日彼女は男を呼び出し、涙ながらに別れようと言った。男は理解ができなかった。悲嘆に暮れつつ家に帰ると弟が結婚するという話を聞いた。しかも弟の結婚相手がユイだったのだ。
「というわけだ。質問はあるか?」
「話が長い。目開けてたミヤビが目閉じたぞ」
「すまんすまん。取り敢えず今日の午後7時より結婚式は始まる。それまで準備をしておいてくれ」
「もう6時半だけどな。まぁわかった」
「先行ってスタンバイしてるから後で来てくれ。じゃあ」
そういうと男は颯爽と事務所から出て行った。隣にいるミヤビは本格的に寝に入っていた。
「おいミヤビ」
「…」
「ミヤビ、聞いてるのか?」
「あぁごめんごめん仕事だね」
「そうだ。今回も殺しだ」
「うん、わかった」
「武装しておけ。今回は大人数を相手にする」
「りょーかい」
ミヤビは自分の部屋に戻ったが、数分もせずに戻ってきた。持ってきたのは古びたローブだけだった。
「それだけで良いのか?拳銃とか剣とか持ってきた方が良いと思うのだが」
「僕は腐っても魔術師だよ。拳銃や剣とか使ったらプライドに反する。信じられるのは己の腕ってね」
「そんなものなのか…まぁいいが」
旧は先日買ってきた黒色のレインコートを羽織り、ガスマスクをつけ、そして立てかけてあった薙刀を手に取った。
「そのかっこどしたの?」
「ただの趣味だ」
「族長ってもしかして中二病?」
「男は何歳になっても中二病なんだよ。無駄口を叩いてないで行くぞ」
「はーい」
忘れ物がないことを確認し、ドアの鍵を閉める。大聖堂前に着くとそこには先程の男が待っていた。男は西洋風の甲冑を着て待機していた。
「10分前に来てくれるとは有り難いな。じゃあ段取りを説明するぞ。俺は頃合いを見て会場内の電源を落とす。そして花嫁を回収して逃げる。あんた達には会場にいる騎士達の相手をしてもらいたいが、出来るか?」
「わかった。それは僕に任せて。範囲魔法使えるし。族長は僕が取りこぼした雑魚の相手をお願い」
「了解した。あとお前の名前を知りたい。いざ呼ぶ時なんて呼べばいいかわからん」
「そうだったな。俺の名前はヴァルクだ。じゃあ、後は段取り通りによろしく!」
そう言うとヴァルクは会場の裏口に入って行った。それを見送ったあと、旧達も会場内に侵入した。流石に会場内にボロいローブを着た少女とガスマスクをつけた男がいたら怪しいので、ちょっと洒落た服を着た。薙刀も持ってきたケースに入れる。
「族長、あとこれ打って」
「これは?」
「数分だけど周りに人間と認識させる薬。これあった方が楽でしょ?」
「そうだな。助かる」
ミヤビからもらった注射を打った後。会場内に潜入する。聖堂にはあっさりと入れた。中にいる人間がヒソヒソと噂していたが、怪しくは思われていないようだ。
「警備ガバガバだな」
「そうだね。あとはヴァルクさんの指示を待つだけだけど」
「火が消えたら開始だそうだ。それまで待ってるぞ」
それから数分もしないうちに結婚式が始まった。新郎はヴァルクとは違い、角は生えていなかった。新婦の方は確かに美人だった。しかしその顔はどこか浮かない顔をしていた。指輪交換をした後、新郎新婦が向かい合い、誓いのキスをしようとした瞬間、聖堂内の光が消えた。
「なんだ!?何が起こってるんだ!?」
「新郎新婦の安全を確保しろ!それが最優先だ!」
「おい!新婦がいないぞ!」
会場内にいる人間がパニックを起こす。その間に旧達はアイコンタクトを交わし、先ほどの衣装に着替え、入り口前にスタンバイした。すると目の前にヴァルクが花嫁を抱えていた。
「後はよろしく!事務所の前でまた会おう!」
「了解した。さっさと行け」
「ここは僕たちに任せて」
再び会場内に火が灯る。するとヴァルクがこんなことを言い出した。
「花嫁は貰っていく!あばよ!」
「一族の恥晒しが!殺せ!花嫁を取り返すのだ!」
神父が拘束魔法を撃とうする。それを見たミヤビが旧の足元に魔法陣を展開させた。これは転移の魔法だ。魔法を発動すると旧は神父の目の前にいた。
「な、なんだお前は!」
「悪いな、恨みはないが死んでもらうぜ」
手刀を作り、神父の首元を掠め斬る。普通の手刀では首など切れるわけがない。しかし自身の手を<寄生>し、刃物に<擬態>させる事で手刀は本物の刀と同じ斬れ味になる。
死体の心臓を掴み<寄生>する。すると死体はみるみると別の形へと変化していった。その形は旧と酷似していた。
「ミヤビ」
「"血塗られた箱庭"<ブラッドガーデン>」
ミヤビが魔法を発動すると各々が自身に障壁を張り始めた。しかしその障壁もすぐに破られる。為すすべもなく騎士以外の人間は全て串刺しになった。
「どうなってやがる!障壁で防げない攻撃などあるはずがない!」
「貴様!まさか黒魔術を使ったのか!」
その答えにミヤビは首を横に振る。
「違うよ。これは機械魔法さ。どうしてさっき障壁を張ったのに攻撃が通じたのか教えてあげる。
魔術には回路というものがあるんだ。この機械魔法はその回路に直接接続できるんだ。だから攻撃が通じるんだ。分かるかな?」
「このダークエルフめ…ぶっ殺す!」
一人の騎士がミヤビに斧を振り下ろす。グシャリと潰れた音する。頭蓋骨は砕け、脳が飛び散る。目玉は赤黒く染まる。しかしそれはミヤビのものではなかった。
「おいおい儂の存在を忘れてはないか?」
旧が作り出した人形が騎士の頭を手刀で砕いたのだ。他の騎士も人形に攻撃するが当たらない。暫く応戦してようやく攻撃がヒットする。だがその後が地獄だった。
「なんだこいつ!腹に剣入れた瞬間溶けて うわぁぁぁぁ!!」
「言うの忘れてた。そいつ脆いが、死んだ時神経毒撒き散らすんだった。周りにいる奴ら気をつけろ」
人形は液体となって飛び散る。その液体に直に触れた者は激しい痛みを訴え、床に転げ回る。旧は彼らの兜を脱がし、拳銃で撃ち殺した。かろうじて生き延びた騎士は旧に襲いかかる。鋭い剣捌きを躱し、持ってきた薙刀で最初に襲ってきた騎士の首を刎ねる。それを見ていた騎士の背後に回り、脳天から薙刀を振り下ろす。能力が付与されているので薙刀は鉄を軽々と貫通する。
最後の兵士は逃げ出そうとしたので長いリーチを生かし、そのまま薙ぎ払う。
「許してくれ!俺には妻と子供がいるんだ!」
「儂が思うにな、戦いに逃げた奴は万死に値すると思うんだ。自分の使命を果たさずして何が兵士か」
「頼む!見逃してくれ!」
兵士が必死に懇願する。それを見た旧は興が乗ったのか、拳銃を取り出しこんなことを聞いた。
「今から一つ質問をする。これに正解したら見逃してやるよ」
「ど、どんな問題だ?」
「今の儂は 恐 い か ?」
「あぁ恐いよ!今まで見た中で一番だ!」
「そうか」
旧は立ち上がり兵士に背中を向けた。兵士がホッとした表情その瞬間、突然振り向き持っていた拳銃で彼の額を撃ち抜いた。
「こんなものか。そっちはどうだ?」
「ごめん、新郎のほう逃したかも」
「了解だ。とりあえずヴァルクに連絡だ。その前にここにある金品全て持ち帰るぞ。手伝え」
「わかった。あとさっきの質問。あれ正解なんてないでしょ?」
「よく分かったな。どこで気づいた?」
「気づくも何もそもそも依頼内容が殲滅しろみたいなものだし、どっちにしろ殺すつもりだった。ただあの人が怯える姿が見たかっただけ。そうでしょ?」
「大正解」
「下衆野郎」
「褒め言葉だ」
二人は言葉を交わすと黙々と金品の回収に勤しんだ。
次回は近いうちに投稿します