〜(同時刻)
「遅くなった!」
「ヴァーくん…どうしてヴァー君がここにいるの?あの時別れようって言ったはず…」
「諦めきれなかったんだよ!お前のことがどうしてもな!弟と結婚するくらいなら俺と結婚しろ!間違いなく楽しい人生送れるぞ!」
「…馬鹿」
ユイは顔を赤らめ、俺の腕の中で俯いた。もうそろそろ事務所に着くはずだ。あと数百メートル、数十メートルで着く。しかしその希望は打ち砕かれることになった。
「兄さん、ごめん」
上空から謎の声が聞こえる。しかしその声には聞き覚えがあった。見上げなくとも分かる。俺はすぐさま回避行動をとる。すると上空から刀を振り下ろす弟の姿が見えた。振り下ろされた地面には亀裂が生じていた。
「おいおい、いきなり唐竹割とは殺意高いな」
「当たり前だよ。自分の妻が連れてかれるんだよ。そりゃあ実の兄でも殺したくなるさ」
「悪いな。こいつは随分前から俺の女だ」
そう言い、ユイを胸に抱き寄せ、俺は不敵に笑った。それを見て怒りが込み上げたのか弟は俺に対しナイフを投げる。すぐさま回避行動を取ったが、何本かは体に受けてしまった。ユイには当たらなかったのが唯一の幸運だった。
「危ねえな。ユイに当たったらどうする?」
「僕のコントロール舐めないでほしいな。兄さんと違って出来はいいんだよ!」
「確かにお前は俺と違って何に対しても出来は良かった。それは認めよう」
「だったらユイさんを渡してもらおう!完璧な僕と完璧なユイさんだったら絶対に幸せになれる!」
「完璧…か。罪だよな、完璧ってよ。自分が世界の中心だと思うやつが多くってよ。完璧と自称してる奴ほど隙がある」
「うるさい黙れ!そこまで言うなら逃げてないで戦え!」
「しょうがねえな。じゃあいっちょ完璧の鼻でもへし折りに行きますか」
俺は刀を抜く。その刀の色は赤黒く、どこか不気味な感じを漂わせる。刀を構えると、弟はすぐに斬り込んできた。それを受け流し、斬り返す。交わされたが、腕にかすり傷は負わせた。怯んだ瞬間俺は距離を詰める。刀は首を捉えた。斬った。確かに斬った。弟の首は直ぐ近くに落ちるはずだった。しかし、そこにあったのはそこにいるはずのないミノタウロスの首だった。
「グゥォォ….」
「馬鹿な!何故ここにミノタウロスが!?」
「隙あり」
弟の言葉と共に背中を斬り裂かれる。背中に熱い痛みが走る。毒か何かを仕込まれたのだろう。そのせいか思うように動けない。
「てめえ…戦力的召喚魔法に手を出しやがったか!」
戦力的召喚魔法とは従来の召喚魔法とは違い、詠唱なしで魔物を召喚できる魔法のことである。その手軽さゆえ、戦争ではこの魔法を使う人間が多く、大量の民間人の死傷者を出した。その事件があってから現在この魔法を使うのは法で禁じられている。使った者はよくて禁固5年、最悪の場合終身刑に処される。
「そうだよ。僕はユイさんを守るためにこの技術を身につけた。正直彼女を守るためならば禁断の魔術だろうがなんだろうが取得するよ。さぁユイさん、帰ろう」
「…嫌」
「どうしたの?帰ろうよ」
「嫌!」
ユイが拒絶反応を示した。ユイが自分の気持ちを出したのはこれが初めてだ。俺の前でも拒絶反応を示したのはこれが初めてだ。流石の弟も度肝を抜かれたらしくそのまま茫然と突っ立っていた。
「弟君は優しいけど、なんかよそよそしい優しさなの。でもヴァー君は本当の私を知ってて優しくしてくれた。私は完璧なんかじゃない。ズボラでドジなただの女の子なの。だから弟君とは釣り合わない」
「そんな、完璧だなんて!完璧じゃなくていい!優しささえ有れば十分だよ!」
俺は今の言葉に虫唾が走った。さっきまで完璧な自分と完璧なユイこそ至高だと言っていたのに、完璧じゃないと言った瞬間掌を返したのだ。これは何かあるに違いない。そこでこんな言葉をふっかけてみた。
「お前、本当はこいつの体目当てなんだろ?」
「クソ兄貴は黙ってろ!」
図星だ。こいつは今まで何でも手に入れていた。勿論、女も金の力で手に入れていた。しかしその女はどれも娼婦であり、純粋な生娘と当たることはなかったと予想する。その弟が初めて一目惚れしたのがユイだ。見た目も清楚だし、多分処女だと思ったんだろう。
「悪いな。こいつの初めては俺が貰ってるんだわ。お前みたいな歪んでいる人間には娼婦、いや、童貞のままがお似合いだ。あと言い忘れていたが、お前増強魔法にも手出してるだろ?一応それも犯罪だからな」
「ブラフだろ?兄貴の冗談は相変わらず笑えないな。取り敢えず兄貴はここで死んでもらうから」
弟が一歩ずつ近づく。俺は逃げる余力もなく、横たわっている。後数センチのところで止まり、刀を振り上げる。
「遺言くらいは聞いてあげるよ」
「狂い咲け、我が痛みよ」
「死ね」
刀を振り下ろされる。そのはずだった。急に弟が倒れた。
「嘘、だろ?何故かすり傷しか負ってない僕がこんな痛みを味わなければならないんだ!あぁ痺れる痛い痛い痛い痛い!!!!!」
「これが俺の妖刀 "幽玄ノ刀"。今使ったのは痛み分けだな。本当に甘い。かすり傷さえ負わなければ俺の苦しみを味わずに済んだのにな」
「お前さえいなければこんな事にならなかったんだ!」
「負け惜しみか。惨めだな。お前みたいな奴は一生救われない」
弟が何かを言おうとした瞬間俺は刀を抜き、首を飛ばした。これは卑怯ではない。このまま痛みを味わいつづけるのも可哀そうだというせめての兄心だ。そう自分に言い聞かせた。いくら憎んでいたとはいえ、実の弟を殺してしまったのだ。そうでもしないとこの先ずっと罪悪感に苛まれることになる。
「ヴァー君大丈夫?」
「大丈夫だよ。ごめんなユイ。心配かけちまった」
「本当だよ。斬られた時死んじゃうじゃないかって心配したんだよ?もう痛くないの?本当に大丈夫?」
「痛みは少し和らいだ。大丈夫だよ。だから泣くな。不細工になるぜ」
とか言いながらも俺は少し泣いていた。こんな危険な目に合せてしまった自分の不甲斐なさが悲しみの半分を占めていた。そんなことを思っていると一人の老人とダークエルフが帰ってきた。
〜数時間前
「金品はこんなものか」
「うん。あらかた回収した。帰ろ」
何かが腑に落ちない。人があまりにも少なすぎる。有名所なら数百人はいるはずなのに中には数十人しかいない。身内婚だと思ったが、それも考えられない。見た感じ大御所の人間もいたのだ。
まぁただの思い込みだろう。
「族長、悪いニュースがあるんだけど聞く?」
「いいニュースはないのか?まぁ聞くが」
「囲まれてる」
あたりを見渡すとそこには大量の兵士がいた。感知に引っかからないとなるならば、これは後から来たと思っていいだろう。目算だがざっと数百人はいる。リーダーっぽい人間が旧達の前に出てきた。
「お前らは完全に包囲されている。ここの人間全員殺したのなんてお見通しだ」
「おいおい物騒だな。俺達は殺してなんかいねえさ。たまたま打ち所が悪くてみんな死んじゃっただけさ」
「シラを切るな!監視していたからわかるぞ!」
「それはいいんだけどさ。あんたたち誰?人が休憩してる時に殴り込んでくるなんていい趣味とは言えないよ」
「俺たちはあの裏切り者を殺すためだけに編成された特殊部隊だ!お前ら最近暴れまわってるらしいが、そんなの屁でもない!」
そのあとリーダーっぽい人間がなんか言っていたがよくは覚えていない。そんなことはどうでも良かった。今考えるべきは今からどうやってこの状況を切り抜けるかだ。
(ミヤビ、一斉に殺すことは出来るか?)
(ごめん、流石にちょっと休憩ちょうだい。魔力使いすぎちゃった今なら相手の持っている武器使えなくすることなら出来るけど)
(充分だ)
「お前らそこで何を話している!俺の話聞いてなかったのか!そんなに死にたいようだな!」
兵士が銃を構える。リーダーっぽい人間が手を振り下ろすと一斉に引き金をひく。
しかしその銃は爆発をおこした。それを合図に一人の兵士に詰め寄り、足払いをかけ、顔面を殴る。全力で殴ったので顔面は形容し難いくらい壊れていた。薙刀を抜き、斬りかかる。相手が火炎放射器を使ってきたが気にせず突っ込む。攻撃した相手の側頭部を切り裂き、その反動で2、3人に切り傷を与える。旧が指を鳴らすと斬られた敵が次々と味方を殺し始める。
「何故攻撃をする!軍法違反だぞ!」
「この戦争にルールなんてない。これ基本な」
「どうなってやがる!なぜ仲間割れを始めるのだ!」
洗脳された兵士は5分もしないうちに殺された。倒れた兵士の手榴弾を手に取り、鐘の上にいた狙撃兵に投げつける。狙撃兵はすぐさま回避行動を取ったが間に合わず爆発に巻き込まれる。部隊の視線が鐘の上に向いた事により、殺しやすくなった。一人の兵士の後ろに回り込み、腰に差していたナイフで首を掻き切る。その後近くにいた兵士の耳に中指を差し込んだ。中指は脳まで達していたので指先に貯めておいたウイルスを注入する。
「ここにいる奴ら全員殺した後自害しろ」
「了カイしタ」
洗脳された兵士は味方の部隊に、持っていたガトリングガンで攻撃した。急なことだったので対応できず兵士達は次々と弾の餌食となる。ものの数分で部隊は壊滅した。
「愉快愉快」
「化け物だ…こんな奴に勝てるわけがない」
リーダー格の人間が逃げようとした。しかし、足が動かなかった。恐怖のせいではない。足の周りには大量の金属類が固まっていた。
「逃さないよ。大人しく殺されて」
「糞が!ここで負けるわけにはいかねえんだよ!」
「"黄金の果ての先へ"(グローリーオブエンド)」
リーダー格の人間の体がみるみる武器に覆われる。ミヤビが手を握るとグシャッとという音共に武器が潰れた。
「今度こそ終わり」
「さっさとずらかるぞ。ヴァルクが交戦してるかもしれないからな」
旧達は足早に大聖堂から抜け出した。暫く走ってるとヴァルクの姿が見える。ヴァルクはユイと抱き合っていた。その近くで新郎らしき男が倒れていた。
「勝負は決したようだな」
「ああ。ってあれ?異形はどこいった?」
「あぁそいつ死んだのか。これで身内殺しが成立したおめでとう。これで儂の本当の姿が見えるようになったな」
「どういうことだ?」
「僕が説明するよ」
「頼んだ」
「禁忌を犯した人、例えばヴァルク君や僕がやった身内殺しとかあとは国家を転覆した経験がある人は確実に含まれるね。あとは大罪を犯した人とかはこっち側に来る。要は異端と見なされた人はこの爺さんの姿を見えるってわけさ」
「俺は弟を殺したから見えると言うわけか」
「そういうこと」
ミヤビは話し終えると盗んだ金品を置くために事務所へ戻った。旧も戻ろうとしたが戻るのにも体力が必要なので"捕食"で体内に金品を取り込んだ。ヴァルクはそれを物珍しそうに見ていた。
「とりあえず契約は終わりだな。またなんかあったら来てくれ。その時は報酬次第で考える」
「もう頼まねえよ。でもサンキューな」
「そういえばこいつの死体はどうするんだ?このままにしておくわけにはいかないだろ?」
「シャベルを貸してくれないか?今から墓を作る」
「まぁそれは構わないが」
ヴァルクとユイはシャベルを受け取ると、穴を掘り、死体を埋めた。本当に小さいがそれはどこか立派な墓のように見えた。
「世話になったな。ありがとよ」
「またのご贔屓に」
「ありがとうございました。心優しいお爺さん」
そう言ってユイとヴァルクは去っていった。その背中を見届けながら旧は苦々しい過去を思い出した。
「結婚か…したかったな」
〜同時刻
「嘘、でしょ…」
ミヤビは持ってきていた古文書の1ページをみて固まっていた。
「じゃああの娘まさか…」
そこに書いてあったのは
ユイと全く似た女性が世界を滅ぼしている絵だった。
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