「ここで働かせてくれ!」
「私からもお願いします!」
早朝。以前の依頼人であるヴァルクとユイが頼み込んできた。前回の依頼が終わった3日後、仲間にしてくれと依頼してきた。勿論その依頼は断った。これ以上人が増えると色々と面倒なのだ。主に給料関係が。しかし何度も断ってもこうやって頼み込んでくるのだ。これでもう26回目である。この状況に旧もミヤビも耐えかねていた。
「どうしてもここじゃないと駄目なのか?」
「あぁ!頼む!」
ヴァルクとユイの目は決意と覚悟を灯していた。ここまで来ると諦めが悪いのであれを使う事にした。
「おいミヤビ」
「なに?僕まだ眠いんだけど」
「例の薬持ってきてくれ」
「わかった」
ミヤビは自室に戻り試験管を取ってくる。相変わらず試験管の中はドス黒い液体で満たされていた。
「飲め」
「これをですか?」
「そうだぞ小娘。飲むと不老不死の効力がある。しかしそれと代償に死ぬほど痛い痛みが5分間続く」
「飲まなきゃ、駄目ですか?」
「駄目だな。お前らが死ぬと儂の手駒が減って困る」
二人は試験の中をそっと見た。ドス黒い液体は微かに蠢いていた。それを見てゾッとしたが覚悟を決めて飲もうとした瞬間思わぬ乱入者が入った。
「その女の子だけは飲まなくていいよ」
「またお前か。名も無き悪魔よ」
「やっほー。旧君元気?」
「元気もなにもねえよ」
「族長、あの人誰?」
「儂に能力を与えてくれた悪魔だよ」
その悪魔は天井からすり抜け、旧の膝の上に座った。何やら楽しそうにしていた。
「さてさて。何から話したものか」
「どういうことだ?ユイが飲まなくていいってのは?」
「そうだ、まずそれから話さないと。えーっと。そこのダークエルフちゃん」
「なに」
「この世界の五体元素を答えてみて」
「火属性、水属性、自然属性、光属性、闇属性の五つ」
「正解!流石だね!じゃあ古代悪三元素ってわかるかな?」
「知らない」
「まぁ知らないよねー。正解は破壊、憎悪、悪逆の三つなの。この爺さんは悪逆属性持ちだよ。その証拠にほら!」
その悪魔は旧の腕を引っ張る。そこには歪な紋様が記されていた。その紋様は見るからに禍々しかった。
「悪逆属性は人を殺すことに特化した属性なの。その人の弱点とか、どこを攻撃したら即死になるかとか。直○の魔眼とはちょっと違うけど」
「ユイはそういう属性を持っているのか?」
「うん。この娘は破壊属性持ち。今はまだその力を外に出してないけど、万が一この娘に危険が迫ると」
「世界が崩壊しかねない」
「その通りだよ!ダークエルフちゃんよく分かったね!」
「何故知ってるんだ」
「以前読んだ禁断の魔導書にユイ君と同じ風貌の人間が世界を滅ぼしてる姿を目にしたことがある。そこには族長もいた」
「憎悪属性の持ち主は描いてあったか?」
「それがね、そこだけ破り捨てられてたんだ。なんでかわからないけど」
ミヤビが今まで枕にしていた禁断の魔導書の該当のページを開く。そこには誰かが無理やり破り捨てたような跡が残っていた。
「なるほどな…」
「話を戻すけど、その属性の三つに関係するのが何かわかる?そこの鬼の人」
「わからん」
「ヴァー君、ちゃんと考えて」
「これは難問だったかな?正解は 異形 だよ」
この答えに四人は目を丸くした。異形はこの世界に一人しかいない筈だ。そんな異端中の異端が旧を入れて三人もいるなんて驚きでしか無い。
「ユイが…異形だというのか…?」
「そうだよー。時にユイちゃん。いつしか家族が貴女を腫れ物に触るような扱いをしたことはない?」
「それは…」
ユイは今までの記憶を思い出す。確かにそのような扱いを受けたことがある。しかしそれは自分が取り返しのつかない失敗をした時だった。それ以外は普通に接してくれた。しかしそれと異形との関係があるのか。ユイは疑問に思いながらも悪魔の質問に答えた。
「確かにありました…」
「きっかけはとかは覚えてたりする?」
「私の家には大きな蔵があるんです。そこには絶対開けちゃいけないと言われている箱があるんです。それを好奇心で開けてしまった時から、家族がなんだか私のことを他人のように扱ってきたんだと思います」
「その箱にはなんて書いてあったか覚えてる?」
「禁呪者此処ニ眠ルと書いてありました。箱を開けた瞬間いろんなものが飛び出て私の中に入っていくのを覚えてます」
「間違いない。それがユイちゃんが異形化する始まりだよ」
経緯はこうだった。ユイが蔵にある箱を開けたことにより、悪属性の破壊を司る悪魔の封印を解いてしまった。しかしその悪魔は異形としての力は極めて薄く、旧のような完全なる異形にはならず、ハーフのような感じで収まっていると言うのだ。しかし、極めて薄くとも異形は異形なので家族からは腫れ物に触るような扱いを受けていたと言う。
「わかった?だからユイちゃんはこの試験管の中身を飲む必要はないわけ」
「ほう」
「じゃあユイちゃんは合格だね」
「そうだな。異形である限りこの事務所に迎え入れない訳にはいかない。さぁヴァルクよ。愛しい嫁と一緒にいたいならこの試験管の中身を飲むがいい」
「お、おう」
ヴァルクは一瞬戸惑いながらも試験管の中身を飲み干した。直後体に鈍い痛みが走る。それは次第に身を裂くような痛みに代わる。
「がっ ぁぁぁぁ"ぁぁぁぁぁ"ぁ!!!!」
「ヴァー君!」
ユイが助けに入ろうとするが、ミヤビが止めに入る。
「今入っちゃだめだよ。彼は今異形の力を受け入れようとしてるんだから」
「離してください!私はヴァー君を助けなきゃいけないんです!」
「今のユイちゃんに何が出来るの?いくら同じ異形だとしても痛みは分割できないし、肩代わりもできないよ」
その言葉を聞きユイは抵抗をやめた。ミヤビの言っていることは何も間違ってはいないからだ。
5分後、ヴァルクの体の震えは止まった。死んだかと思われたが、平然と立ち上がった。
「どうだ!これで文句ねえだろ!」
「ふん…合格だ」
「よっしゃぁ!」
ヴァルクがガッツポーズをとった瞬間ユイが駆け寄り抱きついた。
「やったね!ヴァー君!」
「あぁ!これでまともな仕事に就ける!」
このやりとりを見ながら旧はポケットに入っていた煙草を咥える。吸い殻なので味はしなかった。
「じゃああたしは戻るよ。せいぜい頑張りな」
「二度と来るんじゃねえよこのポンコツが」
悪魔はそそくさと退散する。それを見届けミヤビがソファーで二度寝に入ったのを見て、旧も睡眠に入るのであった。
次回は単独回にしようかと考えてます