あやつり糸の切れた先 作:馬瀬
私の憎しみは海よりも深く・・・
あなたの意思は鋼よりも強く・・・
あなたの心は日の光よりも温かかった・・・
私の心は鋼に貫かれ、引き裂かれてしまったというのに・・・
愚かにもあなたの暖かさを求めてしまった・・・
あなたの日の光で・・・私の深い闇が照らされることを望んだ・・・
-あやつり糸の切れた先-
「あっ・・・ぁ・・・くっ・・・ひっ・・・」
薄暗い部屋に、一つのか細い鳴き声と、一つの荒い息遣いが聞こえる。
必死で堪えようとしているものの、常に開いてしまっている口からは
漏れる声を抑えることは出来ない。
「あぁっ・・・ぐ・・・いえ・・や・・すっ・・・、貴様を・・・ころ・・すっ・・・・・・」
三成は両手首を後ろ手に拘束され、家康によって組み敷かれていた。
下半身を覆っていた鎧や服は剥ぎ取られ、両脚を大きく開かされている。
全てを露にされた最奥の後孔には、家康の雄を銜え込まされ
結合部からは卑猥な水音が漏れる。
家康は三成の細い腰を掴み、血がにじむ後孔へと強引に己の欲望を打ち付ける。
そこに相手への気遣いなど存在せず、ただ相手を追い込むため、苛むための動きだった。
「はっ・・・お前が儂を?
・・・殺したい相手に女のように犯されて、善がっているお前がか?」
「んっ・・ぁ・・・やめっ・・・あぁっ・・・」
弱いところを擦られ、三成は無意識に声を上げ腰をくねらせる。
その痴態を上から眺め、家康は嬉しそうに笑う。
この男は誰なのだろう。
三成の知っている家康ではない。このような言動に及ぶ家康に、覚えなど無かった。
悪い夢なのだろうか、全てが、初めから。
過ぎた快感で意識が朦朧となり始めている三成に、
家康はその心を読んだかのように告げる。
「残念だが三成・・・全ては現実だ。・・・失われたものは元には戻らない・・・」
「!!・・・はっ・・ぁ・・・、そう・・・だ・・・私はっ・・・貴様を、許さ・・ない・・・」
切り離されそうだった意識が、憎き男の声で鮮明になる。
この男は家康だ。
憎むべき相手、殺さなければいけない相手、許すわけにはいかない相手。
腕の自由も無く、身体にも思うように力が入らない。
それでも三成は、必死に目の前の男を睨み付けた。
けれど家康は、三成の言葉、表情を眺めると、蔑むように笑った。
-悪いが三成、儂にはもう・・・お前の許しなど必要ない-
豊臣秀吉が殺された。
三成にとってその言葉は、一生耳にするはずが無かった。
-秀吉様は徳川家康の手によって討たれました-
あるはずが無い。家康は秀吉の下で共に天下を目指していたのだ。
共に、秀吉の為に戦っていたのだ。それをどうして、主を殺す必要がある?
秀吉が死んだなどということ、家康が殺めたということ。
三成はその報せを聞いても、簡単に信じることなど出来なかった。
けれどそののち目にした秀吉の姿は、どちらも真実なのだと語っていた。
砕かれた鎧、体中に残る無数の拳の痕。
それは、家康と共に出かけた戦場でよく目にしたものだった。
「家康・・・」
どうやってここまで来たのか自分でも分からない。それほどまでに三成は混乱の中に居た。
豊臣の中でもずば抜けて優秀な将だった。
そんな家康が秀吉を殺害するはずが無い。けれど、あれは家康の拳の痕だった。
「三成」
いつものような明るい表情は無く、真剣な眼差しで対峙しているのを見て、
三成の確信が更に増した。
「貴様が・・・貴様が秀吉様を殺したのか?」
殺したんだろう。そう断定する言葉を使うのを躊躇った。なんて見苦しい足掻きだろう。
その躊躇いを他所に、家康はまっすぐに三成を捉え、はっきりと告げた。
「あぁ、儂が秀吉を討った」
明確に自身の問いを肯定した。
そして、なんら悪びれることなく、秀吉と、そう呼び捨てた。
裏切られた。愚かにも信じていた自分を、豊臣を支える大きな柱としての期待を。
目の前の男は裏切り、そして全てを奪った。
「・・・聞いてくれ三成。儂は」
「貴様の言い分など聞きたくない」
今更何を訴えるというのだ。どんな理由を聞こうとも、秀吉が討たれた現実は変わらない。
「これ以上、民を苦しめる訳にはいかなかったんだ。
海外派兵など、いたずらに日ノ本を疲弊させるだけだ・・・」
「・・・黙れ」
「儂の目指す泰平の世は、秀吉では実現できない。だから・・・」
だから殺した。だから仕方なかった。とでも言うのだろうか。
家康の理由、思いなど、三成にとって何の意味も無かった。
「虫唾が走る・・・。貴様程度に秀吉様の崇高な御心が理解できるはずも無い。
貴様の斬首に許可などいらん。頭を垂れろ」
三成はその言葉と同時に、持っていた刀を鞘から抜くと、
目の前の男に切りかかった。
あぁやっぱり。己の想いは・・・聞いてもらうことすら出来ないのだろう。
-虫唾が走る-
自身の恋心を、同じ言葉で否定されたことを思い出した。
三成の瞳にはいつも秀吉が映り、その心も秀吉で満たされている。
そこに他者が入る隙間など存在せず、入り込もうとすれば無残に切り捨てられるだけだった。
それでも今・・・、お前は儂を見ている。儂への憎しみで心は一杯になっている。
そうだ。これは・・・間違いではなかった。奴を討ったのは、正しいことだったのだ。
じゃあ後は奪うだけだ。その身体を奪えば、三成は儂のものだ。
家康は想いの全てを込めた拳を振り下ろし、三成を捕らえた。
三成は美しい。
何度手酷く犯しても、その眼光は衰えることなく、また自分に向けられる。
それが憎しみでも殺意でも、三成が自分を求めているのが心地よかった。
その思いを何度も確かめるために、三成を辱め、秀吉を貶め、
気を失うまで犯した後、どこぞの林に放逐する。
気がついた三成は、無体な扱いや、秀吉を侮辱されたこと、
自身を殺せなかったことに激昂し、また自分のところに舞い戻ってくる。
それが、自分自身が犯される、罠だとも考えずに。
三成には、今の自分を倒すことなど出来ない。
ならば、三成は永遠に自身を恨み、永遠に追いかけてくるだろう。
あの瞳に何も・・・自分以外を映すなど、許せることではない。
けれど、近頃三成の周りに人が集まってきていた。
元々何かにつけて三成の側にいた刑部はもとより、
反徳川の旗のもと、真田や毛利、長宗我部が纏まりつつある。
一つの不安点があった。
優しく、理性的で、陽気で頼りがいのある。
そんな彼らに囲まれていては、三成が理性を取り戻してしまうのではないか。
生きる糧に自身への憎しみを必要としなくなるのではないか。
未来を見ることを覚え、自分を見ることをやめるのではないか。
―あぁ其れは駄目だ。三成
そう。それは許せることではない。
もっと、もっと三成には憎しみが必要だ。
彼らに惑わされることのない、大きな、更なる憎しみが。
あぁそうだ。
三成が自身を見るようになったのは、彼の大切な秀吉を手にかけてからだ。
三成の大切な人間を殺せば、三成はもっと自分を見てくれるだろう。
半兵衛は既に死んだ。
じゃあ、その他に三成が大切に思っている人は・・・?