あやつり糸の切れた先 作:馬瀬
ようやく元親が出せました。
今回はR18シーンはありませんが、シリーズ通してR18指定しておきます。
兄貴の甘やかしは良いですね。
私の憎しみは海よりも深く・・・
あなたの意思は鋼よりも強く・・・
あなたの心は日の光よりも温かかった・・・
私の心は鋼に貫かれ、引き裂かれてしまったというのに・・・
愚かにもあなたの暖かさを求めてしまった・・・
あなたの日の光で・・・私の深い闇が照らされることを望んだ・・・
-あやつり糸の切れた先 3 -
「石田殿!!」
一人にしてくれと言って姿を消してから、丸一日が経過した朝方、
フラフラと大阪城に戻った三成を発見し、幸村は声を上げる。
夕方になっても戻ってこなかった三成を心配し、幸村は佐助も使って捜索していた。
夜中に佐助が早々に戻ってきて、見つけられなかったと彼らしくない報告を聞き、
日が上った今、自らも探そうと準備していたところだった。
そこには、吉継の訃報を聞いて駆け付けた元親もいた。
(あーあ、まーた派手にやられちゃってるねぇ)
三成が行く場所なんて一つしかない。
佐助が三成を見つけることはたやすかった。
たびたび家康のもとを急襲し、返り討ちにあってボロボロに犯されていることも知っていた。
恐らく今回も同じだろうと思い、すぐさま家康の城に忍び込んだのだ。
案の定、家康に犯されている三成を発見し、
佐助はため息を吐いて主のもとへ帰還した。
家康は三成を殺さない。
佐助はそれを知っているから、三成を助けもしないし幸村に報告もしなかった。
三成は他人にそれを知られたくないはずだし、
佐助も主にくだらない情報を与えたくなかったから。
「大丈夫でござるか?」
「私に触れるなっ!!」
おぼつかない足取りの三成を見て、怪我をしたのではないかと
幸村は心配になり駆け寄った。
気遣うために触れようとした瞬間、三成は叫ぶように声を上げた。
「えっ…?石田殿?」
「私に…触るな。かまうな…」
近づくことを拒絶され、幸村は戸惑ってしまう。
毎日の鍛錬で、三成が少し心を開いてくれたと思っていたため、
その態度にどうして良いかわからず狼狽えてしまう。
そんな幸村をよそに、三成はフラフラとその横を通り過ぎる。
「石田殿!?お、お待ちくだされ、お怪我は!?」
それでも心配する幸村を無視するように歩いていたら、
元親が歩み寄り三成の手首を強引に掴んで静止させる。
「ちょっと待て石田。真田はお前を心配してんだ。そんな態度はねーだ…」
三成の態度を窘めるつもりだったが、
掴んだ手首が大きく震えているのに気が付いた。
生白い顔がいつも以上に、いや、いつもと違い青白くなっていた。
「やめっ…私に…触れるなっ」
乱暴に腕をつかまれ静止させられたことに抵抗して見せるものの、
その力はあまりにも弱く、元親の手を振りほどけるものではなかった。
それでも半ば狂乱して、三成は掴まれた腕を振りほどこうとする。
こんな取り乱し方をする三成に異常を感じた元親は、
暴れるもう片方の手首もつかんで落ち着かせようとする。
「お、おいっ、石田?」
それでも聞く耳を持たず暴れる三成に、元親は手首をつかむ手を強めて。
「石田っ!!!」
「っ…!!」
手首に込められた力と、大きな声の衝撃で、三成の体が大きく跳ねる。
すぐに大人しくなった三成は、うつろな瞳で目の前の元親を見上げる。
その瞳からは涙が零れ落ちていて、
初めて見る三成の姿に元親は瞠目した。
「刑部……、秀吉…さ…」
消え入りそうな声で、言い終わらないうちに三成の体が崩れた。
咄嗟に元親が支えて抱きかかえたが、甲冑を着ているというのに、あまりの軽さに驚く。
そして、腕をつかんだ時に露になった手首の痕。
抱きかかえている今、至近距離で見下ろせば
首・鎖骨周りに無数の鬱血や噛み痕を発見し、嫌な予感がよぎった。
「んっ…」
三成がゆっくりと瞳を開けると、いつも見慣れた自室の天井が映った。
ぼんやりと顔を横に傾けると、元親が枕元で座っていた。
「調子はどうだ?少し熱があるかもしれねぇな」
ずっと見ていたのだろうか、元親は三成が目を覚ましたと同時に
心配そうに三成の額に手をかざそうとする。
「っ…私に触れるなっ!」
目の前に伸びてきた大きな掌を、三成は反射で跳ねのけた。
「……。家康と何があった?」
「!?…貴様には関係ない。…私に構うな…」
そう言って、元親から目線を外して拒絶する。
大阪城に戻ってきてから同じ言葉を繰り返している三成に、
埒が明かないとばかりにため息をつく。
「あのなぁ…」
はぁ、とため息をついたのもつかの間、元親は三成の顎をつかみ
強引に自分のほうへ向かせる。
そして自身も三成に顔を近づけた。
「あんたが倒れたあと、誰が風呂に入れて、誰が傷の手当てをしてやったと思ってんだ?」
含みを持たせた物言いと、にやりと笑った表情を見て、
さすがの三成にも伝わったのか瞳を大きく見開いた。
「…貴様が…?」
「あぁそうだ。あんたの中に残ってた家康のもん、
ここや体中につけられた痕なんざ、まぁ聞かなくてもわかるんだが…」
吐息がかかるほどの距離で言われ、
更に丁寧に包帯がまかれている首筋を指でなぞられる。
「ひっ…!」
強い力で掴まれたと思えば、悩ましい指の動きで首をなぞられる。
家康にされたことを思い出し、三成は布団から脱し一瞬で部屋の隅に逃げた。
「家康っ…嫌だ…ぎ…刑部っ…刑部っ…」
ガタガタと身を震わせ、体を掻き抱いて丸まっていた。
弱っている相手に、加減を間違えてしまったことを反省しながらも、
その怯えようがただ事ではないと感じた。
三成が気を失ったときに抱いた自らの直感が、間違ってなかったと確信する。
元親はゆっくりと三成に近づき、自分のもとに抱き寄せる。
「やめっ…離せっ」
またしても強引に引き寄せられたことに驚き、
三成は逃れようと元親の胸を押しのけようとする。
しかし、相当弱っているのか力ない抵抗で、元親が動じることはなかった。
自分の胸を押しのけようとしている手のひらを、そっと握った。
「すまねぇ。悪ふざけが過ぎた。 もうしねぇから安心してくれ。」
三成の肩に置いた手でさすってやる。
そして、元親の真意をうかがう様に見上げた三成に、優しく笑った。
どうしてかわからない。
彼から溢れるあたたかい空気に安心し、体の緊張と震えが収まった。
「ゆっくりでいい。俺に話してくれねぇか?」
頭上から聞こえる優しい声、
久しく感じることのなかった暖かい空気に包まれ、三成は素直に頷いた。
今まで他人に弱みを見せたことも、弱音を吐いたこともない三成らしい、
元親にしか聞こえないとても小さな声だった。
秀吉を殺害されてから、何度も家康に凌辱されてきたこと。
吉継を殺した理由、それを本人から明確に聞いてしまった。
主と自分の一番の友人を殺されて、一矢を報いることもできない。
それどころか、仇の家康を恐ろしいと感じてしまった。
言葉の一つ一つはとてもゆっくりで拙かったが、
精一杯元親に伝えようとしていた。
元親が握っていた三成の手が、三成自らの力で握り返され
これまで俯きがちだった瞳を見上げた。
「…もう、どう生きればいいのかわからない。
私は、どうすればいい…?長曾我部…」
初めて自身の不安な心情を吐露し感情が高ぶってしまったのか、
それとも熱の所為なのかはわからないが、
三成は瞳に涙を溜め、縋るような眼差しで元親を見つめていた。
その姿があまりにも扇情的で、元親は息を呑んだ。
そして無意識のうちに、三成の唇に自らの唇を重ねた。
初めて唇を吸われ、三成は驚いてしばらく何もできなかったが、
元親が自らの唇を優しく舌でなぞったり、食んだりするのを真似するように、
三成も薄く唇を開いた。
「んっ…はっ…ぁ…」
待っていたとばかりに、すぐさま元親の舌先が口内に侵入し、
おずおずと差し出した三成の舌が絡めとられる。
二人の間から漏れる水音は、家康との情事で聞きなれたものだ。
けれど元親とのそれは、嫌悪どころか心地よさを感じた。
一方的ではない、元親に応えるように自らの舌を動かせば、
また元親がそれに応えてくれる。
いつの間にか、元親に抱きしめられていて、
自らももはや拒むどころか必死に縋りついていた。
秀吉も半兵衛も吉継もいない、もう頼れるものが何もない三成にとって、
元親の暖かさは離れがたいものだった。
気づかぬうちに三成を布団に押し倒し、
上気した三成の頬や首筋を、犬のように舐める。
「んっ…ちょう…そかべ…?」
三成の甘いような、戸惑ったような声に、元親ははっと我に返った。
熱があることをようやく思い出し、元親はばつが悪い表情をする。
「怖がらせて悪かった。
熱があるみてぇだから、今はもう少し休め。」
自分の額を三成の額に軽く押し当てて、
気遣う様に頭をなでながら体を離した。
離れていった元親の暖かさに、得も言われぬ寂しさを感じたが、
三成は素直に頷いて眠りについた。
「狐に化かされたか。愚かな鬼よ…」
気づけば元親の背後に、元就がひっそりと立っていた。
勝手に部屋に侵入してきた無礼さと、これまでのやり取りを見られていた気恥ずかしさに、
元親は悪態をつく。
「見てたのかよ。悪趣味な野郎だぜ。」
「手負いの狐ぞ、喰らえばさぞかし美味かろう。」
その元親の態度を気にも留めずに、元就は三成に歩みよると、
無防備な寝顔を見下ろし薄く笑う。
寸でのところで無理やり襲うのを回避した、元親に対する皮肉のはずが。
「まあな、あと一歩でタガが外れるところだったぜ」
優しい瞳で三成を見つめ、優しい手つきで頭を撫でる元親を見て、
元就は驚くとともに呆気にとられる。
(素直に認めるか。呆れたものよ…)
「こやつは暫く使えぬな。徳川から隠しておかねば、いずれ完全に壊されよう」
いつも人を駒として見ている元就に、憤りを覚えていた元親だったが、
今回ばかりはその見立てが間違っていないことを痛感する。
「あぁ、なぁ毛利…」
「それは貴様に懐いておる。西海の鬼が責任をもって手懐けよ。」
自らが申し出る前に、考えていたことを提案され元親は目を瞠る。
「腐っても石田と貴様は駒になろう。
どんな手を使ってもよい。元の通りに戻せ。
それまでは我と両川が徳川に当たるほかないわ。」
「………。わりぃな、頼んだぜ」
自らが盾となり家康に対抗し、元親には傷つき疲弊した三成を回復させろと言った。
元就の内心を計ることはできないが、元親はその計らいに礼を言った。