治癒魔法をかけた、ポーションを飲ませた、それなのに何故だ、体は老いていく、怪我をしても傷は塞がらな
い、ドラゴンは頭を振った。
草の上に体を横たえた人間の女の手は足は痩せて木の枝の様になっている、肌は乾いてかさかさだ。
死だ、この女は死ぬのだとドラゴンは察した。
何故なのかわからない、病気、怪我、人間はポーションや魔法で元気になる、寿命さえ延びる、それなのに。
「その女は違う世界、異なる世界から来たからだよ」
疑問に答えたのは森に住む妖精だった。
「この世界の国の人間の薬や魔法なんて受け付けない」
なんとかできないのかとドラゴンは尋ねた。
妖精はドラゴンの問いかけに悩んだ、森に入ってくる冒険者や盗賊から自分たちを守ってくれた、できること
なら何とかしたいが、これは簡単な事ではない。
そもそも、転生してきた、こことは違う国から人間がやってきたのは、数年、いや、百年、それ以上なかった
ことだ、そして、この人間は森の中で、ずっと暮らしていた。
自分の命、いや、寿命を女に与える事ができればいいのにとドラゴンは思った。
ドラゴンは女の耳元で名前を呼んだ、閉じた瞼が、かすかに動いた。
枯れ木の様な腕が、ゆっくりとドラゴンの首に伸びてきた。
髪も細く白く抜け落ちて、骨と皮だけになった女の体に耳元でドラゴンは何度も名前を呼んだ。
体はからからに乾き、骨は砂の様に崩れた、風が吹く度になくなっていく。
自分も、そうなってしまえばいいのにと思いながら、ドラゴンは眠りについた。
老婆は驚いた、孫娘の病気が治ったのは奇跡といってもよかった、街の薬師や魔法使いに看て欲しくても裕福でない平民には、その治療代さえままならない。
ところが、ある日のこと、森の果物を取りに行った孫は籠の中に見慣れない草を入れて寝それをスープに入れて欲しいと訴えた。
見た事のない草だ、老婆は言われた通りにした、病気が続くようなら孫は長生きできないと思っていたからだ、ところが、いつもなら寝しなに起きる咳の発作は、その夜にはなかった。
次の日も、その次の日もだ、顔色もよくなっているような気がする。
数日後、孫は森で草を取ってきた、いったい、これはどこで取って来たんだいと尋ねる祖母に孫は女の人に教えて貰ったのだと答えた。
もしかして、その女は妖精ではないだろうかと祖母は考えた。
自分が子供の頃、母親から話を聞いたことがある、妖精には気をつけないといけないと、声をかけたり、近づいてはいけないと。
理由はわからなかった、いや、母親は教えてくれなかった。
その時のか真剣な顔を思い出し、老婆は孫娘の事を黙っている事に決めた。
ところが。
森の近くに住む老婆の孫、少女は以前から咳もしていたし、顔色も良くなかった、ところが。
街の市場に買い物に来た少女の異変に気づいた人、商人、薬屋が不思議に思ったのも無理はない。
元気になった少女は、その日、市場で買った果物を持って出かけた。
天気のいい日で、森の奥では女が木の根元で眠っていた、女は果物を不思議そうな顔で看ると食べ始めた。
こんな美味しいものは食べたことがないといわんばかりの顔だった。
森の外へ出たのは初めてだった。
女は珍しいのか、店先に並ぶもの、建物を不思議そうに看ながら歩いている、
そして、街の人間も、明らかに余所者だ、どこから来たのだろうという不思議な顔で見守っていた。
女が果物を売っている店の前で足を止めたときだ。
「君」
声をかける者がいた。