王から城への呼び出しを受けて行くのは自分一人だと思っていたが、宰相のアルデバランから自分も一緒だと聞かされて、女はそうですかと頷いた。
「今更、行かないというのは無理ですよね」
アルデバランは無言になった。
「どちらにしても、答えは決まっているんですけどね」
女の言葉に不安を覚えた、というか嫌な予感しかないと思ったが、それは城について現実のものとなった。
城の広間に案内されると王だけでなく、側近の貴族達がも大勢、集まっていた、男達は無遠慮に女達は扇の陰からひそひそと小声で囁きあいながら見ているのはなんともいたたまれない気分だとアルデバランは思った。
しばらく前に今の職を辞して、国を出たいと言ったが、それに対しての返辞は保留、自分の代わりなどいくらでもいるのに、引きとめもしない、代わりにしばらく待てと言われただけだ。
この謁見では自分が彼女の防波堤、王からの質問に対して何らかの配慮をしなければと思っていた。
何故、自分が呼ばれたかは分かっている、妻のことだ、異変に周りが気づいたのだろう。
元気になって嬉しい、だが、そう思っているのは自分だけで周りは勘ぐっているのだ。
正装をと思ったが、女はいつもと変わらない白いシャツに黒いズボンという普段と変わらない格好だ、だが、そう思うのは自分が男だからかもしれない。
妻に言わせると女の着ている服はシンプルだが、品としては類を見ないくらい上等だというのだ、貴族の女性達のドレスや下着と比較しても比べものにならないという。
この国の文明や技術よりも進んでいる場所なのですね、だから自分の病気も、続く言葉は二人だけの秘密だ。
「よく来た、私は、この国の王、カディアルだ」
近隣国の王に比べれば若い、四十半ばで王位を継いで三年ばかりの国王に女は軽く頭を下げた。
「王にはご機嫌麗しく」
アルデバランの挨拶も仰々しい者ではない、王は気にしていない様子だが、周りの貴族達は明らかに不満げな様子だ。
「此度の呼び出しに応じました、ハル・サクラと言います、時間を無駄には支度はないので用件をおっしゃって下さい」
王はわずかに眼を細めた、遠回しな言い方はしたところで仕方ないと思ったのかもしれない、宰相の奥方のことだと話し出した。
「彼女は数年前から体調が思わしくなくてな、それが、ここ最近の様子は見違えるほど元気になったという、理由は、そなた、いや獣人が関係しているのではないかと思い話を聞きたいと思ったのだ」
王の言葉に女は答えた、治療中ですと。
「完治したわけではありません、今はリハビリの最中です」
「そうなのか、アルデバラン」
王の言葉に宰相は頷いた、事前に打ち合わせをしていたのだ。
「どんな魔法、いや治療を使ったのか、教えてくれないか」
王の言葉に周りの貴族達の眼の色が変わったが、女は魔法と聞き返した後、分からないと聞き返した。
「魔法、それはなんです、理解できません」
自国に魔法はないのかと聞かれて女は肩を竦めた、まるで、言葉が通じないといわんばかりの表情に王の方が困惑した。
「病気を治したのは医者です」
「その者は高名な医術者なのか」
「普通の医者です」
「その者を紹介してくれないか」
すると女は即答で無理ですと答えた。
すると、れまで沈黙を貫いていた周りの貴族達が騒ぎ始めた、あまりにも不遜な態度ではないかと、口々に女を責めはじめた。
だが、女は気にする様子、そぶりも見せせずに禁じられていますのでと答えた。
「誰がだ、国か」
「いいえ、ですが、ご理解下さい」
「王の頼みを断るとは」
「なんて生意気な女だ」
「許せません、この女に何らかの罰を与えねば、そうでしょう」
周りの貴族達が口々に叫ぶが女は動じる様子はんく、隣の宰相に笑いかけた、そして宰相の奥方を助けたのは自分が困っているときに助けられたので、その恩を返しただけだと言葉を続けた。
「でも、王である、あなたを助ける必要はない、そうでしょう」
「確かに、では対価を払うと言ったらどうだ」
「私に払っても仕方ないでしょう、それに医者は、この取引に応じないと思います」
「何故だ」
ほんの少しの沈黙、女は正直に言ってもいいですかと王と周りの側近達を見た。
「診断によると奥方は毒を盛られたという結果が出ました」
「毒、確かに、そのような噂はあったが」
「その結果に医者は呆れたのです」
「あ、呆れた、それは一体どういう」
その言葉に王が不可解な顔をした、だが、それは周りの貴族達もだろう、どういうことだと小声でひそひそと囁く様子を女は黙って見ていた。
「教えてくれないか、頼む」
「毒薬を作った者は知恵者ではない、色々と、つまり」
女の、はっきりとは言わない口調とわずかな表情に最初に激高したのは貴族達だ。
「はっきり言います、関わりたくない、低俗な輩とは」
「低俗だと」
「馬鹿にしているのか」
「一体、何様のつもりだ」
医者が言ったのですと女は、にっこりと王に笑いかけた。