これで幾つめだ、狼、鳥、小さな猿、森の何で見つけた動物の死体を前にして男は考えた、死んでいるのはわかったのだが、気になって近寄り、体の細部を調べる、外傷はない、そして、餓死ではないのは明らかだ。
何か変わった事はないかと顔を近づけてみる、すると感じられたのは匂いだ、ほんのかすかなものだが。
この匂いを嗅いだことがあると思い出した、だが、同じというわけではない。
、獣を拘束して飲ませた理由は、確認のためではないか、だとしたら。
死体を調べる必要があると考えた、詳しいことを。
目の前の空間に呼びかけ、通路を開くと向こう側で待機しているであろう部下に用件を知らせる。
「帰るのが遅くなる、私の行動に関して許可、上への通告はなしだ」
「ドクター、それは」
「送った死体を調べろ、毒の解析、分析、それから暇な奴をよこせ、森の中で似たような死体を見つけたら保管しろ」
「保管、ですか」
驚いたような声だが、何故と問いかけは返ってこない。
「報告なしは後で面倒なことになりませんか」
「こちらにハルがいる」
答えは、それだけで十分だった。
「どうしてだ」
森の中に仕掛けた罠、死んだ動物達をこれから調べようと思っていたのに無くなっているのだ。
鳥や魔物系の大蜘蛛なら一人でも可能だ、だが、大きな獣、例えば灰色狼などは成獣になれば大人でも一人で運ぶのは無理だ。
荷馬車、手押し車でなければ、だが罠の周りには車輪の跡はない、魔法で運んだのかと思ったが、その気配もない。
忽然と消えた、馬鹿な、もしかして、毒が何らかの変化を起こして死体を消滅させたなんてことは、いや、あり得ない。
他の罠を調べてみたが、かかっていたはずの獲物は消えている、それも全部だ、一体どうして。
わからない、今、森は王城から立ち入り禁止の特例が出されている、町の平民は勿論、城の人間も立ち入りを禁じられているし、万が一の場合は許可がいるのだ。
嫌な感じがすると思ったが、その考えはすぐに頭の中から消えた。
大丈夫だ、森の中なら、それに罠にかかった動物の中には人を襲う、凶暴な獣もいる。
悪いことをしているわけではないと言い聞かせる、もし、これが人なら良くないだろう、そう考えた瞬間、思いだした。
いいや、死んだりしなかった、だから、今度は獣で試したんだ、人間よりも強いから。
人間の場合は。
場所を変えて部屋でゆっくりと話したい、そう言われて二人が迷ったのは無理もなかった、協力はできないと断ったつもりだが、もしかして話が通じていなかったのだろうか、それとも強引に、例えば自分達を脅していうことを聞かせるつもりなのだろうか。
「王は元々、争いを好まない性格ですが、周りの者達が多少強引です」
アルデバランの言葉にハルは、ああと頷いた。
どちらにしても、自分たちにとってはいい話ではないだろう、案内されて城の奥の部屋へと進んで行くが、ふと女の足が止まった。
目指す部屋、扉の前に立っていた相手の姿を見て驚いた。
部屋に入ってきた第三者の姿を見て王は驚いた、女と宰相のアルデバランの二人だけだと思っていたのに、もう一人いたのだ。
リザードマンに見えるのだが、腕は金属のような色で人間と似たような五本の指だが、生身ではなくまるで石か、金属のように見える。
眼鏡も、ただ、よく見えないからというにしては形も違う、顔の半分以上を覆っている。
「先生、座って下さい」
最初に口を開いたのはアルデバランだった。
「突然、押し掛けてすまんな、ところで、先ほどの謁見だが、二人とまだ話し合いを続けるのか聞かせて貰えないか」
一瞬、えっという顔つきになった王に相手は会見の様子は全て見ていると言葉を続けた。
「病人がいるのか」
相手王の正面に立った、この行動に王の側にいた従者とドアのそばに立っていた騎士が身構えた。
王の手を取り、顔を、眼を覗きこむように見ていた相手は、なるほどと小さく呟いた。
「まあ、一ヶ月というところか」
「な、何が」
「病気ではない、安心しろ」
返事を待たずに、毒だと言い放つ、その一言に部屋の中がしんとなった。
「では帰ろうか、二人とも」
王と周りの側近、部屋の中はしんとなった。