※この作品はR-18です。

ハーレムパーティー   作:早見 彼方

11 / 76
氷川紗夜とディープキス

 ストーカー騒動から約一週間。俺の日常は平穏そのものだった。平日は学校へ通って授業を受け、帰宅すれば予定の空いている女とセックス。休日はデートやセックス三昧。主に相手は燐子で、次にリサやあこ、などなど。今までと何も変わらない欲望に満ちた生活を送っていた。

 しかし、そんな生活でも、新しい女を得ようという俺の欲求が潰えることはない。

「こんばんは、岩戸さん」

 落ち着いた声に、ベンチで本を読んでいた俺は顔を上げた。

「こんばんは、氷川(ひかわ)さん」

 夕暮れに染まる空。それを背景に立つ少女。腰まで届く綺麗な長い髪が輝いて見える。垂れ目ではあるが、いつも真剣そうな表情の影響で知的美人といった印象を抱く。声と同じく落ち着いた雰囲気と合わさって、彼女は同世代よりも少し大人びた魅力を持っていた。

 彼女は氷川(ひかわ)紗夜(さよ)。俺と同い年の高校二年生で、最近知り合いになった関係だ。氷川さんが通っている学校は花咲川女子学園。燐子と同じ学校で、学年も同じ。もしかしたら燐子と面識があるのかもしれないが、燐子の話題を出したことがないからわからない。

「隣、座ってもいいですか?」

「うん」

 俺が頷くと、氷川さんは制服の上から掛けていたギターケースを下ろし、俺の右側に座った。拳一つ分を間に空けた距離感。さらさらと揺れた氷川さんの髪から漂ういい香りが鼻に届く。

 乱れた髪を耳に掻き上げ、氷川さんは俺の方を向いて口を開いた。

「何の本を読んでいるんですか?」

「これ? これは」

 氷川さんに聞かれ、俺は素直に答えた。

 俺が読んでいたのは小説だ。主人公は、歌が大好きだった少女。小さい頃はそれこそ毎日のように歌っていたが、それを同級生の男子生徒に揶揄われたことをきっかけに、歌うことが苦手になってしまった。そんな少女が高校生となって素敵な仲間たちと出会い、再び音楽の魅力に惹かれていくという話。

 俺は普段本をあまり読まないのだが、音楽関連の本については別だった。歌や音楽に関する本で、特に個人の心情が描かれている小説などが好きだ。俺自身が歌の魅力にのめり込んでいるからだろう。この本の前は、全国大会出場を目指す吹奏楽部の少女たちの青春を綴った小説を読んでいた。

「岩戸さんは本当に歌が好きなんですね」

 氷川さんはどこか嬉しそうに言って、微笑んだ。その微笑みは傍から見ると本当に小さい感情の変化だったけど、氷川さんの本心から表出した感情だとわかった。やはり自分の好きな話題で共感を得られると嬉しく感じる。

 だから俺は、氷川さんの微笑みを受けて自然に笑顔を浮かべてしまった。

「うん、大好き」

「っ……!?」

 俺の顔を見た氷川さんは、慌てて顔を正面へと逸らした。夕焼けのせいだけでなく、その白い頬はほんのりと紅潮しているように見えた。

「氷川さん?」

「い、いえ、何でもありません……」

 氷川さんは慌てたように首を横に振り、何かを誤魔化すように咳払いをした。戸惑いを浮かべ、赤くなっていた顔は徐々に自然さを取り戻していく。感情の制御が上手いようだ。感情表現が苦手な俺と違う。

 俺は、自然な感情を表に出すのが少し苦手だ。先ほどの笑顔は偶然の産物。だから、感情表現が得意な人が羨ましく感じる。

 ちなみに、さっき俺が浮かべた笑顔を燐子の前で見せれば、まず間違いなく一晩中犯される。欲情した目で見つめられながらベロチューと杭打ちピストンで金玉が空っぽになるまで搾り取られるのは避けられない。

 その笑顔を見せたのだ。燐子ではないとは言っても、氷川さんの心も相当揺さぶっただろう。いつでも出せる笑顔ではないからこそ、その破壊力は相対的に高まり、女に俺を意識させることが可能だ。

 笑顔と言えば、ギターを演奏する氷川さんの表情もとても素敵だったことを思い出す。

 氷川さんの趣味はギターだ。それは、出会ったときから知っている。

 最初に出会ったのは一ヶ月ほど前。俺が偶然立ち寄ったこの寂れた公園で夕焼けを見たとき、唐突にインスピレーションが沸いてベンチで歌を歌った。人がいないのを良いことに高らかに。気持ちよく歌っていた。まさかそれを、公園の横を通り過ぎようとしていた氷川さんに聞かれていたとは思わず、すごく恥ずかしい思いをした。

『その歌、もう一度聞かせてもらってもいいですか?』

 今日と同じようにギターケースを背負っていた氷川さんに請われ、俺は歌を歌った。

 そのときから、俺は氷川さんと話すようになった。連絡先を交換して、公園で待ち合わせをして共通の話題で盛り上がる。俺がボーカルで、氷川さんがギターでジャムセッションすることもあった。本格的なものではないけれど、自宅にある地下室で歌っているときよりも、その時間は輝いていた。

 そして何より、演奏中の氷川さんの笑顔が魅力的で、俺の心を鷲掴みにした。

「そう言えば、氷川さんってどうしてギターを始めたんだっけ?」

 何気なく振った会話。俺と氷川さんの共通の話題で話を広げていこうと思ったのだが、俺の質問を受けた氷川さんの表情は、少し険しいものに変わってしまった。膝の上に置かれていた拳は軽く握られた。

「あの子に負けたくないから……」

 あの子? と深掘りして聞けるような雰囲気ではなかった。

 俺は氷川さんの横顔から正面へと視線を向けた。

 遠くに見える空の殆どが濃紺に浸食されていた。この辺りもすぐに暗くなっていくだろう。今から演奏をするには中途半端な時間で、俺は黙って正面の空を見続けた。

 ベンチに置いていた俺の右手に、氷川さんの手が置かれたのはそのときだった。

 少し驚いて俺が氷川さんのほうを向くと、氷川さんが不安げに俺を見つめていた。

「岩戸さん……。岩戸さんは、私のギター、どう思いますか……?」

 突然のことに、俺は言葉に詰まった。今まで見たこともない氷川さんの弱気な声。いつも綺麗に紡がれる声にわずかな震えが混ざっていることに、俺は少なくない動揺を覚えていた。

 何かあったのかもしれない。こういったとき、優しくしてあげるべきだろう。

 だけど、そんな下心とは別に、俺の口は思っていた言葉を勝手に漏らしていた。

「好きだよ」

 それも、一度だけでなく二度も。

「俺は氷川さんの音が好き。たとえ氷川さんよりも演奏技術の高いギタリストが現れても、氷川さんよりも楽しそうにギターを演奏する人が現れても、きっと俺の中で一番しっくりくるギターは氷川さんのだけだと思う」

 音楽のことになると、途端に饒舌になる俺。表情も自然な笑顔を浮かべてしまう。

 それが決め手になったのかもしれない。

 気がつくと、俺は、氷川さんに口づけされていた。

 氷川さんの柔らかい唇と、そこから伝わる熱。俺はそれを正面から受け止めた。

 ベンチに置いた俺の手に、氷川さんの手が強く絡む。そこから氷川さんの強い感情を感じ取れた。俺はそんな氷川さんを宥めようとはしなかった。ただ氷川さんのしたいようにさせ、受容する。

 いつまでそうしていただろうか。ゆっくりと氷川さんの顔が離れた。

「私も、好き……。あなたの音を、もっと聞かせて」

 再び重なる唇。今度の口づけは一回目よりも深く、濃密だった。

「んっ、ちゅっ、はぁっ、んっ、ちゅぷっ……」

 ここが公園だということも忘れて、俺と氷川さんは互いを求めた。正面から抱き合い、角度を変えて何度も唇を触れさせる。舌を絡ませ、唾液をブレンドさせて、くちゅくちゅと卑猥な水音を奏でる。

 目を開けると、氷川さんの綺麗な瞳が俺の顔を映していた。そこに宿るのは氷川さんらしからぬ強い情欲。氷川さんからこんなにも強い想いを向けられていることに俺は嬉しくなり、ズボンの股間部を大きく膨らませた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。