唐突に目が覚めた。目蓋を開くと、灯りの消えた暗い室内。ベッドを背にしたまま正面の天井から視線を右横に移すと、心地よさそうに眠る裸の燐子がいた。反対側へと顔を向ければ、同じく一糸纏わぬリサの姿があった。
どうやら寝落ちしていたらしい。二人の美少女に挟まれていた俺は、再び眠りに就こうと目を閉ざした。しかし、一度冴えてしまった意識は鎮まらない。二人に抱き着いてみようか。温もりと安心感を得れば眠れるかなと思ったが、眠っている二人は実に気持ち良さそうで、起こしてしまいかねないことに少し罪悪感を覚えた。
目を閉じて少し待ってみても結局眠れず、俺は諦めて起きることにした。二人を起こさないようにゆっくりと身を起こす。
「勇希……」
名前を呼ばれて少しだけ驚く。起きたのか? 身動きを止めてリサを見たが、リサは目を閉じて表情を緩めていた。俺の精液が付着した乳房が呼吸によって規則正しく上下に動いている。
寝言か。俺はほっと息を吐き、そのままベッドから降りた。
下着と寝間着を身に着け、その足で向かったのは地下の防音室だ。重い扉を開き、中に入ってパソコンの置かれた机に向かう。椅子に座ってパソコンを起動させつつ、机に置いてあった楽譜を手に取る。現在作成中の曲だ。引かれた五線譜の上に音符が連なってメロディを形成しているが、それは不自然な形で途絶えている。
眠れないし、続きでも考えるか。パソコンにログインし、実際に考えた曲を作曲ソフトに打ち込んで流してみる。元々決めていた音に新しい音を加え、ああでもないこうでもないと悩みながらも少しずつ作業は進行していった。
「できた……」
作業から約二時間弱。時刻は三時半を過ぎていた。作業は驚くほどつつがなく進み、無事に曲が完成した。後はこれに合う詞を当てはめていけばいいのだが、今日のところはこの辺りで終わりにしよう。
いい曲が出来上がったことで少し機嫌が良くなり、鼻歌を歌いながら俺は気分転換をすることにした。御用達の動画・音声共有サイトにログインし、新しいメッセージなどが来ていないか確認をしたところ、また随分とメッセージが溜まっていた。
その多くは俺に対するファンレターのようなものだった。
『こんばんは、ゆうきさん。いつも素敵な歌を聞かせてくれてありがとうございます。ぜひともゆうきさんにカバーしてもらいたい歌があり、メッセージを送らせていただきました』
こういった歌のリクエストも珍しくはなく、もう随分とリクエストを貯め込んでしまっている。ここらで一気に消化していきたいところだ。近いうちにまとめて歌を投稿しようか。貰ったリクエストを吟味しつつ、俺は自分一人の夜を過ごした。
そうしていると段々と眠気が襲ってきた。目蓋が重く、うとうとし始める。もう駄目だ。作業を終えてパソコンを閉じた俺は、そのまま机に突っ伏して目を閉じた。
押し寄せてきた睡魔。それに身を委ねていると、「勇希君……?」という燐子の声が聞こえた気がした。聞き間違いかそうではないのか。確認することもできず、俺は深い眠りの中に誘われた。
そして、懐かしい夢を見た。
「勇希君、話があるの……」
学校からの下校中、俺は桜の木の傍で燐子に呼び止められた。たった今まで横を歩いていた燐子は足を止め、顔を真っ赤にして俺を見つめている。燐子は元々真面目な性格だが、今まで以上に真剣な様子に俺は言葉もなく燐子と向かい合った。
俺と燐子の間に沈黙が漂う。四月の暖かな風が吹き抜け、桜の花びらが風に乗って遠くの空まで舞上げられた。それを尻目に俺が燐子を見続けていると、花咲川女子学園の真新しい制服を来た燐子が、豊かな胸元に手を当てて何度も深呼吸していた。
この流れは。燐子の真意を汲み取った俺は柄にもなく緊張し、燐子の言葉を待った。焦らせることはしない。いつまでも待つつもりで燐子の様子を眺める。
程なく、決心がついたようだ。燐子は口を開くと、最後に大きく息を吸い、真剣な眼差しを俺に向けたままその言葉を投げ掛けた。
「その、私と、結婚を前提に付き合ってください……!」
「うん」
予想通りの展開に、俺は首を縦に振って即座に返事をした。断る理由がない。俺も燐子のことが好きだったし、燐子をネタに自慰をすることが多かった。早く燐子を俺の女にして愛してあげたいと思っていたが、幼馴染という近すぎる関係ゆえに今まで躊躇していた。告白して万が一にも断られたときのことを考えてしまうと、踏み切ることができなかった。
それができた燐子は俺などよりもよほど度胸がある。そんな燐子を羨ましく思い、少しだけ悔しさが募った。この世界では女からの告白が一般的とはいえ、俺の中身はこの世界とは貞操観念の異なる世界で生まれ育った男。俺のほうから燐子を手に入れたかったという思いが強かった。
いや、今からでも遅くはないか。俺はそう思い直し、顔を赤らめたまま呆然とする燐子に向かって微笑みかけ、告白の言葉を捧げた。
「俺も燐子のことが好き。ずっと一緒にいよう」
その直後だった。燐子が目を回して倒れたのは。
懐かしい記憶だ。過去の記憶を夢として回想している不思議な状況。夢を夢と認識する明晰夢自体珍しいのに、その上過去の記憶の完全再現ときたものだ。あまり体験できない夢を俺は楽しんでいた。
卒倒した燐子を背負い、自宅へと向かう。当然のように自宅に母さんはいない。ただ、今日は燐子も一緒に帰宅だ。軽い燐子の体を背負ったまま階段を昇り、二階の自室へと運ぶ。
燐子は入浴中にのぼせたかのような状態になっていた。目を回し続ける燐子をベッドに寝かせると、介抱し始める。一階に降りて濡れタオルを用意し、燐子の額に乗せる。
「うぅっ……」
燐子の口から声が漏れる。何か言いたいのかと思って耳を近づけたが、そういうわけではなさそうだった。結局燐子は次の言葉を続けず、そのまま静かな眠りに就いたようだった。
確か、この後だ。俺は燐子に顔を近づけた。燐子の綺麗な唇に惹かれるように接近し、自分の唇をしっかりと燐子に当てる。
燐子の唇から伝わってくる熱。柔らかい感触。それらを十分に感じ取った後に唇の間に舌を割り込ませ、燐子の口内に侵入した。
ぬるぬると燐子の舌に舌を擦りつける。燐子の寝込みを襲うことに興奮を覚え、俺は燐子に覆い被さって本格的に唇を味わった。燐子は俺の女だ。独占欲を滲ませ、マーキングをするように唾液を注ぎ入れた。
「ちゅっ、くちゅ、ぷちゅ、ちゅるっ……」
そんな風に激しく動いていて燐子が目を覚まさないはずがない。俺が燐子と舌を絡めていると、燐子の額に置いていたタオルがベッドに落ちると同時に、長い睫毛が揺れて目蓋が開いた。
「んっ……!?」
燐子が目を見張る。そのまま慌てふためこうとしたようだが、俺はそれを即座に阻止した。より深く舌を押し込み、燐子の口内をぐちゃぐちゃに掻き回した。逃がさない。強い意思を目線で訴えつつ、唾液の量を増やす。
「んっ、ちゅっ、くちゅ、ぬちゅっ、ぁっ……」
燐子の目がぼうっとした様子で俺を見つめる。自分から舌を動かし、俺と戯れる。このままずっと繋がっていたい。そう思えるような幸福の中にいたが、やはり息苦しさには耐えられず名残惜しい気持ちで唇が離れた。
自分の舌も取り出し、燐子の中から出ていく。もっと繋がりを求めようとした燐子の舌が伸びてきたが、俺はそのまま顔を離した。
俺たちの間に伸びる唾液の橋。それが重力に負けて崩れ、燐子の舌の上に落ちた。燐子は舌にへばりついたそれを嬉しそうに見た後、口を閉じて喉を鳴らした。
「んっ……飲んじゃった……」
緩やかに微笑む燐子。その顔があまりにも可愛いものだから、俺はすぐにまた燐子と繋がった。鼻息を荒らげ、唾液をさらに混ぜ合わせる。誰の邪魔もない。静かな部屋で接吻の音と声を響かせて、俺たちは互いの中に育まれた愛情に何度も触れ合った。
その愛情がどんどん膨らんでいく。俺たちはこの後このまま一組の男女としての繋がりを求め、互いの性器に手を伸ばすのだった。
が、そこで俺の意識は現実に戻った。
「ん……」
目が覚めると、机の木目が目に映った。視線を少し動かすと、午前六時と表示されたデジタル時計が視界に入った。もう朝か。夢の続きを見ることなく目覚めてしまったことが残念だったが、こればかりは仕方がない。夢を操ることなどできるわけもなく、俺は目覚めに従うことにした。
机に伏せていた体を起こすと、肩に何かが掛けられていることに気がついた。毛布だ。それが背中までを覆い、俺の体を暖めてくれていたようだ。燐子とリサのどちらだろうか。一瞬考えたが、すぐに誰かはわかった。
机の上に貼り付けられた四角い付箋。デフォルメした猫の絵柄が添えられたそれには、見慣れた筆跡で文字が書き記されていた。
『あまり無理しないでね』
「ありがとう、燐子」
文字を指先で辿りながら、俺はこの場にいない燐子にお礼を述べた。