キーボードの音色を土台にして、ギターが音を奏でる。それらに支えられながら、俺は歌声を地下の防音室に響かせた。この場にいるのは演奏者だけ。観客はいない。でも、手加減をすることはない。練習であっても、本番のように臨む。
マイクスタンドの前に立った俺は、高まってきた熱を歌声に乗せた。
キーボードを演奏するつぐみと、ギターを爪弾く紗夜が演奏の傍らで俺へ視線を送っているのがわかる。じっと、固唾を呑むように。卓越した演奏技術のある紗夜はともかく、つぐみは余所見をしていて大丈夫なのだろうか。
などと考えていると、キーボードの音が外れた。一度取りこぼすと、音は連鎖的に崩壊していく。ここから立て直すことはできるが、俺は声を収めた。紗夜もそれに従って演奏を止め、落ち着きを取り戻すように息を吐いた。
「ご、ごめんなさい……!」
紗夜のため息を落胆によるものだと勘違いしたのか、キーボードの前でつぐみが深々と頭を下げた。「謝らなくていい」と俺はすぐに言ったのだが、つぐみは真面目な性格のようで、失敗した自分を恥じ入るばかりだった。
「そろそろ休憩にしましょう」
そんなつぐみの様子を見ていた紗夜が切り出し、俺たちは休憩することにした。そう言えば、練習を始めてから一時間以上経つが、まだ休憩していなかった。俺と紗夜とつぐみという新鮮な組み合わせでの音合わせに、俺たちはつい夢中になっていた。外はもう真っ暗だろう。
夕方頃まで俺の家にいた燐子たちは、俺とつぐみに親睦を深めてもらおうと思ったのか帰宅してしまった。残された俺たちは二人きりで過ごしつつ、ついでにつぐみに自宅の中を案内した。最後に防音室も紹介したのだが、そこに置かれているキーボードを見て、つぐみは思い出したように言った。
『今日はまだキーボードの練習してなかった……』
Afterglowのメンバーとして、キーボードを担当しているつぐみ。努力家である彼女は練習をするために慌てて家に帰ろうとしたが、俺は呼び止めた。わざわざ家に帰らなくても、ここにキーボードと防音室という絶好の練習環境がある。
『ここで練習していけば?』
という俺の提案に申し訳なさそうにしていたつぐみだったが、俺はつぐみの手を引いてキーボードの前に立たせた。練習用に使っていた有名なロックバンドの曲の楽譜を用意してあげると、ようやくつぐみも決心がついたようだ。
『すみません。少しだけ、お借りしますね?』
いつでも真面目で、やる気に満ち溢れたつぐみ。
頑張っている子を見ていると、応援したくなる。一人でも練習は可能だろうが、他の楽器もあるとさらにいい練習ができる。しかし、俺がまともに弾けるのはギターくらいだ。それも、誰かと音を合わせられる力量かと言われると、不安がある。
そこで俺は、誰か来られる者はいないか、チャットで聞いてみることにした。
燐子がついさっき用意してくれたばかりの、俺と恋人たち専用の交流サーバー。チャットだけでなく、音声でも交流が可能。『ゲーム部屋』と称されたページで燐子とあこが通話を繋ぎながらオンラインゲームをプレイしている一方で、『雑談部屋』のページでも俺の恋人たちが交流を深めているようだった。
『そろそろ白黒ハッキリつけませんか?』
『望むところだわ』
売り言葉に買い言葉といった具合に、蘭と友希那がバチバチとやり合っている。まだ設立されたばかりの部屋でいったい何があった。過去のチャットログを遡って確認したい気持ちに駆られたが、仲良く喧嘩しているようだったので、放っておいた。
今はつぐみの演習相手を募るが先だ。
全体向けに連絡すると収拾がつかなくなりそうだったため、俺は個別にメッセージを送ることにした。そこで白羽の矢が立ったのが、確かな技術とストイックな性格を持つ紗夜だった。ログイン中だったため、メッセージを送るとすぐに返信があった。
『今からそちらに向かいます』
という返事の後、俺の家にやって来た紗夜を迎え入れ、三人で練習することにしたわけだ。
防音室に置かれた大きなソファー。つぐみを中心にして三人で腰掛ける。肩を落として気落ちしているつぐみの右横で、紗夜は自然体を保ちつつ、チラチラとつぐみを一瞥していた。紗夜は怒っているわけではないのだが、無表情に近いから勘違いされそうだ。
「気にしすぎないほうがいいと思う」
練習でも本番のように挑む。それはあくまで俺が俺自身に言い聞かせている考え方であって、他の人にまで押しつける気はない。練習なのだから別に失敗をしても構わない。本番で同じ失敗をしなければいいだけだ。
「羽沢さん」
と、紗夜がつぐみに声を掛けた。
「次、頑張りましょう」
「は、はい!」
紗夜が表情を緩めて告げると、つぐみは良い感じに元気を取り戻したようだ。俺が言おうと思っていたのだが、まあいいか。俺はつぐみの頭に右手を乗せて、さらさらの髪の触り心地を楽しむように頭を撫でてあげた。
休憩が明け、その後もしばらく練習を続けた。
さっきは俺が突然ギアを上げたのが原因でつぐみを驚かせてしまったけど、もう大丈夫なようだ。ミスらしいミスは徐々になくなっていく。ボーカル、ギター、キーボードという変則的なスリーピースだけど、音を重ねるのは気持ちが良かった。
それはつぐみたちも同じ。
「今日はありがとうございました!」
「ええ、とてもいい経験になりました」
つぐみも紗夜も満足したようだ。年齢もバンドも、技術力も違う。出会ったばかりの相手との繋がりは、紗夜の言う通りいい経験となるだろう。俺も新鮮な気持ちで取り組むことができて、普段よりも高揚感を得られた。
きっと、この気分のまま誰かと繋がれば、もっと気持ちよくなれる。
「紗夜」
俺が呼び掛けると、俺の意図を汲んだ様子の紗夜はにっこりと微笑み、ギターを置いた。
正面から向き合い、身を寄せ合う俺たち。つぐみは不思議そうに俺たちを見ていたが、俺たちが抱き合い、そのまま目蓋を閉じて唇を重ねたことで「えっ……」と微かに驚く声を上げた。
「ん、ちゅっ、ぐちゅっ、ぬちゅっ、ちゅるっ、れろぉっ、ぐちぃっ、ぬちゅ、ぐちゅっ!」
口を塞ぎ合い、互いの舌を擦りつけ合う。口からこぼれた唾液が服に染みを作るが、構わない。たっぷりと溜めた唾液を紗夜に送り、紗夜からも送られた唾液を受け入れる。ぐちゅぐちゅと音を立てて混ぜ合わせ、二人でベロチューを堪能する。
チラリと横目で窺うと、つぐみは顔を真っ赤にしていた。
今日俺と交わって処女を卒業したとはいえ、まだ初心だ。これから経験を積めば薄れていく純朴さを今は楽しもうと、俺と紗夜はつぐみに見せつけるように舌を絡ませ、相手の体を求めて掻き抱いた。
「あ、んっ、ぐちゅっ、ぢゅるるっ、はぁっ、ぐぢゅ、ぐぢゅっ、ぬちゃっ!」
背に回した手で紗夜の尻を服の上から掴み、握り締めると紗夜の細い背がビクンと震えた。もう片方の手で紗夜の綺麗な髪を撫で、指の間に通して梳く。ふんわりとシャンプーの甘い香りが漂ってくるのを感じた。
甘く、濃密な時間。音楽に対するものとは別種の熱が膨らむ。
「ちゅ、ぷっ……」
紗夜が俺の唇に吸いつくキスを放ち、俺の唇の間に唾液の糸を伸ばして顔を離していく。音楽と向き合っているときの紗夜とはまるで違う、俺に忠誠を誓う雌奴隷としての顔。呼吸を乱し、白い頬を赤らめ、垂れ眼がちな眦を下げて艶然と笑んでいる。
紗夜の口から伸ばされた舌には、俺と紗夜二人分の唾液がべったりとついている。
「飲んで」
俺が命じると、紗夜は舌を口内にしまい、ごくりと喉を鳴らした。
「ん、あー……」
大きく開かれた紗夜の口内に俺たちの唾液はない。ちゃんと唾液を飲めた紗夜を褒めるために頭を撫でる。目を細めて嬉しそうにする紗夜を抱いていると、トスンッと小さな音が横から聞こえてきた。
「あ、ぅ……」
つぐみがその場で崩れ落ちた音だった。床にへたり込み、股の間に指を這わせている。どうにか興奮を鎮めようとするが、それもままならない。熱に浮かされた様子で、俺たちに欲情の眼差しを向けていた。
つぐみのその目は、紗夜が宿しているものに近い何かを感じた。
だからだ。俺は、二人に向けてこう言い放った。
「二人まとめて調教してあげる」
俺とチンポの前に平伏する雌奴隷。紗夜と同様に、つぐみにもそれが似合うと思った。