朝からベッドで楽しんだ俺とリサは、しばらくして身を起こした。このまま肉欲を貪っていたい衝動に駆られるが、今日の予定は外でのデートだ。なし崩し的に予定を変更するのは駄目だろう。
「真面目だなぁ、勇希は」
そこも好きなんだけどね、とリサは言いながら俺の耳に息を吹き掛けた。やはりベッドへ再び身を預けたい気持ちになりかけるが、我慢してベッドから降りた。
服を着て簡単に身なりを整えて。リサも一緒に着替えていたのだが、何というか視線がいやらしかった。リサのことをチラチラと見ていた俺が言うのもなんだけど、視線に欲望が混ざっていた。
俺が着替えたのはパーカーと締め付けの少ないチノパンというシンプルな服装。この服装は非常に安心感があり、リラックスできる。お洒落とはほど遠いけど、元の容姿がいいため無理に着飾る必要もなかった。着飾った暁には、街で声をかけられる回数がより一層増えてしまうだろう。
そんな俺に対して、リサは露出度の多い格好だった。短いズボンからは魅力的な太股がはっきりと見てとれる。少し派手目なデザインのTシャツと緩めたベルトを腰に巻いてある。首からはネックレスを下げ、手にもアクセサリーをつけていた。
今時の若者、という感想を抱くのは俺の精神年齢が実年齢よりも圧倒的に年上だからだろうか。とにかくリサによく似合っていて、何度見ても可愛いと思えてしまうから美少女というのは本当に素晴らしい存在だと思った。
「どうしたの、そんなに見つめて」
「いや、なんでもない」
「えー、本当にー?」
リサは意地の悪そうな笑みを浮かべていた。俺がリサに見惚れていたことは、リサにばればれだったようだ。この体は割りと感情表現が苦手なのだが、リサの目には見抜かれているらしい。リサが他人のことをよく見ているということだろう。
「なんでもないって。それより、そろそろ行こう」
これ以上の追及を避けるため、俺はリサを伴って部屋を出た。戸締まりをし、問題ないことを確認してから玄関から外へと出る。
もう正午過ぎだから当たり前だが、日は高かった。俺の寝坊とその後の出来事で随分と予定が狂ってしまった。本当は昼食を済ませてから映画を見て、街を巡りながら買い物を楽しむ予定だったのだが、予定を修正する必要がありそうだった。
「映画は今度でもいい?」
「うん、いいよ。勇希と一緒ならなんでも」
そう言ってリサは俺の手を取り、指を絡ませるようにして手を繋いできた。相変わらず積極的だな、と思いつつ、無事に予定を変更することができて良かった。映画鑑賞は持ち越しにして、今日は少し遅めの昼食と買い物をすることにした。
正午過ぎとはいえ、今日は日曜日だ。外を出歩くと人の数は多い。目につくのは女ばかり。それに対して男の数は比較的少なく、女の男を見る目に特別な感情が宿っていることが窺える。
肉食獣に狙われる獲物の気分になるが、今さらだ。この世界ではこれが普通。気にしすぎると身が持たない。女の数に対して男の数が少ないのだから仕方がないことだ。
時折向けられる視線を受け流し、リサと手を繋いで街を歩く。目的地は決まっている。少し前にインターネット上で口コミを見て、行ってみたい思っていた珈琲店だ。そこへ向かいながらリサと世間話。俺たち二人の主な共通話は、互いの幼馴染みや学校の話だ。
「それで、
リサの言う友希那という人こそ、リサの幼馴染だ。確か、名字は
湊さんはどうやら歌が好きなようで、よくライブハウスに赴いているとのことだ。インターネット上で活動している俺よりも本格的。どうやら内気な性格ではないようで、目的のためなら積極的に行動していく人のようだった。
まだ湊さんと対面したことがないのに、リサによって湊さん情報が蓄積されていく。猫が好きという可愛らしい一面があることも密かに教えてもらったのだが、いいのだろうか。俺も燐子のことをリサに話してしまっているから人のことは言えないが。
話しながら歩くこと数分。俺たちは商店街へと足を踏み入れ、視線の先に一軒の店を捉えた。
店の前にはこの時間帯にも関わらずそれなりの行列があった。一人で並ぶときならば悩む長さだけど、今はリサもいるから苦ではない。
「そう言えば、勇希にモカのこと話したっけ?」
リサといると話に間が空くことがないから助かる。
「モカ? 珈琲の話?」
「いや、違う違う。アタシの後輩なんだけどね。すごくよく食べる子でさー。いろいろなお店を知っているんだけど、この近くにあるパン屋がおすすめみたいだよ? 今度機会があったら行ってみない?」
パン屋自体に今まであまり行ったことはないけど、おすすめと言われると無性に気になってしまうのはなぜだろうか。
「それじゃあ、また今度行こうか」
次のデートの際に、胃袋に余裕があるときに顔を出してみよう。簡単に予定を決めつつ、話を続ける。新しい店の情報とは別に、また一人直接会ってもいない少女の知識を得ながら、商店街の至る場所から漂う食べ物のいい匂いに食欲を刺激させられる。今度商店街を散策してみようか。そう考えながらリサとの会話で待ち時間を潰した。
やがて行列は進み、俺たちの後にまた新しい客が並ぶ。店内から出てくる客の満足そうな顔を何度か見ていると、俺たちの番が回ってきた。
「お待たせしました、お次のお客様どうぞ!」
「あ、はーい。行こう、勇希」
店員さんに呼ばれ、入店した俺たち。席に案内され、店内を見回す。窓からも中の様子は見えていたけど、落ち着きのあるいい感じの雰囲気だった。店のエプロンをした店員さんは愛嬌のある顔をしたショートヘアの美少女で、こちらに見せてくれた笑顔が非常に眩しい。素朴で柔らかい雰囲気はこの店に合っていて、看板娘と言った印象を受けた。ただのアルバイトである可能性もあるけど。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
水を注いだコップとメニュー表を置き、店員さんは頭を下げて別の客対応へと向かった。忙しそうだ。しかし、無駄のない動きによって、とても一人とは思えない仕事量をこなしていた。随分と慣れている。やはり、この店の看板娘なのだろうか。
「何見てるの?」
「うわっ」
突然声がすぐ近くから聞こえ、俺はリサから逸らしていた視線を戻す。すると、テーブルから身を乗り出していたリサの顔が間近にあった。ジト目で見つめられている。俺が店員さんの働く姿を目で追っていたことはばればれだろう。
「いい感じの子だなって思って」
リサの幼馴染みである湊さんもそうだが、手を出したい子が多すぎる。交際するにはどう行動するのがいいだろうか。たとえば、この店でアルバイトをしてお近づきになり、交遊を深めて美味しく頂くという方法などを考え、期待に胸を膨らませる。
「勇希って、本当にヤリチンだよね」
少し呆れたように、しかし、どこか嬉しそうでもある顔でリサは言った。テーブルに座り直し、にこにこと微笑みながら俺の方を見ている。何か企んでいるようだった。
「何?」
「そんなに女の子に飢えてるんだったら、今度モカを紹介してあげようか。モカの食欲と勇希の性欲。どっちが勝つのか個人的にも興味あるし。それにモカも美少年で処女卒業したいって言ってたし」
どうかな? とリサは言いながら目を細めた。あの目は、一緒に楽しむ気満々の目だ。美味しいご馳走を他の者と共有することに快楽を覚える牝の顔。社交的なリサであれば、俺が了承すればたちまち場を整えてしまうだろう。
「返答はまた今度で」
「ん、了解。そのときは、二人でたーっぷり搾り取ってあげるからね?」
舌を覗かせ、唇を舐めたリサ。その妖艶な仕草に俺は食欲よりも肉欲を覚えそうになり、欲望から目を背けようと慌ててメニュー表を手に取って視線を走らせた。