「え、電話……? あっ……!」
思い出したかのように言って、松原さんは慌ててスカートのポケットから携帯を取り出した。画面に映る相手の名前を見たことで、動揺は強まる。表情は薄っすらと青褪めて、相手と通話を始めた頃には、出会ったときの松原さんの様子に戻ってしまった。
「もしもし、み、
どうやら、時間切れのようだ。俺も俺で、松原さんの予定があるのを途中で忘れていた。
ちょっと反省しつつ、俺はまだ勃起したままの肉棒をズボンの中にしまった。正直ヤリ足りないけど、誰かと待ち合わせしているらしい松原さんの予定を狂わせることなどしたくはない。
また日を改めよう。
「駅まで案内します」
「あ、ありがとうございますっ……」
俺の言葉に松原さんは少し驚いた後、柔らかく微笑んだ。
公衆トイレを後にした俺は、松原さんの手を引いて、駅へと向かった。松原さんの足取りに合わせつつ、できるだけ急ぐように小走りで。いつの間にかすっかりお昼時になっていて、人通りの多くなった道を十分ほど進むと、駅前が見てきた。
ここまでくれば、さすがにもう大丈夫だ。
「それじゃあ、この辺で」
「はいっ……。今日は、その、いろいろと、ごめんなさい……」
立ち止まって向き直ると、松原さんが頬を紅潮させてもじもじとしていた。道案内の途中で迷子になってしまったことよりも、トイレでの一件に対する謝罪のほうが強そうだ。今もちらちらと俺の股間を見ては、先の出来事を思い出したようで、目元が緩んでいる。
俺もそうだが、松原さんも満足できてはいないようだ。
「都合が合うときにまた会いましょう」
次こそは、松原さんの内側をチンポで征服して、ガッツリと中出しする。俺の物であるということを明らかにするためのマーキングを済ませ、ハーレムに加える。松原さんみたいな子ならば、他の恋人たちともやっていけるだろう。
俺は松原さんへ顔を近づけ、口を開いた。
「松原さんに、俺の体、好きにさせてあげます」
「っ……!?」
その一言は効果覿面だったようで、松原さんの細い肩が跳ね上がった。
「す、好きに……?」
「はい。一日中抱き放題です」
「中出しもいいんですか……?」
「はい」
「ハメ撮りとかも……? 拘束して、レイプしても、怒らないんですか……?」
「全く」
松原さんが息を呑む。近くを通り過ぎた人が身を寄せ合っている俺たちを不思議そうに見つめているが、今だけは許して欲しい。前以って松原さんをその気にさせておいて、次に会う日までに欲望を溜め込んでもらう。煮詰めてどろどろに蕩かして、当日になって思いっきりぶつけてもらうつもりだ。
松原さんも、自分の発言が周囲に聞こえないように俺の耳に口を近づけた。
そして、横目で見てもわかるほどに欲に塗れた笑顔で、こう告げた。
「絶対に、犯します……。逃げられないように拘束して、エッチな写真もたくさん撮って、岩戸さんの反り立った巨根チンポを私の処女マンコでガップリ咥え込んで、好きなだけハメハメパコパコしちゃいますからね……? 作ったお精子全部、私が残さずぢゅるぢゅる吸いつくしちゃいますから、今から無理って言っても、遅いですよ……?」
鼓膜を煽る囁き声。大人しそうな見た目からは想像もつかない下心剥き出しの言葉は、俺の肉棒を膨らませる。せっかく滾ったところで申し訳ないが、ここで欲を解消することはできない。俺も今のところはお預けだ。
まあ、俺は普通に松原さん以外の相手ともセックスして、当日を迎えるつもりだが。
俺を堕とす気満々の松原さんを、余裕で迎えて返り討ちにしてあげよう。
「じゃあ、また」
「は、い……。また、今度……」
しばらく熱が冷める気配のない顔で、松原さんは返事をした。
俺が松原さんから去る途中、後ろを振り向くと、松原さんが俺を凝視していた。スカートの裾をぎゅっと掴み、はぁはぁと息を荒らげている。見開かれた目の内側で、瞳が隠しようのない肉欲を孕んでいた。
きっと、次に会う頃には、もっと色濃いものになっているのだろうな。
楽しみだ。
俺は前へと顔を向け、再び歩き出す。
「あ、いたいた。おーい。こっち、ここにいますよー」
そのとき、待ち合わせをしていたのか、誰かへ向かって駆け出す黒髪の少女を視界の端に捉えた。一瞬だったけど、かなりの美少女だったと思う。釣られて後方に目を向けるが、人混みに紛れてしまって見つけることができなくなってしまった。
何だか、すごく損をした気分だった。
「ご飯食べに行こう……」
いろいろと気分を切り替えようと、俺は食欲を満たすことにした。
松原さんの下を離れ、人通りの多い道を避け、食事ができるところを探し回る。しかし、どこもピンと来ない。誰かと一緒のときはともかく、一人で外食など久しぶりで、いつもどうやって店を決めていたかが曖昧だ。
デートではないから、事前に下調べも当然していないわけで。
女以外で、性的な意味以外で、今俺が食べたいもの。
「そう言えば……」
だいぶ前に、リサに言われていたパン屋の話をふと思い出した。一緒に行こうと約束していたのだが、たびたび性欲が勝ってお家デートを繰り返しているうちに今まで忘却の彼方にあった。リサもおそらく忘れているだろう。
「リサとデート、噂のパン屋に寄る……」
覚えているうちに、携帯にメモを残しておく。これでもう忘れない。あとは、リサと予定が合う日を確認しておこう。
それまでは、パン屋もお預けだ。先に味を知っていたら、新鮮味に欠けてしまうし。
少々思考が脱線しつつ足を進め、幾つもの店を通り過ぎているうちに、いつの間にか俺はCiRCLEの付近までやってきていることに気がついた。せっかくだからとそのまま真っ直ぐ向かい、CiRCLEを視界に捉えた。
そこで俺はCiRCLEの前にある屋外のカフェテリアをざっと見渡した。時間帯が昼だから人はいるけど、回転率は良さそうだ。そう言えば、コーヒーとか飲み物の類は頼んだことはあったけど、ここで食事をしたことがなかった。
せっかく立ち寄ったのだから、ここにしよう。
俺はカフェの受付に向かい、順番待ちの席に座った。
「お待たせしました」
テーブル席に座っていた俺の下へ、注文した料理が運ばれてくる。ミートソースパスタと、オレンジジュースだ。
「ごゆっくりどうぞ」
女性店員さんににっこりと笑い掛けられた後、俺は早速フォークを手に取った。パスタを巻きつけ、口に運ぶ。口の中に広がるトマトの酸味と甘み。そして、ひき肉の旨味が絡みつくパスタはちょうどいい茹で加減で、食事が進む。
オレンジジュースは、濃厚かつ酸味の爽やかな味わいで、すっきりとした気分になれる。
もっと前からこの味を知っていれば良かった。ここのカフェではコーヒーばかり頼んでいて、料理も美味しいとは盲点だった。量も少し軽めだが俺としてはこれくらいがちょうどいい。食欲旺盛なモカとかになると、これだけでは絶対に足りないのだろうが。
料理を楽しみながら、店内を見回す。
やはりというか、バンド関係の客が多かった。ギターケースを横に携えた大学生くらいの女性二人。近くでは、女子高生くらいの少女三人組が、デザートを食べながら次のライブに向けた話し合いをしているのが会話の内容から察せられた。
いいな、という羨望の感情が浮上する。
俺の女性関係は順風満帆なのだが、音楽面ではまるで進展がない。結局、今後俺はどういった活動をしていきたいのか。以前から悩み続けてはいるものの、いたずらに時間だけが過ぎていく。
まだ高校二年生の七月上旬。とはいえ、もたもたしていると時間はあっという間に流れていく。前世でも進路について悩んでいた時期はあったが、今ほどではない。可能性に溢れているからこそ、選択が容易にはいかない。
いずれは、それなりの形に落ち着くのだろうが、それはいったいいつになることやら。
ストローを咥えてジュースを啜っていたとき、俺の前に影ができた。
「ん……?」
顔を上げた俺は、目の前に立つ相手の顔を目にし、瞠目する。
「こんにちは、勇希君。こんなところで珍しいね」
目の前に立ち、俺の顔を覗き込んでいたのは、まりなだった。
「まりな」
「食事中? あ、席座っていい?」
「うん」
「ありがとー」
俺に断りを入れてから、まりなは対面の席に腰掛ける。両手で頬杖を突き、顎を乗せるまりな。その表情は明るく、機嫌がいいことがわかる。
「楽しそうだけど、何かあった?」
「うん。すごく久しぶりに、勇希君に会えたからね」
「バイトの時に会ってるけど」
「それはスタッフとアルバイトとして、でしょ? それに、ここ最近は勇希君もバイトに入ってくれなくなっちゃったからね。まあ、それは、勇希君の顔と名前が大勢の人に知られちゃったから、仕方がないことだけど」
まりなの言う通り、俺は最近、アルバイトをなるべく控えている。CiRCLEのライブで顔バレして以来、その影響が徐々に増している。俺目的でわざわざ遠いところからやってくる客もいるようで、普通に顔を出し続けていることが難しくなってしまった。
でも、さすがに人手が足らないときは変装をしてでも手伝っている。だがそれも、新人のスタッフさんが仕事を覚えてきたことで、頻度が少なくなってきた。新人スタッフさんは無口だけど随分と有能な女性のようで、まりなも助かっているとのこと。
「ごめん」
「謝らなくていいよ。勇希君は別に悪くないでしょ? それに、こうして近くまで来てくれたし」
今日はたまたまだったのだが、喜んでいるところに水を差すつもりはない。
まりなは土日も普通に働いているから、学生である俺との時間が噛み合いにくい。予定が合わず、会えない日が続いていた。アルバイトがなくても定期的に顔を出すようにしよう。勿論、変装はした上で。
「何か悩んでることでもあるの?」
と、まりなが突然そんなことを言ったものだから、俺は少し驚いた。
「わかるの?」
「うん。勇希君との付き合いも長いからね」
「そっか」
「一人で抱えてるくらいなら、お姉さんに話してみなさい。悩みやストレスと一緒に、私のおマンコの中で精液もどぴゅどぴゅ吐き出させてあげるからね? ベッドでも、お風呂でも、どこでも大歓迎。勇希君が望むのなら、CiRCLEの中でもいいよ」
それは魅力的な話だ。年上の色香と甘い言葉に誘われて、ズボンの中で肉棒が反応する。ムクリと顔を上げてズボンを膨らませるが、テーブルの陰に隠れているから誰かにバレることはない。
しかし、まりなにはバレてしまったようだ。
靴を脱いだまりなの右足が、俺の両足の間に伸びる。内股を擦りながら動いていった先には、ズボンの膨らみ。靴下に包まれた足の指先が、膨らみを這い回り、指で揉むように動いている。
「勃起してるよ? こんな状態で、家まで帰れるのかなぁ?」
無理だ。俺は言葉もなく、身を屈めた。松原さんとの本番を果たせず、不完全燃焼だった肉棒が煽られていく。とん、とん、と足の指で優しく叩かれ、それだけで股間に宿る熱が膨らんでいくようだった。
「CiRCLEの中で、私と一緒に休憩していかない?」
ぐりぐりと足で股間を踏まれながら、そんな風に誘われる。
今の俺に、その誘いを断る意志の強さはなかった。
首を縦に振った俺を見て、まりなは口元を緩ませながら股間のテントを足の親指でゆっくり撫でた。