「岩戸様。到着いたしました」
「んぁ……」
聞こえてきた声で意識を取り戻すと、車のドアが開かれていた。眠っているうちに到着したらしい。口から垂れそうになっていた涎を慌てて啜ると、俺は快適すぎた車内に名残惜しさを感じつつ、外へと出た。
そして、出てすぐに俺はまた放心することになった。
「すご……」
目の前には宮殿があった。一般的な生活を送っていては到底縁のない巨大で派手すぎない華美な西洋建築。車が止められた建物正面の近くには噴水があって、周りには色とりどりの花々を咲かせる花壇がこの場を彩っていた。
「こちらは、弦巻家の別邸の一つです」
田舎から都会にやってきたお上りさんのように、辺りをキョロキョロと見渡していると、傍に控えていた黒服さんが声を掛けてきた。
「別邸?」
「はい。本来であれば本邸にてお迎えするのが筋ですが、少々事情がございまして。誠に申し訳ございませんが、食事会の準備が整うまではこちらにてお待ちください」
これが別邸と言われ、一瞬頭が混乱する。ということは、これ以上の建物がまだ控えているということか。規模が違い過ぎる。これがお金持ちの世界。俺の家も十分大きいつもりでいたけど、これと比較すれば物置同然だ。
「こちらです」
黒服さんの案内に従い、俺は建物の中へと足を踏み入れた。意外なことに中は土足厳禁で、室内用の履物が用意されていた。こういうところは日本人らしくて、俺のいる場所が日本であることを思い出させてくれる唯一の点かもしれない。
白亜の壁や天井が続く長い廊下。敷き詰められた絨毯。天井から吊り下げられたシャンデリア。壁には見ただけでは価値すらわからない絵画が飾られていて、やはりここが別邸として扱われているのが信じられない。
黒服さんの後をついていき、廊下の向こう側から当たり前のように歩いてきたメイド服姿の女性に深々と頭を下げられた。別世界に迷い込んでしまったような気持ちが強まる中、俺たちはエレベーターに乗り込み、三階へ向かった。
降りた三階には部屋が幾つかあるようだったが、黒服さんはその扉のどれにも足を止めずに素通りし、長い廊下の突き当たりにある部屋の前でようやく止まった。
「この部屋でお寛ぎください」
開かれた扉の内部は、やはりというか俺をまた圧倒した。
一部屋だけで、俺の家の部屋全部と広さがそれほど変わらないのではないか。走り回れる大きさの部屋には、ここだけで生活ができるだけの設備が整っていた。天蓋付きの巨大なベッドに、座り心地の良さそうなソファーと大画面のテレビ、冷蔵庫。などなど。浴室やお手洗いのある部屋とも隣接しているようだ。
たとえば、ここで監禁されたとしても、しばらくは何不自由なく生活を送れそうだ。
「それでは、ごゆっくりとお楽しみください」
どこか楽しげな声で言った黒服さんが扉を閉めた直後、ガチャリと音が鳴った。
「え……?」
その音で正気を取り戻し、たった今開かれていた扉の取っ手を掴むが、全くビクともしない。念のため、何度か試してみたが、変わらず。重厚な扉は閉ざされたまま固定され、人の出入りを完全に拒んでいた。
「まさか……」
鍵を閉められた? どうして?
食事会の準備が必要で、それまで俺をこの場所に待機させたい意図はわかるが、閉じ込める必要は全くないというのに。これも何かの催し物なのだろうか。さっきの黒服さんが一瞬見せた楽しそうな反応は、これのことを匂わせていたのか。
となると、声を掛けても部屋に来てはくれなさそうだ。言われた通りに寛ぐべきだろう。そう思った俺は、とりあえず部屋の中を散策することにし、遠目からでも興味を引かれていた大きいベッドへと近づいた。
「あ……」
そこまで来て、俺はようやくこの部屋に先客がいることに気が付いた。
枕に頭を乗せ、長い金髪を扇のように広げて気持ちよさそうに眠る一人の少女。目を閉じているが、間違いない。俺は黒服さんから貰い、ポケットにしまっていた写真を取り出し、その眠り姫と比較した。
写真の中でウェディングドレスを着て、満面の笑みを浮かべる少女。彼女が俺の前にいる。手を伸ばせば届く距離で、ベッドに身を沈め、写真とは違って雄を誘うような魅惑的な衣装に身を包んだ状態で。
すー、すーと静かに寝息を立てる少女。いい夢を見ているのだろう。眠っていても笑みを絶やさない彼女の体は、白く透けたネグリジェを纏っていた。品の良さを保ちつつ、少女の健康的に発育した体を淫靡な雌へと飾り立てる衣装。写真との対比もあって、よりエロさが引き出されていく。
俺は自然と、履物を脱いでベッドに上がり、少女へと近づいた。
何か、妙にドキドキする。何故だろう。誰かの寝顔を見るのはこれが初めてではないというのに。こうして傍にいて、少女の顔を見て、ネグリジェから曲線が確認できるお椀型の胸を見て、ズボンが膨らむ。
「ん……」
ゆっくりと鼻で息を吸うと、甘い香りがした。てっきり少女の香りかと思ったが、そうではないことに気が付く。少女のものも混ざっているが、この部屋には、それとは別の甘さが漂っていた。
「っ……」
何度か呼吸を繰り返していると、体が熱くなっているように感じた。気のせいだろうか。それとも、何か関係しているのか。正体不明の香りと体の発熱に関係があるのか判然としない。原因が定かにならないまま、俺は少女の魅力に嵌っていく。
ただでさえ美しい少女が、より一層可憐に、美味しそうに感じる。寝息で上下する胸も、その頂でピンクに染まる乳輪も、たまに動いて擦れ合うしなやかな太腿も。見えそうで見えない秘所も。
穢れなどとは無縁そうな無垢な顔と、小さく瑞々しい唇を俺はじっと眺めた。
そんなとき、目蓋がパッチリと開き、宝石のように輝く金色の瞳が俺を捉えた。
「あら?」
眠っている間に見知らぬ男に見下ろされていれば、普通は酷く驚くはずなのだが、少女はそうとは感じさせない軽い疑問を見せただけで、顔を覗き込んでいた俺と正面から視線を重ね合わせる。
「もしかして、あなたが勇希かしら?」
「え、うん……」
何で名前をと思ったが、知っているのはおかしくないか。少女は誘ってきた側なのだし、俺の顔も名前も把握しているだろう。使用人である黒服に俺の生活を監視させていたことからも、それ以上の情報も得ているのだろう。何のためにそこまで念入りに俺のことを調べさせたのかは知らないが。
「やっぱり! 初めまして、あたしは弦巻こころ!」
少女はガバッと勢いよく上体を起こし、俺へと距離を詰めてきた。
「お母様にお話を聞いてから、あなたと会える日を楽しみにしていたわ! うん、やっぱり写真や動画じゃなくて、直接会うのが一番ね。ねえ、勇希。あなた、あたしたちのバンドに入ってくれないかしら? あなたと一緒なら、皆をもっと笑顔にできるわ!」
「バンド……? 笑顔……?」
少女、弦巻こころさんの口から予想もしていなかった言葉が飛び出し、俺は理解が追いつかなかった。俺の写真や動画というのは、CiRCLEでのライブで流出したときのものだろうか。それとも、ここ数日俺を監視していた黒服さん経由で得たものか。しかし、バンドの話が出るということは前者である可能性も高く――。
あれこれ考えている俺の体に、弦巻さんが嬉しそうに抱き着いてくる。
温かくて、柔らかくて、やっぱり甘い香りがする。チンポの勃起が止まらない。この香りが俺の体に何らかの影響を与えているように感じるのだが、弦巻さんが平然としているところを見ていると、定かではなかった。
「ん? 何だか硬いわね? それにビクビクしているわ」
「ちょ……」
弦巻さんの膝が俺の股間に当たり、ぐいぐいと押し込んできた。何だかよくわからないことを言われたけど、結局は俺を食う気満々だったようだ。ネグリジェで待っていたのも、俺を欲情させるためだろう。
俺は罠に掛ったのか。しかし、こういう罠ならば大歓迎だ。
このまま素直に受け入れてしまおうか。悩む俺を他所に、弦巻さんは何故か不思議そうに俺の股間を膝で優しく弄っていた。
「膨らんでいるこれは何かしら? ボール? ズボンの中に何を隠しているの、勇希」
そう問いかけてくる弦巻さんの顔は、純粋無垢な少女のものだった。いや、まさかそんな。急に湧いてきたとある可能性を、俺はさすがに否定したくなった。
この世界の女は男よりも性欲が強い。前世で男女の立場が入れ替わっただけでなく、男の数が少ないこともあって、男を狙う女の欲は異常ともいえる。無防備な男が目の前にいて、食べてもいい状況に置かれていれば、真っ先に女は食らいつく。
そんな世界だから、性交が可能な年齢でありながら性知識のない女などは存在しないはず。
そう思っていたのに。
「見せてもらってもいいかしら!」
弦巻さんは肉欲ではなく、純粋な好奇心を発露させて、遂には膝ではなく手で俺の股間を触り始めた。金色の瞳をキラキラと輝かせ、何か楽しいことが起こることを期待しているようにワクワクとしていた。
間違いない。弦巻さんは、性知識に関して無知だ。だというのに扇情的なネグリジェ姿なのはきっと、誰かから言われて着ただけなのだろう。この分だと、この部屋に俺と二人で閉じ込められたことも知らなそうだ。
密室で、エロい格好をした世間知らずな金髪お嬢様と一緒。ここまでお膳立てされて、手を出さないというのはあり得ない。
「いいよ」
ごくりと唾を飲み下した俺は、ちょっとした後ろめたさを覚えたが、続けてしまった。
「ベルト、外してもらえる?」
「わかったわ!」
明るく答えた弦巻さんが、俺のベルトに手を掛ける。そのときの弦巻さんは、宝箱を見つけて胸を躍らせる幼い子供のように見えた。だが、体のほうは幼いわけではなく、美味しく頂くことができる。
ズボンの中の肉棒を取り出して目の当たりにしたとき、弦巻さんはどんな反応を見せるのだろうか。そんな弦巻さんにどんなことをしてもらい、どんなことを教え込もうか。無知シチュという美味しい展開に俺はチンポをビクつかせながら、期待感で股間を膨らませた。