「ほう、殊勝な心掛けだな」
飛行場姫は赤い瞳を細くし、ゆっくりと扉を開ける。石牢内に一通り目をやると男は全裸で裸電球に照らされ、あぐらをかくように大きな茶褐色のテーブルの上に座っているだけだ。石牢内に細工をされた形跡もない。
「大変結構だ」
彼女は気を良くして、胸を張りながら見下す様に固く白いブーツでカツカツと石段を下りる。サラサラと揺れる彼女の髪が、フワフワと舞うように広がる。どうやらそれ飛び掛かってくる気配もないようだ。
【【飛行場姫の瞳も赤いが、あえて形容するならばパパラチアサファイアのように橙と赤を混ぜ合わせた色といったところか。
ルビーの持つ赤みよりも若干淡い。髪を含め、全身白基調でウェットスーツのような物を好む彼女には、ちょうどよいアクセントになっている。】】
「ほう」仄暗い石牢でコツコツと石床に音を響かせながら彼女はテーブルに近づく。手首、足首の傷跡を睨むように見据えた。どうやら傷口が悪化している気配もない「我々のもてなしは気に入ってもらえたかね?」
嘲笑いながら彼女は言う。しかし、彼は無言で目を閉じ、瞑想しているかのように静かに座っている。
「私が貴様を拾ってやったのだ、感謝したまえよ」白い手を伸ばし、骨が軋むほどの力で彼の顎を掴む。「そうか・・」彼は目を開き、呟いた。朧気に彼女の顔を見たことを覚えている。
「さて、どうする提督。ここで死ぬか?戻って死ぬか?」彼女は背筋を真っ直ぐに伸ばして、腕を組みながら高圧的に問いかける。「私は追っていたんだ」ポツリと話しだす。
「貴様にお喋りを許した覚えはないがな、聞こう」飛行場姫は組まれた腕に、人差し指をトントンとしながら言った。「ある情報を追っていた」彼はボソボソと語る。
「要点を得ないな、早く話せ愚図め」赤い目を細め促す。「足のない少女だ、紫色の髪をした」彼は目を細めると、壁を凝視するかのように言った。
「人間の女の話など興味がないな」彼女は顎の下を手で擦りながら答える。「ある特務機関が捕獲した新種の深海棲艦。丸太001。艦娘の起源だ」彼は少しずつ知りえた情報を話し始める。
「ほぉ?それで?」彼女は少し興味を持ったように声を出した。「わからない」彼は顔を落とした。「私が“識る”ことが出来たのはそれだけだ」後頭部に光が当たり、表情は見えない。
続報を待つ間に艦娘に襲撃されたのだ。
「つかえんな」呆れるように腕を下す。彼女は知っている。更なる事の顛末を。「まったくつかえん」“当事者たち”というのも理由の一つだが、彼女たちを通過していった者たちが知識の空白を大いに埋めてくれた。
もっとも、直結の関係者は“戦艦水鬼”の襲撃の際に尽く“死んでいる”ので足取りはつかめなかったが。
「それに、貴様はそれを知ってどうする?」心底呆れ果てたように、彼女は片肩を上げる。「終わらせたかったんだ」
「人類を、かね?」ふざけた様に彼女は嘲笑う。実質彼の行動理念はおよそ人類のためにはならないだろう。「バカな戦争を、だ」下を向いたまま、彼は力なく答える。
「愚図ほど大きな口を利く」手で頭をテーブルに押さえつける。「しかし」頭から手を外し、飛行場姫はふっと自分の片腕を撫でた。「あれは手強かったな」
気を失った後の事で、彼は知る由もないが片腕に彼を抱えたことによる負担が艦娘に後れを取り、彼を狙う攻撃から守るように片腕を無くしたのだ。もっとも、すでに回復しているが。
それら達は、複数の強力な砲弾で三角波を作り、その山の死角から近づき、複数の艦娘による突貫。艤装を撃ち抜かせ、手を撃ち抜かせ、体を撃ち抜かせ、味方を撃ち抜かせ前進してきた。
2軸方向から回り込むように接近し、さらには飛行場姫の航空隊を牽制すべく上空から偵察機すら次々と突入させた。それも指揮者不在で、だ。
「貴様、海軍か?」答えなど期待してはいなかったが、ある疑念を持っていた。「そうだ、な・・・」歯切れの悪い彼の答えが、彼女の想像を確証に変える。
「戦艦棲姫から聞いたが、貴様万年左官のようだな」含みなく事実を淡白に述べる彼女は、どちらかと言えば正直な者なのだろうと彼は思った。
「私たちにとっては、些細な話だが貴様たちは戦争をしているのだろう?やはり人とは哀れなものだな」
【【彼女たちはその気になれば、幾度となく人間を含む既存種を滅亡させることが出来たが、あえてそれを行っていない。
スズメバチが家に住み着いたからと言って、それを駆除した後に、スズメバチ自体を滅亡させてやろうと思う者はなかなかいないだろう。面倒なうえに益虫の側面もあるからだ。
軍属ですらない人類などはミツバチの如く扱いで、いなくなると自分たちの仕事が増えて生活に不便程度の認識だ。
爆弾でも使ってミツバチ特有の、いないいない病でも発症されれば食べものも衣類も趣向品もすべて自分たちで自給しなければならなくなる。適度に収穫してやるくらいで丁度良い。】】
「お前のアレは、よく戦った」少し彼女の瞳が大きくなる。「ゆえに尽く殲滅したが」この言葉に彼の表情が険しくなった。
いるはずのない場所に“浮上し”彼を“拾った”飛行場姫に、決定的に戦力の劣る艦娘らは撤退を行わなかった。全ての艦娘が、飛行場姫に向け、兵装をアンロックする。
大本営より発令された命令を遂行すべく、20隻ほどの艦娘たちが直ちに部隊を“散開”させ分隊単位で必死の攻撃を敢行する。飛行場姫よりも彼に攻撃が集中したため、彼女は止む無く防御に集中せざるを得なくなった。
弾薬を失ったタコヤキがその速度を武器に、体当たり攻撃により20隻ほどいた全ての艦娘の首を跳ね飛ばし終えた時には、すでに片腕を落としていた。
通常であれば、空母種を含む彼女らの戦闘は至ってシンプルだ。ノロノロと輪形陣から始まり、ある程度攻撃を受けてから、いよいよとなるとノコノコ分散を始めるのでこの時点で半数は刈り取れていたはずだ。
飛行場姫は久しく“人間を”相手にしているかのような懐かしい感覚に浸った。
人はひどく脆いがそれゆえに、その儚さを懸命に輝かせ全ての手段を使い向かってくる。彼女は向かい来る彼らに敬意を払い殺し尽くしたのだ。
飛行場姫は、人形のように動き回る艦娘には価値を見いだせずにいた。艦娘は船のように陣形を組み、能力も自分達に遥かに及ばない。だから船のように沈めてやるだけだった。しかし、彼の部隊は少し違ったようだ。
安全を確保すると、退避させていた潜水艇が再び浮上する。彼女は彼を片手で抱えながら、大きくダメージを負い至る所から体液が流出している体を無理やり動かし、乗り込む。
急ぎ潜水隊を呼び寄せ輸送してもらいながら帰路に着いた。能力解放さえされていれば、この部隊であったならば、飛行場姫と言えど勝敗は分からなかっただろう。
「バカな戦争だ・・・」再び彼は呟く。
【【艦娘の登場以来、既存の艦船は第一線を退き、戦闘は複数の艦娘対1深海棲艦という構図が出来上がっている。“水上”での近接高速戦闘となるため、それはもはや足場の悪い氷上や砂丘での“陸上戦”となる。
艦娘には常に甚大な被害が出続けた。一度の戦闘で未帰還が70%を超える事すら多々あった。理由としてすでに、陸戦における戦闘指南が至っていないとの指摘があった。
これは当然の事で、不足している教官は“海軍”陸戦隊など陸戦にある程度精通している者が抜擢されるが、本家の“陸軍”には確執のため教えを請わないのだ。
深海棲艦は陸上の延長としてすべからく3次元の陸戦を展開するのに対して、海軍、特に矢面に立つはずの艦娘付きの新提督の殆どが、今だに時代錯誤の海戦をしている事にある。
平原を単調に走るだけの単縦陣や単横陣など1000年も前に戦国武将が歩いてきた道だ。にも拘らず、新提督は鎮守府に引きこもり、実戦を知らずに教官の絶対的な不足から熱心に海戦を勉強し続ける。
海軍の存在意義が薄れることを恐れ海戦習熟が昇格に必須な事も問題の一つだ。これでは、会敵した瞬間に包囲殲滅されていても不思議ではない。
“遅かれ早かれ”の意識が次第に感覚を狂わせ、いつのまにか艦娘を死地に追いやるだけの提督が多く出来上がったのもうなずける。】】
「貴様はよくやった」彼は独力で海上陸戦隊を育てていたのだ「もうよかろう」在りし日の海戦を取り戻すために。飛行場姫はおおらかに語る。
彼の志とは裏腹に海軍の既得権益層に目をつけられ着任以来昇格していない。陸軍の内部スパイを疑われ、出頭したことすら何度かある。
「貴様の努力を評価して、一つ教えてやろう」彼女らが複数の将兵から入手した確度の高い情報の一つ。「貴様らにとっては、艦娘とは沈んでもらわんと困る存在なのだよ」
彼女は言う。人的資源の喪失を逃れ艦娘というドリームマシンが作り上げたのは“仕事”であり各国で軍需産業を中心に膨大な雇用が生まれていると。
戦闘に消極的な自分たちに仮想敵として、艦娘を“轟沈してもらって”いるのだと。
「さもありなん・・・」
合点のいく話しではある。絶望的な戦力差がありながら、戦艦水鬼の上陸以外に本土が無事なのは、彼女らの心持以外に理由はないだろう。
そのうえで、所在の判明している根拠地である“ここ”を強襲する作戦は一向に上がらない。
「帰って当てはあるのか?」
飛行場姫は慈悲深く彼と顔を合わせ見つめる。彼は下を向いて沈痛な表情でいる。恐らく当てもなければ身寄りもないのだろうと、彼女は推測した。
この愚図は愚図だが、余計なものを巻き込まない程度には気が回るだろう。そうでなければ、あれらにわざわざ歯向かっては身内がただでは済まなくなることくらい想像しているはずだ。
先の戦闘での艦娘の動きを
彼女は高く評価していた。
「戦艦棲姫の奴は貴様を飼いたがっていたが」テーブルの横に立ち、座る姿をぼんやりと照らされる彼にじっと目を合わせ、続ける。「私個人としてはボートと一緒に外までなら連れて行ってやってもいいとは思っている」
「運が良ければ帰れよう」
それでも追われる身となれば、無事に帰り着いたその先も、きっとろくでもない未来が待っているのだろうが。
「あの少女は・・」
彼はゆっくりと顔を上げる。
「気になるかね?」飛行場姫はそら来たとばかりに、目を細め腕を組む。「あれは私の愛玩動物だ」彼女はその言葉に少し体温が上がって行くのを感じた。「なに?」彼は眉をひそめた。
「愚図め。わからんか」彼女は彼の様子を見ながら続ける。「昨日は戦艦棲姫の奴に貸してやっていたのだが、戻ってきてみれば股から精液を垂らしたままで掃除が大変だったよ」あたかもお前のせいだと聞こえよがしに言う。
「まぁ、連れてきてやってもよい」
どうやら思い出して反省しているようだと、彼女は彼の表情から読み取った。満足げに彼女はテーブルから離れていく。武闘家のように鍛えられ引き締まったお尻が、白いレオタードのようなスーツに食い込み、美しく光っている。
「しばしまて」
白く重いブーツのような靴で
石段を軽快に登って行った。
<<アンケート結果はお知らせの話の前書きで時々更新!!>>
つ´・ω・`) ヒロインだろと 思う子
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駆逐ちゃん
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戦艦棲姫
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飛行場姫
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提督さん
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その他