※この作品はR-18です。

Fem. 01 (R-18)   作:Fry-Hopper

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対象年齢 【R-18】(成人以上、精神の強い人推奨)


17 アプサラスⅡ

 

 

「それで、こやつらはどうするのじゃ?」

 

タコヤキを愛でるように艤装に収容しながら、極めて小さな体系の深海棲艦が入口に立っている。

 

「ああ。“ホッポちゃん”ですか」

 

少女はびしょびしょに濡れカールするように垂れる紫の髪をゆっくり回転させながら、声の方へと顔を向ける。

 

白いワンピースを着た幼女が、インペリアルトパーズのような深く澄んだブラウン色の瞳で少女を見ている。背丈は低く、立ち上がった時の少女の胸元程度の身長しかない。

 

見た目は小型の飛行場姫を思わせるが、細く透き通る銀のエンジェルヘアーを持つ彼女とは違い、こちらはホワイトライオンのような雄々しい白さを持つ長い白髪を携えている。

 

「楽しむのもよいが、そ奴らも疲れておるでな」幼女がポテポテと裸足で白い足を動かしながら近づいてくる。「そうですね。とりあえずは乾燥室にでも」少女は全身に力を込め、両脇に裸の彼女たちを抱え込もうとする。

 

「ふむ。こやつはわらわが運ぼう」

 

幼女は斜めに一本背負う飛行場型の艤装を下すと、体から大きくはみ出させて、飛行場姫を抱きかかえるように持ち上げる。

 

 

【【アリューシャンに現れた北方棲姫は、実の所年長組ではあるが、その体型から最弱棲姫と広く誤認されている。これは深海棲艦の拿捕を狙う輩から執拗に追跡されるが、常に戦艦棲姫が随伴して、敵を抑え込んでいたためと推測される。

 

また、これを利用して北方棲姫本来の能力を活用して、多くの釣り上げられた戦力比を誤った部隊を単独撃破に成功している。海底基地内でも彼女の幼女としての役柄が板についてしまい、体型のままの扱いをされている。

 

当の本人は楽が出来るならそれにこしたことはないというスタイルであり、大多数の深海棲艦にも潜水新棲姫とともに幼女として認知されている。

 

純粋なパワーバランスだけを考えれば、現在の海底基地の最大戦力は駆逐棲姫であり、続く戦力として戦艦棲姫、北方棲姫、飛行場姫と並ぶ。

 

人類側には、“双方の欺瞞工作”により駆逐棲姫の存在は秘匿され、最大戦力は飛行場姫、続く戦力として水鬼より弱体化した戦艦棲姫、北方棲姫として公式に認識されている。

 

飛行場姫が作戦参謀のように振る舞う姿がより錯綜をよんでいるのだろう。

 

敵方がすでに戦力を大きく落としている飛行場姫をいつまでも基準にして作戦立案していたことが、深海棲艦側の大きなアドバンテージになり常勝するきっかけにもなっていた。

 

艦娘付きの提督に覚えの少ない陸戦を強要する姿勢と相まって、戦線は一方的なこう着状態が続いた。現在では、敵連合勢力は成果の上がらない進行・攻略作戦をすでに放棄している。

 

連合軍は基本戦略として深海棲艦の絶対数の少なさに目を付け、大陸ごとに膨大な数の艦娘を配備し、専守防衛の籠城戦を展開している。

 

彼女たちの勢力拡大には消極的な姿勢もあり、一部の主要島奪還作戦を除いては事実上の停戦状態が維持されている。】】

 

 

「やはり、二人だけでは負担が大きいのでしょうか」

 

湿度の低いサウナのようなスペースにある長い石の椅子に、戦艦棲姫を横たわらせると背中を向けたまま少女が力なく呟く。

 

戦艦棲姫と飛行場姫が主に、“深海前線”の維持を行っており、口には出さないがかなりの負担がある事は想像に難くない。

 

「そうさの」

 

北方棲姫もまた、飛行場姫を反対側の石椅子に横たわらせた。石椅子から零れ落ちる彼女の腕を丁寧に胸の上に戻す。

 

「今宵は、わらわに任せておくがよい」

「ホッポちゃんか、すまない」

 

飛行場姫は、うっすらと、目を開けると全身の倦怠感から仰向けで天井の縦に倣うライトをぼんやりと見ながら言った。

 

「駆逐ちゃん。ありがと」戦艦棲姫は、持ち前の回復力ですでに体調を整えており、長椅子に裸のままスッと足を下し座る。「そうね。お願いしようかしら」

 

少女は手グシで彼女の長い黒髪を絡まないように、真っ直ぐになぞっていく。スルスルと指を動かし、サラサラと髪をほぐす。

 

「いたっ」「枝毛です」

 

少女が摘まむ指をスリスリと動かすと、先端が別れた黒髪が指に擦られクルクルと回る。

 

 

【【人間数十人程度が入れる、横長の小規模なスペース。薄暗く、天井には入口から並列に並ぶ小さなライトがあり、細い鉄柵が格子状に付いている。

 

中央には専用フックが多数あり乾燥させる必要のある艤装や、衣類などが干されている。

 

中央を挟み、石壁に沿って、発火の対策として石の長椅子が二つ並ぶ。入口の扉には上下に中の状態が見えるように、隙間が出来ている。

 

入口の扉の内側には、エタノールげんきん!と書かれた貼り紙が、駆逐棲姫の愛らしい顔と人差し指を立てて注意するような仕草のイラストと共に貼られている。】】

 

 

「ホッポちゃんが出るんですか?」

 

「今宵は雲も低く、声を出す程度ならわらわでも安心じゃて」艤装から、ギチギチとした白い歯が見え隠れする「こ奴らもおるでな」幼女はタコヤキの頭をポンポンと撫でながら言う。

 

「ん?」体の振動を覚え、北方棲姫は入口に目を向けた。「どうした?」

 

駆逐棲姫のイラスト付きのドアが開かれ、その前に潜水ソ級が立っている。潜水用の艤装は付けていないので容姿は少し背の低い戦艦棲姫と言ったところだろうか。しかし、その瞳はブルーダイヤの如く深く冷たい。

 

「え?不審艦?」

 

戦艦棲姫が答える。海上に、上部を黒く塗り海面下は深い紺色に塗装された巡洋艦ほどの大きさの艦が一隻。深海前線圏内に向けてこちらの直上を通過するコースで微速前進しているらしい。

 

「私は知らないぞ?」三人の視線が飛行場姫に集中する。「家のご用達ではないはずだ」コロコロと背中を転がすようにしながら不貞腐れるように彼女は答える。

 

「なんじゃ、また痛めたのか」

 

コロンと転がり背中を見せる彼女に、北方棲姫は細く小さな指で背筋をなぞるように、指を下から押しながらゆっくりと首筋まで動かしていく。

 

「年甲斐もなく無理をしよってからに」

「あんたに言われたくないわよ!」

 

飛行場姫は首を動かしキャアキャアと抗議するが、幼女の指に体を任せる。

 

「え?不審艦が攻撃を受けているのですか?」

「おかしいわね」

 

駆逐棲姫と戦艦棲姫が訝し気に言う。通常であれば、取り合えず沈めてしまえば良いのだが、状況を判断し辛くわざわざ相談に戻って来たのだろう。

 

「分からんが、罠かもしれん。ほっとけばいいんじゃないか?」

「しかし“無事に通行できる”前例を作っては良くないのじゃが」

 

「それを含めて二重の罠なのだろう?」飛行場姫と北方棲姫が事態の分析を始める。「来なければ良し。来ればなお良しの二段構えだ」飛行場姫はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ始める。

 

「ほう。追撃は足の速い駆逐艦が4隻か。いずれも大本営属の。艦娘は艦載されているのか?」わからないが気配はないと彼女たちは答える。「久しぶりに人間相手か」飛行場姫は背中をさすりながら、楽しそうに目を細めた。

 

「ああ。いつ以来だろうな?」誰に答えを求めるでもなく。一人思いにふける。「だとすればわらわでは荷が勝るか」

 

飛行場姫の様子を見るに、やはり先日のダメージが大きい。戦艦棲姫もまた反復出撃をこなし疲労は多い。確認してはいないが、“潜水艦”による同時攻撃もありうる。

 

地上組の話では、ステルスとして潜水艦の“箱”に積載された艦娘が、基地直前で自爆したその潜水艦の中から、蜘蛛の子を散らすようにわらわらと湧いて出て来たとの話しがある。

 

「のう駆逐。おぬしたまには“羽を伸ばして”きてはどうじゃ?」彼女の発言に室内の空気が変わる。「だめよ?また捕まったら、どうしてくれるのかしら?」「今のこやつを捕らえるのは貴様でも無理じゃよ」ブラウンの瞳を細め、戦艦棲姫を威圧する。

 

「それに、コレが知らんと言うのであれば、どれも沈めて構わんじゃろ」飛行場姫を背中向きに押し倒し、馬乗りになると両親指でゴツゴツと背中を押す。

 

「知っておろう?駆逐の疲れの原因に、過度の禁欲によるストレスがある。駆逐はお主の“鬼”を飼っておるでな」遠く前、壁の遥か先を見ながら北方棲姫は呟く。

 

「のう。駆逐」北方棲姫は石床に降りると、小さな白い脚を動かし、駆逐棲姫に近づく。「わらわも疲れた」白い手が伸び、少女の手を優しく包む。「そろそろ、世代交代じゃ。お主と、上の連中に任せてみたいと思うでな」

 

その瞳は濃く、上質な紅茶のようなブラウン色を示す。

 

「今朝は赤潮が出ておってな。外に出て夜光虫も見れればキレイじゃぞ?」そこに居合わせた全員から、少女に視線が集中する。

 

「あ~あ。私も疲れたなぁ」言葉に詰まる少女を助けるように戦艦棲姫は細く伸びる白い脚をパタパタ動かし言う。「駆逐ちゃん変わってくれるかしら?」

 

「ああ。私も腰が痛くて思うように動けないようだ。すまない」「わらわ。幼女ゆえ。重火力相手はちと手に余るのう」いたずらに片眼を細め、幼女は少女に笑いかける。

 

「私は、姉さまの面倒だけで忙しいのですが」乾いた紫の髪が温風に乗りふわふわと動く。「皆さんがそう仰るのであれば」

 

少女は両ももに力を込めて、石床に降りる。少女の脚が、艤装が答えるように力強さを増していく。

 

「む」北方棲姫の艤装から様子を伺うようにタコヤキが顔を出している。「なんじゃ?」一つ取り出してやると、小型化しふよふよと少女の周りを旋回する。

 

「一緒に行きますか?」

 

「そうだな。お前の随伴はそいつくらいしか無理だろうしな」飛行場姫が手にタコヤキを乗せる少女を見ながら言う。「自立では精密攻撃や航空戦は無理だが、高高度偵察くらいには役立つだろう」

 

やる気の表れか、何故か赤く色を変えた一つのタコヤキに、飛行場姫は寝取られたような気持が芽生えムスッと続けた。

 

「ブリーフィングの時間は作れなそうだが、せめてわらわの食糧庫から必要分を食べていくとよい。おぬし草食動物ではあるまい?」「ありがとうございます」少女は紫の髪をふわふわと揺らし乾燥室から出て行った。

 

「すまんが、出来る範囲で駆逐の随伴を頼む」居合わせたソ級。様子を伺っていたヨ級に北方棲姫が頭を下げる。「何かあれば総がかりで出撃するゆえ、有事の際はくれぐれも伝えておくれ」

 

「そうね。何を考えているのか知らないけれど。ちっぽけな列島の一つや二つ簡単に沈めてあげるわ」

 

戦艦棲姫の赤い瞳が怪しく歪む。その姿はソ級、ヨ級の体を身震いさせるほどだった。

 

「あやつは奪還する価値はないのじゃろう?」「そうだな。殺そうとしていたくらいだし」「ではやはり、罠かの?」ブラウンの目を細め、小さな指が白い髪を垂直にほぐしながら言う。

 

「敵もまさか駆逐の奴が出てくるとは思わないだろうなぁ」コロコロと背中を石椅子に擦りつけながら、ニヤニヤと笑う。「気の毒な奴らだ」

 

「楽観しすぎよ?私、駆逐ちゃんに何かあれば、この星と無理心中するわよ?」

 

「やめろよ」淀んだ赤い目を細め二人を睨みつける彼女に、間髪入れずに飛行場姫が答えた。「お前のは冗談に聞こえないんだ」「あら、どうかしら?」

 

石椅子から立ち上がり、乾いた黒く長い髪を手で大げさに舞うように広げると、そのまま乾燥室を出ていく。

 

「あやつの過保護はどうにかならんもんかの?」「怒らせた駆逐ほど怖いものもないんだけどなぁ」二人は疲れたように顔を見合わせた。

 

「おぬしらも食べていくとよい。場合によっては、しばらく食べられなくなるじゃろう」

 

入口付近で棒立ちしていた二名に、幼女は飛行場姫の長く細い髪を真っ直ぐにほぐしながら優しく言った。

 

 

 

 

少し風がある月夜。低く暗い雲が海の暗さを増し、夜光虫が海面を仄かに明るく照らす。前後左右パノラマに広がる暗く深い海は、騒めくように紫の髪とシトリンの如く黄色い瞳を持つ少女の足裏を支えている。

 

いつもの黒く短いセーラ服が闇夜に交じり、少女の肌に黒と白のはっきりとしたコントラストを作り上げる。

 

「ああ。ありがとうございます」

 

食事中に先行してくれていたソ級とヨ級が前方V方向に広がり、水平線手前で防水加工された光源を手に持ち針路を照らす。何年ぶりかの実戦であり極力消耗を避けるための配慮だ。

 

「あなたはここへどうぞ」少女は胸元の服を引っ張ると、小ぶりな胸の谷間にタコヤキを格納する。「潰れないで下さいね?」

 

少女は月光が雲を抜け斜めに降り注ぐ海の上、両手を大きく後ろに伸ばし伸びをする。足の接合状態を再確認すると、進行方向へ向かい海水にくるぶしまで足を沈める。

 

「では、久しぶりに羽を伸ばすとしましょうか」

 

少女の海面に浸された足から、つがいのヒレが伸び海面を舐める。

 

 

【【フィンスタビライザーと呼ばれる船の翼は、本来は船体の姿勢を制御するための物であるが、少女の携えるそれはさらに多くの用途に利用される。航空機の高揚力装置のようにも動くそれは、脊椎反射の如く反応し少女の速度に良く答える。

 

捕まらないようにするにはどうするか?捕まらないほど強くすればいいとの単純なコンセプトから生まれたこのシステムが、結果、少女を深海棲艦最強に作り替えた。

 

少女に渦巻く深い怨念が力を生み出し、分解吸収した戦艦水鬼と駆逐棲姫自身の二人分の心がこれを抑え込んで力を行使している。

 

小火器を用いることもあるにはあるが、少女にはもはや武装はいらない。少女自身が武装であり。その速度こそが最大の武器である。】】

 

 

「果敢積極機先を制し、敵を粉砕せずんば已まざるべし」

 

飛行場姫が良く口にしていた言葉が自然と滑り出てくる。少女の口から。“駆逐水鬼”の口元から。瞬間スカートが大きく上昇気流にもまれ捲り上がりながら大きく踊る。紫の髪が重力と拮抗し水平方向へとその手を伸ばしていく。

 

「夜の闇はね。とおっても怖いんですよ?」

 

少女が滑り出した。蠢く海面がざわざわと光る。雲が熱くなり、深い闇の中、はるか先に揺られるように光源が見える。10ノット。20ノット。50ノット。

 

少女が水鬼であることを前提にした超加速が、後方に水しぶきを上げなら、少女を前方に強く押し出す。フィンスタビライザーは順調に機能し前方に傾斜する体を飛び上がらせないように正確に海水を支配している。

 

100ノット、200ノット。爆発的な加速が後方にV字型に風の谷を伸ばし中心に乱気流を作る。小竜巻のように少女の後方に海面を暴れさせる。

 

「怖くて。。怖くて。。」

 

100ノットほどのころから少女の体に掛かる風が消える。駆逐水鬼は戦艦棲姫の得意とする低周波を使役し、負担は大きいが前方に傘雲のような空気の層を作り上げている。

 

500ノット。空気圧の過負荷から逃れた少女の体には更なる加速力の権利が得られる。数分で針路を照らしていた彼女らを追い抜き、その進行方向へと更なる加速を行う。

 

黄色い目を細めその瞬間を楽しむように待つ。600ノット。ここへ来てその加速力が衰え始める。代わりに前方が赤く歪み始めた。

 

「潰れていませんか?」

 

少女は前方を見ながら谷間でコロコロと動くようにもぞもぞしているタコヤキに話かける。速度は650ノットに差しかかり、前方がついに発火した。

 

中心から渦を巻くように広がる赤い光源が少女の瞳を照らす。超圧縮された空気の層が音速に接触し燃えがったのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

対気速度マッハ1。少女の艤装はもはや体の一部であり、非公式ながら全生物上、世界第二位の速度をマークする。

 

公式記録では第一位は1,316km/hをマークしたハエであり、こちらは単独にしてマッハ1.1の速度である。いかに深海棲艦と言えど、その強靭な体を持ってして、音速の前後が速度の限界であった。

 

「ふうん?どうしてでしょうね?」

 

強烈な速度で近づく“火の玉”を彼方に観測した駆逐艦は全艦で一斉反転を行い当海域からの離脱を始めたようだ。しかし、件の不審艦は黒煙を上げながらも針路を固定している。単に舵をやられただけの可能性もあるにはあるが。

 

「撃って来ませんね。なんでしょうね」

 

相手が巡洋艦であれば既に有効射程圏内に入っているはずだが、攻撃が来ない。あるのは逃げ始めた駆逐艦からの後方へのけん制主砲射撃だけだ。

 

少女は訝し気に思いながらも不審艦から距離を空け、引き波の影響を少なく通過する。その際にも甲板員からの射撃もない。

 

「いってらっしゃい」

 

胸元から取り出したタコヤキを空に流すと一気に後方に離れていく。膨らみ威嚇するように不審艦の方向へカチカチと歯を鳴らして近づいて行くが上空を旋回するタコヤキにも一切の攻撃が加えられないようだ。

 

「不思議ですね?」少女の黄色い瞳が前方を捕らえ怪しく光る。「そうです。よく狙ってください?」

 

甲板上から伸びる複数の赤い線が少女の前方の火球を捕らえた。バラまかれたミサイルの束や、海面近辺を浅く威嚇するように爆発する爆雷が、少女への針路変更を強要する。

 

「ダメです」

 

不敵にも真っ直ぐ前進を続けた少女はついに駆逐艦の舷側スレスレを通過する。

 

一隻の駆逐艦は鈍い地響きのような音を上げ、側面の装甲が内側に捩じり曲がり多量の海水を侵入させ傾斜を始めた。続く3隻目に狙いを定め、その火球が通過するさいに片側を大きく削り取った。

 

破損箇所が海面から高く浸水はしていないないものの、こちらは内装に着火したらしく、中の者が滑稽にも切れ目から家財を投棄しているようだ。

 

「なんとも脆いお船ですね」

 

高速で通過した少女は、大きく距離を取り両足をスキーでカーブするようにそろえる。400ノット程度に速度を落とし、火球が消えると大きく旋回して再び針路を駆逐艦に固定した。瞬間視界が揺れる。

 

やはり不慣れな最大稼働は長時間続かないようだ。紫の髪が水滴を光らせ後方に大きく広がる。

 

「もう少し撃たせないと、ですね」

 

少女の狙いは新しい漁礁の確保であり、そのためには危険な爆発物を極力消耗させたい。最大深度150M程度ある大陸棚上であるため海底には遮蔽物が少ない。ここに上がってきた深海魚などを住み着かせる予定だ。

 

「そうです。もっと撃って下さい?」

 

誘うように低速で前進し、周囲に大きな水しぶきが上がる。随伴していた、ソ級とヨ級もやがて追いつき、海底からジャミングを行い強制的に通信を途絶させる。

 

飛行場姫の航空攻撃に特化されていたであろう対空兵装は、海上を突撃してくるだけの少女を止めることは難しい。揺れ動く波を台に時折少女が高くジャンプを行うと、つられるようにランチャーからミサイルが吐き出される。

 

「これで終わりですか?」

 

少女は両腕を頭の上に大きく伸ばすと、飛び上がった姿勢から海へと深く早く潜る。魚雷のように泡が体を包み、高速で前進していく。ワザと必要以上に泡を立て、爆雷を誘う。

 

駆逐艦が自爆をかえりみない浅い深度で、次々と爆発を起こさせている。ついに衝撃が少女を捕らえ海上に弾き出した。二隻の健在な駆逐艦が針路を大きく変え少女に回り込む。

 

 

【【深海棲艦が現れて以来、新設計の艦艇は対艦戦を想定しておらず、舷側の装甲を削り取り昔の帆船のように多くの砲塔が側面に設置されている。一部では装甲が開き、人が直接射撃できるようにもなっている。

 

これは従来の艦船では下方に回り込まれ、その巨大さが災いし、一方的に攻撃を受けたり、誤射による同士撃ちを行うなど混戦を極めた事から教訓を得ての再設計である。

 

また対象が小型かつ高速であるため近接信管の信頼性が薄く、旧来の時限設定式の炸裂弾が採用されている。

 

砲塔が一定の大きさからは、ファイアーワークスの名で設計された新型弾頭が搭載されており、弾頭内部に子爆弾が内蔵されている。

 

上空に撃ちあげれば花火のように広がり、前方に打ち出せば本体の爆発後に扇状に広範囲に攻撃が届く。さらに小型化された歩兵用の迫撃砲があり、こちらの弾頭にもファイアーワークスSが採用されている。

 

ファイアーワークスSの射程距離は弾頭の重さから短く、条件次第では1km届くか届かないかの至近戦になる。

 

しかし、肉弾戦を好む深海棲艦は多く、数さえそろえれば面攻撃により多くの場合“撃退”に成功している。屈強な兵士二人がかりで運ぶ代物ではあるが、人の扱うもっとも信頼性の高い兵器の一つでもある。】】

 

 

打ち上げられた体を羽を広げ空中でスピンをするように姿勢を直す。少女の黒いセーラー服が探照灯に追いかけられ、複数の艦からのライトが交差するステージの中央で、少女が笑う。

 

紫の髪から海水をほとばしらせ、着水と同時に左右に滑るように迫る火線から体を逸らす。回避のために100ノット程度に速度は落ちているが、それでも脅威の速度であることに変わりわない。

 

「あら、花火ですか」

 

少女の前方方向上空にファイアーワークスが打ち上げられる。全周囲に爆発し小さな子爆弾の雨を降らす。

 

「まだこんなものに頼っていたんですね」飛行場姫のタコヤキ対策としても効果の高い兵器ではあったが、弱体化している飛行場姫すら沈められない貧弱さだ。「お可愛い事です」

 

「腰を痛めた飛行場姫さんなら当たりもしたのでしょうが」

 

少女は足を海上に戻すと、深海棲艦おなじみの戦闘スタイルで1海里ほどの距離を保ち駆逐艦群からの攻撃を誘う。

 

4隻から果敢にも打ち出される花火が夜空を飾り、降り注ぐ“火の弾”の中を少女はクルクルと回るように回避している。

 

追いかけられるライトの中、火の弾は時に少女の頬を擦り、服を焦がし、左右になびく紫の髪を短く変えていく。

 

頃合いを見計らい、太ももにガーターベルトのように付けられた信号弾に手を掛けると、暗い夜空に一筋のオレンジの閃光が昇っていく。少女は再び海水に足を沈めた。

 

「闇の中で沈んでください?」

 

降り注ぐ花火がついに大気バランスを崩し雷雨を呼ぶ。雷鳴が波を渦巻かせる。少女の元より短かった衣類をさらに短くさせた紫の下着が上下とも多く露出している白い体を、まるでダンスホールの如くなんどもフラッシュする。

 

浸水していた一隻は、戦列から大きく脱落しすでに置き去りにされていた。残る三隻に再び距離を空けるように加速を始める。

 

「やはり艦娘の気配がしませんね?」ソ級とヨ級に海底の潜水艦の捜索を指示したのだが。特に返事もない。「本当に何でしょうね?」

 

駆逐水鬼の意向に合わせて、駆逐艦の艦底を舐めるように潜水組が遊泳し、残る爆雷の消耗を強要する。

 

「さて終わりにしましょう?」接敵から数十分。少女は余りに不甲斐ない敵勢力に飽きてしまった。「花火はキレイでしたよ?」

 

400ノットほどに達したとき、大きく弧を描くようにカーブをしながら反転し、火球の速度まで加速する。残る駆逐艦の側面がすべて開き、中に立つ人が悲鳴を上げるように赤い光の線を飛ばしてくる。

 

逆巻き荒れる海面に赤い火球が滑り、何かを喚き散らしながらファイアーワークスSを果敢に兵士が撃ち込んでくる。少女は口元を水平に小さく開くと、戦列の先頭から艦の側面をえぐり取る。

 

次々と傾斜浸水する艦に合わせて、脱落していた艦も“無事に”沈められたようだ。爆発を起こさず回転するように浮力を失い沈んでいく。

 

甲板に乗せられた弾薬がコロコロと海にばらまかれていく。パラパラと人が零れ落ち、オレンジの救命具を付けプカプカと浮かび上がる。

 

海面をゆうゆうと歩く少女に、恨むような、すがるような視線が集中した。

 

「追撃は断乎として飽く迄も徹底的なるべし」彼女が、飛行場姫が拾った言葉が巡り巡り彼らに戻ってくる。「お庭に入ってきた害虫はどうしますか」

 

大きな声を出し両手を広げゆっくりと回る。深い闇の中黄色い瞳が揺れ、雷鳴が少女のシルエットを照らし出す。凍えるような寒気が世界に広がる。

 

「増える前に駆除しないといけませんよね?」

 

艤装の力を抜き体を海に沈め、首だけを揺れる波に浮かべる。ゆっくりと浮かぶ者たちへと近づく。恐ろしい力で衣類を剥ぎ取り、力任せに次々と沈めていく。

 

「お友達のご飯の時間です」

 

勢い強く白い体のサメが、荒れ狂う海面に一斉に飛び出した。体温を海水に合わせた少女の周りにグルグルとサメの群れが旋回を始める。近づく一匹のサメの顏の先端を撫でてやると楽しそうに海へと沈んでいった。

 

潜水組により、低周波と“エサの人”で誘引されたサメの一群が、沈められた人の塊に殺到する。

 

「人は食べる所は少ないんですから、飛び上がるほどエネルギーを使ってはだめですよ?」別のサメが少女の体にベタベタと冷たい体をすり寄せてくる。「ありがとうございます」

 

ソ級が顔を出し

呼吸器のようなものを手渡してくれた。

 

「エッチなサメさん。あなた奥さんいるでしょう?」エコーのように低周波をとばし周囲を確認すると身重のサメが様子を伺うように旋回しているようだ。少女の指がオスの突起を摩ると海面から顔を出しカチカチと歯を鳴らしている。「メッ」

 

少女に指で弱点である顔の先端を弾かれると子犬のように尾を振りサッと逃げ出した。

 

 

【【深海棲艦が餌付けして、事実上飼育されているこのサメの一団は、本来の原住民であり海底工事の際に個体数を減らさせてしまったために、時折人などを与えて保護をしている。

 

鮫とは読んで字の如く性交を行う魚であり、また知能も高い。グループ単位での行動を熱心に躾けたため大型のシャチの群れと遭遇した際にもそこそこ縄張りの維持が出来るようになった。

 

潜水組が“原住民”同士の争いの仲裁を行っており、低周波や特殊な音響爆弾を駆使してシャチ・クジラ・サメそのたの大型水生生物の対立の激化や直接の大規模戦闘を回避させている。その活動は海底警備隊と言ったところだ。

 

熱心に捕食するグループが増えた事により小魚などから抗議の声が上がる前に、戦艦を漁礁にするべく当海域に原形を留めさせたまま数多く沈没させている。ただ沈めるだけよりもその負担は大きく統治者のジレンマの一つである。

 

余談ではあるが、その食物連鎖の最上位に君臨するのは戦艦棲姫である。彼女の遊泳中は治外法権であり彼女に見つかった生き物は瞬く間に捕食される側に変わる。

 

彼女の独特な低周波を検知するやいなや一目散に全ての魚が当海域から離脱したり沈船の漁礁に隠れるのだが、哀れにも迷い子のように浮上してくる深海魚にはその知識はない。】】

 

 

赤く変わり始める海水に、少女は顔を付けゴボゴボと気泡を吐きながら海中に潜ると、躾けられゆっくりと近づくサメたちがガブガブと沈められた人間にかじりついている。どこか不満気なのは少女の気のせいではないだろう。

 

「もっと肥えたのはたまにしか捕れないんですよ」ここでは基本的にただでさえ可食部の少ない人間が、さらに絞りあげられ筋肉繊維の多い個体ばかりが捕れる。「弱らせてあげますからゆっくり食べてくださいね」

 

海上に逃げ出そうとする裸の人間を捕まえては、打撃を与え弱らせ沈める。バカみたいな個体数だけはある人間よりも、本来ならばアザラシなどの油分の多い肉を与えたいところだが、あいにくこの温帯では確保は困難だ。

 

艦娘も与える前に戦艦棲姫が食してみたのだが、生き物が消化できる素材ではないらしく、彼女ですら吐き戻す事態になってしまった。処理にすら困る艦娘とはどこまでも厄介な存在である。

 

「食べたらすぐエッチですか?しょうがないおちんちんですね」

 

美味しくないエサを完食したご褒美を貰おうと、オスのサメが少女の白い体に黒いセーラ服越しに腹部を擦りつけてくる。

 

少女は火傷をさせないように意図的に体温をさらに下げると、両足を回しこみふとももで2本の生殖器を挟み込みながら尾びれにしっかりと絡みつく。

 

2m以上はあるオスサメが、血のしたたるグロテスクな口をパクパクと開閉させ根元を両足でホールドされた尾びれを犬のように激しく振り動かす。暗い海中に多くの気泡が生まれる。

 

呼吸器を外すと、少女は抱き着くサメの腹部にそっと噛みついた。口で姿勢を固定すると太ももで挟み込んだ生殖器に素股をしてやりながら、両手を広げ尖る先端部分を両手で激しく手コキする。

 

噛みつき行為は本来オス側が行うものであるが、体格差もあり少女が固定の為に行っている。この海域の多くのオスサメの腹部には戦艦棲姫以外の深海棲艦の歯型が複数存在している。

 

駆逐棲姫が最も人気があり、他のメスと性交中のサメですらメスを投げ出しておねだりを始めるオスが現れるほどである。

 

―何だか今日は忙しいですね。

 

少女は事の発端であるわんわんを思い出すと少しうんざりとするが、戦艦棲姫が気に入っているようなので、仕方ないからしばらくは一緒に面倒を見てやるかと気持ちを持ち直す。

 

足の翼を格納すると、瞳の色が紫に戻り始める。少女に柔らかさが戻りオスサメが喜ぶように腹部をさらに擦りつけてくる。

 

―はいはい。良い子にはご褒美ですよ。

 

ご褒美用の緩い低周波でトントンとサメの体を振動させながら腹部に甘噛みをする。

 

太ももの押さえつけと巧みな指の動かしで2本同時に性交を経験させてくれる少女の腕前は経験豊富なオスサメさえも5分と持たずに少女の指の中に多量の精液を放出させる。

 

拡散する出力の低い優しい低周波はご褒美の合図と躾けてあり、様子を伺うように人懐っこく腹を見せて、少女の周りを順番待ちをするオスたちがグルグルと周囲を回っている。

 

順番を待ちさえすれば、鼻を虐められることはないので素直に待っている辺りが可愛く、すぐに喧嘩を始めるシャチ達よりも少し少女には贔屓にされている。1時間近くオスサメ達の相手をすると、今だ雷雨の続く海上に少女は顔を出した。

 

「燃費が悪いですね。少しお腹がすいてきました」

 

雨で精液の付着する体を洗い流す。少し焦げて短くなった肩ほどの高さの紫の髪は、ストレートに垂れ顔にべったりと密着する。首を振って髪を広げた。

 

「ああ。タコヤキさん。どうでしたか?」

 

上空を風にもまれ旋回していた赤いタコヤキが小型化し少女の肩に降り立った。雨も落ち着きを見せ始め、薄まった雲の隙間からわずかに星の光が降り始める。肩のタコヤキを摘まみ、胸の中に格納する。

 

いつでも羽を開けるように体制を整えながら、いつものゆっくりとした巡航速度で不審艦に近づいて行く。引き波もなく停船しているようだ。水を得た紫の髪が僅かに後方へと伸びる。海面を滑りながら適度に当たる夜風が心地よい。

 

「おや?」

 

接近すると探照灯のようなスポットライトが少女を捕らえた。目を細め自然と艤装に力が込められる。続き、ライトが船尾を照らす。その先に視線を凝らすと、マストに高く掲揚された旗に見覚えのある顔が描き出されている。

 

「ああ。潜新ちゃんでしたか。わんわんは関係なかったんですね」

 

先日捕獲した提督を利用した、何らかの作戦行動と予測していたが、当てが外れたらしい。追っていたのが人間だけの駆逐艦というのも合点がいく。

 

「とは言え」少女は、潜水組の肩を足場に借りて高くジャンプする。「警戒しない理由にもなりませんが」

 

少女は羽を開き、乱気流を作り鋭く空中でスピンしながら、月光を背景に水しぶきを派手に飛ばす。着地前に翼を格納すると、新体操選手のように華麗に不審艦のデッキに降り立った。艤装の足の衝撃でデッキに少し歪みが出来る。

 

「こんばんわ?」

 

顔をこわばらせる数名の青年兵士に向かって、紫の瞳の少女は無機質に笑顔を向けた。日の出までまだ3時間ほどあり、深い闇と温かい風が甲板を滑る。

 

少女の後方には胸の谷間から飛び出た赤いタコヤキが威嚇するようにカチカチと歯をならしている。

 




<<アンケート結果はお知らせの話の前書きで時々更新!!>>

つ´・ω・`) ヒロインだろと 思う子

  • 駆逐ちゃん
  • 戦艦棲姫
  • 飛行場姫
  • 提督さん
  • その他
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