※この作品はR-18です。

Fate/Extra Lapse   作:ぴんころ

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三回戦 二日目A 『同盟』

―――学園:地下一階、食堂

 

 

 どうしてこうなったのだろうか、その原因を考えてみよう。

 俺たちは今、四人掛けのテーブルに座っている。対岸には遠坂と、そして褐色の肌に紫色の頭髪。短いスカートから覗くすらりと伸びた肢体が特徴的な少女。以前にも校舎内で何度か見かけたことはあったが、どことなく感情の色が希薄なため置物でないかと疑ったりもした―――そんな、マスターの一人、確か、ラニ=Ⅷという名前のはずの少女が澄ました顔で座していて、遠坂と向かい合うようにしてアサシンが座っている。

 清澄な空気だ。間違っても暗鬱とした雰囲気ではない。

 しかし、”涼しい”と呼ぶには些か息苦しかったのも事実だ。例えるならそう、緊迫。空気が張り詰めているとはこのことを言うのだろうと、そう理解できる。

 そして、その雰囲気は周りも同じだった。

 昼時の食堂ではちらほらと他のマスターの姿も見えている。優勝候補である遠坂がいるのだから注目されることは仕方の無いことだと思われる。だけど―――。

 ……その視線が彼女たちではなく自分に向けられている気がするのは何故だろうか。

 特に男子マスターの視線が痛い。

 遠坂や(実力は知らないが)ラニと比較して、自分など非力で平凡な魔術師でしかないはずなのに。ううむ、理由が分からない。注目される理由が分からない。

 

 

「では、改めまして」

 

 

 そこで、緊迫した雰囲気をかき消すようにラニ=Ⅷが言葉を発した。

 

 

「初めまして、ミス遠坂、ミスター岸波。私はラニ。あなた方と同様に聖杯を手に入れる使命を負った者」

 

「ええ、初めまして、アトラスのマスターさん。それで、私たちに何の御用かしら?」

 

「師が言いました。『人形である私に命を入れる者がいるのかを見よ』と。師が言ったことの意味を知るためには、私はもっと人間を知らなければなりません」

 

「……答えになってないわよ。それは、どうして私たちに声をかけないといけなかったのか、には関係ないでしょ?」

 

「今回の一件……ハンティングは一人では不可能でしょう。ですが、聖杯を手に入れるという目的のためにはここで立ち止まるわけにはいかないのです。なので、二回戦が終わるまでで最も信頼できると判断したミスター岸波に共闘を申し入れに来ました」

 

 

 その言葉の直後、ラニの瞳が一度遠坂に向いて、その後二人が同時にこちらに瞳を向ける。二人の間で何某かが伝わったらしい。

 

 

「まずは三回戦進出おめでとう、岸波くん」

 

「あ、うん。ありがとう……」

 

 

 正確には戦ったわけではないのだが、そこまで教える義理はあるのだろうか、という思いとアサシンから無駄に情報を渡すなという念話がやって来たことで、その辺りは黙ることになった。

 そんな会話が俺たちの間で交わされているとは知らずに、二回戦勝利を遠坂は祝ってくれたが、勿論そんなことを言いたいがために集まったのではない。彼女の性格からしてそれが話を切り出すための建前にすぎないことを知っている。

 本命は、おそらく「昨日のこと」についてなのだろう。

 でなければ、わざわざに自分の元を尋ねてくる理由が遠坂たちには無い。特に、今まで一度も出会ったことのないラニに関しては。

 

 

「話が早いわね。それじゃあ単刀直入に聞くけど……昨日、貴方たちが出会った敵はどうだった?」

 

 

 俺の確信げな様子を見た遠坂は、濁すことなくそれを問う。

 随分と直接的で、なのにひどく抽象的とした質問。だけど、それが自分に何を求め、何を期待しているのかくらい、皆まで言われずとも分かっているつもりだ。

 第三回戦―――多くのマスターが意識を向けている『狩猟』ゲーム。

 そのハンティング対象とされるエネミーと遭遇したのは、自分たち以外にも存在するかもしれないが、わざわざ最初に俺に訪ねて来た。その理由はわからないが、遠坂たちからしてみれば、少しでも情報を手にするためにも事情を訊かないワケにもいかないのだろう。

 ―――そこで、ふと。

 

 

「ん? 遠坂に昨日、俺がアリーナに入ったことを話したっけ? 何で知ってるんだ?」

 

 

 思えば、当然の疑問がそこにある。

 一連の出来事を俺はまだ誰にも話していない。そのことを尋ねると遠坂はひどく呆れたようで、嘆息を漏らす彼女の代わりにラニが疑問に応答した。

 

 

「昨日の戦闘は多くのマスターがアリーナをハッキングして観戦していました。そこにあなたたちの姿を認めたので、重要参考人として会いに来たのです」

 

「岸波くんにもわかりやすく言うなら、二回戦の時のユリウスのあれよ」

 

「あれ……」

 

 

 言われて思い出すのは、二回戦の時に襲われた事実。あれは校舎に対して行う超大規模なハッキングだったが、昨日はそれよりは小規模なハッキングがされていたと言うことなのだろう。

 

 

「まあ、それも当然でしょうね。だってあのエセ神父の言葉なんてどう考えても怪しいじゃない。あれ、人の不幸を娯楽にして生きるタイプの人間よ。あいつが笑ってるなんて、他人の不幸を見られるときぐらいしかないんだし、一日目は様子見が普通よ」

 

「だからこそ、貴方たちの行動には驚かされました。何もわからないまま、手探りの状況での突撃。……蛮勇と称することしかできないその行動。今こうして話をできている事実が不思議なほどです」

 

「……確かに、軽率だったかもしれない」

 

 

 そうだ。一回戦の時も、情報がないなら避けるのも手立てということを言われていた。

 そのことを忘れて挑むだなんて、七日間で鈍ったと言われても仕方がない。

 意識を切り替えろ。吐きそうな現実に怯えたあの頃を思い出せ。俺はもう一度、殺し合いに参戦するんだ。

 そう言い聞かせる最中、遠坂は状況を告げてきた。

 

 

「ま、様子見に徹する理由はあるんだけど、それ以上に『行かない』って選択を誰もできないのよね。だって、先に討伐を成功させたマスターが自分の対戦相手になるはずだった人物なら、その時点で自分の敗退が強制的に決まってしまうんだから。……そう思って突入したのが、貴方達を含めて十六組。その中で生き残っていたのは貴方達だけ」

 

「十五組、死んだのか……」

 

「ええ、残念ながらね。貴方達が戦闘を回避してリターンクリスタルを使う直前に出てきたあの泥に飲まれてたわ」

 

 

 遠坂はきっぱりとそれを告げる。

 あの、ティアマトと呼ばれた竜の体から溢れていた泥に飲み込まれて死亡したのだと。あれは殺傷能力を持った凶器なのだと。

 辛い気持ちが湧き出てくる。あれは、俺があのエネミーと接触したことでティアマトというバーサーカーを召喚したこと、それが原因で出現したものなのだから。

 

 

「……馬鹿ね、何て顔してるのよ。死なせてしまったのは自分の責任だ……なんて考えるのはお門違いよ。兎に角、あんな化け物に一組で戦おうなんて考えがそもそも間違いなの。今回ばかりは私も協力者が必要だったワケ。……しかも、今話を聞いたところ、あれは六十騎以上のサーヴァントを取り込んだ巨大構造体(メガストラクチャ)なんでしょ? しかもティアマト……メソポタミア神話の女神。絶対に一人じゃどうしようもない相手だもの。……それで、どう? 岸波くんは協力してくれる?」

 

「私からも協力をお願いします。あらゆる演算を行った結果、最も協力者に相応しいと考えられたのが貴方でした。どうでしょうか、私に協力していただけませんか?」

 

「いや、そんなことなら喜んで。こちらこそお願いするよ」

 

 

 その提案を誰が断るだろうか。

 破格の魔術師二人が味方になってくれるのであれば、これ以上に心強いことはない。

 遠坂の実力はすでに知っている。ラニに関しても「完璧な人間(ホムンクルス)」であって、その上でこの聖杯戦争に挑んでいる以上は、聖杯戦争用に特別な調整(チューン)を行われていてもおかしなことはない。

 だからこそ断る理由など存在するはずもなく、「これから三人で頑張ろう」と言葉にする。自分で言葉にしながらも、この二人が味方についてくれたこと、そのものに対してどうしようもない喜色が混じったのだがーーー次の瞬間、この空間に亀裂が迸る音を幻聴として聞き取った。

 それはまるで、氷河が割れるかのように。

 それはまるで、地獄の底へと繋がる奈落の穴が鎌首をもたげたかのように。

 殺意とは違う敵意。明確な拒絶心。言葉に出来ない不安感が鎌首をもたげた。

 

 

「三人……それはつまりアトラスのマスターさんも一緒ってコト?」

 

「それは遠坂凛もまた一緒という意味ですか?」

 

「……ダメ、かな?」

 

 

 言葉にこそ表さないが、彼女たちの態度は明瞭に「NO」を主張していた。

 三人という言葉にやたらと敏感に反応する彼女たちだが、もしやと一つの考えに到達する。遠坂とラニは一線級の魔術師だ。俺とは違って警戒に値する。そのため、後の展開も考えて手を組むのは遠慮したいのかもしれない―――などと。

 そんな(二人にとって的外れな)指摘を繰り出した途端、溜息の漏れる音を聞いた。

 

 

「うわ、本当ですか……私のマスターさん、あの人と同じ類いの人間ですか……」

 

 

 横で、アサシンがため息をついていた。

 言葉の意味はわからないが、褒められていないことだけはわかる。

 

 

「ええ、褒めてませんよ。私のマスターさんは女たらしなんだなと理解しただけです」

 

 

 私もいずれ落とされちゃうんでしょうか、と憂鬱そうに、けれど瞳だけは普段に比べて楽しげに。語るアサシンの姿はこれまでとはまるで違う。

 ただ、その言葉には理由もわからぬ不満が生まれる。なんとなく、彼女にそんなことを言われるのは納得がいかない。

 そんな話をしている最中、別の方向からも、二箇所同時に溜息がこぼれた音を聞いた。

 

 

「……はあ、この馬鹿の前で気張る方が虚しいわよね」

 

「同感です。同じ共通の理念を持つ者として、手を組むのも吝かではありません」

 

「ま、協力者は多ければ多いほど助かるし。天恵と思うことにするわ」

 

 

 遠坂は自分に言い聞かせるようにして呟く。

 ……何故そこで残念がるのかが分からない。

 この状況では喜ぶことはあっても、それ以上のことを思う余地はないと思うのだが……。

 

 

「それじゃあ一先ずはこの三組で協力するわよ。一日目は傍観していた他のマスターが動くかもしれないから行動は迅速に。早速、今日の夕方にでもアリーナへ突入しましょ」

 

「了解しました。善い結果を期待しています」

 

「ええと……解決した、ってことでいいんだよな?」

 

 

 自分を置き去りにして決定されていく光景に多少は戸惑うところもあるが―――。

 一度目は悩むまでもなく撤退を決めたほどの敵サーヴァント。彼の強大さは依然として変わらないが、二人が協力してくれるのであればとても心強い。

 

 

「時間が来ればアリーナへの扉の前に集合しましょう。それまでは各自、諸々の用事を済ませてくるというのはどうでしょうか?」

 

 

 ラニの提案に俺も遠坂も首肯し、一度その場を解散することになる。

 合流の時間までは幾らか余裕がある。他にも協力者を誘った方が良いだろうと思い、サーヴァントを連れて俺は食堂を後にした。アサシンが、これまでと比べてどこか楽しげな表情を崩していないのが印象的な話し合いだった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:マイルーム

 

 

 

 

「そういえば、さっきアサシンの言っていた『あの人』って誰なんだ?」

 

 

 マスターさんは、今持っている道具についての確認をするために一度マイルームに戻ってきていた。

 情報であるならば、それがどれだけ小さなことでも隠すようにしているみたいだ。

 一回戦開始前の、真名について聞かれた時のことを思い出す。あの時は、どこで誰が聞いているのかわからない、なんてことを言ったが、今回に関してはちゃんとマイルームに戻ってきてから話を始めたので成長が見える。

 そんな確認の最中、マスターさんは気になったのか、そんな言葉を口にしていた。

 多分、本人も気がついていないけれど、そこには少しばかり綺麗ではない感情が見える。

 少し、ホッとした。

 

 ーーーホッとした? どうして?

 

 

「そこに関しては私の真名に関わることなので」

 

 

 もうしばらく内緒です、と。嘘をついた。

 実際のところは、この依代に関係があるだけで、私自身の真名とはどうしようもなく関わりがないことなのだが。

 嘘をつくつもりも、その必要性も感じないのに、咄嗟に口にしたのは嘘だった。どうして、なのだろうか。

 

 

「うーん。なら仕方ないか」

 

 

 けれどマスターさんのその言葉で思考の海から引き戻される。

 二回戦が私たちには存在しなかったために、そこまで大きなイベントは存在しなかったが、それでも人となりを知る程度は命がけで戦った一回戦とその後の七日間で十分。だからマスターさんがここであっさりと退くのはそこまでおかしなことではないが……。

 

 

「まあ、もう少しだけマスターさんを見極めてからですね」

 

 

 気がつけば、そんな言葉を口にしていた。

 

 

「うん。それならその時を楽しみに待ってるよ」

 

 

 マスターさんもそう返して、道具の確認を終えたらしい。礼装に関しては聖杯戦争で手に入れたものしかないからその効果に関しては確認を終えているが、道具の補充の必要性もないらしい。それは怠惰ではないかと思うが、まあ、マスターさんがそれでいいのならいいのだろう。そこまで言葉にする必要性を感じない。

 マスターさんがマイルームを出ようと促してくる。まだ時間はあるが、少しでも体を動かしておきたいのだろう。今回に関しては、相手方のサーヴァントの攻撃の範囲が、泥によってとても広がっているし、そうでなくともあの巨体。普通に指示を出すだけでは潰される。マスターさんたちには逃げ回ることも要求されるのだ。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:一階廊下

 

 

 

 三回戦開始時点で生き残っていたマスターは三十二人。これは最初が百二十八人だったことから当然のことなのだが、それも昨日で十五組消滅したことで四回戦時点での残り人数プラス一人という状況になっている。

 しかし、その一方で月海原学園はとても広い。最初から百二十八人のマスターを収容するために作られていたからなのか、この学園は学園に必要な機能……校舎と運動場だけではなく、教会や中庭、弓道場まで取り揃えられている。しかもそれに加えて地下の購買や屋上まで解放されているのだから、人数に対する空間の密度は大層広くなったことには誰もが否応無く頷くだろう。

 最後まで確実に残っているのはNPCだけ。その事実が、一回戦と比べて空虚になったこの校舎の内部では身にしみる。

 だからこそ、今もなお残っているマスターたちを目に焼き付けようとしていたのか、無意識にその姿を目で追っていてーーー当ても無く廊下を彷徨う最中で、その”声”に気がつけたのは当然だったのかもしれない。

 背後から迫ってくる声なき声。その正体は明確な気配を感じ取れない亡霊のような、白衣を着た男だった。

 単なる幻のようにしか見えないのに、僅かに存在感を主張した佇まいに、不思議と意識が引き付けられてしまい、視線を外すことができない。

 

 

『君はーーー■■か』

 

 

 彼は、ノイズの掛かった言葉を紡ぐ。

 俺は動きを止め、彼は動き続けていた。よって順当に距離は次第に縮められ、自分とすれ違うほどに接近した。誰かは知らない。けれど、彼の言葉を無視してはならないと本能が直感した。

 

 

『■■しいよ。■がまだ■■■だったなんて……一つだけ■告させてほしい』

 

 

 耳を塞ぐことも、立ち去ることもしない。いや、出来なかった。

 それが、今際の際に誰かに対して残す遺言と呼ばれるものだと理解したから。

 ただひたすらに、彼の遺言を静聴した。

 

 

『お願いだーーー』

 

 

 その言葉は最後の希望を見つけたかのような。そして同時にとっておきの絶望をも叩きつけられたかのような、複雑な心境を表していて。だからこそ、その希望を次へとつなげなければーーー。

 

 

『アサ■■には気をつけろ。■■は■■■■だ。■■が望んでいるのは■■■■■すること。止められるのは■■■■しか存在しない』

 

 

 幻霊の男は、ひとしきり伝え終わると微塵となって消え失せた。

 その行方を捜すようにして周囲を見渡したが、もはや形どころかその影すら存在しない。まさしく、亡霊の類ではないかと疑ってしまうほどに、浮世離れしていた存在だった。

 

 

「あれは電脳精神体(サイバーゴースト)ですね」

 

「……レオ?」

 

 

 疑問に囚われ立ち尽くしていると、凛とした声で現実に引き戻される。

 気がつくと横には黄金の王、先ほどの男とは真逆に存在感の塊のような男である、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイが立っていた。

 その横には彼のサーヴァントーーー本来の意味の従者という言葉がよく似合うーーーガウェインも共にいる。こちらを敵としてみなしていないのか、二人は自然体のまま。

 彼がこちらに敵意を向けていないのであれば、こちらもそこまで大きな警戒をする必要はない。情報を抜き取られる心配も同様に。なぜなら俺自身もアサシンについての情報は知らないのだから。

 その上で、件の幻―――幽霊らしき男の姿について、知るところをレオに訊いた。彼はその男をして『サイバーゴースト』と呼称する。それは一体なんなのだろうか……?

 

 

「セラフには何兆、何京という生命の記憶が保存されています。細菌一つから、もちろん人間に至るまで。原子海洋の有機物の中から単細胞生物が生まれ、生と死の連鎖がやがて人を生み出した奇跡に比べればーーーあらかじめ設計図が用意されているセラフの中で、擬似的生命が生まれる事は、そう不思議ではないのかも知れません。あれは恐らく、そういう類のものでしょう。生きた肉体を持たない死者の記録……無害なデータです。気にする事はありませんよ」

 

 

 つまり、かつての人間の記録が実体を持って現れた、ということなのだろうか。

 自分の中で納得をしたことで、得体の知れないものという評価を脱却した。幽霊という意味合いでは、肉体を抜け出して電脳空間に入り込んでいる俺たち魔術師もそこまで変わらない気がするが。

 

 

「それで、貴方はこれからどうするおつもりで?」

 

「え? ……ああ、レオも昨日のアリーナを見てたのか」

 

 

 その言葉に頷くレオ。一瞬何を言っているのかわからなかったが、確かによくよく考えてみればマスターたちはアリーナ内部の状況を確認していたとのこと。そう考えれば、マスターとしても優秀なレオが見ていないはずがない。

 ……そういうことならばちょうどいいかもしれない。レオも誘ってみるとしよう。サーヴァント六十一騎を取り込んだという埒外の怪物。それに対抗するには戦力が多いに越したことはない。

 俺の説得にレオはしばし目を丸くしていたが、やがて「ああ、そういうことですか」と納得し、柔和な笑みを浮かべて彼は首肯した。

 

 

「僕でよければ喜んで。今回の標的、件のサーヴァントの実力については僕も聞いていますから。生存するマスター全員で掛からねばならないほどの怪物……我々は不倶戴天の敵ですが、今回に限っては呉越同舟するのは吝かではありません」

 

 

 驚くほどにあっさりとした肯定。むしろ誘った己の方が驚いた。

 そこには敵意も殺意も感じられず、純粋な善意で協力を約束する少年王。

 今回最強のマスターであろうと思われるハーウェイの御曹司と、そのサーヴァントである円卓の騎士ガウェイン。その二人の実力など考えることすら馬鹿らしいほどに強大であることに間違いはなく。これでようやく勝機が見えてきたような気すらする。その事実に拳を握っていたが……そこで、寡黙を徹底していたはずのガウェインが口を開いた。

 

 

「我が主よ、お言葉ですが彼らとの同盟には必要性を感じられません。貴方がわざわざに手を下さずとも障害はいずれ打破される命運にある。我らは泰然と、第三回戦の相手に備え研鑽に励むべきだと思われますが」

 

「そんなことを言わないでください、ガウェイン。貴方の判断は尤もだ。合理的で当然の帰結です。しかし、今回に関しては、相手の言葉を信じるのであれば生存するマスターの倍近い数のサーヴァントを取り込んだ、生存するマスター全員でかからねばならないほどの難敵。僕の力が何かの役に立つのであれば、惜しむことなく振るうべきでしょう」

 

「……出過ぎた真似を申し訳ございませんでした、レオ」

 

「いえ、気にしないでください。善き王は臣下の進言なくして成り立ちません。貴方の配慮は、僕が僕であるためには必要不可欠なのだから」

 

 

 言峰より提示されたゲームに参戦し、躍起になって獲物を追い掛けるということは、同時に甚大な消耗を来たす可能性も考慮される。どれだけ協力者を集め、敵を討とうにも報酬が与えられるのは「トドメをさした一人だけ」に限られるのだ。

 手札を曝け出して無駄に消耗を得ただけに終わる可能性も十分に危惧される。

 そんな中でも協力を宣言できる。つまりは、これが彼という王の器を示す選択だった。

 思えば、当初からガウェインの真名を隠すこともなく堂々と振る舞ってきた少年が、今更に姑息かつ賢明に静観するとは考えにくい。

 聖杯に至るのであれば確実に争わねばならない敵。その姿に、知らず識らずのうちに手に汗握っていた。

 

 

「それでは、もう少しだけ検討させてください。即座に協力を申し出たいのは山々ですが、せっかくのガウェインからの忠告です。そちらを熟考したいのもまた事実なので。答えが決まったその時には、こちらから声を掛ける形になると思いますが……あなた方の健闘を心より祈っています」

 

「ありがとう、レオ」

 

 

 黄金の王は一度視線を重ね、憂うことなく歩き去った。




カーマ様って「全人類に平等に愛を注ぐ」ってことに関して悪い面ばかり取り上げられていたけど、「人間じゃないことに悩んでいる」相手に対しても平等に愛を注ぐなら、それはそれでその人物にとっては救いだと思う今日この頃

それはそれとして、これでようやく勝ち目が見えて……こないな、うん
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