※この作品はR-18です。

Fate/Extra Lapse   作:ぴんころ

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三回戦 四日目A 『精神体』

 ーーー学園:地下食堂

 

 

 

「それにしても、問題はどうやってあの女を探し出すのか、ってことよね」

 

 

 四日目。遠坂は開口一番そう言った。そしてそれは何よりも重要な問題。たとえ、あのサーヴァントと真正面から相手をするのではなく、マスターである殺生院キアラを撃破することを目的としたとしても、その張本人を見つけられないことにはどうしようもない。だからこその、遠坂の言葉だった。

 

 

「殺生院キアラの行動範囲もわからず、わかっているのはアリーナにいるであろうこと程度。それすらも、明確なわけではなく、動かないという保証があるわけではないのです」

 

 

 ラニも、補足する。こうして並べられると”ティアマトを倒す”よりは現実的な手段ではあるが、その作戦の成功率は絶望的と言わざるを得ない。

 万が一に見つけ出せたとしても、魔術師(ウィザード)としての力量も異常であろうことが予想される彼女と遭遇したタイミングで、彼女を倒しきれるだけの準備が整っている保証もない。

 だからまずは、準備を整えた上で彼女との遭遇タイミングを自分達側から用意できないと、この作戦も意味がない。

 

 

「ラニは何か良いアイディアがあったりする?」

 

「……申し訳ありません、私には何も。錬金術や占星術については自信があるのですが。……今回に関しては占星術で場所を確かめても、それはリアルタイムにはならない以上は……」

 

「たどり着くまでに逃げられる、ってことね……」

 

「俺も、何か役に立てるといいんだけど……」

 

 

 魔術師としての力量がまるで存在しない俺では何もできないと理解しながらも、心の底からそう思う。役に立てても肉体労働程度。この状況では決して役に立てることはない。そうとわかってはいるけれど。

 

 

「マスターである殺生院キアラを探す。言葉にすると簡単ですが、彼女に繋がる遺物(データ)がない以上は、彼女個人を探すための礼装の作成は難しいです。彼女に関わる情報もなしに個人を特定できる礼装、なんてものはそれこそムーンセルから情報を引き出したりしない限りは不可能です」

 

「そうするにはムーンセルと繋がる必要があって、でもムーンセルと繋がるためには聖杯戦争を勝ち抜く必要があって、聖杯戦争を勝ち抜く……どころか再開するには殺生院キアラを撃破する必要がある。詰んでるわね」

 

「キャスターの道具作成スキルでもあれば話は別なんだろうけど……」

 

 

 アサシン、ランサー、バーサーカー。それと手を貸してくれる残りのサーヴァントもセイバーとアーチャー。

 この中にはそんなスキルを持っているサーヴァントはいない。可能性を発見することには成功したが、このままではどうしようもない。となるとーーー。

 

 

「協力者が必要、か」

 

 

 俺の呟きにラニと遠坂もまた頷きを示す。

 つまりは、キャスターかアサシンのサーヴァント。

 あるいは搦め手に精通したマスターの存在。

 ティアマトを討ち倒すには、まだ見ぬ誰かの協力が不可欠だった。現時点で俺たちが手を組んでいない聖杯戦争参加者はニ十組弱。しかし、彼らとは一応敵同士だ。仮に”それ”が居たとして、すんなり協力してくれるとは限らないが――――。

 

 

「…………あ」

 

 

 そんな風に考えていると、一人―――いや、二人がヒットした。

 

 

「え、何? あなたに力を貸してくれそうな、キャスターとの契約者でもいるの?」

 

「誰か心当たりがありましたか?」

 

「ああ、うん。厳密には、あの人たちはマスターじゃないけど……」

 

 

 それでも、あの人たちの力は間違いなく本物だ。もしかしたら、『魂』という観点から何かヒントを得られるかもしれない。

 サーヴァントに対して魂の改竄なんてものを行えるだけの実力者。中立の立場としての彼女たちでも、この一件に関してだけなら全面的な協力を望めるかもしれない。教会にいる、二人ならば。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:教会

 

 

 

「改竄にきた……ワケではなさそうだな。どうした? 私も暇ではないのだが」

 

 

 サーヴァントの実力を取り戻すため、これまでの聖杯戦争でも度々訪問することのあった教会。だが、今回は目的が違う。改竄の用事ではない事を告げると、教会に居座る番人の一人―――蒼崎燈子は面倒そうに応えた。

 

 

「ふむ。何も遺物がない状況で相手を探す、ね。なかなか難しいことを考えるな」

 

 

 事の次第を説明すると、僅かに燈子の口調に興味の色が浮かんだかに見えた。

 

 

「成る程な。聖杯戦争そのものを崩壊させかねんサーヴァントときたか。厄介を通り越して窮地だな、実に。だが深くを考える必要はないだろう」

 

「それって、どういう……」

 

 

 あまりにも楽観的な言葉に違和感を抱いてしまう。

 見つけられない限りは、いいやたとえ見つけられたとしても勝てる保証はない。けれどそれも見つけないことには、戦闘という話に持ち込むことすらできず、どうしようもない。なのに、何もしなくとも見つけられるというような話し方には違和感を覚えざるを得ない。

 

 

「見つけられない、とは言ってもいずれはムーンセルの方から何某かのアクセスがあるだろう。これは聖杯戦争を順当に進めるためのゲームなのだ。聖杯戦争によってムーンセルが何かを求めている以上は、多少は便宜を図るだろう。例えば、敵の移動を制限したり、と言った行動だったりな」

 

 

 とは言っても、そう言って橙子は何かを取り出した。

 それは何かのカードキーのような代物で、それ以上のことはわからない。

 

 

「殺生院キアラ、だったな。今回の獲物のマスターは」

 

「は、はい……」

 

「当たり前に考えて、神霊をその規模のまま召喚して使役するなんてことは人間には決して不可能だ。絶対的に魔力が足りない。やろうとすれば魔力を絞り出そうとして脳が焼き切れる」

 

「なら、どうやって……」

 

「簡単さ。そもそも脳との繋がりがなければいい」

 

 

 ーーー君は、電脳精神体(サイバーゴースト)と呼ばれるものを知っているかい?

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:地下食堂

 

 

 

「サイバーゴースト、ですか」

 

「なるほどね。確かにそれなら魔力的な問題に関してはクリアできるか……」

 

「うん、さすがにサイバーゴーストが聖杯戦争の邪魔者として存在できることには驚いたけど……」

 

 

 サイバーゴーストという存在そのものについては以前レオから聞いている。

 マスターとは違って、肉体という制限がないからこその膨大な魔力喰いである神霊を使役していられる。

 優秀な魔術師である慎二でも、神霊であるオーディンをそのままの形で使役することはできていなかった。

 遠坂だって、神性そのものではなく、神の子であるクー・フーリンを使役している程度。

 そのことを考えれば、神霊という存在がどれほど規格外なのか。”優秀”という程度では決して使役することすら叶わない化け物なのだ、ということがはっきりとわかる。

 

 

「それで、二人とも。これがどういうものなのかわかる?」

 

 

 テーブルの真ん中には、先ほど橙子からもらったカードキーのようなものが置かれている。

 俺にはこれがどういうものなのかわからなかったので、それならばと俺よりもはるかに優秀な二人に尋ねる。

 これは一体、どういう代物なのか、と。

 

 

「これは、経路(パス)を示す礼装です」

 

「経路……?」

 

「ええ。そうね。私たちマスターは、二つの経路(パス)を繋いでいるわ。一つはサーヴァントとのもの。もう一つは自分の肉体との繋がりを示すもの。……だけど、サイバーゴーストは違う」

 

「あの殺生院キアラがサイバーゴーストであるならば、彼女が持っているのはサーヴァントとの繋がりだけ。つまり、これを使って校舎全体、アリーナ全体をスキャンし続ければ、必ずどこかでラインがつながっている相手が一人だけ、という生命体の発見につながるはずです」

 

「なるほど」

 

「ですが、それをするとなると、今からこれの機能を殺さずに、全体のスキャンを行えるほどの外部装置を作る必要があります。……いえ、そのこと自体は錬金術師の端くれとして成すことは可能なのですが、礼装の素材が存在しないのです」

 

 

 その材料について尋ねようとしたところで、一つの声が割り込んで来た。

 

 

「あら、そのようなことは必要ありませんよ?」

 

『!?』

 

 

 その声の持ち主を知っている。

 決してここにいるはずがないことも知っている。

 だからこそ、三人揃って驚き、ワンテンポ遅れてサーヴァントが出現する。

 サーヴァントにすら出現が感知できない転移。その事実が、さらにこの女に対する警戒を強める。

 

 

「殺生院、キアラ……!」

 

「はい」

 

 

 令呪が光る。アサシンの矢を避け、ランサーの槍の一撃を躱しながら、バーサーカーの攻撃は転移で避ける。

 サーヴァントの攻撃を平然と避ける化物(人間)。一挙手一投足がその存在に対する警戒を右肩上がりにしていく。サーヴァントであるならばともかく、人間がそんな対象だということに戦慄を禁じ得ない。

 

 

「来なさい、ティアマト」

 

 

 言葉とともに地下を破壊する勢いでティアマトが降ってくる。

 遠坂とラニが瞬間契約クラスの魔術を使用して、三人揃って地下を脱出する。幸いなことに、俺たち以外のマスターが存在しなかったおかげで脱出そのものはスムーズに。けれどあと一歩遅れていればあの泥に飲まれて死んでいただろう。

 

 

「ランサー!」

 

「バーサーカー!」

 

「アサシン!」

 

 

 それぞれがサーヴァントのことを呼ぶ。自分のサーヴァントが目の前に出現したタイミングで、三人の指示は一致する。すなわち、最初から明言していた通り、殺生院キアラを殺害する、と。

 けれどサーヴァントにそれを任せるわけにはいかない。そんなことをしてしまえば、ティアマトに対する抑えが効かなくなる。それはつまり、自分たちの死につながるのだから。

 

 

「和光同塵、真如波羅蜜。慈悲です、戯れといたしましょう。堕ち行く先は殺生院、顎(あぎと)の如き天上楽土。一寸の虫にも五分の魂と申します。ふふ、ふふふ。何人も私からは逃れられません」

 

 

 

 ーーーSword, or Death(死にたくなければ剣を執れ)

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:運動場

 

 

 

 戦いに参戦できるサーヴァントは五騎。わずかに遅れたアーチャー、セイバーも即座に戦線に突入する。

 ただし、それだけの戦力を持ってしてもティアマトを押しとどめることすら不可能。彼女が動こうとすれば泥も同時に流動し、それを避けなければならないために。

 そして何より、生み出される魔獣たちへの対処も行わなければならない。

 結果として、殺生院キアラとの戦闘に、サーヴァントを介入させることは不可能だった。

 

 

「せえい!」

 

 

 遠坂が一気にキアラとの距離を詰める。テロ屋であるためか、その動きには確かに、戦うために学んだ武術の何かがある。

 鋭さと速さを兼ね備えた一撃。さすがに英霊にはーーーかつて見た、武術を使用するアサシンには敵わない動きだが、それは弱いというわけではない。むしろ、並大抵のエネミーであれば一体程度は倒し切れるのではないかと思うような動きのキレだった。

 

 

「さあ、もっとくださいな」

 

「何よ、この変態女!」

 

 

 けれどそれもキアラには通用しない。

 するりと伸ばされた手から逃れるようにして遠坂はいくつかの宝石をその場に残して一気に下がる。

 直後爆発した宝石。その中から出てきたキアラには一切の傷は存在しない。

 サーヴァントだけではなく、マスターまでも異常な硬さ。それに遠坂は歯ぎしりする。

 

 

「うふふふふ……」

 

 

 知るはずもない。この女はサイバーゴーストに近く、けれどサイバーゴーストではない。

 その正体はどちらかといえばエネミーのあり方に近い。かつて平行世界のムーンセルにて起きた事象。例外処理(CCC)の名を与えられた事変における黒幕。それをムーンセルが観測してしまったがゆえに発生したコピー。

 そんな、月の裏に廃棄されたデータの塊が、何故か月の表に出現してしまった事実がここにある。本来ならばありえない存在。

 ゆえにこそ、彼女はとあるスキルを持ったまま。

 

 

 ーーーロゴスイーター

 

 

 快楽天としての特性。万色悠滞から派生した特殊スキル。

 どのような規模、どのような構造の知性体であれ、知性(快楽)を有するもの全てに強力なダメージ特攻を持っている。

 そしてそれは同時に、その知性を蕩けさせるスキルでもあるがゆえに、人間の攻撃は一切合切、強力な特殊防御にて弾かれてしまう。

 

 

「うふふ」

 

「その気色悪い笑みをやめなさい!」

 

 

 魔術(コードキャスト)を使用できない、正確にはコードキャストとしてまともに扱えるのが周囲を巻き込む破裂系統のものと自らに対してかける身体強化だけの”岸波智仁”という個体では決して、この戦いの支援ができるはずもない。

 

 

「胎蔵界、理拳印」

 

 

 呟かれた言葉とともに、彼女の手が素早く印を組む。

 背後に煌めく後光が、キアラの肉体を包み、何某かの効果を放ったことが理解できる。

 その光が収束したのは彼女の両の手。それに触れてはならぬと断じたところで、また目の前に出現する。

 

 

「遅い」

 

「っ……!」

 

 

 転がるようにしてその光る手を避けたのだが、その衝撃で空気が破壊された音がする。

 視界の端で一条のビームが放たれていることが確認できた。

 そのタイミングで、ラニからの援護が入る。本来ならサーヴァントにかけられるべき耐久上昇。サーヴァントの耐久をワンランク上昇させられるほどの魔術。おかげで、多少程度であれば人体の限界を超えた強化を成すことに成功しーーー。

 

 

「らっ……!」

 

 

 気がつけば、殺生院キアラの下腹部を蹴り飛ばして、その硬さによって一切のダメージを通せないまま三十メートルほど吹き飛んでいた。

 その最中に見たのは背後からキアラの頭を狙う遠坂。すでにいくつかの宝石を直列につないで起動していて、七条から成る虹の砲撃がその体に直撃した。

 

 

「やった……!」

 

 

 思わず言葉を漏らす。

 あれはどう考えても、サーヴァントであっても殺しかねないレベルの一撃だった。

 たとえ殺生院キアラがどれだけ固かろうと、あの一撃では人間である以上は損傷を得ている。

 そう、誰もが思っていた。

 

 

「え……?」

 

 

 だから、砲撃が直撃したことで生まれた土煙が晴れた時。そこにあった光景に誰もが思考を放棄してしまったことは仕方ないことなのかもしれない。

 まさかーーー。

 

 

「遠、坂……」

 

 

 遠坂凛が、あの攻撃を持ってしても一切のダメージを与えられず、その心臓を抜き取られて潰されているなんて、きっと誰も思いもよらなかっただろうから。

 

 どう見ても死んでいる。即死だった。

 

 

「嬢ちゃん!」

 

 

 ランサーの叫び。経路が途切れている。すでに死んでいる。どうしようもない。彼はランサー。キャスターとして原初のルーンを持ち込んでいることに成功していればあるいは、消滅までの時間でルーン魔術による蘇生が間に合ったかもしれないが、今の彼が扱えるルーンでは決して自らの消滅までに間に合わない。

 その光景はあまりにも予想外だったからだろうか。わずかに全員の動きが止まった。だが、だからと言ってティアマトに対する攻撃を止めることはなく。けれど、マスターたちが殺生院キアラを倒しきるまで攻撃を食い止める、という目的からすれば、そのわずかな時で防衛網が多少崩れたことでその再構築、それもランサーが消えることでランサーの部分を誰かが埋めないといけない事実は多少の厳しさをはらんでいて。

 

 

「あ……」

 

 

 気がつけば。

 

 

「ああ……」

 

 

 ラニが気がついた時には。そしてアサシンが気がついた時には。

 

 

「■■■■■■■■■ーーーーーー!!!」

 

 

 岸波智仁は、野獣のような叫び声をあげて、限界を超えた身体強化を行って、殺生院キアラの眼前に立って殴り飛ばしていた。

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