※この作品はR-18です。

Fate/Extra Lapse   作:ぴんころ

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四回戦 【いずれ蘇る王】
第四回戦 一日目 『記憶の手がかり』


力を持つが故に道を踏み外す。

 

道を踏み外す為に逸脱した力を願う。

 

この矛盾もまた、人間の証である

 

紛争のない世界、

 

調和に満ちた世界でさえ、特例は現れる

 

 

何の、為に。

 

32人

↓

8人

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:マイルーム

 

 

 

 ーーー二階掲示板にて、次の対戦相手を発表する

 

 

 皆にとっては四度目、俺にとっては二度目となる正規の決戦の開幕を告げる通知。新たな、敵を倒す為の七日間が始まりを告げた。

 端末からの呼び出しに応じて二階の掲示板前にまで向かう。たどり着いた時にはいつものような光景が広がっていて、ただいつものように掲示板に名前が映っている。だが、そこに書かれている言葉をはっきりと視認するよりも先に、後ろから声がこちらにかけられた。

 

 

「あんたが、今回の対戦相手なのか?」

 

 

 

  マスター:衛宮士郎

 

  決戦場:四の月想海

 

 

 

『……そんな』

 

 

 振り返ると、呆然としたアサシンの声が脳裏に響いた。

 見たことのない少年。けれど、アサシンが初対面にも関わらず意味深な反応を取る相手は他にもいた。遠坂や慎二もその中に含まれている。

 だが、その二人と比べても今回の驚きは大きかった。

 もう一度じっくりと見る。彼のことは予選でも本戦でも見なかった。つまり、これが本当の意味での初対面。

 見た目には普通の少年。ただ、日本人らしからぬ赤毛を持っていて、その瞳には何某かの意思を秘めている。

 つまり、これまでと一切違わぬ強敵であることには違いないと断言できた。

 

 

「えっと、あんたが岸波智仁ってやつだよな?」

 

「あ、ああ」

 

「うん、よろしく。これから七日間、正々堂々とした戦いにしよう」

 

 

 差し出された手。それは握手を求められているのだと理解して。

 それは聖杯戦争という殺し合いにおいてはあまりにも好青年じみていて、むしろその人の良さに疑念を抱いてしまう。

 本当にこの手をとってもいいものか、一瞬にも満たない悩みだったがーーー。

 

 

『……大丈夫ですよ、マスターさん。この人は、そういう卑怯な真似は一切しない人です』

 

 

 断言するアサシンの言葉。

 その断言は一体どういう理屈で行われたものなのか。そのことを尋ねたい気持ちは膨れ上がって、けれどこの対戦相手の少年、士郎を待たせるわけにもいかないのですぐに俺も手を差し出す。

 

 

「ああ、よろしく」

 

 

 その言葉とともに彼の手を握り、たっぷり十秒程度握手をしたところで彼が手を離して、そのまま去っていく。

 それを見送って呟く。

 

 

「これまでの相手とは毛色が違うな……」

 

 

 衛宮士郎。

 これまでに戦った二人とは毛色がまるで違う相手。

 間桐慎二は最後まで生きることに執着して、死んでいった。

 殺生院キアラはーーー何を目的としていたのかはわからない。けれど彼女の性格からして、まともな願いだったとは思えない。そんなことを思える程度には見て取れて邪悪な女だった。

 その二つの理想を乗り越えて、第四回戦という立場に自分は立っている。

 左手には、聖杯戦争に参加した一人の殺人者としての証拠が。

 右手には、幾度も敵を葬ってきたサーヴァントという刃が。

 いまだ記憶も戻らない、この身体。

 果たして、自分という人間に彼らの命に釣り合うだけの目的があるだろうか。善きものを望む色がその瞳に取れる人間を殺すだけの価値が、己にはあるのだろうか。

 俺のことを呼び出している彼女ならばあるいは……この、糸口の見えない探求に対しても何かしらの刺激を、光へ連れ出す道標を持っているかもしれない。今は、彼女の状態の確認も含めて、保健室へと向かおう。迷宮の攻略はそれからだ。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーー学園:一階保健室

 

 

 

 そこにはサクラの他に一人の少女がいた。

 その少女は足を組んで俺のことを出迎える。それはまるで女帝か何かのようで。なんとなく失敗しそうなイメージを拭えないままに、その少女ーーー遠坂凛に迎え入れられた。

 どうして生きているのか、ということについてはすでに聞いている。一度死んで蘇る。そんなことまでできる遠坂の力に驚かなかった、と言えば嘘になるが、それでも彼女が生きていることを嬉しく思う心には微塵も嘘はなかった。

 

 

「岸波くん、私あなたのサポートに回ることにしたわ」

 

「……はい?」

 

 

 開口一番、わけのわからない言葉を放たれる。

 

 

「私の令呪はまだ残ってるけど、ランサーはすでに消滅してる。確かに残っているけど……それだけでしかないのよ」

 

 

 彼女の隣に在るべき英霊、ランサーのサーヴァント、クー・フーリン。

 その消失に伴い、使い魔を喪失した現在の「遠坂凛」は如何なる存在なのか。

 セラフによって消去されるはずが、依然として彼女は死んでいない。月の規則は敗北した……サーヴァントを失ったマスターの存在を見逃すことはしないはずだが、これはどういうことだろう。

 

 

「多分……今の私は、生き残るのはただ一人である聖杯戦争のシステムから外れた―――イレギュラー、なんだと思う」

 

「イレギュラー?」

 

「私はサーヴァントであるランサーが消滅する前に死んだ。それに伴ってランサーもマスターがいない状態になったから消滅して、そのあとに私が蘇生魔術で復活したことで、今の私はすでに死んでいると判断されたんだと思うわ」

 

 

 遠坂はすでに死者であると判断されている。

 勝者として進むことも出来ず、同時に敗者として消去されることもなく。

 一度死んだのだから、それに従って消滅してしまい、けれどその上で蘇生されたのだからもうこれ以上の手出しができない。

 規則(マニュアル)に従って判断するセラフでは、規則外の、一度死んで蘇った存在、なんてものに対しての対応が間に合わなかったのだろう。

 

 

「今の立ち位置だと聖杯を狙うことは不可能だけど、私の目的を考えればレオをどうにかしてしまえばどうにかなるわけだし……」

 

 

 癪ではあるけれど、と念を押して少女は笑いかけてくる。

 

 

「本来なら絶対に勝てないであろう相手に勝ってきたあんたにかけるのが一番いいと思ったのよ」

 

 

 ……驚いた。まさかそこまで買ってもらっているとは思ってもみなかったので、その言葉に含められた自分のことを認めるニュアンスには嬉しさを感じざるをえない。

 

 

「で、まあここからが本題なんだけど」

 

「?」

 

「あなた、体は大丈夫なの? あなたが殺生院キアラとの戦いで使っていた強化魔術は、まともに考えれば魔力が絶対に人間では賄えないレベルだし、使おうとすれば脳が焼き切れて死んでいるはずよ」

 

 

 その言葉に思い出すのは『狩猟』ゲームラストの俺とキアラの戦い。

 確かにあの時、最下級のサーヴァントクラスの身体能力まで強化することはできていたし、そこからどんどん己の身体能力が引き上げられているような感じもした。

 それは、この肉体では耐えきれるはずもない代物だった。

 

 

「私もこの数日試してみたんだけど……」

 

 

 そして彼女自身の実験によって、それがおかしいことがより鮮明に示される。

 

 

「私だったら、元から鍛えているから上級程度の身体強化を行えればそれで十分に最下級のサーヴァントとなら身体能力だけなら、まあ食らいつけないことはないとは思うわ。でも、あなたの場合は違う。その強化の倍率はまともなレベルでは決して足りないわ」

 

「……ああ」

 

 

 だから、立証された仮説がある。

 本来ならば絶対に扱えないレベルの魔力行使。それが、彼女の内側でとある説論を生み出した。

 けれど、彼女はそれを口にはしない。

 

 

「だから、その仮説が正しいかどうかを確かめるために、これ持ってアリーナに行って来なさい」

 

 

 そう言って、遠坂は何か差し出す。

 ……宝石をあしらったペンダント。

 一体、これがどういう効果をもたらすのだろうか。

 

 

「それを持って、アリーナの揺らぎに行きなさい。……揺らぎっていうのは、アリーナを形成しているブロックとブロックの隙間。ムーンセルがセラフを作る際の不備よ。ま、世界の亀裂、境界と思えばいいわ。そういうところにはね、この階層にはない情報が漏れているの。規定外の情報。処理されない霊子。ま、残留魔力(ノイズ)ね。その宝石を持っていればノイズと接続できるわ。ノイズは未知の情報だから、うまく利用できれば、貴方の正体を知ることができるかもしれないわ。やり方は簡単よ。ノイズの濃い場所に行けば勝手に魔力を取得するから」

 

 

 自分自身について知る手がかり……。

 それが得られるのであれば、願っても無いことだと断言できる。

 ありがたく、受け取らせてもらうとしよう。

 

 

「どういたしまして。お礼はレオを倒すことでいいわよ。……魔力の濃い場所は光っているから、すぐにわかるはずよ」

 

 

 さあ、行った行ったと送り出されて、保健室から外に出る。

 準備を整えたら、アリーナに行ってみよう。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ーーーアリーナ:四の月想海、第一層

 

 

 

「やっぱりマスターさんはマスターさんなんですね……」

 

 

 アサシンが呆れたような言葉を放つ。

 暗号鍵を求めてアリーナに入った直後のことだった。

 どことなく不機嫌そうに見えるが、その理由はわからない。

 こういうことに関しては、理由を早めに知ってしまったほうがいいような気がする。

 

 

「えっと、それってどういう……?」

 

「いいえ。なんでもありませんよ。ただ、マスターさんはあの遠坂凛ってマスターをそんな簡単に受け入れちゃうんだなぁってだけのことですから」

 

 

 それは絶対になんでもない、なんてことはないと思う。わざわざ口にするぐらいなのだから、きっと怒っている。

 実際、痴女呼ばわりしていたり、となかなかに相性が悪そうだった。

 

 

「さあ、どうでしょう。ちょっと気が立っているかもしれませんね? 何せ、対戦相手があの人なんですから」

 

「アサシンは、あの衛宮士郎って人のことを知っているのか?」

 

「いいえ。私はあの衛宮士郎って人のことは知りません。ただちょっと似ている人のことを知っているってだけのことですよ」

 

 

 知らないのに、ここまで機嫌が悪くなる。

 その理由が気にかからないわけがない。……ただ、今はそれよりも、機嫌が悪いままだとなんとなく勝ち抜けない気がした。

 けれどそんな事実がなかったとしても、きっと俺は同じことを口走っていたと思う。

 遠坂という魔術師は自分なんかをはるかに超える力量の持ち主だ。

 だから戦略的に見るのであれば、彼女の力を借りることは何も間違っていない行動だと思う。

 だが、そこにアサシンの意思が全く介入していない、それを考えなかったという事実は彼女に対して謝るべき事柄なのだから。

 

 

「俺にできることならなんでもするから、許してもらえないか?」

 

「………………………………………へえ」

 

 

 瞬間。最大限の譲歩を言葉で提示した瞬間、不吉極まる後悔の念に襲われる。

 

 

「本当に何でも聞いてくれるんですか?」

 

「俺に出来る範囲なら、まあ」

 

「本当の本当に?」

 

「うん、男に二言はないよ」

 

「だったら私の甘やかしを受け入れて、堕落しちゃってください」

 

「……それは無理かなぁ」

 

 

 アサシンのいつもの言葉。それに対していつもの返答。

 なんでですかーと文句を言ってくる彼女だが、それを受け入れてしまえば俺が俺で無くなってしまうような気がする。

 今ここにいる俺は、それを受け入れないことを根幹として立ち上がっている。だから、それを受け入れることだけは、岸波智仁(おれ)という人間には不可能なことなのだ。

 

 

「……まあ、いいです。こんな形でお情けで堕落してもらうようなことは、つまらないので。……代わりに、お願いについてはちゃんと考えておきますから。せいぜい恐怖しながら待っててください」

 

 

 しばらく文句を言っていたアサシンだが、その言葉とともに普段通りの調子に戻る。

 彼女に預けた一回限りの絶対命令権。それは、いずれ来るであろうとんでもない要求に対する恐れを生み出して今この場では終結した。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 自分にとっての二回戦、三回戦が異例だったこともあり、本来の聖杯戦争はどこか懐かしい。

 各マスターに義務付けられた二つの暗号鍵の取得。六日間の猶予期間に課された試練を突破せずして、七日目の決戦に臨むことは不可能だ。

 当然の措置として、猶予期間内の決闘はセラフによって即座に中断されてしまう。あるいはセラフの中断が入るよりも早く敵を仕留めることが出来れば、わざわざに決戦を待つ必要は無いということでもある。

 さて、自分たちは第一層の最奥にまで到着していた。

 無機質な外装に囲まれた広大な空間、その中央には後天的に設置されたような違和感が存在する。見間違うはずもない。それは決戦場への扉を開くための条件、暗号鍵(トリガー)が隠されている特殊なアイテムボックスに他ならない。

 それを開放し、隠されていた鍵を手に入れる。

 これで試練の内の一つをクリアした。何ともまあ呆気ない。

 

 

「……久しぶりに聖杯戦争っぽいことしてますね」

 

「ああ、うん。そうだね」

 

 

 しかも、かなり簡単に暗号鍵を手に入れることができてしまった。

 エネミー相手に苦労することもなく、敵対サーヴァントの邪魔を受けることもなく。

 なんだか、自分が強くなったような気がする。

 二回の戦い。どちらも尋常ではない相手ではなかったが故に、彼らを克服したことは相応の進化と確かな自信をもたらす結果となったのだ。

 

 

「特に、狩猟に関してはマスターさん自身が倒す羽目になりましたもんね」

 

 

 クスクス笑うアサシンに顔をそらす。

 いや、流石に自分でもあれはどうかと思ったのだ。

 その時の記憶はないがどうやら俺が倒したらしく、サーヴァントの強化じゃなくてマスターが強化された、なんてことも言われたりした。

 

 

「なんだ、岸波も来てたのか」

 

 

 そんな、今日に至るまでのことを思い出して少し感傷に浸っていると、後ろから声が聞こえた。

 すでに一度聞いた声。予想はできたがやはり、振り返ると、そこには士郎の姿がある。

 

 

「えっと、どうする? せっかく会ったし、ここで戦うか? 俺としては暗号鍵の入手を急ぎたいから、通してくれるとありがたいんだけど……」

 

 

 此処はアリーナ、目の前の相手がどうあれ警戒は必要だ―――と考えた矢先のこと。頭を掻きながら、士郎はそんな、戦わないという選択肢をこちらに対して向けてくれた。

 一切の情報がない今、できることなら俺も戦闘は避けたいと思う。

 しかし、それが罠という可能性は?

 彼の人の良さも、今の言葉も、何もかもが、背後から此方を仕留めるためのブラフでないとは……否定ができない。判断が定まらない。

 

 

「シロウ、それを語るのでしたら、まずは一度私たちが退くべきでは?」

 

 

 いいや。彼女の前では、そんな小賢しい思索が無益なものだと気付かされた。

 士郎がどれだけの魔術師なのかはわからない。けれどその少女はサーヴァントの中でもトップクラス。そう確信させるだけの覇気を放っていた。

 黄金の御髪。強靭な意志を秘めた翡翠の瞳。王女と見間違う白いドレス。その総身から放つ清澄なまでのオーラは、彼女が正当にして強力な英霊であることを示している。

 

 

「アーサー王……」

 

 

 ポツリと呟かれたアサシンの言葉は耳には届かない。

 この女性には見覚えがある。狩猟ゲームの際に、一度協力をしてくれた女性。彼女が四回戦の相手であったことに驚くと共に、彼女があの戦いの時に使っていた攻撃手段を思い出していた。

 

 

「あ、ああわかった。今日は俺も戦うつもりはないし、先に行くんだったら行ってくれて構わないよ」

 

「そっか、助かる。……ほら見ろ、キ(・)ャ(・)ス(・)タ(・)ー(・)。まずは何事も話してみないとわからないだろ?」

 

「ええ、そうですね。今回の対戦相手も、貴方と同じく善性の人物ではあるようだ」

 

 

 今この場で戦っても決して勝ち目はない。そのことを理解しているから、俺たちは隙を見せないようにしながらも、リターンクリスタルをすでに取り出している。

 

 

「覚えてますか、マスターさん? あの人、ティアマトとの戦いの時に武器を使っていました。……ほとんど、魔術は使ってなかったんです。あれだけの力量を持っていて、それでも本職は魔術ってことは……」

 

 

 考えるまでもない。とんでもなく強力な英霊だ。

 剣士として戦っていたのだから、魔術師としての実力はほとんど使っていなかったのだろう。

 それでも、魔獣たちをあっさりと倒し、ティアマトの進行を押し留めることができる。

 それだけの実力を持った、英霊だ。

 

 その事実に足が後ろに下がる中、残留魔力に近づいていたらしい。宝石が、その魔力を収集する。

 少しの違和感が体に襲い掛かったのを契機として、俺はリターンクリスタルを発動する。

 視界が歪む中、士郎が先に進むのを最後に見て。俺たちはアリーナから脱出した。




まさかのFGOで出る前にキャスターアルトリア。ちなみにエミヤの三回戦の相手でもあった。

……プロットくんどうして消えてしまったん……? 修復は大変なんだよ??
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