―――学園:マイルーム
第一回戦最終日、決戦の日。自分とと慎二、どちらかが退場する日である。
曖昧な結果は許されない。
それは確実に一個の生命が途絶える戦い。本当にそうだろうか、と疑いたくなる。”死”という現実からかけ離れた言葉には、未だ真実の響きは感じられない。
――――全ての準備が出来たら、私の所に来たまえ。
――――購買部で身支度をする程度は、まだ余裕がある。
――――ささやかながら幸運を祈ろう。存分に、殺し合い給え。
聖杯戦争における監督役NPC・言峰に聞かされた内容は重苦しい現実であった。
否応なしに直視させられる、
逃げることを許さない神父の言葉は、七日目を迎えた自分の心に暗く影を落とした。
言峰に話しかければ闘いが始まる。
決戦場への扉が開かれる。
ただ、それまでには幾らかの猶予があった。マイルームにて、敵の情報を整理する程度の時間が。その思考が命運を分ける一手となるやもしれない。此処は慎重にこれまでの六日間を想起してみよう。
――――間桐慎二。
――――予選の頃は仮初ではあるものの”友人”として過ごした男。
決して悪い奴ではない……と自分は信じている。
他者を軽んじる性格も、慎二ほどの実力があってこそのものだ。その事実は、アリーナの出入り口を封鎖できる彼の力量からして疑う余地など全くない。
けれど、アリーナでの初邂逅時、慎二が連れていたのはそんな彼の実力が霞むほどの”
鐔の広い帽子を被り、マントに身を包むことでその痩身を隠した男。
慎二のサーヴァントを相手にした時、自分たちは手も足も出なかった。いくら力のほとんどを失っているとはいえ、アサシンを真っ向から圧倒したその男の使っていた武器はーーー。
「槍、そして魔術。その中でも基本的には魔術を多用したことから、俺たちはキャスターと予想した」
相対しただけで恐怖を感じてしまうほどのサーヴァント。
あらゆる手立てが一切通用しない状況、というものだったがゆえにアサシンがその後に諦めることを勧めてくるというのも仕方がないものだと今となってはそう思う。
けれど、そうしなくてよかった、とまた同時に思う。
そうしなかったからこそ、慎二のサーヴァントが呼んだシャドウサーヴァントと呼ばれる存在を倒せる程度にまでアサシンの霊格を回復させることに成功したのだから。
そうして呼び出されたシャドウサーヴァント。そのサーヴァントのことを、あの二人はーーー。
「
「はい、そうですね。そしてそれはーーー」
それは、とある神話において戦死した勇者の魂と言われる。
その神話の主神が戦乙女たちを使って集め、とある館にて最終戦争の時を待ちながらも、その時に備えて常に殺し合わせている勇士達。
その神話の名称は、慎二が隠した本にあった。それはーーー。
「北欧神話、ですね」
「うん。慎二の隠していた本は、北欧神話についての本だった」
そして、慎二は俺たちが真名にたどり着くためのワードを幾度もこぼしていた。
そのワードは”
ワイルドハント。ヨーロッパの大部分の地域で語られる伝承。場所によっては”嵐の王”と呼ばれる、伝説上の猟師の一団が、狩猟道具を携え、馬や猟犬と共に、空や大地を大挙して移動していく、その集団を率いる存在は多様に存在する。
ワイルドハントだけでは真名を固めることは不可能。北欧神話だけでも真名を固めることは不可能。
けれど、その二つが重なればある程度は絞ることができる。
そこに、遠坂凛の語った『世界的に有名な剣か槍』という言葉。それの持ち主はたった一人しかいない。
ーーーヘルラ王だろうか。
いいや、違う。彼には剣や槍の逸話、と言われてすぐに思い浮かぶようなものはない。
ーーーアーサー王だろうか。
いいや、違う。彼は北欧神話に名を連ねる英霊ではない。
ならば、彼の真名とはーーー。
「オーディン……北欧神話の主神にして、英雄達を引き連れた
俺が出した回答に、アサシンは多少真剣な瞳を見せて頷く。
ーーーオーディン。
それは北欧神話の主神にして、
神霊なんて呼び出せるはずもない聖杯戦争においてどういう理屈でオーディンなんて大物を呼び出したのかはわからないがーーーなるほど。確かに慎二のあの自信も納得できるサーヴァントだ。
彼の逸話には様々なものがある。
例えば、ユグドラシルの根元にあるミーミルの泉の水を飲むことで知恵を身に付け、魔術を会得した逸話。片目はその時の代償として失ったとされる逸話。
例えば、神々の世界アースガルズにあるヴァルハラに住み、フリズスキャールヴに座り、世界を見渡しているという逸話。
そんな彼には愛馬として八本足の馬スレイプニル。そして使い魔としてフギンとムニンという二羽のワタリガラスが存在していて、カラス達は世界中に飛ばし、二羽が持ち帰るさまざまな情報を得ているという。
そんな彼に勝つ手段。死因は確かに存在する。
なぜなら、神話には珍しく、北欧神話は神々にも不可逆の死が存在する。オーディンに与えられた死は、ロキの息子である神狼フェンリルに飲み込まれて死亡するというもの。
決して用意できるはずもないそんな代物。つまり、相手の弱点を用意して倒すことは不可能。
真名を知った今となっては、彼が動く理由であった「知りたい」ということも納得しかない。そもそもの神話においてそのために様々な行動を起こしているのだから。
ただ、一つだけ問題がある。今もなお、彼に関わる情報で開示されていないものがある。
「あとはクラス、だよな……」
そう、ここまでわかっておきながら、その真名もわかっておきながら、クラスに関してはわかっていない。
オーディンの扱う槍、グングニル。それを主軸に扱ってくるのであればランサーだろう。
オーディンが手に入れたというルーン魔術。それを主軸に扱うのであればキャスターだろう。
あるいは、未だに一度も見たことのないオーディンの愛馬スレイプニル。それを宝具とするのであればライダーだろう。
真名がわかったからこそ、そこにライダーという新たなクラスの可能性が現れてきたことは、ここに確かに事実としてあった。
「一番の有力候補はキャスター、だよな」
「どっちかっていうとライダーじゃないですか?」
「……ライダー?」
「はい」
どうして、ライダーなのだろうか。サーヴァントを
「成り損ないだから、ですよ。もしも本当にキャスターなら、普通のサーヴァントを召喚できると思います」
「そうなの……?」
「はい。だからこそ、シャドウサーヴァントとして召喚するのであれば宝具による召喚が一番近いです。そうなると……」
「亡霊を引き連れたワイルドハントとしての側面……」
そしてワイルドハントの首魁としてのオーディンは、スレイプニルに乗っている。なるほど。確かにライダーとしての側面の方が近い気がする。しかも、一つの神話体系の長でもあるのだ。わざわざ成り損ないで召喚する理由もない。そう考えると彼女の意見が正解だろう。ただ、真実はまだわからないので、はっきりと決め付けることだけはしないでおこう。
「俺、全力で戦うよ、アサシン。何をすればいいのかなんてまだわからないけど、それでも今は死にたくないから」
「ええ、それが言えるなら今は十分です。……さあ、決戦場に行きましょう」
俺たちは揃ってマイルームを脱出する。
そして一階に降り、待ち構えていた言峰に声を掛けた。途端、用具室だったはずの空間が一つのエレベーターへと変貌し、アサシンと共にその中へと歩みを進める。
もう逃げることは出来ない。
自然と、自分の右手は握り締められていた。これから己が行う殺し合いに冷や汗が止まらない。
だが、例えそうだとしても歩みを止めるわけにはいかない。隣のアサシンは平然と、これを当然のものとして受け入れている。ーーー戦おう。死地を切り開くには、そして彼女への恩を返すという己の意思を押し通すには戦う以外に活路はない。
ーーー???:昇降機内部
「なんだ、逃げずにちゃんと来たんだ。ああ、そう言えばそうだったね。学校でも生真面目さだけが取り柄だったっけ、キミ」
中央を透明な壁に仕切られた狭い空間。無機質な音を立てて下っていくエレベーターのなか、この一週間何度も顔を見合わせてきた対戦相手と向かい合う。
胸元を大きく開けた青髪の少年、自分が戦う第一回戦の敵である、間桐慎二。
対面と同時に彼の哄笑が響き渡った。
限定された箱部屋は障壁に仕切られているため、何をされようと相手に危害を加えられることは有り得ない。それを知っての虚勢か。それとも既に勝利を確信しているからこその余裕だろうか。
「でもさ本当、空気読めないよね。どうせ負けるんだから棄権でもすればよかったのに」
「……やってみないと分からないだろ」
「何だかなあ……僕との差を考えろよ。学校でも一度だって僕には勝てなかっただろ?」
僅かに苛立ちを滲ませた口調で慎二は捲し立てる。
「何度も言ったよね。凡人がいくら努力しようと、天賦に届くわけないんだって……まあ、相手が誰であれ関係ないか。どうせ僕には誰も勝てやしないんだから」
慎二は元々、自信家なところのあった少年だった。けれど今の彼はそれだけが原因ではなく、その自信を助長させるだけの根拠があった。
彼の瞳が自慢気に見つめるサーヴァントの男。多くの英霊とは一線を画すであろうその
「分かるかい? 僕と、オー……僕のサーヴァントは最強だからね」
危うく真名を呟きかけ、慌てて慎二は訂正する。
その様子をアサシンはクスクスと笑い、俺もまた彼を動揺させるための一手を打つ。今の言葉からして慎二は気付かれていないと安心している。それなら、この事実は彼の慢心を揺さぶれるはずだ。
「隠す必要はないよ、慎二。もうとっくに、お前のサーヴァントの真名はわかっている」
「なっ……!? そ、そんなハッタリに騙されると思っ……!」
食いついた。効果が見られる。この
その瞬間、彼の顔は蒼白に染まり、そのサーヴァントはわずかに感嘆の声を上げた。
「北欧の主神、オーディン。
「なっ、馬ッ……ちがっ……!?」
「ふむ……ようやく我が名に辿り着いたか。我が主人が幾度となく真名に関わる情報をわざわざ出していたのだ。もう少し早くたどり着くと思っていたのだが」
慎二は狼狽して否定を繰り返すが、サーヴァント本人が認めてしまえば元も子もない話だ。自分では完全に隠し通せたと信じていたのだから尚更だろう。慌てふためく慎二の様子は当然のことに思われた。
「な、なに白状してんだよお前!? 真名の重要性が分かんないのかよ!?」
「うむ? エインヘリアルというワードを出したり、我の真名に関わるワードのみを隠してブラフとなるようなものを隠すこともしなかった故に、真名を最初から知らせるつもりだったのではないのか?」
「そ、そんなわけないだろっ!」
あれで本気で隠しているつもりだったのか。
慎二以外のこの場にいる三人の思いが一つになる。
「ま、まあいいさ」
多少は叫んで落ち着いたらしい。
未だに真名を知られたことに対する怒りと焦りはあるのだろう。けれど多少は落ち着いたのか、慎二は騒ぐことをせずにこちらに話しかけてくる。
「ところでさ、良い提案があるんだけど……君、今回の試合わざと負けない?」
「どういう意味さ……?」
「察しが悪いね。戦いってのは如何に戦力を温存するかだ。ほら……僕の圧勝は目に見えているわけだけど、それでも本当に、本当にちょっとだけ消耗することになるわけだろ? そこが痛いところでさ、君がわざと負ければ僕も力を消耗しないし、君も痛い目にあわずにすむ!」
実に合理的で、双方にメリットがある提案だ――――と。
流石に馬鹿らしすぎたのかアサシンからも笑いが消えて溜息が零れた。俺もノータイムで否定する。
「……はあ、やっぱり馬鹿なんだな、お前。そっか、分不相応の力を手に入れちゃって、僕に勝てるとかドリーム見ちゃったのか。なんだかなぁ……」
「いや、勝てるとか負けるとか以前に、その提案は……」
「おい、そこのサーヴァント。お前からも言ってやれよ。諦めたほうがいいって」
不可能じゃないか、という自分の声は上げることすら許されずに、俺と話をしていても埒が明かないと確信したのか慎二の興味はアサシンに向かう。
慎二の視線につられるようにしてアサシンに視線を向けて後悔した。
その瞳は冷たい、どころではない。もはや殺意すら漂わせている。ボソボソと呟くアサシンに恐怖を感じるのは俺だけではなく慎二もだったのか、ひっと声を漏らした。
「は? なんですかこれ? こんなのだってわかってましたけど、それでもこんなワカメにこの依代が……」
言っている言葉の意味は理解できない。けれどバカにされていることだけは理解できたのか、慎二は声を上げようとしてーーー。
「ま、いいです」
それを、静かすぎるアサシンの声が掻き消した。
「あなたがどれだけ愚かだろうと、どれだけバカなことを言おうと、どれだけ虚栄を誇ろうと。ーーーええ、私はそれを愛します。だってそれが
理解が、できない。
彼女の精神構造が理解できない。
その圧倒的なまでの包容力。そこに不気味な何かを感じ取ってしまう。
その愛に溺れてしまえば、きっと取り返しのつかない何かにたどり着いてしまう。そんな予感を。
「ですので、どうぞご自由に。自分にとって都合の良すぎる、絶対にありえない未来を思い描いてください。そんなワカメヘアーをかっこいいと思っているのか何か知りませんけど、現実が自分にとって都合が悪ければ他人のせいにするんでしょう? そんな
「お前……僕のことを馬鹿にしたな!?」
普段の自分に対するものに比べることすら烏滸がましいほどの、慎二への罵倒。
俺に対しては諦めたりするように言うだけのものだが、慎二に対してはその思考を嘲笑しながらの言葉。
それすらも愛すると言う彼女に、「全てを嫌いながらも全てを愛する」という言葉のおぞましさを初めて理解したような気がする。
「くっ……このッ、マスターも平凡だったら、そのサーヴァントも平凡なんだな! 実にお似合いだと思うよ! 低劣な奴ら同士、群れてればいいさ!!」
「あら、マスターとサーヴァントが似たような存在、ですか。そうなると貴方のサーヴァントは貴方と同じように、煽りに弱くて、情報を隠す手段もまともにわからない、そんな間抜けなサーヴァントということになりますね」
「
アーチャー? 一瞬怪訝に思ったが、どうやら慎二たちはアサシンのクラスに気がついていないらしい。
それならそれでいい。
少しでも情報を隠しておけば、相手が気がついた瞬間に驚かせることができる。
ただ、ライダーの気配が何かを理解したかのような、納得しているような雰囲気を見せているのが謎だった。
「それなら、自分でそっちのワカメさんを止めたらいいじゃないですか? 私の発言を否定はしていないんですし、その辺りのことは理解しているんでしょう?」
「む……」
「どうして黙るんだよ、ライダー!」
ここで、ライダーだということも確定した。
慎二が激昂し、アサシンがさらりと流してライダーが慎二のフォローをする。そんな会話の繰り返し。
いい加減に慎二もアサシンに対して激昂しても意味がないと気がつけばいいのに。そう思いながらも見下すような笑みを浮かべるアサシンに、先ほどの笑みを見た後では声をかける気にもなれずに好きにさせてしまう。
そうこうしている内にエレベーターは終着点へと到達し、軽い音を立てて、決戦場へと続く二つの扉を開いた。ああ、ようやくこの時が来たのだ。
「素直に降参しておけば、とどめの一発くらいは勘弁しといてやろうと思ったのにな。まったく馬鹿な奴らだよ。後悔しても遅いんだからな!」
「何とでも言えばいいじゃないですか。どうせ負けて死ぬんですから、まだ口が存在するうちに好きなだけ吠えておきなさい」
最後の最後まで慎二とアサシンは言い争う。
自分とライダーはその間、自分はアサシンがまともに相手をする気がなく、けれど嘲弄していることに、ライダーは己のパートナーの子供っぽさに、それぞれ種別は違えどパートナーに対する呆れという面で心が一致していたような気がした。
ーーー決戦場:一回戦
暗黒と見間違うような海底。長く忘れ去られた沈没船の甲板を舞台に、死闘が開幕する。
観客はいない。歓声も無ければ、悲鳴も響かない、そんな静謐とした世界にて、俺とアサシンは、慎二とライダーは、それぞれを敵と見据えて対峙する。そんな俺たちの闘志を受けて、水底の静けさとは裏腹に、戦場の熱気は一秒ごとに荒ぶっていく。
「さあ、それじゃあ始めましょう、マスターさん。私たちの願いを叶える第一歩、ここでつまずくわけにはいきませんよ?」
そうだ。もう、すでにアサシンの願いはアサシンだけのものではなく、俺にとっての願いでもある。なぜなら、彼女の願いを叶えることが俺の戦う理由なのだから。
「はん、弱い犬ほどよく吠えるってね。生きてるのが耐えられないくらいの赤っ恥をかかせてやるから覚悟しとけよ」
甲板の上。向き合うようにして佇む敵の魔術師に、容赦なんて言葉は無いのだろう。
おそらく彼は、自らの自己顕示欲をを存分に満たすために、此方を全力で潰しに来るはずだ。そんな彼に慈悲を期待するだけ無駄だということ。
「……よかろう。貴様の望み通り、こやつらに敗北以上の恥辱を与えるとしよう」
ライダーは一歩ずつ歩みを進める。
右手には槍を、左手はルーン文字をなぞり。そして己の機動力を呼び出した八つ足の馬、スレイプニルに託すことで、真に万全の状態で。
この
未だに一度も、魂の改竄以後にライダーと戦ったことはない。今の自分たちの実力が通用するのか、そんな不安がないわけではない。
だが、事前にやれることは全てやったのだ。ならばあとは結果を出すだけのこと。
「マスターさん……!」
指示を、促される。その言葉を口にした瞬間、自分は自分のままではいられない。
それを分かっていて、いいや、わかっているからこそ、その言葉を決意として、その言葉を放つという決断を覚悟へと変貌させて。退路を断ち殺人者になるという宣言。言え、言うんだ。たった一言、”それ”を叫ばなければ―――!!
「頼む、勝ってくれ……!!」
「ええ。あなたがどうしてもというのなら」
俺の下した命令に、少女は
ライダーが槍を引いて構える。
アサシンが弓だけではなく、黄金の杵を周囲に徘徊させる。
合図はない。けれど互いの覇気はどんどん高まり、普段のアサシンを知るがゆえに一種異様にすら思えてしまう。
予兆はひしひしと伝わってくる。ある程度の距離にまで詰めたところで二人の動きが止まりーーー途端、ライダーの槍とアサシンの矢が激突して、その魔力を火の粉のように散らした。
両者の武器が激突した衝撃が戦場を疾く駆け、船の帆を揺らす。
これが、サーヴァント同士の戦い。
これこそが、聖杯戦争。時と場を違えど、まさしく諸人の信仰を集めた当代無双、万夫不当の英傑同士の衝突。
甘く見ていたわけではない。己の想像し得る最大の激突を思い描いていた。けれどそれですらまだ甘かった。
そもそもが、英雄とは現実では、個人ではありえぬほどの偉業を成し遂げたからこその敬称。ならば、そんな彼らの激突とはつまり、
そのことを、ようやく理解した。
「しっかりと溺れさせてあげますよ」
「黙れ、堕落をもたらす者よ」
……ライダーの言葉からして、すでにアサシンの真名を把握しているのだろうか。
それとも、これまでの発言からしてアサシンの性格を読み取っただけなのか。その真実は己にはわからない。
ただ、純粋な敵意のみがライダーには存在した。
事、ここに至っては交わす会話など存在しない。そう示すように。
ーーー