「……ここは?」
気がつけば私は森の中にいた。周囲を見渡しても多くの木々が上に伸びており、見上げれば大量の葉っぱで日差しを遮っている。
……私は町の中を歩いていたはずだ。いくつかの建物が並んでいる歩道を歩いていて、緑があったとしても草が花壇しかなかった。
「なんでこんなところに……?」
町から森に行く予定はなかったし、仮に迷い込んだとしても風景の違いで気づくはずだ。
とにかく町に戻るために自分がいる場所を確認しようとした時だった。
「こんにちは、お姉ちゃん」
予想外の幼い声に呼びかけられ、びっくりしながらも私は聞こえた方向に振り向いた。
背の低い女の子が首をかしげながら私を見上げていた。その時私は、この子が普通だとは思えなかった。一人で森にいるのも変だし、ツインテールの髪が左右それぞれ青と赤に染めているし、着ているフード付きのコートは皮の裏側みたいな感じで気味が悪い。
それに……さっき森を見渡した時はこの子の姿がなかった。
「こ、こんにちは……ねえきみ、ここはどこなの?」
どんなに普通とは思えない子供が相手でも、自分の場所を把握して町に戻らないといけない。
私はそう尋ねるが、少女は首を横に振った。
「しーらない。それよりお姉ちゃん」
今度は女の子が目を輝かせて私を見上げた。
「私、変わった生き物を捕まえたんだよ」
「変わった……生き物?」
「うん。見てみる?」
正直生き物よりここがどこなのかが知りたいが……下手に断ってこの子が泣き出したら困る。
私は彼女の質問に頷いた。虫やカタツムリの類でないことを期待して。
「見せて。どんな生き物なの?」
「えへへ、はいこれ!」
少女はそう言って背中に隠していた両腕を前に回し、掴んでいる何かを私に見せた。
私は一瞬、それはどういう生物なのかは分からなかった。いや、知っているがそういうモノだと理解したくなかった。
だって、その生き物は髪が長い人の頭そのもの――
「ひっ!? いやあああぁぁー!?」
私は肺から全ての息を吐き出すほどの悲鳴を上げた私の視線は、少女が持っている人間の生首から外せられなかった。
腰を抜かしてしまった私と違って、“それ”を持っている少女は不愉快そうに私を見下ろしていた。
「もう。そんなに叫ばなくていいじゃん」
「だ、だだだって……人の生首――」
「よく見て。ちゃんと体はあるんだよ」
少女の言葉に従ったわけではないが生首だけだと思っていた“それ”を注視し、彼女の言葉通り体があることが分かった。
いや、分からなかった。確かに首から下は体が存在している。しかし、それは人間というより、何かの小動物の体だ。
腹一面が真っ白な、背中側が焦げ茶の毛皮に、四肢の先端は黒っぽく覆われている。尻と思われる部位からふんわりとした尻尾が生えている。
人頭と狐の身体を継ぎ合わせたような生き物だ。
目を閉じていたそれは瞼を開けた。生きている。少女に掴まれたぼんやりと周囲を見渡したそれは、今の自分の状況に気づいて目を見開き、私に向かって女性の声を上げた。必死なのがわかる。
「た、助けて! 私の体が、獣に変えられた! こ、こいつが! 私の体を――」
「うるさい」
助けを求める人頭狐を少女――いや、少女の姿をした“なにか”が地面に叩きつけた。痛みで動けない彼女を見下した直後、視線を私に移した。少女の目は獣……いや獣とは比べ物にならない恐ろしい存在そのものをしていた。
すぐさま私は駆け出した。私に向かって「助けて」と繰り返す人頭狐の声が耳に入るが、どうすることもできない。彼女を人間に戻すことも、得体の知れない少女に立ち向かう勇気を出せるわけがない。
私が今するべきことはこの場から逃げ出すだけだ。少女が追いかけてきてないか、私は走りながら背後を振り向いた。
少女は追ってこない。代わりに数本の生々しい管がこちらに伸びてくる。
その管の先端が私の背中に刺さった。激痛に悲鳴を上げようとするが、背中全体に広がっていく不快な感覚にうめき声を漏らす。
身体の中が蝕まれるように管に張り巡らされ、私の体が変えられていく。
全身が音を立てながら歪に縮み、先程の人頭狐のような白い毛と茶色い毛に覆われていく。
両足が縮小していき、靴、ソックス、ズボンと下着の順にずり落ちていき、黒い毛に覆われた後ろ足に変えられる。
両腕の付け根が前に移動していき、両手が肉球の生えた前足に変化させられる。
臀部から何かが盛り上がって伸び、毛に覆われた尻尾が形成される。
体の中身をかき混ぜられるような激痛と不快感が治まり、私は深呼吸をしていた。その時、宙に浮いているような感覚に気づき、私は足元を見下ろした。
私が着ていた服、下着、靴が真下に散らばっていた。
そして、先程の人頭狐と同じ毛皮の体が視界に入り込んでいた。普段ならその位置は私の体があったはずだ。つまり……
「う、うそ……わ、私の体が――」
今の自分の体を理解してしまい、絶望に飲まれる寸前だった。
突如私の体が真後ろに引っ張られた。振り向くと私を変えた管が未だ背中に刺さっており、それに引っ張られていると気づいた。その管は人頭狐を見せてきた少女の袖口から伸びていて、勢いよく引かれていた。
背中から管が抜けて袖口に入った直後、私は異形の少女の手に掴まれた。恐ろしい笑みを浮かべる彼女に顔を近づけられ、こう言われた。
「どう? 動物になれる経験は滅多にないでしょ♪」
そして地面に放り投げられ、上手く着地できずに叩きつけられた私は痛みに我慢しながら立ち上がった。すぐそばには先程の人頭狐が心配そうに見ていた。
異形の少女に見下されている私達は再度逃げ出そうとしなかった。いや、逃げ出せなかった。もしもまだ逃げたらもっと恐ろしい目に合いそうな気がしたからだ。
だからといって首から下が狐のままでいる事は受け入れられない。私は人間の頭を下げて頼んだ。
「お、お願いです……私達を、人間に戻してください……」
「じゃあ、その体でレズセックスをしてよ」
「「えっ」」
即答してきた異形の少女の言葉に思わず、合わせて声を上げた私たち。異形の少女は言葉を続けていく。
「それで先にイッた方も完全に狐ちゃんに変えて、残った方は解放してあげる♪」
先にイッた方って……先に相手をイかせないと駄目なの?
……お互いの狐の体を抱かないといけないわけなの?
人間要素が唯一残された頭に次々と疑問が浮かんでくる。
しかし、疑問を解く暇もなく突然何かがぶつかってきて、仰向けに私は転がった。混乱する私は起き上がろうとしたその時だった。
もう一人の人頭狐が私に乗りかかった。視界には狐の尻尾の付け根と……鼻先を近づけたくないお尻の穴とアソコしか入らなかった。
「な、なにするんですか!?」
「私は人間に戻るのよ! 狐として生きるのはごめんだわ! さっさとイキなさい!」
焦りと苛立ちが込められた彼女の言葉に返そうとした直前、私のアソコが湿った何かで触られた。
「ひゃう!?」
変な声を上げてしまった私は股間に伝わる感触に我慢しながら顔を起こした。
私と彼女の毛皮の腹の間から、彼女が私の股間に口を近づけていた。それはどういう意味かを私は分かってしまい、やめさせようと声を上げ続けた。
「や、やめてください! なんでそんなことするんですか!?」
「先にイッて狐になるのがあんたよっ! 私の人生はこれからなのよ!」
「わ、私だって獣に変えられたくない……!」
「はっ! あんたと違って、私には価値があるのよ! 無駄に出来ない価値がね!」
……さっきはこの人からぶつかってきたんだ。こんな自分勝手な人とは思わなかった。こんな人を人間に戻すために私は狐に変えられなきゃいけないの?
ドス黒い感情が胸と頭の中を染まった私は、目に映る狐の下半身を両前足で抱き寄せた。そして、毛皮に覆われた大陰唇にしゃぶりついた。
「いっ!? な、何やってんの、あんた!?」
私の陰部を舐めていた女性が感じながらも聞いてくるが、もう返事をしたくない。味わったことのない陰部の味と匂いにむせそうになりながらも、私は舐め続けた。大陰唇と小陰唇の隙間の粘膜に舌を押し当て、陰核、尿道口、膣口を交互に舐め回していく。しばらくして分泌されてきた愛液が私の口に入っていく。
私の舌が効いてきてるのか相手は体を何度も痙攣させるが、再び私の陰裂に口を近づけて責めてきた。
今の私達は自分が人間に戻るためとはいえ シックスナインをしている二匹の人頭狐に見えてるかもしれない。現に異形の少女が見ていて笑っているのが分かる。
「そ、そんな……まだ、イキたく……ないのにぃ……」
先にクンニしてきたはずの女が甘い声を上げるのを聞いた私は、さらに舌を動かして刺激を与えていく。それに加えて、膣道に溜まっている愛液を吸い付くしてみた。
「い、いやぁ……イッくぅぅぅ!!」
絶頂に達してしまった彼女が人間の口から嬌声を上げると同時に、私の顔に彼女の潮が飛び散っていく。レズセックスに負けた人頭狐は私の上でへたり込んだが、異形の娘に持ち上げられ顔を近づけられていた。
「先にイッちゃったね?」
「ち、ちがうの……あいつが先に……」
青ざめた表情の人頭狐は弁解するも、異形の娘が「ダメダメ」と指を振って窘める。そして指を振っていた手を細い管に纏わせていく。私の身体を狐に変えたモノだ。その手を人頭狐に近づける光景を目にした私は、自分の前足で両目を覆った。絶対に見てはいけない光景が始まる気がしたからだ。
「ぎゃあああぁぁぁ」
その直後、女性の悲鳴が歪な音と共に耳に入ってきた。
叫び声が悲痛な狐の鳴き声に変わっていく様子に、首から下の毛皮がよだつ。尻尾が膨らんて震えてしまう。
やがて悲鳴が鳴り止んだ事に気づき塞いていた目を開けると、人の頭を持つ狐の姿はなく、代わりに両目から涙を流し続けていてビクリと動かない完全な狐が異形の少女に掴まれていた。地面に落とされても微動しない“人間だった”彼女をじっと見ていた異形の娘は、口に手を当てて笑い始めた。
……狐に変えられた女性は気の毒だが、これで私は人間に戻してくれる。
「私を……人間に戻してくれますよね?」
「誰が人間に戻すって?」
完全に狐に変えられた女性を嘲笑っていた異形の娘は、横目で私を睨んだ。彼女の視線が実体化して刺さった感じで硬直したが、私はどうにか人間に戻してもらおうとした。
「だ、だって……先にイッた方を完全に獣に変えて、もう片方は人間に戻して解放するって……」
「そんなこと言ってたっけ? 私は解放を約束したけど、どちらも狐に変えるつもりだよ」
異形の娘の言葉に私は驚愕した。人間に戻るために狐のアソコを舐めてまでイカせたのに?
何も言えない私を見ながら、異形の娘は片手を変形させる。鋭い管を纏わせている歪なその手で、私より先にイッた女性は狐に変えられた。
人間に戻すなんて嘘だったんだ。今度は私の番……
「い……」
少しずつ歩み寄る異形の娘から私は四足で後ずさる。
「いやあああぁぁー!」
恐怖に覆い尽くされた私は踵を返して必死に逃げ出した。
後ろ足で駆けようとしても上半身が上がらず、両手だった前足を使った慣れない四足で逃げるしかなかった。狐の身体と比べて大きい人の頭が重く、上手く走れない。
慣れない狐の体で異形の娘から逃げるのは不可能で、私は奴に捕まってしまった。人の頭と狐の身体の境目である首を掴まれ持ち上げられた私は、両目から涙を流して嗚咽混じりに言った。
「お、お願い……人間に戻してください。それか、殺して……ください……」
人間の私が動物として生かされることを拒否したく、締め付けられる首から必死に願望を込み上げていく。それを異形の娘は黙って聞いていたが……
「だーめ♪」
私の言葉を人の形をした化け物が聞き入れるはずがなく、管を纏わせた手を私の額に当てた。
手に触れられた皮膚から細い何かが入り込んでくる激痛と感覚に私は悲鳴を上げた。身体が狐に変えられたように、私の頭も変えられていく。
側面の両耳が上に移動し、三角形に尖っていく。
顔中から赤みがかった黄色の体毛が生え揃っていく。
口と鼻を引き伸ばされて形成されたマズルが私の視界の下に映る。
異形の娘が私の額から手を離した頃には、人面狐ではなく完全な狐に私は変えられていた。
「確かに中途半端な姿は醜いよね、だから完全な姿にしてあげたよ……狐ちゃんにだけどね! あーははは!」
頭を変えられる際の激痛と不快感だけでなく、人間をやめさせられた現実に私は涙を流し続けていた。異形の娘に嘲笑われながら地面に落とされても、私はびくりと動かずただ泣いていた。
「あー笑った笑った。じゃあね♪」
笑い終えた異形の娘はそう言い残してその場を歩き去っていく。
嗚咽の代わりに狐の鳴き声を上げ続ける私と、悲しそうな表情を狐に変えられた頭に浮かべながら私を見ているもう一匹の狐。
薄暗い森には元人間の雌狐たちしか残されてなかった。