神という妄想から出来た糞と、それにたかる自称信者という蝿どもが嫌いだった。
山奥にある集落にはとある宗教が広まっていた。先に言うけれど、その宗教は国全体にも広まっており、その集落の中だけの妄想ではない。昔は信じて当然の概念だったが、科学が発達してきた今では信じなくてもいい風潮が高まっていた。
しかし、私がいた集落では昔と変わらず厳しい戒律が存在し続けていた。
この世界は神が作り出したもの。
太陽が昇るのも沈むのも神によって動かされているから。
その神を信じる者には必ず幸福が訪れる。
集落の外にある町の図書館で軽く調べれば“迷信”だと分かるそれらも、大の大人達は完全に信じ切っており、私のような子供達にもそれが“常識”だと強要してくる。
そんな集落に私は嫌気が差し、数日間に一度訪れてくる商人に同行して出ようとしたことがあった。が、外部からの常識を受け入れない癖に、内部から抜け出そうとする存在を許せない住民達によって引き止められてしまった。それから報復を恐れた商人が集落に来たとしても、商売を終えたらすぐ立ち去ってしまうようになった。
当時の私は人間でいうと10歳前後であり、その年になると普段は狭い集落の中でしかない生活が苦痛になり、外に逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。
集落に暮らして……いや、軟禁されているある日のことだった。
大人達は私にある役目を任せてきた。礼拝の時間までに神の言葉が書き記された聖書を祭壇に飾るという単純な仕事だ。別に難しい仕事ではないが、調理や掃除などの手を離せない家事よりも優先してくるから気に食わない。
そんな不満をどうにか口に出さずに聖書を祭壇に持っていこうとしていた時だった。うっかり聖書を手から離してしまい、一歩前に踏み出した足の下敷きにしてしまった。慌てて拾い上げるが、もう遅い。聖書の表紙に書かれた文字が汚れてしまっていた。手で拭いてみるも、跡が消えてくれない。
また説教されるかもしれないと思いながらも、祭壇に飾ることしか出来なかった。
礼拝の時間になり、私は両親に連れて来られ、信者と共に祭壇の聖書に頭を下げた。意味のない礼拝はこれまでもしてきたが、信者達は聖書の汚れに全く気づいていない。
それを知った私は思わず笑いそうになった。
それ以来、私はその遊びにハマった。私が自ら進んでその聖書を預かり、誰にも見られていない時に思いっきり踏みつけ、何もなかったような顔で祭壇に置いていく。私が踏んだと知らずに神の言葉が刻まれた聖書を拝む信者共の姿に笑いを堪えるのもやっとだ。ある時は集めた埃を振りかけ、ある時は尻の下に敷いたり等、信者共の目が届かない場所で聖書という紙切れに苛立ちをぶつけていた。そうして私は子供ながらに愉悦感に浸っていた。
しかし、そんな悪戯も信者共に知られてしまった。私が聖書を片足で踏んでいる瞬間を、すっかり神に盲信している両親が見てしまった。
床に座らされ、意味のない怒声をガミガミぶつけられることを、私は覚悟した。
しかし、いないはずの神様の言いなりの信者が、神様の言葉が記された聖書を踏む私をその程度で許すはずがなかった……
聖書を踏んだ私を信者共は陵辱してきた。服を剥ぎ取られ、開かされた股に大きな陰茎を挿れられて何度も突かれた。口と尻穴にもイチモツを押し込まれ、私の体内に射精してきた。
心から愛する者に捧げるはずの初めてを奪われ、男共の性処理に使われ、離れた場所で女共は私をあざ笑った。その中には実の親の姿もあり、父は娘を犯して母は娘を「冒涜者」と非難してきた。
気がつけば私は集落を囲む森の中に転がっていた。起き上がろうとしても身体中に激痛が走り、仰向けのままになるしかなかった。口の中に味わった事のない苦味が残っており、首を横に向けて吐き出してみると、濁った白い液体だった。下腹部が張る感覚に、どうやらそこにも同じ液体を注がれているようだ。
森に捨てられてから時間が経っているのか、空は既に暗くなっていた。このままここで野垂れ死にする運命なのかと思った矢先だった。
「可愛そうに……」
意識が薄れていく私の耳に幼い声が入ってきた。集落にも子供はいるが、大人達が外に出さないようにしているはずだ。私は痛みを堪えながら首を動かし、声の正体を探した。
いた。
木々の間から姿を現し、こっちに近づいてくる少女。
その子の姿は普通じゃなかった。
集落で目にする質素な服ではなく、動物の皮を裏返したような肉々しいフード付きのコート。
そのフードから出ている青と赤の二色のおさげ。
一見風変わりな衣装を纏った女の子にも見えるが、何故か人間とは思えなかった。そんな彼女に私は一番嫌いな存在を連想してしまう。
「カミ……サマ……?」
「神様なんかじゃないよ。敢えて言うなら……この世界そのものになる予定かな?」
思わず口から出た私の言葉に、少女は首を傾げてそう返した。
「これ以上痛い思いはしたくないよね? だったら……」
そう言いながら少女は片手を上げると、その手が出ている袖口から数本の細い管が伸びてきた。
「裂かれようが、くり貫かれようが、気持ちよく感じるようにしちゃお♪」
少女が軽く指を振るうと同時に、その細長い管が私の腹へと突き刺さり、そのまま体内に入り込んでいった。
これまで感じたことのない激痛が全身を走る。口から悲鳴を上げずにはいられない。
しかし、それも長く続かなかった。
突如として襲ってきた快感に、私は悶え喘いだ。堪らず股の割れ目から愛液が滴り落ちるだけでなく、尿と潮が混ざった液体を噴き出してしまう。
少女によって身体が歪に変えられている最中でも、私は口角を上げながら涎をこぼし続けた。
「天使様の羽は……左右合わせて六本にしちゃってー」
私の背中にナニカを縫い付けられた。
「天使の輪は……神経で再現しちゃおう」
少女はそう言って私の体からナニカを抜き出していく。その瞬間、全身から少し感覚が失った気がした。
人間ではなくなっていく事に私は恐怖を抱くが、これでいいと受け入れる私がいる。
大昔の人間の妄想かもしれない神様なんかより、瀕死の私を生まれ変わらせてくれるモノが目の前にいるから。
やがて、全ての作業が終わり、私の身体から管を引き抜いた少女は嬉しそうな声を上げた。
「うん! 我ながら良い出来栄え!」
満足気に笑う少女を見て、私は自分に起こった変化を確かめるべく両手を広げようとする。しかし、全く変わってなかったので少女に問おうとした時だった。
私の頭上に未知の感覚器官が浮かんでいるのに気づき、目や耳では捉えられないモノを感じ取ることが出来るようだ。それを使って今の自分の姿を確認してみた。
私の背中から鳥の羽が生えている。しかし、絵本に出るような可愛さや神々しさが全く無く、骨が見えるほど腐り落ちているのが3対もある。
頭上には天使の輪を連想する光るリング状が浮かんでいるが、神経を束ねたような奇妙なデザインだ。どうやらこれは新たな感覚器官のようだ。
天使モドキといえる自身の姿に、背徳感で歪んだ笑みを浮かべてしまう。
「ああ……これが、新しいワタシなんですねぇ……ありがとうございますぅ」
「どういたしまして。私は別の用事があるから、ここにいる人間達はあなたが勝手にやっててね」
そう言って少女、いや始祖様は空間に“口”を開けて中に入って消えた。
残されたワタシは彼女の後を追いたかったが、最初にやるべきことがある。
ワタシは6つの羽を動かして宙に浮かび、集落の方向を天使の輪で探知して向かった。陵辱してきた奴らへの復讐という理由もあるが、信仰すべき存在の認識を広めるためだ。天使の姿を見たことがない人間は勿論のこと、人の妄想が描かれた天使の絵で知っているつもりの連中にも見せつけてやるのだ。
そして、あの始祖様に認めてもらうんだ。
「始祖様ぁ。どうか、ワタクシめをお導きくださいぃ……いひひっ♪」