素性の知れぬ互いを睨み合うヘルベリアとマティス一行。その中でマティスだけは怒りを露わにし、ヘルベリアに対して敵意を向ける。
ヘルベリアも自身に危害を加える存在を許さず、いつでも構えられるようにしている。カマキリ娘はともかく、狼の剣士は油断できない。蝶の少年も侮らない方がいいだろう。
そんな緊迫した空気の中で誰かの腹が鳴った。
その音の発生源を呆れて見ているヴァネッサと狼奈の視線に、マティスは腹部を押さえながら弁解する。
「しょ、しょうがないじゃない! こいつが暴れ出したから朝食食べれなかったし!」
ヘルベリアのせいにするマティスの主張に、ヘルベリアを含む他の皆はそういうことにしておいた。
野営地で朝食を摂り始めた一行。全く知らないヘルベリアに食べ物を差し出すことをマティスは反対していたが、空腹に耐えられずに渋々承諾した。
皇帝の座にいた時と比べて質素な食事を取っていたヘルベリアは、マティス達から聞いた概念を考えていた。
ヒトデナシ。
人間の死体が「異形・獣化病」と呼ばれる奇病によって、架空の産物だった怪物や異形に変質し、他の人間を殺しては同族に変えていく存在。
この世にヒトデナシが現れ始めた頃は「呪い、災い、病、悪しき魔法」が原因だと人々は思いこんでいたが、「頂点者」と名乗る異形の長達が元凶だと分かった。討伐しに向かう者もいたが、敗れては異形に変えられてきたらしい。それに狼奈によれば「真の元凶は別にいる」ようだ。
帝室暮らしだった自分が世間知らずな事は理解しているが、それでもヘルベリアにとっては信じられない話だった。
竜人が元々人間だったと? バカバカしい。
一方のマティスとヴァネッサ、狼奈の方もヘルベリアの話を信じられなかった
「で? あのドラゴンの話を信じるわけ?」
「完全に信じるわけではないですが……彼女の反応からして嘘だと思えないです」
器から口にスープの具を運びながら聞いてくるマティスに、ヴァネッサは曖昧に答えるしかなかった。
最初はヘルベリアの事を人間らしさが多く残っている竜のヒトデナシと思っていたが、聞けば「ザーナイン帝国」という知らない国の元女帝で、しかも常識とされているヒトデナシの事も知らない。肌を覆う鱗と頭部の角、臀部からの尻尾も生まれつきで、元人間でもなく“竜人”として生まれたらしい。
世間知らずか記憶喪失、もしくはこれまで遭遇した「思い込みが強い輩」と疑ったが、彼女は本当のことを言っているとしか思えない。
「ザーナイン帝国や竜女帝とやらは全く知らないが」
食べ終えた狼奈は器を置き、マティスとヴァネッサにこう言った。
「これから向かう町まであのドラゴンは連れて行く。着いたら別れるつもりだ」
「……ほんとは一緒にいる化け物が増えるのは勘弁だけど、次の町までだったら我慢はするわよ」
マティスは渋々といった様子で承諾する中、ヴァネッサは否定的だった。
「そんな……ヘルベリアさんを放っておけませんよ!」
「ヴァネッサ、私達には他人の面倒を見る余裕はない。それがヒトデナシの存在すらも知らない者なら尚更だ」
「それはそうかもしれませんけど……」
「別にこの場に置いておくわけじゃない。町までついたら彼女の助けになる者がいるかもしれん。いればの話だがな」
狼奈の言葉にヴァネッサは言い返せなかった。
確かに自分達がこうして共に行動出来るのは、運良く自我と理性が残っていたからだ。異形に恐れる人間に敵意を向けられ、モラルを失ったヒトデナシには獲物と認識されている。狼奈の言う通り、他人を助ける余裕はないだろう。
それでも誰かを見捨てることはできない。
「……分かりました。でも、町に付くまではヘルベリアさんも一緒ですよ」
「本人がその気ならな」
ヴァネッサの意見に、狼奈は否定しなかった。食べ終えているヘルベリアに顔を向け、確認する。
「それでいいな?」
「構わん。吾は貴様らの助けを求め続けるつもりはない」
ヘルベリアは淡々とした口調で言う。その言葉にマティスはムッとするが、狼奈は特に気にせず移動の準備を始めるのだった。
森の野営地を後にした一行は、街道だった道を歩きながら町へと向かっていく。
その道中にあるモノを目にしたヘルベリアは眉間に皺を寄せた。
倒されたボロボロの馬車、それに積まれていたと思われる散らばった物資、そして、その近くで倒れているのは血まみれの人間。その死体が動く様子はないが、羽や尻尾が歪に生えており、どう見ても普通の人間ではない。
戦争で死体を見てきたが、こんな奇妙な死体は見たことない。
「何があったんだ?」
「……恐らくヒトデナシに襲われたんでしょう。ヒトデナシは新しい同族を増やす為に同族だった人間を殺しますから」
ヘルベリアの疑問に答えたのは、ヴァネッサだった。
「他の人間共はヒトデナシの脅威を理解しているのだろ?」
「ええ。いくつかの街、この国の王都もヒトデナシの大軍に滅ぼされていますから。無事だった街は高い防壁を建ててヒトデナシが入れないようにしているんです」
「……こいつらが外にいたのは、物資の調達の為か」
「かもしれません。閉ざされた街では、生活に必要な食料や医薬品も限られてますから」
人間の街の事情を知ったヘルベリアはマティス達に質問した。
「無事だった街はヒトデナシを入れないようにしてると言ったが……これから向かう町もそうなのか?」
「いえ、あそこは違います。滅ぼされた町の一つでしたが、運良く理性を保ったヒトデナシ達が住み着いているんです。僕らは人間が住む街には入れないので、いつもそれらを利用します」
「なるほど」
ヴァネッサの説明に納得するヘルベリア。その穏健なヒトデナシが住む町をマティスは嫌っているが、それは説明しなくてもいいとヴァネッサは考えた。
すると、何かを思い出したヘルベリアは更に質問した。
「一つ聞いていいか?」
「なんでしょうか?」
「先程見せてもらった地図だが、私達が向かう町より近い町があったはずだ」
それを聞いたヴァネッサは一瞬体を硬直させた。先頭を歩いていたマティスと狼奈も似たような反応を見せる。
「え、ええ……その町と比べて僕らが行こうとする町は遠いですが」
「なら近い方でいいだろう。どうしてわざわざ遠い町を選んだのだ?」
ヘルベリアの質問に、ヴァネッサは困ったように頬を掻いた。そして理由を話す。
「あー、それはですね。以前、僕達はその町に行った事があるのですが、簡単に言えば……酷い目に合いました」
「酷い目?」
「どういうことがあったかは言えませんが……とにかく、ピンチでもない限りその町に行くのは無しです! 絶対に!!」
必死になって止めるヴァネッサを見て、ヘルベリアは不思議そうに首を傾げた。
一体どんな事情があるのかは知らないが、そこまで言われると余計に気になるな。
彼女の中で好奇心が募る間も、一行は歩き続けた。
横転した馬車、似たような死体がいくつかある道を歩いていた時だった。
「待て」と声に出したヘルベリアに、マティス達は立ち止まって振り向いた。ヘルベリアは一行の後ろにある何かを指差した、
「あそこに木があるだろ?」
ヘルベリアが指したのは、一行から後ろに離れた場所に生えている一本の木だ。
ヴァネッサは「あれがどうかしましたか」と尋ねると、ヘルベリアは言葉を続ける。
「あの木をよく見ていろ」
その言葉に従い、変哲もない一本の木を凝視する。すると、木の根が動き出し、まるで人が駆け寄るように近づいてくるではないか。
「え?」
驚くヴァネッサ達の前で、駆けた木が立ち止まる。どうやら普通の木に成り切っているつもりだ。
「この世界ではあの木は普通なのか?」
ヘルベリアの質問にヴァネッサは首を横に振る。
「そんな訳ないですよ! あんな木、見た事ありません」
「ということは……」
すぐさま大地を蹴り、怪しい木に殴りかかるヘルベリア。拳が直撃して木の幹が砕けたが、彼女の顔は険しいままだ。
手応えがない。
殴った感触が明らかにおかしいと感じたヘルベリアは、そのまま飛び退いた。
直後、彼女が立っていた地面から何かが現れた。どうやら木に擬態していたのはこいつのようだ。
両目と口が円形や三角形の穴そのものと、シンプルな木彫りの顔。
は葉や蔓で再現した背中まで届く緑色の髪に咲いている大きな花。
絡み合わせた蔓で再現した筋肉と、それを覆う硬い樹皮の細い四肢。
実った果実といえる胸を樹皮で抑え、桃のような腰回りを覆う花弁のパレオ。
全体的に植物を人の形にした姿の彼女は、ヘルベリア達を見つめると、記号のような目と口を滑らかに動かして明るい笑みを浮かべた。
「こんにちは! そして初めまして。頂点者のガーデナーちゃんだよ!」
女性の陽気な声を発する木彫りの異形――ガーデナーは、ヴァネッサ達に笑顔を向ける。
「ちょ、頂点者……!?」
マティスは驚きの声を上げ、狼奈とヴァネッサも警戒する。この世にヒトデナシを広めた元凶でもあり長でもある頂点者の一人が目の前にいることに、動揺を隠しきれない。
ヒトデナシに詳しくないヘルベリアも、流石に相手がただならぬ存在だと理解した。
「……その頂点者が何をしている?」
「ん? 何って……ちょっかいを出しに来ただけだよ。あなた達をけちょんけちょんにしてあげる為にね♪」
そう言って笑うガーデナーに、ヴァネッサは思わず後ずさりをする。
「な、何のためだ?」
「言ったじゃん。暇潰しだって」
「い、意味が分からない……」
「分からなくていいんだよ。これはガーデナーさんの問題だからねぇ~」
本当は上位存在であるゼノノアがいる体内のような異空間に呼び出され、「異世界から来た竜女帝と一緒にいるマティス達にちょっかい出してね」と命令されたのだが、そのことを説明するのは面倒なので、ガーデナーは適当にはぐらかす事にした。
笑みを浮かべながらも敵意を見せてくる植物の頂点者に、マティス達は戦闘態勢に入る。
抜いた刀を握り締めた狼奈は一行の先頭に立つ。村娘だったマティスは素人で、ヴァネッサは傭兵として働いてたが実力は低い。ヘルベリアは知り合ったばかりでどれ程強いかは不明だ。
この中で戦えるのは自分自身しかいない。もっとも、人間の時から軽々とヒトデナシを狩れた自分でも、獣の頂点者には敵わず殺されたが……。
「……いいだろう。相手になってやる」
「おぉ~やる気満々だね。でも大丈夫かなぁ?」
余裕の表情を見せるガーデナーに対し、狼奈は冷静に答える。
「心配無用だ」
そう言い、一歩前に踏み出す。
次の瞬間、彼女を追い抜く者がいた。両腕から鎌を展開したマティスだ。狼奈は制止の声を上げるが、彼女の耳に入らなかったようだ。
「待て、マティス!!」
「喰らえっ!!」
掛け声と共に、マティスは両手の鎌を振るう。刃は左右から襲ってくるが、ガーデナーは体を反らしてあっさりと回避した。
「なっ……!」
驚くマティスに、ガーデナーはニヤリと笑いかける。そして硬い樹皮に覆われた拳で、彼女の腹を殴り飛ばした。
「がはッ!?」
腹部を押さえて倒れるマティス。そんな彼女を、ガーデナーは見下すような視線を送る。
「あなた、蟲姫が言ってたカマキリちゃんね」
ガーデナーの記号のような口から出た言葉に、マティスは反応し、倒れたまま見上げる。そんな彼女にガーデナーは語りかけた。
「蟲姫がよく言ってたよ、『蚊や蚤みたいに弱い癖にいつもいつも歯向かって来る』って」
蟲姫。村娘だったマティスをカマキリのヒトデナシに変えた張本人であり、彼女の仇に当たる存在だ。
そんな奴からにも言われていたのかと、怒りが込み上がるマティスは片腕を動かし、ガーデナーの脚を裂こうとした。しかし、簡単に躱されて、反撃に鋭い根の如く足で腕を踏みつけられた。
悲鳴を上げて悶絶するマティスを見下ろしながら、ガーデナーは彼女の腕を踏み続ける。
そこにヴァネッサがレイピアを構えて突進してきた。
「マティスを解放しろ!」
「おっと」
素早く突き出される剣を、マティスから足を離したガーデナーは軽く避けた。
そして身体から生えている蔓を鞭のように振るい、ヴァネッサを弾き飛ばす。地面を転がるもすぐさま立ち上がろうとするヴァネッサの身体を蔓で拘束し、そのまま地面から足が離れるほど持ち上げる。
蔓の拘束から解こうとするも、ガーデナーの力が強く振り解けない。そんな彼にガーデナーは笑みを向けた。
「植物ってさ、いろんな生物に利用されたり食べられたりしているけど……」
彼女の背中から一際太い茎が伸び、先端が大きく膨れると蕾が生まれた。人が入りそうな大きい蕾が花弁を開くと、花弁の縁に牙が生え揃った口――人食い花が現れた。
「こうして逆に利用したり食べたりすることも出来るんだよ!」
「くっ……!」
ヴァネッサが悔しそうに顔を歪めた直後、ガーデナーは彼を花の中に放り込もうとした時だった。
突如斬撃音が鳴り、その人食い花の茎と蔓が切断された。解放されたヴァネッサと共に地面に落ちる。
何事かと思い、ガーデナーが振り返ると、そこには鋭く光る刀を握った狼奈の姿があった。その側にはマティスに肩を貸しているヘルベリアもいる。
「あ、ありがとう……ヘルベリア」
「礼を言うのは、頂点者とやらを倒してからだ」
地面に下ろしたマティスに、ヘルベリアは素っ気なく言う。そして今後の動きをどうするか考える。
ガーデナーに痛めつけられたマティスとヴァネッサでは戦力にならない。自分と狼奈が戦うしかない。そう考えた彼女は狼奈に声をかけた。
「吾と貴様で頂点者と戦うぞ。やれるか?」
「当然だ」
狼奈は即答すると刀を構え直し、ヘルベリアは拳を構える。
そんな二人をガーデナーは観察するような目で見た。
マティスとヴァネッサと違って狼奈は強い。獣の頂点者に敗れたとはいえ、人間の身で獣の頂点者を追い詰めていたのだ。そんな彼女が狼のヒトデナシに変化したとなれば、強さは想像を絶するものだろう。
もう一人の他所の世界から来たとされるヘルベリアはよく知らないが、ゼノノアは「油断しないでね」と言っていた。恐らく竜女帝の実力は伊達ではないだろう。何故その女帝の座を下りたかは個人的に気になるが。
「手強い雑草ちゃんね~、素手だと難しいから……」
自分の身体に生えている枝をそれぞれ両手に持つ。するとその枝の先から伸びてきた蔓がお互いを結び合い、鋭い葉を持つ巨大な鋏になった。
「道具を使わせてもらうよぉ!」
「……来い」
狼奈は短く答え、刀を構えたまま駆け出す。接近してくる彼女に対し、ガーデナーは開いた鋏を突き出す。刃と葉がぶつかり合い、火花が散る。そして鋏を弾いた後、狼奈は刃を振り下ろすも、ガーデナーは弾かれるように後ろに下がる。
だが、その先にヘルベリアが待ち構えていた。彼女は拳を強く握り締めて殴りかかった。
「ふんっ!」
「おっと」
迫る拳にガーデナーは身体を回転させながら躱し、鋏で拳を受け止める。硬い鱗に覆われているため、ヘルベリアの拳は傷一つつかない。
予想以上の硬さにガーデナーの体勢が崩れた隙を狙い、狼奈が飛びかかる。
「そこだ!!」
「甘いよ!!」
振り下ろされる刀に対して、ガーデナーは蕾の生えた蔓を鉄球の如く横に振るう。が、狼奈の刀に斬り裂かれ、蕾は砕け散った。
もっとも、蕾が砕かれるのはガーデナーにとって前提だ。
割れた蕾の中から白い粉末――花粉が舞う。顔面にそれが付着してしまった狼奈は咳き込みながら後退する。
「ゲホッ! ゴホォッ!? なんだこれは!?」
「この花粉には麻痺とおまけの効果があるんだよ!」
ガーデナーは自慢げに言い、動きが鈍くなった狼奈の下顎を蔓で殴る。殴られた衝撃で仰け反る彼女の腹に膝蹴りを叩き込んだ。
その連撃に狼奈は身体をくの字に曲げ、口から唾液を吹き出してしまい、その場に倒れ込んでしまった。
「これで終わりかなぁ?」
「それはどうだかな?」
ガーデナーの言葉に返したのは、彼女の背後から聞こえた声だった。振り返ると迫るヘルベリアがいた。片方の拳を握りしめ、振りかぶっている。
また隙だらけの攻撃を……
呆れながらもヘルベリアの拳を避けようとするガーデナー。しかし、背後に回り込んでいた何者かに拘束された。驚いた彼女は、自身の身体が棘の生えた鎌と、蝶の翅を思わせる袖の腕に捕まられている事に気づく。
鎌を武器とする者は一人、蝶のヒトデナシは一人いたはず。だが、どちらも頂点者であるガーデナーに痛めつけられていたはずだ。
そう思い、後ろを振り向くと、それは無力化したはずのマティスとヴァネッサだった。
「なっ……!?」
「今よ、竜女帝!」
「僕の事は気にしないでください!」
マティスとヴァネッサの声に、ガーデナーはハッとなる。いつの間にか目の前に迫ってくるヘルベリアに気付いたからだ。
慌てて拘束から逃れようと暴れるが、マティスとヴァネッサが離すまいと必死に掴む。
そして、ヘルベリアの拳がガーデナーの胴体に直撃した。
「ぐふぅッ!!」
衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がり続けるガーデナー。彼女を拘束していたマティスとヴァネッサも一緒に吹っ飛ぶ。
転がるガーデナーがやがて止まると、何事もなかったかのように起き上がった。腹部には巨大な穴が空いており、そこから植物の管が出ているにも関わらずだ。
「……驚いた。本当にここまで強いだなんて」
感心するように呟きながら、ガーデナーは腹部の傷口を葉で塞いでいく。
吾の一撃を喰らっても倒れないとは……。これが頂点者という存在か?
ヘルベリアは内心驚きながらも、警戒を怠らず拳を構え直す。このまま戦い続ければ誰かが死ぬ事を理解しながらも。
「でも、このガーデナーちゃんはまだまだ戦えるよ!」
そう言いながらガーデナーは両手を広げようとした時だった。
(そこまでだよ、庭師ちゃん)
人間だった自分を植物の頂点者に変えてくれた上位存在――ゼノノアの声が頭に響く。彼女に逆らうメリットがないのは理解しているが、戦いに水を差すのは止めて欲しい。
そんな事を思っていると、ゼノノアは次の言葉を伝えた。
(私も竜女帝の戦いを見てて楽しかったけど、ちょっと飽きててさ。今度は強い女性が屈伏しちゃう姿を見たくなってね)
……どういう意味?
(そのままの意味だよ。そろそろ私が呼んだ者が来るから、庭師ちゃんは引いてくんない?)
ゼノノアの言葉に不本意ながらガーデナーは首を振るしかなかった。逆らえば自分がどうなるか分からない。
ガーデナーは渋々引き下がると、彼女は自身の全身を大量の葉で覆い尽くし、直後、数枚の葉を残して消えた。
ガーデナーが消えると、その場に立っているのはヘルベリアだけで、マティスとヴァネッサ、狼奈は倒れ伏せていた。全員ボロボロの状態であり、とても戦えそうにもない。
ヘルベリアは安堵のため息をつくと、マティス達の容態を確認する。
ガーデナーに痛めつけられた挙げ句、彼女諸共ヘルベリアの拳を喰らったマティスとヴァネッサは意識を失っている。狼奈に至っては、ガーデナーが放った粉末を吸い込んでしまい、苦しそうに痙攣している。
「……どうすればいい」
もしも自分が未だ負け知らずの竜女帝だったら、彼らを弱者とみなして見捨てただろう。だが、今の自分は彼らを見殺しにすることは出来ない。
武術は長けているが、最低限の治療方法しか知らないヘルベリアが悩んでいた時だった。
「あーれー!? ヴァネッサ君じゃない! どうしたの!? あ、カマキリ娘と狼女もいる」
場違いな明るい声と共に、一人の少女が現れた。
ヒトデナシの概念を知ったばかりのヘルベリアでも“兎のヒトデナシ”だと分かるほど、彼女の顔は小動物に似ており、毛皮に覆われた全身に、長い白髪からの一対の長い耳と赤い瞳を持っている。
突然現れた見知らぬ人物に、ヘルベリアは困惑する。
「誰だ、貴様?」
「私はラビスちゃん、ヴァネッサ君達の知り合いよ。あんたこそは誰よ?」
「吾はアリウス……いや、ヘルベリアだ。この者らは吾の命の恩人だ」
ヘルベリアはフルネームで名乗ろうと思ったが、ザーナイン帝国を知らなそうなので名前の一部だけ告げた。
すると、ラビスは納得したように何度も首を縦に振る。
「人間要素がかなり残ったドラゴンのようね。それよりヴァネッサ君を手当てしないと。町まで運ぶから、あんたはそのカマキリと狼をお願いね」
「分かった」
ヒトデナシと見なされているようだが、否定する暇もなく返事をしたヘルベリアはマティスを抱き抱え、震え続ける狼奈を背負った。ヴァネッサに肩を貸すラビスの後をついていくが、その途中でヘルベリアはあることに気づいた。
「おい、吾らが向かう町はこの方角ではなかったぞ」
「はあ? あんたこの辺りの地理に詳しくないでしょ。他所の世界から来た者は黙って現地の声に耳を傾きなさいよ」
「むっ……」
何とも理不尽な物言いだ。しかし、ここで反論しても意味はない。仕方なく、ヘルベリアはラビスに案内されることにした。
ヘルベリアは気づくべきだった。ヘルベリアが“異世界から迷い込んだ存在”だと、ラビスが知っていること。
そして、彼女が案内する町はヴァネッサ達が拒んていた曰く付きの町であることに。
次回はエロ全開で書きます