あたしのお父さんは大金持ちの家に行って、そこの庭をきれいにしたりするお仕事をしています。お母さんは家で“幸せの花”を育てる仕事をしていて、そのお花を町で売る仕事をあたしがしています。
あさはやく町のみちばたに立ち、手に持っているカゴから“しあわせの花”を一本取り出して、おきゃくさんが買ってくれるのをまちます。
でも買ってくれる人がなかなかいません。道をあるく人がこっちを見たりするけど通り過ぎるだけで、あたしを見てわらう人もいます。
それでもあたしはまちます。だってしあわせの花を買ってくれる人があらわれるのを知っていますから。
ずっと立っていると、おとなたちが花を買いにきました。かおに大きなきずがあるこわそうな人ですが、ほんとうはやさしい人だとあたしは知っています。
ちかくのお店のものをぜんぶ買えるほどのお金でお花一本を買ってくれたり、あたしにおかしをあげてくれるからです。
夕方になるとお花が売れてからっぽになったカゴに、たっくさんのお金をいれてあたしはお家にかえります。
かえるとちゅうにかごにのこってた花びらを見つけ、それをくちの中にいれます。
すると、ふしぎなものがあたしのまえにあらわれてきます。ようせいさん、おしゃべりなどうぶつさん、やさしいおばけさん……のこったしあわせの花をなめると、むかし、よんでもらったえほんに出てくるいろんなものが、あたしといっしょにいてくれます。
カラフルになった道をみんなでスキップしながらお家にかえるのが楽しいです。
それがあたしの毎日でした。
あれから十年ぐらい経った。
あたしは今でもしあわせの花……領主に規制されるほどの中毒性が高いクスリの元である花を売っている。買ってくれるのは花の魅了から逃れられなくなった人々だ。
父は今でも庭師として働いているが、それは表向きの顔にすぎない。裏では庭造りの依頼主である金持ちにクスリを売りつけている。
そして母も相変わらず家で幸せの花を作っている。禁止されている花の栽培を知られないようにするために、母は家の中にある畑で栽培していて、様々な加工品を作っている。
父と母、そしてあたしがやっていることは悪いことだと知っている。だけど、どうしようもないのだ。花一本で得られる大金の魅力には勝てない。
それにあたし自身もこの花にハマっていた。もう何年も前から。
最初はただの興味本位で口にしただけだった。だが、今ではなくてはならない存在になっている。摂取するのをやめたら、子供の頃に見ていた可愛らしい幻覚が、悍ましい姿に変えて襲ってくるからだ。
今のあたしは花だけでなく、あたしの春も売っている。
花を売るために道端に立っていると、花ではなくあたしの身体目当てで近寄ってくる男たちがいる。そんな奴らと一緒に安い宿に泊まるのが日課になっていた。
客室で服を脱ぎ捨て、胸と股が丸出しな裸を男に見せつけると、男は興奮して息を荒げながら近づいてくる。
その手が伸びてくる前に、ベッドの横に置いてあった花を手に取って口に放り込む。すると、花の効果がすぐに現れ、あたしの陰裂から愛液が滝のように流れ出す。
そうすればあとは男の思うままに弄ばれるだけだ。
乳房を揉まれるたびに頭の中が真っ白になりそうになる快感に襲われ、膣内を指でかき回されると全身が痙攣するかのような快楽に襲われる。
膣道に男のペニスを出し入れされ、最初の射精される前に何度も絶頂を迎えさせられてしまう。
そして精液を子宮の奥まで流し込まれると同時に、あたしも潮を吹き出して達してしまう。
それから男が満足するまで犯され、あたしが気を失っている間に売春の金を貰う。
これがあたしの生活だったが、やがて終わりを迎える時が来た。
ある日、いつものように売春して男に抱かれている時に、あたしは何も感じられなくなり、身体も動かなくなった。花を摂取し過ぎたためだった。
男はそれを知ったが、動かないあたしを犯し続けた。反応を示さなくなったあたしでも、性処理に使えると思ったんだろう。
しかし、いくら時間が経っても、あたしが動くことはなかった。
結局、男は飽きて帰っていった。
過剰摂取による禁断症状で体が動けず、声も出せなかったあたしは、このまま死ぬのかと思っていた。
そこに一人の少女が現れた。
赤と青のツインテール、内臓を思わせるようなフード付きコート、袖口から出ている皮が剥がれたような手。
歳は5歳ぐらい年下だろうが、どこか不気味な雰囲気のある子だ。
最初は花を取り過ぎたあたしが見た幻覚かとも思った。こんな売春している場所に子供が来るわけがないから。
「今回はこの子でいいかな」
その子は独り言を言うと、あたしのそばに来てしゃがみ込み、顔を見つめてきた。
しばらくすると、コートから何かを掴んで取り出した。……一瞬、この子の骨と内臓が見えた気がしたけど、幻覚だろうか?
手に持っていたのは木彫りのお面だ。目と口は円と三角といったシンプルなもので、顔に付ける側には根のような棘が生えていた。
「ヤドリギって知ってる? 植物にしか寄生しない植物なんだけど、人間を“加工”して作った私特製のヤドリギは人間にも寄生できるんだよ」
そう言ってお面をあたしの顔に押し当て、お面に付いている棘を食い込ませた。痛い。
痛みを感じるということは幻覚じゃないようだ。そしてお面に生えている棘に顔が刺されているのも現実のようだ。
すると、不思議なことが起こった。
お面から生えた棘が根のようにあたしの体内に広がっていき、血管や骨格、筋肉などに絡みついてくる。そしてあたしの体を変えていく。
消滅する筋肉の代わりに蔓を絡み合わせることで再現され、それを硬い樹皮で覆われて再構成された細い四肢。
樹皮で抑えられている実った果実そのものといえる胸と、桃と例えられる腰回りを覆う花弁のパレオ。
葉や蔓そのものに変えられた緑色の髪が背中まで届き、頭の横に大きな花が咲いた。
目と口は円と三角といったシンプルな木彫りのお面が、あたしの顔そのものになった。
身体が変えられる苦痛と不快感が収まると、あたしは自分の手を見た。……鋭い枝で出来た五本の指が見える。
足も見てみるが、そこには根を思わせるブーツが履かれている、いや、ブーツがあたしの身体の一部になっているようだった。
「じゃじゃーん。あなたは植物の頂点者として選ばれました」
あたしを変な仮面で変えた子――ゼノノアがそう言った。
……この子にそう名乗られた覚えがないはず。恐らくあたしを変えている時にこの子の一部が入り込んで、無意識に記憶を読み取ったのかもしれない。
「あ、そうだ。名前を決めないとね。えっと……」
あたしの身体が変わっていく最中に、頭の中がぐちゃぐちゃになった。だからあたしの名前はもうない。まあ、元々クスリでぐちゃぐちゃになっているけど。
「よし、決めた。あなたの名前は『ガーデナー』だよ。綺麗なお花ちゃんをいじめる人間さんを懲らしめといてね」
生まれ変わったあたしを『ガーデナー』と名付けたゼノノアが嬉しそうな声で言い、空間に発生させた“口”の中に飛び込んで姿を消した。
残されたあたし――ガーデナーはとりあえず家に帰ることにしました。
部屋を出る時に、他の人間に見られちゃったけど殺すから問題なし。出合い頭に殺した人間に指先からの種を植え付けて植物として作り変え、他の人間を襲わせる。
町を出る頃には、人間の数より植物の数のほうが多くなっちゃった。まあ、人間が増えすぎたから自然が減ったんだし、ちょうどいいよね。
ガーデナーちゃんは家に着きましたが、家は真っ黒に焼かれた後でした。その近くに人の形をした炭が二人分転がっていて、そばには紙が落ちていました。
その紙の内容は、「罪状:禁止されている植物の栽培 判決:火炙り 」と書かれています。
どうやら自分の家でクスリの元である花を栽培してたのがお偉いさんにバレちゃって、処刑されちゃったみたいです。そこに転がってる焼死体が自分の両親だって分かった時、ガーデナーは悲しくもなんとも感じませんでした。植物になったからかもしれないね。
「肥料には使えるかなー?」
ガーデナーは燃えカスとなった家の残骸を見て呟き、自分の足先に生えている根を大地に突き刺します。すると、周囲の雑草が一気に成長を始め、瞬く間に家を覆い尽くしてしまいました。
そして黒焦げた両親の肉片と骨を養分に成長した雑草は、立派な花を咲かせました。
「さてと、これからもお花を増やそっか♪ 果物とか野菜もいいかも♪」
ガーデナーは楽しげに言うと、肥料代わりの人間を狩るためにその場から去りました。
この日から世界が変わり始め、人間が滅び始めるのは別の話。
今回のガーデナーや蟲姫、人魚の歌姫といった「頂点者に変えられる話」は100年以上前という設定です。