頂点者であり、虫のヒトデナシの長でもある蟲姫。あまり口に出さないが、彼女には嫌いなものがある。
“ヒトデナシ”という人間だった死体の化け物を蔓延らせた異形の少女――ゼノノアだ。
「金を無駄に貯めてる」と勝手に勘違いした庶民共に二人の子供を館ごと焼き殺された無力な女領主だった自分を、人間という歪な蛹から蟲姫へと羽化させ、人間を殺したり同族に変える力を与えてくれた事には感謝をしているが、格下のヒトデナシにわざと凌辱される事などを命じてくるゼノノアにはうんざりしている。
そんな彼女に盲信し、狂信者のお手本といえるほど「始祖様の命令は絶対ですぅ」といちいち言ってくる天使モドキ。植物の癖に煙草臭く、得体のしれない果物を食べさせてくるガーデナー。その二人と違って、同じ頂点者の中で蟲姫が気軽に付き合えるのは幼い人魚の歌姫だろう。
蟲姫が嫌いなものは、これが全てではない。
特にゼノノアに匹敵するその一つに、蟲姫は日課の人間狩りを兼ねた散歩中に出会ってしまった。
「こんにちは、蟲姫。こんなところで会えるなんて」
根城である巣から離れた草原での散歩を楽しんでいた蟲姫に、幼い子供が話しかけてきた。大きい目、中性的な顔立ちは人間の子供と変わらない。服装も長シャツと半ズボンと普通だった。
だが、人間ではない事が一目で分かる。足元まで届く髪、両側頭部から伸びている山羊を思わせる太い角、生気を感じられない青白い肌。人間の天敵である化物――ヒトデナシだ。
「……奇遇ですね。まさかあなたと出会ってしまうとは」
「『しまう』って、酷いなぁ蟲姫。ゼノノア様なんかよりはマシでしょ?」
「少々自身の行いを顧みてはどうでしょうか? ルン」
不愉快そうに返す蟲姫に、“ルン”という名のヒトデナシは笑いながら言った。
「あはは、それもそうだね。ボクは人間や他のヒトデナシの感覚を弄って反応を見させているけど、ボク自身も見るべきかな。自分の感覚は弄りたくないけどね」
人間が理解してはいけない発言を笑顔でするルンの姿に、蟲姫は忌々しい異形の少女を思い浮かばずにいられなかった。
このルンはヒトデナシの一種であるのは間違いないが、人間のギルドの傭兵に狩られるようなタイプではない。
蟲姫といった頂点者と同じように、ゼノノアの「ぜののあさん が かんがえた さいきょうのそうさくぶつ」として生み出された存在の一種だ。ゼノノアが気に入った一部の人間に生態系を支配できる程の力と姿を与えたのが頂点者であり、一方、生死問わず手に入れた人間の赤子を子宮を模した容れ物に放り込み、人の形をした異形として急成長させたのが、ルンを含む存在だ。
人間を材料としている点では二つは同じだが、人間だった時がある頂点者と違って、ルン達は人間として過ごした時間はほぼない。そのため己が元人間という自覚が薄いルン達は「自分はゼノノアと同格であり、元人間という汚点がある頂点者やヒトデナシとは違う」と見下している事が多い。
「それより蟲姫、ちょっと頼みを聞いてほしいんだけどさ」
自分より背の高い蟲姫を見上げながら、ルンは頼みという名の命令をした。
「ボクに奉仕してよ。そのカッチカチだけど撫でがいのある胸と、そのイジりがいのあるお股に、ムラムラしちゃって」
自分に抱かれろ。そう発するヒトデナシがいたら、蟲姫は躊躇することなく殺していた。
異形の少女と同じだと思いこんでいるルンだが、その実力は低く、頂点者ところか並のヒトデナシ以下だ。
それでも蟲姫は彼を殺すことは出来なかった。ルンを殺せばゼノノアが何をしてくるかという要素もある。しかし、かつて“自分がルンに屈した覚え”があるため、彼に抗うのは無意味だと理解していた。
「……分かりました。好きなだけ犯しなさい」
その場で腰をつき、四脚が生えている背中を地面に倒して仰向けになる。鎧のような無機質だが、女の丸みを再現した胸を天に向ける無防備な姿を見せる蟲姫に、ルンは笑みを浮かべながら思うのだった。
よしよし、ボクが刻みつけた幻をまだ信じてるね♪
並のヒトデナシより弱いルンだが、頂点者に匹敵する能力を持っていた。それは他の生物の感覚器官を操る事を特化している。
例えば、相手の耳や目、鼻といった器官を狂わせることで、ルンの存在を認識できないようにする。透明になったり、隠れようとしない彼が目の前にいるにも関わらず。
逆に偽りの刺激を与え、幻聴や幻覚で惑わせ、隙を作らせるのも可能だ。
そして、相手に想像できないほどの
ゼノノアの手で蟲姫と初めて会わされた時は舐められていたが、一度感覚をイジってみたら、今こうして戦意を全く見せない。
仰向けになっている蟲姫の周りを歩きながら、彼女の全身を見渡すルン。蟲姫の足先に立ち止まると感想を述べた。
「ふふっ、蟲姫って魅力的な身体をしてるんだね。それじゃあ股を大きく開いてよ、アソコがどんなのか見たいんだ」
「……仕方ないですね。それでは」
ルンに見下される中、蟲姫は仰向けのまま両足を開く。彼女の全身はどんな刃でも貫けない硬さを誇る外骨格に覆われる中、比較的柔らかい股間が露わになった。柔らかい肉である大陰唇、その隙間にはヒラヒラとした小陰唇が見え、ルンは舌舐めずりしながら見つめていた。
ルンが人差し指と中指の二本で何かを広げるサインをすると、その意味を察した蟲姫は不愉快そうに目を細めながら両手を股間に伸ばし、小陰唇を指先で押さえて陰裂を開けた。閉ざされていた膣前庭が晒され、尿道口と膣口から汁が垂れていた。それを見てますます口の端を上げるルン。
そして、蟲姫の身体に覆いかぶさった彼は、下着ごと半ズボンを引き下ろす。硬くなった肉棒が現れ、蟲姫の陰裂に近づけていく。
「蟲姫はボクの事が好きじゃないんでしょ? そんなボクに犯されそうになってるけど、いいの?」
「正直に言って殺したいところです。ですが、今更抵抗など無意味でしょうから」
柔らかみのない自分の胸に顎を乗せながら尋ねるルンに、蟲姫は諦めたような表情で返す。普段なら格下のヒトデナシ、それもクソガキのルンに身体を触らせるつもりは全くない。しかし、ルンの手で感覚を軽く弄られ、自分こそが“ルンに勝てない格下のヒトデナシ”という事を思い知らされた蟲姫は、格上の気が済むまで抵抗しない事を選んだ。
嫌悪感を露わにしながらも諦めの色を見せる蟲姫に、ルンは口の周りを舌で濡らし、腰を前に突き出した。
「くっ……」
腟内に挿入してきたルンの陰茎は、これまでセックスの相手をしてきた雄共と比べると小さいが、それでも膣壁を擦ってくる快感は変わらなかった。裂けた口から声を漏らしてしまい、それを耳にしたルンが口の端を上げて聞いてきた。
「こんなお子様サイズのチンポに反応しちゃってるんだ。もしかして人間だった時、自分が産んだ幼い息子にも興奮してたの?」
「ふ、ふざけた事は言わないで下さいっ」
母親である自分が、火事で死んだ実子を性的に見ていた。
そんな言葉をかけてきたルンに、蟲姫は殺意を抱かずにいられなかった。それでも彼の首元に噛みつく、あるいは両腕の鎌か、背中の四脚で全身を貫くといった行動を取らなかったのは、“自分はルンを殺せる実力を持っていない”と分からされているからだ。それがルンによって見せられた幻だと知らずに。
仮面そのものの顔が憎悪と殺意に歪まされながらも、性器同士を結合したまま行動を取らない蟲姫に、ルンはニヤニヤしながら腰を前後に動かし始めた。
膣壁を亀頭と竿に擦られ、時々刺激に弱い部分を突かれる度に、鎧を纏った人形のような外骨格の身体を震わせる蟲姫。自分の性器に走る快楽を楽しみながら、ルンは話しかけた。
「どう? ボクのショタチンポは? 旦那さんと比べて気持ちいいでしょ?」
「か、関係ない事でしょう……あの人は」
自分が人間だった時に亡くなってしまった夫を言及され、思わずそう返す。
虫のヒトデナシの長となった今は、多くの人間を同族に変えるか殺し、気に入った雄を抱いたり、ゼノノアの命令で格下共に凌辱されてきた。天国にいる夫と子供に幻滅される事は理解しているが、それでも自分の家族を他人が嘲笑うのは聞き捨てならなかった。それでもルンを殺そうと思うことなく、腰をぶつけられるのを受け入れるしかなかった。
しばらく水音を鳴らしながら腰を振っていたルンは、ふと笑みを浮かべた。その笑顔に蟲姫は見覚えがあり、背筋が凍る。ゼノノアが碌でもない頼みを思いついた時の笑顔に似ていたからだ。
「ボクの能力みたいなのは知ってるよね? 他人の感覚を弄って幻覚や幻聴を引き起こしたり、過剰な刺激を与えたり出来るんだよ。それでもっと気持ちよくさせて、交尾したがるセックス中毒の雌虫にしちゃおっかな」
「なっ!? そんなこと、私が受け入れるとでも――!?」
常に発情させられることになる。それだけは阻止しようと、勇気を振り絞って突き放そうとするが、もう遅かった。
突然、頭の中が強烈な快楽に塗り尽くされるのが始まった。プライド、ルンに対する怒りや軽蔑、彼に刻みつけられた偽りの恐怖心も消えていく。それらを塗り潰した快感は、膣の中でルンのイチモツが前後運動する度に濃くなっていく。
やがて脳内から理性から消え去った時、蟲姫の態度はあからさまに変わった。
「あ、ああ……あぁ♡」
敵意と嫌悪感を出していた仮面の顔は蕩けており、裂けた口をだらしなく開けて舌を伸ばしている。口から零れ落ちる唾液が蟲姫自身の胸元を濡らす。膣道がさらに濡れてきており、いつも異常に愛液を出しているのが分かる。身体全体が熱くなり、特に子宮の奥底からは激しい疼きを感じる。今まで感じたことのないほどの快楽に、彼女は抵抗する事も忘れていた。
そんな蟲姫に、ルンはさらに強く腰を打ち付ける。肉同士がぶつかる音が響き、同時に蟲姫の下腹部から脳天まで突き抜けるような衝撃が走った。
「んひぃいいいっ!!?」
甲高い悲鳴を上げながら身体を大きく仰け反らせる蟲姫。彼女の反応に満足したルンは何度も腰を前後に振り、時には奥深くまで挿入した状態でグリグリと捻った。その度に絶頂寸前にまで追い込まれる蟲姫は、声を抑えようと手で口を覆う事も出来ず、ただされるがまま犯されていた。
「あっ、あんっ、イクっ、イっちゃうっ! こんな子供のチンポでぇっ!!」
これまで一度も出したことがない声で叫ぶ蟲姫は、膣内に入っている陰茎を強く締め付けた。それがルンの射精を促すきっかけとなった。
「くぅ……!」
限界に達したルンは歯を食いしばりながら吐精し、大量の精液を注ぎ込む。胎内を満たしていく熱い液体に、蟲姫も身体を痙攣させながら潮を噴き出し、結合している性器の周りを濡らした。
「ふぁ、あ、あ……」
快楽に溺れ切った表情で放心している蟲姫を見て、ルンはペロッと唇を舐める。そして、まだ勃起したままの陰茎を引き抜くと、ゴポッと音を立てて白濁色の粘液が逆流してきた。蟲姫の陰裂から溢れ出た精液の量は多く、太腿を伝って地面に滴り落ちていく。
それを見たルンは再び口の端を上げながら立ち上がり、半ズボンを履き直して蟲姫の傍から離れる。白濁液が垂れている股を開けたまま倒れ込んでいる蟲姫に、彼は別れを告げた。
「気持ち良かったよ、蟲姫。気が向いたらまた抱いてあげるよ」
無言のまま、蟲姫は去っていくルンの背中を見つめる。だが、その瞳に映っているのは殺意ではなく、快楽による蕩けきった期待だった。
その後、放置された蟲姫は格下のヒトデナシの群れに見つかり、しばらく輪姦されるのだが、それはまた別の話。
蟲姫の蜜壺を味わい尽くし、上機嫌で鼻歌交じりに草原を歩くルン。
自分達は頂点者と違って縄張りを持たず、積極的に人間狩りをするよう求められていない。異形の少女から与えられた役割は、しぶとく生き残っている人間達の中に紛れ込み、人間同士殺し合わせるように仕向ける。後は勝手に人間達が自滅し、ヒトデナシとして生まれ変わるのを待つだけだ。
難しい役割ではないが、疲れが溜まるのは当然だ。その息抜きに蟲姫や人魚の歌姫といった、気に入ったメスを抱くのはおかしくない。
ゼノノアには怒られるかもしれないが、たまになら許してくれるだろう。ルンはそう考えながら歩いていた。
その考えが甘いと思い知るのは、すぐの事だった。
「ルンくーん」
突然、耳に入ってきた声にルンは硬直した。別にその声の持ち主にトラウマがあるわけではないが、今の声を発している時の機嫌を理解している。そういう時の彼女がやる事は――
「さっき、蟲姫ちゃんとセックスしてたのを見てたけど、ゼノノアさんは許可した覚えないなー」
そう言いながらルンの前に現れる異形の少女。左右が青と赤に分かれた二つ結び、フードの付いた肉々しいコート。ゼノノアだ。
両手を腰の両側に付けている彼女は仏頂面をしており、一見可愛らしく見えた。しかし、ルンにとっては恐ろしい表情にしか見えず、言葉を発せられなかった。
ただ全身を震わせているルンに呆れながら、ゼノノアは笑みを浮かべる。
「そんなに怖がらないでよ、別にルンくんを怒りに来たわけじゃないんだよ。ただ、ゼノノアさんのお願いを聞いてほしいだけなの」
ゼノノアのお願い。
それはどういう意味かは分かっている。その“お願い”を叶えさせようとしている姿を、彼女は見て笑うつもりだ。引き受けたら酷い目に合う、断ってももっと酷い目に合う。
ルンが怯えているのを察しながらも、ゼノノアは気にせず続けた。
「足まで届くながーい髪の毛、男の子には見えない顔……ここまでいったらわかるよね? ちょっと獣人のオス達に媚びてきてね。大丈夫、女の子だと騙されて怒るかもしれないけど、すぐにお気に入りになると思うよ♪」
結局、頂点者やボク達も同じ、ゼノノアの玩具……
涙を浮かべながらも、ルンは首を頷くしかなかった。