あーっ! あーっ困りますっあーっ! メスガキこのっ! この舐めやがってっ! じゅるるるるーっ! 作:道明寺ファンブル
翌日。
学園は来たる文化祭に向けて準備を進めていた。
六月の中旬だったか。校内発表と一般発表の二日に分かれて行われる大規模な行事であり、その後の期末テストなんか眼中にないかのようにみんな企画を進めている。
LHRは暇だな。昔はこれでも楽しめてたんだが。
委員長と文化祭実行委員の話を聞き流す。
ふと思い浮かべることがあった。
――つまり、一連の事件は存在Xの仕組んだことだったんだよ!
――な、なんだってー!
かもしれないというだけである。
「……はぁ」
存在Xの可能性が出てきたとはいえ、夢寐への対応を変えるつもりはなかった。
家族の洗脳は弱めたが、代わりに夢寐の洗脳を強くしておいた。
あいつが自分の意志で起こした事件だったのかもしれないからな。可能性は見過ごせない。
昨日は一晩中、俺がいなくなって得をする連中のことを考えていた。
ぶっちゃけ多すぎて困る。恨みのバーゲンセールだった。
家柄である。逃れられぬ業である。つらい。
手遊びにローターのスイッチをオンオフ繰り返していると、隣の男子生徒たちの話し声が聞こえてきた。
「なぁおい聞いたか? 今年の文化祭のビッグイベント」
「ああ、ああ聞いたぞ。一般発表ん時に校庭でライブするんだろ? やべーよな」
「なんだっけ、そうそう、夢寐ちゃんだっけか」
……ほー、そうなのか。
そういえばあいつ、レッスンがどうとか言ってたような。
「でもそういうのって良いのか? 事務所の許可とか面倒くさいことってあるじゃん?」
「それがスポンサーの大企業が太鼓判押してくれたようでさ。舞台とかのセッティングもやってくれるんだってよ」
「マジで? ……でもなぁ、そういうのって入場料高いじゃん? チケットとか買えんの?」
「知らないけど、室橋学園生は全員無料だって噂だぞ」
夢寐は学園内でも有名だった。アイドルだしそんなものだろうが。
クラスの中にも数人はファンがいるってぐらいだ。
実は俺、あのアイドルレイプしたんだぜ!
心の中で呟いただけだったが、なんか教室の温度が下がった気がする。
やめよう。
突っ伏して残りの時間を過ごそうとしたところ、隣の男が言った。
「――でも可哀そうだよな。ライバルが同じスポンサーに太鼓判を押されて、ライバルだけがこうして日の目を見るなんてさ」
――“
聞き覚えのある名前だった。
とても。
耳に残る名前であった。
昼休み。
いつものように一秒チャージを済ますと初等部の方へと足を運んでいた。
こちらも文化祭の準備で忙しいのか、忙しく動き回る子たちでいっぱいだ。
なんだかちまちましている。せっせと働く子供の姿はほっこりする。その分だけ俺の姿は浮いていた。
来るタイミング完全に間違えたな。これじゃ不審者だ。
正直夢寐に何か用があったというわけではない。
会ったら会ったで性処理でもさせていただろうが、夜でもできるしな。
帰るか。
踵を返して、高等部に戻ろうとする――
「――――――!!」
――ところで、声が聞こえた気がした。
夢寐の声ではない。……廊下の人混みの向こうから聞こえてくる。
なんか嫌な予感がするぞ。
「―――ぃぃちゃぁぁああああああん!!」
ドドドドドドドドド―――ッ!!
モーゼに割られた海のごとく道が出来ていく。
明らかに俺に向かって何かがやってきていた。
面倒くさそうだ。逃げよう。
と思ったが遅かった。
「おにぃぃいいいいいいちゃぁぁあああああああああんっ!!」
「ぐべぇ!?」
見事な跳躍を見せつけた幼女が俺の脇腹へタックル。
衝撃に軸足が滑り、地面へと背中を打ち付けた。いたい。あとやわらかい。
白黒と明滅する視界を晴らすようにかぶりを振る。
俺にまたがる白髪ロングの幼女に目を向けた。
「えへへーっ! おにぃーちゃんっ!」
「……相変わらずクソほど元気そうだな、
「うんっ! おにーちゃんも無駄に元気そうだねーっ! よかったーっ!!」
人目もはばからず抱き着いてくる幼女。彩美。
“斑鳩彩美”――俺の妹だった。初等部二年である。
ただでさえ多かった人の数がさらに増えた気がする。
「俺がロリコン認定される前に早くどいてくれ」
「だいじょーぶ! おにーちゃんが異常性癖でもド変態野郎でも童貞でも彩美が養ってあげるからーっ!!」
「てめぇどこでそんな言葉覚えてきやがったの」
相変わらず毒を吐くとなると饒舌になる。
天真爛漫な性格と相まって、悪気の無さが余計心を抉ってきた。
……俺ってそんな童貞臭いか?
実は童貞卒業したんだぜ。すごいだろ。レイプだけど。
あれ? これもっとひどくね?
「はぁ、はぁ……彩美、ちゃん……どうしたの…………って、あ」
「おー、ちょうどいいー、へるぷみーぐえー」
息を切らしてやってきたのは夢寐だった。アホ毛とツインテが揺れてる。
そういえば仲良いんだっけか。委員会とかの関係で知り合ったとかだったか?
俺にマウントポジションを取り腰を揺らめかす彩美にデコピンをくらわす。
「あぅぅっ!」
彩美を持ち上げながら立ち上がった。
分かってはいたが、夢寐より小さい。そして軽い。
「わははー! 犯されるー!」
の割には変な知識ばかりが偏っていた。
そんなに社会的に俺を殺したいのかよ。見ろよ周りの目。絶対零度だぞ。即死だぞ。
「……はっ! まさかお前こそが存在X…………!?」
「んー?」
「そん、ざい……?」
彩美と夢寐が揃って小首をかしげる。
まぁそんなわけないか。すぐに笑顔を取り戻した彩美がじたばたしながら聞いてくる。
「ねーねーっ! どーしてこっちに来たのー? 彩美に会いに来てくれたのー!?」
「散歩」
「うそだーっ!」
「……別に会いに来たとかじゃねぇよ。なんだ、その、クラスで話題になってたアイドルに会おうと思ってぶらりと立ち寄っただけだ」
「ええーっ!! ……やだおにーちゃん本当にロリコンに……?」
「やかましいわ」
ぶんぶんぶんと彩美を縦に振り回す。
「うきゃー」と色気の欠片もない悲鳴を上げていた。
「話題……アイドル……そんな子がここに?」
「お前だよ」
「…………????」
アホ毛が“?”となって疑問を表している。
「おにーちゃんが夢寐ちゃんに興奮してるんだってー」
「っ!?」
アホ毛が“///”になった。
えどうなってんのそれ。
「ってそんな話してないだろうが。夢寐も夢寐だぞ、話題になってるアイドルと言ったらお前ぐらいだろうに」
「そう……です、か? もっとすごい人はいっぱい―――」
「えぇえええええええええええええ―――っ!?!?!?」
うっさ。彩美が急に叫ぶ。
俺と夢寐を見比べていた。
「なななな、名前呼びしてる!? というか知り合いーっ!? あとおろしてーっ!!」
「実は付き合ってるんだ」
「うそーっ!!」
「うそ」
「ばかー!!」
ぽかぽかと殴られる。痛くはないので避けもしなかった。
夢寐はそんな俺たちを不思議そうな顔で見つめてきていた。
「……あっ! 斑鳩って、もしかし、て! 兄妹! おにーちゃん!」
今更合点がいったのか目を丸くしていた。
そこまで驚くことか?
「なんだかぜんぜんちがう……」
「…………」
彩美を下ろす。
次に夢寐をがしっと持ち上げた。
「わひゃぁ!? あ、あの、あのあ、の!?」
脇をちょっとくすぐる。
「にゅひぃ」
……
…………あ?
「…………」
「…………」
こしょこしょ。
「にゅひひ」
……
なんだか変な笑い方をしていた。
「……ねぇおにーちゃん」
「ん?」
顔を真っ赤にした夢寐を下ろしながら振り返る。
「最近、お家帰ってきてくれないの、なんで?」
「……友達の家に泊まるって言ってるだろ?」
「おにーちゃん友達いないじゃん!」
ぼぼぼ、ボッチじゃねぇし!!
ただ独りをこよなく愛する一匹狼なだけだし!!
生意気なことを言う彩美にデコピン。
額を抑える彩美の頭を撫でながら、しゃがんで目線を合わせた。
「寂しいか」
「……うん」
「悪いな」
それ以上文句は言わない。黙って頭を撫でられていた。
よくできた妹だとは思う。
心配だというのも無理ないか。
「だがな彩美。友達の家ってのは本当だぞ?」
「え?」
「こいつん家に泊まってるんだよ。正確には兄が友達でな、そのよしみだ」
夢寐の頭に手を置きながら言う。
嘘は言ってない。俺と夢寐の兄は友達だ――という洗脳をした。
こちらとしては名前すら知らんのだが。
それを聞いた彩美が名案を思い付いたとばかりに手を挙げた。
「じゃあ彩美も泊ま―――」
「だめだ」
「うわぁぁぁあああああんおにーちゃんのばかぁぁぁああああ!!」
精神衛生上良くない。それ以上はマイナス行くぞ。
妹の未来のために俺は心を鬼にしなくてはいけないのだ……
泣いて(フリ)去っていく彩美の背中を見つめながらそう思うのだった。
「本当喧しいぐらい元気が有り余ってるよな、夢寐。…………夢寐?」
「はいっ♡ なんで、しょうか……っ♡」
「あ」
頭、撫でちゃってた。
てへ。
いやーん、右京ちゃんってばうっかりさーん!
近くの空き教室に転がり込んで一発ハメるのであった。
「…………」
敵意の籠った視線に、気付かないふりをしたまま。
……だが、いつまでも家に帰らなくていいわけではなく。
『帰ってこい』
その短いメールの一言で、俺は戻ってきてしまったのだった。
我が家へ。愛しくない我が家へ。夢寐はいない。俺一人だった。
夕焼け空が不穏だ。目の前に聳え立つ門があたかもラスボス前かのような威厳を発している。
帰りたい。いや帰ってきたんだわ。でも帰りたい。
ゆっくりと門が開かれていく。日本庭園のような趣の光景が真っ先に飛び込んでくる。
砂利道、続く飛び石。隣に目をやれば、池があり、高そうな鯉が泳いでいるのが分かる。
今時珍しい、豪邸という奴だった。
「……っ! おにーちゃん! おかえりー!!」
彩美だ。先に帰ってきていたらしい。
手を振ってきたので振り返す。はにかむ彩美に気を緩めていると。
「久しいな、右京」
その男はやってきた。
「…………お変わりないようで、お父さん」
“斑鳩
俺に似た目つきや口元は端から見れば家族同然ではあるが――この相手を意味もなく委縮させるオーラというものは似ても似つかなかった。
さきほど、あの門がラスボス前と比喩したが。
まさしく魔王である。精神年齢はそう変わらないのに、縮こまってしまっていた。
「冗談だ、たかだか三日四日程度よ。どこぞの娘が騒ぎ立ておっただけ、久しゅうとなるほど変わっても……」
「……? 俺の顔に何か?」
「…………いやな。年季の入った目をするようになったと思うての」
鋭い光が灯る。射貫くような視線に、思わず目をそらした。
「まぁ良い。とりあえず中に入れ。己との話が終わり次第、こ奴の相手でもすると良い」
「えへへー、お部屋で待ってるねー!」
「それでは」
お邪魔します、と一礼し家の中に入る。家というか屋敷だな。
俺からすれば本当に久しぶりなので、別の人の家に入ってきた気分だった。
彩美は奥の方へと消えていく。俺と源十斎は近くの部屋に入り込んだ。
「少々散らかっているが、気にするな」
「……そうみたいですね」
そこは普通の広さの居間だった。先ほどまで酌をしていたのか酒の一升瓶が置いてある。
魚の造りが並び、一般家庭には到底手が出せないような料理の数々が俺を出迎えてくれた。
食欲は沸かない。料理は血まみれだった。
「
「気にするなと言ったはずだ。消える者の名を知る必要はなかろうて」
一人の男が死んでいた。
生きているのかもしれないが、どちらにせよ消える。この男は、消すのだ。消えると言ったら、本当に。
名刺が机の端に置いてあった。死んだ男の名刺だ。
書いてある会社名は、“斑鳩興業”の下請け会社であった。源十斎の不興でも買ったのだろう。
「料理はダメになってしまったが、酒は平気だ。飲むか?」
「……いえ、これから友達の家に泊まりに行きますので」
源十斎は手元にあったコップに酒を注ぎ、俺へと突き出してくる。
問答無用かよ。
「いただきます」
飲み干す。日本酒だった。多分高い奴だろう。
あんまり好きじゃない。それでも空になったコップを机に置いた。
「……ふん、やはり別人らしくなったな」
「そうでしょうか」
「ああ、そうだとも。自覚がなかろうとな」
源十斎が目を細める。うれしいのか何なのか分からないから怖いんだよ。
早くこの場から逃げたいので、本題を切り出す。
「……それで、今日はどうされたんでしょうか」
「特に用はない」
「…………」
「彩美に会わせる口実だ」
「すみません、妹が」
「娘だ」
それもそっすね。
「……では彩美がダダを捏ねる前に行ってきます」
立ち上がり、源十斎に背を向ける。
襖に手をかけたところで、声をかけられた。
「――欲すなら、犯しておけ」
その言葉に、俺は。
「心しておきます」
この時代に引き戻されたような気分になるのだった。