あーっ! あーっ困りますっあーっ! メスガキこのっ! この舐めやがってっ! じゅるるるるーっ! 作:道明寺ファンブル
冷たい視線が痛かった。
睨まれる理由なんて心当たりがありすぎるから特定できないんだけど。
どうにも敵対視されてるようだった。
「待て、なぜ防犯ブザーに手をかける」
うわ、この幼女容赦な。
俺は幼女と黄昏時を二人っきりで歩いてるだけだぞ!
「思いっきり不審者だから。警察呼ばれて不都合なことでも?」
「呼ばれて都合良い奴がいるか」
「あ、あぁ、どうしたの……っ?」
「……誰かと歩いてるようだと思ったらどうしてこいつなんかと……」
はぁ、と短く息を吐く黒髪幼女。
サイドアップにした艶のある髪が翻って、腰に手を付きながら彼女は俺に指をさす。
「あなた! いやロリコン! 夢寐にしつこくつきまとうのは止して!」
「……あ? つきまとうぅ?」
夢寐と目を合わす。お互いに小首をかしげた。
「かわいくないのよロリコンがぁ!!」
「うぉあぶねぇ!?」
「ひゃっ!?」
蹴りが飛んでくる。
どうにも誤解が過ぎないか!?
いや正鵠を射ているとも言えなくは無いけども!
「ど、どうしたのっ、“
「醜悪な豚のくせにすばしっこいわね! ――ロリコン変質者! あなた有名よ? 初等部を徘徊してはそこの子を連れまわすんだから!」
セックスしてるだけだろうが!!
「さっきから聞いていればあることないこと言いやがって」
「割と全部あることのような、気もしま、すけど……」
「そこ」
「むひゃ」
失礼な。夢寐の頬をぐにっとつまんだ。
……まぁ別に隠していたわけでもなかったし。
噂ぐらい立って当然か。少なくとも認識は不審者というだけで――初等部の連中の乏しい想像力じゃ“
目の前のコイツ、栗生と呼ばれた幼女だけは違うみたいだが。
「あ、
「そんなことはないぞ」
一時期はレイプ魔として世間様から石を投げられてたんだ。
このぐらいの罵詈雑言、仏の心持で聞き流せるぜ。
でも仏って心そんな広くないよな。
顔三回撫でられただけでキレるし。
「っ! きやすく触ってんじゃ――」
「あーもー落ち着け落ち着け! これじゃあ防犯ブザー鳴らそうが鳴らさなかろうが公僕の厄介者になりそうだ……! お前の友人じゃないのか、どうにかしろ」
「あぅ」
夢寐を前に押し出すと栗生の動きが止まる。
「……え、っと。栗生ちゃん……夢寐は、その、連れまわされたり、してないよ?」
「嘘よ。理由がないわ。……さっきまでレッスンだったはずでしょう? その帰りを一緒にするなんて、度が過ぎてるじゃない。まるでカップル」
「帰り道が一緒なの」
「…………あなたの家の周りに、こいつが住んでるの?」
「ううん」、と首を振って夢寐は言う。
「同棲してるの」
……
…………
あはは。待ってくださいよ、そんな爆弾投下する?
せめて泊まってるとかお兄ちゃんの友達で~とか。なぜ誇らしい顔を?
「待て、なぜ防犯ブザーに手をかける」
「あんたが幼女に手をかけてるからでしょーがァ―――!!!!」
うまい。
鳴り響くブザーの音を背に、夢寐を抱えて走り去るのだった。
……ひどい一日だった。
そんな気がする。前髪が後退してきてるように見えてきた。
「えへへ……すみま、せん……やらせ、ちゃって」
「ああ、うむ。気にするな」
それもこれも、この暴力的なまでの毛量を目の前にしているからだろうか。
「“お兄ちゃん”相手だと、随分甘えん坊になるんだな」
「ぅ……家族、ですもの」
防犯ブザーを鳴らされながらもどうにか家に逃げ帰った。
1時間は警察が来ないかとドキドキしていたが、そんなこともなく。
いつも通り飯を食べて風呂に入り、後は寝るだけだ、としたところ。
『おにーちゃん? かみ、梳かして』
『あ……あー、悪いな、夢寐。お兄ちゃんはこれから友達の家にいかなきゃでさ』
『えー』
『そんな顔しないでくれ……んー、どうしたものか……』
なんて会話を耳にした。珍しくわがままな夢寐だったもんだから、俺が代わりに立候補したわけだ。
夢寐も夢寐で嫌がらずに、されるがままとなっていた。
安物ではなさそうなかわいらしい櫛で夢寐の髪を梳かしていく。
持ち上げるとなると抱えるしかない。そんな髪だ。毛の質は良く、艶があるが……夏とか、死ぬんじゃないか?
「事務所から、あまり切るなと、言われて、て……」
一種のアイデンティティだからか。災難な。
椅子に座った夢寐は上機嫌に鼻歌を歌っていた。新曲、だろうか。
鏡台の鏡には口元を緩ませる夢寐が映る。鏡の中の夢寐と目が合った。
「お上手、です」
「……そうか? もう髪を梳くというより動物のブラッシングみたいになってたんだが」
「なんだか……優しい手つき、です、ね」
そう言う夢寐は俺の手元と俺を見比べた。
最初は随分ひどいことをしたからな。そう考えると、今の関係は驚くほどというか。
「ご経験、あるんですか?」
「彩美がな、風呂上がりによくせがんできたからさ」
「彩美ちゃん、右京さんのこと、大好き、ですからね……」
「歪んでるけども」
「あはは……」
意識すると、自分でも驚くぐらい手つきが丁寧になっていく。
くすぐったそうに声を上げる夢寐にムラムラしながらも続けていく。
「…………やっぱり、夢寐は」
「ん?」
「あ、い、いえ……なんでも、ないです」
消え入るような声だったから聞き逃してしまった。
目を伏せた夢寐の視線の先にあるスマホに一通、通知が入る。
「あ」
それを見て夢寐が目を丸くする。
『なんかあったら相談するのよ! 絶対! ぜーーーーーーーったい!!!11 あんな奴どーせろくでもないんだから!! ヽ(`Д´)ノ』
「栗生ちゃん、から……」
「いつまでも元気な奴め」
「……あの、さっきのは、その、栗生ちゃんも、悪気は無かった、と、思う、ので……えと、えと」
「手は出すな、だろ?」
「…………はい」
守ってやれるとは、思えないが。
夢寐の顔が安堵に満ちるのを見て、続きを口にすることは無かった。
……それにしても、面倒くさい虫がついたな。
「栗生……『
「ステージだけの話、ですよ」
「なるほど。……いい友達だな」
「数少ない、大切な友達、です」
「そうか」
何十年も生きてきたから、ジジくさいことを言ってしまった。
ボッチだったからかな。辛いな。
「…………ぅ」
なんて話続けていると、夢寐が大人しくなってくる。
こっくりこっくりと舟をこいでいた。
「おい、寝るならベッドで……!」
かくん、と体重が俺にかかってくる。
規則正しい寝息を立てていた。
「……強姦魔相手に無防備過ぎるだろう」
…………あるいは、俺が中途半端なだけかもしれないが。
ちらりとスマホを覗く。
こちらにも通知が一つ。
『疾くレイプせよ』
やるかは否かはともかく、俺はすでに――
『次のメスガキは決まった』
あの病院のことは一旦忘れることにしよう。
非日常なんざ、お腹いっぱいなんだよ。
月曜日。
栗生にはあーだこーだ言われたが、どうせ口先だけだろう。ふはは。
初等部の方へやってきた俺に、どこからか声がかかった。
「あなたが初等部の子を食い物にする変質者かしらーーーーーーッ!!」
「そうです。あいつが変なロリコンです」
「…………げ」
考えが甘かった。そら見たことかと言わんばかりに栗生が胸を張る。
――こいつ、チクりやがったな!?
地味ながらに一番ダメージが高い攻撃だった。
「あー……」
ビシッ、と音が鳴るような勢いで指をさしてくる幼女――否、教師。
デコ出し金髪ドリル萌え袖白衣合法ペドと属性てんこ盛りのパフェみたいなその幼女の名は――
「
『
いやまぁその低身長に全部持っていかれているんだが。それもあって下の名前を呼ばれるのを嫌ってるみたいだ。
「何見下してんのよぉーーーーーーーーっ!!」
地を這えと?
「……はぁ。まったく、許可なしに高等部以外をほっつき歩くなんて」
「先生、あの人目が、目がロリコンです。きっと襲います。やばいです」
「なんだかそんな気がしてきたかしら」
「おい黒髪」
冷たい視線が倍になったところで、夢寐が走ってくる。
息を切らして俺の服を掴みながら、顔だけ禾几先生たちに向ける。
「あー」
それを見て禾几先生は空を仰ぎだした。
天井しかないけど。遠い目をしていた。そして再びこちらに視線を向けると――
「仕方ねぇかしら。ついてくるのよ、こっち」
「は、え? 先生? ちょ、あの――?」
「天宮さんももう気にしなくて大丈夫かしら。ちゃんとお灸をすえといてやるのよ」
「あ、はぁ……」
煮え切らない栗生をしり目に、何処へと行こうとする禾几先生に手招きされる。
なんだか優しい目をしていた。憐憫、とでもいうか。お灸をすえるような雰囲気ではないのは確かだな。
「…………?」
「とりあえず、行くだけ行くか」
わけもわからず、俺たちは禾几先生についていくのだった。
「ここよ」
たどり着いた場所は保健室だった。学園の保健室だけあってなかなかに広い。
禾几先生、確か養護教諭だったか。
「別に今更性教育だなんだのするわけじゃないし、楽にするかしら」
「せんせーセクハラー」
「うるせーロリコンー」
ごめんなさい。
「あ、あの、禾几、先生……?」
「あなたたち、どーせ並々ならぬ関係なんでしょう? ここなら人はあまり来ないし、使うと良いのかしら」
「つかう……?」
「まさか」
禾几先生がベッドに上り、近くのエンドテーブルからピンク色のナニカを取り出した。
「なんのためにコンドームがあると思ってるのかしら」
「えぇ!? せ、せん、せ、せ、っ!?」
「うぉぉ」
本当にあるんだ、ソレ。都市伝説かと思ってた。
ついでにそんなこと言いだす養護教諭も都市伝説と思いたかった。
舌っ足らずな声でえげつないこと言うなよ……
「あら、ちゃんと舌は二枚あるかしら」
声に出てたか。ってかそれってつまり。
「先生、小学生からかうのは悪趣味じゃないですか」
「え、ぇ?」
「少ない休み時間を無駄に費やされた腹いせよ。自分のすぐ横で喘いでもらっちゃ休めるものも休めないかしら」
「せ、せんせぇ! わぶっ」
詰め寄る夢寐にコンドームが叩きつけられた。
「子供でも孕むんだから、避妊はしっかりするのよ」
「あ、あぅ、あぅ」
「光る方が良かった?」
「いらんわ」
夢寐の顔からコンドームをはがしてポケットの中に入れておいた。
それを見た禾几先生の目が細められたけどまぁ気にしない。この人そういうのにルーズそうだし。
「……ま、盛ってもらっちゃ困るけど、話すぐらいなら使ってもらうのは構わないかしら」
「と言うと?」
「初等部にいちいち来られちゃそのうち面倒なことになるのよ。場所ぐらいは提供してやるから、今度からはここに来るといいかしら」
そう言いながら禾几先生はベッドに横たわる。
ルーズ過ぎないか? ストッキングを履いた脚が艶めかしかった。
「なんだか、2人だけの、秘密、みたいな感じ、ですね」
「厳密には3人だが……」
嬉しそうなのはなぜなのか。最近この子が良くわからん。
俺たちは先生の厚意に甘えて保健室にくつろぐことにした。
いつもはヤってばっかだったから、先生の前でも自然な話題と言えば今日一日の学校での出来事とかになり……不思議と普通の会話が弾んでいた。
禾几先生も時折混ざったりしてきた。大抵からかってくるんだけども。
そうこうしていると――
「――禾几先生」
扉がノックされる。
この声……彩美、か?
「ああ、文化祭のことね。入ると良いかしら」
「失礼します。……ぁ」
「手短に済ませてほしいかしら。出し物の細案――の中でも調理のとこね」
俺と一瞬目が合った彩美だったが、軽く微笑むだけで凛とした表情に戻る。
ああ。“生徒会長”の彩美だ。夢寐も見とれるように彩美を見つめていた。
「とりあえず調理の団体の細案を持ってきました。材料と調理方法は記入させてありますので、確認をお願いします」
「……あーもー、なんで文化祭なのにこんな調理が多いのかしら」
ぺらぺらと何かの紙をめくっていく。
「乳製品、ダメ。こっちは保管方法が駄目ね、返却。こっちは……まぁいいけど、アレルギー表記だけは絶対にさせて」
「分かりました。ありがとうございます、先生」
「保健所に提出してからじゃ修正は遅いから、ちゃんと考えさせるのかしら。これ去年の調理団体に配布した注意書き。印刷してクラスに回してほしいのかしら」
「はい。分かりました」
「それでは」、と一礼し、彩美は保健室を出て行った。
…………わが妹ながら、随分と立派になって―――
―――ガラガラ!!
「……あら、忘れ物かしら」
「はい」
勢いよくドアを開けた彩美が飛びついてきた。
ぬぉお!?
「わお」
跳躍だけで俺の顔に抱き着いてきた彩美の勢いにたたらを踏む。
あぶねぇな! 逆肩車の形になりながら、彩美を見上げた。
「えっへへへー!! おにぃーちゃんっ♡ かっこよかったぁ? ねぇかっこよかったーっ!?」
「最後までキリっとしてたらなぁ」
「おにぃちゃんの前じゃ彩美のままでいたいんだもーんっ!!」
“妹”モードだ。
小学2年生にして生徒会選挙で生徒会長の座を勝ち取った天才少女――仮面が剥がれればすぐこれだ。
「こっちの方が接しやすいのは確かだな」
「でしょーっ!!」
満面の笑みを浮かべるこっちが俺の知る彩美だった。
「なるほど、近親もアリ……」
「そこぉ! 新しいのは出さなくていいから!!」
この養護教諭……ほんと見た目と似合わねぇ行為しかしねぇな!
俺の肩から飛び降りた彩美が、今度は夢寐を見やる。
「2人ともどうしたの? ケガー?」
「んー……」
「ヒミツっ」
夢寐も彩美に負けないような笑みを浮かべた。
「えぇーっ!! 怪しー!! おにーちゃんロリコンだしー!!」
「誰がだ」
「えへへ……」
「修羅場かしらね……」
「だからそこぉ!!」
姦しいとでも言うか、あまりにも場違い感のある俺が混ざった騒がしい空間。
この乱痴気騒ぎは、予鈴が鳴っても少し続くのであった。
そんな空間だから、だろうか。
“不審者情報”と題された手紙だけが、異彩を放っていた。