「家ぃ、親が店やってるんスよ」
「あぁ、あの国木田鮮魚店て、陽太の実家だったのか」
地元では古くからある魚屋だ。
お世辞にも流行っているようには見えないのだが
「じゃあ将来、お前が家業継ぐのか?」
「いえ、魚とかは好きなんスけど、自分接客とかは向いてないと思うんで」
「それで商業高校か。」
大学出る時に禄に就職の選択肢も無かった俺にとっては
羨ましくも感じる話だ。
「スーツ着たがっちりした人と家の親父が、いつもお金の話ばっか
してたんスけど。親父がいつも頼りにしてたスーツの人がすげぇ
カッコ良く見えたんですよね」
「確か国木田鮮魚店なら、昔係長が担当だった筈だな」
「ガキン頃の自分は、スーツの人のこと銀行の人だと思ってたんスけどね(笑)」
「ガキの頃の憧れ...、か...」
俺にも夢が無かった訳じゃあない。本音を言えばそのまま
大学出てからもラグビーで飯を食えたらと思っていた時期もあった。
信金営業もそれはそれで楽しい事もあるが、こんな陽太のような
前向きな純粋さは、久しく自分の中でご無沙汰になっちまってるな。
「先輩はどうして今の職業になったんスか?」
「まぁ、成り行きだ。大人には道を変えたくても変えらンねぇ時もあるのさ
陽太も大人になれば分かるようになる」
「そんなもんスかねぇ」
「そんなもんだ」
俺には兄弟は居ない、割とガキン頃から一人で自分の事はやってきたし
比較的早くから社会に出ることに関心はあった方だと思ってる。
連れは出来たり出来なかったり、それほど深くも考えたことは無い。
ラグビー以外の事は割りと偏屈な野郎に、人には見えているのかも知れない。
ただ、これ程誰かに自分の事を赤裸々に話すのは
陽太が始めてのような気もする。
その日は客先から直帰だったこともあり、17時過ぎには寮に着いていた。
あぁ、今日は久しぶりにゆっくりと夕風呂とでも洒落込もう。
「こうやって直帰の時はゆっくり出来るのも、営業の楽しみっちゃ楽しみかもな...」
仕事終わりの汗ばんだ肌に、熱い湯が染みる。
ここは独身寮の共同風呂。個室の風呂が好みのヤツには気の毒ではあるが
広い風呂でたっぷりの湯に浸かるのは気分がいいし、風呂を洗う手間が無いってのは、何よりだ。
カラッ
「そうか。この間なんだかんだ泡に行きそびれたままだったか。こういう機会に
英気を養っておくか...」
今は誰とも付き合っていないのもあってか、仕事終わりに昂っているのが
自分でも良く分かる。
やはり陰気を内に溜め込んだままってのも、決まりが悪い。
続く
名前は出てきてはいませんが、先輩のキャラクターイメージ的には
龍が如くの桐生一馬をほんの少しだけ恰幅を良くした様な
頼れる寡黙な兄貴をイメージして書いてます。