家に帰ったら妻が分裂して六人の子持ちになった宇宙人の話 作:じぇねぐろ
「…なるほど…つまり記憶の葉に僕の遺伝子情報を記憶させて再抽出して僕と同じ種族になろうとした過程で分裂してあの子達が産まれたってこと…か…」
「ご、ごめんなさい…私…私…」
別室にてりりから粗方説明を聞き終えたワカバは顎に手を当て、物思いに目を伏せる。
「…あ…あの子達……その…処理…」
涙を浮かべて次の言葉に詰まるりりを抱き締めるワカバは歯を食い縛った後ゆっくりと優しい口調でりりに言葉をかける。
「まず、りりが無事でよかった…ごめんね、りり、君がそこまで思い詰めているなんて思わなかった…ぼくはりりがいればそれで十分だったから…でも、りりは女の子だもんね、そういう憧れもあるよね…ごめんね…」
ごめんねと何度も呟くワカバの中で顔を歪めながら首を振るりりは泣きながら続ける。
「違うの…ワカバ…私も…ワカバさえいればそれでよかったのに…私が…ごめんなさい…ほんとは私だけでも……ワカバを…困らせてるのに…」
最後の言葉にワカバは目を見開き抱いていたりりをそっと離すと真剣な面持ちでりりと視線をあわせてその優しげで力強い眼差しに言葉をのせる。
「ぼくはりりが産まれた事を一度だって困ったことはないよ」
「…!」
りりは息をのむ。りりがこれまで潜在的に抱え込み、本当は一番聞きたかった言葉をワカバははっきりりりの耳に運んでくれた。
「それに、あの子達だってなんの問題もないよ、目的とは違っても、りりが望んで産まれた子だ。りりが望むなら一緒に暮らそう」
りりにはもうこの言葉に意識が追い付かなくなっていたが、ワカバの言葉に安堵の色を少なからず示していた。
「うそ…だって…いいの?…ワカバぁ…だって…」
思考が纏まらずちぐはぐに言葉を紡ぎ出すのが精一杯のりりは先程よりも更に顔を歪めて涙を流す。
そんな最愛の妻の頭を撫でながら静かに抱き締めてやるワカバ。
ワカバの胸の中で嗚咽を漏らすりりは次第に落ち着いていき、ゆっくりと顔をあげる。
「…ありがとう、ワカバ…」
顔中真っ赤にしながらワカバに感謝の言葉を投げ掛ける。するとワカバは予想外な反応を示す。
「ぷっ…」
「?」
「あははは!りり、酷い顔だよ!」
笑いだしたワカバに虚を突かれたりりだったが、次第にワカバの言葉を理解し、涙で赤くしていた顔よりもさらに紅くなってワカバに拳をぶつける。
「もう!ワカバぁ!!」
「あははは!ごめん、ごめんって、りり…」
緊張の解けた安堵の時も束の間、二人の部屋にリビングで話していた姉妹の一人が入ってくる。
「お熱いところでもうしわけねーんだけどさぁ…」
突如入ってきた次女の姿にりりはバッとワカバから離れる。
その光景をあはは…と頬をかきながら流し目にりくに視線を移すワカバが口をひらく。
「どうしたの?」
「いやぁ、俺らも産まれっちまった以上は意識っつーかなんつーか、そういうのはあるんだわな」
「だよね」
冷静に声をかけたワカバにりくも冷ややかな言葉を返す。
それに肩を竦めて返答したワカバにりくはケムリクサを起動して続ける。
「俺らにはかーちゃんの記憶がまじってっからよ…断片的にだが…何が問題かってのはだいたいわかんだわな…とーちゃんの返答いかんでは俺は妹たちを護ってやんねーと…な?そーだべ?」
バチバチと部屋中に鳴り響く雷鳴にりりが紅かった顔を青くしながら立ち上がる。
「り、りく!何するの!?」
駆け出そうとするりりをワカバが制止する。
「りり、大丈夫だよ」
「ワカバ!だけど…」
笑顔で応えたワカバに返答と次の行動に淀むりり。
そんな妻をよそ目にゆっくりと立ち上がるワカバはりくに向き直る。視線を受け止め、構えるりくにゆっくり歩み寄るワカバ。
それを制止するようにりくは叫ぶ。
「それ以上くるなよ!オメーがどういう判断か聞くまで…お、おい!」
制止も構わず歩みを進めるワカバにりくは構えたケムリクサを撃つことができない。
妹を護らねばならない自身の責任と、りりから受け継いだ記憶に宿るワカバへの愛は等しく葛藤し、その手を止める。
りくが躊躇っているうちにワカバは目の前に立っていた。動揺したりくは叫びながらケムリクサを放とうと手を振る。
「て、てめぇ!!」
しかしワカバは放たれたケムリクサを避けもせず立ち尽くす。りくの放った雷撃はあらぬ方向へ弾けとんでいった。
「…なんで避けねぇんだよ…」
「当てる気、無かったでしょ?」
「…チッ」
ワカバに自分の心中を言い当てらればつが悪そうに舌打ちをするりく。
そんなりくをワカバは優しく抱き締める。
「ふふふ…りりに似て優しい子だね」
目を細めてりくのフードをあげると丁寧に頭を撫でてやるワカバ。りくも柔らかい瞳をワカバに向けて頬をかく。
「取り越し苦労ってやつだったかな…」
「だから言ったニャ~悪い人じゃ無いって」
その様子を影からみていたりつがりくに声をかけてくる。
「チッ…カマかけてみなきゃわかんねーだろ…」
「記憶にあるワカバさんはそんな人じゃないニャ~」
笑顔をむけて話すりつに再びばつか悪いと皆から顔を背けて頬をかくりく。
「ワ、ワカバ!?大勝負なの!?」
「うん、平気、ごめんね、心配かけて」
そんな二人の娘に微笑みを向けるワカバと対照的に涙をボロボロ流しながら駆け寄るりり。
りつとりくはそんな二人に頭を下げる。
「…悪かったな」
「ごめんニャ~私たちも産まれたばかりで色々混乱しててニャ~」
目を伏せるりくと笑顔で話すりつを見てワカバは一つ頷くとりりの肩を強く抱き締める。
「よし、皆と話そう」
わかばは強く優しい瞳を三人に向けながら自分の中でも決意を固めるために言葉を発するのだった。