王都にある、見慣れたごく一般的な建物の中。
発射された巨大なクラッカーとその内容物が散乱する部屋に、陽二を囲む3つの人影があった。
その人物の中のひとり。薄い赤髪の女の子が、ビシッと人差し指を伸ばし、まるで声高らかに歌うように口を開いた。
「ふっふっふ。全世界の親愛なる
―――― 俺は、おまえの僕じゃねーよ。それと、自己紹介なら名前を言えや!
「ん? 誰かわからないぢゃと?」
―――― 言ってねーよ
「
―――― 怒られた!? そして、盛りすぎだろが!
「テストに出るからな? 要チェックぢゃ!!!」
―――― くっ。うぜぇ
「うぁーはっは。うぁーはっは。うぁーはっはっ!」ゲホッゲホッ
「かわいいです!」
「毎回、毎回……アホだな」
「なんぢゃと!?」
―――― うん同意。アホめ
「まあよい!
「ランスの罰は
「………」
「よし。
「まあ!」
「なっ、お、おい言うな!!」
―――― な、何!?
と、陽二の前でアホなやり取りをしている3人が、この国で超有名なチーム『ゼラ二オン』のメンバーなのだが、ここで、話は少し
△△
「何かが、スキルに干渉してきたのぢゃ……何だったのぢゃ……ん? 感じるのぢゃ……王都、か?」
「桜ちゃん、もしかして……帰ってきたのでは……」
「何かは分からんのぢゃ、王都にいくのぢゃ」
「「はい!」」
現在、彼女たちチームゼラニオンの居る場所から、王都までは、直線距離で100キロほど。しかし、山を降り道なき道を進む事を考えれば、その行程は2倍以上に膨らむ計算になる。
だが、彼女たち『ゼラニオン』ならば、走って3時間もあれば十分。現在時刻は、深夜2時。朝には到着予定だ。
到着は6時。
桜がいつも通り、ランスロットを
「まずは、感じたものを探す。……王宮か?」
むむむっと集中して、感じたナニカをキャッチすべく、見えないアンテナっぽいのを広げる桜。その背中を、アスモデウスがツンツンと指でつつく
「なんぢゃ? アスモ」
「桜ちゃん、あの人たち」
アスモデウスの視線を辿ると、王子パトリックを先頭に、何人もの兵士が馬で駆けて行くところだった。
「どこに行くのぢゃ?」
「パトリック王子の雰囲気……変わりましたね」
ランスロットもその姿に気づいたらしく、思わず呟いた。
「騎士! ああ、私も一緒に行きたい!」
その言葉にイタズラな笑みを浮かべた桜と、その意図に気づいたアスモデウスは
「ランス。おまえも行けば良い、ホレホレ」
「ランスちゃん行ってもいいですよ? こっちは、私と桜ちゃんだけで十分ですから」
と、冗談半分。からかう様に、ランスロットの背中を押した。
「わがままを言って済まなかった。だから仲間はずれにしなでくれ」
それを本気と取ったランスロットは、超、足で踏ん張った。どうやら彼女、知らぬは本人だけ、いじられキャラで好かれているのだろう。
△△
朝も早く、感じたナニカも睡眠中らしく動きがない。なので、アジトに戻り休憩がてら動向をチェックしていた桜たち。ぼちぼち動き出したのを感じた桜の提案で、王都の近くにある店から見張ることに。
「桜ちゃん。何を食べますか?」
「うむ。そうぢゃな……ぱふぇでもしゃれこむか」
「なに、ぱふぇだと? 仕方がない。私も付き合おう」
「ふむ。うまいの」
「おいしいですね」
「こ、これがぱふぇか……おいしいぞ!」
「なんぢゃランス。
「あ、あるに決まっているではないか! 騎士たる者、ナウい物には敏感でなくてはな!」
ナウいって……とりあえず、ランスロットの虚勢とも取れる嘘はバレバレで、桜は『ピーン!』とひらめいた!
「さすが騎士、分かっておるのぉ。ところで……ぱふぇを食べる礼儀作法があると聞いたのぢゃが……騎士ならば、当然知っておるのぢゃろう?」
「と、当然だろう。だが、私の知っている礼儀作法と違いがあってはなるまい。い、一応聞いておこう!」
「ふむ……。まぁ知っておるのぢゃろうが、ぱふぇを食する時は『左足とお尻を、浮かせたまま食べる』と聞いたのう。まあしかし、これは上級騎士の礼儀作法ぢゃと聞いたしのう。
「ふっ。何を言うのかと構えれば……まさに、私の知っている礼儀作法ではないか! 良く見ているがいい。私が、正式な礼儀作法を教えてやろう!」
「さすがはランス。早速お願いしようかのぉ」
ランスロットは『ふっ、余裕だな』と、教わった通り左足を上げてお尻を浮かす。空気椅子の片足版だ。
プルプル
「ではランス。ここで張り込みをするついでに『礼儀作法』をしかと勉強させてもらおう。ちなみに、礼儀作法を崩すと、騎士は自分に罰を与えると聞く。騎士とは誠に立派ぢゃのう」
「当然だ。騎士とは、自分に厳しく他人に優しく! わが騎士道見せてやろう!」
―――― こやつ……やはりアホぢゃ
20分後~プルプルプルプル
1時間後~プルプルブルブル
「そ、そろそろ張り込みは止めて、王宮へ向かった方が早いのではないか?」
「ん? 限界なのか?」
「そ、そんな事は、これっぽっちもないが……見てみろ桜、アスモが暇そうだ」
「いえいえ、いつもの事なので」
「な!(いつもは助けてくれるのに……)」
2時間後~ガクブル、ガクガク、ガクブル、ガガガガ
「ランス、顔色がかなり悪いが、大丈夫か?」
「べ、べ、べいきだじょ、こりぇくらい。えぐっ。私、えぐ、ぐす、えぐ、ずみまぜんでじだ~うぞをづいでまじだ。えぐ、ひっぐ、ばちゅうげますかだぁ~ゆるじで(済みませんでした。ウソをついていました。罰を受けますので許して下さい)」
バタッ。ランスロットは倒れてしまった。息はしている。
「どぅわーはっはっ! 見てみよアスモ
「桜ちゃん。ランスちゃんで遊んではダメです。もう……ランスちゃんも、ミエを張らなければいいのに……」
立ち上がったアスモデウスは、ズルズルと床に崩れ落ちたランスロットの近くにしゃがみ込むと、
「あっ!回復するでない。まだ、足をツンツンしておらんぢゃろう!」
「もう、桜ちゃん……め!」
「わ、わかったのぢゃ……ちっ」
「桜ちゃん?」
「な、何でもない!は、早くランスを見てやるのぢゃ」
「もう……誰に似たんだか」
アスモデウスのおかげで、ランスロットは無事復活した。
「手間をとらせた、すまないアスモ」
「ランスちゃんも、もう少し素直になったら良いのに……」
「罰は与えるのぢゃ」
「くっ、騎士に二言はない。どの様な罰でも受けよう!」
「ふむ。では、1カ月間。ミニメイド・ノーパンティーの計ぢゃ」
――――な、なんだと……?
ランスロットは、ガラガラと崩れ落ちた。そしてこの騒ぎは、店長やスタッフたちにしっかりと見られていた。
「あそこのお客様たち、パフェ1杯でどれだけ粘るつもりなのかしら……」
「君。彼女らが出ていったら、塩をまいておくように!」
「OKボス!」
陽二とカリンが店に訪れたのは、桜たちが出た少し後の事であった。
△△
「映画館の外に丸タイ確認。尾行を開始する」
「丸タイに気付かれるな。オーバー」
「了解!」
「丸タイ
「ふむ。潜入して様子を探るのぢゃ オーバー」
「了解。潜入を開始する」
ランスロットは、カリンと仲良くゲームセンターへ入る陽二の後を追い、2人の尾行を続け、様子を観察していた。
―――― ほほうパンチングマッシーンか、どれどれ? なっ!蹴っただと!? しかしどうして、なかなか機転の利くやつではないか。確かに
それに、実際戦いになった場合、ああいった機転は大きな武器になるものだ。
その後もコソコソと陽二の様子をうかがうランスロット。
だが、ちょっとだけイライラしていた。
ランスロットの周囲はカップルばかりで、イチャイチャしていたのだ。さすがに
だから少し魔が差した。パンチングマシンの前に立つと、魔力で代金を支払い『フー』と息を吐いた。
―――― 爆発しろ!
ランスロットのスラッとした美しい脚が、扇を開いたようにパッと宙に舞った。その直後。バーの先端に付いていたミットが
ドゴーン!!
点数を表示する指針となる内部の重りが、一気にマックスのラインを超え、あろう事か、機体から飛び出し天井に突き刺さる。
そして周囲にいたバカップルどもは、ランスロットを褒めたたえる様に騒ぎ始めた。
「「「すごい、すごい!」」」
「「(パンツ)すごい。(見えた)すごい!」」
ランスロットは、思わぬ大喝采に有頂天。めちゃくちゃ調子に乗った。
―――― なんだなんだ、意外と良いやつらばかりではないか。『爆発しろ』と思って悪かったな
「ふっ、私は騎士。このくらいは……余裕のよっちゃんだ!」
「おお! スゲー! すごーい」
などと歓声が飛ぶ。ついでにランスロットの鼻も伸びすぎて、どこかに飛んで行きそうだった。
そこへ、一人のイケメン男性店員が現れた。その男性は何か紙を持っていて、ランスロットの顔をチラチラと見ながら近付いてくる。
―――― サインか? そ、それとも私に
「あの、すみません」
「ん? な、何だ? サインなら書いてやってもよいが、つ、付き合うとなると、まずはお互いの『弁償……』事をよく知ってから……ん?」
『何やらかしてんだよ、弁償しろ!』と、ランスロットの手に、請求書と書かれた紙が渡された。
「き、金貨2枚だと……」
ランスロットは、ゼラニオンのメンバーである。
チームゼラニオンは、生活の全てを
お金が必要な場合(お店などの支払い)は、アスモデウスが管理している活動費から出される。
なので、ランスロットはお金を持たされていない。
だが、ランスロットも乙女。きれいな小物やかわいい物など、普通の女子と同じ様に大好きだ。そのためにも、少しはお金を持っていたいし、手に入れたい物もあるので、魔物の素材をコツコツと売っては、へそくりを貯めていた。
何年かかっただろうか……その金額は、金貨2枚とちょっとにまで増えていた。日本円で約200万円と大金だ。
へそくりで弁償したランスロットは、何も言わず外に出て、目立たない地ベタに体育座りをしたまま、ゲームセンターの出入口に目を向けていた。
―――― 3年もガマンしたのに。私は、何をやっているのだ……
△△
「丸タイ、ただ今薬屋で物色中。何も買う気配がなし、ケチ野郎、オーバー」
「了解! ケチ野郎、オーバー」
「丸タイ、武器屋、道具屋、宿屋、全くお金を落とす気配無し。オーバー」
「ケチ男爵芋野郎、オーバー」
「芋男爵、オーバー」
「桜ちゃん、ランスちゃん。今度は何をして遊んでいるのですか?」
桜と通信相手のランスロットが、遊んでいる様にしか聞こえないアスモデウスは、少し不安になり介入した。その声は、通信機能を持つ桜の腕輪によって、ランスロットにも届いた。
「遊んでおらん!」
「私もだ。真面目に尾行している!」
「私がやりましょうか?」
とアスモデウスが提案するが『ダメぢゃ!』『断る!』と、この楽しい遊びを、譲る気はなかった。
「……そうですか。では、少し別行動させて頂きます」
アスモデウスの言葉に、桜は『スムーズに進んで、面白くなくなるぢゃろう』と考え、別行動を止めようとしたが、桜が口を開く前にアスモデウスの姿は消えていた。
「興がそがれたのぢゃ、ランス合流する。ひとごおまるまる地点Pじゃ! オーバー?」
「こちら尾行班ランス。了解した。地点Pとはどこだ? オーバー」
ランスロットはその場に待機してしばらく待つが、
「オーバー! 桜。返事をしてくれ……」
△△
「遅い!」
「突然、地点Pと言われても分かるか! どうして応答しなかったのだ!」
ランスロットは、集合場所を探して町中を探し回った。しかし、やっと見つけた桜から理不尽な文句を言われてしまったので、息を切らしながらも反論した。
「あの時点で通信は切った。それに、Pと言えば『ぱふぇのP』に決まっておるぢゃろう。感の悪いやつぢゃ」
「くっ!」
ランスロットは、桜に言いくるめられてしまった。
「では、次の作戦を発表する。作戦名は“ミニミニ潜入。メイドは見た”ぢゃ」
「ミニ耳栓にゅー? 何を言ってるのだ? 桜」
いまいち、桜の言っている事が理解できなかったランスロット。『潜入ぢゃ!』と桜に言われやっと気づいた。
「では変身ぢゃ!」
「なぜだ? 変身する必要などないだろう!」
変身すると、今履いている冒険用の服が、イェローの
しかし、ゼラニオンの撮影をする訳でもないので、ランスロットはなるべく回避したい。
「ランス。この作戦には、必要な事のぢゃ! 残念ながら、妾ではちと荷が重い。ぢゃが! 騎士の中の騎士を志すランスであれば、この程度余裕!」
「ふっふっふっ。そうか、そうか。そうだな! 私に任せろ」
―――― くっくっく、予定通りぢゃ。チョロいのぉランチョロットよ。よし、次ぢゃ
「おっ、よいことを思い付いた。妾は本部に戻り、ランスの仕事ぶりをモニターして、勉強する事にしよう」
「なる程……それは良い心がけだ。ならば、しっかり見ていろ!」
フンスと鼻息荒く言うランスロットに、桜は魔法を施す
「
この魔法のおかげで、ランスロットの姿は
桜の使うヒーロータイムとは、対象者や接触者の行動や言動その他諸々を、数台のカメラで撮しているのと同じ現象を起こす。また、映像は本部にて記録され、リアルタイムで確認できる。主にゼラニオンの撮影に使われているが、他にも不思議な現象を引き起こせる
「ランリー(ゼライェローの名前)出撃せよ!」
「私に任せておけ!」
「待つのぢゃ。そう言えば忘れておったわ」
「なんだ?」
「脱げ」
!?
パフェの罰が、ここで執行されたのだ。そして当然、このやり取りもしっかり撮影されていたのだっだ。
☆☆☆
私の名前はランスロット。
誇り高き騎士を目指している。見た目を言っているのではない。心だ!
私の事はどうでも良い事だった。
私は今任務中で、ある男の身辺調査をしている。その男はゆるんだ体で、頼りがいがないが、顔はまあまあ好みのタイプだ……
△△
少女がやって来て魔法を放った。男の実力を確かめるチャンスだ。離れた位置で観察する。ゴタゴタのあと、男は必死に少女たちを助けようとがんばっていた。
回復魔法を使えないのか? 基本がなってないな
見たところ詠唱はしていない。と言うことは、強固なイメージができていないのだろう。仕方ない。
私は、男の後ろに移動し回復魔法を手伝ってやった。だが、手を貸さなくても良かったかもな。最後の魔法、なかなか良かったぞ。
すると男は、少女に向かって熱く語り始めた……その話に耳をかたむける。なかなか骨のある男ではないか! 名前は陽二か、悪くないぞ。
男が王に会いに行くと言うので、私もあとを追い、王と陽二の会話を盗み聞く。
しかし王妃か……そんなこともあったな。あの当時、私たちゼラニオンはこの地にいなかった。私たちで森に行ければ、あの様な惨事は起こらなかったかもしれない……
陽二が部屋を出て行ったあと、王に姿が見える様に許可して、事情聴取と口止めをした。
(※王ダグリオスは、ゼラニオンの存在を知っている)
名前は山中陽二。元勇者。
魔道具を使い、勇者を王子に渡した? そんな道具があったのか……
ぱふぇの店での会話や、少女たちに対する態度を見て、私は、この男が、なかなか見所のあるやつだと認識した。
陽二がお風呂に向かった。
私は恥ずかしいが、調査のためなので着いて行く事にした。断っておくが、決して見たいからではないぞ!
ほ、ほう。こんな風になっているのか……さ、触ってみても良いだろうか? 私は、バレないように優しくさわさわした。
こ、これは……や、柔らかいぞ! なぜか、ぽーとしてきたな……
私がさわさわしていると、むくむくっと大きくなってきた。
か、固くなってきた。不思議だな……はっ!? これはまさか!
触っていたのがバレたと思った私は、すかさず距離をとった。
「おっかしーなぁ。何かムラムラするぞ……よし!」
陽二は壁に近づき……
よく見えないな。何をしているのだ?
私は、様子を見るため近づいた。
「えーと……居た! これはまた……登りがいのある見事な山脈!」
陽二は妙な事を口走り、自分のモノを触って手を動かしていた。
何をやっているのだ……? はっ!? ア、アレがさらに大きくなっている……。な、何かピクピク動いている。生き物みたいだ!
私は、なぜか無性にアレを触ってみたくなった。頭がぽーとして火照ってきたのを感じる。アレしか目に入らない。私も動かしてみたい。
そそくさと近づいた瞬間、陽二は、壁から顔を離し体ごと向きを変えた。ちょうど、アレが私の顔の前に来るように。
しまった罠か、バレてたのか?
だが、私は動けなかった。『あっ出そう』と言いながら動かす手の中に、プクッとふくれたアレが出たり入ったり……目を反らす事ができなかった!
陽二の動きが止まる。すると、アレの頂点から何かが飛び出た。
魔法攻撃!? 駄目だ、動けない。くっ、まともに受けてしまう! 私は覚悟を決め、アレに釘付けだった目も閉じた。
ペチョ。ピチョ、ピチョ。
その時だった。温かいものが顔に当たった瞬間、体中に雷が落ち初めて感じる衝撃が走った。
はうっん……くっ!
どんな魔法だったのだ?
私が目を開けると、陽二はすっきりした顔で、風呂場から出て行こうとしている。
情けをかけられたのか? 屈辱だ!
私は、反撃を試みたが……ん? 温かいこれは何だ?
触ってみるとヌルヌルしている。温かく生臭いのだが、嫌な匂いではない。むしろ、ずっとかぐのもやぶさかではない気がする。
ペロ。指に付いたモノを舐めてみる。
少し苦いが……毒? ではないな。
もっと舐めてみたいが……
それにしても……追撃もせず陽二は出て行こうとしている。私の存在に気付いていないのか? しかし、私を狙ったような攻撃……何だったのだ? やはり情けなのか……まあいい。今のうちに脱出だ。
えっ!? うそ……
私は、腰が抜けて動けなかった。
だが、それよりも屈辱的だったのは、陽二の攻撃によって私は……失禁していたのだ! 私のスカートの中はビチョビチョだし、腰は抜けてるし、妙に下半身はジンジンするし……動かせない。
「くっ悔しい!」
陽二は、(たぶん)私の存在に気付いていないのに、この私を無力化したのだ! なんと恐ろしい男だ! 私は、陽二が歌を口ずさみながら、出て行くのを見送る事しかできなかったのだ。
△△
アスモにお姫さま抱っこされ、王都にある秘密基地の1つに運ばれてきた。
陽二が風呂場から出て行ったあと、無力化された私を、アスモが助けてくれたのだ。
この笑顔の絶えないメイド服の少女。見た目は私よりも年下に見えるが、何百年も生きている人でアスモデウスと言う。
アスモと呼び捨てにしているが、本来ならば決して許されない関係だ。アスモから魔法や魔技の指導を受けているのだ。つまり師匠と弟子の関係で、私など片手一本で圧倒する力を持っているのだ。
「師匠。情けない姿を
「ランスちゃん、アスモですよ。それよりも、早くお風呂に入って来てください」
「わ、わかった!」
風呂から上がると、アスモの手作り料理を食べながら、陽二について分かった事を伝える。
「そう言えば……道具を使って、王子に『勇者を渡した』と王から聞いたが……そんな事が可能なのか?」
一瞬だが、アスモの、笑顔の質が変わった気がした。
「可能だと思います。おそらく、その道具を使ったのが切っ掛けで、桜ちゃんにも影響があったのでしょう」
「そ、そうか。陽二の調査は続けるとして、その道具も手に入れるべきか?」
「道具の件は、私に任せてください。ランスちゃんは、続けて陽二君の調査をお願いします」
「わかった。しかし、陽二はなかなか手ごわい。私が一方的にやられるとはな」
「ランスちゃんがあんな風になるなんて……お風呂場で何があったのですか? 話してください」
私は
調査のためとはいえ、裸体の男のあとを追いかけお風呂に潜入。あまつさえ、陽二のアレに釘付けになり……ピクピクしているのを触ろうとして油断。さらに、頂点から出た魔法で衝撃的ダメージを受け腰を抜かし、そのついでに失禁までして……言えるはずがないだろう!
「ランスちゃん、それって……?」
声に出ていただと!? まずい、まずい、まずい。何か言わねば……
「だ、大丈夫だアスモ、心配するな。
「ランスちゃん……」
いつも笑顔のアスモ、そのアスモの表情が明らかに変わった。
「えっ? 何なのだ、毒なのか? 手遅れなのか? 私の命は短いのか?」
「ランスちゃん、今からお勉強です。起きてしまった事はどうにもなりませんが、これからのためにしっかりと学ぶべきです!」
「は、はい!」
数分後。
「うそだー!」ランスロットの
近所迷惑? この基地は高度な防御システムが施されている。当然防音も完備なので、外に音がもれる心配はない。
ん? 朝か……どうやら、勉強会のあと眠ってしまったみたいだな。この2日間は徹夜続きだったし、疲れていたのだろう。
少しくらい無理しても、3日くらいは眠らなくても平気なんだが……よほど疲れがたまっていたらしい。
アスモは? ……不在か。もう出かけたのだろう。
机に山積みにされた物が目に止まり、昨晩の記憶が一気に呼び戻された。私は、目の前が顔の熱で真っ白になり倒れた。
―――― そうか、眠っていたのではない。
何度、気絶したことだろうか。ようやく気持ちの整理ができた。いや騎士の心! 志が勝ったのだ!
「行くか……」
△△△△
私の名前はランスロット。知っていると思うが、潜入調査中だ。私の標的である陽二は、現在、学問に
しかし、あの学問に打ち込んでいる真剣な目や横顔。なぜだろうか、魅入ってしまうな。
あれから何日か一緒に行動しているが、今のところ怪しい点はない。
お風呂場やベッドの中でゴソゴソし始めたら、アレが目に入らないように外へ出て、遠くから観察する。
ひとつだけ言っておくが、決して見たいわけではない。何かの儀式の可能性も考慮して監視しているだけだ。
今日は協会に行くらしい。薬草と緑
調合を始めた。独り言の内容から錬金もできそうだな。職業も複数もっているらしい。普通の者が、複数の職業を持っているなど怪しすぎるが、異世界人は違うのかもしれない。尾行した
そう言えば……四角の板で何かをしていたな。あれに秘密があるのかもしれない。
その日の深夜、私は四角い板を調べるため陽二の部屋に潜入した。と言うのも、見えていないとはいえ男と同じ部屋で夜を過ごす事はできず、部屋を確認できる外で監視していたからな、わざわざ潜入という形になったのだ。
部屋の中を探してみるが、どこにも見当たらない。用心深く身に付けているのかもしれないな……
私は忍び足で陽二に近づいた。そこでふと気付いた。布団に盛り上がっている場所があったのだ。
なる程……眠るときは布団の中に隠し持っていたのか。私の読み通り用心深いやつめ。だが私の目はごまかせないぞ!そっーと、盛り上がっている部分を触って確かめてみた。
固い、間違いない。四角い板の角の部分だ! よし、取り出して調べてみるか。はっ何だ? 急に盛り上がっていた場所がさらに盛り上がってきたぞ!
くっ!また罠なのか?
私は
しかし、5分程様子を見ていたが寝息が聞こえるだけだった。どうやら罠でもなく、バレていなかったらしい。
行動再開だ。身を屈めたまま盛り上がってる部分を目視して距離を確認。あそこか! 私は布団の横から慎重に手を侵入させ手を伸ばした。
少しずつ、少しずつ、気づかれないよう慎重に手を伸ばす。布団の中は、陽二の熱で温かい。そして、見た目よりも筋肉がある体……ふむ、まあまあだな。悪くない。
そのまま体の感触を確認しながら、目的地までゆっくりと進むと……
あった! 固い部分に到着したのだ。
温かい?……形状を確かめるため手のひらでゆっくりと感触を確認。
ん?おかしい……先程よりも固くなってる気がする……四角? ではないな。ん?違うのか? 傷つけないように優しく
しかし、どこかに引っかかっているのか、何かで固定してあるのか分からないが取れない。
何か細工がしてあるな?
握った手を上下に動かしてみると、少しだが皮っぽい物は動く。
やはり何かで固定してあるのか?これはもう、直接見ないと無理だな。
私は、掛け布団を少しずつめくる……足首から
「あわわ、あわわわ、あ」
思わず、声にならない声が漏れてしまった。
私は今まで、四角い板かと思い触りまくっていたのだ。何も知らないお風呂場の頃とは違い、アスモに教わり今は知っている。コレがナニで、ナニをするものなのかを!
せっかく目に入らないように意識していたのに……
私は調査を諦め、そっと掛け布団を被せた。しかし、その重みをモノともせず掛け布団は盛り上がったままで、満足顔の陽二に腹が立った。
斬っても良いだろうか? いや、騎士が寝込みを襲うなどと……
私はナニの成果もあげられず、陽二の部屋をあとにした。
△△
翌朝、私は町の外でくすぶっていた。
もう潜入捜査は終わりにして帰ろう。と考えていた。受けたダメージが、精神的ダメージが大きすぎた。
そこへ陽二が意気揚々とやって来た。到頭、年貢の納め時か……
やはり陽二は私に気付いていて、わざと泳がせていたのだ!
私に破廉恥な行為をさせ、身も心もズタズタにして私の純潔を奪う気なのだ。
ああ。あえて陽二の軍門にくだってやろう。私は騎士だ!逃げも隠れもしない。さあ、好きなようにすればいい!
だが陽二は、何事もなかった様に調合を始め、しばらくすると帰って行った。私は、ただただ
日も落ち始め、農作業をしていた人たちも町へ帰っていく。私は、その様子をぼーと無気力に眺めていた。
「ランスちゃん?どうしたのですか!」
目的の魔道具を手に入れたアスモが町から出てきて、ぼーとしていた私を見つけてくれたのか、焦った様子で話しかけてきてくれた。
「アスモか……陽二は恐ろしい男だ。私の手には負えない。完敗だ……」
「ランスちゃん……何があったのか話していただけますか?」
またまた王宮に戻って来た。
アスモも目的の物を手に入れたので、今日を最後に潜入捜査は終了して、一度本部へ戻ることになった。
だが――――話を聞き終えたアスモから提案があった。
「ランスちゃんは簡単に遅れをとるような実力ではないです。もっと自信を持ってください」
「私は陽二が怖い。私は無力だ」
「そんな事はありません。ランスちゃんなら大丈夫」
「……しかし」
「わかりました、本部に戻りましょう。ですが、私もついて行きますから、最後にもう一度だけ潜入捜査へ行ってみませんか?」
「アスモがついて来てくれるのであれば……最後か、良いだろう!」
おそらくアスモは、私に自信を取り戻させたいのだ。なら私は、それに応える義務がある!