部屋はもぬけの殻だったので、アスモと手分けして陽二の姿を探す事になった。しばらくして気づいたのだが、どうやら私は陽二のにおいが判るみたいだ。
その誘われるにおいに釣られると、
陽二を発見した私は、自然と彼の隣に座った。
何やら熱心に読んでいるな。書いてある文字は理解できないが、陽二が私のために朗読までしてくれた。だが、私はそんな場合ではない。ただただ、陽二の横顔を幸せな気持ちで眺めていた。
――――んっ??
違うだろう、私。何を勘違いしているのだ?どうして私が陽二の横顔を眺めなければならない?何が朗読だ!
はっ!? もしかして……これが、陽二の力なのか……?
いつの間にか私は、陽二の虜になっていたのだ。やはり恐ろしいやつ! このままこの場に留まれば、私はどうなってしまうのか……まずいぞ!すぐにでもここを離れなければ、私はおかしくなってしまう。
部屋を出ようとしたとき、引き出しの中に大量の紙を発見した。陽二が熱心に読んでいた物だ。心緩さぶられる陽二の秘密が隠されているのかもしれない。私は、収納スペースに根こそぎ入れた。
「なにぃ、透視だと!?服を透視して裸を見放題のアレか!」
ビクッ!何だと? 今、何と言ったのだ?
陽二がこちらに走って来たので、思わずテーブルの方に飛び退いた。ついでにテーブル上の紙束も収納しようと手に取る。
「な、何で? 神は俺を見捨てたのか? くそー、紙よ出でよ! 現れよ!」
な、なに!?
さあ!存分に
「おい! おまえ何者だ! その神を、
陽二こそ何を言っているのだ? 私は
私は、恥ずかしさを押し殺しながらほほ笑んだ。
「おい! ポニ子! 聞こえてないのか? おまえが手にしているのは男の夢! 浪漫だ! 早く離せ! 返してください、お願いします」
えっポニ子??
△△
「えぐっ、えぐっ、ぐすん、うわぁーん」
「ランスちゃん……」
王都から少し離れた場所に、泣き崩れるランスロットとそれを介抱するアスモデウスが居た。
その頃、本部では5台ものモニターが、ランスロットの行動や言動・
撮影にはとても優秀な
通常使う
「どぅわーはっは!ひっひー。腹が!腹がぁぁよじれるー。ドどぅわーはっは!ランス、おまえは最高ぢゃ!!」
桜は、編集された映像を何度も繰り返しながら転げ回っていた。ひとしきり笑い倒すと、考える。
「この男、陽二と言ったか? 顔も実力もモブぢゃが、ランスと
本部へ戻ったばかりのランスロットに、編集したての次回作を見せ、十二分に
☆☆☆
ドォーン!!
――――うぉぉい。な、何事だ!敵襲か?
某番組の早朝バズーカをダイナマイトに変えたみたいな爆発音と部屋全体を揺らす振動に驚き、陽二はとび起きた。
―――― あっ痛ぇ!
目を覚ますと、耳の奥からの激痛と耳鳴り、そしてガンガンと思考を邪魔する頭痛がした。陽二は、痛みを誤魔化すように叫んだ。
「いっ、痛ったぁー! 衛生兵、衛生兵を!」
「見よランス、こんなものぢゃ。恐れるに足らん……しょせんモブよ」
「ち、違う! 決して恐れている訳ではないのだが……ただ」
耳を押さえ、蹲るように声をあげる陽二を指差し、桜は呆れたようにランスロットへ告げたが、その言葉を否定するランスロットは、言葉尻で口ごもった
「ランスちゃんは、陽二君が気になるんですよね?」
「ち、違うぞ!」
と、アスモデウスに指摘され、慌ててランスロットはそっぽを向いていた。
―――― ここはどこだ?
激痛と頭痛に少しだけ慣れた陽二は、涙でにじむ目で部屋の中を確認した。そして、会話を続ける3人へと目を向けた。
薄い赤色でサラサラとしたショートヘアー黒いドレス姿の女の子が、陽二を嘲笑うように立っている。
その後ろに、艶のある黒髪で肩まであるふわふわ感のあるボブカットのメイドと、青い髪の長いポニーテールで青い瞳のミニスカートの女性を確認。
書館で遭遇したランスロットは当然として、陽二は、他のふたりの顔にも見覚えがあった。がしかし、何を話をしているのか、耳鳴りでうまく聞きとる事ができなかった。
桜は指を差して大笑い。アスモデウスはニコニコと笑顔。ランスロットは心配そうに見つめていた。
「おまえらゼラニオンだろ!」
「ほぉ……」
陽二の発した言葉に、桜は疑問の声を漏らした。
陽二と面識があるのはランスロットだけ。アスモデウスも接触しているが、彼女は面が割れるような下手は打たない。当然、桜とも初対面だ。
それなのに『ゼラニオン』だと見抜いた。
しかし、陽二が映画を見ていたとしても、絶対に『ゼラニオン』だと認識出来るはずがないのだ。
映画には『身バレを防ぐ処理』が施してあるのだから
だが桜はその考えを一旦放棄した。
目の前で必死にケガを治そうと魔法を使うが発動できず、困惑して焦る陽二の姿が滑稽に見えたから。
「なんぢゃ? その程度の痛みで魔法が使えないとは。やはりモブぢゃのう」
!?
危害を加えられると感じた陽二は、その手を振り払おうとしたが、逆に
「陽二くん深呼吸してください。吸って、吐いて、吸って……落ち着きましたか? 大丈夫!陽二くんなら出来ます」
アスモデウスの甘く心地よい声が、陽二の頭に直接響く。
「さあ、魔法を使ってみましょう!」
陽二の目に映るその姿は、正に女神。そんな女神に背中を押されれば、何でも出来そうな気がしてきた。
痛む耳に集中して、魔法を唱える
「
すると魔法が効果を表し耳のけがが癒やされたのか、痛みが消え去り音が戻って来た。アスモデウスがこっそりと回復を手伝っていたのだが、それをわざわざ言う必要はないだろう。
「助言をありがとうございました。アスリーさんですよね?」
「はい、アスリーです。ですが、私のことはアスモと呼んでくださいね」
「はい」
アスモデウスに手を引かれながら立ち上がった陽二に、声がかかる
「お、おい。わっ、私は名乗ったと思うがランス『ポニ子だろ?』ロッ……」
お前の名前は知ってるよ? 的な陽二の自信のある声に、ランスロットはハトが豆鉄砲をくらった様な顔でフリーズ。しかしちょーと待った!実は、ちょっと気になり始めてる陽二からあだ名をつけてもらったのは嬉しい気もするが、自分の名前は、やっぱり間違ってほしくない。その思いで声をあげる
「ち、違うのだ! 私はラ『おい、モブリン!』ン……」
だがしかし残念。その星の元に生まれてしまったサガなのか、陽二の意識は桜の横やりにかっさらわれてしまった。
「なんだよチビロリ。もしかして、モブリンってのは俺のことか?」
「ほほぅ。
とそこに、やられっぱなしじゃないもん!と逆襲のランスロットが炸裂。場に微妙な空気が流れた。
「ランスぅぅー、おまえはぁー!」
「みんなして酷いのだ。私だって、私だって……陽二と話がしたいんだみょん!」
またしても微妙な空気が流れた。
そんな空気の中またしても女神が舞い降りた。パンパンと手を
「はい。それでは改めて!桜ちゃん自己紹介をどうぞ!」
「うむ!」
女神のお掛けで桜の機嫌も元通り。チームゼラニオン冒頭へと続く。
△△
「ふっふっふ。全世界の親愛なる
「ん? 誰かわからないぢゃと?」
「
桜は、ビシッと陽二を指で差す。
「テストに出るからな? 要チェックぢゃ!!!」
「うぁーはっは。うぁーはっは。うぁーはっはっ!」ゲホッゲホッ
「かわいいです!」
「毎回、毎回……アホだな」
「なんぢゃと!?」
「まあよい!
「ランスの罰は
「………」
「よし。
「まあ!」
「なっ、お、おい言うな!!」
―――― ノーパンティーだと……あれ、何だ? 今、何か思い出しそうだったぞ。何だったっけ……
!? 不穏な空気を感じ取ったランスロット。はてさて……と考え込み始めた陽二の肩を掴み、おもいっきり揺さぶった。
「何を思いだそうとしているのだ!」
「や、止めろ。何でもない」
「そんなことより『そんなこと!?』おい、チビロリ! おまえの名前は何て言うんだよ!」
「モブリンになのる名前なぞないのぢゃ!」
ランスロットの思惑は達成されたが、自分との思い出をそんな事扱いにされてしまった。思わず声を荒げるが、すでに陽二は桜と会話を始めていた。
「何だよ。じゃあチビロリで決定ね」
「ちょ、ちょっと待つのぢゃ!」
「はいはい。じゃあ名前。早く言え!」
「な、なんか偉そうぢゃのぉモブリンのクセに……では耳の穴かっぽじって良く聞くのぢゃ……
相手に名を尋ねる時は、先に名乗るのぢゃ!」
まあ予想していたお約束とはいえ、陽二は面倒くせぇと。こんな生意気なガキに付き合う義理はないと考え話を進める。
「もういい。おまえ桜だろ? ロリ桜で決定な!」
「なぜ妾の名前を知っておるのぢゃ!」
「さっきアスモさんが言ってただろう?」
このガキの相手をしていても話が全く進まない。陽二はさっさと答えを告げると、唯一話が通じるであろう人物に目を向けた。
「アスモさん、ここはどこなんですか?」
「ここは、
「なるほどです。俺を連れてきた目的はなんですか?」
「目的はです『なぜアスモに話すのぢゃ』ね。桜ちゃ『
「…………うるせーよ黙れ!訳が分からんだろうが!」
△△
「どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとうございます。頂きます」
アスモデウスが全員にお茶を配る。
48の必殺技のひとつ『無視レベル7』を発動した陽二だったが、ご立腹の桜があまりにも騒がしくて話にならなかった。そこで出たアスモデウスの鶴の一声。
「お茶を頂きながらお話しをしましょうか。ねえ桜ちゃん?」
「ふ、ふむ。
あんなに騒がしかった桜はおとなしくになり、明らかにびびっていた。おそらくアスモさんが本当のリーダーなんだなぁ。と陽二は感じた。
長四角の堀ゴタツみたいなテーブルの前に陽二、すぐ右隣に並ぶようにランスロット、対面に桜、左側にアスモデウスが座っている。
「何でおまえが隣に座っているんだ?ロリの隣に行けよ」
「気にするな。陽二が逃げないように見張っているだけだ!」
「まあ良いではないか。ここからは真面目にいくぞ? あらためて自己紹介する。
「ワロスロット? 真面目が1秒でどっか行ったな!俺は中山陽二。バレてるみたいだから言うけど、元勇者の異世界人だ。で、俺に何の用だ?ワロスロット」
悪ノリした陽二は、あえてランスロットに話を振った。
「ランスロットだ!桜はいつも
ランスロットもアスモデウスも真剣な表情だ。桜はふざけているのではなく、本当に間違っただけなのかもしれない。と陽二は考え直した。
「説明してもらおう!」
バンッ!と手の平を軽く
『ふむ』と桜は相づちを打ち、代表して口を開いた。
「説明の前にひとつ
「先日、映画を見たばっかりだからな、それで覚えていただけだよ」
「ゼラニオンの映画には、認識阻害を施してあるはずなのぢゃが?」
「認識阻害?そんなこと俺に言われてもわかんねーよ」
その言葉を黙って聞いていたアスモデウスは、『仮説ですが』と前置きして口を開いた。
「陽二くんには、認識阻害を見破る能力が備わっているのかもしれませんね。ですが、その事は大した問題ではありません。なので桜ちゃん、まずはこちらを先に片付けましょうか」
アスモデウスは桜の頷きを確認すると、陽二にも見覚えのある
「この魔道具をご存じですね?陽二くんが、パトリック王子に“勇者”をお譲りした時に使った魔道具です。とても重要な事なので質問には隠さずお話しください」
「確かにその通りですが……質問とは?」
「私も実物を見たのは初めてなのですが、陽二君が壊してしまった、と聞きました。別に責める気はありません。壊れてしまったのならば直せばいいのですから。ただ、使用方法と使った時にどの様な事が起きて、どうなったのかを教えて頂けませんか?」
そんな事か、と陽二は身構えた力を緩めた。別に隠す必要もないので、まず事実を伝える。
「えーとですね……その玉は修理しても使えないと思います」
「なぜそう思われるのでしょうか?」
「正直に言いますと……」
陽二は、収納スペースからスマホを取り出しテーブルに置いた
「なんぢゃそれは?」
「それは?」
桜とアスモデウスはハテナ?と首を捻るが。ランスロットだけは、頭の中にピーンと主張するアレが過った。
「陽二くん、これは何でしょうか?」
「これはスマートフォンと呼ばれる端末で、順を追って説明していくとですね――――」
陽二は包み隠さず、全てを話した。
パトリックと
魔道具の機能がどの様な物だったのか
「機能は失われているのですか……桜ちゃん、どうしますか?」
「そのスマホを調べてみればよいのではないか?
「まあいいけど……じゃあ、こっち来いよ」
テーブルに置いたまま電源を入れ、反対側の桜を呼ぶ。
桜が陽二の隣に座ろうとすると、ランスロットは陽二の体に密着して、鉄壁のディフェンスをみせた。
「ランス邪魔ぢゃ。そこをどけ」
「残念だが、ここは私の場所だ。桜はそっちに行けば良いだろう」
『どうせ見ても理解できんぢゃろう?そこをどけ!』そんな目を向ける桜に、ランスロットは負けずとキッ!とした目を向けている。ちなみに、そっち側(陽二の左側)にはアスモデウスが座っているが、場所が空いていない訳ではない。
「ランスよ……
「別にそんなつもりはない。私はこの場所が良いだけだ」
お互い譲る気はなさそうだ。お互いの視線の間に、バチバチと火花が見える
「って、アスモさん何してるんですか?」
アスモデウスは陽二の後ろ側に手を伸ばし、桜とランスロットの間に、線香花火に似た火花をバチバチと出していた。
「えっ? 男子の事で、ふたりの女子が争っているんですよ?せっかくですので盛り上げないとダメじゃないですか?」
―――― だめじゃないですか?と言われても……
「アスモさんまで何やってるんですか?アスモさんだけは、まともだと思っていたのに……」
―――― また脱線しそうだよ。何なんだこいつら……
陽二はアスモデウスの手を
「アスモさん、とにかくスマホを見てください」
「そうですね。まずは
「なっ!わ、私にも見せてくれ!」
陽二が動きを見せると、ランスロットは桜をほっぽいて、素早く仲間外れにならないように密着。
「くっ!出遅れたのぢゃ!」
置いてきぼりの桜ちゃん。
陽二の左にアスモデウス。右にランスロットが居るのを見てピーンと
「ランスよ。陽二の隣はおまえが
「ち、違うぞ。陽二の隣ではなくて、
「何でもよい。ならば
桜は、アスモデウスと陽二の間から『よっこいしょういち』と言いながら、陽二の膝の上に乗った。
「おおっ?ちょうど良い感じぢゃぞ?」
桜は、お尻をグリグリと感触を確かめる。高さとお尻のはまり具合ともに大満足。星3つぢゃ!
「くっ!私だってそのくらい……」
「桜おまえなぁ……まぁ良いけど暴れるなよ?」
陽二は、今にも立ち上がりそうなランスロットの肩を押さえて止めると、ため息混じりの声を桜の頭に落とす――――本当に子供を乗せてる感じしかしないな、めちゃくちゃ軽いぞこいつ。
「飯ちゃんと食ってんの?めちゃめちゃ軽いぞ!」
と言いながら、陽二は桜の脇腹を指でつまんでぐにぐにしてみた。
「や、やめんか、くしゅぐったいのぢゃ、早ようこっちをやらんか!」
「よ、陽二。私にも……」
「ん?ああ、後でな。それじゃあ桜、見てろよ」
「あ、後で陽二が私に……」
ブシューと効果音を出しながら、ランスロットは後ろに倒れて動かなくなった。―――― 静かになって逆に良かったわ。
そう考えながら陽二はスマホを操作。
△△
「玉の時は、最初の画面で譲渡・
「陽二くんには便利ですけど……本当に陽二くんの職業しか変更できないのでしょうか?」
「確証はないですけど、試してみますか? でもそれだと、アスモさんの職業が変わってしまう可能性がありますけど……あっそう言えば、初めて起動したときに譲渡記録を読み込んだんですけど、何て言う名前だったっけ? ホンジョウなんとか……名前が日本人でホンジョウ……」
「
「そうです。本条司と本条なんとか唯って書いてありました」
その言葉を聞いて、アスモデウスと桜は、少し考えると呟いた。
「それで、あの時
「妾の父と母、か……」
―――― 何だと? 今2人とも重要な事を言ったぞ。
陽二は、右手を真っすぐ上げた。
「
「うむ、却下ぢゃ!」
「おまえじゃねえよ!」
このやり取りで、アスモデウスと桜の神妙な雰囲気に、陽二が気づくことはなかった。
☆☆☆
衝撃の事実が判明した。
「少し質問いいですか?本条司って、元勇者で職業を何種類も極めた人ですよね?」
陽二の質問にアスモデウスが教えてくれた。
――――――――
世界を救うために
のちに勇者をやめて、さまざまな職業を取得。
魔方陣、魔法、魔道具を開発。
魔王のユリシーズ=キャロルと結婚。
(結婚後、本条キャロル
子供は娘ひとり。本条桜
司は5属性の聖霊と契約していた。
唯の出産後、元世界へ帰ったが、いまだ帰還せず。何らかの理由で『
――――――――
アスモデウスは唯と付き合いも長く情報も持っている。しかし、聞かれたのは司の事。なので『私の知っているのはこれくらいでしょうか』にとどめた。
「桜は元勇者の子供なのか。そして母親は魔王……サラブレッドだな。何か特殊な能力とか受け継いでないのか?」
興味本位丸出しの陽二は、桜の頭をつんつんしながら聞く
「この美
ドヤ顔で振り返った桜はそう言うと、陽二の鼻をビシッと指でさした。
「わかった、わかった。ようするに、何も受け継いでいないって事だな」
「なんぢゃと!?」
陽二の呆れたような対応に、桜が吠えた。
△△
「それで、試してみますか?」
「私が試してみます」
話を仕切り直し、陽二はアスモデウスに使い方を伝える。と言っても指でタッチするだけである。ちなみに文字は日本語。
「職業を選んで……これで良いのですか?」
「それで完了ですけど、職業変わりました?」
「いいえ、変わってないです。やっぱり陽二くんにしか使えないみたいですね」
何回か試したが、結局、アスモデウスの職業が変わる事はなかった。しかし、アスモデウスが操作しても“陽二の職業に影響なし”その事が判明した。
「えっ、そうなんですか?」
協議の結果、修復するのを止めた元魔道具の玉。『
詳しい説明を聞くと、ダンジョンが魔物を生産するのに必要不可欠な代物で、この叡知の玉を破壊するかダンジョンから持ち出すと、新たな魔物が発生しなくなる事が判明している。
エネルギー源としての転用も可能なので、様々な用途が考えられている。
「それってダンジョンに必ずあるんですか?」
「断定はできませんが……高い確率であると言えます」
「それなら、ダンジョンを探して叡智の玉を回収すれば、魔物は減るんじゃないですか?」
陽二は名案!とばかりに言うが、桜はヤレヤレと呆れた感じで口を開いた。
「簡単に言うておるが、ダンジョンを発見するのも玉を探しだすのも大変なのぢゃ。
それに、ダンジョン内は魔物の巣窟で、探索には時間なにより危険が多く付きまとう。
それと、魔物はダンジョンの外でも繁殖して数を増やしておる。今さらダンジョンをどうにかしたぐらいで数は変わらん」
「でもさぁ、桜たちなら楽勝じゃないのか?ゼラニオンの映画を見たけど強いじゃないか」
そこに頭があったから。
そんな理由で、陽二は桜の頭をナデナデしながら尋ねた。
「ふむ。で、(映画は)どうであった?面白くて良かったぢゃろう?それとも妾の
映画の感想を直接聞ける機会が少ないのか、桜は陽二に感想を求めた。がしかし、映画の内容からゼラレッド個人への感想にシフトしていた。
陽二は映画の内容を思い浮かべた。
「おまえ馬鹿じゃないの?アスモさんはまあぁアレだったけど、桜に
「な!?ぜっ、絶壁ぢゃと……」
桜は絶句した。絶壁だけに。
ちなみに、映画の中のゼラレッドは、身長のわりに胸の発育がよろしく見える(
しかし、ランスロットに施した
「悪かった。そこまで絶望的な顔をしなくてもいいだろう?まだまだ子供なんだし、これからの成長に余地ありまくりだろ?気にせず行こうゼ!」
「陽二に言われとうないわ!たくぅ、話が全く進まぬではないか!」
「それには俺も同意見だな。少し話をしたら違う話に飛んで、中途半端に終わっては違う話になる。桜が混ぜるからだぞ?いい加減にしろよな!」
そんな会話を陽二と桜がしている最中、アスモデウスが胸の高さにゆっくりと手を上げた。陽二と桜が目を向けると
「陽二君のせいだと思うのですが……」
「俺のせいですか?人畜無害です。違うな、なんだっけ」
「もしかして……事実無根でしょうか?」
「さすがアスモさん!嫁に来ませんか?」
「せっかくのお誘いなのですが、私には桜ちゃんの面倒を見る楽しみがありますので」
陽二は軽い冗談のつもりだったが、ニコニコと笑顔で返す、その言葉に含まれた強い拒絶にマジでヘコんだ。その陽二に、桜が追い打ちをかける
「ほれみよ陽二。陽二のせいで、話がそれとる!ふざけておるのか?」
―――― た、確かに脱線している。もしかして
「よし、わかった。真面目に話をしようじゃないか。これからは一切のおふざけは無しだ!アスモさんも桜も分かったな?」
上から目線の物言いをする陽二に、引っ掛かりを覚えていた桜は『先程から軽々しく呼び捨てにしておるが、妾は、陽二ごときに呼び捨てされるほど、落ちぶれてはおらん!』と下から陽二を見据えるが、吠える桜に待ったがかかった。
「はいソコ、減点1です。脱線するから少しは我慢な。それじゃあ桜ちゃん呼びで良いか?」
「むむっ、それも背中がこそばゆくなるのう。仕方あるまい、呼び捨てを許可するのぢゃ」
「よし。それじゃあ話を戻すけど、桜がスキルに干渉してきた何かに気づいた。その方向は王都からだった。合ってるな?」
「うむその通りぢゃ」
「王都に到着して改めて調査すると、俺から何かを感じた。それで、ランスロットに俺の素性を調べさせたと」
「ふむ。まあ、そうぢゃな」
「桜の話から考えると、俺が初めて玉を使ったのと桜に干渉があったのは同じ日だ。そう考えると『叡智の玉』が原因なのは間違いないだろうと思う」
「まあ、そうぢゃろうな。妾もそう考える」
桜は両腕を組んで、ウンウンと頷く。『ぢゃが』その桜の呟きを陽二が引き継ぐ
「いま感じるのは俺からじゃなくて、スマホだよな?」
陽二はスマホを指差し、桜のアクションを待つ
「うむ苦しゅうない!」
「ふざけるなよ」
桜の言い方に陽二は思わずツッコんだ。だが桜は、陽二にポスンッともたれかかると、真面目な顔で言った。
「ふざけてはおらん。これが日頃の話し方ぢゃ」
「ちなみに、その『ぢゃ』ってなんだよ。これが日頃の話し方って……すまん、また脱線しそうだったな、話を戻そう。それでどうなんだ?」
陽二は謝罪の意味も込めて、桜の頭を
「そうぢゃのう……陽二からは皆無。『叡智の玉』からは僅かに感じるが、問題ないレベルぢゃ。いま大きく感じるのは、スマホからだけぢゃのう」
―――― 俺は皆無、叡智の玉からは少し。問題ないレベルと桜が言うなら、叡知の玉も除外してもいいだろう。残ったのはスマホ。あとは、これを調べて感じたナニカを特定するだけと……結局、俺がここに連れてこられたのはそれだけ。長かった……
「甘い物でもどうですか?頭を使うときは、甘い物が良いそうですよ。お持ちしますね」
そう告げてアスモデウスは席を立った。
そこでふと、陽二が右隣を見ると、いまだに目を覚まさないランスロットが寝っ転がっていた。
―――― こいつ乳でかいなぁ。寝っ転がっているのに横に垂れる訳でもなく、重力に逆らって見事な山脈をおっ立ててやがる……けしからん!
「何を見ておるのぢゃ?」
「いや、乳でかいなぁって……だ、大丈夫。これから、これから」
ガン見していたので、バレていない訳がない。誤魔化す事なく自白した陽二は、絶壁を気に病んでいるであろう桜の頭を、頑張れ成長期!と、優しく
「おふざけは無しぢゃなかったのか?ふむ……陽二に撫でられるのも、なかなか良い感じで癖になるのお。もっとやって良いぞ」
桜は、頭を撫でられのを気に入ったらしい。
妹属性でもあるのか、甘えん坊さんなのか。それならとことんやってやろうじゃないか!と、言質をもらった陽二は、髪の毛が乱れないよう整えるように優しく撫で始めた。
「ほーれほれ」
「アスモくらいぢゃぞ?妾にこんな事ができるのは。光栄に思うが良いぞ……」
気持ちが良いのか、足をランスロットに向けて体のポジションを横向きに変えた桜は、抱きつくように両手を陽二の背中へ回し、右耳を胸に当てて心臓の音を聞くような姿勢になり、目を閉じてされるがままになっていた。
―――― 疲れているのかな?
陽二は撫でるのを止めると、両手で桜を包み込み軽く揺れながら背中をポンポンと叩き始めた。赤ん坊を寝かし付けるように……
△△
「桜ちゃん!?」
お茶請けプレートを持って来たアスモデウスは、陽二に抱きついたまま小さな寝息をたてている桜にびっくりして、心底驚いた。
「疲れていたんですかねぇ?寝ちゃいました。こんな姿を見ると小さな子供にしか見えないですね。いや、子供か」
「桜ちゃんが
「そうなんですか?俺には分かりませんが、子供なんてこんなもんじゃないんですか?」
アスモデウスはプレートを置くと、陽二とランスロットの間に座り直す。桜の寝顔を
陽二は、アスモデウスから漂う香りにドキドキした。
「実を言いいますと、最初は司くんが帰って来たのかも、と思って王都にやって来たのですが……なんて穏やかな寝顔なんでしょうね。こんな桜ちゃんを見るのは、本当に久しぶりです」
「アスモさんも母性にあふれているというか……女神!?って思うほど慈愛に満ちた穏やかな表情をしていますよ」
「ふふ、そうですか?ありがとうございます」
引き込まれそうな笑みで軽く言葉を返したアスモデウスは、左手首に着けている細かなデザインの腕輪を外すと、両手にのせて陽二に差し出した。
「私たちが通信に使っている腕輪です。他にもさまざまな加護や装置が組み込まれております」
よくみると、予備なのかアスモデウスの右手首にも同じような腕輪をはめていた。
「俺にくれるんですか?」
「桜ちゃんもお休みしちゃいましたので、今日はここまでにしましょう。なので連絡用としてお貸しします」
「そっか。まだ、スマホの件が残っていましたね」
陽二は腕輪を受け取り、左手首に着ける。自動で大きさが変わる機能付きなのか、手首に通すとフィットするサイズになった。
⚫
通信機能や転移機能、さまざまな加護・各耐性も付与。
「お借りしますね、ありがとうございます」
「ランスちゃん起きてください。陽二くんのお見送りをお願いします」
陽二の礼に軽く頷いたアスモデウスは、ポンポンっと叩きながらランスロットに声をかけた。
もぞもぞと起き出したランスロットは、ぽけーっとした顔で前後左右を見回し、陽二と目が合った。
「こ、今度は私の番なのか?」
―――― こいつ……覚えていやがったか
「そうだな。送ってくれるんだったらやってやらない事もない」
―――― 本人がやってって言うんだから痴漢にはならないだろう
「そうか!では送って行こう!陽二すぐ出るぞ。早くしろ急げ!」
そう言ったランスロットは、寝起きにも関わらず、ものすごい早さで部屋を飛び出してしまった。
―――― あいつ顔や体は満点なんだけど、なんて残念なやつなんだろう……
「それでは帰ります」
「はい。また会えるのを楽しみにしてますね」
これが、陽二とチームゼラニオンの初対面(?)だった。
△△
外で待っていたランスロットは何を考えていたのか、陽二の手を強引に引っ張ると、日の出まえの町中を右に左に猛ダッシュ!
ものの数分で王宮近くに到着すると
『着いたぞ!そ、それで約束のアレをだな……』
と、青髪ポニーテールと大きな胸をモジモジと揺らした。
「わかった。こっち向いて目をつぶってくれ」
ランスロットは、言われた通り陽二の目の前で目をつぶった。―――― こいつ警戒心が全くないな。普通、こんな簡単に他人の言うことを聞くか?
女性の体を触れるのは正直嬉しい。だが、流石にこの無警戒は問題ありなのでは?と陽二は不安を覚え『なあ。おまえって、こんな簡単に男の言うことを聞く女なの?』と言ってしまった。
この言葉には『よく考えて、考え直せ』等の意味が含まれているのは言うまでもない。
しかしランスロットは目を開くと、ちょっと怒った感じで唇を尖らせた。
「そんな事はない。だが約束しただろう?私は、対価が欲しいだけだ!」
「対価?送ってもらった俺が、おまえの体を触るのが対価?まあそれは100歩譲ってそうだとして、おまえ、簡単に目をつぶったよな?何をされても文句言えなかったんだぞ?」
「分かっている。問題などない!」
鼻息を荒くして、ランスロットは胸を張った。――――わかった、こいつ馬鹿なんだな……よし、少しこらしめてやるか
陽二は、ランスロットの胸の前に両方の人差し指を立てて集中して『後悔しても遅いぞ?俺は警告した!』と宣言。
「なんの話だ?ちょっと脇腹をくすぐってもらうだけだぞ?」
「108ある奥義の一つ。乳首16連打!あたっ!あたたたたたたたたたたたたたたたた!」
陽二は、人差し指で乳首を押した。ただし、指が離れる瞬間に円を描きながら弾き、離す。
「あっ?え?え、え、えええ!?」
ランスロットは驚き、頭の中では理解さんがパニックでエマージェンシー!だが無抵抗!ノーガード戦法でカウンターを狙っているのか……しかしクロスカウンターは発動せず棒立ちで陽二にされるがまま。
でも体は勝手に反応しちゃうの!
山頂さんが『ここですよー!』と存在をアピールの熱視線!
こうなると、エロティックマン陽二もヒートアップ!ノンストップでロンティンクは止まらない!
「さらに奥義発動!
中指の先が山頂の上になる様に、おっぱいを優しくわしづかみ!しかし指先は激しく左右に動かし、山頂さんを往復ビンタ。
さらに存在を主張してきた山頂さん、右の頬を打たれれば左を出し、左を打たれれば右を出し――――
―――― ふむ、なかなか素直な生徒ではないか!よし、愛の
心は痛いが、あえて俺は鬼になろう!俺を鬼とののしっても構わない。おまえのためにあえて鬼と呼ばれよう!!鬼教官・オレ、参上!
「あたっ!あたたた――――あたっ!」
「陽(あっ)二(あっ)や(あっ)め(あっ)ろ(あーっ!)」
抵抗できず、陽二にもたれかかるように抱きついてしまったランスロットは、甘い声をもらし始めた。だが、陽二の攻撃は止まらない。さらに激しく責め立てた
「あたたたたた――――」
「あっあっああう――――」
10分くらいだろうか、山頂を
少し開いた口からは、涎が流れ落ち放心状態。
「また、つまらぬ物を斬ってしまったか……」
――――決まったぜ!
陽二は充実感に酔っていた。彼の手によって、ランスロットは天界に送られたのだった
「俺に奥義を使わせるとはやるな!大したやつだぜって……」
―――― 何やってんの俺!?馬鹿じゃねえの?……また
陽二は、考えるのを止めた……
△△
「
陽二は非情だと感じたが、しばらく待っても再起動する気配が見えないので、ランスロットに水をぶっかけた。
「冷たっ!うん?私はどうして……はっ!?よ、陽二はひどいのだ!乱暴なのだ!鬼!鬼畜!鬼教官!」
「鬼教官って……しれっと心読んでんじゃねーよ」
びしょ濡れのランスロットを立たせるが、乾かす方法がない。
―――― いっそのこと燃やすか?そうだ、証拠隠滅だ!……なんでだよ!
アホな考えに自らツッコンだ陽二は『調子にのって悪かった、本当にすまん』と謝罪し『これで気が済んだ?今度パフェでも
安っ!と声が聞こえてきそうだが、ランスロットは『ぱ、ぱふぇだと!?ま、まあ仕方ない。激しいのも嫌ではなかった……むしろ良かった』と呟いた。
「おまえ、本当に馬鹿だろ。それともMなの?」
言葉の意味が理解できないランスロットは、コテッと首をかしげ『えむ?』と口を滑らせた。
―――― おい、かわいいな!
「おまえみたいなやつを、ドMって言うんだよ。ちょっとかわいいな」
今しがたの姿を思いだし、陽二も口が滑った。それを褒め言葉と取ったのか、ランスロットは唇がによによするのを我慢しながら『そうか、そうだったのか。私は
すると一瞬で、ミニスカメイドから町でよく見る女の子らしい服装に変化。さらに、濡れていた髪や体も乾いていた。
「いま服が変わったけど何やったんだ?俺もアスモさんに腕輪を借りてるんだけど、俺にもできる?」
パタパタと叩きながら、服装を整えていたランスロットに聞くと
「借りた?なぜアスモが、陽二に腕輪を貸すのだ?私のを貸してやるからその腕輪は、預かろう」
「いや、そういうのはいいから。できるのかだけ教えてくれればいいよ」
ランスロットは、不服そうに口をすぼめた。
「それはアスモの腕輪だからできないだろうな。陽二がゼラニオンに入るのならば、専用の腕輪も用意されるだろうが……しかし、私の腕輪でよければ陽二の服を登録してやろう。いや登録させてください」
「なるほど、服さえ登録しておけば、この腕輪でもできるって事か」
ランスロットは、音の鳴らない口笛を吹いた
「さ、さて何の事やら。(ヒューヒュー)」
―――― この腕輪、かなり便利だな
「そう言えば聞いてなかった。通信って、どうすればいいの?」
陽二はランスロットに説明を受けた。
通信方法は、トランシーバーみたいにボタンを押して交互に話タイプと、電話と同じタイプの2種類。2つあるのは、常に改良進化されている証と考えられる。ついでに、簡単な機能のレクチャーも受ける。
―――― もう明け方か
白み始めた空を遠くに確認した陽二は、思い出したように告げた
「じゃあ俺はもう行くよ。あっ!神の書を返せよ」
「神の書?ああ、あの紙束ならスノームにある。調べが済めば、必要ないと思うから取りに来い」
「おまえが持って来いよ!しばくぞ」
「しばく?」
ランスロットは、またしてもコテッと首をかしげた
「おいっかわいいな……って違うわ!まあいいや、調べ終わったら持ってきてくれないか?」
「かわいい……かわいい………」
ランスロットはうわの空で、かわいいを口ずさんでいた。
―――― 見た目は本当にかわいいな。最初はきれい系と思っていたけど、こうボケばかり見ていると印象も変わって見える。馬鹿な子ほどかわいいってやつ?
「おいランスロット、帰ってこい」
「大丈夫だ、かわいいのは承知した。しかし、そこまで求愛されるとさすがに照れるな。私は騎士の道を志しているので男子に構っている暇など本当はないのだが、そこまで陽二から熱烈な求愛を受けてしまうとな、まあ考えてやらないこともないぞ?私の方が年上みたいだが、なぁに、年の差なんて関係ない。だいたい年上の女は『金の草鞋を履いてでも探せ!』なんて言葉もあるくらいだそうだ。男子はやはり母親が忘れられない、つまりマザコンなのだな。それなら年上の女子に惹かれると言うのも理解できる。自分で言うのも何だが、甘やかすのには相当自信がある。私の全身全霊を使ってでも陽二のやりたい様にさせようではないか、見返りではないが私の事も甘やかしてくれるとすっごくうれしいぞ!あっ、私の体は陽二の気が済むように好きにしてくれて良いぞ。激しくても問題ない、むしろ推奨だ!子供は何人くらい欲しい?私は何人でも良いぞ! って、痛い。何をする!」
陽二は、ポニーの
「何時まで寝ぼけてやがる。もう帰れ、じゃあな!」
陽二は面倒になってきたので、ランスロットをほったらかして王宮に戻っていった。その背中を見ながら、神の書をすぐにでも届けに来ようと誓ったランスロットだったが、神の書はゼラニオン本部で厳重に取り扱われる事に決まってしまい、その誓いが達成されることはなかった。