助けに来てくれた桜たちと話していた陽二。そこへ
―――― 兵士たちが大変?
どうやら緊急事態が起こったようだ。陽二が全員に向き直ると、判断を任すような目を向けていた。
「何かあったみたいだ。一緒に来てくれ」
「クラッカーぢゃ!」
アスモデウスとランスロットの2人も、当然のように頷いた。
声の方へ向かって走ると、ナーナと2人でオロオロしているパトリシアを見つけた。
「どうしたシア。何があったの?」
「お兄ちゃん、大変なんだよ。食事をしていた兵士さん達が、突然苦しみだしちゃって……」
陽二の後ろには桜たちも居る。
だが、今はそんな場合ではないと分かっているパトリシアは、その姿をスルーして状況の報告に努めた。陽二に何か出来るわけではないと分かっている、しかし頼れる人が居ないこの現状、藁にもすがる思いだった。
「取りあえず急ごう」
と陽二が声を出す前に桜たちは走り出して、兵士たちを介抱していた宿のスタッフに話を聞いていた。
風呂から上がり、食事を始めると急に苦しみだしたらしい
「顔の色……」
陽二は兵士の顔を見て驚いた。顔どころか、首や腕など至るところに紫色のアザがあった。そして、それの面積は広がりつつあった。
「皆さん!」
突然アスモデウスが、注目を集めるように声をあげた。視線が集まると、冷静に穏やかな声で
「これは
そう言われたので陽二も、宿のスタッフと共にパトリシアとナーナを連れて外に出た。
とある魔物が使う血小板を壊してしまう毒。
血小板は血を固めて
宿のスタッフが仕事に戻るため解散する中、治療と聞いて落ち着きを取り戻したパトリシアが、陽二に問いかけた。
「ねぇお兄ちゃん。あのきれいな人たちはいったい誰なの?」
「あとで紹介するけど、強力な助っ人だよ。ちなみにシアの回復魔法は効かなかったの?」
「水魔法レベル2以上の
試した。と言うわりには何度も試したらしく、肩で息をするほど魔力を消費しているように見えた。
「これを飲んで」
労いの意味も込めて、調合したMP回復薬を渡した
「ありがとうお兄ちゃん。ナーナちゃんも頑張ったんだよ、ねー」
ナーナを見ると、既に両手を出して期待の目を向けていた。
「2人ともがんばったね。きっと毒の進行を妨げる手助けになったはず。助かったらシアとナーナの手柄だ!」
ナーナにもMP回復薬を渡すが『プイッ』とそっぽを向かれてしまった
「ナーナ(グローブ)!」
「残り少ないのに……」
渋々とレッドグローブを取り出しナーナに……奪われた
「陽二入ってくれ、アスモが呼んでる」
部屋の中から顔を出したランスロットが声をかけてきた
「入ってもいいの?」
「別に何かを隠している訳ではないぞ。ただ、感染の可能性があったからな、そっちの2人も入ってくれ」
「??」
ランスロットの言葉から感染の可能性は低いとわかった。なぜ自分も呼ばれたのか不安なパトリシアは、陽二と手を繋いで一緒に入室した。
室内へ入ると、先程までの苦しむ様相とは異なり、穏やかな寝息をたてる兵士たちが横一列に寝かされていた。
「アスモさん。兵士さんたちは大丈夫なんですか?」
「おそらく毒だと思いますが、大丈夫です。
集めた情報から推測したのですが、お風呂に入り体温が上昇した事によって“状態が悪化した”と判断しました。そこでまず、低体温処理を施したところ小康状態を保っています」
「低体温って大丈夫なんですか?」
「短時間でしたら大丈夫ですが、急を要するのも事実。なので早急に異物を体外に放出する必要があります。それは私が行いますので、陽二くんたちは毒を焼ききってください。
1カ所にとどめる火魔法でお願いします。焼却すると毒ガスに変わる可能性もありますが、ランスちゃんに処理を任せていますので、ご安心ください」
「1カ所にとどめる? そんな魔法は使えません……」
「お兄ちゃん
「なるほど、ファイシールドか」
「シアもお手伝いして良いですか?」
「
「あっ、そう言えば……毒には水の回復魔法が効くって聞いたんですけど……」
「通常ならそうなのですが……レベル4の回復魔法でも効果がありませんでした。なので直接、体の外に押し出します」
アスモデウスはスピードを重視。患者の体に負担はあるが、魔力を当て異物を強制的に排出する、昔ながらの方法を選択した。
眠っている兵士たちを魔法で立たせると、陽二たちが火の壁を後ろに設置するまで集中して待機。
「陽二弱い、2人を見習え」
桜に言われて確認すると、2人とは壁の色が違った。陽二のは赤い壁、パトリシアとナーナは黄色い壁。単純に熱が足りないのだ。
「覚えたての人間に無茶を言うなよ。文句があるなら代わってくれよ」
「仕方ないのお……妾の魔力は有限での、無駄使いは厳禁。その代わり手助けはしてやるのぢゃ」
そう言った桜は、陽二の後に陣取り背中に手を当てた。すると火の壁が黄色へ、さらに薄黄色に変わった。
「違いが分かるぢゃろう?」
「多めに魔力が出ているのを何となく感じるけど……タングリの渋皮剥きと逆にすれば良いのか……?」
「これが出来るようになるとな、魔法の威力が格段に上がるぢゃろう。この小娘はできるぞ!」
「シアは天才だから比べないで!」
パトリシアの耳にも届いているであろう桜との会話だが、彼女とナーナは話に参加することなく魔法の維持に努めていた。ココ! という場面をしっかり理解している真剣な眼差しだ。
「いきます!!」
火の壁の準備が整うと、集中していたアスモデウスから開始の合図。それは一瞬の出来事だった。構えたと思ったら姿が一瞬
すると兵士たちの背中側から、黒紫や青色をしたモノが飛び出した。
それは、ジュッジュッの音と共に紫色の煙を火の壁から立ち上げた。その少し臭い煙は上部にある1メートル程の透明な球体にドンドン吸われていく
「あれはなんだ?」
「ランスの風属性魔法ぢゃ。中で竜巻を起こし、球体の内側に吸引した毒ガスを打ちつけて集めておる」
「サイクロン? 原理が分からないんだが」
「今説明したぢゃろう」
おおよそ1分程で毒を出し尽くし、蒸発する音と毒々しい煙が消えた頃、煙を集めていたランスロットが叫んだ
「桜、仕上げに入るぞ」
すると頭上にあった球体が10センチ程の大きさに圧縮されて、透明だった球体はまっ黒になっていた。
それがゆっくりとランスロットの手のひらに下りると、桜は陽二『返してもらうのぢゃ』と告げて、バットを取り出した
―――― なに!?
「細かい事を気にしてはジャイアントになれぬぞ」
「なんだよジャイアントって……」
桜にしてやられ豆鉄砲で撃たれた顔をしていた陽二を、ランスロットが部屋の端まで引っ張っていく。そして陽二の右手を両手で握り、ニギニギと十二分に堪能した。
「陽二、初めての共同作業だな!」
「全く意味がわかんないんだけど?」
ランスロットが手を離すと、陽二の手のひらには球体が握られていた。
「なにこれ? 説明しろよ」
「へい! ヘボピッチャー!」
赤い顔をしてテレているランスロットに説明を求めていると、いつの間にか陽二と反対側の端に場所を移した桜が、挑発するような声をかけてきた。
それを合図に、ランスロットは左手を上げた
「2人の愛の結晶だ頼むぞ! 審判、ピッチャー交代!!」
「ねぇお兄ちゃん。この青い髪のお姉さんって、すごいきれいだね。胸も……誰? 愛の結晶って何? 付き合ってるの?」
「ナーナ! ナーナ!」
ランスロットに引っ張られる陽二に付いてきたパトリシアさん。その顔がめっさ怖かった。メラメラと音が聞こえてきそうだ
「いや、俺も意味がわからない……」
困惑している陽二の目に、ベーブルースのように遠くをバットでさす桜の姿がとまった。
―――― 予告ホームラン?
陽二の脳裏に、病院のベッドでホームランを楽しみにしている少年の姿が過った。
『またケチョンケチョンにしてやるのぢゃ』その言葉で、陽二はやっと理解した!
―――― なるほど、早くもリベンジのチャーンスが来たわけか!
「ふっ、俺の剛速球が打てるとでも?」
「愚問ぢゃな」
「「ワーハッハッ! ワーハッハッ! ワーハッハッ!」」
2人の熱い視線が交差した。その構図は、竜VS野良猫
陽二は、元大リーガーを
「くらえ!」
球体は
部屋の端と端。お互いの距離は約10メートル。
気持ちの中では166キロの剛速球! 一瞬で桜の元に到達した。
「笑止!」
残念ながらその程度の速度、桜の動体視力の敵ではなかった。見事バットの芯で球体を捉えた! しかし、球体と接触したバットが押し負けているのか、ヒビが走った。このままではバットが砕けてしまう! そのまま球体が押し切るかぁ!
「勝った!」陽二は確信した!
「まだまだぢゃあー!」桜は吠えた!
全身にヒビが走り、悲鳴をあげながら砕けそうに見えたバットだったが、実は、表面の薄皮が脱皮のように剥がれただけで、その中から黄金に輝くバットが現れた
正に黄金バット! カッキーン!!
「あの世で
「な、何だと……」
「ふっ。
言っている意味は分からないが、めちゃくちゃドヤ顔だ
「ファ……ファールだ!」
陽二は精一杯の抵抗を試みたが……『見苦しいのぢゃ!』と一蹴されたのだった。
△△
「結局のところ毒だったのでしょうか? この様なケースは初めてです」
「これを見るのぢゃ」
桜は空間から透明なビンを取り出した。空の瓶? 陽二は目を凝らして確認。兵士たちから出てきた青い粒に似ていた。
「うわっなんか動いてる……」
アスモデウスとパトリシアも近づいてきて、瓶を覗き始めた。その時、隣に居るアスモデウスの肩が陽二と触れる。
―――― 柔らかい! それに良い香りがする
「陽二くん何かご用ですか?」
「いえいえ、何でもないです」
陽二は瓶の中身に興味なし。アスモデウスの香りにクンカクンカと集中していると、ふわっとした別の香りが
―――― ランス? こいつ……良いにおいがするな
「陽二。は、初めての共同作業はどうだった?」
―――― ブレないなこいつ。顔も体も一級品、
「おまえのおかげで桜を追い込めた、ナイスアシストだ!」
「追い込まれておらん。
「いちいち入ってくんなよ!」
桜を軽くあしらった陽二は、ランスロットの首筋に顔を近づけた。ちなみにこの行為、セクハラで訴えられたら確実に負ける。
「おまえ良い匂いするなぁ、今日のオカズは決まったな」
「おかず? 私を食べるつもりなのか?」
ランスロットは何を勘違いしたのか、あたふたし始めた。“そんな姿もみてて楽しいなぁ”と思っていたら
『お兄ちゃん?』と、低い声が聞こえた。
―――― えっ、パトリシアさんあなたなの? 駄目ですよそんな声を出したりしたら! 怖いじゃないですか
「お兄ちゃん、真面目にやってよ」
「そうですよ、陽二くん」
「申し訳ありません」
茶化すような考えは捨てて即謝罪。陽二は行動で示す男なのだ!
陽二も再度、瓶の中を確認。
注視しないと分からないレベルなものの、青色の物体はゆっくりと確実に動いていた。
「原因はコレぢゃろうて」確証はないものの、桜は断定しているような口ぶりだった。
「それってどうしたんだ? 尻の穴から出てきたのか?」
なんと失礼な男だろうか。乙女に対して不躾な言動を吐いた陽二の
「たわけが。アスモが飛ばしたぢゃろう? そのとき動いているのが見えたのでな、暇つぶしに捕まえたのぢゃ」
―――― あの状況でよく気付いたな、いつ捕まえたの? ずっと俺の背中に手を当てていたよね?
「アスモはコレが何か分かるか?」
「初めて見ましたが……虫、つまり寄生虫でしょうか?」
「俺もそう思います」
「シアも」
「ナーナ!」
アスモデウスの判断に陽二たちも便乗した。それが細菌だったとしても寄生虫でいいのだ。
ランスロットは、いまだに『オカズ問題』であわあわしているので、話に参加していない。
「まぁ何でも良いんじゃないの? 無事に解決したしオッケーでしょ」
ところがどっこい、そんなことを口走る陽二に桜の冷たい目が突き刺さると、アスモデウスが口を開いた。
「陽二くん、まだ終わっていません」
―――― 終わっていない? 兵士から毒や寄生虫(仮)を取り除いて焼却処分までしたのに? 実際、皆の顔色も良くなってるし、まだ何かあるの?
「アスモ、妾は至急本部へ戻る。こっちの処理は任せる」
「分かりました」
そう告げると桜は、腕輪を操作して一瞬で消えてしまった
「えっ消えちゃった……? お兄ちゃん、この人たちって何者なの?」
「えっと、何者なんだろうね?」
人の目の前で隠すことなく簡単に転移を使った桜。聞いていいのか悪いのか一瞬戸惑ったパトリシアは、驚きながらも困惑顔で陽二に聞いてしまった。その返答がはぐらかした言葉だと分かっていても、彼女も一応は王女。その辺の事情を飲み込み、黙ることを選択した。
そんなパトリシアを見て、アスモデウスは協力を要請。
「パトリシアさんと精霊ちゃんは、宿場の人を1カ所に集めてください」
次にランスロットへ指示を飛ばすと、部屋を出て行った。後を追うようにパトリシアとナーナも退室。
「陽二は私と一緒に来い!」
△△
「皆さん。兵士さん達の毒は感染も懸念されます。念の為検査いたしますので、集まってください」
パトリシアとナーナは、手分けしてアスモデウスの待つ部屋に宿場町の人々を集めた。客を入れても15名だった。
「少なくて良かったです」
アスモデウスは一人一人、毒の有無を魔法や目視で調べた
「感染者なし。どうやら接触感染はないようですね」
パトリシアとナーナは人を集め終わると、アスモデウスに頼まれていた熱消毒をして宿場町を回った
△△
その頃、陽二とランスロットは風呂場に向かっていた。陽二は小さい火の壁を全面に出しながら、ランスロットは風魔法で床のチリやホコリを火の壁に送っていた。たまにチリチリと燃える音がする。
以外ときれいにしているのね
脱衣所に到着すると兵士の脱いだ装備品が、紫色に変色したボロボロの状態で置かれていた。陽二たちの中では、情報から寄生虫による影響だろうとの見解でまとまっていた。
なので、焼却処分だ。
「陽二
「ああ、分かったよ。火塊の攻撃!」
ランスロットも合わせるように魔法を唱えた
「2人の共同作業! |火風の攻撃(ファイストーム)!」
ランスロットの風魔法と陽二の火塊が混ざり合う。
ランスロットが制御しているのか、うまいこと装備品だけを包みこみ、燃え盛る炎で燃やし尽くして消えてしまった。煙すら出ない
「すげぇーな、混合魔法か?」
「愛の結晶だ!」
ランスロットは腰に手を当て、たわわな胸を張った
「ああ、そっすね。風呂場に行こうか」
「……」
ランスロットをスルーした陽二は、広い脱衣所を通り抜け浴場へと続く扉の前で立ち止まった。
ガラスの向こう側は、紺に近い青色に光っていた。
扉を開けると浴槽の中は寄生虫で埋めつくされ、光が乱反射を繰り返し幻想的な空間になっていた
「きれいだ……」
陽二は思わず
人に寄生する虫を見て綺麗と思うのもどうかと思うが、実際そうなのだから仕方がない。
次に、もう少し大きくて虫の姿がひと目で丸わかりだったら……と想像したら背筋がゾゾッとした
「また燃やせば良いのか?」
後ろに付いてきているランスロットに、確認の意味を込めて問うと
「
ランスロットは腰に右手を当て、左手で陽二を指差し
―――― コイツの耳都合よすぎだな。良い言葉は全部、自分を褒め称えるように聞こえてるんじゃないか?
「もう一度聞くぞ? 浴槽に浮いている青い粒を燃やせば良いのか?」
ランスロットは『ん?』と言葉を発し、浴室の中を確認した。
「これはきれいだな。なかなか幻想的な光景……綺麗?」
察したようだ。明らかに気持ちが沈んでいるのが見えてかわいそうになった陽二だが、“ここで甘い言葉を掛けてやるとさらに勘違いされかねない”と放置プレイを決め込んだ。
するとランスロットは、
「さすがに
ランスロットの目は、暗く冷たかった。
「この様な紛らわしい物は、跡形もなく消し
「
任せろと言うなら……と考え魔法を使うと、ランスロットも魔法を唱えた。
「まぎらわしい物達よ、我が魂の叫びを聞け。炎を
陽二の大攻撃は、火塊をまき散らしながら浴槽に向かって行くと思われたが、浴室の中心でピタッと停止。
停止した大攻撃は、クルクルと回転しながら火塊をドンドン放出し始めた。その火塊は風に吸収され烈風に変化。それが浴室の中をグルグルと駆け巡り始めた。
陽二の足元では、新鮮な空気が浴室内にドンドンと供給されていく。天井を見上げると穴が空いていて、そこから使用済みの空気が排出されていた。
その隣では、ランスロットのスカートがチラリン・ズムズム
大攻撃の魔力が尽きたのか陽二の魔法は消えてしまった。だが、空気の供給は終わらない。陽二のチラ見も終わらない。
烈風はさらに速度を増して、姿が消えてしまった。
否、消えたのではなく見えなくなっただけで、烈風は室内を駆け回っていた。
そしてランスロットのお尻は、チラリズムを通り抜け全開へと進化を果たしていた。
浴室全体が赤からオレンジ、オレンジから黄金色に輝いて乱反射していた。
熱いはずなのに全く熱を感じない。浴室の中は、高圧力高熱の世界。温度と圧力はドンドン上昇して、寄生虫や発生する毒ガスの全てを燃やし尽くした。
熱が外に漏れないように操作した、ランスロットの魔法は素晴らしかった。しかし浴室内の壁は耐えきれずに表面は溶けていた。
ランスロットは全て燃え尽きたのを確認すると、浴室の中心部に小さな球を魔法で作り出した。その球は、黄金色をドンドン吸収。ほどなくして浴室に静寂が訪れた。
ランスロットは球を自分の腕輪に収納する『やってやったぞ!』と
陽二は浴室に入って見回した。
床や壁の表面は焼けただれ、浴槽から
「なあ、ランス」
陽二の呼び声に、ラルスロットはとても良い笑顔で応えた。だが、言わねばならないのだ
「おまえってさぁ金持ってるの? これって弁償もんだろ!」
ランスロットは膝から崩れ落ちた。弁償の2文字にトラウマでもあるかの様に……
「こ、これは共同作業。弁償も共同作業でぇ!」
ランスロットは泣きながら陽二の足に
―――― 人を巻き添えにしようとは
浴槽があった場所に、ピンポン球ほどの光る物が落ちていた。
―――― これってもしかして……寄生虫は燃え尽きたと思っていたけど化学反応? それで違う物質になっていようとは……
陽二はそっと、自分の腕輪にネコババした。
後日、鉱山都市スノームの力でここに宿場町が再建設され、この場所はさらに発展する事になる。
ランスロットに弁償請求の類いは全く来なかったらしい。費用は全てスノーム側が出資したのだ
スノームの研究室には、ビー玉からソフトボールくらいの蒼い珠や青色の鉱石、魔鉄などの鉱石が大量に置かれていた。初めて見る物質に研究者たちはホクホク顔だった。
☆☆☆
宿場町に居た人を全員調べた結果、寄生虫に感染していたのは兵士だけだった。
治療のおかげで命の心配はなくなったものの、救助に同行するのは無理だろう。
アスモデウスは中で、話せるまで回復した兵士に感染源の心当たりを聞いている。
その建物の前には兵士を心配する人々が集い、当然陽二やランスロットも一緒にいて、その横でパトリシアとナーナが何やら話をしていた。
「ナーナ! ナーナ!」
「そうだよね。兵士さん達は無理そうだけど、あの綺麗な人たちが一緒なら大丈夫だよね」
「ナーナ! ナーナ!」
ナーナは場所を案内してもらうのに必要だが、パトリシアも同行するのは魔物が出てとても危険だ。今の会話だけでパトリシアに同行の意思があるのか判断に迷うところだが、パトリシアは一緒に行くつもりなのだと陽二は考えていた。
――――もちろん俺は辞退したいけど……物語が進まないとか抜かしやがるしヤツが居るんだよなぁ
「ワーハッハッハ! ワーハッハッハ! ワーハッハッハ!」
そのとき暗闇を引き裂くかの如く、笑い声が聞こえてきた。少しざわめきの中、誰の声か分かっているけど言わないと駄目な病気を患っている陽二が叫んだ。
「だ、誰だ!」
大声をあげ驚くジェスチャーで周囲をキョロキョロ。
宿場の人たちも
―――― 場は温まった、さぁ出て来い!
「妾、参上!」
建物の屋根に転移してきた桜は、陽二の前フリに応え華麗に1回転して飛び下りた。スタッ、シャキーン!
宿場の人たちは、桜の空中1回転に拍手喝采! パトリシアもナーナも一緒に喜んでいた。
「待たせたのう」
「待ってねーよ、何してたんだよ」
「ふむ。あの虫ぢゃが妾も見た事がなかった。なのでの、持って帰った」
「昆虫採集? 夏休みの宿題で標本でも作るのか?」
「戯け者が! 調べるために決まっておるぢゃろうが。このまま感染が広がればどうなるか、陽二の腐った頭でも分かるぢゃろうて」
「なるほど。おまえもいろいろと考えてるんだな。偉いぞ!」
感染のかの字も思わなかった陽二は、桜の頭をナデナデして誤魔化した。
「ぬぅ……まあ良い。アスモ、ランスこちらの首尾は?」
「他の方は大丈夫でした。宿の中や周辺の駆除と予防も完了しています。感染源も特定しました」
「なぜ桜だけ頭を
「虫は急ピッチで調べてさせておるから、詳しい事はすぐ判明するとして、兵士以外に感染はない……と言うことは感染力は弱いのか?」
「単純にそうとは言い切れませんが……虫に直接触れなければ、感染はまずないと思います」
「陽二、私も
「大事な話をしている最中だろう? 少しは空気を読め」
全く相手にされてないランスロットがかわいそうだったので、陽二は軽く相手をした。
「そうか……取りあえず兵士が立ち寄った建物は全て焼却するとして……」
桜たちの会話は、宿場の人たちにも聞こえていたのだろう。あわてて走ってきた
「おい、あんたら何を言ってるんだ。燃やすだと? とんでもない。そこまでする必要はないだろう!」
「ほう。他の町に感染が拡大しても良いと言うのか?」
「そんな事は言ってません。燃やす必要までないと言っているんです。虫だって? 兵士さん達は毒だったのでしょう?」
「原因は寄生虫ぢゃ、それも新種のな。スノームの研究者も初めて見たらしく、虫か細菌かで意見が割れたり――――。つまり、どこに残っておるのかも分からなく対策が立てられない今、拡大を防ぐためにも燃やすのが確実で安全なのぢゃ」
「で、ですが……」
「心配するでない。ちょうど古くなっておるし、建て直す好機会ぢゃ」
―――― 確かに建物は古い。しかし、外見も中身も綺麗に掃除されていて大切に使っていたのが伝わってくる。愛着もあるだろうし、そんな簡単に首を縦に振るわけがないだろう。その証拠に、宿場町の人々は怒りと悲しみで震えているじゃないか
「で、ですが……費用は?」
「スノーム持ちぢゃ、魔王の名で約束しても良いぞ」
―――― あれ? 怒りで震えていたんじゃ……
「本当ですか? よし、やった!」
「アンタ良かったね」
陽二の心配は、全くの的はずれだった。