兵士たちを宿場町の人に任せ、グリーンゾーンとして残した宿以外は立ち入り禁止とし、現場となった建物は焼却した。
その後場所を変えて、パトリシアと桜たちの顔合わせを行った陽二たちは、これからの方針を話し合った。
救助を待つ洞窟には、アスモデウスを除いた全員で行くことに決まった。陽二は、危険なのでパトリシアには残ってほしかったが
「シアも一緒にいくもん」
「この娘はなかなか見所がある。連れて行けばよい」
そんな流れで決まってしまい反論の余地はなかった。
「アスモには、虫の駆除を頼むのぢゃ」
「分かりました。桜ちゃんも気を付けてくださいね。絶対に無理をしては駄目ですよ?」
「わかっておる」
「ランスちゃん、陽二くん、桜ちゃんをお願いしますね」
「任せておけ」
「はい。でも俺の方が足を引っ張る方じゃないですかね……」
2人の言葉を聞いたアスモデウスは、パトリシアとナーナにも声をかけると、寄生虫の駆除を早く終わらせるため出発した。
「アスモさんって、桜の事をすごい気にしてるんだな」
「アスモにとって桜は、自分の子供みたいなものだからな」
「ランス余計なことを
「それで、どうやって行くんだ? まさか走るのか?」
桜とランスロットは、陽二が場所を記した地図を見ながら相談を始めた
「地図を見る限り、まっすぐ南下するよりサラデインへ向かう街道を行った方が早いな」
「ふむ、良案ぢゃ。ランスはそこの精霊
「桜達はどうするのだ?」
「娘が一緒に行けば遅くなるだけぢゃ。妾たちは、
「なるほど了解した」
その会話を黙って聞いていたパトリシアは、少しだけ落ち込んだ
「シアって、もしかして邪魔なのかな?」
「桜が連れてくって言ったんだし、邪魔なわけないよ」
―――― かわいい妹に邪魔なんて言えるか! コレが野郎だったら邪魔どころか帰れ! まで言うけどな
「娘。妾は走るのが嫌なだけ、気にするでない」
―――― おっ? 桜のやつシアに気をつかってくれたのか? 優しいやつめ
桜の心使いを理解したパトリシアは、少しだけ照れ笑いで伝えた
「桜ちゃんありがとう!」
「さ、桜ちゃん!? ま、まあ良い。呼び方なぞ
―――― 桜がデレた!? 何これ、もしかしてゆるゆり?
いやまてよ……もしかするとシアを
「おい桜、おまえの魂胆は見抜いた。シアに手を出してみろぶっ飛ばす、うっ……」
陽二の腹に、えぐり込むような桜の突きが
「何を勘違いしておるのか知れんが、少し黙れ!」
「お兄ちゃん大丈夫?」
―――― 一瞬の事でびっくりして声が出たけど、勢いの割に全く痛くなかった。寸止め?
そこへ、ナーナと打ち合わせを済ませたランスロットがやって来た
「そろそろ私達は出発するが桜、ちょっといいか?」
「なんぢゃ?」
ランスロットは、桜の耳元で口元を隠すように手で覆い、陽二をチラチラ見ながら話し始めた。
「駄目ぢゃ。ひと月の約束ぢゃろう?」
「スースーして気が休まらないのだ。そ、それに陽二が何度も何度も……い、嫌な訳ではないぞ?むしろもっと見て欲しい……ち、違う違う。これでは変態みたいではないか!」
「よいではないか、ランスも見られて嬉しいのぢゃろう? きっと陽二も喜んでおるはずぢゃ」
―――― バ、バレていただと? ……兵士の毒騒動の時や風呂場でのあの突風、ランスには悪いがお尻が丸見えだった!
バレないように眼球だけで見ていたのに……
「ねぇお兄ちゃん。ランスロットさんって、なんでパンツを履いてないの? 燃えちゃったの? 持ってないの? 洗濯中なの? 変態だよね!」
ランスロットがノーパンティなのを、パトリシアは見抜いていた。そして陽二がチラ見していたのを耳にして、超攻撃的になっていた。
パトリシアと陽二の会話が聞こえていたのだろう。ランスロットのHPが、ゴリゴリ削られていく音がした。
「大人の事情があるんだよ。そっとしておこうね」
これ以上余計なことを言わないように、パトリシアを軽く注意した。ふと桜を見ると、陽二たちを見てニヤニヤと笑っていた。
―――― もしかして勘違いだったのか? シアを連れてきたのは、ランスみたいに
ちょっとだけランスロットに同情した。すると注意したにもかかわらず、パトリシアはキラキラとした笑顔で攻撃を再開した。
「ねぇランスロットさん。なんでパンツを履いてないの? 変態なの? 変態だよ? 変態なんだね!」
その笑顔は演技じゃないよね? 陽二は、ただ無邪気なだけだと信じることにした。
「わ、私は変態ではっ……もういい。ナーナ行くぞ!」
ランスロットはナーナを抱えると、青いポニーテールを
速すぎて、声をかけることもできなかった陽二は
―――― 頑張れランスロット!
と心の中で思うことしかできなかった。
△△
「集合ぢゃ!」
陽二もパトリシアもすぐとなりに居た。にもかかわらず、桜はわざわざ宣言した。どうやら言いたかっただけのようだ。
「なんだよ、やぶからステッキに」
「シ、パトリシアよ」
「なにテレてんだよ、
「うっさいのぢゃ、この馬鹿
「太物って……態度がLってか? 生まれつきだよ!」
「なあに? 桜ちゃん」
桜は陽二を無視すると、自身の左腕から腕輪を外した。そして、物語の王子さまがお姫さまにプロポーズするが如く、パトリシアの左手首に優しく腕輪をはめた。
「おめでとう。ゼラピンクの誕生ぢゃ!」
―――― やはりシアまで引き込む気だったか。腕輪をはめる所作が洗礼されていて、見とれてしまったけど……許さん!
「駄目だ! 危険な事にシアまで巻き込むな。それに、シアはお姫さまだ!」
「知っとるわ。妾を誰だと思っておるのぢゃ?」
「チビロリだろ」
陽二は、ステキな笑みと親指を持って応えた。すると桜は、お返しのトーキックを陽二の
「戯け者が……まあ心配するでない。転移には腕輪が必要なだけで、ゼラピンクは冗談ぢゃ」
「桜ちゃん。ゼラピンクってなに?」
「なんぢゃと!? パトリシアはゼラニオンを知らんのか?」
「ゼラニオンは知らないけど、この腕輪は知ってるよ? お洋服を変える事が出来るおもちゃだよね。おうちにもあったよ!」
陽二は気付かなかったが、パトリシアの言葉通り王都や周辺の町にゼラニオン変身セットが売っている。他にも映画でゼラニオンが使っている盾や剣なども、おもちゃサイズで売っているのだ。
ーーお子さまへーー
はじめによんでね
使い方はかんたん。
自分の収納スペースに、登録した衣服一式を入れておくだけ。
剣や盾の武器も大丈夫だよ!
自分だけのゼラニオンを作ろう!
ーーお子様のお父様とお母様へーー
本製品は子供用の玩具ですが、利便性が大変高いため買い占め対策が施されております。
本製品の購入と本人登録は、14歳以下に制限されております。
本製品は、登録された本人のみ使用できます。
登録後、加齢による15歳以上の継続使用は可能です。ただし、本製品によるトラブルにご注意下さい。また、責任は負いかねます。
電池消失に伴い衣服の登録は消去されます。電池交換後、再度の登録をお願いします。
※15歳以上の交換・修理依頼は、受け付けておりません。
本製品をご購入いただき、誠にありがとうございました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ゼラニオンを知らん人族がおるとは……」
桜は珍しく落ち込んでいた。知らない人ぐらい居ると思うが……おじいちゃんとかおばあちゃんとか引きこもりとか
『ねえ桜ちゃん、ゼラニオンってなに?』パトリシアは、まだ攻める手を緩める気はないようだ。
―――― もうやめて! 桜のHPはカステラ状態よ!
陽二が小さかった頃、家は貧乏だった。
そのため、お土産でもらった物は家族で少しずつ分けられ大切に食べられていた……
とりわけ、ひとりひとりのカステラが薄かった事を、陽二は子どもながらに記憶していた。
その例えで、HPが少ない状態の事をカステラと呼んでいたのだ。
似たような話で『〇ルピス濃度』の話もあるのだが……これは割愛する。
「ス、スーパーヒーローぢゃ」
「スーパーヒーロー? 正義の味方ってこと? 『可憐でウィッチセーラーズ』みたいな?」
「あれ以上の正義の味方ぢゃ! んんっ? なぜ『可憐ウィッチ』を知っておるのぢゃ?」
―――― 可憐なビッチ・セーラーズ? 18禁なのか? 見たいぞ!
「陽二、ウィッチぢゃ」
「なぜバレた、おまえはエスパーか!」
「お母さまが大好きで、小さい頃に映画をよく見に行ってたんだって。その本がおうちにいっぱいあってね、お母さまに読んでもらってたの。
お母さまは『スマイルセーラー』が大好きだったけど、シアは断然『ピュアセーラー!』すっごくかわいいの!」
桜はテレながら、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていた。
「わーはっはっは!! そうぢゃろそうぢゃろ。あんなビッチスマイルより、可憐なピュアなのぢゃ!
パトリシアよ、ぬしは良く分かっておる! 褒めて使わすのぢゃ」
―――― 復活した桜は、十中八九ピュアセーラー本人か近しい者。今の言葉と先程の表情から考えるに、本人の可能性が高いな。そうか、スマイルセーラーとは仲が悪かったんだな。
「なあ、その可憐ビッチってなに? 俺にも教えてよ」
「「ウィッチ!」」
「冗談じゃないか……」
「可憐ウィッチは、ゼラニオンの前身映画。超絶美少女のピュアセーラーとクールセーラー、そしてビッチスマイルの2人と豚が悪の手先と戦う……まぁゼラニオンと同じモンぢゃ」
「ちなみに豚って?」
「ビッチスマイルに決まっておるぢゃろう。あの雌豚ぢゃ! 最初の言い出しっぺの癖に私の黒マント様ぢゃと? 何が布教ぢゃ何がお布施ぢゃ! 男の尻を追いかけて……やつは、やつはなぁ
桜は興奮してるのか肩でハアハアと息が荒く、なにを口走ってしまったのか理解していないようだった。
―― ようするに、ビッチ呼ばわりしてるけど、今でも好きって事なんだな。んっ? 布教とかお布施って……
「桜って、本当は自分のこと私って言うんだな」
「はっ? 妾が言うわけなかろう」
「なあ、お布施とか布教って言葉が出てたけど、もしかして……スマイルって異世界人なのか?」
「そうぢゃ、やつは異世界腐人ぢゃ」
―― ふじん? 婦人? 人妻ってことか?
「桜ちゃん大丈夫? あそっかぁ、桜ちゃんはスマイルセーラーが大好きなんだね」
パトリシアは桜の後ろに回り、背中から抱きしめた。それを見た陽二も、桜の頭を
「あまり良い言葉が浮かばないけどさ、会いに行ってみればいんじゃね? どうせ居場所を知ってるんだろ? 会いにくいなら俺も一緒に行くし」
「でっかいお世話ぢゃ! なぜ陽二を連れて行かねばならぬ。それに……妾が会いに行く用事などないのぢゃ!」
腕を組み、そっぽを向きそうになる頭を捕まえた。
「桜」
「む、分かった。気が向いたら行ってやるのぢゃ」
分かりやすい態度の桜をみて、陽二は是非ともスマイルセーラーの顔を拝みたくなった。弱味を握れそうな意味で
「それで桜ちゃん。この腕輪は何に使うの?」
「ランスの元に転移するためぢゃ。パトリシアに貸したのは、腕輪をつけておる本人しか転移できんからぢゃ」
「転移……桜ちゃんが消えたアレだ! これ、
「勘違いするでない、その腕輪は『とっぷしーくれっと』。他の者には秘密ぢゃぞ? それと、腕輪の説明ぢゃが……」
桜から腕輪の使い方を教わるパトリシア。おもちゃと違って、装備は
⚫
通信、転移、収納スペース、位置発信、状態異常防止、各耐性付与、他にもご都合的な機能が付いている。
変身は腕輪の収納スペースに入っている装備を
「それと陽二。妾の
「わかった」
「桜ちゃん、シアは?」
「パトリシアは、ゼラニオンではないので変身できぬ」
「そっかぁ……え? それじゃあ、お兄ちゃんってゼラニオンなの?」
パトリシアは驚きの表情で目を向けた。陽二は、ちょっと誇らしい気持ちになった。
「まぁ入ったばかりだけどね」
「陽二はゼラブラック。妾がゼラレッド、アスモがブルーでランスはイェローぢゃな」
―― やっぱりイェローなんだ……
「すごい、すごい! シアは、正義の味方とお友達になれたんだね!」
「ちっちっち。スーパーヒーローぢゃ!」
すると桜は、赤い瞳を怪しく光らせながら小さく咳をした。まるで場の空気を変えるように。そして、おもむろに口を開く。
「あの精霊擬きの事ぢゃが……」
「ナーナの事か?」
「そうぢゃ。ナーナはな……」
パトリシアをチラッと見ると、意を決したように話し始めた
「ナーナは精霊ではなく魔物。正確には精霊と魔物の境目と言ったところぢゃが。いずれ魔物になるのぢゃろう」
「えっ、うそ!? ナーナは本で見たのと同じ姿。火の精霊ナーガでしょ?」
「ふむ。可憐ウィッチの絵本ぢゃな? あの物語はスマイルの体験話を元に作られ、旅先で仲良くなるだけの脇役ぢゃったが……実際は魔物になってしまったので……討伐されておる」
桜はパトリシアに歩み寄り座らせた。落胆させてしまった責任を感じて、慰めるつもりなのだろう。
そして納得できない陽二は、桜に反論すため考えを口にした。
「最初ナーナに出会ったとき、モヤモヤしてて姿が見えなかった。でも『火の恩義』をもらったら姿が見えるようになった。それって精霊の力じゃないのか? あっ、普通の人には精霊は見えないらしい」
「陽二。それではなぜ妾たちゼラニオンは、ナーナの姿が見えるのぢゃ?」
「それは……おまえらもシアと同じく『精霊の加護』を持ってるからだろう?」
「アスモなら持っておるぢゃろうが、妾もランスも精霊の加護なぞ持っておらんぞ?」
「それがどうした? 結局なにが言いたいんだよ」
「まず『モヤモヤ見えた』というのは腕輪の力ぢゃ。この腕輪には『人の目では見えない危険な生物』を認識する力がある。しかし腕輪の能力を100%発揮するには『本人の腕輪』である必要がある。
つまりナーナと出会ったときの陽二は、アスモの腕輪をはめておったので『モヤモヤ程度は認識できた』という事。それはナーナが精霊という証拠にはならぬ」
「でもナーナには、火の恩義を授けてもらった。それは精霊の証じゃないのか?」
「ぢゃから精霊と魔物の中間ぢゃと――――」
「じゃあ、ナーナが魔物だって証拠はあるのか? ナーナは結界路の外からココに来てる。魔物は結界路を通れないんだろ? って事は、魔物じゃない証明になるだろう?」
陽二は桜の言葉を遮り、身ぶり手ぶりを織り交ぜ必死に説き伏せようとした。
―― ナーナは命の恩人。借りを返す番だ!
桜はナーナを魔物と断定はしていない。あくまで中間であり、いずれ魔物になってしまうと説明しているだけなのに、討伐の言葉を聞いた陽二の暴走にうんざり気味。だが陽二の話に何か引っ掛かりを覚え『ふむ』と
―― 魔物といっても魔石を持たない魔物もおるが……
「陽二まずは落ち着け、言ったであろう? 境目ぢゃと……ぢゃがこのままでは間違いなく魔物になるはず……」
桜は『腕輪を交換してからナーナをちゃんと見たか?』と陽二に尋ね『妾は確認済みぢゃ! ナーナは、魔物が持つ魔石の
さらに桜は説明を続けた(諸説あり)
自然界が持っている力が集まり形を成したものが微精霊。
微精霊が成長したのが準精霊。
準精霊が
※成長には、長い年月が必要。
精霊の先は分岐点がいくつもあり、そのほとんどが魔物化。
その原因は、聖霊が
「聖霊の穢れと封印を解けば、ナーナは魔物にならないのか?」
「確実とは言えぬが……おそらく魔物化を防げる。しかし聖霊が封印されている、場所の全てが特定されているわけではない。それに、特定できた場所の入口は、魔王でも開くことは叶わんかった」
これには事情があった。
今現在、奥まで行けるパーティーは知られておらず。また、ダンジョンが認知されてから現在まででも、奥まで行けたパーティーは数チームしか存在しない。
さらに大賢者が聖霊を封印した部屋『封印の扉』の発見は極めて困難であり、唯一発見できたのは魔王のみである。
(チームゼラニオンはまだ、町のダンジョンを調査した事はない)
「なんだよそれ。なにか方法はないのか?」
「ふむ、結界路を通ったのか……」
いままでの陽二の言葉に何か引っ掛かりを覚えた桜は、考え込んでしまい陽二の言葉は聞こえていなかった。その時、ブルブルと腕輪が振動を伝えてきた。
「桜、陽二。目的地に到着した。静かだが……おそらく見られているな」
―― なるほど、こんな風に振動で教えてくれるのか
「陽二、取りあえず
連絡を受け思考を中断した桜は、パトリシアの手を取って腕輪を操作。パトリシアの姿が消え転移した。
「ちょっと待て、まだ話が……」
「陽二の話の中にヒントがあった。あっちで確かめる」
その言葉とともに、桜の姿も消えた。
―― ヒント? なにか手が見つかったって事なのか?
陽二も教わった通りランスロットを思い浮かべながら腕輪を操作した。
転移するには、腕輪を持つ仲間か町の転移門を思い浮かべればいい。単純に人物か地名を口に出しながらでも可能だ。
転移の瞬間、目の前が
☆☆☆
陽二が目を開けると、そこは真っ暗闇だった。そして、落下している感覚。陽二が転移して来たのは空中だった。初めて転移を使った事もあり、明確なイメージができていなかったせいでズレたのだ。
このままでは地面に激突して、大怪我をしてしまう。
訪れるであろう衝撃に身を構えたが、その衝撃が陽二の身に襲い来ることはなかった。
陽二の転移にいち早く気付いたランスロットが、落下してくるのを見事にキャッチしたのだ。
そのおかげで、多少の衝撃を感じたものの大事に至ることはなかった。
「助かったよ、ありがとう」
温かい双丘に包まれ、二重の意味を込めて礼を述べた。
「気にするな、私だって慣れるまでは失敗したものだ」
「で、そろそろ下ろしてくれないか?」
桜やパトリシアの声が聞こえたのでそう告げるが、聞こえていないのか一向に下ろす気配がない。
逆に体を支える手に力が入ってきた。
目が徐々に慣れてきたのもあって、ランスロットの表情が見えてきた。その表情は、何かを我慢しているような、けど嫌がっておらず待ち望むような……そんな表情をしていた
―― はっ原因はこれか!
無意識のうちに陽二は、ランスロットの胸を揉んでいたのだ。手のひらに収まりきれない!
―― この弾力……素晴らしい!
さらに不可抗力で乳首をトレジャーハントしてしまう! あっごめん。指をどけようとするが、その指が勝手に右へ左へ
とその時ゴツンと衝撃を受けると、陽二を支える力が消えて地面に落とされてしまった。
「この戯けが、時と場所を考えよ」
「お、お兄ちゃんてば、なにやってるの!」
「ナーナ?」
どうやら桜に鉄拳制裁を受けた陽二を見て、ランスロットは慌てて手を離したようだ。
「突然なにしやがる」
だが、桜は陽二をスルー
「おまえもぢゃランス!」
「な、なんの事だ? 私は、落ちてきた陽二を優しく受け止めただけだが?」
桜とランスロットの言い合いが始まったそばでは
「お兄ちゃんのエッチ。ナーナちゃん、やっちゃって!」
「ナーナ!」
手のひらの向きが上下逆のかわいい敬礼をしたナーナが、無数の火の玉を陽二に飛ばして
「痛いから、止めて!」
△△
色々と不測の事態があったみたいたが、それはさておき。陽二は転移先の周囲を確認した。
暗闇の中に青白く光るレンガ大の物体を確認。
これは等間隔ごとに設置してあり、港町サラデインから鉱山都市スノームまで続いている。
この物体の正体こそが結界発生装置である。本体は地中に埋設されており、地表に出ている青白く光る部分が結界を発生させ、本体最下部にある装置が連結と接続を担う部分になっている。
ようするに、この集合体が『結界路』である。
結界発生装置の大きさは不明だが、今の形になるまで幾度も改良が重ねられてきた。結界路が現在の規模になったのは、おおよそ300年前。
完成には
しかし一番忘れてならないのは、魔物の
結界路の内外10メートルは、ともに背丈の低い草花が少し生えているだけの更地になっている。その風景は、立ち入り禁止の線路に近いだろうか。
結界路の外側へ目を向けると、5階建てマンション以上の木々が
木々の根元に目を向けると、太陽の光が届くはずもないのにさまざまな草や
実は一部の人族のみが知り得る情報だと、この防壁の中には薬草や魔
桜は結界路の外を見ながら
「馬鹿みたいに騒ぐから感づかれおったではないか。ランス、皆を連れて場所を変えよ」
そう言い残すと、結界路を王都方面に走っていった。その姿を見送ると、ランスロット先導で街道近くに場所移動。
その時だった。桜が走り去った先から大きな爆発音が聞こえた。
「注意を引きつけたのだ」
ランスロットの説明で納得していると、ほどなくして桜が帰って来た。と思ったら何かを考え込んでいる様子だ。
「全員、注目!」
考えがまとまったようだ。
桜のひと言で、自然と黙り込んだ全員の視線が集まった。
「ナーナの事で話がある」
その話とは、ナーナが結界路を通過してやって来た事実と桜の考えを
ナーナの体の中には魔石の欠片がある。
その欠片が頭に到着すると、完全な魔物になり手遅れになる
確証はないが、結界路で魔石の欠片を破壊することが可能で、おそらくナーナの体にダメージはないと思われる。
それを実際目で見て確かめたい
その話を聞いたパトリシアは『今から行くんだし、良いタイミングだね』とナーナに話していた。
そこに桜も近づき、聞き取り調査を始める。
『結界路を通過したとき、体に影響はなかったか?』
『痛いところは無かったか?』
『意識はあったか?』など
他にも色々と聞き出し、何かしらの確証を得ていたようだ。
△△
結界路の外は魔物が
もし見つかったら、普通の人族ではひとたまりもない。そのため陽二は、ゼラニオンに変身して洞窟に向かうことになった。
変身に必要不可欠なのは、
変身すると、身体能力が大幅にパワーアップする。
その他にもヒーロータイムが条件下になるが、腕輪のさまざまな能力が助けてくれることになる。
今回で言えば、魔物と同じ視界だ。暗闇でも昼間に近い形で見る能力『魔眼』が一番に上げられる。
一般的に『
冒険者や炭鉱労働者、暗闇で働く者はスキルに付随する形で得ることが多い。魔眼といえば特別な能力を想像する事も多いが、特殊な物を除けば、ありふれた物といえる。
例えば調合や錬金をする前に完成品が見えたり、人のステータスを見たり、物を鑑定したり、体の状態を診察したり、ウソを見抜くなどだ。
元世界の話だと『夜目』は暗闇でも50メートル先まで見ることができるナイトビジョン目薬が開発されている。
△△
結界路の近くにある巨大な
桜が
「「「
陽二の腕輪から黒い珠が飛び出すと、それが光になり包まれた。すると、いつの間にか全裸になっていた。
目の前には、初めてUMAと遭遇して驚いた顔をしたナーナと、手で顔を隠したパトリシアが居た。
だが、指の
チラッと、隣にいるランスロットを目だけで確認すると……彼女も全裸だった。ふと視線を感じた陽二は、顔を上げた。目が合った。
すると、チラッ。チラッ。とランスロットの眼球だけが上下し始め、すぐに吹っ切れたのか、息子をロックオンしたまま動かなくなった。
―― ガン見してやがる……なら遠慮はないな。お互いさまだしな!
と油断したのが悪った。息子がムクムクっと準備運動を始めたのだ!
―― あかん! シアの前でおっ立てると色々な所から苦情が殺到する。精神集中だ! 落ち着け、落ち着け陽二。おまえはやればできる子だ!
目をつぶり集中する。シーンと静寂が訪れた。
―― やったか? 俺は、押さえ込めたのか?
陽二はゆっくり目を開けた。
なんと! 先ほどよりも近くにナーナとパトリシアが接近。そして隣からは、変身を完了したランスロットが、パトリシアの上を覆うようにオーバーハングして見ていた。
皆が最前列で、息を飲みこみ凝視。その口元は、わずかに動いていた。
―― ガ、ン、バ、レ
その時ランスロットの胸元が、目に飛び込んできた。たわわなけしからんが、見えそうで見えないチラリズム! 今しがたの全裸が、乳房が、乳首とアンダーヘアーが脳裏に描かれた。
ムクムクッピーン!!
「「キャー!」」「ナーナ!」
最前列は、黄色い歓声なのか悲鳴なのか興奮のるつぼ。一度このスーパーな状態に進化してしまったら、陽二にもどうにもできない。恥ずかしいけどカチンコチンコ! 俺のターン、45度ダイヤモンドボッキー!
――ランスの変身は終わっているのに、俺の変身はどうして終わらないんだ?
桜と
―― もしかして……ヤツの悪ふざけか?
ヤツを探すと、ランスロットの少し離れた後方に『まさかこんな騒ぎになるとは思わなかった』と思える表情で固まっていた。
陽二のコチンコチンコを直視できないようで、決して下には視線を向けずデコに固定。
陽二がジーと視線を送ると、ハッと気付いた桜。早速、目で合図を送った。(早く終わらせてくれ)
コクッ。コクッ。と
不思議な感覚だった。『んっ?』と思い下半身に目を向けようとしたら、なにかが遮っていた。
「よ、陽二……?」
「お兄、ちゃん?」
「ナーナ?」
―― なんだこれ……?
遮っている物を両手でモミモミすると、痛みを感じた。『はい?』と思いながら下半身をパンパン
「あれぇ?」
「陽二、こっちぢゃ」
桜に呼ばれ振り向くと、そこには見たこともない女の子が居た。
艶々の長い黒髪に黒いカチューシャ。目は大きくパッチリしていて、ふたえまぶた。かわいい鼻と少し厚めの唇。
目線が陽二と同じだったので、女の子にしては高身長だ。痩せても太ってもなく、出るところは出ている良い感じの体形をしていた。
服装は、色違いだが桜の
―― ネコ耳だと? いや、まずはあいさつだな。
「初めまして。俺の名前は……んんー?」
陽二は右手を上げて、ふりふり。
「長いわ! 何時まで待たせるのぢゃ!」
桜は、持っていた大きなカガミを投げ捨てた……かの様に見せかけて、収納スペースに入れた。
「はっ? 今の俺か?」
「遅いわ。夜が明けてしまうかと思ったのぢゃ!」
ゼラニオンは、男子禁制の美少女戦隊。乙女戦闘服の力によって陽二は、身も心も陽子ちゃんになってしまったのだ。
陽二は自分の体を確認する。胸をモミモミ。下半身をパンパン。胸をモーミモミ。下半身をパンパパン。
「柔らかいわ……じゃなくて、私の息子はどこかしらん?」
「陽二、気をしっかり持つのだ。その姿に負けては駄目だ、自分を見失なうな!」
ランスロットは陽二の肩を
すると、頭ひとつ大きいランスロットを見上げるような形になってしまった陽二は、なぜか見とれてしまった。
ポッ!
「ランスロットさんって、よく見るとカッコいいですね。モデルさんみたい」
「そ、そうか。モデル? なにか良く分からないが、カッコいいのか……って違う! 陽二、目を覚ませ!」
パンパンパパンと、陽二の頬を平手打ち。
その隣では、深刻そうな顔をしてパトリシアとナーナが相談していた。
「ねぇナーナ。今度から『お姉ちゃん!』って呼んだ方がいいのかなぁ? それとも『お兄ちゃん!』でいいのかなぁ?」
「ナーナ?」
「そうだね、困るよね」
パトリシアとナーナは、2人して真剣にウンウンとうなっていた。
その姿と話し声が耳に届いてしまったもんだから、ランスロットはさらにヒートアップ!
パパパパパパン!
パンパンパパパパン!
桜は、この光景を傍観していて思った。
面白いのは面白い。けど、ちょっと想像していたのとは違う
と
そのあと、ランスロットの必死な平手攻撃で男心を取り戻した陽二は、息子を取り戻すべく『ここだけは、男に戻してくれ』と頼んだが……
戻って来たのは、自分の貝に閉じ込もってしまった息子だった。
その時に呟いたひとり言を聞かれてしまった。
「ケーホーってなに? 何をむいちゃうの? どこがムキムキなの? ねぇおにお姉ちゃん!」
純粋無垢なパトリシアは、陽二に質問攻め。教育上よろしくないと考え話を強制的に終わらせたが、この質問は度々陽二を困らせることになる。
「いい加減に出発せんと、本当に夜が明けるぢゃろう!」
ぬけぬけと言い放った桜に『
△△
変身を完了した陽二たちは、結界路の手前まで行動を開始。そして桜は、ナーナの体内にある魔石の欠片が“両手首と尻尾の付け根”にあることを確認した。
この魔石の欠片が頭に到達すると、合体して魔石になり魔物へと変化する。そして魔石は、体内のどこかに隠れる。
魔物によって魔石のある場所は違うが、大抵の魔物は体の中心部にある場合が多い。この魔石が、魔物にどの様な作用を引き起こしているのかは、現在でも分かっていない。
桜は周囲を警戒して、ナーナに結界路の通過を
「ナーナ」
ナーナが結界路を通過すると、桜は『よし!』と
先程の洞に戻り、話を聞いた。
「
魔物化を阻止する方法にめどが立った。
陽二はホッと胸を撫で下ろし、パトリシアとランスロットは、ナーナに喜びの声をかけていた。
当の本人は、ぽけぇーと2人を見上げていた。状況を全く理解していないのだろう。
突然『あなたは、もうすぐ魔物になります!』と言われても、理解しろというのは無理だろう。
「妾には、結界路を管理しておる
「速球じゃなくて、早急に頼んでくれ」
「ナーナちゃん。良かったね」
それから道案内のナーナを先頭に、結界路の外に出た。
パトリシアはランスが背負った。
森の中は見通しも悪く死角が多いので、そのまま突入するのは大変危険だし悪手だ。そこで桜は考えた。
「上ぢゃ」
樹木を猿のように身軽に登っていく。ゼラニオンに変身したので、身体能力も大幅に向上しているのだ。そのおかげで陽二は、苦も無くピョンピョンと跳ねるように木を登れた。
「あっ動物さんだ!」
パトリシアの声にびっくりして逃げる小動物。
木の上で生活しているのか、巣も確認できた。この事から、木の上まで魔物が襲ってくる事例は少ないのだと陽二は考えた。
樹木のてっぺんまでたどり着くと、そこは木の上とは思えないほどの光景だった。
木の葉や
花が咲き乱れている場所や、小さな植物が集まっている群生地が散見していて、月の光に照らされている姿はとても美しかった。
「きれいな場所だね」
パトリシアが
緑の平野を駆けた。
先頭がナーナ。順に桜、陽二、パトリシアを背負ったランスロットが続いた。5人は目的地の洞窟に向かって一直線。
5分ほど走っただろうか、緑の平野その終わりに到着した。
「むっ。待ち伏せされたのぢゃ!」
樹木の上から見おろすと、眼下の大地には大量の魔物が待ち構えていた。