※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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変体のランスロット/ゼラレッドVS魔物軍団

 

「 前回のゼラニオン!! 」

 

 

 シアたちは、助けてもらった火の精霊ナーナちゃんのお願いで、怪我人がいる洞窟へ行く事になりました。

 その前に、寄生虫の問題があったりお風呂場が燃えちゃったりしたけど、なんとか結界路までやって来たのです。

 

 そこで、な、なんと! 陽二お兄ちゃんが、陽子お姉ちゃんになっちゃった!? 変身の時に指の間からチラチラ見ていたんだけど(内緒ね)結局、最前列をキープしちゃったよ! 推しメン決定だね!

 今度から、お兄ちゃんとお姉ちゃんどちらで呼ぶのか、究極の選択があったりなかったり

 

 お兄ちゃんは息子が若返って、ケーホーのムキムキが何とか言ってたけど……剥(む)いちゃえば問題ないみたい! シア、子どもだから意味が分からなかったよ!

 

 結界路に入ったらとても高い木があって、みんなで木登りをしたよ!

 頂上まで上がったら、そこはとてもきれいな草原だったんだぁ。

 すごいよね! 木の上だよ? とても上手な庭師さんが、きれいに木を刈っているのかなぁ? 広さは王都がすっぽり入るかもだって!

 

 その草原を駆け抜けたチームゼラニオン。草原の終わりに待ち受けていたのは……な、なんと! 魔物の大軍! すっごくいっぱいいたよ。どうする? おに……お姉ちゃん!

 

 果たしてチームゼラニオンは、このピンチをどう切り抜けるのか!

 

 

 △△

 

 

 到着した草原の終わり。

 そこから下を見ると、地面を埋め尽くす程の魔物が待ち構えるように集まっていた。その光景に目を奪われ、唖然としている陽二の耳にパトリシアの呟く声が届いた。

 

「シア? なにをぶつくさ言ってるの?」

 

 ランスロットの背中に目を向ければ、握り拳をマイクに見立て(・・・)なにかを呟(つぶや)くパトリシアと目があった。

 

 ―― この光景を見たら、気が動転するのもしかたないか……

 

 そう解釈した陽二は、魔物の群れに視線を戻した。

 

「ふーむ。2000以上はおるぢゃろうな。見よ、陽二。魔物がアリみたいではないか! わーはッは!」

 

 全く臆す様子を見せない桜は、魔物を指差しネタをぶっこんできた。

 

 ―― 余裕かよコイツ……。そして、そのネタは誰が教えたんだ? ていうかアリ、いるんだな。

 

「この光景を見て、それだけの大口を叩ける姿には感心するけど、正直俺は帰りたい。ちなみに、この程度の高さではアリに見えん!」

「確かにこの数は正直きついな。どうする気だ?」

 

 桜の言葉で少し緊張がほぐれた陽二が、魔物の姿を見ながらツッコミを返すと、現状を分析したランスロットも追従して桜に問いただした。

「ふむ……」少し考える仕草を見せた桜は、隣でほげぇーと魔物を見ているナーナに向かって

 

「ナーナは巨神の末裔(まつえい)なのぢゃろう? なぎ払え!」

 

 と、魔物の群れを指さした。その一連の行動に陽二の体は勝手に反応。桜の頭をペシッと叩いた

 

「いい加減にしろ! おまえ怒られるぞ?」

「ほう。腕を上げたな陽子ちゃん!」

「どっから出てきたんだよ! その陽子ちゃん設定!」

 

 

 △△

 

 

 陽二は、改めて下を確認した。

 真下は見通しのよい大地が広がっていて、そこには魔物が集まっていた。桜の予想では2000~3000体。

 

 ナーナの説明だと、魔物たちの遥(はる)か後方に見えるM字型に凹んだ山に、目的地である洞窟がある。

 その周囲は湖で囲まれていて、不思議と魔物が侵入する事はないと言う。つまり洞窟の近くは安全地帯になるので、そこまで行ければ一安心である。

 

 陽二たちから見て、魔物が集まっている右側はかなり遠くまで見通しが良く、左側は林みたいで低い木がまばらに広がっていた。

 

「で、どうするんだ?」

 

 周囲を見回していた桜に、陽二が問いただした。

 

「うむ、タイトルは『ゼラレッドVS魔物軍団』に決まりぢゃ」

「意味わかんねーし。何の話だよ!」

「妾が、魔物を引き付ける役をするのぢゃ」

「えっ、まじで?」

 

 そんな無謀な事を言い出した桜は、腕組みしたまま偉そうに魔物たちを見おろしていた。

 その魔物たちは、明らかに桜たちを見上げてロックでオンしていた。木を上ってまで襲ってきそうな姿は見えないが、ぼちぼち痺(しび)れを切らして、石でも投げてきそうな雰囲気はあった。届くかは分からないが……

 

 ―― これって、ここからなら一方的に攻撃できるんじゃあ……

 

 陽二がそんな事を考えていると、桜から救出作戦の発表があった。作戦名は『Z作戦』ゼットではなく、ゼーラ作戦らしい。

 

 その作戦内容とは

 まず、魔物を広範囲の魔法で攻撃。

 この魔法で、中心部から半径50メートルの魔物に大ダメージを与え、注意を引く。つまり囮役だ。

 それを合図に、離れた場所で待機している陽二たちが、ランスロットに乗って洞窟まで1直線という単純なものだ。

 

 この作戦の要となるランスロットは、翔駆族(しょうくぞく)と人間のハーフである。翔駆族とは馬人族(ばじんぞく)の一種だ。

 

 翔駆族の女性は人と全く同じ容姿をしているが、特殊能力を持っている。その能力とは、ケンタウロスみたいな半人半獣に姿を変える能力。これは『変体(フォーム)』と呼ばれる。

 変体(フォーム)を使うと、天馬(ペガサス)みたいに翼が生えて大空を駆ける者も存在していた。その姿は“翔騎士”と呼ばれ、単騎で魔王と互角に戦った逸話もある。

 

 ランスロットは純粋な翔駆族ではないが、たゆみない努力で変体が可能になった。その変体したランスロットの背中に陽二たちを乗せ、洞窟まで走るのだ。

 

 

 △△

 

 

「翔騎士変体(ゼラナイトフォーム)!」

 

 変体のポーズなのか、ランスロットは目を閉じて両手を広げた。すると臀部から下が輝き、蹄のある美しい馬脚が姿を現した。次にスカートの中から胴体部分と尻尾が、続けて競走馬のようにがっしりとした後ろ足が伸びるように出現した。

 

 光が収束すると、首から先にランスロットの臀部から上部分が合体している、栗(くり)色の毛並みをした美しい馬体が目の前にあった。

 

 ―― すげぇ……

 

 言葉の説明だけではアレだが、陽二は、その美しさと力強さに感嘆の感想を抱いた。

 するとランスロットは、最後の決めで武器を呼び出した。これは具現化武器のひとつ神槍(ランスロット)だ。

 

「さあ1番に乗ってくれ。今まで誰も乗せた事がないこの馬体、初めては陽二に捧(ささ)げたい」

「言い方が重いよ、背中に乗るだけだろ?」

 

 鐙(あぶみ)も鞍(くら)もなく手を置く場所もないので、ランスロットに手を引かれて乗った。

 

 ―― なっ、なんだと……ここが天国か!

 

 ランスロットの馬体は、ほんのりと温かくて栗(くり)毛はフワフワとしているのに弾力があって最高だった。陽二の中では、高級な毛布や絨毯が裸足で逃げだすレベル。

 

「すっごい気持ちいいよ! おまえ最高だな!」

「そ、そうだろう! よ、陽二。落ちると危ないからな! う、後ろから、しっかりと抱きしめるのだぞ!」

「そ、そうだな。うん危ないな」

 

 馬体の上を、ズイズイと興奮ぎみの鼻息混じりで前に進んだ陽二は、後ろからランスロットの体を抱きしめた。程よい大きさが、回した腕とマッチング。陽二がランスロットの温かい背中に頬をくっ付けると、青い髪の毛が鼻をくすぐった。

 

 ―― はぇーいい香りや。女の子って、どうしてこんなに良いにおい(・・・)がするんだろう……

 

 クンカクンカ

 

「お姉ちゃん?」

 

 そんな幸せ絶頂の耳に、ドスの効いた低い声が聞こえた。ギクッとして下を見ると、パトリシアのコメカミがピクピクと動いているような……

 

 ―― 駄目よ? かわいい少女がそんなに怖い顔したら、絶対に駄目!

 

 脳内で、ポスターに書いてある防止標語みたいな言葉を繰り出した陽二は、誤魔化しながら笑顔で手を伸ばすと、パトリシアを引っぱり上げた。

 すると彼女は、そそくさと陽二の前に入り込んだ。

 

 ――そりゃないゼ! いや、むしろこれが正解なのか?

 

「うわっ!? なにこれ、すごく気持ちいい」

「ふふん。そうだろう!」

 

 パトリシアの思わずもれた第一声に、ランスロットは当然とばかりに豊満な胸を張った。

 そのやり取りの間に、ナーナはピョンと跳び乗り陽二の背中に抱きついた。

 それを感じ取った陽二は、パトリシアを包み込むようにしてランスロットに抱きつく。

 

 ―― これって……男のままだったらベストポジションに手を回せるんじゃないか?

 

 何はともあれ、準備完了である。

 振り落とされないように、しっかり抱きつかなければならないので、不意にずれてしまったとしても、間違って胸を鷲掴み&ひと揉みふた揉みあったとしても、事故として処理されるはずである。

 

「30秒後に戦闘開始ぢゃ。ナーナは念のため、方向の確認を頼む。ランス、こっちは気にせず洞窟まで1直線に進むのぢゃ」

「了解した!」

 

 ランスロットは、陽二たちを乗せたまま左側の林近くで待機。木の影を利用して、隠れながら走って行くのだ。

 

 

 △△

 

 

 ドゴーン! と爆発音が轟き爆風が吹き荒れる。その爆風がおさまると、周囲に500体以上の魔物が倒れていた。まだ息のある魔物もいたが、あちこち欠損していて虫の息だ。

 

 その中心に、薄赤いショートヘアーで黒目の女の子が立っていた。

 

「まだまだ幼い小さな蕾(つぼみ)! 花弁(かべん)になるのはちょっとまってね! ゼラレッド、参上!」

 

 乙女戦闘服(ゼラスーツ)に身を包んだゼラニオンのリーダー、サラリーこと本条桜だった。

 

 ゼラレッドVS魔物軍団。

 

 桜の一方的な蹂躙(じゅうりん)劇が始まろうとしていた。

 

 

 △△

 

 

 爆発を合図にランスロットは飛び出した。

 ひとっ飛びで林の中に身を隠すと、風の魔法を駆使して着地の衝撃を制御していたとはいえ、念のため陽二たちに声をかけた。

 問題なかったようなので、座りポジションを確認させ周囲に注意を向けた。

 狙い通り魔物は桜に誘導され、1匹の気配もない。

 

「行くぞ」

 

 ランスロットは木を避け、枝や草などの障害物は神槍(ランスロットロット)に纏(まと)わせている風壁(ウィンドシールド)で左右に吹き飛ばしながら走り出した。

 桜が居る方向から、けたたましいうねり声や叫び声が聞こえたが、ランスロットの足が止まることはない。

 桜を信じているからだ。

 

 ジグザグにときには真っ直ぐに、木を避け枝草を吹き飛ばしながら全力で駆けるランスロット。目的地の山が少しずつ大きくなり、5分程走ると凹んだ山の前に到着した。

 

「さて、ゆっくりもしていられない。ナーナよ場所はどこだ?」

 

 ピョンと飛び降りたナーナは、壁にある大きな穴を指差した。ここが入口になっていて、道なりに下って行くと湖がある。それを渡れば洞窟があるのだ。

 

 陽二も背中からおりると、パトリシアが両手を広げて待っていた

 

 ―― なる程、受け止めろって事だね。むしろご褒美!

 

 陽二は両手を広げると、パトリシアにバッチコイと合図を送る。パァと笑顔になったパトリシアは、陽二の胸に飛び込んでいった。

 

 ―― 痛っ!

 

 陽二は、胸に痛みを覚えた。抱き止めたパトリシアを優しく下ろすと胸を確認。変身したときに、女性のパンティーが装着されたのは覚えているが、ブラジャーに覚えはない。

 

 ―― あれ? 乳首回りが少し赤くなってないか?

 

 ここに到着するわずかな時間で服ずれを起こし、乳首にダメージを受けたようだ。

 

「ランスってさぁ、ブラジャー着けてる?」

 

 元の姿に戻ったランスロットに、対策もかねて聞いてみた。

 

「ブラジャー? なんだそれは?」

「ブラジャーを知らないって嘘だろう? まあいいか、服にすれたみたいで乳首が痛いんだけどさ、おまえってどうしてるの?」

 

「そんなときはな、乳首に薬草を貼り付けて保護するといいぞ。布を巻くのもいいな、サラシという胸用の長い布が売っている。まあ私は、鍛えてあるから何も着けてないがな!」

 

 ワイルドに言い放ったランスロットは、自慢気に胸を張った。

 

 ―― ノーパン・ノーブラか、けしからんやつめ! ずっとそのままでいてくれ

 

 ブラジャーを装着しなければ、垂れてくる可能性大である。陽二は、今の願望よりもクーパー靭帯の保護を勧めるべきである。

 

「おっきいと痛いんだ……」

 

 パトリシアの呟(つぶや)く声がした。振り返ると、明らかに落ち込んだ顔をして自分の胸を触っていた。

 

「そうだぞ! よかったなちっパイで」

「よくないよ! 痛くてもいいからおっきい方がいいの。なんでお姉ちゃん達はそんなに大きいの?」

 

 パトリシアは涙目になっていた。

 しかし残念ながら、胸の痛みは成長過程で起こり得る事なので、胸の大小は全く関係ない。それに、大きい胸の方が不便な点が多い。

 

「シアはこれからだよ。成長期は目の前だ! それに、俺はちっパイも好きだし需要も多いよ?」

「ホントに?」

「ああ、本当だ!」

 

「な、なんだと! 私のように大きいのは嫌いなのか?」

「好きに決まってんだろう!」

「もうお姉ちゃん! どっちなの!」

 

 こちらを立てれば何とやら。大小だけじゃなく、形や張り、感触や色など十人十色である。そんな感じで適当にふたりを宥(なだ)めると先に進んだ。

 

 ちなみにパトリシアの話だと、ブラジャーは普通に売っている。他にもヌーブラやサラシ、乳首だけをカバーするシールもあるという。

 

 

 △△

 

 

 穴に入り少しずつ広がりを見せる坂道を下りていくと、急に視界が広がり湖の前に出た。

 

 この湖の奥行きは、どこまで続いているのか不明だが、横幅は500メートルほどある。両側は垂直に切られたような岩肌の絶壁に挟まれている。その絶壁の先端は霞んで見えないほど高く、その高さのまま奥にずっと続いている。

 陽二たちの目線の先、湖の中には横200メートル高さ30メートルくらいの山のような島が見える。

 その中腹に目的地の洞窟がある、とナーナは説明しているが、木が生い茂っているため、目視で確認することはできない。

 

 湖は青っぽく見え美しく、水面にはお盆の形をした2メートルほどの植物がたくさん浮いている。この植物の上を渡って向こう岸に行くのだ。

 

「そう言えば、ナーナとそのケガをしている人は、どうやってここまで来たの? てか、その人って何者? どうしてこんな辺鄙(へんぴ)な場所にいるの?」

 

 ここの雰囲気は、明らかに違った。

 まるで、教会や厳格な図書館にいるような……そして空気が澄んでいて、魔力に満ちあふれているような感じがして、ふざけては駄目な場所。そんな感じを受けていた。

 

 その時、湖の中から耳を傾けている者がいたが、誰も気付かなかった。

 

「ナーナ、ナーナ!」

「ふむふむ。直訳すると――

 ナーナが目を覚ますと、隣にケガをした人いた。なぜ洞窟にいたのかは分からない――

 要するに、ナーナはポンコツと……」

 

「陽二、そんな事よりもまずは洞窟に行くべきだろう。その人物ならば、何かしらの事情を知っている可能性はある」

 

 そう告げたランスロットは、湖の手前まで行って腕を組むと山を見つめた。陽二もパトリシアの手を取って、その横に並んだ。

 

 その時ナーナがピョーンと跳ねて、植物の上に乗った。意外としっかりしているようで、微動だにしない。

 

「俺が先に乗ってみるよ」と、男を見せるべく、陽二が植物に乗ろうとすると「待て陽二。面倒だから私が向こう岸まで送ろう」とランスロットが言い出した。

 

 ―― 送る? 空でも飛べるのか? 向こう岸まで200メートルはありそうだぞ?

 

「乙女大剣(エシャロット)」

 

 陽二が考えていると、ランスロットは自分の武器を具現化した。

 

 ―― 何に使うのか分かんないけど、確か『仲間の腕輪(ゼラブレスレット)の中に、装備品が格納されておる』って桜が言ってたな。アレって俺にも出せるのか?

 

「エシャロット!」

「私の乙女大剣(エシャロット)がどうかしたのか?」

 

 真似をして、乙女大剣を呼び出そうとした陽二だが、アレはランスロットの具現化武器なので、当然呼び出せる道理はない。そんな陽二の姿に、ランスロットは不思議そうな顔をして口を開いた。

 

「いや、武器が出ないかなって思ってさ……」

「なるほど理解した。乙女大剣(エシャロット)は私の専用武器だからな、陽二には無理だ。でも魔技6級になれば、専用武器の具現化は可能だ。それと標準装備の武器は、ゼラソードとゼラシールドだ」

「そ、そうか。魔技6級ね」

 

 ―― 魔技? なにかの武道か?

 

「教えてやると言っただろう? 魔技の師匠はアスモだ。私と桜も魔技を習っているのだ」

 

 ―― ほほう。アスモさんに教わるのは良いかもしれない。が、まあ考えておこう

 

「で? その乙女大剣(エシャロット)でどうするんだ? その剣は船にでも変わるのか?」

「実際にやった方が早いだろう。上に乗ってみろ」

 

 ランスロットが乙女大剣を地面に置いたので、訝(いぶか)しみながらも上に乗った。

 

「で? どうするんだ?」

 

 するとランスロットは、乙女大剣を水平に持ち上げるとゆっくり回転を始めた。

「ちょっまさか……」そんな陽二の声を

『心配するな私に全て任せておけ』と言い出しそうな自信ありありの顔でスルーしたランスロットは、遠心力で陽二が落ちないように角度を調整しながら回転を上げて――――向こう岸に向かって力をとき放った!

 

「ちょ! 待て待て! ああぁぁー」

 

 △△

 

 ランスロットさんは、植物の上に乗ろうとしたお姉ちゃんを呼び止めて、自分の剣の上に立たせました。

 そして両腕を伸ばしたままクルクルと回り始め、一歩を踏み出すと『やぁぁー』って振り抜きました。

 

 お姉ちゃんは、きれいな放物線を描いて飛んで行きました……

 

「あぁー目が回るぅぅーゲボフ」

 

 そんな声を出しながら、お姉ちゃんは向こう岸には渡れたんだけど、勢いが止まらなくて草木の中にズボッて行きました。

 おそるおそるランスロットさんを見ると『やってしまった!』って顔をしていました。

 お姉ちゃんの事は心配だったけど、同じ事をやらされでもしたら大変です! シアはナーナに助けを求め、逃げるように植物の上に飛び乗りました。

 

 あんなの絶対に嫌です!

 でも、心配する必要はなかったようです。

 ランスロットさんは、お姉ちゃんの名前を叫びながら植物の上をあっという間に渡って行きました。

 

 △△

 

「い、今のはなんだったの? 人ってあんなに野蛮なの? 怖いの!」

 

 湖の中には、陽二たちに話しかけようか迷っていたところ、ランスロットの行動に驚いて、声をかけることができなかった少女(?)が居た。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 大爆発が起こった。

 

 爆発の威力はすさまじく、中心から30メートル以内にいた魔物は、一瞬で意識を刈り取られた。

 吹き飛ばされバラバラになった魔物は新たな攻撃手段に変わり、周辺の魔物たちにもダメージを与えていた。

 

 その中心には少女が立っていた。それを遠くから見つめていたのは、ひとりの男。フード付きの白いローブに身を包み、腰には黒い剣を下げていた。

 

 この男、ここに来るまで機嫌がとても悪かった。

 先日まで開催されていたイベントの途中で、回線がつながらなくなってしまったからだ。

 それでも我慢して回線の回復を待っていたが、回復の兆しは一向になかった。

 そこで原因を調べるため、ある山の頂上へ向かった。

 すると、本当ならばそこにあるはずの塔が、跡形もなく消えてしまっていたのだ。

 

「な、なんてこったい……」

 

 登山途中いつもの塔が見えなかったので、薄々そんな気はしていたが、実感するとその怒りは頂点に達した。

 余裕で報酬がもらえる順位にいたのに、数日プレイしなかっただけで致命傷になってしまう。そんなゲームがいくつも残っていたのだ。

 

 男は、無言で『犯人と遊ぶ』事を決意した。

 

 だが、今はそんな場合ではない。出力は弱いが、予備の塔がもうひとつあるサクランヤマへ出発した。

 

 

 ―― へぇ、あの子なかなかやるじゃん。

 

 予備の塔のおかげで、イベントを納得のいく形で終わらせた事に安堵(あんど)したのもつかの間、急いで王都周辺に戻ってきた。次回のイベントは見送り、犯人捜しをするためであった。

 

 しかし、その途中で桜を見かけたことにより、男の興味は『犯人捜し』よりも『桜』に移ったのだった。要は、自分が楽しめればそれでいい。長い間、暇を持て余していた男にとって、その事は最も重要だった

 

 

 △△

 

 

 魔法で魔物を吹き飛ばした桜は、“カッコイイ登場を演じる”ただそれだけのために、多少のダメージを受けてでも中心部まで飛び降りた。

 魔物の残骸や石などが飛んでくるが、乙女戦闘服(ゼラスーツ)のおかげでダメージは少ない。

 

 そして、中心部にてスタンバイ。タイミングが重要なので、煙がいい感じに晴れるのをジッと待つ。

 一瞬の勝負だ! ここは大事な見せ場。今だ!

 

「まだまだ幼い小さな蕾(つぼみ)! 花弁(かべん)になるのはちょっとまってね! ゼラレッド、参上!」

 

 右手を頭にかざし、左手を突き出してポーズを作る。

 ―― よし、上出来ぢゃ! 

 心の中でガッツポーズ! 会心の出来に心も踊る桜御殿!!

 

 さて、一気に倒してしまっては見せ場がなくなる。技を出しながら尺を稼がねばならない。

 桜は、一瞬で周囲を見回し作戦を練った。

 

「まずは、右からぢゃな」

 

 右に走りだすと、魔物の攻撃を蝶のようにかわしながら、まずはパンチとキックで倒していく

 

「ゼラ、パーンチ!」

「ゼラ、キィッーク!」

「とお。たあ。や、や、や、あちょー!」

 

 時には意味のないジャンプからの

「ゼラ、ジャーンプ&錐揉(きりも)みシュート!」

 ドリルのように回転しながらのジャンプキックを見せた。

 

 登場シーンのタイミングがばっちしだったこともあり、桜のテンションは最高潮のMAXファイヤー。興が乗りすぎてしまい、あっという間に200以上の魔物を倒していた。

 

 ―― おっと、いかんいかん。一方的だと飽きられる

 

 クマみたいな大きい魔物を見つけると、爪の攻撃をワザと受けた。

「キャッ」

 大げさに、でもかわいい声を出しながらはじき飛ばされた。

 これも大事な演出だ! 敵にも見せ場を作らないと盛り上がらない。人は、スーパーヒーローを応援していても、どこかで負ける姿を求めているもの。つまりピンチだ!

 しかし、飛ばされている最中も攻撃の手は緩めない。魔物の輪に飛ばされたフリをして、近くにいる魔物を倒していった。

 

「くっ、やるではないか。妾の乙女戦闘服に傷をつけるとは!」

 

 もちろん魔物の攻撃で傷がついたのではない。

 自分でつけたのだ

 

「ぢゃが、乙女戦闘服の自己修復を舐めるな!」

 

 乙女戦闘服には自己修復機能も付いていて、すごいんだよ! とさり気ないアピールも忘れない。

 

 ちなみに、桜はカッコイイと思って喋っているが、彼女は老若男女を問わずマスコット的な愛されキャラである。ドスの効いた声だろうが、汚い言葉づかいだろうが、もともとの声がかわいいのだ。ギャップもあいまって『萌(も)える』のである。

 

 桜は乙女戦闘服の傷を修復させると、一瞬で足元の小石を拾いあげた。 

(収納スペースにもたくさん入っている)

 

 クマの強烈な右フックを、軽やかにジャンプしてかわすと

「乙女指弾(ゼラバスター)!」

 地面に降りるまでの間に、100発の指弾を発射した。

 

 この乙女指弾は、おそろしく殺傷能力が高い。

 小石が魔物に当たると着弾したのは小石なのに、体を抜ける衝撃は何十倍へと広がるのだ。結果、指弾が当たった反対側が内側から弾け飛ぶのだ。

 

 さて、桜は基本、支給された武器を使わない。体術や周囲にある、ありふれた物を使った攻撃を得意とするのだ。

 その場のインスピレーションで変化するため、今回どれ程の攻撃技を披露してくれるのかは定かではない。

 

「よし、ドンドンゆくぞ、稼ぎどきぢゃ!」

 

 桜は空気の読める女だが

 ―― しっしっし、予想以上にいい取れ高ぢゃ! この分だとレッドの活躍だけで終わりそうぢゃのう……2話構成でもよさそうぢゃ

 と、頭の中ではタヌキの皮算用が始まっていた。

 

 △△

 

 桜が動けばアメに集まるアリのごとく魔物が寄ってくる。いい感じの枝を拾い上げると、入れっぱなしだった枝も取り出した。

 

「乙女戦闘棒(ツインステッキ)!」

 

 桜は、枝(・)で魔物を次々と屠(ほふ)っていった。

 通常は魔鉄の武器を使わないと魔物を斬る事はできない。だが、これはチートではない。特別な訓練を受けた“ゼラレッド”だからこそ、できる芸当なのである。

 

 そのまま魔物を斬り捨てると、飛びおりる前の場所へと駆けあがった。確認すると、だいぶ魔物の数が減っていた。

 

「ここらで大技を出しておくかのぉ」

 

 桜は、森の草原に手を付けて詠唱を始めた。「森の精霊たちよ妾の願に耳を傾けよ。わが前の敵を汝らの力を持って討ち滅ぼせ! 褒美として褒めてやるのぢゃ」

 

「乙女必殺剣(ナギハラエ)!!」

 

 すると5階建てマンション並みの木々から、緑色の剣が発射された。精霊の力ではなく、葉っぱに魔力を宿した乙女指弾(ゼラバスター)の応用技だ。詠唱は、そのための演出だ。

 

 ヒュンヒュン! ビュンビュン! と、まるで猛烈な雨を思わせる絨毯爆撃のような攻撃が降り注いだ。

 全てが貫かれ、逃げのびた魔物は1体もいなかった。

 桜の完全勝利である

 

「わーはっは! わーはっは! わーはっは! まるでゴミのようではないか!」

 

 ちょっと違うが、ネタをはさむのも忘れてはいなかった。その桜を熱い視線で見つめる者がいた。

 

「うわぁ、すごい! 今の何だろう。魔法かな? あの子すごいなぁ」

 

 桜と魔物の対決にずっと見とれていた男は、犯人捜しを完全に忘れて、憧れていた懐かしのスーパーヒーローと重ねていた。

 

「面白い、あの子のファンになろう。まずは……あいさつだ!」

 

 男はそう呟(つぶや)くと、一瞬で消えてしまった。

 

 

 △△

 

 

 桜は、魔石を集めるため仲間の腕輪(ゼラブレスレット)を操作した。

 

 ―― む? ……どうして、こんなにも魔力が減っておる? それに、魔法(ナギハラエ)の威力も弱かったが……

 

「まあよい。取りあえず回収ぢゃ」

 

 魔物たちの死体から魔石が浮かび上がり、桜の腕輪に吸収されていった。

 ただし全部ではない。少しでも外に出ていれば自動で集められるが、体内に残ったままの魔石は、取り出す必要がある。 

 それでも2000個以上の魔石が集まったが。

 

「あとは面倒ぢゃな、そのままでよいか」

「駄目じゃないかなぁ? へたすれば魔物が復活しちゃうよ?」

「む、誰ぢゃ?」

 

 桜の背後に、白いフード付きのローブを着た男が立っていた

 

「妾に気づかれず背後を取るとは、お主(ぬし)……何者ぢゃ?」

 

 桜は少し焦っていた。

 アスモデウス以外に背中を取られた事など1度もなかったからだ。しかし、それでも動揺を隠して余裕の表情を作ったのは流石である。

 

「やあ初めまして、僕の名前は……何だったっけ?」

 

 桜は、ズコーとお尻からずっこけてしまった。無意識に体が動いてしまったのだから彼女は悪くない。それに今の行動は、好意的な印象を与える結果となった。

 

「いやー君、本当に面白い。ねぇ名前を教えてよ!」

 

 男は、アイドルを見るようなキラキラした目で桜に言った。しかし、桜は安い女ではない!

 

「人に名を尋ねるときは、まず自分が先に名のるのが筋(すじ)ぢゃ!」

「ねぇ君さぁ、ブーメランって知ってる?」

 

 △△

 

「妾の名は、超絶スーパー美少女サラリーぢゃ」

「超絶スーパー美少女サラリーちゃんか。すてきな名前だけど、長くない?」

 

「お主はたわけか? サラリーぢゃ」

「サラリーちゃんか。僕、サラリーちゃんの戦いを見てたんだ。かわいい・強い・魔法も凄い! 一目でファンになっちゃったよ!」

 

 桜の顔が少し赤くなった。

 その3つ全部知ってるし、なんなら超絶美少女なのも知っている。しかし、面と向かって言われるチャンスは、立場的になかなか少ない。

 

「んんっ。お主、若いくせになかなか見所がある。特別にサラリーと呼ぶことを許可する。妾の美貌に見惚れてしまうのも、わかるしのぉ!」

 

 そのとき桜は、頭の中で『わかるか!』と陽二のツッコむ声が聞こえた気がした。

 ―― 期待しておるのか?

 

 そんな乙女の心の内が見えるはずもなく、桜に許可をもらった男がフードを外すと、伸ばしっぱなしでボサボサの黒髪と黒い瞳、肌は白くやや線が細いのが印象的だった。

 

「あっ思いだした。名前は時の魔術師(スペースタイムマジシャン)だ」

「それは名前と違うぢゃろう……」

 

 しかし男は、どうでも良いとばかりに話を変えた。

 

「ねぇねぇサラリーちゃんてさ、小さいのに何であんなに強いの? 秘密があるとか?」

「生まれつき天才ぢゃからのぉ」

 

「もしかして、はぐらかしてる?」

「クラッカー(あたりまえ)ぢゃ。妾に好意を持っておるとしても、正体不明な輩に教える義理などない」

 

 男は「ちぇー」と言いながら、魔物の死骸に向けて手を伸ばした。そして「これなら回収できるでしょ?」と言った。

 

 ―― なにを言っておるのぢゃ……!?

 

 下を見てみると、あれだけあった魔物の死骸が全て骨だけになっており、取れなかった無数の魔石も落ちていた。

 

 ―― やはり、怪しいヤツぢゃ

 

 が、思慮深い桜は、男の恩着せがましい言いようの裏を見るため、あえて魔石を回収した。

 

「なにをしたのか分からぬが、一応、礼はゆうておこう」

「そんなのいいから握手してよ。サインも頂戴!」

 

「なっ、握手ぢゃと? アホなことを抜かすな。なんで妾が握手をせねばならんのぢゃ!」

「照れ屋さんなんだね。じゃあ、サインだけでもお願い」

 

 そう言った男は、ローブを広げ内側を指さした。

 桜は見逃さなかった。男が腰に下げている剣、あれはヤバイ禍々(まがまが)しい何かを感じた。

 桜はサッと距離をあけた。

 

 チームゼラニオンは、人族の中でも間違いなく5本の指に入る屈強揃い。その桜に気配も感じさせず背後を取ったり、こんな場所に1人で出歩いている事こそあり得ない。

 

 間違いなく、かなりの実力者。だが、そんな人物を桜が知らない訳がないのだ!

 桜は用心しながら男に問いかけた

 

「本当に何者ぢゃ、人なのか? そしてその剣……ただの剣ぢゃなかろう。禍々(まがまが)しい何かを感じるのぢゃ」

「ええっ? サラリーちゃんどうしたのやぶからステッキに」

「やぶからステッキぢゃとぉ……異世界人か?」

 

 男は飄々(ひょうひょう)としていたが、一瞬考える仕草をみせると、ポンと手を叩いた。

 

「そうだった! 僕、異世界人だった。そうだそうだ、名前も思いだしたよ! 僕の名前は豊(ゆたか)。豊豊(とよゆたか)だよ!」

 

 豊というこの男は『ハハハ』と思い出した事が嬉しいのか笑っている。そもそも自分の名前を忘れるなど、桜からしてみれば考えられない。

 怪しさがますます濃くなった。

 

「ゆたか? 聞いたこともない名前ぢゃ。異世界人なら、魔王の元に報告が来ることになっておる。ウソをゆうな!」

 

 桜は乙女戦闘棒(ゼラステッキ)を取り出すと『シュピッ』と豊に向けて圧を飛ばした。

 

 確かに桜の言うとおり、人族に保護されれば王都に連れて来られ、王様から報告が入るシステムになっている。

 保護されれば(・・・・・・)であるが。

 

 ―― つまり、自力で生き延びておったのか?

 

 桜はそう考えたが、それこそあり得ないと首を振る。

 こんな世界に突然来てしまった人の思考第一位は『家に帰りたい』である。ひと安心すれば、陽二のようにこの世界で――とか考え出す者も居るが……つまり、100%まずは現状打破のため人との接触・助けを求めに来る。

 そこで、言葉が通じないのが発覚する。国の人族たちも、報酬と保護の目的が周知されているため、匿うような事はせず、まずは王宮行きを勧めるのだ。

 

「えぇーそんなこと言われても……困っちゃうな」

 

 豊は焦る様子もなく、口(・)だけは困った風を装った。

 

「目的はなんぢゃ?」

「握手とサイン?」

 

「迷言(まよいごと)をゆうな!」

「いや、だって本当だし……」

 

 桜が武器を構えているのに、全く気にせず足元にある葉っぱを引っぱってはちぎっていく。どうやら、いじけているようだ。

 

 ならばと、桜は質問を変えた。

 

「この場所で何をしておったのぢゃ?」

「えっここで? サラリーちゃんの戦いを見てたよー!」

 

 豊は立ち上がると『ふんっ』と鼻息荒くファイティングポーズ。どうやら桜の勇姿を表現しているようだ。

 

「いや……まあそうなんぢゃが……」

 

 ―― あぁーなんぢゃコイツは!

 

「えーとな。この場所に、何の目的でどこからやってきたのぢゃ? 住まいはどこぢゃ? 王都か? その剣は何ぢゃ?」

 

 面倒になって来た桜は、気になった事をまとめて質問した。それでどんな返答が帰ってきても、無視してランスロットと合流ぢゃ! と決めた。

 

「えーと、そうそう。フジヤマの頂上にある塔が破壊されたんだよね。そこで、犯人を探すため王都へ行く途中だった! であります」

 

 ―― んんっ? 塔が破壊で犯人捜しぢゃと?

 

「それで、あっちから来て王都に住んでなくて……そう言えば王都に行くの久しぶりだなぁ。この剣はオモチャだね。わかった?

 ん? どうしてそんなに汗をダラダラとかいているのかな? あ、もしかして塔を壊したのがサラリーちゃんだったりして? まさかねぇ、ハッハッハ!」

「そうぢゃぞ何を言っておる。わーはっは! わーはっは! わーはっは!!」

 

 桜は大声で『えっアレって大事な物だったの?』的な考えを笑い飛ばした。

 

 ―― 犯人はアスモ、妾ではないのぢゃ!

 

「それで、ゆかたよ」

「ゆたか。着物じゃないよ?」

「どちらでも良いではないか。それで、あの塔は何か重要な物なのか?」

 

『えぇーどっちでもいいとか酷くない?』的なことを呟(つぶや)いている豊に、桜は探りを入れた。

 豊は、桜の変わりように一抹の怪しさを感じたものの、塔のことを聞かれて『?』となってしまった。

 

「あれっ? 重要な物だったような……そうそう、塔がないとゲームができないんだよ!」

 

 パチンと手をたたき、思い出したように話しだした。

 

「ゲーム?」

 

 豊は、持っていたスマホを桜に見せた。

 

「おお、この板なら妾も知っとる。ゲームは知らぬがな」

「へぇ」

 

 豊は、桜に塔とスマホの役割を説明した。

 あの塔は、この世界と別世界をつなぐ中継器。

 スマホは、中継器につながる小型端末。あちらの世界で出来ることは、ほぼできる。つまり、ゲームをやりたい放題。

 

「なのに塔が壊れちゃったからできなくなったんだよね」

「ゲームごときよいではないか!」

 

「それだけじゃあないんだよ? 王都に帰還魔方陣があるはずだけど、場所を特定するのにあの塔が必要なんだよね」

「ほーそれは大変ぢゃ(汗)……ちなみにぢゃが、もしもぢゃぞ? 塔がない状態で帰還魔方陣を使ったらどうなる?」

「んんー……どっか、わけワカメな場所に飛んで行くんじゃないかな?」

 

 桜は、チョー焦った。

 そんな大事な物だったとはつゆ知らず、気分に任せて『やってしまいなさいアスモさん!』をやってしまったのだ。

 

「しゅ、修理とかできぬか?」

 

 豊は『お手上げです』のように両手を広げヒラヒラさせた。

 

「でも地面に埋まっている部分は大丈夫だと思うから、適当に長い棒をおっ建てちゃえばいけるかも?」

「よし。ならば妾に任せておくのぢゃ! そのへんに詳しい下僕(げぼく)がおおぜいおる!」

 

 豊は、パアっと笑顔になった。

 

「サラリーちゃんすごいね! うん、よろしくお願いするよ!」

「しかし豊よ、色々と知っておるようぢゃが……本当に何者ぢゃ?」

「んー実は僕も良く分からないんだよね。すぐ忘れちゃうし、何でかなぁ?」

 

 そのあと桜は、しつこい豊のローブにサインを書いてやった。塔の破壊とは全く関係ない。

 

「塔も何とかなりそうだし、犯人捜しも覚めちゃったし、イベントでもやってるよ」

 

 と豊は言い残し、いつの間にか消えてしまった。

 

 ―――― まあよい、また会えるぢゃろう

 

 ランスロットと合流するため森の上から飛びおり、豊が骨だけにした魔物の死体を調べる。

 魔法を使った形跡はあった。が、どの様な魔法かまでは全く分からなかった。

 

「ふむ第2ラウンドか、分かっておる出てくるのぢゃ!」

 

 その時、ランスロットが駆け抜けた林の中から、数十本の矢が桜めがけて飛んできた。

「乙女盾(ゼラシールド)・大!」

 そんな単純な攻撃避けるまでもないと、桜は赤い盾を呼び出し矢を弾いた。

 

 すると、林の中から背丈3メートル以上で黒くてムキムキなゴブリン将軍が、盾とヤリを持ったゴブリンナイトを引き連れて出てきた。

 さらにその後ろには、500体以上のゴブリンがいた。

 

「ありゃーせっかく集まってもらった魔物が倒されてりゃあ」

 とゴブリンナイトが現状を口に出すと

「おいおい、この状況はなんじゃ? われの仕業け? 舐めちょんなよ」

 と別のゴブリンナイトが、桜を威嚇(いかく)してきた。

 

 どうやらあの魔物の大群は、待ち伏せしていたのではなく、この魔物たちに集められたようだ。

 そう見抜いた桜は、ピーンと閃いた。

 

「ふっふっふっふっふっ! わーはっはっはっはっはー!」

 

 桜が急に笑い出したので、ゴブリンたちはビクッとなった。ちょっとだけビビってしまったのが恥ずかしかったらしく、ゴブリンたちは誤魔化すように罵声をあげた。

 

「こら、何がおかしんじゃい! しばくぞ!」

「なんじゃーこら!」

「ボケー」

 

 しかしそんな罵声もどこ吹く風。桜はゴブリンたちを見回すと、両足を肩幅くらいに開いて、人差し指を伸ばした状態で右手を伸ばし、下から上にゆっくりと見せつける様に天を差した。

 左手は後ろに隠して、後方10メートルを目標に魔力を放つ準備をしている。

 

 ゴブリンたちは、桜の所作(しょさ)を固唾を飲みながら見ていた。なぜか黙って見てないと、駄目な気がしたのだ。

 

「おまえらの悪だくみ、天は騙(だま)せても超絶びしょーじょの妾にはお見通し。悪に鉄槌(てっつい)、善にも鉄槌(てっつい)! ゼラレッド、ただ今参上!」

 

 タイミングを合わせ左手から魔力を放出、赤く光る爆発を起こした。

 

 ドゴーーン!

 

 既に参上していたのだが、暗闇に赤く光る爆音にゴブリン達はさらにビクッとなった。ちなみに、ゴブリンは暗くても見えている。

 赤い光に後押しされた桜は『お見通しぢゃ!』といたずらっ子な笑みをこぼした。

 

「な、なにー! 襲撃作戦と決起集会がバレていたのか?」

「それともサラデイン襲撃計画か?」

「いや、人族をさらって子供を産ませている事じゃないか?」

「セナドゥースの襲撃計画だろ!」

「シノフィールのエルフを狙っていることじゃないか?」

「鉄槌(てっつい)だらけだ!」

 

 ゴブリンに動揺が走り、あーでもないこーでもないと作戦をバラしまくっていた。

 

 ―― こやつら、アホか? 

 と思いながら、桜はつい口がすべってしまった「言ってみただけ、なのぢゃがのう」

 

「なんだとー!?」

「我らゴブリン族を騙したな! 作戦を聞かれたからには死んでもらう!」

 

 と桜に脅しをかけたのは、黒いムキムキのゴブリン将軍だ。

 

「ふっ、テンプレ! が、それがよい。またまた見せ場ぢゃ! ……ん? お主らはゴブリンとゆうのか?」

「むっ? おまえら聞いたか? このロリリンは地上の覇者ゴブリン様を知らないらしいぞ」

 

 ゴブリン将軍は桜をバカにするように指さすと、仲間をはやし立てた

 

「将軍!! ならば、われわれゴブリン自己紹介をするべきかと……哀れな絶壁に知らしめてやりましょう!」

 

 体格の良いゴブリンナイトが、ゴブリン将軍に進言した。

 

「そうだな。冥土の土産には少し豪華過ぎるが、あの絶壁ロリに教えてやろう。おい! 今から色々と教えてやるから、絶壁を揉(も)んで少しでも大きくする努力をしておけ!」

「な、ロリリン? 絶壁? 絶壁ロリ? ……ふっ、くらうのぢゃー! 乙女矢投(ゼラバスター)!」

 

 桜は、ゴブリンたちが放った矢を素早く拾うと、投げた! 

 力任せに投げた! とにかく投げた! 

 目が、少しだけ潤んでいた

 豊に、これでもか! と持ち上げられ、久しぶりに良い気持ちだった所にこの仕打ち。ちょっとイラッとしたのだった

 

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