桜たちと別行動になったアスモデウスは、兵士に聞いた情報を元に、寄生虫の発生源を探すため行動を開始した。
森に入って捜索すること30分。彼女は少し困惑していた。
情報の場所は、すぐに発見できた。
しかし念のためにと見回ったところ、寄生虫がいる穴を20カ所以上も発見したのだ。それだけの数を30分足らずで見つけられた理由は、暗闇に青く輝き目立っていたから。
1、2匹では見落としてしまう弱い光でも、数が集まれば一目瞭然だった。美しい幻想的な光の正体が、寄生虫だと誰が信じるだろうか?
アスモデウスは穴の上に魔法を唱え、
魔力を注入して、さらに温度を上げた。
火の壁で熱せられた穴の中は、例えるなら
この魔法、ランスロットが使った
アスモデウスは、次々と同じ要領で寄生虫を駆除して青玉を回収。最後に残したのは、3メートル超の大きな穴だった。
実は彼女、小さい穴は寄生虫の飼育場所で、本当の発生源は
先ほどと同じ要領で、魔法の蓋をして魔力を注入した。
―― ?
しかし、いくら待てども青い光が消えることはなかった。寄生虫は、間違いなく燃えているはず。穴の中に、燃えた証である青玉がいくつも見え隠れしているから。
考えられる要因は、燃える数よりも増殖しているか、供給されているか。
アスモデウスは
穴の壁に、横穴を発見した。その横穴からは、寄生虫がとめどなく流れ出ていた。しばらく観察していると、一定の高さに寄生虫が達すると、止まる仕組みのようだった。
その高さは2メートル強。
アスモデウスは、寄生虫ですっぽり埋まっていたが、体の表面を魔力で作ったバリアで守っているので何も問題はない。
横穴の大きさは50センチと狭いが、中に入れそうだった。
『よし!』と気合いをいれると、よつんばいになったアスモデウスは、“全ての壁が、青く変質している”横穴に入った。
その中は、ゆるやかな上り坂になっていたので、ハイハイしながら頂上まで進んだ。
△△
穴を抜けると、向こう側が
足元の地面を確認すると、青玉と全く同じ物質に見えた。おそらくだが、ここの空間にある壁の全てが、この物質で形成されていると、アスモデウスは確信した。
次に青く光る湖に目を向けると、それは水ではなく寄生虫だと気付いた。湖から溢れた寄生虫が、上がってきた横穴に流れ落ちることで、穴に供給されていたようだ。
―― 意図的にではなく、偶然このような形になったのでしょうか?
しかしどのような理由であれ、人に害をもたらす事が判明しているので、ここで歯止めをかけなければならない。
それに目的は不明だが、地上には、この危険な寄生虫を飼育している者が存在する。なので、そんな者の手に渡らないよう処理しなければならないのだ。
そしてアスモデウスは、この寄生虫を産み出している
△△
見た目は、巨大なイソギンチャクみたいな軟体生物。全容は湖の中に隠れて見えないが、10本の触角らしき細い管と、大きい触手が3本あった。
触手の先には口があり、3つの口で寄生虫を吸い込んで捕食。そして10本の触角は、液状の
―― 捕食しながらの
しかし、溢れている現状を見ると、供給多寡の状態である。
―― とりあえず、供給元を絶ちます
アスモデウスは状況整理を済ますと『
すると天井まで届きそうな、高さ10メートル以上の黒い炎柱が6本も現れた。
炎柱は、メラメラと
その様子を見て『やり過ぎました……』と魔法を解除。先程までは戦利品として青玉が生成されていが、今回はその存在すら許さなかったからだ。
そこで初めてアスモデウスの存在に気づいた魔物は、命の危険でも感じたのか、10本の触覚で液状の攻撃をしかけた。
しかし、既に彼女の姿はない。アスモデウスは、瞬時に魔物の背後へ回り込んでいたのだ。
だが、その動きにも反応した魔物は、触手の口で噛みつき攻撃。
それをフワッと後方にジャンプして避けたアスモデウスは、寄生虫で溢れる
―― 目は退化しているようですが、その代わりに気配察知が優れているのですね。ですが……
魔物は、避けた時に放たれた魔法で、業火に包まれていた。
そして、必死に火を消そうと10本の触覚を消防ホースの代わりに使っていたが、その触覚も炎に包まれてしまい、消火活動は実ることなく業火の前に沈黙してしまった。
その攻撃の余波は、湖にも燃え広がった。
アスモデウスは、横穴に飛び込み脱出。穴の上に飛び出ると、
その間に、桜へ報告の通信を試みたが、応答はなかった。
「陽二くんと遊んでいて気付かないのでしょうか?」
△△
30分後、寄生虫は全て燃え尽きていた。穴に飛び込み青玉を回収して横穴の奥を確かめると、鎮火しているようだった。
横穴を進みながら、残った寄生虫を焼却駆除。数は少なかったので、毒ガスの発生もほとんどなかった。
横穴を上って湖を見渡すと、天井や壁と同じく、青玉が集まって形成されたような『青鉱石』で埋め尽くされていた。水の部分は、深さ30センチ程度しかなかったようだ。
―― 毒ガスもありませんし、ここには風の抜け道があるのでしょうね
魔物が居た場所に行ってみると、テニスコート大の穴が空いていた。確認すると3メートル以上はありそう。中に入ってみると、側面全ての青鉱石の中に魔物の体が残っていた。
この事から、あの魔物は見た目以上に巨大だったのが判明した。そして、青鉱石に飲み込まれて、動けなくなっていたのでは? と予想できた。
―― この青い鉱石は、一体何なのでしょうか?
穴底の青くない鉱石や、魔物を取り込んでいる青鉱石をサンプルとして回収。ついでに、天井や湖の青鉱石も回収した。
もちろん魔石の回収も忘れない。穴の底に、無造作に転がっていたのだ。とても大きく、岩と見間違える程だった。
魔石を回収すると、その下に1メートルほどの穴を発見した。穴の側面には青鉱石がびっしり付着していて、元はもっと大きな穴だったのだと容易に想像できた。
△△
寄生虫の駆除を兼ね、1時間ほどすみずみまで空間を調査した結果、湖は3×3kmの正方形に近い形だと判明。
しかし天井の高さを考えると、
アスモデウスは、地上から5メートルの穴を飛び下り、横穴を最低でも3メートルは上った。
つまり、地上までは約2メートルしかないはずだ。しかし、ここの空間の高さは、ゆうに10メートル以上はある。
この矛盾を説明する簡単な答えは、ここが、ダンジョンの中だということ。ダンジョンには、不自然なほど広大なフロアが存在していたり、火山や氷山など、常識の通用しない風景や事象が溢れているのだ。
このフロアの調査と駆除を完全に終えたアスモデウスは、後回しにしていた魔石の下にあった穴を調べ始めた。
その穴は、アスモデウスが入ってきた横穴と同じように寄生虫が流れ落ちた痕跡があり、穴の8割ほどは青鉱石が付着して狭くなっていた。
アスモデウスは、仮定として考えた。
寄生虫を食べながら飼育していた魔物。しかし、食べる速度よりも増殖する速度が異常なほど勝っていた状況。
―― なぜ過剰に飼育する必要があったのでしょうか? この穴は、食料を供給するためのモノだとしたら? この下に寄生虫を食料とする魔物が……
ちなみにアスモデウスのいるフロアは、とあるダンジョンの地下70階にあるボス部屋だ。
ボスは、先程の巨大なイソギンチャクみたいな魔物。名前はビッグアネモネハート。キラッとした名前だが、
数千もの触手を器用に操り、水中に神経毒をばらまく。そして体の中心に
さらに、クマノンハートと呼ばれる魚型の取り巻きを囲っていた。クマノンハートは俊敏に泳ぎ、単体でも強敵なレベルなのに仲間との連携攻撃は凄まじく、強力な魔物ですら真っ青で逃げ出すレベルの魔物。
ビックアネモネハートとクマノンハートのパーティーを、ランク付けするなら間違いなくランクS以上で、さすがのアスモデウスでも、桜専属メイドの状態で勝てるほど甘くない強力な相手だったのだ。数百年前までは……
△△
当時ここから下の階は、水で満たされていた。
ちなみに天井部分にボス部屋へ入る扉があって、地下69階から扉を開けると、中は一面水。地面に埋設されている、満タンの貯水タンクを想像してもらえば分かりやすいだろう。
考えて見て欲しい。意気揚々とボス部屋まで到着して扉を開けると、真っ暗で水しか見えない。危険すぎるし嫌な予感しかしない。
普通なら『諦めて返ろうか』と思うレベルだ。
しかしながら、ここまで到着できる実力者ならば、簡単に諦める者は少なかっただろう。
水に飛び込んだ者たち、そこに待ち構えるのは数千の触手とクマノンハート
ある者は触手に、ある者はクマノンハートに、ある者は神経毒にやられ、意識のあるまま口内に運ばれただろう。
そもそも水中の不利の前に、魔物が強力過ぎた。
破られた事のない地下70階、既に沈んでいるが不沈艦!
そこに現れた
寄生虫がどうやって侵入したのかは定かではない。有力なのは入ってきた者が感染していたか、武具に付着していたのか……とにかく、ここまでカラッカラのダンジョンだったのに、この階は水に溢れた桃源郷
この寄生虫は、少しの水分と適温さえあれば増殖可能。この階は、まさに理想的な環境だったのだ。爆発的に増えた寄生虫は、水分を消費してさらに増殖を繰り返した。
ただ、寿命も短く死んでしまった寄生虫は、天井から扉など至る場所と結合して青鉱石へと姿を変えたのだ。
ビッグアネモネハートやクマノンハートも、その環境変化に巻き込まれた。クマノンハートは青鉱石に閉じこめられ死亡。青鉱石を発掘すれば、保存状態のよいクマノンハートが見つかるだろう。
ビッグアネモネハートは、流石に強者だった! 所定の位置に留まらず、寄生虫の駆除に乗り出した。
触手・神経毒・丸飲みなど、あらゆる手を使ったが数の暴力の前には結局勝てず、ビッグアネモネハートは体を浸食され動けなくなってしまった。
そこで最後の抵抗。ビッグアネモネハートは進化した。
触手がまとまり、新たな捕食口が生まれたのだ……食らって食らっては放出! 食らって食らっては放出!
そして今の状態になった。
アスモデウスに倒されたビッグアネモネハートは、長い戦いに終止符を打たれ、安らかに眠ったのだった。
その裏でこの寄生虫は、事もあろうかダンジョンの壁に穴を開けていた! これはあってはならないことである。
偶然と奇跡と少しのアネモネハートで、小さいながらも穴が空いたのは事実。その罰としてではないが、アスモデウスを呼び寄せる結果になり、絶滅に追いやられるのだから自業自得と言えた。
寄生虫がいなくなった今、ダンジョンの壁は自然に修復されるだろうが、それに何年かかるのか予想もつかない。
△△
アスモデウスは調査を切り上げるか迷ったが、寄生虫が下の階にも存在するのは確実と考え、駆除を続行するため穴に飛び込んだ。
10秒程落下すると、次の階に到着した。
地下71階も全ての面が青く光っていた。左右を確認すると曲がりくねった道が続いていて、まさにザ・ダンジョンとした感じだった。
地面に少し残っていた寄生虫を駆除。地面以外には確認できなかった。どうやらこの階に寄生虫が落ちるのは、相当前に止まっていたのだろう。
念のため、落ちてきた穴も魔法で駆除を行った。
その後、この階の探索を開始。僅かでも見逃せば、また増殖する可能性があるため、隅から隅まで丹念に駆除して回った。
通路に罠を発見したが、寄生虫の侵食のせいなのか作動することはなかった。
アスモデウスはふと、桜ちゃんだったらこの罠を見て何と口走るのか? 想像すると笑ってしまった。
次に発見したのは、宝箱。
部屋の中央に『これでもか!』と主張するように置いてあった。当然罠付きだが、これも形だけで作動しなかった。
なので宝箱は簡単に開いて、銀色に輝く折れた短剣を入手した。
「ぷっ!」ある言葉が脳裏に浮かんだ
『なんぢゃこれは? 壊れておるではないか! ランス、責任者を呼んで来るのぢゃ!!』
それと同時に、あたふたするランスロットの姿も目に浮かんだ。
「ぷぷっ!」
『なんぢゃこの罠は、軟弱者が! 妾が鍛え直してやるのぢゃ!』
魔改造された罠に、ランスロットが捕まっていた。
「ぶっ! あぁーもう駄目ですね。桜ちゃん成分がなくなってきました……」
徹夜で作業をやっていると、
続いて
地下72階。地下71階と同様。隅々まで調査と駆除
地下73~78階。地下71と同様。しかし寄生虫は皆無だった。途中で宝箱を発見。
地下78階をくまなく調べて地下79階に下りた。地下75階から、青鉱石に変化している側面の高さが、徐々に下がってきているのを確認していた。
そして地下80階へ続く通路は、真っ暗闇だった。
ここまでの下へ続く通路といえば、垂直の穴だった。しかし、ここの通路は、斜め上に向かっていた。それなのに、下におりるという表現は違うのだろうが、次に続く道がここしかないので、間違っていないだろう。
真っ暗闇。つまり、青い光を放つ青鉱石が存在しない。イコール寄生虫もここまで到達していないと判断したアスモデウスは
―― 駆除完了ですね
と考えながら行き止まりまで通路を進むと、水色に輝く細かなデザインの描かれた扉があった。
△△
アスモデウスは、扉の前まで来てため息をついた。この扉を開けても、ろくな事にならないでしょう。と
(帰らないで! 開けて、開けて! 早よ!)
中から、こんな複数の声が聞こえてきたのだ。
単純に考えれば、ここはボス部屋のはず。罠の可能性も高いが、その声質は助けを求めるような感じであった。
―― 仕方ありませんね……
アスモデウスは、
―― 海? でしょうか
中に入った瞬間、アスモデウスは異なる場所へ来ていた。周囲の見える範囲は360度、水面。
海か湖なのか正直どっちでもいいが、直径3メートルの小さな足場と後ろにある扉以外、何もない。海原に浮かぶ孤島、そんな感じだろうか。
一応、足場をくるっと1周すると『ダンジョンですからね』のひと言で片づけた。
―― 扉は転移装置、もしくは空間接続なのでしょう
と当たりを付けた。
アスモデウスの予想通り、扉は最下層のボス部屋と『階層間往来装置』で繋がっていたのだ。
(見ていたぞ! 小さき勇者よ!)
ザバーッと音がしたかと思うと、
その反動で巨大な津波が発生! それは瞬く間にアスモデウスを飲み込み、それが3度繰り返されると水面は静けさを取り戻した。
そんな荒れ狂う自然災害のような津波すら、アスモデウスは涼しい顔で、
その光景と、迷惑そうな顔をした彼女に気付いた銀タコと金イカは、どうやって立っているのか不明なものの、なるべく水面を乱さぬよう動きを止めていた。すると
「それで、私に何かご用ですか?」
少しトゲのあるアスモデウスの声が、銀タコと金イカを通り抜け、その後ろから水面に顔を出していたヒゲの生えた青い龍に突き刺さった。
「もう少し、驚いても良いのではないか?」
「急いでますので」
実は十分驚いていた。
なにせ、顔だけで前に並んでいる銀タコと大きさが変わらないのだから。当然、水中には本体があるはずで、全体の大きさを考えれば、とんでもない大きさである。
「我の名はリヴァイアサン、この迷宮の管理人である。まずは各階での害虫の駆除、そしてアネモネハートの討伐、誠に感謝する」
尊大な態度のわりに、とても礼儀が正しかった。
「私の名前はアスモデウス。アスモで結構です。まず寄生虫の駆除に関しては、こちらの都合なので。そしてアネモネハートさん討伐の件ですが……仲間なのにどうしてお礼を? やはり寄生虫を飼育していたのでしょうか?」
「いいや違う。あれでも害虫と戦っていて、被害を最小限に食い止めていたのだ。しかし、我の声にすら反応せぬ暴走状態だったのもまた事実、礼をしたのはその事に対してだ」
「そうですか。ご冥福を……」
「その心配はない。時間がくればヤツも復活する。それよりもだ……」
リヴァイアサンの話によると、地下70~78階のほとんどが害虫の影響で全滅。さらに死滅した害虫はダンジョンに侵食し、その部分が魔力を吸い続け、今のように青く光る鉱石に変化した。
それが全てを覆ってしまったので魔物の発生出動ができず、害虫に対抗する手段がなかった。
そんな時、どこからともなくアスモデウスが現れ寄生虫を駆除してくれた。実際あのまま放置していたとしても、絶滅しただろう。
だが、問題はそこではなかった。
リヴァイアサンが最も困っていたのは、地下70階にあった湖。つまり、積み重なる厚い層のようになった青鉱石。
「あの鉱石のせいで、上の様子を観測する事も入口を繋ぐ事も叶わぬ。積もりに積もった鉱石が、力を遮断しているのだ」
「……それは大変ですね。では、待ち合わせの時間に遅れますので、失礼させていただきます」
ペコッと軽く頭を下げたアスモデウスは、そそくさと帰ろうとした。ダンジョンの捜索と駆除に長い時間を費やしすぎた。なので用事を終えた今、すぐにでも帰りたいのだ。
「ちょっと待った!」
アスモデウスは、もの凄く嫌だけど振り向いた。あまりにもしつこかったら、貴方たちも討伐しちゃうぞ! まである雰囲気だ。
「初めから決めてました!」
「なにを、ですか!?」
彼女は正直イラッとしていた。
普段なら海よりも深く広い心を持っているが、度重なる疲労と桜ちゃん成分の飢えによって、心の海は干上がっていたのだ。
例えリヴァイアサンだとしても、
だが、流石はリヴァイアサンとその取り巻き2体。
伝説の、穴を掘ってそこに土下座の頭をつっこむマリスコップ同様、水の中に顔を突っ込む土下座を見せた!
タコとイカが土下座? との疑問は横にポイッして
アスモデウスは、呆れ果てていた。スルーして帰ろうと開けた扉の中が、岩に変わっていたのだ。
なので、のちのち問題になりそうな討伐は置いといて、さっさと用件を聞きましょう。と考えた。
当然、土下座のドの字も見ていなかった。
「用件とは、青鉱石ですね?」
アスモデウスは、端的に問うた。
そして彼女が主導権を
地下70~79階にある青鉱石を、人族側で採掘して除去。採掘した全ての所有権は、除去費用と相殺で全て人族側とする。
採掘が終わるまで、魔物は発生させない。
裏門(リヴァイアサンが、ダンジョンの外に行く出入口)用のアイテムを貸与。出入り場所は79階~。
採掘が終了した階は、水を流入。
さらに大まかな事柄や事故の責任等を決定。
「次回は、打ち合わせ通り技術者をお連れします」
「すまないがよろしく頼む」
後日、アスモデウスが連れてきた技術者たちと細かい詰めが行われると、スノーム近辺に、このダンジョンの入口が設置されることになる。そして数々の鉱石が、恩恵もたらす事になるのだ。
△△
アスモデウスがダンジョンの外に出たのは、深夜4時前。周囲は、まだまだ暗闇に包まれていた。
念のためにと思い、穴の周辺を見て回った。駆除の確認をすると桜に通信を送るが、またしても連絡がつかなかった。
―― どうしましょう。心配ですが……
アスモデウスは迷ったものの、飼育穴に近いトパンの村へ、様子を見に行く事にした。
村へ近づいた彼女は不審な気配を感じ取ったのか、村を一望できる木の上にいた。
村は20世帯ほどが暮らす小さな村で、あの5年前の事故以降ほぼ廃村になっていたはず。しかし村全体を見渡すと、比較的新しい建物も見え生活感があった。
そして村の中央には大きな穴があり、うっすらと青く光っていた。
―― 来て正解でしたね
村の入口に移動して、見張りの魔物を観察。その魔物は彼女でも初見で、集団で暮らすゴブリンに似ているが、それにしては体が大きかった。
―― 確かゴブリンの身長は70~80センチでしたよね?
彼女は記憶を探ったが、腕や足の引き締まっている筋肉と、180以上の大きい身長は符合しない。しかし、引っ掛かりを覚えたのも確か
―― 亜種か変種ですか? それとも進化?
何はともあれ、直接話を聞けば早い。そう考えた彼女は、見張りに近づいた。そして……
素早く後ろにまわり込み手首を反対にひねると、もう片方の肘を見張りの首に押し込み足をかけた。
そして前方に倒すと、あっさり音もなく捕獲した。
肘に殺気を一瞬放つと『騒ぐと殺します』の意を送った。
コクコク
どうやら理解してもらえたようで『いい子ですね!』と、満面の笑みを見せた。
「質問なのですが、あなたはゴブリンなのですか?」
ゴブリンは、コクコクと肯定した。言葉も通じるようだ
「私の知ってるゴブリンとは違うようですが?」
「俺はゴブリンナイト、特別なゴブリンだ」
「進化したのですか?」
「違う。人族との間に生まれたハーフだ」
その後、いくつか質問して情報を整理した。
この村には、このゴブリンと同じ特別なゴブリンが300体以上暮らしている。
そして人族の女性が何人も捕まっているらしく、この村の
村の穴は、予想通り寄生虫の飼育穴で、ゴブリンたちの食料にもなっている。
などなど
アスモデウスは、ダンジョンの壁に穴を開けた寄生虫を食料にしている事に驚いた。そしてなんと、寄生虫を食べているゴブリンたちは、軒並み強くなるらしい。
また、子どもの頃から食べさせると、特別なゴブリンになる確率が高まるようだ。
これは、この村で発見された事で、他の部隊には秘密の情報である。だが、本気を出せば人の記憶すら操るアスモデウスに、所詮Eクラス程度の魔物が、隠し通すことはできなかった。
ちなみにEクラスとは、1体で王国兵士3~5人に相当する。町にあるダンジョンだと、地下3階以降に現れる強さに匹敵だ。なので、ベテランの冒険者パーティーでも、
アスモデウスは、簡単な作戦を立てた。
中心の飼育穴にファイシールドを使い、その混乱に乗じて人族を救出……
―― 1人では無謀ですね……
捕まっている女性は、最低でも5人居る。流石のアスモデウスでも、女性を守りながらの逃亡は虫が良すぎる。もしかしたら妊娠している可能性もあるのだ。
作戦を切り替え、明るくなる前に各個撃破する事にした彼女は、
アスモデウスだけは、
さらに、ヒーロータイムは、アスモデウスが桜の要望で作った魔法なので、当然使えるのである。
さて、普段の彼女は差別化のため滅多に武器を使わない。レッドが体術、ブルーが魔法、イェローが武器という具合に。
だからといって武器が使えない訳ではなく、魔技の具現化武器も当然持っている。
元は違う名前だったが、桜に見せたら勝手に命名されたのだ。『桜が名前を付けた』それをアスモデウスは気に入っているのだ。
この武器は、アスモデウスの3倍以上の長さがある漆黒の鎌で、刃の部分は1メートル以上もある。これは基本の大きさで、柄と刃の部分は伸縮が可能だ。
さらにガンタイプに変形して、彼女の
このヘルスパークは光と闇属性は当然として、5属性を含む攻撃になるため、ほぼ全ての魔物に通用する。さらに状態異常も付いていて、なかなかイヤらしい魔法だ。
そしてこの具現化武器は、魔技6級以上で習得可能なイメージの武器で、最初はすこぶる弱い。
ゼライェローを例にすると、変身時に具現化できる武器は
これは桜の魔力を借りて、イメージに近い姿になっているため
変身していないときがこそが、本来の姿だ。
乙女大剣は、武器屋でワゴンセールされている鉄の剣で、神槍は鉄の槍だ。
神槍を初めて具現化したとき、現れたのが『竹ヤリ』で桜が大爆笑したのは記憶に新しい。
具現化武器を強化する方法はいくつかあり、基本は熟練度。他には、魔石や素材などを武器自体が欲する時がある。
△△
アスモデウスは、死神鎌を取り出し
しかしアスモデウスは、海よりも心が広いので1撃で葬っているのだ。おそらく海より深い心は、泣いている事だろう。
すすすっと1番近い建物の壁に近付くと、死神鎌で壁をくり貫き刺し取った。そして遥か後方にポイッ。不思議と物音1つしなかった。
堂々と室内に踏み入ると、眠っていた15体のゴブリンナイトにの首に、1体1体刃先をかけてシュッとはねていった。
簡単なお仕事なので、誰も気付けなかった。次の建物へ
死神鎌を大きくして、建物の上半分を斬り取りポーイッ! もちろん無音である。
睡眠中の20体ちょっとのゴブリンナイトやボブゴブリンが居た。その中央に舞い降りると、ひと振りで全ての首がゴロンと転がった。
彼女は、
しかし、隣に桜やランスロットが居なければ、その姿に笑みはない。
実際この場で笑みを浮かべながら首をはねていたら逆に怖いが、終始無表情で声も出さず音声皆無なこの映像は『む? 録音失敗か?』と桜が勘違いするレベルだった。
どこかのスパイみたいに、ちょっと物影に隠れながら移動して、たまに通信する小芝居でも入れてくれれば、桜の編集で返しの声を入れたりもできるのだが……スペックが高すぎるゆえ、堂々と正面から派手な事をしても無音だし、ランスロットみたいにドジをやらかすでもないので、全く面白味がなかった。
アスモデウスは、真剣に暗殺者を演じているが……桜に言わせると、暗殺者でもないらしい。
淡々と暗殺者を演じきり全てのゴブリンを始末すると、仕入れた情報どおり地下へ向かうことにした。
とその前に、穴の寄生虫を駆除だ。
ファイシールドで蓋をして、駆除を開始。蓋をするのは、毒ガスも燃やし尽くすためだ。
その最中、アスモデウスに見つかる事なく、地下から素早く出て村から逃亡。まんまと逃げのびたゴブリンがいた。
△△
アスモデウスは、地下の入口に来ていた。
情報通りなら、この中にはゴブリン将軍が居るはずだ。慎重に入口を開けると、階段を静かに下りた。
生活環境と空気の循環が悪いのか、どんよりと異臭が漂う中を進むと、得た情報通りに子供と女性が檻の中に捕らわれていた。
しかし、地下に捕らわれていた者たち以外の姿はなかった。
―― 倒したゴブリンの中に、将軍も混ざっていたのですか?
日頃のアスモデウスなら、慎重に確認を取りに行ってただろう。しかしその時の彼女は、確認を怠ってしまった。
檻の中に居た女性たちの表情や容姿が、そんな事を後回しにするほど、目に余り過ぎたのだ。
同じ女性として居たたまれなくなってしまい、つい、全員にレベル4のアクアヒールを使ったほどであった。
⚫
HP特大回復+精神鎮静、状態異常・疲労回復、食欲促進+α
変身を解除して一旦スノームへ戻ったアスモデウスは、馬車に新品の着替えや薬・食料品を詰め込んで地下室へと戻った。
体の洗浄を手伝うと、馬車の中で服を着てもらい、女性たちの話に耳を傾けた。
―― 酷い目にあったのですね……
子どもたちは、まだ連れて行く事はできない。その説明を済ませたアスモデウスは、女性たちが搭乗した馬車を持ち上げた。
まだまだ事情聴取の必要があるので、記憶に
子どもと赤ちゃんの数は9人だった。流石に手は出せないが、現時点では保護する事もできない。いずれ魔物になるのが判っているので、桜の判断に任す事になる。
それでも、子ども達を放置して行くのは心が痛んだ。
たどたどしいながらも話を聞くと、上の子たちが下の面倒を任されていたらしい。そこで檻のひとつを綺麗に掃除し、柔らかく温かい床に仕上げた。
そして食料品を分け与えると『必ず戻ります。ここを絶対に出ないで待っててね』と言葉をかけた。
△△
奥の部屋に進むと、普通では気づけない高度な結界に守られている壁を発見した。
壁に手を当てて魔力を流し込むと……あっさり壁が消えて、その中に3畳ほどの部屋が現れた。
中に入ってみると、床に魔法陣が書いてあるだけで、他には何もなかった。
―― どうやら転移魔法陣みたいですが……うん生きてる、起動できそうですね
どこに飛ばされるか不明なものの、転移門も転移魔法陣も陣を解析すれば、何型なのかすぐに判別できる。
この陣は往来型だった。
それなら対になる魔法陣が必ず存在して、戻ってくるのも問題ない。
そう考えたアスモデウスは、転移する前にやらなければならない仕事を思い出した。
地上に出ると、地下室の入口に結界を張る。そして村の外周を
「
すぐさま外に待避すると、アクアウォールに魔力を注入して強度を増した。補強しないと、あっという間に負けてしまうのだ。
アスモデウスの放った極炎は龍となって空高く舞い上がると、反転して村の中心に激突した。極炎は360度に広がり、建物からゴブリンの死骸や魔石まで、全てを焼き尽くした。
およそ30秒。村は地下への入口を残して、本当に何もない場所に変わり果ててしまったのだ。
「弱い」
ひと言だけ
時系列が変だったので変更。