「前回のゼラニオン!」
桜ちゃんが囮役になったZ作戦。
それで別行動になっちゃったシアたちは、
ランスロットさんの背中は、温かくて乗り心地は最高だったんだけど……お姉ちゃんが、ランスロットさんの匂いを
もうっ!ダメだよお姉ちゃん!
でもそのあと、後から抱きしめられちゃった!! シアはちょっと恥ずかしかったけど、ギュッて包まれている安心感。心地よかったよ!(これっ内緒ね!)
囮役で残った桜ちゃんが、とっても心配です!
でも、ランスロットさんは『桜は強いからな、大丈夫だ!』と言っていました。桜ちゃんを信用してるんだね!
でもやっぱり、シアは心配だよ……
無事に到着したシアたち。
お姉ちゃんの胸に飛び込んだり、ブラジャーや胸の話が始まっちゃったんだけど……それは省いて結論だけ教えるね!
お姉ちゃんは、ちっパイが大好きです! 需要なんです!
おっきいだけの肉塊は、くーぱーさんがアキレス腱! だらーんと下り坂、おっぱい注意報なんだって。
坂道を下りて行くと、綺麗で大きな湖があったよ。その湖を渡って目的地の島へ行くことになったんだけど……そこで事件が!?
ランスロットさんは、くるくるやぁぁー!
お姉ちゃんは、放物線で茂みに突撃!
どうして200m先の事が分かるの? っていう野暮なツッコミはダメだよ? わかっちゃったんだもん。説明できないよ!
とにかく! シアに被害がなくて本当に良かったぁ……あっ、シアもお姉ちゃんが心配! ナーナちゃん渡るの手伝って!
△△
ランスロットに投げ飛ばされた陽二は、数回のバウンドを繰り返してゴロゴロ。大木の根元に激突して倒れていた。
そこへ、投げ飛ばした張本人が慌てて駆けつけた。
陽二を発見した彼女は、ひと通り彼の体を確認すると、
流石に
安心した彼女は、気絶している陽二を流れる様な動きで膝枕にすると、彼が意識を取り戻すまで寝顔を堪能する事にした。
その頃パトリシアは、湖に浮かぶ植物の上で四苦八苦していた。彼女は長年の引きこもり生活がたたり、運動神経があまりよろしくない。
なので、ナーナに植物を寄せてもらったり、押してもらったりと介護が必要であった。
時間にして30分。なんとか落ちずに渡りきったパトリシアは、ナーナ先導で山に入った。
湖の入口側から見た小高い山は、木や草
生い茂る草木を3メートルほど進むと、急に視界が開け、パトリシアは天井を見上げると思わず声がでた
「うわぁ! すごい!」
山かと思っていた場所は、大木や草蔓に囲まれたドームだったのだ。中は手入れされた様な拓けた場所だが、ひと言で表現すると殺風景。
しかし天井へ目を向けると、数百もの果実が
「きれい……」
パトリシアの目には、魅力的でロマンチックな風景に映っていた。大木の上で見た草原も幻想的で美しかったのを思い出し『本当に来て良かったぁ……』と感慨深く思うのも当然であった。
中心部に目を向けると、縦横10メートル程の大木があった。
大木というよりも巨体な四角い建物と言うべきで、奥行きも結構な長さがありそうだ。
その大木の真ん中より少し上部に、直径2メートルほどの穴が空いていた。ナーナがそこを指差していることから、あそこが洞窟の入り口らしい。
「山の中腹じゃなかったの?」
ナーナから聞いていた説明との食い違いに『あれ?』と思い悩んでいたパトリシアは、そのまま視線を根元に落とした。
「あっ、お姉ちゃん達がいる」
正座をしたランスロットの前に、陽二が立って何か言っている姿が見えた。自然とかけ足になったパトリシアとナーナだったが、その途中で穴を見上げた彼女は『どうやって登るんだろう?』と考えていた。
△△
「おいっ、なんて事をしやがる。殺す気か!」
腕組みをして、鋭い目つきでランスロットを見おろすネコ耳っ娘。凄んでいるが、声色はかわいいアニメ声だし、鋭い目つきも泣き黒子のせいで色っぽく見えるだけ、全然怖くない。
その前では、ランスロットが地面に頭を擦り付け平謝りしていた。言葉は不要とばかりに、態度で反省を示している様に見えるが、実はジェスチャーだった。
陽二の寝顔を堪能しまくった挙げ句、誰も見ていない事をいいことに、ほっぺにチューまでやらかしていたのだ。
―― グッジョブ私! と、全く反省していなかった。
「お姉ちゃん達ぃー! なにをやってるのー?」
「ナーナ、ナーナ?」
そこへ走って来る、かわいい妹とナーナに気づいた陽二は『流石に人前での土下座はちょっとな……こいつにもプライドがあるだろうし……』と考え、ランスロットの腕を
そんな行為も、彼女の琴線に触れて好感度が上がって行くのだが……
「まあ、ちょっと小言をね。もう終わったよ」
「怪我はなさそうだね!」
「乙女戦闘服のおかげだな!」
「おまっ……」
心配するパトリシアの言葉に、反省の色を全く見せないランスロットの声が被さった。その態度に絶句混じりの声をもらした陽二は、心の中で
―― お前が言うのか!? とツッコンだ。
△△
「それでナーナ、洞窟はどこ?」
陽二の問いかけにナーナは上を指差すと、素早く蔓を伝ってスルスルと登り「
「あそこに穴があるんだな。てか、コレって洞窟じゃないよな……」
精霊からすれば、穴は全て洞窟になるのだろう。ちっちゃい事は気にするな、ワカチコワカチコである。
「シアを頼める?」
「ああ、任せておけ」
それだけで伝わったようだ。
ランスロットは、パトリシアをお姫さま抱っこすると『はっ!』と穴までジャンプした。
「まじか……!」
高さにして5メートル弱を軽々とひとっ跳びである。驚きの声をあげてしまった陽二も、試しに垂直跳びの要領でジャンプしてみた。
すると軽くフワッと跳び上がれた。その高さ2メートル!
「すげーよ、ゼラニオン!」
木を登る時は
最後は、ランスロットに引き上げられ到着した。するとパトリシアは待っていたが、ナーナの姿はなかった。
「ナーナ!」
すると奥から、先に行ったナーナの呼ぶ声が響いた。パトリシアが『真っ暗だね』と言うので、
―― 壁は鉄っぽいな……
パトリシアと手を繋ぎ、歩き出した陽二が壁の材質に光を当てて観察していると、ランスロットが腕にしがみついてきた。光源が下になってしまったので振り払おうと思ったが、ムニュっと柔らかい感触が腕を伝わってきた。
「し、仕方ないなぁー。シア、代わりに明かりをお願い」
「うん。いいよ」
煩悩にあっさり敗北した彼は、おっぱいの感触を堪能していた。さらに魔眼を悪用して胸元をチラチラ。暗く感じているパトリシアは、その行為に気付けなかった。
そのまま緩やかな下り坂を奥まで進むと、6畳くらいの部屋にナーナが待っていた。通路はまだ続いている、奥にも部屋がありそうだ。
待っていたナーナに光を向けると、隣に磨りガラスみたいに曇った四角い箱が置いてあった。これが、精霊の力で作った
中は曇っていて見づらいものの、人の姿がぼんやりと見えた。
「とりあえず、外に運んで様子を見よう」
「そうだな。てか、それって持てるんだな」
軽々と治癒結界を持ち上げたランスロットは、陽二に告げ肯定の言葉を受けとると歩きだした。
陽二は、ふふん! と少しドヤ顔を見せたランスロットに呆れつつも、ナーナとパトリシアを連れて後を追う。
そして陽二は、パトリシアを抱えて飛びおりたのだが
―― この乙女戦闘服って本当にすごいな。パトリシアが嘘のように軽かったし、着地の衝撃もほとんどなかった。30センチの台からただ下りた、そんな感じだ。
ナーナが結界を解く作業中に、陽二は乙女戦闘服の凄さを実感していた。意識しなければ、普段と何ら変化がないのが、また不思議だと
そして作業が終わり治癒結界が光の粒子になって消えると、中にいたのは、ボサボサの黒髪で紋章の入った、全身鎧を着ている女の人だった。
―― 見た感じケガをしているように……あっ!
陽二は勘違いをしていた。
全身鎧と思っていたが、鎧に見えた下半身は鉄みたいに変色した服だった。張り付いてバリバリになった部分を剥がすと……
右足は、太股の途中からジュクジュクと腐っていて、左足は、膝から下の肉が完全に落ちて骨になっていた。
―― うわぁっ、ひでえ……
剥がしたことで、吐き気を誘う臭気が一気に広がったが、陽二たちは
ランスロットに医療の心得はそこまでないが、それでも女性の体を見回した。
―― 治癒結界のお陰なのだろうな……足の状態を考えると、死んでいてもおかしくない状態だ。上半身の見える範囲は
「この足って魔法で治せるか?」
「左足は厳しいだろうな。右足は……こっちも厳しいな。多分毒だろうが、腐ってるし時間も経ち過ぎている」―― これは無理だな。とりあえず、ナーナーの治癒結界で時間を稼ぐか……
「そうか……」
「残念だが、現存する魔法は万能ではない。それに、治療するなら薬の方が優れている。王都へ連れて帰れば……」―― 四肢再生薬もあるが……
ランスロットは、言葉を飲み込んだ。見えてる範囲でこれだけのダメージを受けているのだ。当然、悪い細菌が入り込んでいる可能性は高い。四肢がどうこう言っている場合ではないと悟った。
もしかしたら、既に治療の施しようのない状態かもしれないのだ。
「
「オレ持ってるけど? どうして手に入らないんだ?」
「作れる者がいないのだ。んんっ? 持ってるだと?」
陽二は収納スペースから、自作の
「私は実物を見たことがないのでな。本当に作ったのか?」
「嘘を言ってどうすんだよ。頑張ったらできたんだよ」
「お姉ちゃんお願い! その薬を使って! 助けて!」
突然パトリシアが、掴みかかる勢いで陽二に迫ってきた。
―― ど、どうした!?
陽二とランスロットが話している間も、ずっと静かだったパトリシア。実は、女性の
「もしかして知り合い?」
「お母さま……」
「えっ?」
「シアの、お母さまなの!」
マナリシア=クルシュナイン。
彼女は、視察中に発生した魔物大行進に巻き込まれ、死んだはずの母親だと告げた。
―― お母さん? どうして、トパンの村からこんな離れた場所に?
「お姉ちゃん、お願い!」
そう言うパトリシアは、必死に
言われるまでもなく、パトリシアの為なら2本とも使う所存である。今回作ったのは液体タイプだが、使い方が分からないので、とりあえず壊死した部分に半分だけ振りかけてみた。
するとどうだろう。どんどん生気を取り戻すかの様に、鉄っぽい色から本来の肌の色に戻っていくような……
しかし誰も気づいていなかったが、あくまで壊死した部分が戻りつつあっただけで、根本的な解決には至っていなかった。
寧ろ、せっかく塞がっていた血管が開く結果になり、少しづつだが血液の流出が始まっていた。
生兵法は、大怪我の基である。
「よかった、薬もちゃんと効いてるみたいだ。よし反対側も……」
しかし、残り半分を骨になってる部分にかけても、ウンともスンとも反応がなかった。
―― えっ、どうして?
「お、お姉ちゃん!!」
それを見ていたパトリシアは、自分でもどうしていいのか分からなかった。それでも涙目を見開いた彼女は、悲鳴に近い焦り声を上げながらも、泣き付くように陽二を見つめた。
―― も、もう1本あるけど……飲ませた方がいいのか?
どうにかしてあげたい。そんな気持ちの陽二は、もう1本取り出した。しかし、それを見たランスロットは声をあげた
「待て陽二! おそらく、それではダメだ。本物なら部位の欠損どころか、死すらひっくり返す代物と言われている」
「それでも……試してみなければ分からないだろう?」
「不完全な物を飲ませては、何が起こるか分からない。下手すれば死ぬぞ?」
「じゃあどうすればいいんだ!」
「……使えるか分からないが、レベル5の
パトリシアに目を向けると、大きく頷いた。なら方向性は決まったも同然だ。
まずランスロットは、ナーナに治癒結界を頼んだ。念のため、マナリシアを保護しておくのだ。
合点承知の助! ナーナは、すぐさま結界を構築。たらふくレッドグローブを食べているので、魔力も元気も100倍だ!
マナリシアを中心に半径3メートル、半球状の透明な治癒結界を作り上げた。これは、怪我の進行を遅らせるのと、結界の中で治癒と看病をできるようにした、ナーナの配慮であった。
―― 凄いな、流石は精霊!
驚く陽二を他所に、ランスロットもテキパキと動き、マナリシアを中心にして魔法陣を描き始めた。その作業を事も無げに終わらせると、陽二へ声をかけた。
「王宮で使った回復魔法を覚えているか?」
「神様に願ったあれか? そりゃあ覚えてるけど……」
「その時の、イメージと気持ちで頼む」
「あっ、ああ……」
当然と言えば当然の疑問であるが『どうしてそれを知ってるんだ?』とは問わなかった。相手はゼラニオン、いや、桜ちゃんである。ランスロットを盗撮しているくらいなので、自分も拐われる以前からマークされていたのだろうと、自己完結した。
「陽二とパトリシアの2人は、私の奇跡に重ねるように魔法を使ってくれ」
「わかった」
「わかりました」
「ナーナ! ナーナ!」
「そうだな、すまん。ナーナも頼む」
△△
ランスロットは、マナリシアの前で神に祈る様なポーズを取った。
「我ランスロットの名により願い出る。水神の奇跡を顕現されたし、わが名はランスロット、水神の奇跡を再現せし者なり。
その後ろでスタンバイしていた陽二たち3人も、ランスロットと呼吸を合わせるように魔法を行使。
「
「
「
すると、ランスロットの魔法に3人の魔法が融合され、1人では発動不可能だった“奇跡”が、発動可能となった!
しかし成功したかのように思えた瞬間、霧散するように光が消失した。それと同時に、ランスロットと陽二の変身も勝手に解けてしまった。
「な、なぜだ!?」
あと1歩だったのに……ランスロットは、思わず
実は、ランスロットが『水神の奇跡』を使うには、陽二たちの手助けと、ゼラニオンに変身した状態の
「どうして勝手に変身が解けたんだ?」
「桜に何かあったのかもしれない。陽二、私は桜の所に行く。おまえたちは、ここで待っててくれ」
と、口早に告げたランスロットは、
「おっ、おいっ、ランス!」
陽二の声は届かなかったが、ランスロットの行動は“桜に何かあった”という事実と結び付けるのに十分だった。咄嗟に仲間の腕輪で全員に呼びかけたが、誰からの応答もない。
―― どうすればいい?
桜の事も当然心配だった。
しかし隣には、突然出て行ったランスロットの姿を目の当たりにしたパトリシアが『お母さまが……』と見捨てられた子猫のように、呆然と呟く姿が……
―― 桜のほうは、あいつが行ったから大丈夫。なら俺は……
マナリシアの状態を確かめるが、先程と何ら変わりはない。止められた手前、
―― 運を天に任せ、飲ませるべきか……
その時だった。
「ひぇぇぇー」と、ドームの天井を突き破って、白いローブを着た男が落ちてきた。
その男は空中で回転すると、かろやかに着地を決めた。
「あーびっくりした。落とし穴?」
フードが外れて顔が見えた。やや長いボサボサの黒髪と黒い瞳。ここの天井は、木の枝と蔓でドームになっていた。その上に着地した男は、足元が抜けて落ちてきたのだ。
△△
「だ、誰だ!」
パトリシアを庇うように立ち上がった陽二は、咄嗟な事もあって、普段なら絶対にしない初対面の相手に強い口調を使う行動に出た。
すると男は気にする様子も見せず、陽二たち3人に目を向けると『人に名前を尋ねるときは、まず自分が名のれ!』と、セリフくさい言葉を返したのだ。
「ああ、そうだね……」
一瞬キョトンとしてしまった陽二は
―― なんかデジャブってるな……
と思いつつも、明るい口調と男の容姿に悪い気は起こらなかったので、自己紹介をすべく口を開いたのだが
「俺の名は――」
「僕は超絶美少女サラリーちゃんのファン!
と、先に名のれと言ったのにもかかわらず、陽二の邪魔をして言葉を被せてきた。続けて『さあ、さあ!』と、ローブに書いてあるサインを自慢気に見せ付けられた。
―― うわっなんだコイツ、ノリがすっげー既視感!
「あーすごいすごい。いいなー、俺もサイン欲しいなー、うらやましいなー(棒)……で、俺が陽二、こっちがパトリシアとナーナだ」
なので脱力してしまった陽二は、適当に相手をして、ちゃっかりと自己紹介を済ませると、ふと気づいた
―― サラリー? 桜の事だよな?
サラリーとは、ゼラレッドのときに桜が使う名前である。
ちなみにランスロットがランリー、アスモデウスがアスリーである。
そこで陽二は、俺はどう呼ばれるんだろう? と考えてしまったのも束の間、男の名前に耳を疑った。
「名前は豊って言ったよな? 異世界人いや、日本人なの?」
「えっ? うーんどうだったかなぁ……よく覚えてないんだよね。それよりも手に持ってる薬ってなに? あ、いいや鑑定!」
⚫
あらゆる状態異常を回復。
そして豊は、桜と同じ腕輪を陽二とパトリシアが身に付けているのに気付いた。それもついでに鑑定
⚫ゼラニオン変身セット
子供向けのオモチャ
さらに、魔法陣の上で横になっているマナリシアにも気付くと、昔の癖で体が勝手に反応してしまった。
「
⚫マナリシア=クルシュナイン(女性)
状態:毒性脳症・衰弱・意識障害・白骨化・etc.
「おい、何やってんだよ!」
陽二は、質問に答えず何やら怪しげな行動を始めた豊に、苛つくように怒声をあげると
「うわぁ……これって、死んでるのと同じじゃん」と返って来た。
なので
「おかしな事を言うんじゃねーよ。俺が死なせやしない!」と陽二も負けずに吠え、完全回復薬を飲ませようと口に近づけた。
しかし
「止めた方がいいよ、その薬じゃ効果はない」と、強い口調で言われ、焦りの表情を浮かべた陽二は、動きをピタっと止めてしまった。
すると今までの会話を聞いていたパトリシアは、絶望のあまりに
―― 余計な事ばかり言いやがって!
「おまえに何がわかるんだ? デタラメばっかり言うなよ!」
そんな陽二の憤りを、そよ風のように受けた豊は、スラスラと口を滑らせた。
「女性の状態は、毒と細菌による―― 時間が経ち過ぎてるんだよ。左足は、毒の影響でないのと同じだし、細かい問題は体全体にあるんだけど……結局のところ毒で脳が壊れてるのが致命的かな。エリクサーでもあれば話は違うんだけど、その薬では全くの無駄骨だよ。
あっ、ちなみに昔とった
―― 脳が致命的? 既に手遅れだったって事なのか?
しかし、パトリシアの心境を考えると、ここで諦める選択肢はない。陽二は藁にもすがる思いで、豊に掴みかかりながら手を伸ばし口を開いた。
「助ける方法は、ないのか!」
その陽二の手を、ヒラリと避けながら豊は言った。
「もう何だよ、気持ち悪いなぁ。その格好はなに?」
「はっ? なにを言って……」
改めて自分の姿を確認すると、変身が解けた陽二の姿は、パンティ1枚しか身に付けていない変態だったのだ。
―― 桜の野郎め!
そそくさと服を取り出した陽二が、身だしなみを整えていると、パトリシアは豊に話しかけられ、落ち着きを取り戻していた。
―― 何を言ったんだ?
「豊くんお待たせ。その様子だと、あるんだろ?」
「察しがいいね、変態くん」
「好きで、あんなナリをしてた訳じゃないんだよ。全ての元凶は、さ……サラリーのせいだ」
「その腕輪、やっぱり知り合い? もしかしてサラリーちゃんの恋人とか?」
「違う違う。俺たちは、チームなんよ」
陽二は、ゼラニオンの事を誤魔化すため『冒険者パーティー』という事にして、ここには『人族の救助依頼で来た』と説明した。
「そっかぁ。サラリーちゃんは凄かったけど、君はショボいね」
「ほっとけや! 言われなくても分かってるわ!」
△△
なんやかんやと情報を引き出した陽二は、豊の魔法でマナリシアの治療ができると、それもほぼ全快も可能だと知って安堵していた。
「治療の見返りとして、
「OK牧場!」
―― ふるっ! まあ、テレビとかでもよく聞くけどさぁ
「その薬に固定したのは初めて見たしね。それに効果が凄いんだよ」
「効果? そこ詳しく!」
「毒、麻痺などの定番は全てカバー! は耐性でどうにでもなるか。そう薄毛! これは凄いよ。絶対に手の届かない神の領域だし、僕でも……可能だった。いや、でもポイント使うしやっぱり凄いよ、面白いし!」
「報酬の意味がねぇ!? って一瞬肝を冷やしたけど、安心したよ。それにしても、薄毛って遺伝かと思ってたけど状態異常なの? まあ、そんなのどっちでもいいか。薬やるから、いっちょ頼むよ」
「あいあいさー」
軽く言葉を返した豊は、自信満々でマナリシアの前に立った。そして魔法を唱えようとしたが
「……あれっ? 久しく使ってなかったから治癒の魔法……忘れちゃった! テヘッ」
唱えなかった。
「おいっ!」
「まあまあ。まだ慌てる時間じゃないよ。ちょっと待ってねぇ……えーと、少ないポイントで使えるのは……2か、それくらいならいっか」
豊は、何かブツブツと
「魔法陣を書かなくてもできるけど、ポインティーがもったいないんだよねぇ」
描き終えた豊は、マナリシアの位置を確かめ「
すると、ナーナの作った治癒結界が溶けるように消えて、豊が描いた魔法陣を黒い膜が覆んで中が見えなくなってしまった。
そして膜の外壁に、針がひとつだけの時計が現れて、コチッコチッと音を奏で始めた。
「だいたい20時間ってとこかな。この時計がひと周りすれば、治癒は完了でーす」
「結構時間がかかるんだね。でも、助かるならどれだけでも待つよ」
会話を聞いていたパトリシアは、豊に小さな声で『ありがとうございます』と伝えると、時計の前にちょこんと正座。ジーと針を見つめだした。
どうやら針が一周するまで、その場で待機するようだ。その隣では、ナーナが物珍しそうに黒い膜を見ていた。
「何があるか分からないから、触ったらダメだよ?」
陽二は、念のため注意の声をかけた。
「別に触っても大丈夫だよ。この“時の魔術師”に抜かりはないよ」
「そうなの? じゃあサンキューな豊くん。ほい」
陽二は、いつの間にか完全万能薬へと姿を変えてしまった自作の薬を手渡した。
すると豊は『礼はいらない!』などと抜かしながら、懐にしまったのだった。
△△
「ところで、豊くんって何者?」
陽二は、自分の事を時の魔術師と語った豊の言葉を冗談と捉えていた。まだ治療が終わった訳ではないが、パトリシアの母親を救う手助けをしてくれた人物なので、信用はしている。
なので、会話をするための取っ掛かりとして話題を振ったのだ。彼に貰った果物を食べながら……
薬を渡すと『じゃあ、もう行くねー』と言った豊を『まあ、茶でも飲んでいってくれ』と陽二は引き止めた。彼は見た感じ、ほぼ間違いなく日本人だと考えていた。なので、もうちょっと詳しく話が聞きたかったのだ。
そこでまず精一杯の労いを込めて、水の入ったコップを手渡した。それを見た豊は、苦笑。
逆に果実ジュースや果物をごちそうになる結果となった。パトリシアとナーナが、喜んでゴクゴク飲んでいた姿に気を良くした豊は、おかわり用の
「実は、あまり覚えてないんだよ。頭に
「靄か……それって記憶障害じゃないの? なら、
「なるほど、僕を実験台にするつもりだね? 結構いい性格してるよ」
気を悪くしてしまったか? そう判断した陽二は
「いや、そんなつもりで言ったんじゃないけど……効かない?」
と言ったが
「悪気がないのは分かってるって! でも、もったいないから使わな~い」と、全く気にしてない豊は、ゴロゴロと地面を転がり始めた。
ローブは土だらけ。掴みどころの難しい豊に、陽二は ――ワザとなのか? と、戸惑った。
△△
話の矛先を変えた陽二は、純粋に自分の好奇心を満たす事にシフトして口火を切った。
「そう言えば、シアの母さんに使った魔法って何魔法? そして、中で何が起こってるの?」
「さっきのは、時魔法。膜の中では今、彼女の時間が巻き戻っているのさ、5年くらいね。タネは秘密だよ魔術師だけに」
「タネもなにも魔法なんだよね?」
「まあそうだけど、それを言われたら終わりだよね。でも、魔法だけど魔力は必要ないんだ」
「そんな重大発言、教えてもいいの? 普通、秘密とかそんな感じじゃない?」
「別に重要な事でもないし、隠す必要もないと思うけど?」
「なら、もっと詳しく教えてくれない?」
陽二は、親友のように豊の横っ腹をつつき始めた。彼の表情を見るに、満更でもない雰囲気になっていた。
「仕方ないな~。時魔法を覚えると、1年に1ポインティーもらえるようになるんだ。そのポインティーを使って、人の時間を動かす事が可能なんだよ。だいたい1年当たり1ポインティーでね。ちなみに、自分自身だと10ポインティー」
「それって凄いね。でも、1年で1Pって少ないなぁ」
「問題はそこなんだよねぇ~。でも、やり方ひとつで節約は可能。相手の状態や動かす時間・魔法陣の併用とかでね。その代わり、死体の時間を進めるのは、0~ポインティーで可能だよ」
「なるほど……」
「あとは、自分にとって有利なほど多く、不利なほど少なくなるね」
「あっ、それは何となく分かる。有利になり過ぎないような制限?」
「まあ、僕自身詳しく理解できてるとは言えないけどね。実行する前に何パターンかシミュレートして、ポインティー消費の少ないやり方を選択してるだけだし」
「もういいや。他にはないの? カモンカモン!」
「ええ~人がせっかく……。まあいっか、魔法じゃないけどスキルはたくさん持ってるよ」
どうしてこんな簡単に手の内をさらしてしまったのか。その時の豊は、気付くことなく色々なスキルを披露した。そして陽二は、なんて良いやつだ! と単純に感謝していた。
豊は、丁寧なスキルの説明をしながら『大倉庫』から大量の果物や肉魚を『一括管理』で取り出すと、適当な果物を『複製』して見せた。
さらに、鉱石や木材を『一括管理』で取り出すと『精製』『錬金』『調合』『鍛冶』『大工』『築炉』を駆使して、キッチン台や調理道具、食器類を作りあげると、最後に『料理』を使って腕を振るった。
「うめえよ!」
「お粗末様!」
当然その料理はパトリシアとナーナの元にも運ばれ、ガツガツと食べていた。
「豊くん何でもできるのな。すごいよ本当に何かくれ!」
「ん? 別にいいよ」
本気でも狙った訳でもなかったが、陽二の口は考える前に勝手にズケズケと動いていた。まるで、遠慮を知らない子どものように。
そして豊も、それがさも当然と了承した。
陽二は職業を変更する玉の存在を知っているし、スマホもある。なので豊の了承は、そのようなスキルが“存在する”というのを理解させた。
△△
「何がいい?」遊びに誘うような軽い口調に
「豊くん君が神か!」と呟いた陽二は、躊躇なく『時魔法』を
特に意味はないが、時魔法と聞けば、時間を止めてエッチな事を……健全な男子なら思い描くぶっちぎりの第1位。いや、殿堂入りだろう。
「流石にいいチョイスをするねぇ。でもこれは無理。その代わり、覚える可能性がある『時間』と『時属性』をあげるよ」
陽二の頭に手を置いて目を瞑った豊は、ぶつぶつと詠唱を始めた。
「ステータス開示」
―― 『魔法術士』!? でも、魔法スキルがないのはどうしてだろう。
『異世界人?』 何このスキル。詳細は――
⚫異世界人
見てんじゃねーよ!
えっ? ごめんなさい。
『お調子者?』 詳細は――
⚫お調子者(愚者変化スキル)
調子に乗れば乗るほど、相手との距離が近づき無抵抗で受け入れられる。都合のいい流れへ誘う。
『
他に珍しいスキルはないねぇ。それじゃあ『貼付』『貼付』っと
「はい完成!! 確かめてみて」
「ありがとう!」
中山 陽二
魔法術士 LV.0
時属性
スキル
異世界人 呼称発動 時間 強力付与
軽量化
△△
「豊くん、この時間ってスキルの説明お願い!」
陽二は『それじゃあ!』と立ち去ろうとした豊を『こいつを逃がすな。もっとしゃぶりつけ!』と言う心の声に従って捕まえた。
「ホントにもう、これで最後なんだからね!」
と口では言いながらも、うれしそうな表情を見せたツンデレ豊に、陽二はチョロイと思った。
「その時間はねズバリ、時計でーす!」
「んなこたぁ分かってるんよ。もっとえぐり込んだ説明を頼むよ!」
陽二は、当然の如くスキルを手に入れた瞬間に試したので、
陽二が知りたいのはもっと先、どうすれば『時魔法』が使えるようになるかだ。それを伝えると
「ストップウォッチって知ってるよね?」
「タイム計るやつだよね?」
「そうそう、次ね。時計で秒数が進んでいるのが分かる? それでね
「なにを? もっと具体的にプリーズ!」
「何でもいいんだよ。例えば、適当に走って何秒かかったとか、石を上に投げて何秒で落ちてくるとかさ」
「それに何の意味があるわけ?」
「時を感じるんだよ。これは何秒あれは何秒って、分かった?」
「で、どうなるの?」
「陽二はずるいなぁ何でも聞いちゃあ駄目だよ? 百聞はなんたらって言うよね」
「つまり……時を感じていれば、次のステップに行けると?」
「時属性もあるし、それは陽二次第だよ」
「わかった、頑張ってみるよ」
「それじゃあ!」
「えっ? しまった逃げられた!」
豊はどれだけ帰りたがっていたのだろうか。再度捕まらないように、陽二が目を離したその一瞬をつき、文字通り消えるようにいなくなった。
陽二はまだまだ話足りなく寂しさを感じてしまったが、天井を見上げ『豊くんありがとう』と呟いた。
そして周囲を見渡し気づいた。
「あの
豊が作製したキッチン台などは全てなくなっており、その代わりに、大量の料理が置いてあるテーブルが、3つも作ってあった。
「本当になんでもアリだな……」
マナリシアにかけた魔法は、終わるまでに時間がまだまだ必要だ。そのため気を利かせてくれたのだろう。
「シアもナーナもお腹が空いたら食べてね」
パトリシアは首だけ向けると、コクッと頷いた。その隣で、すでにナーナはモグモグしていた。
―― これだけの事ができる豊くんが、大丈夫と言ったんだ。間違いない、シアの母親は必ず助かる!
すっかり安心しきって
しかし、石を投げては落ちてくる秒数を数えて小1時間。投げすぎで痛めた肩と、変化のないつまらなさで飽きてしまった。まったく堪え性のない男である。
―― 少しでも変化があれば長続きするんだけどな、休憩。湖に探検でも行ってみるか……
「あっ!?」
やっと思い出した陽二は、冷や汗だらだら。すぐさま腕輪で通信を試みるも応答なし。
―― いや、
「ちょっと出てくるね」
パトリシアに声をかけた陽二は、とりあえず入り口まで様子を見に行こうと考えていたのだ。そんな彼は、罪悪感を払拭するように走り出した。