※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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再会はぬくもりと愛の……/覚醒進化ヴォイオレット

 

 

 陽二が、パールにイタズラをしていたその頃。

 ゼラレッドこと、本条桜が穴の中に落としたゴブリンたち。それを1体残らず処分して、魔石を回収したランスロットは、周辺に散らばる死体の魔石も集め、穴の中に埋葬する作業をしていた。

 

 その作業中に彼女は閃(ひらめ)いた。

 金目の物を集めて、先日支払った弁償代の補填にすればいいと……

 瞳を$マークに変えた彼女は、作業の傍ら武具などを片っ端から腕輪の収納スペースへと回収していた。

 

 火事場泥棒? 違う。これは、あたり前の行為である。

 

 その作業が、終了したのを気配で感じた桜の母親である唯は、娘の寝顔に目を向けたまま声をかけた。

 

「ところで、うぬは何者じゃ?」

「なっ!? 名乗ったはずだが……むしろ貴女(あなた)の名前を聞かせて欲しい。桜とはどの様な関係なのだ?」

「ふむ……質問を質問で返すとは、死にたいのか?」

 

 とんでもない傍若無人ぶりである。娘に向けていた、子守唄を歌っているような優しげな目は、一体なんだったのか? 彼女へ向けるその視線はまるで、触る者を傷つける鋭利なナイフである。

 

 けたたましい危険信号が、彼女の頭の中で鳴り響いた。言わなければ……死ぬ。彼女の口は、本能的にそれを回避するため動いた。

 

「私の名前はランスロット。桜とはゼラニオンというチームの仲間で、桜たちからはランスと呼ばれています」

「ふむ……他に仲間は?」

 

「あとは、先の湖に私(・)の陽二と、その連れパトリシアと精霊のナーナがいます。それと、別行動をしているアスモという仲間がいます」

「おぬしは戯(たわ)けか? 敵か味方かも分からない者にペラペラと……アスモ? 雪乃もおるのか?」

 

「アスモデウスという名ですが……」

「……黒髪のメイドか?」

「そうです。私と桜の師匠です」

「なるほど、魔技じゃの?」

 

「どうして魔技を知っているのですか?」

「創設者の一人じゃからのう……」

 

 魔技を教わってはいる。とは言え、誰が開発した技なのか? 詳しいルーツを、アスモデウスに尋ねた事はなかった。

 しかし自分の命を守る魔技である。そのルーツにも目を向け思慮を巡らせれば、技に対する理解度も高まるのではないか?

 今更ではあるが、その事に気付いた彼女は棒立ちになってしまった。

 

―― ふむ……アスモがどの様な教え方をしておるのか、興味あるのう。

 

 唯は、そんな彼女に「ついでじゃ、見せてみよ」と声をかけた。

 

 流れとは言え、唯の言葉には『稽古をつける』という意味合いも含まれていた。それを正確に受け取った彼女だが、正直困惑していた。

 

 師匠の許可(・・・・・)もなく、別の人物から指導を受けても良いのかと……要は、師であるアスモデウスに、義理を立てた訳だ。

 

 確かに彼女の考え方も間違いではない。しかしそんな小さな事、弟子や門下生風情が考える事ではない。

 教わるチャンスがあるならば、貪欲に吸収すれば良いのだ。合わない部分があれば、削り落とせばいいだけの事。

 

 当然、自分の恩師にその事を伝えるのは必要だが、本当に理解(わかって)いる師は、そんな事気にも止めない。だいいち教え方は違っていたとしても、理解(わかって)欲しい根っ子は同じなのだから……

 

 唯は、その事を諭(さと)すように語った。まるで『お前の師匠は、そんな狭量な人物なのか?』と……

『当然違う』と、彼女は断言できる。それに、唯の言葉を理解できない彼女ではないのだ。

 

 △△

 

「では、基本を見せてみよ」

「はい」

 

 彼女は、教わっている基礎を披露する。言わばこれは、彼女を通して“師匠であるアスモデウス”も見られていると同義である。手など抜けるはずがない。

 

 ―― ほう、流石アスモじゃのう……

 

「ふむ。5……いや、6級か?」

「基礎だけで分かるのですか?」

「当然じゃ。動作ひとつするにしても、体をどのように使っておるか……基礎を見れば、大体の理解度は見抜ける。魔技と、どれだけ真剣に向き合っているのかも、師であるアスモの考え方もじゃ」

「な、なるほど……」

 

「妾(わらわ)の名は唯。特別に『天使(桜)の美しい母様』と呼ぶのを許可する」

 

 ―― なぜ今頃になって名前を……? 私の魔技を見て『認めてもらえた』という事なのだろうか? しかし……

 

「母様殿!」

「だれが、うぬの母親じゃ!」

「さ、天使の美しい母様殿」

「なんじゃ?」

 

 ギラッと睨(にら)みを向ける唯に、認めてもらえてなかった!? と意気消沈。いや、そんなはずはない。と口を開いた。

 

「呼びづらいので、もう少し短くしもらえないでしょうか?」

「ふむ……ならば、妾に一撃打ち込み力を示すのじゃ!」

 

 この人は何を言ってるのだろうか? 彼女は一瞬戸惑ってしまったが、娘と同じく厄介な性格をしているのだろう。とすぐに理解した。

 

「ならば、弱体化(ディチューン)解除!」自身に掛かっていた魔技を解除すると、右手を目立つように上げて「部分強化(ブースト)!」と、右手の強化を宣言。

 そのまま唯の前に歩み出ると、ザザッと構えた。

 

 一歩踏み込めば拳が届く距離。左足が前、右足が後ろの半身で腰を落とす。つまり、前進しながら右手で突く『追い突き』。基本の一本組手である。

 

「見せてみよ」自然体で構える唯に「いきます。上段!」と宣言した彼女は動いた。

 右足を素早く体に引き寄せるのと同時に、膝を曲げながら腹の前まで持ち上げ、鳩尾(みぞおち)目がけて『前蹴り』で蹴り込んだ!

 

 追い突きならば、素早く寄せた右足を前に出し、踏み込みと同時に右手で突くのだが……彼女の頭の片隅には、パンチと見せかけて、パンチングマシンにキックした、陽二の姿があったのだ!

 

 ―― 陽二、使わせてもらったぞ!

 

 そして、ミスリードを狙う策も講じた。

 わざと右腕をあげて、腕に部分強化(ブースト)を使うふり(・・・・)をして右足(・・)に使った。

 さらに、動く前に『上段』と叫び、目線を唯の顎(あご)に固定。注意を逸らしつつ『中段』を狙った。

 

 これは卑怯ではなく、機転なのだ!

 

 ―― 決まった!

 

 そう彼女は確信した。

 しかしながら、蹴りがくると見破っていた唯は、当たる寸前、彼女の前蹴りをすくい上げて、見事にかわしてみせた。

 

 すくい上げられてしまった彼女は、その場で強制的に後方1回転。着地した瞬間に「くっ!」と声を漏らし顔を上げると、目の前には唯の手刀が止まっていた。

 

「ふむ。面白かったが、片足に部分強化を使ってはバレバレじゃろうて。腕に部分強化からの前蹴りであれば……かすり(・・・)はしたじゃろうがの。じゃが……よかろう『唯姉様』と呼ぶのを許可する」

 

「はあ……」

「ん?」

「いえ、何でもありません」

 

 呆れからのため息ではない。あの前蹴りは、間違いなく全力全開だった。それも彼女自身、愛という名の気力充分な最高の状態での、スピードも乗った前蹴りだったのだ。

 それを難なく、避けるでもなくあっさり返された。どれだけ実力に差があるのか……そこから漏れでたものだった。

 

 だが諦めや悔しい気持ちよりも、許可。つまり、認めてもらえた気持ちが勝ってきた。立ち上がった彼女は、疑問を口にした。

 

「ところで、桜の母親というのは本当の事なのでしょうか……? 私が以前聞いていた話では、桜が生まれて間もない頃に『消えた』と聞いていたのですが……」

「妾も色々とあってのう。ある部屋に閉じ込められていたのじゃが……。そのうちアスモにも聞かれるじゃろう、詳しい話はその時じゃ」

 

「はい」

「それよりも、魔力回復薬を持っておらぬのか? どうも娘は、回復量が少ないと見える。それに、これ以上妾の魔力を与えるのも、体に毒じゃ」

「質の違いですか……」

 

 桜の珠の残量を確認した彼女も、薬は持っていなかった。

 

「そうだ! この先で待っているパトリシアの腕輪に、これと同じ桜の魔力を補助する珠が装着されていました。あれなら問題なく回復できます」

 

 唯は、桜の様子をうかがった。

 桜の魔力を吸収していたと思われる(・・・・)『扉の結界』を破壊したので、魔力は回復してくるはず……と思っていたのだが……まだ別の要因があるのか、少しだけ表情が苦しそうになってきた。

 魔力は質に個人差があるので、あまり唯の魔力を与えすぎても良くない結果になりえる……だが、桜用の魔力回復道具があるなら話は早い。

 娘を抱きかかえた唯は、彼女に告げる

 

「ランス、案内せい」

「はい」

 

 △△

 

「遅い!」

「は、はい」

 

 唯は娘を抱っこしているのにも拘(かか)わらず、そのスピードは、変体した彼女よりも断然早かった。さらに拾った枝で、彼女のお尻を叩(たた)いて急(せ)かしていた。

 まるで、畑の牛にしているみたいではないか。しかし、上手に加減しているのか、ムチの痛みはなかった。

 

 パチン パチン パチン

 ―― んっ!?

 ただそのせいで、湖の入口に到着するまでに彼女は、違う世界への入口に目覚めようとしていた。

 

 危ない危ない。その前に到着した彼女は「この穴を下りた先にある、小高い山の中にいます」と説明。

 

 それを聞いた唯は『精霊の泉じゃったのか……先に行く』と言い残すと、穴の中には進まず、目の前の壁をカッ、カッ、カッとヒールを鳴らしながら、そのまま登っていった。

 

「あの勢いなら、湖を飛びこえて直接行けるな……」

 

 変体を解除した彼女は、妙な感覚を覚えた自分のお尻をさすりながら、湖へ歩き出しだ。

 ―― 陽二にも叩いて欲しいぞっ

 と思い始めていたのは、乙女の秘密である

 

 湖の前までやって来た彼女の嗅覚が、何かをキャッチした。

 クンクン、クンクン

 しかし周囲を見回しても特に変わった点はない。強いていえば、表面が濡れている植物があるくらいである。

 

 ―― 一瞬、胸がざわつく匂いがしたが……気のせいか?

 

 思考を切り替えた彼女は、ピョンピョンと湖を渡りきると、山の中へ。

 すると、彼女の不在中なにがあったのか、おいしそうな料理が並んだテーブルと黒い塊があった。

 はて? 見覚えのないそれらを横目に、先に来ているであろう唯の姿を探すと、丁度パトリシアから腕輪を受け取ろうとしていた。

 

 近付く歩みを進めたその時、パトリシアから腕輪を受け取った唯へ、驚きと親しみの混ざった声を発した人物がいた。

 

「唯!」

 

 彼女たちには、馴染みのある声だ。

 ナーナが洞窟と言い張っていた穴へ目を向けると、まるで信じられない出来事に遭遇したような表情をしたアスモデウスが居た。

 

 そう、パトリシアの母親が居た部屋の奥には、アスモデウスがトパンの村で発見した、魔法陣と対になる転移魔法陣があったのだ。そして今、洞窟を抜けて唯を目に止めたアスモデウスは、唯の名を呼んだのであった。

 

「アスモか……久しぶりじゃのう」

 

 アスモデウスを見上げて呟(つぶや)いた。別れが別れだっただけに、感傷に浸りそうになってしまったが、その前にまだやることがある。

 しかし、娘の容態を伝えようと口を開く前に、状況を理解したのはアスモデウス。素早く飛びおりると、唯が持つ腕輪を受け取り桜にはめた。

 

 長い間、桜の面倒を見ていたアスモデウスは、何度もこの様な事態(・・・・・・)を経験している。なので、一目見ただけでこの状況を理解したのだ。

 腕輪からゆっくりと魔力が供給し始めると、辛そうだった桜の顔色も良くなってきた。

 

 ―― 珠の魔力が2つもなくなるなんて……

 

 通常では考えられない事ではあるが、そんな事は後回しである。唯へ『もう安心です』と伝えたアスモデウスは、唯に抱きつき再会を喜んだのだ。

 

 △△

 

「お互い色々とあった様ですが、桜ちゃんが目を覚ますまで話は待ちましょう」

 

 時計に集中していたパトリシアから軽く事情を聞いたものの、その説明は曖昧であった。ただ、王妃の生存には喜びを見せた。

 だが確かに色々とありすぎたのも事実。詰め込みすぎたイベントの連続だったので、アスモデウスでも処理できなくなってしまったのだろう。

 様子を見に行ったという陽二が、帰ってきてからでもいいだろうと考えたのだ。

 

 唯とアスモデウスは、抱き合いながら何かを話していた。唯の膝の上には桜が眠っている。ランスロットは、訳が分からずもテーブルの料理に手を伸ばしていた。

 

 その数分後だ、桜が目覚めたのは

 

「んっ……? ここは、どこぢゃ?」

 

 何か良い出来事があったような気がするけど、ハッキリとは覚えていない。そんな朦朧とした記憶を探りながらの目覚め。すると突然、強い力で抱きしめられ身動きが取れなくなった。

 

「だ、誰ぢゃ? 離せ!」

 

 そう言う桜に、ふわっとアスモデウスの香りが重なってきた。

 

「お母さんです……桜ちゃん。お母さんが帰ってきたのですよ」

 

 アスモデウスが桜から離れると、もうひとつの影も桜を解放するように離れた。桜の目には、アスモデウスの優しくほほえむ顔が見えた。

 

「はっ?」

 

 目線を真上に向けると、ポロポロと涙を流した女性の姿。その女性は、お互いのおでこを密着させるような形で包み込んできた。

 その涙は女性の頬(ほほ)を伝い、桜の頬に降り注いだ。

 温かく愛情がたくさん詰まった涙だった。

 

 桜が最初に感じたのは『あたたかい』だった。

 何が? という訳ではなく、説明などできなかった。初めては意識が朦朧とした中での出会いだったので、桜からしたら、正に今が、生まれて初めて体感する母親である。

 とにかく『あたたかい』だった。

 

 生まれてから約500年

 最初の200年は、ただただ死の瀬戸際を彷徨(さまよ)った。覚えている事などほとんどない。

 

 その後の300年は、アスモデウスが寄り添い母の様に接してくれた。楓(かえで)に出会い、ダンジョンの外に出られる様になった。ランスロットがゼラニオンに加入。いつも笑わせてくれた。

 色々な人が、幸せな気持ちを分けてくれた。

 

 でもしかし、人知れず泣いていた事は、何度もあった。

 

 アスモデウスに当時の事を聞いて、捨てられたと考えたこともあった。『どうして、こんなスキルを?』と恨んだ事もあった。

 そして、ひと目でいいから会いたいと何度も願った。

 会えないと思っていても『ママ』って練習をした事もあった……

 産んでくれてありがとう、大好きって言いたかった。大好きって言って欲しかった!

 

『桜』と母親に名前で呼ばれたかった……

 

 

「桜、よく頑張ったのう、ありがとう。今まで待たせてすまなかった」

 

 ドキン。

 耳に届いた言葉とともに、愛情という名の雫が降り注いだ。

 桜は完全に母親の存在を理解した。

 

「母様……ママ!」

 

 抱き合う母娘(おやこ)。

 桜の目からも涙があふれ、アスモデウスも堪(こら)えきれず2人をまとめて抱きしめた。

 その3人の姿に、母の復活を願っていたパトリシアと胸を打たれたナーナも涙した。

 

 ランスロットもその光景に涙腺が緩みっぱなしだった。しかし、手に持っている食べ物を離しはせず、モグモグと口が動いていたのはご愛嬌。

 不謹慎にも『桜が泣いているところを初めて見た』と思ってしまったのは『絶対に墓場まで持って行かなければならない!』と思っていた。

 

 そしてもう1人、この大事な場面に居合わせていなかった陽二の事は、誰もが忘れていた……

 

 

 ☆☆☆

 

 ―― んっ?

 

 あれから5分後、再度意識を浮上させた陽二は、同じく眼球だけで周囲を確認。

 ――うっ!?

 またもやフラッシュバックが脳裏に出現するも、耐性が付いたのか、落ちるほどのダメージはなさそうだ。

 人間は慣れる生き物。同じ轍(てつ)は踏まないのである。

 

 ふと、腕に重みを感じたので右側を見てみると、陽二の腕枕で美しい少女、人魚姫パールがすやすやとお昼寝タイム。

 

 ピンクの髪が日の光に反射してキラキラと輝き、天使の輪を形成している。何か壮大な事をやり遂げてすっきりとしたような、どこか穏やかな表情で眠っていた。

 

 ―― おおっ!?

 

 彼女は、ホタテをつけていない真っ裸。たわわな乳房とピンク色の乳首が丸見えだったのだ。

 そこで気付いた。目線を、自分の胸から下半身へと移していくと……

 

 ―― なんで裸!? これって朝チュン? でも、何も覚えてないんだけど……

 

 と思いながら、自己防衛機構が仕事を始める前の記憶を必至に思いだそうとすると

 

 ―― うっ

 

 背筋がゾゾッとしたが、婆さん人魚に唇を奪われて、エキスを注入された事をハッキリと思い出した。もう完全に大丈夫なようだ。あんなもの、野良犬に噛まれたのと同じである。

 しかし、それ以降の記憶。どうして腕枕で、パールが眠っているのかが分からなかった。

 

 と、目線の先。正確にいうと、陽二の周囲に美しい金の髪と鱗を持つ妖艶(ようえん)で、ダイナマイツなバディを惜しげもなく晒(さら)している人魚が、満足感たっぷりな顔をして眠っていた。

 

 ―― これは夢……?

 

 人魚(婆さん)との出会いが衝撃的だった事と、エキス注入という罰ゲームを受けた陽二には、ギャップが激しすぎて思考が追いつかない。

 

 でも健全な男の子である。取りあえず、この眼福な光景を楽しむことにした。

 

 △△

 

 20分くらい経過しただろうか、誰も起きる気配がないので、陽二は、パールの頭を優しく持ち上げ腕を引き抜いた。

 自分の服が見あたらない事は、妖艶な人魚たちの姿をオカズメモリーに記録していた時に気づいた事なので、着替えを取り出してそそくさと着た。

 

 パールのホタテが見あたらない。痴漢・冤罪、何が起こるかわからないご時世。収納スペースからTシャツを取り出し、念のためパールに着せた。

 

 ―― Tシャツを着た人魚って……何かエロいな

 

 ほぼ100%存在を主張する、ノーブラおっぱいのせいだろう。パールを優しく寝かすと、金髪人魚のボインでバインの姿は、目のやり場に大変困ってしまうが、なるべくエロい事を考えないように、情報を求め周囲を見回した。

 

  ジー。

 

 ついつい動きを止めては、目が釘付けになってしまう。このままではスケッチを始めてしまうかもしれない。スマホのカメラ機能が、使えなくなっていて本当に幸いした。

 もし無事だったら、間違いなく『盗撮カメラマン陽二』が誕生して『おまわりさんこっちです』まであっただろう。

 

「ここ、どこなんだよ……」

 

 陽二が居るのは、湖に浮かぶ20mはある巨大な植物の上。周囲の水面には、陽二が湖を渡るのに使ったのと同じ種類の植物が無数に浮かんでいる。

 

 景色から予想すると、湖の奥に連れて来られたのは間違いなさそうである。パトリシアたちが待っているはずの場所(山)が見あたらないので、間違いないだろう。

 

 ―― この湖って相当広いんだな。まだ奥にも続いているみたいだし……しっかし、このエロバディ達は誰なんだ? 婆さんたちの姿も見えないし……まあ、わからない事を考えてもしょうがないか

 

「パール。パール起きて」

 

 陽二は、小声で名前を呼びながら体をゆすった。

 

「んんっ……んっ」

 色っぽい声を出しながら、パールの瞳がゆっくりと開いた。

「あっ、陽ちん……」

 

 パールは陽二と目が合うと、頬を赤く染め身を縮こませながら目を逸らしてしまった。

 その一連の行動を、目にした陽二は思った。

 

 ―― パールの望むままに対応したとはいえ、やり過ぎたな。明らかに怯《おび》えているし、どうする? 何かいい言葉はないか? 考えろ、考えるんだ陽二!

 

「ごめんパール。ちょっとやり過ぎた」

 陽二では、良い言葉がなにも浮かばなかった。なので、取りあえず謝罪。

 

「い、いえ。こちらこそなの。あっあのぉ! そのぉ……パールこそ初めてで……ど、どうでした?」

 と、うつむきながら聞いてきたので

「えっと……か、かわいかったけど……」

 と返答した陽二は

 ―― 我慢している姿はゾクゾクしてかわいかった。

 と思っていた。するとパールは

 

「そ、そうなの? ちなみに、痛くなかったの?」

 と聞いてきた。

 

 ――なにが? 鱗は柔らかかったし、胸は張りがあって揉み心地も良かったし……痛い所なんてあった?

 

 少し噛み合わない会話に『はて?』となった陽二だったが、会話を続けた。

 

「いや、どこも痛くなかったけど、パールの方こそ強く触りすぎて痛くなかった?」

「そっ、そんなこと……確かに最初入れたときは少し痛みがありました。けど……でも、だんだん気持ちが良くなってきて……3回目には気絶するほどの……」

「そ、そう?? まあ、それなら良かったよ」

 

 ―― 3回目? 1回目で気絶したよな。おっぱいを揉んだ回数の事か?

 

「あっ、あの! この服、陽ちんの?」

「んっああ、ちょっと目のやり場に困ったから。あげるよそれ」

「本当? ありがとうなの!」

「そんな服で喜んでくれるなら何よりだよ。それよりも……」

 

 陽二は、周囲に目を向ける仕草をしつつ、パールに尋ねた。

 

「そこに眠っている人魚たちは誰? パールの知り合い? そう言えば、襲ってきた婆さんたちは? てか、何があったの?」

「えっ? 何って……」

 

 陽二が触ってくれたおかげで、分泌液が出るようになった事。

 それを摂取した婆さんたちは若返って、目の前の姿になった事。

 パールが目を覚ますと、ヴァイオレット達が陽二にペロペロしていて、そこに呼ばれて儀式を交わし、子種を授けてもらった事を告げた。

 

「な、なんだと……」

 

 陽二は、自分の了承もなく儀式をやってしまった事も、人魚が若返った事も、もっと大きく言えば、人魚界が救われた事とか、正直そんな事はどうでも良かった。

 ただ、たったひとつだけ……

 

「どうして起こしてくれなかった!?」

 

 陽二はとある事情により、意識の無いまま儀式が終わってしまった事に……天を仰ぎ、悔しさを爆発させた。

「もったいねー!」

 そこへ、モジモジしながらパールが、さらに言葉を続けた

 

「パール。陽ちんがファーストキスだった、の」

 

 その程度の事後報告、陽二は、全然聞き流せた。

 

 しかし、まだだ! まだ、終わらんよ。とばかりにパールの言撃(ターン)は続いた。

 

「儀式……子種……大切にするの」

 

 ―― はっ! そうだよ。俺が……パールの……

 

 陽二の記憶には、何ひとつ残っていない。当然感覚もだ。現在、重大な問題(・・・・・)を抱えている彼にとって、行為があったという事実は、喉から手が出るほど欲している事であった。なので、黙っていてもらった方が何百倍もマシだった。

 

 全てが終わってから報告だけ告げられる。参加したであろう中心人物は、全くの蚊帳の外。言いようのない悔しさで、力が抜けた。本音を言えば、もう一回と言いたかった……しかし彼には、言えない訳があった。

 

 その時である。

 周囲で眠る人魚、そのひとりヴァイオレットに変化が起きた。

 他の人魚は、ペロペロと若返りの疲労で眠っていただけだが、ヴァイオレットだけは、事情が違った。

 

 他種族の精子は、人魚には猛毒である。実際、過去に何人もそれが原因で亡くなっているのだ。

 無害なのは人魚姫だけである。そのため人魚姫が子種を授かり、体の中で人魚に適した種に変化させて渡しているのだ。

 

 しかしヴァイオレットはペロペロの最中、逃げようとした陽二の子種を、回り込んで直接キャッチ。そのまま飲み込んだ。

 

 ババアの自分に、ペロペロしてくれた相手の子種である。

『そこら辺に飛ばしてしまっては、失礼に当たる』

 と思ったのかもしれない。または

『飛び散って、仲間が誤飲するかも』

 と考えたのかもしれない。

 何はともあれヴォイオレットは、猛毒である陽二の子種を飲み込んでしまったのだ。

 

「ね、姉様!?」

 

 丁度、目線の先にいたのも理由になるが、最初異変に気づいたのはパールだった。

 驚愕の声をあげたパールの目線を、陽二も追った。

 

 すると、ヴァイオレットの鱗から透明な液体が大量に出て、勝手に動き回っていた。それは、あれよあれよという間にヴォイオレット包み込むと、透明な膜になった。

 

「陽ちん……」

 

 他の人魚みたいに起立できないのか、その言葉と表情でパールがどうして欲しいのか理解した陽二は、彼女をお姫さま抱っこして、ヴァイオレットの元へ向かった。

 

「コレって、何か分かる?」

「ううん、全然わからないの」

 

 とパールは首を振った。

 事態に気づいたのか、他の人魚たちも目を覚まし、ヴァイオレットの近くに心配で集まってきた

 パールを植物の上に下ろした陽二は、彼女の了承を得てから膜に触れた。

 

 ―― 卵の内膜みたいな感じ? 強く叩けば割れそうだけど……

 

 膜の中では、ヴァイオレットの体が少し振動している様に見えた。表情は少し苦しそうである。

 その時初めて陽二は、集まった人魚から、膜の中に居るのがヴァイオレットだと告げられた。

 

 ―― 本当に若返ったのか……完全に別人じゃん

 

 ヴァイオレットの表情をうかがっていると、目が開き目が合った。すると口が動いた。

 

「試すような真似をして、すまんけぇ」

 

 ―― なんの事?

 当然、ヴォイオレットたちの思惑など知らなかった陽二は、困惑した。その表情に気づいた人魚が、パールも知らなかった補足説明をした。

 

 ―― 結果的には思惑通りになったんだろうけど……子種とか気が早過ぎるって。そもそもパールと出会ったのも偶然だし、触ったのも流れだったし……

 

「て言うか、普通あんな場面を目撃したら怒れよ。姫なんだろう?」

 

 『人魚絶滅の回避』『分泌液が出た』『若返りできる』全てまとめて解決できると思ったら相当うれしかったようで、陽二に怒るどころか、救世主に見えたのだ

 

 ―― 俺はおいしい思いをしただけだし……でき過ぎた話だな……

 

 そんな話を聞いているうちに、ヴァイオレットの表情がどんどん険しくなってきた。陽二は試しに、膜の外側から水の恵み(アクアヒール)を使ってみた。

 魔法は膜に吸収されて、効果はないようだ。

 

 そうこうしているうちに、とうとうヴァイオレットは、目を閉じて動かなくなってしまった……。それを見ていた陽二は、疑問を口にした。

 

「なんかさぁ……若返ってない?」

 

 陽二の言う通りだった。動かなくなる少し前から変化は始まっていたのだが、目を閉じ動きを止めた今、それはハッキリと見て取れた。現在進行形で、ヴォイオレットは若返っていたのだ。

 

 そして、パールと同年代くらいまで若返ると、突然目を開けて立ち上がった!

 バリバリバリ!

 そんな割れる音がして膜は砕け散ると、モクモクと煙に変わた。その立ちのぼる煙の中を、ヴァイオレットが歩み出てきた。

 

 上半身は今までと変わらぬ人の姿なのだが、下半身は激変。魚の部分が人と同じ2本足になっていたのだ。

 ただし、2本足の内側以外には、今までと同じく金色の鱗がびっしりと足の甲まで続いていた。

 そして背中に、黄金に輝く天使の様な小さい鱗の翼が生えていた。

 

「飛人魚(セイレン)に進化したけぇ!」

 ヴァイオレットは、どや顔で宣言した。

 

「いやいやいや。セイレンって、顔は鳥で体は人の怪物だろう? 違うじゃん、翼が生えただけじゃんよ。それも羽じゃなくて鱗よ? 飛べんのかよ!」

 

 あくまで陽二の知識ではあるが……何にせよ、ヴォイオレットが猛毒で死ぬことなく、人魚からセイレンに進化したのは事実であった。

 

 △△

 

 陽二の言葉を聞いたヴァイオレットは、翼に力を込めた。

 すると、重なり合っていた鱗が伸びて、先が二またに開いた。もともと柔らかかったのも相まって、風に揺れる翼が完成したのだ。

 

 進化したヴァイオレットの身長は、2m前後。陽二より頭2つ分ほど身長は高く、翼を広げるとさらに大きく見えた。

 

 その姿を唖然と見上げていた陽二。するとヴォイオレットは、その顔を何も身につけていない胸の谷間(たにま)に押しつけると抱きしめた。

 その状態で植物を軽く蹴ると、高くジャンプ。翼を広げて空に舞ったのだ。

 

 △△

 

 実はこの進化、陽二の子種がトリガーになっていた。

 通常は猛毒なのだが、3つの偶然が重なった事によって起こった進化(ミラクル)だった。

 

 その3つとは

 パールの分泌液を、陽二が飲まされたこと

 口移しで、人魚のエキスも一緒に飲まされたこと

 空気に触れる前に、子種をヴァイオレットがキャッチしたこと

 

 上2つの出来事によって、その時一時的に陽二が出す子種液は、無毒+進化の促進効果を持ったのだ。(人魚のみ)

 ただし、空気に触れると進化促進が弱まってしまうため、直接摂取することが望ましい。分量は不明。

 

 △△

 

 空中で陽二の体を入れ替え下を向かせると、そのまま湖の入口に向かって飛んだ。

 

「陽ちん殿も、何かの用事でここに来たと思うけぇ、元の場所にお送りします。用事が済んで時間ができましたら、サラデインでお待ちしとるけぇ」

「なんか、用が済んだからさっさと出て行けって感じ? まあ、助かるっちゃあ助かるんだけどさ」

 

「パールは授かったばかりじゃけぇ、下手な刺激は禁物じゃ。それに、今から定着の儀式をやらねばならぬけぇ」

「定着の儀式? まあ、時間ができたら遊びに行くよ」 

「来なかったら探しに行くけぇ」

「本当に来そうだなぁ、近いうちに必ず行くよ」

 

 そんな話をしているうちに、パールと出会った入口まで戻ってきた。

 ヴァイオレットは、浮いている植物の上に着地すると、陽二をバインなボインを押し付けるように抱き寄せ、感謝を述べた。

 そして人魚の姿に戻ると、名残を惜しむかのように水面に飛び込み泳いで行ったのだ。

 

「人魚に戻れるんだ……」

 

 ほとんどの出来事が、知らないうちに終わってしまった陽二は、人魚たちとの再会を楽しみにしつつ、自分の事を忘れられているなどと微塵(みじん)にも思わず、パトリシアが待つ所へ急いだ。

 

 △△

 

 ヴァイオレットが仲間の元へ戻ると、既に定着の儀式が始まっていた。

  あのタイミングで、パールと陽二を離すのは少しだけ酷(こく)だったのかもしれない。しかし、パールも理解していたからこそ、行為のあと、陽二から離れずに添い寝していたのだ。

 

 一緒に居たい。離れたくない。別れの言葉をかけられなかった。その気持ちが、定着の儀式には必要なのである。

 

 ヴァイオレットも人魚の姿のまま、パールを中心とした輪の中に入る。1人が中心のパールに近づくと、お互いにペロペロを始めた。残った輪の人魚は、静かに祈りの言葉を歌う。 

 1人終わればしばらく休憩を挟んで、陽二との再開を願い全員とペロペロを繰り返す、それが定着の儀式である。

 

 

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