※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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誤字や脱字があれば教えて下さい!


陽二と唯の顔合わせ/箪笥(タンス)

 

 

 ヴァイオレットと別れた陽二は、パトリシアたちの待つ場所へ戻るため移動を開始。時間を確認すると、翌日の昼前だった。

 それを踏まえると、思いの外、長時間パールたちと一緒に居た事になる……陽二の歩みは、自然とスピードを増した。

 

 ―― そう言えば……

 

 と、陽二は考えた。

 豊が、パトリシアの母であるマナリシアに、魔法を使ったのは朝方だった。

 

 ―― 終わるまで、あと12時間くらいか……

 

 ドームの外壁の役目のような草木を潜り抜け、洞窟のある広場へ戻った陽二。

  パトリシアとナーナに目を向けると、流石に疲れが出たのか時計の前で横になっていた。桜とランスロットも無事合流していて、その元気な姿に安堵(あんど)し、アスモデウスの姿に癒やされた。

 

 ―― アスモさん来てたんだ……あの人、誰?

 

 △△

 

 感動の対面からどれだけの時間が経過したのか、会話の区切りができた事で、アスモデウスは状況を整理し始めた。今一度、時計の前を動かないパトリシアに事情を尋ねると、彼女の体調を考慮して促した。

 

「まだお時間がかかりそうですね。少しお休みになられてはどうですか? 何か変化があれば、すぐに起こしますので」

 

 母娘の感動的な場面を目撃して気が緩んだのも重なり、昨晩から一睡(いっすい)もしていない状態のパトリシアとナーナは、眠ってしまったのだ。

 別に、これからの話を聞かれたら困るとか、そういうつもりで睡眠を進めた訳ではなく、彼女の目の下にあった大きな隈(くま)、それと、魔力の消耗が激しかったのを労って出た言葉だったのだ。

 

「さて、何から話をすれば良いのやら……」

 

 1番の問題。ここに居る全員が気になる事案は、桜も出会った『豊』の事である。特にその名前を聞いた唯は、今にも探しに飛び出しそうな勢いであった。

  パトリシアの話だと、陽二と気が合い親しげにしていた様子。ならばその彼に詳しく話を聞こうと思ったが、その姿が見えない。

 

「陽二君は、何処に行ったのでしょうか……」 

 

 アスモデウスのひと言で、唯を除く全員が陽二の存在を忘れていた事に気がついた。500年ぶりの再会なのだ。その他の事がお座なりになっても仕方ないだろう。

 

 特に母親である唯にしてみれば、産まれて間もない頃から現在までの母親としての喜び、例えば『初めての寝転がり』とか『初めてのハイハイ』それに『初めて喋った』『初めて立った』など、例をあげると枚挙に暇がない。

 

『娘の初めて』に立ち会う事は叶わないのだ。全てをそっちのけにしてでも、それを知るアスモデウスに、根掘り葉掘りするのは責められないだろう。

 それを語るアスモデウスにしても、恥ずかしながらも一喜一憂する母の顔を眺める桜にしても、それは同様であった。

 

  ランスロットならすぐに気づいても良さそうなものだったが、桜の泣き顔を初めて目撃した事と、桜と同じくアスモデウスの話を聞いていたので、陽二の事にまで気が回らなかったのだ

 

 とそんな時、草木を通り抜け、タイミングよく帰って来たのが陽二だった。

 

「アスモさん。いつ来たんですか?」

「陽二、おまえはどこに行っていたのだ!」

 

 陽二の姿を確認するや否や、ランスロットは駆け寄った。さも心配してた、と言わんばかりに……

 そんな姿を見ながら桜やアスモデウスは、これで話が進むという顔をしていたが、唯だけは、陽二を値踏みするかの様に、険しい目で見つめていた。

 

 そんな唯は、陽二が近づいて来るのを待って、早速突っかかった。

 

「誰じゃ?」

 

 ギロッと突然凄まれた陽二は、蛇に睨まれたカエル。「うっ」と畏怖の念を抱き、言葉を返す事はできなかった。

 つい先程までの、エロティカナイン(9人の人魚)は遠い過去の出来事、桃源郷のような甘い記憶は、唯の眼力の前に大きく手を振り逃げていった。

 

 ―― 俺って、この人に何かした? めちゃくちゃ当たりが強いんですけど!?

 

  そんな事を思っていた陽二は、簡単に言えば困惑していたのだ。すると「聞こえぬのか? おぬしは誰じゃ?」と再度声をかけられた。

 

 どうやら名前を尋ねているだけなのだと、陽二は納得。

 ―― そう言えば、会社にも居たなぁ。常に不機嫌に見えて、実際は陽気で面白い人。こんな人には、軽い冗談を混ぜつつ敬いの気持ちを見せれば……

 

  唯を相手どり、その様な考察をした陽二は

 ―― なら第一印象は大事だな。インパクトにダイナミックに、さあ行け陽二! 見せてやるのだ!

 そして、口を開いた。

 

「俺は、天に輝く幾千もの星にゅぅ!?」

 

 突然、鳩尾(みぞおち)に衝撃が突き抜け、息ができなくなった。

 

「陽二!」

 

 その場で膝をつき苦しみだした陽二、介抱する為すぐに寄り添ったランスロットは、背中を擦りつつ唯を睨(にら)みつけた

 

「唯姉さま! 何をするのだ」

「死にたいのか? 時と場合を考えよ」

 

 頭の上にズシリと、本当に質量を持っているのでは? と思う声が陽二へとかけられた。

 

 ―― くっミスった。見たまんまの人だったか……

 

 陽二は突然の衝撃で、少しだけ息が出来なくなり驚いたものの、痛みひとつない体を起き上がらせ、唯に対する考えを修正。

 

 ―― 何をされたのか分からないけど、この人に冗談は通じない

 

 険悪なムードと呼ぶほどでもないが、陽二を庇うようにアスモデウスが割り込んだ

 

「唯。この方は陽二くん。仲間です」

 

 △△

 

 陽二は、代わりに彼の紹介を始めた彼女の横に並び、軽く自己紹介すると会釈した。

 

「ふむ……それでおぬしは、何級じゃ?」

 

 唯が、興味津々で尋ねてきた。自己紹介してくると考え『宜しくお願いします』を準備していた彼は、一瞬『えっ順番違くない?』と思い口ごもってしまった。

 それに、何級? と問われても、彼には意味がわからないのだ。

 

「陽二くんに魔技は教えていません」

「そうだぞ唯姉さま。そもそも私の陽二は、ゼラニオンに入ったばかりなのだぞ」

 

 代わりに答えたのはアスモデウスだ、その後をランスロットも追従して口を開いたが『私の陽二』は、サラッと流された。

 

 ―― 魔技? ランスが言ってたやつだな。それにしても、まるで借りてきた猫だな……

 

  唯の膝の上には、ひと回りほど小さく見えた桜が、甘えるように抱き付いていた。今まで目にしてきた彼女は、常に偉そうな態度だったのにだ。なので陽二は、そんな感想を持ったのだろう。

 

「ふむ」と納得したような声を漏らした唯は

「妾(わらわ)は桜の母親、唯。唯姉さまと呼ぶがよい」

 と、桜の頭を撫でながら告げた。

  すぐに準備していた言葉を返そうとした陽二だったが、くるっと真面目な顔を向けた桜のひと言に止められた。

 

「どこに行っておったのぢゃ? このアホウが」

「いやちょっと、お花摘み……?」

「ふう……。まあよい妾のマ……母様ぢゃ。失礼のないようにするのぢゃぞ?」

「よろしくお願いします」

「うむ」

 

 ―― 何だよ『ぢゃ』と『じゃ』に『妾』って……親子で面倒くさそうだな……

 そんな邪(よこしま)な思考を遮(さえぎ)るように、アスモデウスは尋ねた。

 

「陽二くん。豊くんに会ったんですよね?」

「はい、知り合いなんですか? 良い奴でしたよ。シアの母さんも助けてくれましたし。まあ、まだ分かりませんけど」

「何があったのか、詳しく説明せよ!」

 

 横からちょっと怒った感じで、唯が話に割り込んできた。陽二は、どうした!? と驚いたものの、目の前の地面をビシッと指差す桜の意を正確に読み取った。

 

 ―― はいはい、わかりましたよ。座ればいいんだろう

 

「正座ぢゃ」

「何でだよ!」

 

 パトリシアとナーナは眠っているので、残りのメンバー唯を正面に陽二、その左右にアスモデウスとランスロットが車座になった。桜は、唯の膝の上だ。

 

 早速、豊が来てから起きた出来事を思い出しながら、なるべく詳細に順を追って話した。その途中、唯やアスモデウスからの質問などを交えつつ、最後まで話し終えた。

 

「豊くんに、そんな力があったなんて……」

「ふむ、妾は納得じゃ。奴が時を操れるという事は、時も止められる(・・・・・・・)という事なのじゃろう。そうでなければ、司や妾が簡単に遅れを取るはずがない」

 

 ―― あれ? 豊くんって良いやつだったよなぁ? 桜の母親の……敵?

 

「あの、ちょっといいですか? 豊くん、とても親切だったんですけど、もしかして……敵?」

「あたり前じゃ、たわけが!」

 

 陽二の問いに憤慨した唯は、何を当然なことを……そんな鋭い視線を向けた。唯との間に何があったのかは知らない。しかし、陽二にはとても良くしてくれた恩人だ。にわかに信じられなかった。

 

 いまいち納得できず、当然の如く間違いでは? と思うのも自然な流れであった。

 

「豊くんと何があったのか、詳しく聞いても良いですか?」

「話してくれますか? 唯。私達が聞きたかった事も、そこにあるのでしょう」

 

 援護射撃ではないが、陽二は、追従してくれたアスモデウスに笑みを送った。見てなかったのでスルーされたが……

「そうじゃのう」

 2人の言葉を受けて頷(うなず)いた唯は、あの日、何があったのかを語り出したのだ。

 

 

 △△

 

 

 ひと通り、あの日の顛末を語り終えた唯は、半信半疑ではあるものの、どこか確信しているかのように呟いた。

 

「―――― あの時、妾や司たちの身に何があったのか……正直なところ今でもわからん。当然、驚異的なスピードとも違う。なら、答はひとつ。やはり奴は、時を止めれるのじゃろう」

 

 陽二の話を聞いた後にも唯の口から出た言葉。それをもう一度唯は繰り返した。

 

 ―― 確かにあり得る……

 

 豊の能力を垣間見た陽二は、唯の言葉にすんなり納得できた。しかし他のメンバー、アスモデウスたちは、やはりと言うか信じられないという顔をしていた。

 もし、それが本当ならば、無敵過ぎるチートスキルになるからだ。

 

「それと、奴から受けた傷じゃが……」

 

 豊から受けたダメージは、腹部を剣で貫かれる大きなものだったが、唯ほどの実力者にしてみれば、命に問題ある程のダメージではなかった。

 しかしあの攻撃には、回復魔法や薬の効果を無効にする『呪いのような状態』を、相手に与える副産物があったのだ。

 これはあくまで、攻撃を受けた唯の主観であるが……そう思わせたのは、じわじわと体を侵食する違和感を感じたからである。

 その違和感について、逃亡中にセナドゥースと意見を交わした唯は『呪い』と仮定したのだ。ちなみにセナドゥースは『穢(けが)れ』と表現していた。

 

 これはどちらも『回復を受け付けない悪い物』から来る意味合いなので、どちらでもいいだろう。唯が言いたいのは、一撃でも攻撃を受けると、その状態になる可能性がある。という事である。

 唯がその状態から回復できたのは、桜の魔力。つまり、犠牲とセナドゥースの肩代わり、それと年月である。

 それを踏まえると……

「非常に厄介ですね……」

 アスモデウスの言葉が、事の重大さを物語っていた。

 

「司くんは、どうなったのでしょうか?」

 

 聖霊たちは穢れを祓(はら)うため、大賢者が奉った事が分かっている。封印の扉の特定には至っていないが、一応、行き先は判明している。

 

「それじゃが……」

 

 しかし、唯と闇の聖霊セナドゥースは、外に転移したあとそのまま逃げた。豊の目的が不明なのと、娘も危険と判断したからだ。なので当然、司の生死・行方は、唯にもわからのだ。

 

 その道中、娘へ箪笥(スキル)を渡す事を相談。ついでに娘を守るように、セナドゥースへ依頼した。

 快く了承したセナドゥースは、念のため部屋の鍵を開けていた。

 その後、結果的に創造魔法は構築されなかったが、箪笥(スキル)を移すことに成功した唯たちは、消滅したように見えて実は、セナドゥースの部屋に閉じ込められていたのである。

 

 箪笥の中で唯は、セナドゥースに呪いの肩代わりを受け、娘の魔力を糧に生き長らえていた事を告白、娘を抱きしめると再度の感謝を述べた。

 

 その言葉を受けた桜は、今までの苦しみが『母を助けるためだった』と理解すると、むしろ誇らしげな表情を見せていた。

 

 ―― なるほど……

 

 唯の話を聞いた陽二は、豊との間に何があったのか理解した。しかし、片側だけの意見で悪者と見るのは……どうかと考えてしまうのも事実である。豊は、まぎれもない恩人なのだから……

 だが、その考えを唯たちに言える訳もなく……当時、唯や司たちが何をやっていたのか? そちらへ話を向けた。

 

 司は唯と五精霊と共に、復興の手助け・探索と開拓・調査等をしていた。実は司、双方の世界が酷似していると召喚当初から気付いていた。なので手助けの傍ら、元世界から持ち込んだ『社会科地図帳』を頼りに、世界を見て回っていたのだ。

 精霊たちが、聖霊へと進化したのもこの頃である。

 

 ちなみにアスモデウスは、現在のスノームに住居を移し、町作りの手助け中であった。

 

 

 △△

 

 

「唯はその後、どうしていたのですか?」

「部屋に閉じ込められておったと言ったが、その原因と思われる扉を破壊するのに手間どっておった。ところで、時間の流れが全く分からなかったのじゃが……何年くらい閉じ込められておったのじゃ?」

 

「約500年です」

「500年!? ま、まさか……」

 

「私はてっきり、司くんは元の世界へ帰ったと思っていたのですが、唯の話を聞く限り、それはなさそうですね……。あっ! 職技玉を預かった時に、職技玉を見つけた当時の記録も預かってきてます」

「見せるのじゃ」

 

 両手で挟み込むように受け取った唯は、玉に魔力を送った。すると玉が光りだし、スクリーンが現れた。これは、司と唯のみが知っている非常時の起動法方である。

 

「えっ? なんで使えるの?」

 

『玉は壊れている』そう思っていた陽二の口から、驚きの呟きが漏れた。その時だ! 彼の収納スペースから勝手にスマホが飛び出し、唯の持つ玉の隣に並んだのだ。

 しかし唯は、そんな事など気にも止めず、確認する事があるのかスクリーンに向かって『記録を出すのじゃ!』と叫んでいたのだ。

 

「名前はある……司は、生きておる!」

 

 どうやら陽二が先日見た、譲渡記録のようだ。唯の口ぶりから想像すると、記録されている名前は、死亡と同時に消失するようである。

 

 ―― と言うことは貸与や譲渡も、記録した人が生きている場合のみ可能って事?

 

 司が使用していたにしては、貸与できる職業の数は一桁と少なかった。それから推測した陽二が、そう考えを巡らせていると

 唯は記録を受け取り、食い入るように調べ始めた。

 記録文献といってもせいぜい10ページくらい。それには、大賢者が部屋に訪れた当時の経緯が書かれていたのだ。記録文献には

 

『その部屋に大賢者が訪れると、火・水・風・土・闇の聖霊は穢(けが)れに冒され玉になっていた。それを発見した大賢者は、穢(けが)れを取り除くため別々の場所に結界を用(もち)いて封印』

 

 と書いてあり、一緒に落ちていた職技玉は、王族に託した事が書いてあった。

 

 余談であるが、聖霊が穢れて大賢者に封印された事、封印した部屋を飲み込むように、突然ダンジョンが出現した事、そのダンジョンを囲むように、聖霊の名前を冠した町が発展した歴史も、国中の人が知る有名な話である。

 ちなみに聖霊を封印した後に誕生した町は、シノフィールとサラデインである。

 

 ―― 町の中にあるダンジョンの、誕生話ってところかな?……しかしこの記録、意味ないな……肝心な情報、豊くんや司の事が全く書いていない。

 

「話によく出て来ますけど、大賢者って何者なんですかね?」

 

 謎の人物なのか、実はこの質問の解は、アスモデウスや桜でさえ持っていなかった。

 ところが、その解を持っている人物がいた。

 

「光の聖霊じゃろ? 知らなかったのか?」

 皆が、一斉に唯を見た

 

「初めて知りました。どうして唯が知っているのですか?」

「面識があるからに決まっておるじゃろう? そんな事よりも、司の事じゃ。あの時、司も傷を負っておったのじゃ……すぐにでも豊をとっちめて、話を聞かねばならぬ」

 

 長い間ベールに包まれていた人物であろう大賢者。唯にあっさりスルーされた。そう、優先順位は司の事であって、大賢者よりも豊なのだ。

 

「陽二くん。豊くんの居場所に、心当たりはありませんか?」

「いえ、わかりません。ゲームしに行くって言ってましたけど……そもそも電波ないのにできるのか?」

 

「そうぢゃ! 奴は、アスモが壊したフジヤマの塔の事を言っておった。あと、いべんとが何とか」

「えっ? あれは、桜ちゃんの指示で……」

「それ見ろ、何でもかんでも壊すからだ!」

 

「むむっ……。アスモ、塔の修理を大至急で要請ぢゃ、あの塔は、帰還魔方陣の道標になるとも言っておったのぢゃ」

 

 ランスロットが桜を叱責、アスモデウスはちょっとムスッとした表情。そんな珍しい光景がそこにあった。

 

「しかし府に落ちんのう。セナは、箪笥の中におるのじゃぞ? 闇のダンジョンに封印されておる人物とは、誰じゃ?」

「確かにそうですね……」

 

 ―― 情報が多い……

 

 陽二は、次々と出て来る情報に処理が追い付かないので、取りあえず勝手に飛び出したスマホを、収納しようと手を伸ばしたのだが……

 ―― んっ?

 画面に表示されている文字が目についた。

 《書き換え完了》

 《本条桜から中山陽二に移譲可能。実行しますか?》

 ―― これは……?

 

  陽二は、すぐさま唯に見せた

 

「唯姉様、これを見てくれますか?」

「なんじゃ?」

 

 唯はスマホを手にすると、画面に目を向けた。スマホの表示は日本語である。読めないだろう、と考えた陽二は説明。

 

「えーとですね、桜から俺に……」

「陽二、説明は不要。妾は日本語もマスター済みじゃ、ふーむ……桜」

 

 陽二の説明を中断させた唯は、画面を見ながら膝に座っている桜に問いかけた。

 

「なぁに、ママ」

 

 ―― マ、ママだと?

 

 陽二は、少し照れた感じで返事した桜と、『ママ』と言われてデレッとした唯、その豹変ぶりに驚愕した。

 

「箪笥を使う事は?」

「できないよ、ママ!」

 

 ―― なっ、なんだその話し方は……気持ち悪い。いつもの口悪さは何処に行った? この、猫かぶりんこめ!

 

「やはりか……陽二とやら」

「はい!」

 

「うぬは勇者……日本人なのか?」

「いえ! はい!」

「どっちじゃ!」

「元勇者です。その玉を使って、王子に勇者を渡しました。そして日本人です!」

 

 桜に対して良からぬ事を考えていたので、陽二はつい、上官に詰め寄られる部下みたいになってしまった。

 

「ふむ……箪笥は勇者の専用スキルなのじゃが、司も使っておったのを考えると、元勇者でも使えるはず」

「それが何か?」

「ふむ……。理由は分からぬが、妾のかわいい娘に悪影響を及ぼしておるみたいじゃ。そんなの妾には耐えられん。うぬも同じ思いじゃろう?」

「えっ? そ、そうですね」

「よってじゃ、司が戻るまで、陽二が預かっておくのじゃ!」

 

 ―― 日本人のくだり、関係ないじゃん……って

 

「マジで?」

「大マジじゃ!」

 

 そう強く口に出した唯は、聞かれたくない話なのか陽二に耳を貸せと手招き。

 なんだろう? と唯の隣へ身を寄せると、膝の上に居る桜と目があった。その瞬間桜は、母の隣に来た陽二が『慎ましい胸だなぁ』とか『うはっ!いい香りする』と考えていたのを見抜いたのだ。

 

 ビシ!

 そんな陽二に、からかいの意味を込めてお仕置きのデコピン。

 

「おまえ、突然なんだよ!」と意味のわからない陽二が、声をあげるのも当然だった。そして

 ―― この野郎、負けねーぞ!

 と反骨精神を持つのも。

 

 くらえ! 陽二は、すぐさま逆襲。お返しとばかりに、桜のデコへデコピンを炸裂(さくれつ)させた!

 しかしダメージはゼロ! 逆に、爪がじんじんする大ダメージを受けてしまった。

 

 ―― かったぁ……鉄か!

 

 陽二を呼び寄せた唯は、かわいい娘の行動に口を挟むつもりはなく、微笑ましいと傍観を決め込んだ。だが……

 

「妾のかわいい娘に何をする」

 

 ビシュッ

 

 陽二の、桜に対する行為には黙っていられない。唯のデコピンが、陽二に炸裂。デコから、足の先まで電気が走ったような衝撃を受けてしまった。

 とんだとばっちりである。

 

 その崩れ落ちた陽二の耳元に、唯がささやく。

 

「よく聞くのじゃ。箪笥(スキル)の中には、何をやっても起きない女性《セナドゥース》が眠っておる。触り放題揉み放題じゃ。当然、邪魔する者は誰もおらん」

 

 ―― なっ、なんですと!?

 

「陽二。私というものがありながら」

 

 しかし、エロい事で頭いっぱい胸いっぱいの陽二には、ランスロットの声は届かなかった。

 

「そ、それは問題にならない? 怒られない?」

「当然じゃ。箪笥の持ち主が、ご主人様。当然の権利じゃ……これで、邪魔者が一人いなくなるのう」

 

「今、なにげに恐ろしい事を言いませんでした?」

「小さい事を気にするでない。それでどうするのじゃ?」

「くっくっくっ、喜んで引き受けましょう!」

 

 そんなこんなで、箪笥を預かる事になった陽二がスマホを操作すると、本当にあっさりと箪笥が移ったのだった。

 

 中山 陽二

 錬金調合術師 LV.0

 時属性

 スキル

 異世界人 強化付与 呼称発動 軽量化 

 時間 黄金指 箪笥

 

 

 ☆☆☆

 

 

 棚ぼたで、スキルと女性を手に入れた陽二の気分は、現在最高調であった。ついでに、期待に溢れる息子も最高峰だった。

 

 ―― ラッキー。とても素晴らしい!

 

 ちなみに、まだまだ大事な話をしている最中なので、嬉々(きき)として『早速、スキルを試してみるべー』と言っている場合ではない。

 陽二は紳士である。紳士らしく、後でこっそりねっとりと使うのがベスト! と考えていた。

 

 そんな陽二はうわの空。話に参加しているが、当然右から左でステータス画面とにらめっこ。

 ピコ、ピコとMPが減っていた。おおよそ10秒に1。1分で6、1時間だと360も減る計算だ。

 魔法術士のMP回復量は1時間で約200なので、差し引き160ずつ減っていく事になる

 

 このままでは魔力がなくなってしまうので、陽二は躊躇(ちゅうちょ)せず、職業をMPの減らない異世界人に変更。

 

 ―― おおっMPが20に増えている!?

 

 前回と変わった点は、スキルが増えたことなので、もしかしたら異世界人のMPは、スキルの数で増えるのか? と陽二は予想した。

 それと何故か、職業やスキルの名称だけを変更できるようになっていた。これは、偽装に使える。陽二は試しに異世界人を日本人へ変更してみた。

 

 ―― これで俺は、ジャパニーズだぜ!

 

 さて、1人でくだらない事をしている場合ではないので、陽二は話に耳を傾ける事にした。

 

「寄生虫は全て駆除しました。トパンの跡地は、ゴブリンが巣くっていましたが全て討伐。念のため村ごと焼却しました」

 

 ―― アスモさんって、見た目によらず……

 

「ゴブリンか、妾は初めて見たが、こっちにも魔物どもを退治した後、わらわらと出おったのぢゃ」

「急に変身が解けたから焦ったぞ。連絡もつかなかったしな」

 

「しかしおかしい話ぢゃ。4000は残っておったはずなのぢゃが、急になくなってしもた。ランス何かしたのか?」

「そういえば、パトリシアの母親に『水聖の奇跡』を使っている最中に変身が解けたな……」

 

「うむ、原因はそれぢゃな……まあ良い、タイミングは悪かったが、人助けに使おうとした事は正しい」

「流石わが娘、桜は偉いのう……ランスの戯(たわ)けが、かわいい娘に迷惑をかけるでない」

 

 娘の頭をもみくちゃに撫(な)で回した唯は、平謝りするランスロットに、刺すような視線を向けていた。

 

 ―― ランスが不憫すぎる……しかしゴブリンか、序盤に現れるテンプレモンスター。この世界にもいるんだな

 

「妾が扉を破れなければどうなっていた事か!」

「ママが助けてくれたんでしょ?」

「そうじゃ。桜の為なら火の中水の中、箪笥の外は当たり前じゃ」

「うん! ありがとう! ママ!」

 

 ―― うおぉぉぉ体中に鳥肌がっ! どっから出してる声だよ

 

「それと、発生源も特定して駆除しました。その発生源であるダンジョンのリヴァイアサン様に頼まれたのですが――――」

 

 ―― リヴァイアサン? 超大物じゃん

 

「なる程な、その鉱石は持ってきておるのか?」

「これです。スノームに報告済みなので、すぐにでも調査に向かうと思います」

 

 そう言いつつ、アスモデウスは青い玉や鉱石を渡した。

 

 ―― あれって……風呂場で見つけた物に似てるなぁ

 

「かなりの魔力を吸収しておるようじゃ、代わりに使えるかものう」

 

 桜は魔力のなくなった腕輪の珠を外すと、代わりに青い玉をはめた。不思議なことに、外した珠は10円玉からソフトボールの大きさになった。そして硬球ほどの青い玉を腕輪に近づけると、10円玉の大きさで腕輪に装着された。

 自動で、腕輪にある穴の大きさに変化する仕組みなのだ。

 

「これはすごいのう。玉1つで5万も蓄えておる」

「それはすごいな。大発見じゃないかのか?」

 

 ランスロットも驚きの声をあげた。

 今までの珠は、魔力を充填(じゅうてん)しても1万が限界だったのだ。それがいきなり5倍である。ランスロットが驚くのも当然であった。

 

「これは良い物が手に入ったのう。アスモ、残りの玉も渡すのじゃ」

 

 △△

 

「次は妾ぢゃな。さっきも話したが魔物は全て討伐、ゴブリンは母様が退治してくれたのぢゃが、やつらが何者か調べなければならないが……まずはシアの母親ぢゃな」

「それでは、王妃様が目を覚まされてから容体を確認。大丈夫そうでしたらトパンへ向かいましょう。ちょうど、その洞窟の中に転移魔法陣があります。

 それと、宿場町に預けた女性たちも気になりますし……あっ、そう言えば、トパンの地下にゴブリンと人の子供がいたのですが……」

 

「ハーフか。魔物化もある、かもぢゃ……判断は王か魔王に任せるしかないのう」

「あとはスノームに帰って、塔の修理とリヴァイアサン様のダンジョンの調査報告ですね」

「うむ。宿場町の建て直しの依頼と、念のため、もう一度寄生虫の捜索も必要じゃろう」

「分かりました」

 

 ―― なんか、トントン拍子に話が決まっていくなぁ。俺の場違い感っていったい……

 

「次は腕輪の件ですね。通信と転移ができないのは、遠征の時と同じですね」

「そうか! 結界路の外だからか」とランスロットが声をあげた。

 

「魔力の消費量も同じ原因かと思います」

「ふむ。考えてみればそうぢゃな」

「俺にも理解できるように頼むよ。あと遠征って?」

 

「遠征とは、ゼラニオンのもう1つのお仕事です。陽二くんは、マツサという町をご存じですか?」

「知ってます。実は、その近くで見つけてもらったんです」

 

「そうでしたね。そのマツサから約1万5千kmほど大陸沿いに南下すると、ハイパーリールと呼ばれる国があるのですが……その国の調査と、合法的な奴隷解放のため買い付けに行きます。

 順調に進めば往復2カ月程なのですが、その移動中にスノームとの連絡や腕輪間の通信・転移をするのに、水晶が必要なんです。簡単にいえば増幅装置ですね」

 

「なるほど……結界路の外は、水晶がないと通信や転移が阻害されるんですね」

「阻害というよりも、パワー不足の方が近いのぢゃ。しかし水晶ありきでも、腕輪の転移で帰ってくる事は不可能ぢゃ」

 

 ―― 水晶があれば、転移以外は使えるってことか

 

「常に持ち運んでおればいいだけぢゃが、見映えがいいからのう。日頃は、オブジェとして本部に飾ってあるのぢゃ」

「なんだそりゃ、日頃から持ち運んどけよ」

 

 そこで、話が一旦途切れた。

 

「他に報告すべきことは……陽二くんは何かありますか?」

「俺ですか? うーん。特にないですかね」

「それでは、王妃様がお目覚めになるまで休みましょうか」

 

 

 △△

 

 

 アスモデウスは、豊の作った料理に目もくれず、調理道具を取り出すと食事の準備を始めた。

 桜と唯はその側で、離れていた時間を埋めるかのような会話に夢中だ。

 たまに『ママ』と聞こえる。最初こそ違和感が大きかった陽二も、睦まじき仲にほっこりとしていた。

 

 その陽二は、ランスロットの披露する魔技の型を眺めながら、箪笥の確認をしていた。

 実際に使って分かったこと、このスキルは2通りの使い方があった。

 

 1つ目が、高さ20cm横45cmの引き出しが、8段ある箪笥を出現させるもの。

 

 全体像から見ても容量に心もとなく感じてしまうが、引き出しの中は異空間。底が知れないのである。

 残念ながら1~4段目は開かなかったので、異空間を確認できたのは5~8段目。

 恐る恐る中に腕を突っ込むも、出てくるのは枯れて原型を留めていない植物みたいな物ばかりだった。

 

 ―― おっ!?

 

 手に触れたものを取り出すと、中学校の社会科地図。傷みも少なく問題はなさそうだ。もう少し漁っても良かったが『契約した管理者』と『収納した本人』でないと、全容は把握できない事を陽二はスキルの説明で知った。

 

 そして2つ目を発見できたのも説明文からであった。

 こちらを使い目をつぶると、どこかの廊下(ろうか)が見える。例えると、VRゴーグルを着けて見ている感覚に近い。廊下には扉が8つあり、5つの扉には表札があった。

 

 その中の1つだけ2つの表札が付いていた。《セナドゥース》と《唯》と書かれていた。それを意識すると、色々な項目が記載されたものが頭に浮かぶ。

 

 管理者 《セナドゥース》

 ■外出許可 ■魔力補助 ■魔力分与

 ■自主攻撃 □命令服従 ■属性行使

 ■主人呼出 ■部屋拡張 □強制収容

 

 こんな感じに。

 住人は管理者と呼ばれ『□OFF/■ON』になる。

 項目は他にも増減可能のようで、現在、管理者に不利な項目は全て□になっている。

 

 この事から本条司は、聖霊の行動を縛る事なく信頼していたのが分かる。逆に考えると、意のままに制限するのも可能なのだろう。

 

 陽二は、唯の表札も確認……こちらも不利になりそうな部分以外は、■になっていた。

 

 管理者 《本条キャロル唯》

 ■外出許可 ■魔力補助 ■魔力分与

 ■自主攻撃 □命令服従 ■属性行使

 ■主人呼出 ■部屋拡張 □強制収容

 

 どうしてこの扉だけ2つあるのか? 不明なものの、陽二は悪知恵を閃いた。イレギュラーなのか、唯は自身の表札があるなどど思ってもいないはずである。

 あるなんて分かっていたら、陽二に箪笥を預けるはずがない。

 これは、ビッグチャンス到来の予感である。『俺の時代が来た!』そう考えた彼は、唯の命令服従をONに設定。

 

 仕込みを終えた陽二は、扉を開け部屋の中に入った。

 ―― !?

 その瞬間VRモードは終了。実際その部屋の中に立っていたのだ。

 

「陽二」

 ――!?

 体を揺さぶられる感覚と声に驚き目を開けると、型を中断したランスロットが隣に座り、彼の顔を心配そうにのぞき込んでいた。

 

「どうした疲れたのか? 少し横になるか?」

 

 一瞬何が起こったのか理解できなかった陽二だが、心配するランスロットの声に嬉しさを感じた。

 

「ありがとう大丈夫だ。それより、おまえも疲れた顔をしているぞ? 少しでも横になればどうだ?」

「はっまさか! 私が眠りについた無防備の間に、あんな事やこんな事をしようと思っているのか? む、それもまた妙案かもしれないが、どうせなら私が起きているときに……ち、違う。陽二を王宮へ送った日の事を覚えているか? つい先日のあれだ。わ、私のむ、胸を苛めたアレだ!」

「あの事なら謝っただろ? 帰ったらパフェをごちそうするよ」

 

 するとランスロットは、頬を赤く染め青い瞳の上目づかいを向けながら口を開いた。

 

「パ、パフェよりも――あ、あれだ! 陽二にされた事を思いだしたらだな、何故か下腹部がじんじんするのだ。だ、だからだな……もう一度やって欲しい……」

 

 最後の言葉『もう一度やって欲しい』は消え入りそうで、とても小さく尻すぼみの言葉だった。

 しかし、陽二のデビルイヤーにはハッキリと聞こえた。さらに脳内変換で『めちゃくちゃにして!』と付け足された。

 

「おまえぶっ込んでくるな……しかし、いいのか?」

 

 今の陽二には黄金指(ゴールドフィンガー)がある。本気でやれば、ランスロットはどうなってしまうのか……見てみたい気もするが、本格的なマッサージで誤魔化せばいいだろう。

 

「今すぐ、という訳ではない。もし良かったらだ」

「わかった。まぁ、そのうちな」

「約束だぞ?」

「わかったわかった。でも、少しくらいは休んだ方がいいんじゃないか?」

 

 邪魔者扱いにしている訳ではないが、箪笥の検証に戻りたい陽二は休息を進めた。

 

「と、隣で眠ってもいいか?」

「そりゃあ別に構わないけど?」

 

 陽二の承諾を受けたランスロットは、隣にタオルで枕を作ると、そそくさと仰向けになり、無防備に目をつぶった。

 

 ―― 早っ! もう寝息が聞こえるんですけど!?

 

 野比のび○にも負けぬ早寝である。

 そんな無防備ランスロットにチラリと目を向ける。

 

 ―― 本当にかわいい美人だな。だけど、紳士な俺じゃなかったら危ないぞ?

 

 見事な山脈に目を奪われ、思わず登りそうになっている男が何を偉そうに……断腸の思いで目を逸らした陽二は、気を紛らわせる為、地図帳を広げた。

 

 それは、前半に世界地図。後半に日本地図が載っている普通の地図帳だった。

 富士山周辺の地図を確認すると、丸印が付けてあった。

 王都やその周辺の町があるのは、神奈川県。これは陽二の予想通りであった。

 

 ―― 桜島も富士山もあるし、そうだろうとは思ってはいたけどさぁ……そして、月や見慣れた星座もあるけど――――まあいい。考えるだけ無駄か……

 

 今考えても仕方がないだろう。

 陽二でも気付ける事なので、当然、他の先輩異世界人たちも気付いているのが道理。なら、この事は何れ分かる時が来る。

 そう考えを放棄した陽二は、この世界の地図という意味では大きな役割を持つ地図帳をパラパラと確認。

 

 青森と宮城にも丸印。青森平野が塗り潰されている不自然さがあった。それと、丸印の規模が他と比べるとかなり大きかったが、マツサは鹿児島で確定。桜島にも丸印があった。

 そして薩摩半島の南、陸続きになっているのか、開聞岳(かいもんだけ)付近から沖縄まで茶色い線が引っ張ってあった。

 

 

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