唯の瞳が怪しく光っていた。しかし、言いたい放題のセナドゥースは、まだ気づいていない。
「早く謝らないと、もっと酷い命令をしちゃうよ?」
油を注ぎながら立場が上だと思っている彼女は、唯と言う名の業火に、これでもかと燃料を投下していた。ご愁傷様である。
それに気づいた陽二の、会社勤めで身に付いた処世術は見事であった。
―― よし決めた。少しでも被害を受けないように、唯さんの味方をしよう。うん、それがいい。
よく言えば空気の読める人、悪く言えば八方美人である。それぞれの立場で印象は変わるものの、決して他人から褒められる人物ではない。
しかしやっぱり陽二くん、自分可愛さヤーレホレである。
「セナ、もう止めよう。唯さんも悪いと思ってるだろうし、これ以上やっても意味なんてない」
まあよく回る口である。
唯を
『ずるい・汚い』と、若者が老害を批判する事例そのものである。
「駄目だね。ボクは、おかんむりなのさ!」
「ほお……」
セナドゥースの言葉を聞いた唯は、顔を下に向けたままゆっくりと立ち上がった。嵐の前の静けさのように
「コラ! 誰が勝手に立っていいって言ったんだい? 土下座をするんだ!」
―― セナって、何処から見てるんだろう……
もう、この争いに関係のない外野になったつもりの陽二が、そう感じている目の前で、コクッとセナドゥースの言葉に肯定の
そして、ベッドで眠るセナドゥースの上に、正座の姿勢のまま……ジャンピングニードロップをくらわせた。
彼女の体は、その勢いでくの字に曲がった、と思ったら、セナドゥースが発した
ベッドはビクともしていない、頑丈な作りのようだ。
―― 動けない相手にえげつねぇ……
「唯っ! 何をするんだっ!」
状況が理解できないセナドゥースは、狼狽えながらも
「スマンのう。
「唯っ!」
ギリギリと
「ベッドの下! 床に土下座するんだよっ!」
唯の口は笑っていた。
そしてセナドゥースを床に寝かせると、ベッドの上に立った。
「ちょっ唯さん?」
「ちょ、ちょっとお!? 何をやってるの? や、止めてよ。唯、やめて!」
唯は、床に寝かせたセナドゥースに背を向けたまま言った。
「確かに妾にも悪い部分はあった。陽二を
「えっ無効にできた?
「そのまんまの意味じゃ。箪笥の方から妾に声をかけてきおったぞ? 『項目を破棄します』とな」
「声だって? 嘘を言うんじゃないよ唯。ボクだって聞いたことないのに!」
まるで、箪笥に人格が宿っているかのような唯の言いぐさに、セナドゥースは反論する。
当然だ。そんな話、司や他の聖霊達から一度も聞いたことがない。もし本当に声が聞こえるのだとしたら、必ず話題に出るはずである。
「しかし妾は実際、項目を箪笥に破棄させ無効にしておる。ほれっセナ。陽二は気付いておるぞ?」
「マスター本当なの?」
「本当だよ。管理者項目《唯》にアクセスできない」
形勢逆転である。虎の威は借りられたけど、その時間はあまりにも短かった。
ごくり……
「よしっ唯! 水に流して仲直りをしようよ……ね?」
その声を聞いた唯は、とても素敵な笑みをセナドゥースに向けた。
―― 許してくれるんだ!
そう考えた陽二が「流石です唯さん。大人ですね……」と言った目の前で、唯はセナドゥースから目をそらすと天井スレスレまでジャンプした。
クルッ
そのまま膝を立てた状態で、セナドゥースのおなかに『ムーンサルト・ニードロップ』を鮮やかに決めたのだ。
陽二は、耳に届くセナドゥースの痛みと苦しみに喘ぐ声を聞きながら『うわぁ刺さってるよ……』と呆然。
立ち上がった唯は、そんな陽二を素早く捕まえると、セナドゥースの上にボディスラムで投げ落とした。
「ゲフっ」―― やっぱり俺にも制裁があるのね……
「ごめんだからもう止めて、許してよ、唯……」
涙声で許しを請うセナドゥースの声をバックミュージックに、チョークスリーパーをかけられていた陽二の意識は、そこで途切れた。
コツン。
どれくらいの時間が経過したのだろうか。
軽い衝撃を受けて陽二が目を覚ますと、ベッドに眠るセナドゥースと陽二を蹴り起こした唯の他に、見知らぬ女の子がいた。
小学校低学年くらいだろうか?
田舎の田んぼ脇を走り回っていそうな女の子。
肩上ほどのストレートの黒髪で、褐色に日焼けした肌。目はパッチリとしていて、とてもかわいい。
白のランニングシャツに膝上の水色ズボン。靴は履いておらず、ベッドに腰かけていた。
よく見るとセナドゥースと女の子は、黒いモヤモヤしたもので繋がっているように見えた。
何はともあれ後回し、優先順位は女の子に挨拶だ! と陽二は考えた。
「かわいい子だね。俺は陽二、君の名前は?」
「かわいい!? ……言われた、初めて。レヴィはレヴィ。
何処に驚く要素があったのか。
驚愕の表情を見せたレヴィは、片言ながら自己紹介を済ませると、立ち上がり陽二にペコリと頭を下げた。
―― めちゃくちゃかわいい! マジ天使!!
△△
レヴィと名乗る女の子は、何処から現れたのか? 時は少しだけ戻る。
陽二が唯のスリーパーで絞め落とされた後、さらなる攻撃に
「ゆ、唯? どうしたの? このまま絞め殺すとか、ないよね?」
唯の抱きしめる力が強くなった。
しまったやぶ蛇だった? と後悔したセナドゥースに、思いもよらない言葉が投げかけられた。
「ありがとう。セナのおかげで、この胸に娘を抱けた」
唯は娘にスキルを移す代償として、娘の面倒をセナドゥースに任せて自分の命を賭けた。
実際、アスモデウスの元にたどり着く前に、2人で話し合っての結論だったし、セナドゥースも納得してくれた。
しかし彼女は、自分よりも唯が残るべきだと考えて自身を代償とした
そのお互いを思い合った結果、箪笥の中に閉じ込められるアクシデントがあったものの、奇跡が起こったのだ。
「ボクの方こそ……。じゃあ許してくれる?」
「うむ。
するとその時、唯とセナドゥースの抱き合っているその間から声がした。
「不服にモヤモヤ。レヴィは、許さない。ニードロップよくも、バカの魔王、くその聖霊。レヴィは、4両もらう。ついでに拾った財布と、名奉行の財布も」
そう言い終えると自分のことをレヴィと呼ぶ女の子が、唯とセナドゥースの間から飛び出てベッドの上に立った。
シャキーン!
実は、唯とセナドゥースは、このレヴィという名前は知っている。
それは、司たち勇者が呼ばれた元凶。
かつて世界中のダンジョンを
その名も、真魔王レヴィアタンだった。
「うぬがレヴィアタンじゃと?」
「レヴィアタンは、封印されたはずだよね?」
しかし女の子は、2人の知っているレヴィアタンとは顔も姿も全く違った。だが、レヴィアタンゆえの醜さは持っていた。
唯とセナドゥースから見たその子は、目が腐るほどの醜悪な面構えをしていた。目はただれ、頭はところどころハゲ散らかしていて、口は裂けそのスキマからは、目に見えるような悪臭を吐き出している。
着ている服は、ボロボロの布切れである。
これはレヴィアタンの能力、というよりも呪い。
他人からは醜く見える、生まれた時から付きまとう呪いだ。ある1人を除いて
「レヴィは、華麗に復活! 封印は、既に、解かれていた……ゲホッ!?」
ごちゃごちゃ宣うレヴィアタンの
残念ながらセナドゥースは攻撃ができないのか、「唯! もう一発」と口で援護射撃。
「この馬鹿、突然、何する」
「黙れ。どうやってここまで来たのか解せぬが、今度こそ、地獄の底にたたき落としてやるのじゃ!」
ビクッ! 威勢よく出てきたものの、レヴィアタンには攻撃手段がなかった。
「ま、待つ。ちょっと待つ。レヴィは、抵抗する力はない」
レヴィアタンは、イヤイヤと手を振りながら降参を態度で示した。しかし、その行動と醜悪な姿が不釣り合いだったのか、唯の神経を逆なでした。
「不細工がうるさいのじゃ! 死にさらせ」
聞く耳持たぬ! と、ボッコボッコのフルボッコにしたところで、反撃をしてこないレヴィアタンに興味をなくした。セナドゥースをベッドに寝かせると、陽二に軽いトウキックを当てて起こしたのだ。
△△
「な、な、なっ!? ……この醜悪が、かわいいじゃと? うぬの目は腐って落ちて再起不能じゃのう」
「ボクも唯に1票」
陽二の言葉が信じられないのか、「手遅れじゃのう」と呟く唯は、陽二の治療を諦めた。
―― 手遅れって、唯さんは何を言ってるんだ……?
形容するならば、何も知らない
「唯さんにセナこそ何を言ってるんですか?
かわいい! の定義は、人それぞれなので仕方ない。なので陽二は、少し変だなぁと思いながらも問いかけた。
「なにをたわけた事を――!?」
「本当だよ。ボクなんて聖霊だよ? 清い心しかないってのにさぁ――!?」
―― 誰が清い心の持ち主だって? そんな心の持ち主は、仕返しとか考えません! ウソをつくな!
「「
陽二に言われて、もう一度レヴィアタンの姿を確認した2人の目に見えたのは……ベッドにちょこんと座る、かわいい女の子。その笑みは向日葵。いや、女の子の周囲にたくさんの向日葵が見えた。
目をごしごし。幻覚?
―― なんてことじゃ。心の汚れが流されていく。
何時からこんなに汚れてしまったのじゃ? こんなにかわいい
「って、なんでやねん!」
唯のツッコミが、陽二の胸板にたたき込まれた。手加減しているのだろうが、彼女の逆水平チョップは、陽二を軽々とふっとばした!
「陽二っ!」
なんたる暴挙だ!
彼を心配して声をあげたレヴィアタンは、飛んで来る陽二を空中でキャッチ。しかしながら、勢いをおさえきれず彼ともども壁に激突してベッドの上に落ちた。
痛いけど、痛かったけど、レヴィアタンの献身的な行動がクッションになったのか、陽二には傷ひとつなかった。
バッと顔を上げた彼は、レヴィアタンを抱きしめ吠えた。
「唯にゃん、なにすんねん!」
「誰が唯にゃんじゃ!」
しかし陽二の言った通り、曇りなき
自分の上を通りすぎた陽二にひやひやしたセナドゥースは、信じられず絶句していた。
陽二の「唯にゃん」呼びに声をあらげてしまった唯も、「むむっ」と眉間にシワを寄せていた。
唯と対峙するように壁に背を当て胡座になった陽二は、守るようにレヴィアタンを足の間に座らせた。
ガルルルー
「大丈夫、陽二」
するとレヴィアタンは、自分の『呪い』という物を説明し始めた。
レヴィアタンは、
その非難が、嫉妬心へとつながり力と呪いが増す循環機構。
逆に陽二が言ったみたいに、レヴィアタンを喜ばすような言葉を受けると、呪いが薄れるのである。薄れたからといって、レヴィアタンが弱くなる訳でないが……
その陽二に呪いの効果がないのは、映画の
「ならば、ソレが本来の姿なのか?」
唯が問うと、レヴィアタンは『違う』と断言した。
彼女の元の姿は、20代前半の容姿である。今は、分身体の姿なので幼く見えると言った。
「分身体? そこ、詳しく」
陽二が突っ込んだところ、レヴィアタンは続けて説明。
「元を100、とするなら、今は5くらい――」
詳しく話を聞くと、レヴィアタンはとある目的のため、豊にバラバラにされていたと判明。
レヴィアタンは、相手の嫉妬心を煽って心に侵入。人の恨みやねたみ、悪しき物を送り届ける事ができるのだ。そのため、聖霊たちを
精霊という生物は、基本的に独占欲という名の依存度がものすごく高い。それが精霊の力に反映されるので、仕方のないことなのだが……
聖霊も同様で、正妻の唯に全員が嫉妬していたのだ!
その事を見抜いていた豊によって、嫉妬心から侵入され穢されてしまったのである。
△△
レヴィアタンの言葉で、部屋の中に重苦しい空気が漂い始めた。そんな中、陽二も少なからずショックを受けていた。『豊』寄りだった心情は、レヴィアタンにした仕打ちを聞いて大きく傾きかけていたのだ。
「ふむ。穢れや呪いの類いで間違いなかった訳じゃな………」
「そうだね。唯に嫉妬か……」
その言葉を最後に情報の整理でもしているのか、お互いが黙り込んだ。
「ふむ、今さらじゃな」
唯のそんな呟きで話が再開された。
「ところでレヴィ、なぜ今頃になって現れた? 目的はなんじゃ?」
過ぎ去った出来事の整理はついた。大事なのは、今からの行動である。しかしその前にレヴィアタンの事だ。情報を与えてくれたとは言え……その真意を、敵か味方なのか、目的を探らなければならない。
「バカの暴力で、飛び出た?」
レヴィアタンはそう言った。
そもそも、ついさっきまでレヴィアタンに意識はなかったのだ。唯のサマーソルトで自我を取り戻した瞬間、数十分前の出来事はセナドゥースのおかげで理解はしていたが
「それって、ボクと繋がってたってこと?」
「ある意味、一心同体だった。でも、『穢れ』薄れてる、今も繋がってるけど、別々の存在」
「結局、今までレヴィとしての意識がなかったってこと?」
陽二から見た今のレヴィアタンは、田舎に帰ったときの
「そう」
頭を撫でられたレヴィアタンは、目を見開き驚いた表情で短く答えた。撫でられるのが気持ちいいのか、目をつぶると陽二に身を任せ始めた。
「おふ、気持ちいい。こんな気持ち、初めて、生まれて……」
ふにゃふにゃになった彼女は、夢心地の真っ只中。片言ながら、昔の事を呟き始めたのだった。
△△
そもそもレヴィアタンに、ダンジョンの
ただ、自分の想い人を探してもらおうと、とある人物に助言を受けた方法で、魔物にお願いしただけだったのだ
それが結果的に、世界の大半を滅亡に追いやってしまったのだが……その容姿ゆえ、どこへ行っても化け物扱い。話すらまともに聞いてもらえず、魔物に頼った後悔はない……と愚痴をこぼした。
「ふむ……ひとつよいか? あの時も不思議じゃったが、おぬしが魔物を排出したダンジョンは、当時最大数のダンジョンを管理しておった、魔王ギルガメッシュのものばかり。どうやって排出したのじゃ? 例え奴を倒したとしても、ダンジョンの管理権までは奪えないはずじゃが?」
「そんなの知らない。でも多分、ギルガメッシュは、レヴィ。
――― ギルガメッシュって誰? おっぱいいっぱいの深夜番組なら知ってるけどさっ!
「マスターは、エロばっかりだね……」
セナドゥースの呆れた声が部屋全体に響き渡った。
―― しまった。筒抜けだったかのか……しかし、空気の入れ替えは完了した。予定通り!
そう考えた陽二は、誤魔化すように口を開く
「昔話はまたの機会にやるとして……結局レヴィは、穢れなんだよね? セナの穢れを取り除く方法、知ってる?」
陽二は、遠慮なんてナッシング。そんな感じでレヴィアタンを後ろから抱きしめると、クンカクンカと匂いを嗅ぎ始めた。もちろんエロい意味でなく、かわいい
しかし一般的には、危ない人であるが……
「レヴィは、レヴィ。侵入する切っ掛け、穢れは、違う。くそ聖霊に憑いてる、
レヴィアタンは、窓の外に指を差した。
するとそこに、ユラユラと
「うん? アレは、セナが妾のために出していた練習相手じゃのう」
「ボク、あんな不気味なモノを出した覚えはないんだけど? それ以前に、魔物を呼び出す聖霊なんて居るわけないでしょう?」
「そうじゃのう。あれがレヴィの言う穢れだとしても……妾はお主らを喜ばした覚えはないが……」
すると、レヴィアタンが答えた。
「多分、
「レヴィはいったい、どっちの味方なん?」
レヴィアタンの言葉は難解だが、要は『穢れ』が自滅していると言いたいようだ。そんなレヴィアタンに、陽二が呆れ顔で
「こんな気持、知ったら、嫉妬は不要。レヴィは、所望。 もっと、もっと一杯。陽二、任せた」
「もっと構って欲しいって事だね。任された! そう言えば、想い人は見つかったの?」
「まだ未発見。この仕事と交換、マモン捜索の約束。でもレヴィ、バラバラ……会いたい、リヴァイアサン」
「「んっ?」」
唯も気づいたようだ。当然、陽二にも聞き覚えがある。
寄生虫の発生源となったダンジョンの主で、アスモデウスに頼み事をした人物? を
「レヴィよ、妾はリヴァイアサンがどこにおるか知っておる」
「ま、まぢで?」
「うむ。でっかいマジじゃ! のう、陽二」
「はい、確かに」
「会わせる、頼まれる。そして、レヴィを全て集める」
レヴィアタンは必死に懇願した。
唯も陽二も、いい加減レヴィアタンの言葉使いに慣れてきたので、言いたい事は理解している。なのでツッコミを入れる無粋な真似はしないが、裏切らない確証は欲しい。
なので唯は、ちょちょいと箪笥に指示を出した。
「レヴィは今後、絶対服従じゃ! 陽二、レヴィを管理者に登録させた。確認するがよい」
目を瞑り扉を確認すると、唯の名札が消えてレヴィの名札に変わっていた。管理者項目を開くと《絶対服従 ■》の1つしか項目は選べず、現段階、箪笥から外出はできない。
外出するには何か、例えば『信頼を勝ち取る』等の条件を満たす必要がありそうだ。それまでリヴァイアサンに会えないが、唯はレヴィアタンに納得させた。
―― 唯さん、あんたって人は容赦ないぜ!
確認を終えた陽二は、唯に頷くと管理者項目を閉じた。これでレヴィアタンは、裏切れない仲間になったも同然なのである。
切りが良かったのか、ここで少しだけ今後の方針について話し合った。
当分の間は、陽二の睡眠時間に『3倍の時間』を使って、セナドゥースの穢れを除去する方向で決まり、出現する魔物は唯が担当する事になった。
大枠が決まった事で陽二は、先ほどサラッと流してしまったが、レヴィアタンの口から出たある人物について尋ねた。
「ねぇレヴィ。マモンって誰?」
「マモンはマモン、魔王マモン。レヴィをバラバラにした、聖霊に穢れを打ち込んだ奴。そして、2つの町を、戦争に仕向けた張本人!」
陽二は、王ダグリオスから聞いた500年前の話を思い出した。あれの首謀者は、力と技の2人の勇者である。それを踏まえて考えると、魔王マモンの正体はどちらかの勇者なのだろう。
しかし唯の話によると、2人の勇者は唯たちが襲われる前に元の世界へ帰ったはずである。
『ふむ』と声がした。
実は、唯や聖霊セナドゥースは『あの戦争の犯人は、2人ではない』と思っている。彼女たちも司と同じく、戦争の鎮静化に尽力した立役者なのだから。
当然、勇者2人にも事情を聴いており、当時流布していた噂は根も葉もないデタラメだと、彼女らの最も信頼する司が判断したのだから。
なので唯は、レヴィアタンの話からある推測を導きだした。
「戦争を引き起こした本当の犯人は、豊じゃな? そして奴は、戦争を止める為に動いた『真魔王』を殺害し、勇者を棄て真魔王になった」
―― ええっ!? 豊くんが真犯人?
陽二は、戸惑っていた。実は、昔から容疑者だと言われていた話は間違いで、勇者2人はシロだと。真犯人は豊であると唯は言う。
何が本当で、何が間違いなのか……
しかし、当時を知る、マモンと協力関係にあったレヴィアタンが断言したのだ。確固たる証拠を示された訳ではないが、信憑性は極めて高い。
豊への信頼が、大きく音を立てて崩れていく。
「ちょっと違う。魔王マモンは、レヴィが、嫉妬で堕とした、勇者に、敢えて倒された」
「敢えてじゃと?」
「そう。あの体は、人格、2つ」
―― なに?
それを聞いた陽二は、話に割り込んだ。
「マモンは、豊くんに乗り移ったって事?」
「知らない。でも、変わるは本当、人が」
「真魔王を倒せば、その力を引き継ぐのは理解できるのじゃが……ふむ。とりあえず豊の体には、豊とマモン2つの人格があると認識せねばなるまいな」
―― て事は……悪さを働いていたのは、マモン!?
陽二は、もやもやした何かが晴れた気がした。そして、戦争を引き起こしてレヴィアタンに酷いことをした。他にも余罪がありそうだが、そのすべての犯人をマモンと決めつけたのだ。
「そう言えば、唯さん。魔王って『勇者や聖霊より弱い』って(司の手記)書いてありましたけど、結局マモンは弱体化したんじゃないですか?」
「確かに
そんな唯の、上からな物言いにレヴィアタンが噛みついた。
「虚言、妄想。レヴィは、負けてない。レヴィは、封印されただけ、卑怯者。誰にも負けない」
「嘘はお主じゃろうが! 妾と司でフルボッコにしてやったのを忘れたのか?」
実際は、レヴィアタンVS勇者連合である。
勇者連合の内訳は、勇者4人+五精霊に唯とアスモデウスが参加していた。当時の唯たちの実力は分からないが、それと拮抗した真魔王レヴィアタン・メルビレイが、どれだけ強大だったのか……
「うんこは卑怯者。1人だったら、圧倒的勝利ぃぃ痛っ」
―― うげっ
レヴィアタンの口を塞ぐように、唯のデコピンが炸裂。その衝撃は、陽二にまで届いた。
「唯さん、暴力はダメです!」
「暴力ではない」
唯は『うんこ』発言を注意しただけである。この世界にパワハラなどのワードは存在しないのだ。あと、幼女虐待でもない。
「まぁよい。それに今の妾は、あの頃とは違う。間違いなく、1対1でも勝てるのじゃ!」
△△
「マモンは、レヴィより強い、たぶん」
自分であれだけ豪語するのだ、唯の実力は高いのだろう。しかしそれでも、マモンの実力を過小評価するのは間違い。なので、情報収集だ。
「極秘情報」と呟いたレヴィアタンは、隣に来いと唯に手招き。だが心配ご無用。ここは箪笥の中だから、誰かに聞かれる心配はないのだ!
そう考えた陽二はレヴィアタンを持ち上げると、唯の前に場所移動。さあ、どんと語りたまえ!
「マモンは『限界突破』『ネズミ講』ってスキル持ってる。ヤバイ!」
●限界突破
レベルの限界がなくなる
●ネズミ講
支配下にある者(その子孫も含む)が得た経験値の半分を得る。
得た経験値を支配下に分配する。
そう言ったレヴィアタンは、スキルの能力も知っていたようで、陽二たちに伝える。
―― この2つ相性良いな……
「さらに、倍率どどん」
レヴィアタンの秘密情報はまだまだ続いた。
どれだけ情報が筒抜けなのだろうか……レヴィアタンの情報収集能力が優秀なのか、マモンがマヌケなのか、敢えて教えていたのか……判断に迷うところだ。
「マモンが、ちょろっと話した。帰還魔方陣?」
王都にある、元の世界に帰すための魔方陣である。
「実はあれ、装置、マモンが、スキル集める」
―― マジかよ……。どんだけチートなんだよ! でも豊くんが、どうしてあんなにスキルを持っていたのか不思議だったけど、そんな方法があるなら、労せずスキルを集める事ができるな……あれ? スキルを奪われた人はどうなるんだ? 元の世界に帰れたのか?
「スキルを奪われた人は、どうなるの?」
「問題無し、無事に帰還。スキル集めは、後付け」
「それなら安心だね。でもそれを聞いて思ったんだけど、
「違う、仲間。知らない王、無知は罪。勝手に細工、マモンは夜なべ」
―― しっかし凄いな。用意周到でしたたかな魔王だよ。これは一筋縄ではいかなそうだな。でも豊くんに嫌な感じは全くしなかったし、
何だかんだと話も終わり、マモンの事は取りあえず置いておく事になり、セナドゥースの穢れ除去を優先させる事になった。
レヴィアタン1人を喜ばしてもいいが、それと並行してセナドゥースへ刺激を与えると、穢れの出が良いらしい。
おそらく、喜ばすだけでは慣れてしまうのだろう。
なので『嫌だよぉぉ!』と喚き喜ぶセナドゥースの体に刺激を、つまりマッサージで刺激を与える事になった。残念ながら、口しか出せない彼女に拒否権などないのだ。
陽二は、レヴィアタンと小粋なトークを交えながら楽しませ、セナドゥースの腕に