※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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陽二と魔力操作/入門

 

 陽二は、箪笥の外に出ていた。

 その際、漆黒の魔物相手に鍛練すると言う唯から

「今後の事を考えれば、魔技の習得も一考じゃぞ?」

 と言われた。

 

 今までは一般ピーポーである自分が、何かと戦うイメージは持っていなかった。彼の周囲は実力者揃い。なので、任せておけば何とかなるんじゃないか? そんな考えを持っていた。

 焚き付けられた訳ではないが、彼も男の子である。夢とロマンティックが止まらないどころか、人並みに溢れている。

 ファンタジーと言えば、剣と魔法。なら、かっこよく扱えるようになりたいじゃないか!

 

 ―― ゆくゆくは、伝説の冒険者とか呼ばれてみたい!

 

 夢とロマンを追うのはタダで、誰にでも持てる平等な権利だ。という訳で彼は、王妃に施された魔法が終わるまで、桜に学ぼうと考えた。

 彼は抱っこしていたパトリシアを、敷いたタオルの上に起こさないように寝かすと、ぶつぶつ呟きながら仲間の腕輪(ゼラブレスレット)を弄(いじく)っていた桜の元へ

 

「俺の伝説が始まる、剣を教えてくれ!」

「んっ?」

 

 桜は、木の枝を取り出し「これが乙女戦闘棒(ゼラステッキ)ぢゃ!」と言った。

 

「うん? それで?」

「違ったか?」

 次は魔鉄製の剣を取り出した。

「ゼラソードぢゃ!」

「剣の名前は聞いてねーよ。扱い方を教えろっつってんだよ」

 

 桜は、別な事に思考の大部分を割いていたのか、彼の言葉を咀嚼できず、意味が分からん。そんな顔をしていた。

 

「誰に、誰が、なんのためにぢゃ?」

「俺に、おまえが、俺の伝説ENDのためだ!」

 

 桜は呆れ顔で、それでも優し気な声を発した。

 

「モブのクセに、3万年早いのぢゃ!」

「死んどるわ!」

 

 冗談はさて置き。彼女は、教えを求める者を突っぱねるほど狭量ではない。しかし彼女もまだまだ教わっている身である。彼を導く実力はあるが、経験不足なのは否めない。

 なので、もっと良い適任者に託す事にした。

 

「ならば、アスモに魔技を習えばよい。魔法は別ぢゃが、魔技は剣術だけでなく、全ての武術に応用が効くのでな。アスモには妾(わらわ)が推薦してやるのぢゃ」

 

 陽二からしたら願ってもない提案だった。魔技うんぬんはどうでもいいが、口の悪い桜に教わるより、優しそうなアスモデウスに教わった方が楽しそうなのは明白。

 

「悪いな、頼むよ」

「よい、気にするでない。しかし、頼まれた手前なにも教えぬのもアレぢゃのう……」

 というわけで魔法、特に魔力の操作を教わることになった。

 

 

「では始める。拍手!」

 

 パチパチパチ

 

「では陽二くん、魔法とはなんぢゃ?」

「便利な物です。火を出したり水を出したり」

「他には?」

「敵を蹴散らせます!」

「よし。わかったのぢゃ」

 

 陽二は、右手をピーンと上げた

 

「はい、陽二くん!」

「先生にとって、魔法とは何でしょうか?」

「ふむ。スーパーヒーローをやるためのモノぢゃ!」

「えっ?」

 

「次、魔力とは何ぢゃ?」

「魔法を使うためのMPです!」

「他には?」

「色々な事象を引き起こすための素です」

 

 陽二は、右手をピーンと伸ばした。

 

「はい、陽二くん!」

「先生にとって、魔力とは何でしょうか?」

「スーパーヒーローをやるためのモノぢゃ!」

「またっ?」

 

 陽二は呆気(あっけ)に取られた。

 

「何だよ! スーパーヒーロー×2って、真面目に答えろよ」

「妾は、至って真面目。それ以外に何があるのぢゃ? よいか陽二、目標は何でも良いが難しく考えるのは厳禁ぢゃ! ぢゃからアレはできない、コレはできないと自分で決めつけてしまう。魔法は使えて当たり前、目標のついで(・・・)くらいで丁度よい」

 

 ―― 意味がわからん……陽二は思った。

 

 桜の言葉は『魔法なんて使えない!』と思っている者に対しての言葉だ。人が体を動かす時、難しく考えるだろうか? 当たり前のように動かしているはずだ。

 彼女は、体を動かすのと魔法を使うのは、全く同じ感覚だと考えている。しかしこれは『使える者』の意見になるので、これを『使えない者』に伝えるのは、とても難しく壁が高いのである。

 

 

「次は実践ぢゃ! 明日のためにその1。陽二は魔法が使える。なのですっ飛ばして、明日のためにその8、魔力操作ぢゃ!」

「めちゃくちゃ飛んだな。俺は、その間に興味があるよ」

「細かい事を気にするでない! では、やってみ見せる。目ん玉かっぽぢって、よく見ておくのぢゃ」

 

 そう宣言した桜は、胸の前で手のひらを合わせると、そのまま両腕を前に伸ばした。手のひらを30cmほど離すと、間隔を維持したまま両手を左右に振った。

 

「どうぢゃ? やってみよ」

「今の? 何か意味があんのか?」

 

 取り敢えず桜の真似をしてやって見せた。まるで、幼稚園のお遊戯だ。

 

「なんぢゃそれは? 真面目にやらぬか」

「いやいや意味が分からんて。せめて説明ぐらいしろよ」

 

「むぅ……よく見ておくのぢゃ。こうやって魔力を集めるぢゃろう? 魔力に粘りを与えながら両手を伸ばして、引っ張っる。そして空気を抜くようにパンパンとやれば……ほれ、種のでき上がりぢゃ。最後に、熱したフライパンに油を引いて焼くと……ハンバーグの完成ぢゃ!」

 

 桜はどや顔で、取り出したフライパンをクルクルと回した。

 

「おい。何の話だよ……」

「まだ分からぬとは……それでは立派な料理人にはなれぬぞ? 諦めよ」

 

 陽二の肩に、ポンッと手を乗せた桜はそう言った。

 

「いやいやちょっと待てよ。魔法の話だろ? なんでハンバーグの話になってるんだ? なにそれ、おいしいの? おいしいけどさぁーって、違うわっ! どこから料理人の話に変わったんだよ」

 

 陽二は、取りあえずのってやった。

 とても面倒くさそうな顔をした桜は『30点ぢゃ』と呟きながら、同じ動作を繰り返した。

 

「ほれ、分かりやすいように色を着けた。それなら勘の悪い陽二でも理解できるぢゃろう?」

 

 桜は、薄い朱色のハンバーグを陽二に投げ渡した。

 

「なんだ? このカッチカチの塊は」

「それは、魔力の塊ぢゃ。同じ物を作ってみよ、やり方はさっき教えたぢゃろう? そうじゃなぁ、まずは水魔法でも代用すれば、目にも見えて分かり易いぢゃろう」

「なる程、そういう事か! ハンバーグを作る過程が、魔力を操作する練習になるんだな?」

「まあそうぢゃな。あとは、自分で創意工夫すればよい。妾はちと、やらねばならぬ事があるのでな」

 

 そう言うと桜は、邪魔になると考えたのか陽二から距離を取った。腕輪を取り外すと『合体』と胸が熱くなるような単語を呟いていた。

 

 陽二は早速、桜の真似を始めた。

 合わせた手のひらの中に水(ギフト)を使うと、隙間から水がピューと飛び出した。

 桜の言葉を思い出す『魔力を集めるのぢゃ』

 ―― 集める? 凝縮? まとめる?

 

「お兄ちゃん、何をしてるの?」

 

 すると練習していた陽二の元へ、睡眠を十分にとったパトリシアが、声をかけながら近寄って来た。

 

「起きるの早かったね。もう眠たくない?」

「うん、もうばっちしだよ。気持ちもだいぶ落ち着いたし」

 

 と言いながら、膜(まく)の時計に目を向けた。

 あれから結構な時間が経過していたようだ。豊の施した魔法が終了するまで、あと2、3時間だろうか。

 

「それでお兄ちゃん、何をしてるの?」

 

 水も滴るいい男の陽二は、桜に教わった魔力操作の練習をしていると伝えた。するとパトリシアは、持ってきたタオルを隣に敷くと、その上にチョコンと座りくっついてきた。

 どうやら甘えたい年頃のようだ

 

「シアにも教えてよ!」

 

 強烈な上目づかいだった。

 陽二に抱っこされ眠りにつくまでは、母親の事で気落ちしていた様子だったが、うまく気持ちを整理できて落ち着いたのだろう。

 陽二は、丁度いい気晴らしになるだろうと、桜に教わった練習方法をパトリシアにも説明していると……

 

 仲間になりたそうに、こちらを見ている!

 

 チラッチラッと桜が、パトリシアを気にしている様子が見えた。実に愛らしい姿ではないか。

 仲間に入りたいが、恥ずかしくて声をかけられない。そんな子供みたいだった。

 

 そんな様子に気づいた陽二だが、彼は助け船を出す気は毛頭なく、あえて無視した。

 ―― どうだ、うらやましいか?

 底意地の悪い少年の心を持った陽二は、見せつけるように頭を撫でたり、肩に手を置いて抱き寄せたりして、過剰なスキンシップを繰り返した。

 

「お、お兄ちゃん、恥ずかしいよぅ」

 

 パトリシアは、口ではそう言いながらも嬉しいのか、されるがままに身を任せていた。

 それを見て桜は『べ、別に興味ないのぢゃ!』的な雰囲気をかもし出していた。

 

「これ、難しいね」

 

 パトリシアはそう言うものの、陽二をあっさり抜き去り水を手のひらの中に留めるのは成功。しかし次の次の段階、両手を広げると水がこぼれてしまい四苦八苦していた。

 何度も失敗を繰り返していると、チャンス到来! とばかりに桜が立ち上がった

 

「そこはな、魔力で水を包むか、水自体を固定するかで――こんな感じぢゃ」

 

 桜はパトリシアの手を両手で包み込む、軽いボディタッチを織り混ぜながら指導。

 

「できた! ありがとうね桜ちゃん」

「おいロリコン、俺にも教えろ」

「誰がロリコンぢゃ! この、モブコンめ!」

 

 多分、モブキャラとロリコンが合体していると思われるが、陽二にダメージは全くないようだ。その証拠に

 

「ねぇ教えてよー。さ・く・ら・ちゃん!」

 

 と気持ち悪い猫なで声を発しながら、パトリシアの様に手解きを―― そう彼は考えたのか、桜の手をつかもうと腕を伸ばした。

 サッ

 桜が素早く手を引っ込めたので、陽二は少なからずダメージを受けた。

 

「こしょばゆい。その様に呼ぶなど言ったぢゃろう」と逃げるように言った桜は、陽二の後ろにまわり背中に手を添える

「やってみよ」

 

「おおっ!? できてる」

「陽二、どの様に魔力を操っておるか、感じるのぢゃ!」

 

 手に集中すると、まるで水を包む魔力の膜があるような気がした。その力の発生源は、背中に添えてある彼女の手だ。その指揮によって、体内の魔力が働いているのが分かる。

 あくまで『ような気がする』程度だが、それはまるで熱い食べ物が喉を通過するときのように、両手に向かって温かい熱のあるモノが動いているような『気がする』

 

 すると膜が水と合わさり粘度を持ち始めた。感触はゴムに近い。次に空気を抜く要領でポンポンすると、魔力が上乗せされているのか、硬度が高まってきた。

 

「俺にも分かった気がする」

「ほう? 言ってみよ」

 

 ―― 多分あってると思う。桜が、この魔力操作で何をさせたかったのか

 

「うまく説明するのは難しいから俺なりの言葉で言うと、集めた魔法を小分けにして使う? そんな感じだ」

「まあ、そんな感じぢゃ」

 

 結局のところ、魔力の操作だ何だと難しい理屈はともかく、魔法(魔力)を使うと人によって様々だがクールタイムみたいな物が発生する。水を出して1工程。その場に留めるのも1工程。つまり間にクールタイムがあるので、出来ないのが当たり前なのだ

 大抵の場合、魔法を使おうとすると体内の魔力が発生させる場所に集まり、事象を起こす。単純に考えると、手や指先・触媒となる武器や道具だろう。

 

 まずは、その魔力が事象を起こす前に、止めるのだ。これを繰り返し、魔力を感じる力を身につける。

 次に、止めた魔力を小分けにして使う練習。これで、連続(・・)で水に膜を付けたり、粘度を与えたりできるのだ。つまり、これも魔力操作のひとつ。

 これに慣れると、一連の動作として複雑な魔力操作も応用も可能になっていく寸法なのだ。

 

「桜ちゃん、こうだよね?」

 

 パトリシアは既に自分の物にしていた。ナーナの様に、小さい火を10発程連射して見せた。

 

 ―― て言うかそれ、以前くらった覚えがあるけど……シアってやっぱり天才!?

 

「いい感じぢゃ。基礎的なやり方ぢゃが、続けて練習すれば魔力の流れも見えてくる。まずは、留める魔力を感じる事。それを大きくしていけば、留める魔力もおのずと多くなる。慣れてきたら、魔力を供給しながら魔法を使う練習ぢゃ。それと、己の中で余計な設定やら考えを作らん事ぢゃ。魔法は、作ったイメージの力で勝手に発動! と思っておれば良い。それが魔法、そして魔力操作ぢゃ」

 

 桜は、凛としてハッキリ言った!

 

 ―― 感じて慣れろ? そんな感じだな……

 

「陽二、これを飲んでおくがよい。箪笥(スキル)に吸われてつらかろう」

 

 MP回復薬だった。それを桜は、陽二にポポイッと10本以上も投げ渡した。

 

「俺は大丈夫だぞ。職業を異世界人にしておけば、MPは減らないんだよ」

「なるほどのう……。念のため言うておくが、MPは持っている職業の合算値ぢゃ。職業を変更するとステータスは変動するが、最大MPだけは変わることはない。おそらく『異世界人』は、MPのところにポイントが表示されておるだけではないか?」

 

 つまり桜はこう言いたいのだろう。

 普通、意識すれば目に映るHPとMPだが、『異世界人』の場合だと、MPは省かれHPとポイントだけが見えると……ならばと、スマホを取り出し職業を魔法術師に変更すると、MPは1000を切っていた。

 

「本当だ。なんだ減るのかよ、損した気分だ」

「損ではないぢゃろう。特殊なポイント持ちなどアスモ以外、聞いたことがない。モブリンの癖に生意気なのぢゃ!」

「そう言われても、ピンと来ないんだよな」

「それで? そのポインティーで何ができるのぢゃ?」

「『異世界人』のポイントって事は分かるけど、用途はサッパリだな」

「お兄ちゃん、ポイント持ちって? その前に、職業って自分で変えられるの?」

 

 ―― そっか、普通は驚くんだ

 

「まあね。俺、神の使いだから!」

「なにが神の使いぢゃ、この盗っ人め!」

 

 結局その後、パトリシアの要望で桜は、付きっきりで基本4属性の指導を始めた。陽二はもちろん、桜から教わった練習を繰り返し『感じる』特訓だ。

 そうこうしていると、アスモデウスとランスロットが帰ってきた。

 

「陽二、約束だっ!」

「おう。でも人前だから軽めにな」

 

 飛びかかる勢いのランスロットに小声で応えた陽二は、約束通りマッサージを開始。黄金指(ゴールドフィンガー)を駆使した陽二のマッサージは、エロ以外でも大活躍である。

 劇的に血行と筋肉の緊張を改善する黄金指は、ストレスを解消し究極のリラクゼーション効果を発揮した。

 

 その結果、自身でも気付かぬ疲れが溜まっていたランスロットは、あっという間に夢の住人になったのだった。

 

 そしてとうとう、豊の『巻戻』が終わった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 針が1周して『巻戻』が終わると、膜の天井部分から少しずつ消えだした。一番に駆けだしたのは、間近で待っていたパトリシア。

 

「お母様!」

 

 陽二とナーナは後に続き、パトリシアの真後ろから2人の様子を見ていた。漆黒の魔物を殲滅(せんめつ)して出てきた唯や、待っていた桜たちは、王妃マナリシアの様子を探る様に目を細めていた。

 一応、敵である豊が手がけた魔法である。注意を怠ったりはしないのだ。

 

 王妃の体は、剥き出しだった骨は当然のこと、身に付けていた鎧や衣服まできれいな状態になっていた。『時を戻した』というのは本当だった。

 陽二は思った。この魔法があれば、どんな物でも修復できるのではないか? と。頭の中にタ○ムフロシキが過った。

 

 パトリシアが声をかけ続けると、王妃は朝、目を覚ますかのように、ゆっくりとまぶたを開いた。

 

「お母様っ!」と叫びながら抱き付くパトリシアが、涙をポロポロと流しているのに気づいた王妃は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐさま母の顔になった。

 それは、周囲で見ていた陽二たち全てが引き込まれてしまいそうな、素敵な笑顔だった。

 

 場所を変え、簡易の座椅子に王妃を座らせ車座になる。

 アスモデウスが温かいお茶を用意し、簡単な自己紹介を済ませたあと、色々と王妃に話を聞いた。

 

 見た感じ異常のない様に見える王妃だったが、体が重く思うように動かない様子で、記憶もトパンに向かう日の朝が最後だ。

 つまり王妃自身に、トパンの視察へ行った記憶はない。なので、当然の如く戸惑っていた。

 軽く事情を説明、王妃が落ち着くのを待つ事に

 

 その間、桜は自分で立てた仮説を話した

 

「奥の部屋とトパンは、魔法陣でつながっておった。トパンの魔法陣は隠蔽(いんぺい)されていた……おおかた村が襲われた時に、誰かが王妃を逃がしたのぢゃろうな」

 

 ―― 推測に過ぎないけどしっくりくるな

 

 次に唯が補足

 

「ここは、精霊の子を育てる精霊の泉。ナーナをソラマンの子と仮定すると、トパンの村にはソラマンに縁(ゆかり)のある者がおったのではないか? だからここに繋がる魔法陣があったと」

 

 ―― ケガをしたシアの母さんは転移で逃がされ、ここで育てられていたナーナが見つけて、治療を始めたって流れか……

 

 陽二は、人魚姫パールが精霊に近い存在と聞いている事もあってか、唯が言った『精霊の子を育てる場所』の言葉に納得した。

 

「今日はもう遅いので、明日の朝出発しましょう」  

 

 王妃の体調を考えているのだろう。アスモデウスの提案で、今日はこのまま休む事となった。

 パトリシアは話したい事が山ほどあったのだろう。止まることなく王妃に話しかけていた。そして当の王妃には戸惑いもあるだろうが、成長した娘を目の前にしても一切顔に出さず、笑顔が絶えることはなかった。

 

 5年。亀を助けた若者が竜宮城へ行き、数日過ごしたあと地上に戻ると、長い年月が過ぎていたというおとぎ話がある。

 王妃の現状も、それに近い物があるだろう。

 陽二は、心配で様子を見ていた。しかし2人の笑顔を見ていると、不思議と大丈夫なんだと思えた。

 

 2人の邪魔をしないように、離れた場所で休むことに、すると、あたり前のようにランスロットがやって来て、陽二の隣で横になった。

 ―― おまえ、まだ寝るの?

 ランスロットにそんな印象を持った陽二だったが、パトリシアと王妃に当てられたのか、それとも実家の母親を思い出したか、思わず彼女の手を握ってしまった。そして、握り返してくる力に甘酸っぱい何かを感じた。

 

 

 △△

 

 

「マスター!」

「来た、陽二」

 

 セナドゥースは、マスターの精神を部屋に呼ぶ管理者項目の力を使った。ここは? と状況把握に努める陽二に、レヴィアタンが飛びついた。なんなく抱っこで受け止めた彼は、優しく頭を撫でる。

 箪笥の中に呼ばれたのは精神とは言え、体は自由に動かせるし五感もある、スキルも使える不思議空間である。

 なので、この部屋で大怪我を負うと眠っている体も傷つくし、その逆もしかり。

 

「状況はどう?」

 

 外を確かめると、漆黒の魔物は唯が倒したので全ていなくなっていた。

 

「唯が倒して分かったんだけど、まだまだ時間がかかりそうだね」

「一気に出して、倒してもらえばいいんじゃないの?」

「焦り、厳禁。儲け、減る」

「レヴィの言う通りだね。唯曰(いわ)く、鍛錬の相手に丁度いいから、色々と試したいんだって。だから『小出しが理想じゃ!』って言ってた。あと、娘のそばに居たいから3日に1度くらいがいいって」

 

「そっかぁ。俺が倒せればいいんだけどね」

「陽二、無理。アレ強い、確実にD、以上」

 

 Dクラスは、王国兵士5~25人に匹敵する。

 

「それは無理、すぐに死ねる。でも、俺も鍛える予定だから気長に待っててよ」

「何年待ったと思っているんだい? 1、2年伸びても気にしないよ」

「レヴィは、ひとつ、早く!」

「レヴィは外出もまだ無理だし、外ではゴタゴタが残っているし、分身体のレヴィを探すのは当分無理かな」

「むー!」

 

「でもね、魔力操作を教わったんだ。少しは強くなって来てると思うから期待して待ってて」

「うーん。それならボクも、闇魔法を教えようかな」

「レヴィも、教える、なにか」

 

 などなど、今日は少し話をして親睦を深めつつ、次回からの打ち合わせを行うだけに止めた。魔力操作の練習をしたせいなのか、体がしんどかったのだ。

 

 △△

 

 …… 陽二くん。陽二くん。

 

 脳を直接刺激するような甘い言葉に目を覚ますと、ランスロットが左手に抱きついていた。

 

「陽二くん」

 

 反対側に目を向けると、アスモデウスが居た。いつ見ても綺麗でかわいくて、ジャストミートなのである。陽二は初めて会ったときから、アスモデウスの事が、なんとなく気になり始めていた。どうやら彼女には、人を惹き付ける魅力があるようだ。

 

 彼女はランスロットに目を向けると、娘の幸せを願う母の様に、柔らかな笑みを浮かべた。

 その表情を見た陽二は

 ―― 誤解なんです!

 と、自分勝手な妄想で弁明を繰り返した。

 なんて野郎だよ! ランスロットに謝れ!

 

 抱きついている手を振りほどこうにも、ランスロットの力は100万馬力でビクともせず、逆に胸の谷間へと誘われてしまう。

 

 ―― 嬉しい。嬉しいけどぉ!

 

 悲しき男の性とでも言えばいいのか、何とか抗い腕をクリクリ回しながら引き抜いた。結構乱暴だったが、ランスロットは幸せそうな寝顔で起きる事はなかった。

 

 ―― よだれが垂れてるぞ……

 

 アスモデウスに促されるようにその場を離れ、向き合う形で正座した。彼女は、何時起きたのだろう? 今の時間は朝の5時過ぎである。それなのに、髪にしろ服装にしろピシッとしていて、身だしなみは完璧だ。そして漂う、いい香り。

 

「桜ちゃんに聞きました。魔技を習得したいですか?」

「魔技というか、桜に剣を教わろうと思ったら、全てに繋がるから魔技をやれって……」

 

 その言葉を聞いて、少しだけ考える仕草を見せると

 

「この際です。陽二くんも習いませんか? 魔技を覚える鍛練を積めば、何を志すにしても必ず役に立ちます。ただ、デメリットもありますが」

「それって、どんなデメリットですか?」

「それはですね――」

 

 アスモデウスが説明する。

 魔技を覚えるには、裏ステータスを表示するステータスの改造が必須である。

 裏ステータスは、表示されない熟練度や細かな数値を見る事が出来るようになる。それと改造によって、職業の偽装・切り替えが可能になる。

 

 デメリット。

 1つ目、勇者や特殊なスキル以外は、高い確率で消滅する。

 ただし、初めから鍛え直す必要があるものの、スキルの再取得は可能。

 2つ目、レベルはそのままで、全てのステータスが1割まで低下する。また、一定のライン(5の倍数)に到達していない熟練度は、0になる。(例)7だと5に、4だと0に低下。

 

 アスモデウスが陽二を調べた結果、レベルは0なのでステータスの低下は微々たるもの、また、職業を錬金調合術師に変更しておけば、錬金調合術師のHPは低下するが、MPは(-)なので、合算値である最大MPの低下は防げると言う。

 

「それでは、よろしいですか?」

「お願いします!」

 

 正座したまま背筋をしっかりと伸ばし、アスモデウスと両手を合わせ目を瞑った。これが大事な姿勢なのだ。

 そこから約10分にも及ぶ長い詠唱が始まり、彼の体内に彼女の温かい魔力が流れ込んでいく。

 詠唱は、翻訳されない言葉と早さでほとんど理解できないが『新たな門』『ステージ』などの単語は聞きとれた。

 

「קסם יצירתי! גיבור השטן、שינוי מבוא!」

 

 彼女のその言葉が鍵となり、彼の中に集まった魔力が起動し始めた。

 

 》職業サーチ……

 》魔法術師……否

 》錬金調合術師……否

 》勇者……無

 》王国騎士……否

 》愚者……無

 》鍛冶師……否

 》異世界人……拒否……拒否

 

 彼女は、目の前に現れているディスプレイを見ながら首をかしげる。―― 拒否?

 

「少し、お待ちくださいね」

 

 》スキルサーチ……

 》異世界人……生成中……大倉庫、表示不可

(一括管理、精製、錬金、調合、複製、鑑定)

 》……可……(ポイント調整中)

 

 

 ―― えっ生成?

 

 》強化付与……否……取り込み不可

 ……消滅(ポイント変換)

 》呼称発動……否……取り込み完了

 》隠し魔法『完全固有魔法(オンリーワン)』消滅

 》軽量化……否……取り込み完了

 》時間……可……(ポイント付与、可能)

 》黄金指……可……(ポイント付与、可能)

 》箪笥……可……(ポイント付与、不可能)

 》裏ステータス構築、勇闘者セット

 》最終確認……改変完了

 

 ―― 消滅ではなくて、取り込み?

 

「無事終了しました……初めての経験なのですが『大倉庫』と言うスキルが生成されたようです」

「それ、豊くんが使っていたスキルです。ステータスを改造すると、スキルまで貰えるんですね!」

「あっ、えと……『異世界人』の効果だと思われます。隠蔽を見破る能力もそうですが、そのスキルには秘密がありそうですね」

 

 その時、王宮の書館で見た『神の書』が脳裏に過った。

 

 《俺たち異世界人(・・・・・・・)は、職業の他に固有(・・)のスキルを初め(・・)から持っていた》

 

 ―― まさか!? 異世界人(これ)が固有スキルだったのか? 最初の職業は勇者で、スキルに異世界人があったような気がするけど、すぐに異世界人になってたから忘れていた。

 

「魔技の説明をしますので『異世界人』は、後からご自分で確認して下さいね。まず、熟練度は0から始まります。ステータスの3つ目を見て下さい」

 

 陽二は、ステータスを呼び出した。

 今までは頭の中に浮かんでくる感じだったが、目の前に画面として現れるようになった。しかもこれ、他人には見えない。

 画面は3つあり、本をめくる感じで操作すると次のページに変わる

 

 ●1つ目(鑑定士などに見せるためのステータス。ここの項目は擬装が可能)

 中山 陽二

 異世界人 レベル0

 

 スキル

 

 ●2つ目(裏の職業、本人しか見られない)

 勇闘者 レベル0

 

 時属性

 

 スキル

 異世界人 時間 黄金指 箪笥

 

 ●3つ目(通常では不可能な、熟練度の可視化)

 魔技 0

 を確認した

 

「ありました」

「それが熟練度になります。0が10級で、1つ上がるごとに級が9、8、7と上昇します。10で初段となり、級が上がるたびに、できる事も増えていきます」

 

 ―― まさに武道って感じだな。柔道とか空手みたいに色帯(いろおび)があれば分かりやすいな

 

「次に、勇者の技として魔技の消費魔力は0になります。魔王の技として『転生』が使えますが、今はまだ必要ありません」

 

 MP消費0は大きいな。転生ってなんだろう?

 

「魔技の熟練度を上げるのに必要なのは、地道な鍛錬や実践です。鍛錬を怠ると、逆に下がってしまいますのでご注意くださいね。まずは、6級を目指して頑張りましょう!」

「はい! 最初は、何をすればいいですか?」

「当然、基礎です」

 

 早速、魔技の基礎を習った。

 簡単に説明すると、空手に似ていた。立ち方や足の運び方、突きや受け等を教わる。

 

「陽二くん、なにか武道をしていました?」

 

 アスモデウスは、彼の動きを見て言った。実は高校生の頃、部活動で空手をやっていたのだ。一応、黒帯持ちである。しかし部活動は道場と違い、1年で茶帯になり昇段試験の資格が得られる。なので黒帯を持っていても、その実力はピンからキリである。果たして彼は、どっちだろうか。

 

「少しだけ、ですけどね」

「良い体の使い方ですよ。癖がなく素直に聞く姿勢も、とてもいいです」

「ぢゃが、まだまだぁ!」

「全くじゃ、10級すら早い!」

 

 いつから見ていたのか、親子そろって赤いジャージを着た桜と唯が、横槍を入れてきた。

 

「おう桜。それ、どこで仕入れてきたんだ? ギャグか?」

 

 2人の背中には、こちらの言葉で『さくら』『ゆい』と書いてあった。

 

「たわけ! 神聖なる練習着ぢゃ!」

「胴着じゃなくて、ジャージかよ」

 

 そこに、テカテカと蛍光色のような黄色いジャージを着たランスロットが現れた。背中には『らすん』と書いてある。

 

 ―― 発注ミス!?

 

「陽二。なぜ起こしてくなかった!」

「おはよう。ほら、気持ち良さそうに寝てたしさあ、そのままでいいかなって」

 

 よだれの跡があるのは、言わなくてもいいだろう

 

「陽二!」

 

 そんな声とともに、桜は黒いジャージを投げ渡した。

 どう見ても2サイズは小さく、背中に『よしこ』と書かれていた。

 

 ―― 誰!?

 

「このジャージを俺に渡して何をさせたいんだ? 他人のジャージなんかいらんわ」

「陽二のぢゃ」

 

 陽二は『よしこ』を指差し言い返した。

 

「よしこのだろ?」

「ちっ、発注ミスぢゃ」

「ウソつけや。サイズも明らかに小さいし」

「ちっ、せからしい奴ぢゃ」

「逆ギレされた?」

 

 それからアスモデウスも青いジャージに着替え、全員で魔技の練習を始めた。所謂(いわゆる)朝練である。

 桜とランスロットは、唯を相手に組み手を始めた。

 陽二は、アスモデウスと基礎練習である。

 

「陽二くん背筋は伸ばす! 曲げない!」

「はいっ!」

「膝は曲げたまま我慢! もっと腰を落とす!」

「はいぃぃ!」

 

 彼女は、顔に似合わずスパルタだった!

 

 朝練が終わり、アスモデウスが朝食の準備を行っていると、水浴びを済ませた陽二たちが帰ってきた。これも鍛錬の一種で、ギフトによる、お湯の作り方を教わっていたのだ。

 

 豊が作ったテーブルの上には、大量の朝食が用意してあった。

 豊の料理? 魔物(スタッフ)の餌行きだ。

 そのテーブルには、王妃とパトリシア、それにナーナが並んで食事をしていた。

 椅子がないので、立食型式だ。

 

 王妃には消化の良い物が準備されていて、アスモデウスと親しそうに話をしていた。王妃と彼女は、以前から面識があるのだ。

 

「こっちの人って、すごい食べますよね?」以前から気になっていた事を尋ねると『魔力を作るには、相当なエネルギーが必要』と判明。

 

 ―― だから俺も食が太くなって来たのか……

 

 △△

 

 その後、王妃が回復したのを確認しトパンへ向けて出発。

 転移して異臭のする地下室を通り外へ出ると、そこは何もない広大な土地。そこに、荷車が止まっていた。

 ゴブリンの子供を宿場町に送り届けたあと、王妃を乗せるために持ってきたのだ。流石、手回しが良い。

 

 予定では、王妃親子を宿場町まで送り届ける手はずだったが、陽二は思い出した。パトリックのキャンプ地に寄って、合流する予定であったカリンの事を

 

 するとパトリックの名前を聞いた王妃は、成長した息子に早く会いたいのか「一緒に行きます」と言い出した。そして都合よく、野営地の場所を知ってると語った。

 桜たちに断る理由はなかった。

 

 しかし結界路へ抜けるルートは、木々も多く険しい。そのルートを、荷車へ乗せた王妃を運ぶとなると……体への負担が大きいだろう。そこで荷車は捨て置き、翔騎士変体(ゼラナイトフォーム)したランスロットの出番である。

 彼女なら、王妃とパトリシア2人を乗せても大丈夫。安心安全・快適な旅が約束されたのだ!

 

 桜たち一行が野営地へ向け森の中を進んでいると、喧騒が聞こえ始めた。

「何の音ぢゃ?」

 桜と唯は、一足先に飛び出して行った。

 

 陽二たちが追い付くと、2人は物陰から何かを見ていた。

 遅れて到着した陽二たちは、桜の指示に従いのぞき見た。

 

 すると王妃の口から、思わず言葉がもれた

 

「スマイルセーラーよ!」

 

 王妃の瞳は、まるで少女の様に輝いていたのだ。

 

 

 




※隠し魔法『完全固有魔法(オンリーワン)』とは、魔法術士が覚える一度きりの魔法です。
『呼称発動』と『全魔力(MP)』を代償として失います。
 魔法術士まで登り詰めた人が、功績や爪痕を後世に残す方法として設定しました。
 主人公が『王とスマートフォン』で使った『超錬金調合』も同じです。
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