※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

26 / 66
受け継ぐ力

 

 

 カリンは、激怒していた。

 特別な日の為に買った高級ショーツは、見るも無残な姿だ。

 領主の娘とはいえ、贅沢できる立場ではないのに

 

 鼻血を流し倒れている兵士たちを『キッ』と睨(にら)むと、陽二に渡されていたMP回復薬を一気に飲み干した。

 回復したのは3割程度。もう一本取り出し口に咥(くわ)えると「んんんんん――」と詠唱して、兵士たちに水壁(アクアシールド)をたたきつけた。

 

 △△

 

 場所は変わり、パトリックの野営地よりさらに南下した結界路付近に、トパンから逃げ出したゴブリン将軍がいた。

 

 本当に偶然だった。小腹が空いたので何か持ってこようと地上へ顔を出したその時、風景の違いと血の臭いに気づいた。

 警戒色を強めた将軍は、息を殺し周囲を観察。

 飼育穴の近くに、見知らぬ女を発見した。通常なら、しめしめとすぐに襲いかかる場面だ。しかし動けなかった。本能が危険信号を発し『襲え!』よりも『逃げろ!』と叫んだ。

 

 その声に従い、這(は)うようにトパンの外へ逃げた。しかしながら将軍は、結界路を通過できない。なので近くの森に身を隠していたのだが……炎の竜が上空に昇って行く姿を目撃した瞬間、その足はサラデイン方面に向かって逃げ出していた。

 

 落ち着きを取り戻した将軍は、パトリックの野営地に潜入させていた仲間の事を思い出した。1人では寂しかったのか、将軍は野営地へ向かい歩きだした。

 到着した将軍は、結界路の外に仲間の死体を発見した。もう、何が何やら。

 ――もしかして追い詰められているのか?

  恐れ戦(おのの)いた将軍は、荷車の物影に隠れて様子をうかがった。

 

 本来ならば、隠れる必要もビクビクする必要もない。将軍は、ファイヤーイグナスを1体で倒せるほど実力があり、王国兵士の馬力を1とするなら100馬力は余裕であるのだ

 

 それなのに何故だろうか。将軍の脳裏には村で見た女性、アスモデウスの姿があったのだ。こう見えて意外と臆病だった。しかしそれが、長生きして将軍まで上り詰めた秘訣でもあった。

 

 クンクン、クンクン。

 

 ゴブリンの嗅覚は、そこまで優れている訳ではない。しかし、とある匂いには頗(すこぶ)る鼻が利く。

 

 将軍は花の蜜に誘われる蜂のように、荷車の中に進入を果たした。そのフェロモンの発生源を特定。舐めるように顔を近づけると、大きく鼻から息を吸い込んだ。

 将軍は大興奮! アドレナリンはドバドバ。臆病者は、狂気の殺戮(さつりく)者に上書きされた。

 

 匂いで理解した。この女は上物(じょうもの)であると、この女を拐い、より強いゴブリンを生ませて再建を図るのだ!

 

 △△

 

 その頃カリンは、野営地より300mほど北上した場所をプリプリと怒りながら歩いていた。

 

 ―― あんな人たち(パンティングマン)は無視よ。むしろ死ね! また襲ってきたら、迷わず撃ってやるわ

 

 のちに彼女は、1人で野営地に戻った事を後悔する事になる。なぜ彼らを放置して帰ってきたのかと……

 野営地には『待ってたよ。お帰りハニー』と言いはしないが、初めて見る恐怖が待ち構えていたのだ。

 

 到着した彼女は、簡易のベンチに座りひと休み。そこに、隠れていた黒い塊が姿を現した。

 筋肉隆々とした大きな体に凶悪な面構え

「あ、えっ!?」

 彼女は、初めて感じる恐怖に腰を上げることができず、唖然と見上げる事しかできなかった。

 

「俺はゴブリン将軍。おまえは上物、俺の子を産んでもらう」

 

 将軍は優しく彼女を抱き抱えると、首筋に舌を這(は)わせた。彼女は、悪寒と共に絶望の黄金水を発射してしまう。

 その彼女を逆さまに持ち直すと、将軍は黄金水を啜(すす)り始めた。

 

 その恐怖と絶望の中、温かい黄金水が彼女の体を伝い、激を飛ばした。

 

 ―― 何もせずに終わっては駄目よ!

 

 黄金水で活力を漲(みなぎ)らせた将軍の暴れん坊が、腰巻きを押し上げた。

 カリン、貞操のピンチ!

 

 将軍は爪で器用にショーツを引っ掛けると、ピッピッと腰の部分を裂いた。

 ペロン

 彼女の大事な部分が、白日の元に晒されてしまった。

 剥ぎ取ったショーツを口に頬張った将軍の暴れん坊は、ピピーンと暴れん坊将軍に進化を遂げた。

 

 その間(かん)彼女は我慢していた。見られたくないけど、死ぬ訳じゃない。例えば、ペットに見られても気にしないのと同じ。人じゃないし、ノーカウント。

 

 そんな些細な事よりも、このピンチを脱するため羞恥心すら力に変えた。彼女は頭の中で、丁寧に丁寧に、威力を高めるように詠唱を続けた。

 

 ―― 好きなだけ見ればいいのよ、目にもの見せてあげるわ

 

「アクアニーーードル!」

 

 込めに込めた魔力を、鍛錬の成果といわんばかりに細く硬く作り上げた。それを、暴れん坊将軍に向かって放った!

 これは、愚直に練習を繰り返した彼女の成果。魔力操作の『圧縮』だ! パトリシアにも言える事であるが、祝福で知られる『水の属性』のお陰で、クールタイム知らず。正に産まれながらの魔法使い、規格外である。

 

 圧縮されたアクアニードルは、約7発分。勝手に名付けるならプレッシャーニードル! その威力は7発分を凌駕するだろう。

 

「ギョーーーーーーーーーーー!」

 

 彼女の魔法と、暴れん坊将軍の攻防は熾烈(しれつ)を極めた! 固い岩盤にドリルで穴を開けるが如く、押せ押せ、押し返せ! 押しとーる、押し通さん!

 

 しかし、圧縮された彼女のプレッシャーニードルでも、暴れん坊将軍を貫く事はできなかった。弾き返される事はなかったが、魔力が尽きて消えてしまったのだ。

 

 だが、その長い攻防が功を奏した! 暴れん坊将軍に激痛を与え暴れ回ったため、彼女を手放してしまったのだ。将軍は堪えきれず、股間を押さえ蹲(うずくま)った。

 

 ゴンッ

 

 落下の衝撃で頭を強かに打ち付けたカリンは、集中していた油断もあって気絶してしまう。危険信号なのか、炎賜珠(サラマン)が淡く輝く。

 激怒した将軍は、大きく足を振り上げた。

 

「ガギン!」

 

 その時、炎賜珠から盾が出現して攻撃を防いだ。

 その盾を支えるのは10本の腕。そして腕が1本、また1本とガラスが割れるように砕けて行く。

 

『『カリン、叫べー!!』』

 

 4本目の腕が砕けたところで、彼女は目を覚ました。

 

「い、今の声はっ!? 思い出したわ」

 

 5本目の腕が砕けた。将軍の力に抵抗する残り5本の腕にも、亀裂が走り始めていた。限界は近い。

 

「スマイルセーラー召喚(ドレスアップ)!」

 

 残り5本の腕が同時に砕けた。将軍の足が、彼女をプチッと踏み潰すべく襲いかかった。

 しかし、彼女の叫びに応えた炎賜珠から、半径1mはある不可侵シールドが発生し、逆に将軍を吹き飛ばした。

 

「何だこれは?」

 

 将軍が驚いているその時、外からは見えない不可侵シールドの中の彼女は、下着を除いた衣服が全て消えていた。つまり、ショーツを取られていたので、ブラジャーだけの姿になっていた。

 

 そして目の前には、競泳用の白い水着に似た、伸縮性抜群の薄いインナーが現れていた。まるで、身に付けろと言わんばかりに。

 

 ブラジャーを脱ぐように外し、インナーを着こんだ。それと同時に次は、黒いミニスカートが現れた。

 パッと見では黒一色のスカートに見えるが、濃い黒と薄い黒のチェック模様になっており、薄い部分にはハートマークが描かれていた。

 

 スカートを身に着けると、濃い朱色の半袖(そで)のワイシャツが現れた。

 襟(えり)と袖縁は白色、ウエストの部分は細くくびれ、スカートの上部分を少し隠すぐらいの長さだった。

 スカートの中にINするのは厳禁。お腹は、インナーで保護されているので冷える心配はない!

 

 次に現れたのは、上着と同じ朱色のニーハイソックスとロンググローブ。縁(ふち)には、ちりばめられたハート柄の白レースが花を添えている。

 

 次に現れたのは、ニーハイソックスの存在を引き立てる、黒色のロングブーツ。ヒールなしのタイプだ。

 ブーツの両側には、翼の飾り物が1つずつ飾られている。なんとこのブーツは、空気を地面のように蹴る事ができるのだ。

 

 最後に現れたのは、スカートと同色同柄のワンタッチ式ネクタイ。首に近づければ、自動で襟下に装着される。

 ネクタイの長さはおへその上までで、同時に装着された炎賜珠が、存在を主張するように輝いた。

 

『カリン少し説明するぞ。その服は魔法少女衣装(ウイッチドレス)。あらゆる攻撃の軽減と、身体能力向上の効果がある』

「あっ……ううん。ゼラニオンみたいに、なれたって事?」

 

 懐かしい声だ。どうして声が聞こえるのか? それを尋ねるのは無粋というものだ。彼女はもう知っているのだ。

 何はともあれ、お陰で憧れのゼラニオンに近づけた。彼女の中に、決意が生まれた。あの魔物を倒す!

 

『聞くんだカリン。攻撃を受けるとダメージを軽減するためMPが減る。残量には注意して戦うんだ。行け! 2代目スマイルセーラー!』

「分かったわ! 任せて」

 

 今回は初めてなので仕方がないが、一度装着すると記録され、次回からは全て自動で装着される仕組みだ。

 因みに可憐ウィッチのMPは、炎賜珠に貯められているMPで補われる。MAXは1万。そこから変身の500をマイナスした数値から始まる。残量は9500。

 目を覆う程の光と共にシールドが開放、変身完了だ!

 

「う、うがぁー」

 

 パチンパチンと、不可侵シールドを調べていた将軍は、目の眩みと共に、またもや吹き飛ばされた。

 

 シュピーン!

 

「私はウィッチ、あなたとスイッチ。今日もにこにこ、にっこにっこにー! 私の笑顔は世界を救う、スマイルセーラー推参!」

 

 彼女が決めゼリフ(初回のみの定型文)を言い終わるまでに、髪の根本から毛先までが、ピンク色に変わった。

  (身バレ防止機能。変色するしないは、自在)

 

「待たせたわね!」

 

 そう言い放つ彼女に怒り心頭。その場に戻ってきた将軍は、有無も言わせぬ打ち下ろしの右パンチで襲いかかった。

 

 それを彼女は、よんでいたかのようにジャンプで避けた。

 しかし流石は将軍。空中へ逃げた彼女に対して、すぐさまアッパーカットで追撃をしかけた。だが彼女は、空(・)を蹴ってヒラリとかわした。

 

「何だと?」

 

 着地した彼女は

「スマイルソード! スマイルシールド!」

 と武具を呼び出した。

 

 左手のスマイルシールドは、直径30cmの丸いシルバーの盾だ。右手のスマイルソードは長さ80cm、シルバーの片手十字剣だ。

 

 頭の中に、声が聞こえる。

 その声に従い将軍の左フックを屈んでかわすと、右下から左上に斬った。手応えは薄いが、この剣は魔物にも通用する。

 

「この剣、凄いわ!」

『その剣は魔銀製、あたり前だ! それより、踏み込みが甘い』

 

 そんな話を頭の中でしていると、将軍の拳が目の前に迫ってきた。咄嗟に盾で受けるも吹き飛ばされてしまう。

 

 空を蹴って方向転換すると、追撃に来る将軍を三角蹴りの要領でトントンと空を蹴ってかわし、死角から二の腕を斬りつけた。

 

「手応えあり!」

『その前の受け方が良くない。体格の差を考えて流せ』

「懐かしいわ……そう言えば、いつも怒られていたっけ」

『それだけ心配だったんだよ』

 

「床(とこ)のくせに、ちょこまかと動きやがって!」

 

 将軍は、彼女の立体的な動きに翻弄(ほんろう)され、実力の半分も出し切れていなかった。

 将軍は力をためると大きくジャンプ。着地の反動で周囲の地面を大きく揺らしてみせた。攻撃に身構えていた彼女は、思いもよらず一瞬だけバランスを崩してしまった。

 

 ドンッ!

 

 将軍は着地と同時にひざをバネのように使い、ロケットダッシュからのラリアット攻撃! 

 バランスを崩した彼女は、避けられないのを察知。盾でガードするべく構えるが

 

『カリン跳べ、力を抜いて流せ』

 

 当たる寸前、盾を斜めに傾け軽くジャンプして力を抜くと、将軍ラリアットは盾を滑った。彼女の体は、落ちる木の葉のように風圧で舞い上がると、するりと攻撃を避けた。

 

「危なかったわ」

『油断するな! だが、上手くやったな』

 

 避けられた将軍は、ちょこまかと動くカリンにイライラが爆発。腹いせのように、そのまま荷車へ突撃。

 荷車はあっさり大破、兵士の武器や荷物がそこらじゅうに散乱した。

 

「あなたの相手はこっちよ。物に当たるなんて……好都合だったわ」

 

 そんな彼女の声を無視した将軍は、ニマーとしていた。将軍の得意武器である、ハンマーが目に入ったのだ。

 ハンマーを手にした将軍は、落ち着きを取り戻しカリンに相対した。

 

「スマイルセーラー遊びの時間は終わりだ! こっからはビンビンに行くぞ」

 

 彼女は『誰のこと?』と、ピンときてなかった。

 

『カリン。おまえの事だ!』

「そうだったわ」

「ふわっはっはっ、まずはあいさつ代わりだ」

 

 将軍は、ハンマーをゴルフのように振り上げると、地面に叩きつけた。

 

「将軍散弾(ジェネラッシュ)!」

 

 ハンマーで抉(えぐ)られ打ち出された、視界を埋め尽くすほどの大地の破片が、彼女を襲う。

 

「水塊の防壁(アクアバリアー)!」

 

 粘度の高い水の壁が出現し、打ち出された破片を防いだ。と思ったが、本来の実力を取り戻した将軍のパワーは凄まじかった。

 将軍散弾の勢いは、粘度の高い水の壁で落とされたものの、一部の破片が防壁を通り抜け彼女の体を襲った。

 

「軽減されてこの痛み、物凄い威力だわ」

『あまりダメージを受けすぎるな、MPが持たなくなるぞ』

 

 変身した直後は9500もあった彼女のMPは、残り5000を切っていた。

 

「どんどん行くぞぉ! 連続、将軍散弾!!」

 

 将軍は大地を抉り飛ばすと、すぐ後ろに下がり次々と攻撃を繰り返した。もしここに王国兵士がいたのならば、数百人規模の犠牲者が出ていただろう。

 受けてしまえば、すぐにでもMPは尽きてしまう。彼女は、素早く横に走りながら避け続けると、将軍散弾を隠れ蓑にして上空へ跳び上がった。

 

「スマイルロッド!」剣が、杖に変わった。スマイルロッドは、魔鉄製の杖。先端が、輪っかの形状をしていた。

 

「水塊の大攻撃(アクアカノン)!」

 

 カリンの発射した大攻撃(カノン)本体は、将軍の上空で停止した。

 

「いっけぇー!」

 

 それを合図に、ドドドドドドドドドドドドッ! 本体から無数のアクアボールが発射された。

 

「生意気な! うおおりゃゃー」

 

 将軍は、ハンマーでボールを打ち壊して防いだ。何発か当たってはいるが、ダメージは少なそうだ。

 

「水魔法は、あまり効果なさそうね」

『カリン、接近戦だ。将軍散弾(あれ)を撃たせるな!』

「わかったわ、スマイルソード!」

 

 彼女は魔法を放ち牽制。空を蹴り急降下すると、将軍の背後をとった。

 

「うらーー」

 

 それを察知した将軍は、振り返りながらハンマーで強襲。彼女だって負けていない。将軍の懐へ入る、そんな前に出る行動で跳び避けると『ブシュ』横を通りすぎながら脇腹を深く抉った。

 

「ぐわっ!」

 

 くるっと反転。着地と同時に地を蹴り、将軍の背中を追撃

 

「どわりゃりら!」

 

 流石は将軍、脇腹のダメージなどなんのその。その場でハンマーごと体を回転させ『キィィン!』彼女の剣を弾いた。

 考えがあるのか、将軍は回転を増していく。ブオンブオンからブオーンと、まるで竜巻のようだ。

 

『カリン、上だ!』

 

 将軍の竜巻ハンマーは容易に近づけない。だが、真上はがら空き。彼女はタッタッタッと空中を駆け上がり、将軍の真上をとった。スマイルソードを両足で挟んで固定すると、そのままの姿勢で急速落下!

 

「馬鹿め!」

 

 しっかり彼女の動きを見ていた将軍もジャンプ。回転を維持しながら体を地面と水平にした。

 

 ガガガッ!!

 

 回転に正面から突っ込む形になった彼女は、弾き飛ばされ地面に落下。受け身で衝撃を和らげたものの、ダメージは大きい。

 

「くっ……」

 

 普通なら死んでいてもおかしくない攻撃だ。その攻撃を魔法少女衣装が、打撲程度まで軽減した。その代償は大きく、今の攻防だけで2000もの魔力を削られてしまった。

 

『カリン避けろ!』

 

 ゾッとする感覚が、首筋にピリリと走った。彼女は声に従い素早く横に飛んだ。

 ドゴーーン!

 その直後、今まで居た場所に将軍のハンマーが、遠心力で一撃必殺の凶器になったハンマーが着弾して爆(は)ぜた。

 

「っ――!」

 直撃は避けたものの、彼女は石や土と一緒に吹き飛ばされてしまった。

「うっ、あっ」

 ドンドンと地面に叩きつけられながらバウンドを繰り返し、転げ回ったあとやっと止まった。

 

 今の攻撃で、彼女の体はボロボロになった。

 残りMPは1050。魔力の残量が少ないせいなのか、体中に走る激痛で涙がこぼれ落ちた。

 

「ガハッ、ゲホッ、ゲホッ」

 

 口の中には、錆びた鉄の味。

 それでも将軍を目で捕らえると、気合いを入れて立ち上がった。

 

 将軍は、既に勝った気でいるのだろう。追撃もよそに、新たなハンマーを探して荷荷車を漁っていた。

 

「なんて強さ、なの……でも、まだよ!」

 

 吹き飛ばされた時に手放してしまった剣と盾を目で探した。

 

『カリンよく聞け、私たちに残された時間は短いようだ。もう少し目に焼き付けて置きたかったが、これ以上は危険だ』

「逃げろって事? イヤよ!」

『いいや、違う。一気に決めるんだ。次はないぞ!』

「でも、どうすれば……」

『初代を超える力! 超変身(スマイルアップ)だ!』

 

 超変身とは、MPを1000消費する2段階目の変身。攻撃と防御、ステータスがさらに上昇する。

 ただし、その時間は1分間と短く、別名ハートモードと言う。ハートモードは、ピンチの時ほど効果が高くなる。

 

 そんな話をしていると、見つけたハンマーを片手に将軍がやって来た。

 

「ガッハッハッハ! おとなしくしていたら命だけは助けてやる。苗床でな! げぇーへっへ」

「冗談は顔だけにして! 断固、拒否するわ!」

 

 彼女は『超変身(スマイルアップ)!』と叫びながら杖を取り出すと、ファイボールで攻撃。

 ゴブリンは火に弱いのか、必死に避けた。将軍が気づくと、彼女の姿が消えていた。

 

「どこに行った?」

「ここよ!」

 

 後方50mの位置に、盾と杖を持った彼女が立っていた。

 

 魔法少女衣装のネクタイ、そしてスカートの薄黒いチェックの部分に、ハートのマークが浮かび上がり、ネクタイに付いていた炎賜珠はハートの姿に変形、それが杖の先端部分、輪っかの中心部分で回転していた。

 

「全力全開(マックスハート)よ!」

 

 彼女は、杖を将軍に向けて横に振りながら「炎の矢(ファイヤーアロー)!」と魔法を唱えた。

 この魔法は、ハートモードで使う事が可能になる火の上位魔法『炎魔法』である。

 

 炎の塊が杖の軌道に5つ現れると、塊から炎の矢が連続で発射された

 ビュシュ! ビュシュ! ビュビュビュビュビュビュビュビュ

 

 最初のうちはハンマーで何とか防げていた将軍だったが、1発当たると、面白いように次々と当たりだした。体中に炎の矢が突き刺さると、それは自然と大きな炎になり将軍は包まれてしまった。

 

「ぐわ~」

 

 将軍は、両膝を着き声を上げながら、顔の火を消そうと必死にもがきだした。

 

「炎剣、スマイルハート!!」

 

 杖が剣に変わった。柄の中心部に炎賜珠が見える。彼女がぐっと握る手に力を込めると、剣の大きさがふたまわり程大きくなり、剣身がピンク色に輝いた。

 

「行くわよ!」

 

 剣を両手で構えた彼女は、地を蹴り火だるまの将軍へ一直線。その姿はまるで、低空飛行するツバメのようだった。

 

「攻め斬り! 受け斬り! ガチムチ落とし!」

 

 右斜め袈裟(けさ)斬り、返し横なぎ、上段落としの3連続攻撃をあびせた。

 

「うぎゃーー!」

 

 将軍は、黒緑の血を吹き出しながら前のめりに崩れ落ちると、火は消えてしまいプスプスと燻(くすぶ)っていた。

 それと同時にハートモードは終了。彼女の変身も解けた。

 

『カリンよくやった。これで、さよならだな』

「みんな、ありがとう……さようなら」

『じゃあな!』

 

 これ以降、仲間たちの声が聞こえる事はなかった。そしてこの時彼女は『火の属性』と『火魔法』を手に入れたのだった。

 

 

「まだだあー!」

 

 将軍は、焼け爛(ただ)れた体を引きずり立ち上がった。頭の攻撃は浅かったのか、片目がつぶれているだけだった。

 しかし体の傷は深いようで、青色(・・)の血が噴き出していた

 

「うそ!? あの攻撃でも倒せないなんて……」

 

 体力も気力も、そして魔力も尽きかけの彼女は膝を地面に着いてしまった。しかし、将軍からは決して目を離さなかった。

 

 ―― まだよ、まだ終わってないのよ。立ちなさいカリン・レットイル!

 

 彼女は、自分を鼓舞(こぶ)して立ち上がった。

 

「スマイルセーラー。ここまで追い詰められるとは思いもしなかった。だが、これならどうだ? 虫達よ今こそ力を!」

 

 将軍の叫びに、虫達が応える。

 潰れた目や体の傷が塞がると、将軍の体に黒と青のゼブラ模様が浮かび上がった。力が、力が漲(みなぎ)っていた。

 

「う、うそ……」

 

 みるみる活力を取り戻していく将軍を目にして、鼓舞した気持ちが折れそうになる

 

「がっはっは。これぞ、トパンの村で得た新たな力! ゴブリン将軍ゼブラだぁ!」

 

 ケガも癒え以前より力を増した将軍ゼブラは、一瞬で距離を詰め彼女の首に腕を伸ばした。

 絶体絶命、万事休す。

 そんな状況下でも彼女は、目を逸らす事はなかった。

 

 ベキッ。

 圧倒的な力の差で掴まれた首から、ハッキリと骨の折れる音がした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。