※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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忙しさと疲れで、なかなか執筆時間を作れませんが、ぼちぼちと更新がんばります


勇者パトリック

 

 

 パトリック=クルシュナイン 20歳

 

 父、王ダグリオス=クルシュナイン

 母、王妃マナリシア=クルシュナイン

 この国の王子で、パトリシアの兄である。

 

 幼い頃より剣と槍を習い王国騎士を志していた。12歳で兵士に入隊。さらに剣と槍に磨きをかけた。

 14歳の頃には王国兵士の中でも5指に入る実力を身に付け、王国騎士になった。

 15歳の頃、西の森で行われた魔物討伐に参加。魔物大行進(カオスマーチ)に遭遇して母親を亡くした。

 

 己の無力を痛感と同時に母親を救えなかった事と、妹の豹変(ひょうへん)振りに自分を責め、寄り添うため除隊した。

 しかし1年間ダグリオスに説得されたのち、王子としての責務“国と民を守る”ため復帰。

 復帰後は剣と槍での攻撃的スタイルは鳴りを潜め、大きな盾を持ち仲間を守るスタイルへと変化した。

 

 △△

 

 カリンたちの班が野営地を片付けていた頃、パトリックは同行する兵士4名と外へ出る準備をしていた。

 現時点で、勇者のレベルは5。最初こそ慣れない職業と低下したステータスに苦労したが、王国騎士の頃に比べて間違いなく強くなっているのを実感していた。

 

 それでも、気がかりな点があった

 

 一言でいえば『パッとしない』である。

 確かに身体の軽さやキレは今まで以上、武器や防具もより軽く扱えるし、内なる魔力も感じる。

 しかし剣や槍の威力にそこまでの変化はなく、なにより期待していた魔法が使えなかった。

 

 ―― 勇者とは、この程度なのだろうか?

 

 通常レベル5はまだまだ見習いの域である。

 真価を発揮するにはもう少し時間が必要なのだが、過剰な期待を“勇者”へ向けていた彼は、少なからず落胆していたのだ。

 

 

 △△

 

 

 体内に魔石を保持する魔物は頑丈で、通常武器では切断系の攻撃が通用しない。そのため“魔鉄”と呼ばれる特殊な金属で製作された武器が必要である。

 だが、魔法や打撃系の攻撃は通用するので、王国兵士が魔物と相対する場合は、魔弾砲(パレット)やハンマーが主流となっていた。

 

 これは魔鉄が数少ない資源だっため、魔物と戦う機会の少ない王国兵士には、魔鉄製の武器が支給されていなかった弊害である。それでも王国兵士の中には、高価な魔鉄製の武器を所持する者も少なからず存在していたが、それは自前で準備した武器であった。

 

 魔物大行進までは。

 

 あの戦いの後、王国兵士にも魔鉄製の武器が支給されるようになってきた。

 それまではダンジョンに入る冒険者に優先権があり、若干安く購入できていた。しかし王国兵士にも支給され始めると、入手しずらくなり価格も高騰。冒険者たちから不満が噴出していた。

 

 魔石持ちの魔物が現れない結界路の中を守る王国兵士と、ダンジョンの魔物を狩り国へ資源を提供する冒険者、どちらを優遇するべきか分かっているが、今後も魔物大行進(あんなこと)が発生しない保証はないのだ。

 

 蛇足になるが、少し魔鉄の歴史を振り返ってみよう。

 

 実は数百年前まで、魔鉄はそこまで貴重な金属ではなかった。しかし、結界発生装置の開発に利用されたのを発端に、幅広い用途へ爆発的に広まった。

 

 ゴールドラッシュならぬ、魔鉄ラッシュの到来である。

 その結果、長い時間をかけて結界路内の魔鉄は取り尽くされてしまったのだ。

 

 しかし、それを黙って見ていた訳ではない。大量に魔鉄を使用する結界発生装置などの改良を続け、現在では大幅な小型化に至っている。

 次に実行されたのは人工的な魔鉄の生成、錬金である。これは実験と研究を長年続けていた成果であり、魔物大行進の前年には全体の一割程度しかなかった物が、全面的に交換された。

 

 交換されたそれは硬貨で、中には魔鉄の元『鉄』が入っている。つまり、人の魔力を少しずつ吸収して、魔鉄に変化させるシステムを作り出したのだ。ただし、急激に魔力を与えても粗悪品になってしまうので、少しずつ吸わせるのがポイントになる。

 

 金貨は魔金へ、銀貨は魔銀へ、銅貨は魔鉄へと変化して、触媒や様々な原料となる。魔鉄を精製すると、頑丈で粘りのある魔鋼鉄へ、魔銀を混ぜれば魔法と融和の高い魔鋼銀になるが、とても希少で高価なため流通量は少ない。

 最後になるが魔札にも役割がある。魔札は、純粋に人々から魔力を集めている。これは、転移門や結界路の動力源として消費されている。

 

 

 △△

 

 

 パトリックたち5人は装備を整えると、歩いて結界路の中に入った。目的地は、偶然にも発見できた森のダンジョンだ。

 

 森にはダンジョンがある。と昔から考えられていた。しかし、これまでの捜索では発見に至らず、その存在は疑問視されはじめていた。それをパトリックたちが発見したのだ。

 そして人族の間では、ダンジョンが魔物を産み外に出てくる、と考えられていた。なのでパトリックたちは、このダンジョンを攻略して少しでも魔物の増殖を防ごうと考えたのだ。

 

 その道中、獣型の魔物を倒しながら魔石を回収した。回収しなかった魔石を魔物に摂取されれば、強化される可能性も考えられるし、なにより回収すれば用途があるからだ。

 

 戦闘での基本は、パトリックが前衛で魔物を抑え、後方の兵士が槍や魔法でダメージを与えて倒す。

 魔物の数が少ない時には有用であるが、多く出現した場合は別の手を使う。

 

「土の防壁(アースウォール)」

 

 1人の兵士が魔法を唱えた。これはレベル2の土魔法で、簡単に突破されることはない。その壁の1カ所に、魔物が1体だけ通れる隙間を作ると、必ずそこから入ろうとする。

 そこを全員で集中攻撃して、少しずつ数を減らし討伐。

 パトリックたちは、とにかく安全マージンを取りつつ魔物を討伐して進んでいた。

 

 目的のダンジョンに到着したのは昼過ぎ。この移動だけで6時間も費やした事になるが、慎重に行動したので当然の結果と言えた。

 

 ダンジョンに到着すると、安全確認を済ませ休憩の時間をとった。実はダンジョンには、違いがあるものの色々な制限が稀にある。

 特に有名なのが、魔力の自然回復無効や回復魔法の無効である。回復に関する制限が多いので、ダンジョンの捜索には回復道具が重要とされていた。

 

 調査した結果、このダンジョンには制限がなかった。

 魔物も小さな蛇に近いものが多く、出現する数もだいたい3体と決まっていた。

 また、ダンジョンの中は意外と明るく横幅2メートルの通路で構成された内部は、前後に注意を向けるだけで安全を確保し易かった。

 なのでパトリックたちには、道中の戦闘に比べると、ダンジョンの方が肉体的にも精神的にも楽であった。

 

 

「そろそろ行こうか、今日こそ地下5階を攻略するぞ」

 

 

 パトリックたちは、今までのチャレンジで地下5階まで到達していた。罠の有無からマッピング、魔物の種類、休息できる安全な場所、立地の良い場所、避難場所など、全て頭に入っている。

 

「まずは、地下5階まで直行しよう」

 

 魔物は、大きくてもせいぜい1メートルで動きも鈍かった。出現する魔物を倒しながらサクサクと進んだ。

 今日は特に戦闘が多かったので、パトリックはレベル7まで上がっていた。

 

 地下4階に到着した。

 

 この階からは、攻撃魔法を使ってくる魔物が出る。ナーガと呼ばれる1メートル程の半蛇人(はんじゃじん)だ。

 このナーガという魔物は、火のダンジョンにも出現する魔物で、人(じん)と付く割には人に全く似ていない。どちらかと言えば蛇に人のような目と手があり、尻尾で器用に立っているような魔物だ。

 ナーガが飛ばす火の粒のダメージはそれ程でもないが、とにかく数が多い。対処を誤れば、火だるまの可能性だってあるのだ。

 

 ここからは、遠距離かつほぼ一撃必殺の彼の水魔法が役に立った。

 

 魔術師ライブス・エリチカ

 

 このダンジョンを発見したあと、兵士の1人と補給の打診に訪れた彼を交代させたのだ。その采配が大当たりとなった。ライブスの水魔法はとにかくナーガと相性が良く、無詠唱で撃ち出される魔法は的確に眉間を貫いた。

 

 いつの間にか、パトリックのレベルは9になっていた。

 彼以外のレベルは、初日から1か2しか上がっていない。レベルの差もあるのだろうが、勇者の成長は早いようだ。

 

 そして地下5階に到着した。

 

 マッピングは途中までしか終わっていないので、ここからは慎重に行動だ。攻撃はライブスたちに任せ、パトリックはナーガの攻撃を完璧に防いでいた。

 次々と討伐しては魔石を回収したが、とにかく数が多かった。

 

 ようやく魔物の出現する間隔が長くなり、余裕が生まれてきた。ライブスを回復させるため、接近戦に切り替えて進むと突き当たりにたどり着いた。

 今までの突き当たりは下階に続く階段か通路であったが、今回は扉だった。

 

「これが、噂に聞くボス部屋なのかもしれないな」

 

 ボス部屋。つまりダンジョンの終着駅だ。

 当然パトリックたちは初めての経験だったので、“このまま入るか”、“態勢を整えるため一旦戻る”かを相談して決を取った。

 思いの外、全員やる気だった。

 

 ここまでの道中や魔物の強さを考慮しても、大して強くないと予想したのだった。少し休憩して体調と装備を万全に整え、扉を開けた。

 

 

 △△

 

 

 扉を開けると一本道が奥まで続いていた。入る前までは明るくて見通しの良いダンジョンだったが、扉の中は薄暗く光るコケみたいな明かりしかなかった。

 

 光(イガネオ)で光源を作り、慎重にゆっくりと進んでいくと、角の向こうに光が見えてきた。光源を消し覗(のぞ)き込むと、ナーガとコボルトが重なり合っている。

 チラッと見えただけでも10体は確認できた。どうやらボス部屋は、数の制限がないようだ。

 

 魔物の姿を興味深く観察していたライブスが呟いた。

「おそらく、交尾をしているのではないでしょうか?」

 

 その言葉を聞いたパトリックは、あり得ないと考えた。コボルトは王都にも住んでいる人族の仲間であり、精霊の末裔(まつえい)とも呼ばれている存在なのだ。

 

 さらに観察していると、1体のナーガが卵を産み始めた。その卵は緑色で、割れることなく見る見るうちに大きくなり、コボルトの姿に形を変えた。それが次々と5個。

 唖然とするパトリックたち。

 しかしよく見ると肌の色が違うのに気づいた。見渡して確認するがやっぱり色が違う。

 これはコボルトではない、別の生き物だと確信した。

 

 その反面驚きでいっぱいだった。

 魔物は“ダンジョンが生み落とすモノ”それが普通の人、外の世界を知らない者の一般常識であった。当然ながらパトリックもそうであった。

 

 ―― まさか魔物同士、それも全く違う種族同士で繁殖しているとは……

 

 彼らは話し合い、人の脅威になり得ると判断した。

 子どもの魔物だけでも軽く親の数を超えている。成長すれば、間違いなく人の生活を脅かす存在になるだろうと

 

 もう一度、部屋の中を確認した。

 10×10メートルくらいの広さで、奥に続く通路も見えた。仲間が居る可能性もあるが、やるしかないと判断。

 軽い作戦を立てたあと、魔法陣を書き終えたライブスが魔法を唱えた。

 

「泥沼落(ボグアース)」

 

 すると部屋全体の地面が沼地に様変わり。全ての魔物たちが突然の出来事でパニック状態に陥り、もがけばもがくほど深みにはまっていった。

 

「今です!」

 

 ライブスが合図とともに魔法を解除すると、地面は魔物を飲み込んだ状態のまま、まるで早送りのように乾燥して固まった。

 

「行くぞ!」

 

 素早く飛び出したパトリックたちは、地面に拘束され泣き叫ぶ声と命乞いのうめき声を上げる魔物を、手分けして迅速に始末した。

 ほんの数十秒の出来事だった。

 それが終わったあとの地面は、緑と赤が混ざったような色で埋め尽くされ、為す術なく倒された魔物の表情を見ると、後味の悪さと罪悪感を覚えた。

 

「おまえら……何をしている!」

 

 物音に気付き、駆けつけたが遅かった……奥の通路から現れたゴブリンが、わなわなと震えながら叫んだ。その後に、仲間のゴブリンが次々と姿を現した。

 その数10体。錆(さ)びた剣や短剣、ボロボロの盾や鎧(よろい)を装備していた。その中には、王国兵士に支給されている剣まであった。

 

「おまえ達こそ、ここで何をやっていた。コボルトに似ているが……何者だ!」

「コボルトだと? 人に尻尾を振って生きてる奴等と一緒にするな! 我らこそ、大地の支配者ゴブリン様だ!」

 

 パトリック達の足元、仲間の死体を睨(にら)みつけると、獰猛(どうもう)な声で叫んだ。それにつられるように、他のゴブリンも唸(うな)り声をあげ、憎しみを突きつけていた。

 

「土塊の攻撃(アースボール)ダブル!」

 

 そんな中、通路で待機していたライブスが、先制パンチとばかりに魔法を唱えた。しかしそれは、攻撃というよりも目眩ましを狙ったのようで、岩の塊はゴブリン達の足元に着弾すると土煙に変わった。

 

「パトリック様、数が多いです下がって!」

「よし、下がれ。陣形を整えるんだ!」

 

 ライブスの言うことは最もであった。相手は得体の知れない魔物であり、その実力は未知数。なので彼は、入口の細い通路へ誘導して、少しでも数の不利を無くそうと考えた。

 

 パトリックたちは、通路へ走った。

 距離は7メートル、走れば3秒ほどである。決して余裕のある数字とは言えないが、パトリックは通路まで辿(たど)り着き、盾と剣を構え陣形を組んだ。

 

 その刹那呻(うめ)き声が聞こえた。と同時にガンガンガンと盾を衝撃が襲った。

 

 ゴブリンが錆(さ)びた剣で叩(たた)き付けてきたのだ。作戦や陣形など関係なく、砂埃(ぼこり)の中から3体のゴブリンが真正面から突っ込んできて、我武者羅な攻撃してきた

 

 パトリックが盾に力を入れて押し返すと、ライブスが魔法を唱え、隣の兵士が魔弾砲を撃った。見事2体のゴブリンに命中。頭に当たったのか即死だった。

 

 しかしそんな仲間の死を目の当たりにしても、臆すことなくゴブリンは突っ込んでくる

 押し返したゴブリンが盾に抱きつきパトリックは動きを止めてしまった。剣で我武者羅に盾の向こう側を何度も刺す、手応えは薄いがダメージは与えているようだ。

 その横を砂煙から2体のゴブリンが飛び出し、隣の兵士に突進。兵士の背中から錆(さ)びた剣が2本飛び出した。

 

「ぐわっ」

「くっ、こやつら!」

 

 虚を付かれた兵士とライブスは至近距離から魔法を放つ、兵士の魔弾砲から発射された魔法はゴブリンの頭を吹き飛ばし、ライブスの魔法はもう一体のゴブリンの右手を吹き飛ばした。

 

 頭を吹き飛ばされたゴブリンは、そのまま剣で刺された兵士に覆い被さり絶命。腕を吹き飛ばされたゴブリンは、魔弾砲を放った兵士に飛びつき腕に噛(か)みつくと、左手の鋭い爪で兵士の目を抉(えぐ)った

 

「うがっ」 

 

 兵士が叫び倒れると

 

「ジャー!」

 

 ゴブリンは叫びながら兵士の首筋に噛(か)みついた。

 

 ゴスッ

 

 ライブスは、そのゴブリンを蹴り飛ばし魔法でとどめを刺した。

 

 パトリックは盾にしがみつくゴブリンが重いので盾を手放し蹴り飛ばした。ゴブリンは体勢を整えると、盾をパトリックに投げ返した。しかし、体中をパトリックの剣で刺されており、ダメージが大きかったのかそのまま倒れた。

 

 パスのような形になってしまった盾を素早く拾い上げ構えると、後から吹いてきた風によって砂埃(ぼこり)が晴れてきた

 

 ―― 攻撃が止んだ?

 

 パトリックの隣には剣で体を貫かれて倒れた兵士、後には目を抉(えぐ)られ首筋から大量に血を流している兵士、わずかな時間で2人もの犠牲を出してしまった。

 すぐにライブスが2人の兵士に土の恵み(アースヒール)を唱えたようだが、既に遅かった。

 

 パトリックは、反撃をものともせず、ただ真正面から物量で攻めてくる魔物のやり方に恐怖した

 

 ゴクリと息をのみ構えていると、グチャッグチャと音が聞こえてきた。その正体が目に飛び込んできた。

 通路に下がるとき転倒したのだろう。俯(うつぶ)せに倒れた兵士が、5体ものゴブリンによって串刺しにされていたのだ。

 

 ―― なっ!?

 

 パトリックは己を奮い立たせ、ライブスに援護を頼むとゴブリン目掛けて駆け出した。

 ゴブリンたちが下卑た笑みを浮かべながら、倒れた兵士に対して執拗に攻撃を続けていたのだ。

 ライブスが援護魔法を放ち、パトリックが中間地点まで駆け寄ったときだった。

 ゴブリンの頭が、その下卑た笑みを浮かべたまま崩れ落ちたのは。それも、5体全ての

 

 パトリックは、何が起こったのか分からなかった。しかしライブスは気付いた。彼の隣には、首を落としたであろう人物が居たのだ。

 

 

 △△

 

 

「ご助力感謝します。ところであなたは?」

 

 フードを被った女は、ボロボロの貫頭衣を着ているが、その下には鎖帷子(くさりかたびら)と腰用の防具がみえる。両腕にはガントレットを装備していて、その左側にはボウガンが取り付けられていた。

 足全体を守るためなのか、太ももに巻かれている蛇柄の皮は、ブーツの中にまで延びていた。

 パッと見、纏まりがなく寄せ集めのように感じる。

 

 女はハヅキと名乗ったが、それ以上の事には答えない。

 そんな事よりも、人族の王に伝えて欲しい事があると言った。

 

「取りあえずついてこい、話はそれからだ」

 

 ハヅキは奥に目線を送ると歩き出したので、倒れた兵士達に一瞥(いちべつ)をくれると、パトリック達も付いて行った。

 予想通り奥にも部屋があり、ハヅキは部屋の前で中を確認して魔物が居ないのを確認すると

 

「おまえ達には刺激が強いかもしれないが、見ろ」

 

 そう言いながらパトリックに場所を譲るが、ライブスがパトリックを止めた

 

「私が先に確認します警戒を」

 

 パトリックが頷(うなず)くのを確認すると、ライブスは部屋を覗(のぞ)き見た。その瞬間、思わず一歩を踏み出して立ち止まってしまった。

 

「何てことだ……」

 

 ライブスの驚きの態度にパトリックも中を覗(のぞ)き込んだが、思わず目をそらしてしまった。

 

 部屋の左側に、魔物の毛皮や骨で作ったベッドがいくつも並んでおり、先程の子どもと違い大事そうに赤子が並べられていた。色が緑色で耳が尖っているが見た目は人とそっくりであった。

 その反対側には子作りするような寝床が作ってあり、今さっきまで使われていたような形跡が見てとれた。そこには、人族(・・)の女性が3人居た。

 その人たちにライブスは駆け出し、回復魔法を唱え始めた。

 

「見て理解したと思うが、ゴブリンの目的は数を増やすことだ。それもただのゴブリンじゃない。特殊(強い)ゴブリンだ」

 

 パトリックにそう言ったハヅキは、中に入り短剣を取り出した。そして、無言で赤子の頭を次々と刎(は)ねたのだ。現実味のない淡々と続く光景を、彼はずっと目で追っていた。

 始末を終えたハヅキは、奥の部屋を発見。奥へ向かって歩みを進めると、パトリックの視界から消えた。

 

 ―― 何が起こっているのだ。夢なのか?

 

 ナーガが産み落とした魔物と違い、パッと見は人だった。その赤子の頭を躊躇(ためら)いもなくハヅキが刎ねたのだ。

 パトリックも理解はしていた。この赤子たちはゴブリンの子どもで、特殊なゴブリンだと言うことを

 だがしかしハヅキの行動、本当にそれでいいのだろうか。人族の中にだって肌や毛並みが緑色の人はいくらでも居る。肌の色で差別して良い訳がない

 

 衝撃的な光景に膝を着いてしまった彼が、そんな考えを頭に過ぎらせた時、いくつもの甲高い声が聞こえてきた。

 

「殺さないで!」

「やめて!」

「キャー」

「うわー」

 

 彼は立ち上がると奥の部屋へと走った。チラリと、涙を流しながら耳をふさいでいる女性の姿が目に映った。間違いなく、この女性たちの子どもなのだろう。

 

「ハヅキ待て! そのやり方は間違っている」

 

 彼の声で振り返ったハヅキは、涙を流し血を流すまで噛(か)みしめていた。その姿を見て彼は悟ったのだ。ハヅキもやりたくてやっているのではないと。

 

「私だって分かっている。だが、今でこそ人のように見えるこの子たちだって、いずれ魔石が形成され人に驚異をなす魔物になるのだ」

「それでもまだ殺す必要は無いはずだ。な、何か助ける方法がある」

「無いのだよ……風の剣(ウインドソード)。なら苦しまずに死ねた方が良くないか?」

 

 ハヅキは、赤子の首を刎ねた血塗れの短剣を仕舞うと、魔法で風の剣を作り出した。

 この剣を振るうと、見えない風の刃が相手を切り裂く。これが、ゴブリンたちの首を落とした攻撃だ。

 

「心配するな痛みを感じる前に逝ける」

「まだ猶予はあるのだろう? 今、ここで殺す必要はない!」

 

 パトリックは、ハヅキと子ども達の間に割って入り盾を構えた

 

「同じ事を言わせるな!」

 

 ハヅキは彼の盾を蹴り上げると、風の剣を振るった。それはまるで、豆腐でも切るようにあっさりと盾を斬り裂いた。

 

「なっ……」

「人族の優しき者よ、おまえの気持ちは痛いほど分かる。だが無理なものは無理なのだ。退け、次はおまえごと斬る!」

 

 だが、パトリックは動かない。

 

「私の名はパトリック=クルシュナイン。国を守る、人族を守ると亡き母に誓いを立てた王国騎士! ならば、この子らを守るのは私の使命。クルシュナインの名に誓って必ず守る!」

「亡き母……か、ならば私も名乗ろう。我が名はタカヤマハヅキ、母を救うため災いの種は刈らせてもらう。手加減はなしだ! 全力で行くぞ」

 

 ハヅキは息を吐きながら風の剣に魔力を込める。風の剣に周囲の空気が集まり圧縮されていく。

 振るうだけで盾を斬り裂く風の剣。だが、今から放たれる風の剣は高圧縮された風の刃。いったい何倍の威力があるのか計り知れない。

 

 その風の剣に相対する彼は、先程から自身の左腕が熱を帯びているのを感じていた。子どもたちを守ると、強く思えば思うほど熱くなってくる、あと一押しで何かが生まれそうだ。

 

 ハヅキは、高圧縮された風の剣を右下に構えた。

 パトリックは、両腕をクロスしてその攻撃に備えた。

 ―― 受けきってみせる。絶対に守る!

 

「下段式。昇斬波・地走り!!」

 

 その声と同時に、高圧縮された風の斬撃が解き放たれた。斬撃は地を抉(えぐ)り、大気を裂き彼の体ごと真っ二つに引き裂くだろう……

 

 かに思われたが、風の斬撃は彼の左腕に衝突して、それ以上前に進めなかった。彼は吹き飛ばされそうになるのを、歯を食いしばり踏ん張った。

 

 ―― 守る! 護る! 守りきる!!

 

 そんな彼の想いに『勇者』が応え『覚醒勇者(盾)』に変化したのだ。さらに守護の盾(プロテクトシールド)のスキルを獲得。

 彼は、その瞬間理解して自然に声が出た。

 

「出でよ、守護の盾!」

 

 すると、左腕に直径50センチ程の円形の盾が現れた。色は白で、青い二等辺三角形が十字を表すように中心から四方に描かれていた。

 盾は彼の腕に固定されているようだが、金具などの固定具は見当たらなかった。

 

「はっー!」

 

 彼は、左腕を真横になぎ払った。すると、風の剣の斬撃はその方向に進路を変えると、壁に突き当たり奥にめり込んでいった。

 

「なっ、私の昇斬波が弾かれただと!? 何だあの盾は……」

 

 手加減など一切しなかった。今の技は、ハヅキが出せる最大の攻撃だったのだ。

 

「ハヅキ殿、私の勝ちだ! 約束だ。時間を……せめて大人になるまで待ってくれないだろうか」

「何の事だ。勝ち? そんな約束をした覚えは無いぞ」

「そ、そうであった! しまったぁぁぁ約束するのを忘れていたあぁぁぁ」

 

 パトリックは頭を抱えしゃがみ込んだ。そこへライブスに連れられた女性が現れ

『お願いします!』

 子どもは見逃して欲しいと頼み込んだ。

 

 肩の荷が下りたように息を吐き出したハヅキは、今も頭を抱えしゃがみ込んでいる彼の名を呼んだ。

 彼が顔を上げると、ハヅキは片膝を付き右手をパトリックに差し出していた。

 

「見事だ! 私の技を正面から弾き返されたのは初めてだ。おまえの言うとおりにしよう」

「それでは待ってくれるのか?」

「ああ。だが、魔物化の兆しが少しでもあれば容赦しない」

「ありがとう今はそれで十分だ。必ず魔物化を止める方法を探してみせる」

「……頼む」

 

 パトリックは、ハヅキが差し出した右手と固く握手をすると立ち上がった。

 

 △△

 

「ダンジョンから出る方法を探さねばならないか……」

 

 一難去ってまた一難、パトリックは呟いた。

 この場所まで来られたのは、倒れた3人の協力があってこそ。現存戦力は彼とライブスの2人だけ。そして、協力してくれるのか分からないがハヅキだ。

 そのたった3人で、捕まっていた女性3人と子ども7人を守りながら地上まで出なければならないのだ。

 

 なんとか戦力に加えたい。出来れば手助けしてほしい。それを申し出るため彼は、まず話の取っ掛かりとして尋ねた。

 

「ハヅキ殿、地上まで出る安全な道はないか?」

「普通にまっすぐ地上に出れば良いだろう。問題はないと思うが?」

 

 しかし返ってきた言葉には、小馬鹿にしている訳ではないが、それに近い『本気で言ってるのか?』が含まれていた。

 彼らは幾度となく戦闘を経てここまでやって来たのだ。すぐに反論の言葉が口から飛び出た。

 

「ハヅキ殿、ここは魔物が闊歩するダンジョンなのだぞ? その道中この者たちを守りながらまっすぐ進むなど無理だ」

 

 全くもって同感である。ライブスもこの意見に賛同した。

 

「我々だけなら何とかなるかも知れません。しかし、か弱き女性や子どもが居るのですよ? はっ!? もしかして魔物と相対した混乱に乗じて子どもを亡き者に……」

「ライブス!」

 

 ライブスが思わず呟いた言葉は、失礼を大きく通り越していた。しかしハヅキは言葉を遮ったパトリックと、失言を恥じているライブスに苦笑すると口を開いた

 

「私は非情な魔物か……だが、赤子に手をかけたのは事実だ反論できんな……とりあえず勘違いだけは解いておこう」

「勘違い?」

「ここはダンジョンではなく、普通の洞窟だ。それに私はここに来るまで隅々を調べてきたが、魔物を見たのは極わずか。当然その魔物も討伐してきた。そう言うわけで、例え子どもだけでも難なく出口まで行けるだろう」

 

 彼らはダンジョンだと思っていたのに、ただの洞窟だったのだ。確かに魔物も多かった、なのでダンジョンと勘違いしてしまったが、ただ単に魔物の巣だったという事だ。

 しかしそれでも、魔物が人の驚異なのは変わらない事実。度重なる挑戦を繰り返し、魔物の巣を壊滅に追い込んだ彼らは大金星なのだ。

 

 △△

 

 ハヅキの言葉を信じて進んだ一行は、魔物に遭遇する事なく洞窟の出口近くまで到着した。

 道中、薬草や魔茸を採取できた事もあり、ライブスの魔力も全快していた。そのおかげで、薬類も温存できた。

 

 兵士の遺体は、ナーガの皮で包んだ状態で運んできた。原理は不明なものの『ナーガの皮で包むと軽くなる』とハヅキが教えてくれたのだ。また、足に巻けば俊敏性が向上し疲れにくくなる効果がある事も教わった。

 

 遺体は1体ずつ抱えて運んだが、軽くなったとはいえ半分の50~25kgはある。魔術師のライブスには相当キツかっただろう。

 反対にパトリックは、覚醒勇者になった事でパワーアップしていた。それ以前に、軽量化のスキルを得るまで重い武具で鍛えた体、どんとこいであった。

 そしてハヅキは、華奢(きゃしゃ)な体からは想像もできないほどの力と体力を持っており、子どもを肩に乗せて遊ぶ余裕があったほどだった。

 

 そんな彼女の姿を見た女性やライブスたちは『あの子たちを殺したのは本心ではない』と真に理解した。その結果、出口に向かう道中に努めて親睦を深めていた。

 その中で彼女から謝罪を受けたが、実は女性たちも魔物に成長した子ども達の恐ろしさは分かっていたのだ。責める事など誰ができようか。

 

「問題はここからだな……」

 

 ここまでは何事もなく来られた、本番は魔物が闊歩する森を抜けるための道中。洞窟内部と違って、魔物は前後左右どこから出現するのか分からないし、その数も予測不能である。

 そんな様々な事態を熟慮して、パトリックは呟きを漏らした。

 

「ハヅキ殿、何か良い案はないだろうか?」

 

 ライブスは、洞窟の外を観察しているハヅキに近づき問うた。

 

「おまえたちの住処までは、おおよそ5kmと言ったところか……彼女らを連れて森を抜けるのは、正直なところ難しい」

「住処って……」

 

 パトリックたちは、洞窟に来るまで6時間を費やした。ほとんどは戦闘と索敵。特に、索敵には十分な時間をかけ慎重に移動してきたのだ。

 仮に魔物を無視して走れば、1時間もあれば着く距離であるが、どこから魔物が襲って来るのか分からない森で走っての移動など、襲って下さいと言わんばかりの愚行である。

 

「ならば、北に進むしか道はないな」

 

 ハヅキは言う。

 北、つまりセナドゥース側へ進んだ方が、結界路には遠くなるが森を抜けるよりは危険は少ないと

 

 野営地へ進むルートは直線距離で5km。その大部分は森を通る事になるので、死角も多いし足場も悪い。そして、魔物との遭遇確率も高い。

 北へ進むルートは直線距離で6km。森を通るのは1kmほどで、残りの5kmは草原や荒野になる。荒野ならば、遠くまで目が届き魔物への対策も早めにできる。

 そして結界路内まで行ければ、結界路沿いを安全に野営地まで行ける。 

 

「パトリック様と相談してきます」

 

 ライブスがパトリックに声をかけ近づくと、彼は守護の盾で何かをしていた

 

「パトリック様、何をしているのですか?」

「おおっ! ライブス。これを見てくれ」

 

 彼は自分の収納スペースから魔石を取り出すと、盾の中央部に近づけた。すると、魔石が盾の中心部分にすうっと吸い込まれた。

 

「なっ!? これは?」

「ライブス、今のをどう思う? 10個程吸わせてみたのだが……」

「もっと吸わせてみましょう!」

 

 未知なる事への探求心をくすぐられたライブスは、率先して自身の収納スペースから全ての魔石を取り出した。こんな状況で、好奇心を優先するのは不謹慎だと分かっている。

 しかし、現状を打破する何かに繋がるかもしれない予感がしたのだ。パトリックも頷くと、競うように取り出した。

 魔石の数は、全部で106個。

 

 実際に並べて比べると、魔石と言っても形は様々だ。多いのは楕円形で、だいたい直径1cm長さ3cm前後。色は黒ずんだ赤だ。

 ダンジョンの魔物から得られる魔石の色も黒ずんだ赤が一般的なので、魔石の大きさが魔物の強さに比例していると思われている。(実際は、明度・色彩も関係しているので、大きさだけで魔物の強さは比較できない)

 

 パトリックたちが今回手に入れた魔石のサイズは大きい部類になり、ダンジョンの地下3階以降で得られるサイズに相当する。なので、地下1、2階で生計を立てている冒険者がほとんどの現状を踏まえると、価値は非常に高かっただろう。

 

 話は変わるが、魔石の買い取りは厳格に決められている。

 基本、入手したダンジンョンの町にある協会でしかできず、集められた魔石は定期的に転移門経由で鉱山都市スノームへ送られ、主に『魔力電池』通称、電池の生産原料になっている。

 もしそれ以外に流出させた者は、職業を剥奪され犯罪奴隷に落とされる。

 

 何故そこまで厳重に扱われているのか説明すると、貴重な資源なのもあるが、魔石は生きているのだ。

 例えば地面に埋めると、土の中で成長して新たな魔物になる事が判明している。

 実際の話、町の中に魔石を埋設したり放置するような冒険者は居ないとだろう。仮に悪意を持った者が魔石を埋めて魔物が出て来たとしても、町には冒険者がゴロゴロ居るのでたちまち退治される事だろう。

 

 ちなみに結界路で囲まれているため、魔石を町の外へ持ち出す事はできない。例え収納スペースの中に入れていても破壊されるのである。転移できる者が居れば可能かもしれないが、転移魔法を使える者は皆無。失われた魔法なのである。

 しかし仲間の腕輪(ゼラブレスレット)の中だけは、破壊を防げるのは秘密である。

 

 今回パトリックたちは魔石を回収していたが、そのまま結界路を通過すれば当然破壊される。初日から今でさえ、パトリックもライブスもその事に気付いていなかった。なので、盾に吸わせた行為は正解だったと言える。

 

 パトリックとライブスは、子どもの様に盾へ吸わせる行為に夢中になっていた。きっと何かが起こる。そうでなければ魔石が吸収される訳がないと

 

 すると予想通り53個目を盾に吸収させたところで、守護の盾のレベルが上がり、城の盾(キャッスルシールド)というスキルを獲得した。

 

「ライブスやったぞ! 盾のレベルが上がった!」

「全部吸わせてみましょう!」

 

 結果が出ると俄然やる気になるのは、人として当たり前なのだ。ちょうど100個目で

 

 城の壁(キャッスルウォール)と壁落(シューティングスター)と言うスキルを覚えたのだった。

 

「ライブス。壁落とは何だろうか?」

「流星でしょうか?」

 

 

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