※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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ジェームスの生まれと兵器

 

 

 今から数年前、ジェームスは森の中にある洞窟で生まれた人とゴブリンのハーフである。

 生まれてひと月は母親と共に生活をしていたが、その後命令に従いサラデインへと出向き、新たな女性を仕事の勧誘と偽り洞窟へ連れ戻った。

 その結果ジェームスは、報酬として母親を与えられると、衰弱していた母親を連れて森を出るのは無理と判断したのか、住居をもらい隠れるように住む選択をした。

 

 拐われてきた女性と望んだ訳ではない子どもであったが、親子の仲はとても良好だった。

 母親は彼にジェームスと名付け、『イガネオ』と人族語を教えた。それが項を奏したのか不明だが、ジェームスは体に魔石が形成されても『人を襲う本能』に負けなかった。

 

 それから1ヶ月後。少し体調が良くなった母親を連れて森をひっそりと抜け出すと、滅多(めった)にゴブリンもこない荒野へと移り住んだ。

 ジェームスは、母親を町に逃がそうと考えていたのだ。

 

 その準備段階の頃、母親との住まいに1人の男が突然舞い込んできた。言葉の通じないオドオドしたおいしそうな男だった。

 

 最初は、ゴブリンが母親を攫(さら)いに来たのかと勘違いして思わず攻撃してしまった。

 その攻撃は急所を外れたが、片手をふき飛ばすほどの重傷だった。しかし、母親は別として『人』は襲ってバラバラにする対象(エサ)である。ジェームスは、構わず追撃を試みた。だがそれは、母親に止められてしまったのだ。

 

 その男は母親の手当てを受け九死に一生を得るが、傷が元で動けなくなってしまった。

 その男はシナガワと名乗った。

『イガネオ』で会話できるようになったジェームスとシナガワは、親睦(しんぼく)を深めていくことになるのだが、それと同時にシナガワと母親の仲も親しくなっていった。

 

 シナガワの傷も癒(い)え動ける様になると、ジェームスと一緒に狩りに出て成果を上げるようになった。

 シナガワは職業こそなかったが、鷹目(イーグルアイ)のスキルを持っていたのだ。

 

 

 鷹目(イーグルアイ):目を閉じて発動すると、大空を羽ばたく鳥の目線で景色を見る事ができる。

 

 

 鷹目で隠れた獲物を見つけ、ジェームスが獲物を狩る。そんな毎日を送っていたある日、ジェームスはシナガワに頼んだ。

 

「母親を連れて、人族の町に行って幸せに暮らして欲しい」と

 

 しかしながら、母親もシナガワもここの暮らしに慣れたこともあって首を縦に振らなかった。そもそも、ジェームスを残して行ける道理はないと語ったのだ。

 その後もジェームスは何度も頼んだ。

 自分の事を思ってくれるのは正直嬉しい。がしかし、こんな危険な場所ではなく、安全な町の中で健やかに過ごしてほしいと本心で考えていた。

 しかし2人の決意は鉄のごとく固く、決して首を縦に振ってくれなかった。

 

 その数日後に事件が起きた。

 

 武器を装備した100名を超える人族が近くにやって来たのだ。ここに住むようになって、人族が訪れたのは初めての事だった。その目的は分からないが、どうやら森を目指しているようだった。

 

 彼らは荒野を抜け草原の前で一旦立ち止まると、何やら作業を始めた。

 この時期は秋。

 草原は5メートル以上の枯れ草が生い茂り、前も見えない草の壁であった。

 彼らはトウロウがいるのを知っていたのか、草を焼き払うと生き残りや隠れていたトウロウを討伐しながら進んでいった。姿さえ確認できれば、それほど強敵ではないのだ。

 

 その人族の動きを、シナガワは鷹目で確認していた。隣には、寄り添う母親の姿があった。

 

 △△

 

 出遅れたのだろうか、少し遅れて数人の人族が草原にやって来た。それを見つけたジェームスは、母親とシナガワを町に連れて行ってもらおうと考えた。

 彼ら人族ならば、魔物と違って襲ってくる事などないだろうと、きっと保護してくれるだろうと思ったのだ。

 

「すみません。人族の男性と女性がこっちにいます。保護して町まで連れて行ってください」

 

 ここは結界路の外である。まさか声をかけられるなどど思ってもいなかった彼らに緊張が走った。

 

「誰だ! 出てこい!」

 

 ジェームスは手を上げて武器を構える彼らの前に出ると、丁寧に話し出した。

 

「落ち着いてください。僕は魔物ですが、人族に育てられたので襲ったりはしません。どうか、その人たちを保護して町まで連れて行ってください」

 

 彼らは動揺(どうよう)したのか、抱えていた魔石や装備品を落としてしまった。

 

「何だコボルトか、ビックリさせるなよ」

 

 彼らはそそくさと魔石や装備品を拾うと、収納スペースに入れたり籠(かご)に放り投げたりしていた。

 

「たくぅ。俺らは大事な仕事をしていて忙しいのによぉ」

 

 ジェームスは、魔石を拾っている姿を見てピンときた。狩りの時に、魔石も回収して集めてあったのだ。

 

「魔石なら僕が集めたのがたくさんあります。全部あげるので、保護を頼めませんか?」

 

 その言葉を聞いた彼らは、動きをピタッと止めると集まって相談し始めた。

 

「しゃあねぇなぁ。場所はどこだ? 案内しろ」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 ジェームスたちは、草原近くの洞窟(どうくつ)で暮らしていた。草を敷き、木や岩などでイスやテーブル・ベッドを作ったり、魔物の革や骨を利用して調度品も作っていた。

 原始的だが、魔法(イガネオ)で水や火も使えるし食べ物にも困らない、なかなか快適な暮らしをしていたのだ。

 

 その場所に彼らを案内すると、まずは魔石を見せろと言われたので保管場所に連れていった。

 

 魔石は地面に埋(う)めると魔物が生まれるので、魔物の革袋に入れて吊るしてあった。このように保管しないと、半年ほどで砕けてしまうのだ。

 袋の中身は、メッサーバッタやメッサーラビットの魔石がほとんどで、獲物が取れない時期の蓄えだった。

 

 その魔石の多さに彼らは驚き、歓喜の声を上げた。

 

「すげぇ、一体いくつあるんだ?」

「こりゃ当分困らねぇなぁ」

 

 彼らは、ずらっと吊るされている革袋をひっくり返すと、我先にと自分の収納スペースに魔石を詰め込み始めたが、すぐに収納スペースが満タンになった。

 

「また取りに来ればいいだろ。こりゃあいいもん見つけたぜ!」

「冒険者たちの後をつけてきて正解だったな!」

「キャッホーイ」

「ゲハハハ!」

 

 その光景を見たジェームスは、もしかしたら何か間違った事をしてしまったのではないのか? と思ったが、それをスミに追いやると

 

「あ、あのぉ。保護の約束は……」

 

 と、リーダーっぽい男に声をかけた

 

「おおっそうだったな。どこに居るんだ? 案内しろ」

 

 ―― やった!

 

 ジェームスは、声をかけて本当に良かったと考え、シナガワと母親の幸せな未来を想像しながら案内した。

 シナガワは先に進んだ冒険者たちに集中していて、母親はシナガワにもたれながら眠っていて、外の様子に気づいていなかった。

 

「お母さん! シナガワ! 助けが来たよっ???」

 

 ジェームスの声に気づいた母は目を覚まし、シナガワは鷹目を中止すると、2人同時に振り返った。

 !?

 そんな2人の目に飛び込んできたのは、ジェームスの首が鈍い音をたて落ちた光景だった。次いで首のない体が崩れ落ちた。

 

「ジェ、ジェームス!!」

 

 唐突に訪れた、到底信じられぬ理解不能な出来事だった。頭が真っ白になってしまったシナガワは、見知らぬ男達に襲われボコボコに殴られたあげく、右手両足を切断された。

 

 慣れているのか何時から画策していたのか、男達は一切の躊躇も乱れもなくジェームスを殺害し、シナガワを無力化してみせた。

 彼は訳も分からず、激痛をあまり感じる事なく死んでしまうのだが、その目には、シナガワとジェームスの名前を泣き呼ぶ女性が、数人の男に押さえつけられる姿が映っていた。

 

 

 △△

 

 

 ぺシぺシぺシ

 

「おーい、大丈夫? 応答せよ。あー、久しぶりだからミスっちゃったかな?」

 

 彼は、そんな声に意識を呼び戻された。

 

 ―― キャロ?

 

「キャロ!!」

 

 彼はガバッと上体を起こすと、すぐに周囲を確認した。

 

 そこには、衣服を乱暴に破かれた女性が横たわっていた。殴られたのだろう、顔や体には痣(あざ)が無数にあり、顔には涙を流した跡を物語るように砂が付着していた。

 

 この人物はキョロラインと言う名前で、10代後半の美しく優しい女性だった。魔物(ジェームス)に襲われた時、身を挺して救ってくれたのが、彼との初邂逅だ。

 少しドジっ子で、笑うと小さな笑窪(えくぼ)ができるのがチャーミングで、初めて見たときから好きになっていた。

 

 出会ってからの思い出が、色濃くシナガワの脳裏に過っていた。

 

 そんな彼女が、まるでボロ雑巾のように打ち捨てられていた。その姿を見た彼は、ドロドロと吹き出てくる、心臓を握り潰され頭が狂いそうな感情に囚われてしまった。

 その姿は、とてもではないが話しかけられるような様子ではなく、不用意に話しかけようものならば、見境なく襲ってくる血の餓えた獣。――そんな状態だった。

 

 しかし、そんな物などお構い無しで、気づかいゼロ。不用意かつ軽い調子で話しかけてきた男がいた。

 

「おーい、ちょっとー。無視? まあいいや。君たちは面白いなーっと思って、たまに見てたんだけどさぁ。最近ゲームにハマっててすっかり忘れてたんだよね。で、ゲームがメンテに入っちゃってさー暇だから見に来たんだけど、コレは酷いねぇ。

 君の体は何とか治せたんだけど、この娘は魂まで死んでて無理だったよ。よっぽど酷い目にあったんだろうね。そこのゴブリン君も無理だったよ」

 

 シナガワには、何を言っているのかサッパリ理解できなかった。と言うより、涌き出る感情で思考までが黒く塗り潰されており、男の言葉は右から左であった。

 しかし、聞いているのか聞いていないのか分からない様子のシナガワを気にも留めず、男は喋り続けた。

 

「まぁ、後味が悪いのは事実だしね。うんっ、なかった事にしてあげるよ」

 

 そう告げた男は、黒髪を真ん中で分けた中肉中背で歳はシナガワと同じくらい。高価そうな白い衣服とマントを身に付け、腰に黒くて禍々(まがまが)しい気配のする剣を下げていた。

 

『なかった事』その言葉は、感情に囚われていたシナガワに届いた。意識をその男へ向けた彼は、探るように口を開いた。

 

「ど、どういう意味でござるか?」

「ふーん、攫(さら)われてきたのかー。ふむふむなるほどー、同じように攫(さら)われる道を選択すると、結局同じような結末を迎える運命にあるのか。それを回避する道は……残念だけど、君と出会える道はないね」

「何を言ってるのでごさる? 攫う? 運命? 出会う?」

「知らなかったようだね。この娘は騙されて町から攫われてきたんだよ。そしてゴブリンの子ども、ジェームスを出産したんだよ。でもね、ジェームスや君に救われたみたいで幸せいっぱいだったようだね。残念ながら攫われる全ての道は、悲惨な最期が待ち構えているんだけどね」

 

 男の話を理解できる人族は、そう多くないだろう。だがシナガワは漫画やアニメなどの知識を持っているので、自分なりに解釈して納得する事はできた。

 なので、タハハと笑っている男へ質問を投げ掛けた。

 

「そもそもアナタは誰でござる? どうしてそんな事が分かるでござるか?」

 

 もしかしたら……シナガワの感情はおさまりつつあった。希望が見えた気がしたのだ。

 

「僕はねー……時の支配人? かっこ悪いな……時空魔術師(スペースタイムマジシャン)だ!」

「長い。呼びにくいでござるよ!」

「もうなんでもいいよ。話を戻すけど、今回のはちょっと僕も頭にきたからゴミは磨(す)り潰(つぶ)すとして、この娘は攫われてない道に修正してあげるよ。それで魂も救われる。ただねー、彼女と君は出会ってない事になるよね」

「キャロラインの魂を救ってくれるのなら些細な事でござる」

 

 無かった事になったとしても、彼の中に彼女との思い出は確かに残ると時空魔術師は告げた。助かるのなら、こんなに酷い結末が無かった事になるならば、安いものだろ。

 

「はーい。注文入りました-! 今回だけだからね!」

「男のデレは不要でござるよ!」

「しかし、君の話し方は個性的だね……ぷぷっ」

 

 時空魔術師はそう言いながら、落書きでもするかの様に複雑な模様の魔法陣を地面に書き上げると、キャロラインの遺体を中心に置き

「*** ***** ***!」

 と魔法を唱えた。

 

 魔法陣は様々な色で点滅を繰り返すと、最後にまぶしく輝いた。光は中央のキャロラインに向かって徐々に小さく収束していく。光が消えると、キャロラインの遺体と魔法陣の代わりに、輝く玉が残されていた。

 

「はい終わりー。この玉があれば忘れないから」

 

 そう言いながら輝く玉を拾い上げると、シナガワに投げ渡した。

 

 玉を見ると、どこかの風景が見えた。

 小さな子どもと話をしている、幸せそうな笑顔をした小さな笑窪の女性が映っていた。

 

「良かったでござる……本当に感謝でござるよ」

 

 その言葉に頷きを見せた時空魔術師がジェームスの亡骸(なきがら)に手をかざすと、淡い光を放つ見た事もない金色の魔石に変わった。

 

「ジェームスは産まれなかった事になったけど、仕方ないよね?」

 

 この金色の魔石は、ジェームスが存在していた証だ。

 投げ渡されたシナガワは、魔石を包み込むようにキャッチした。すると、ジェームスの想いが流れ込んできた。

 そのほとんどは温かい物であったが、それ以外も含まれていた。

 

「ジェームスも悔しかったんでござるな。よし、僕は人間をやめるでござる!」

 

 品川大地(しながわだいち) 当時17歳の高校2年生。

 学校からの帰宅中、突然なにもない荒野に迷い込む。

 ジェームスに襲われたもののキャロラインに助けられた。

 そのまま同居する事になり、親好を深めていくうちにこの世界で生きる事を決意した。

 その後、冒険者の取りこぼしを漁るハイエナまがいの者達に、愛する者を殺され自身も殺害されたかのように思われたが、時空魔術師の手によって九死に一生を得る。

 

 なんやかんやあり彼は、敵(かたき)を取るためジェームスを取り込み人間をやめてゴブリンになったが、ジェームスの想いが、彼に復讐を願っていたのかどうかは不明である。

 

 ゴブリン族に近づいた彼は、元世界の知識を生かして結界路を飛び越える装置や飛び道具などを開発して現在の地位を獲得。

 また襲撃作戦成功の見返りとして、サラデインに住む一部の捕虜最優先順位と、セナドゥースの一角を所有する権利を得ている。

 

 △△

 

 荒野にある洞窟(どうくつ)内に、数人の男がいた。

 彼らは手足の爪を剥(は)ぎ取られたあと、手足の指を第1、第2関節とノコギリの様な大鋸(おおがま)でゆっくりと切断され、耳と鼻を薄く薄く何十回と分け削(そ)がれていた。

 

 洞窟内には、男たちの絶叫が響き渡っていた。

 

 瞼(まぶた)は閉じられないように固定され、目玉に細い刺(とげ)を何十本と刺(さ)れていた。

 その次は、手足を1cm間隔で輪切りにされた。

 胴体だけの達磨になってからがメインイベントだ。

 トウロウが、男性器を根元まで少しずつ噛み食べ始めた

 

 地面には大きな魔法陣が書いてあり、常に意識や感覚を残されたまま死ねないでいた。

 男性器を食べ終えたトウロウは、そのまま上に向かい皮を剥ぎ、内蔵を取り出し食べていた。

 

 絶叫の出し過ぎで喉も枯れ果てた。声も出せず空気だけが漏れる音が響いていた。

 頭を残して全て食べ尽くすと、やっと男たちの意識は途切れるのだ。……と思ったら、すぐに傷ひとつない状態で復活するのだ。

 

 またトウロウが爪を剥ぎ出した。もう何回目だろうか、両の指はとうに越えていた。

 

 男たちは、今まで感じた事のない強烈な痛みと恐怖で、少しずつ魂まで削られていた。彼らの魂が朽ちてしまっても、輪廻の輪で再生されないように

 

「こ、ごろじでぐれ……」

「まだ始まったばかりなのに何を言ってるのさ。あっ、もうすぐ君たちの家族や恋人も連れて来るからね。連帯責任ってやつだね」

 

 この男達は大罪を犯し、触れてはならぬ逆鱗に手を出した。しかし、その家族たちに罪はないはず。そんな理屈は、スマホを取り出し

「まだメンテナンスじゃん、何だよこのクソゲー。まぁいっか、ゲームはたくさんあるし、他のをやろぉっと」

 と呟く、自称・時空魔術師には通用しないのだ。

 

 ▲▲

 

 ライブスたちを見送ったパトリックとハヅキは、キャロラインに乗って海辺までやって来ていた。

 今から見学会が始まるのだ。

 

 海に向かってファイヤーイグナスが横並びになっている。ジェームスが搭乗するキャロラインを中心にして、左右に5頭ずつの11頭。

 

「まずは小手調べから、1番から5番まで用意! 撃て!」

 

 ボフッ! ボッボッボッボ!

 

 そんな音と同時に、ファイヤーイグナスが咥(くわ)えている筒から炎や土の塊が発射された。

 飛距離はバラバラだが、はるか遠くへ飛んで行く塊もあった。

 目で追える速度だったが、それは横から見ているからだろうか

 

「みんな良くやった、狙い通りでござるよ。さてパトリック殿、一番遠くへ飛んだ塊がどれほどの距離か分かるでござるか?」

「よく分からないが……1kmくらいだろうか?」

 

 パトリックは答えた。それは希望的観測に過ぎなかった。

 

「その倍でござるよ。僕のスキル鷹目(イーグルアイ)は、上空から物事を見る事ができるでござる、さらに距離も正確に分かるでござるよぉ!」

「そ、それは、この場所から王都やさらに遠くの町まで見通せるという意味だろうか?」

 

 ジェームスの『倍』の言葉で押し黙ってしまったパトリックの代わりに、ハヅキが疑問を投げかけた。

 

「その通りでござる。ちなみに、ここからセナドゥースまでの距離が2km。一番遠いシノフィールまでが30km程でござる。そして僕の鷹目の有効範囲は、半径50km。余裕綽々ですな。

 では次、コレが最大の目玉でぶったまげでござるよ!」

 

 ジェームスは、隣に座っているゴブリンに合図を送った。

 

「準備初め!」

 

 キャロラインの背中に積載されていた筒を連結した、長さ10m近くある筒の内部が、弾に合わせた口径に狭まった。また、キャロラインの背中にある凹みに固定してあるため、前足の動きだけで角度が調整できるのも特徴だ。まるで自走砲である。

 

「撃ち方用意。撃て!」

 

 ボフューと周囲の空気が一気に吸い込まれると、爆音とともに筒から弾が発射された。

 これは直径20cm長さ50cmもある、円錐形の岩石砲弾だ。

 先端は空洞になっており、入れる魔法や薬物などによって攻撃法方は多岐(たき)にわたる。

 他にも鉄や木製、魔物を素材とした砲弾と、大きさも種類も豊富にあるのだ。

 

 弾は高く舞い上がると、空のかなたに消えていって見えなくなった。

 

「今ので約20kmの飛距離でござる、ちなみに4連筒砲だと僕でも目で追えない飛距離が出るでござる。……さて、感想を聞きたいでござるが?」

 

 ―― に、20kmだと!? いや、目で追えないと言う事は、最低でも50km先に着弾させる技術を有すると言うことなのか……

 

 パトリックは、事の重大さに気づいたのか黙り込んでしまう。

 

 またパトリックは、ジェームスの持つ『鷹目』の驚異にも気付いていた。どのように見えるのか? その精度は? など不明な点があるものの、ある意味『人工衛星』みたいなものである。

『鷹目』の有効範囲内は、まるはだか。建物の内部までは流石に見えないだろうが、地形や重要施設、街道に至るまでの情報は筒抜け状態を意味する。

 

「ジェームス殿。結局なにが言いたいのか、私にはさっぱり分からないが」

 

 そう言ったハヅキは、腕組みのまま首をひねった。

 

「ハヅキ殿は演技をしているのでごさるか? この攻撃は砲撃と呼び、僕の『鷹目』で正確に距離を割り出す事によって、遠く離れた場所をピンポイントで攻撃できる! そんな画期的な兵器でござる。例えばそうですなあ……町にある結界発生装置にドンッ! でござるよ」

「リック、そんなことが本当に可能なのか?」

「おそらく、ジェームス殿の言っている事は本当だろう。結界発生装置の場所が、特定できていればの話だが……」

「特定は、まだでござる」

「やはり、施設内部までは見られないと?」

「ご想像にお任せするでござる」

 

 軽い心理戦を行うパトリックとジェームスの隣で、事の重大さに気づいたハヅキは黙りこんだ。

「次はこちらです」

 そんなハヅキをよそにジェームスは、パトリックの前で結界路をこえる方法を『ゴブリンに見立てた魔石』で実践して見せた。

 つまり、魔石が破壊されずに結界路を越えられれば、魔物も越えられると言うことである。

 

「こんな抜け道があったのか……」

「少し考えれば、分かりそうな事でござるな」

 

―― ひと月半で対策を練るのは無理だ。しかしジェームス殿さえ亡き者にしてしまえば……いやまて。その前にジェームス殿は、なぜ手の内を明かしてくれたのだ?

 

 パトリックは海を眺めながら、これから起こるであろう人族最大のピンチと、ジェームスの不可解な行動理由にどう対応すべきか考えていた。

 

 

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