ゼラニオンに変身して身体能力が飛躍的に向上したとは言っても、桜たちに比べると本来の身体能力は低く月とスッポン状態なので、差が縮むどころか広がるのが道理。
先日、結界路に進入して樹木の上を駆けたときは、彼に合わせてスピードを調節していたのだろう。
先頭を走るのは、アスモデウスと唯。
進路上に出現する魔物は、彼女らの手刀と指鉄砲から出される魔法で瞬殺。
陽二はその後ろを、手をつないだランスロットに引っ張られる形で走っていた。
―― 女の子の姿で本当によかったよ……
と、ちっぽけなプライドが桜に感謝していた。その裏では『見てろよ、必ず追いついてやるからな!』と自分へ向けた嫉妬を闘志に変えていた。
あっという間に森を通り抜けると、草原に到着した。
この草原には、隠れて獲物を狙う強力なハンターであるトウロウが居る。
実は風のダンジョンにもトウロウは出現するが、あちらは魔石持ちの魔物。この草原に生息するトウロウは、魔石を持たない生き物であり、この場所にしか存在しない固有種である。
当然ながら聡明なリーダー桜ちゃんは把握済み。
なので無駄な殺生は行わず、種の保存を優先する行動をするのは当たり前の
―― クラッカーぢゃ!
「アスモ!」
その言葉だけで、桜の考えを理解するのがアスモデウスだ。少し誇らしげな顔で、唯に攻撃禁止を伝えた。
「
桜は、唯を含めた全員に魔法をかけた。
隠密戦隊のおかげで、例えトウロウの真横を通り抜けても気づかれなくなる。さらに、触れた草などの音や振動さえも対象になるのだ。
桜たちは、身の丈程の草原に突っ込むと、目的地に向かって一直線に進んだ。
草原を抜け荒野に出ると、スピードはさらに上昇。陽二は地面と平行になって、スーパーマンのポーズ。草原の途中で、ランスロットの小脇に抱えこまれたのだ。
その為、少しでも矜持を見せるポージングを披露していたのだ。
△△
桜は、キャロライン・イグナスの上に『隠密戦隊』で潜入を果たすと、パトリックやハヅキに語りかける『黒い詰襟学生服』を着たジェームスの話を盗み聞きしていた。
その様子は『ヒーロータイム』で撮影され、少し離れた場所で待機しているアスモデウスが持つ『受信用の玉』へと送信されていた。
「このジェームスってゴブリンなんですか? 俺には日本人っぽく見えるんですけど……」
「何をゆうておるのじゃ? どう見てもゴブリンじゃろうが。とうとう、頭のミソまで腐ってしもうたか」
「どう見ても人にしか見えないんですけど……あと、おなかに何か光る物が見えますね」
ジェームスの姿は間違いなくゴブリンであるし、陽二以外の目には例外なくそう映っていた。なので唯は、彼の目ではなく頭を心配した言葉を返したのだが、彼の次の呟きを聞いたアスモデウスが、可能性として擁護する口を開いた。
「映画の
「ふふん、あたり前だ。私の陽二なのだからな!」
彼が何時ランスロットの所有物になったのか不明だが、人に見える
△△
ジェームスは結界路を越える方法を披露して、驚きの表情を見せたパトリックに気を良くしたのか、意気揚々と砲撃の再実演を指示した。
「もっと凄いところを見せるでござるよ!」
そんな鼻高々で高揚するジェームスを間近で見ていた桜は、パトリックとハヅキに害を及ぼす事はないぢゃろう。と判断すると、一旦仲間の元へ戻って情報を整理する事にした。
興奮している様子の桜ちゃん。戻ってくるなり大きくした鼻の穴からむふーと空気を吸い込むと
「あの砲撃とやら……面白いのう!」
ハイテンションで口にした。それを聞いたランスロットも
「すごい物を作り上げたものだ」
と感心していた。
「結界路を越える方法にはびっくりしましたけど、高さの制限があったのですね」
「ふむ、消費魔力。コストも関係あるのぢゃろうな」
アスモデウスと桜が話しているように、結界路には高さの有効範囲が存在していたのだ。それは、おおよそ10m。つまり言ってみれば結界路とは、高さ10mの見えない壁だったのだ。
実はこの高さ、桜やアスモデウスさえも知らなかった情報。と言うより、誰も気に止めていなかった盲点であった。その対策として結界路の周囲10mは、何もない平地となるように昔から取り決められていたのだ。
ジェームスがどうやってソレに気づいたのか分からないが、シーソーみたいな道具を使って、その高さをクリアしたのだ。
ただしその道具の性質上、飛び越えられるのは小型のゴブリンに限定される。
「
「あれって、ようは
駄々っ子のように言い出した桜に、陽二はそう言った。砲撃を見慣れている彼は『弾を撃ち出すだけの道具だろ?』と考えていたのだ。
「
「うっ、確かに……」
「それに、やつは
「それってどっちなん? 喜んでもいいのか?」
「いい加減口答えをするでない」
今まで黙って娘の勇姿に顔を崩し頭をなでていた唯に、陽二は怒られてしまった。
「母様よいのぢゃ。仲間同士で意見も言えぬようなチームでは駄目ぢゃからのう」
「うむ。できた娘じゃ」
娘をギュッと抱きしめる母親を見て『親バカだあ』と陽二が考えていると
「それで結局どうするつもりなのだ。正面から突っ込むか?」
話の流れをぶった切るように、ランスロットが問いかけた。
「実はのう、昨日試してみたのぢゃが……アスモが持ってきた青い鉱石が動力源として優秀でのぉ。試作機の実験をやろうと思う」
「試作機?」
「うむ。その名も超合体ゼラガイオーぢゃ」
「その浪漫あふれるネーミングは何だ? ロボか? ロボなのか?」
「陽二よ、そうがっつくでない。『あわてる見習いは儲けが少ない』ぢゃぞ?」
「意味わかんねーよ」
そんなやり取りがあった後、少し打合せをしてから彼らは行動を開始した。
△△
「わーはっはっは! わーはっはっは! わーはっはっは!」
まずは注目を集めるため、桜ひとりでジェームスたちの前に姿を現した。ただ単に、目立ちたいだけとも言えるが
「だっ、誰でござる!」
「あれは……もしかしてゼラレッドか!?」
パトリックは王子だが、王ダグリオスと違ってゼラニオンに面会した事もなく、正体も知らない。しかし、映画やお決まりの登場シーンは超絶に有名なので、彼女の事をゼラレッドと結びつけてしまったのだ。
「リック、彼女は何者だ?」
「あの者はスーパーヒーローだ!」
「スーパーヒーロー?」
ハヅキには『スーパーヒーロー』が理解できず、また、彼女の目的が不明なのもあってか、とりあえず静観することにした。
「おぬし達の悪だくみ、天が見逃してもゼラニオンが見逃さないのぢゃー!」
バーンとジェームスたちに指を差した。
「むむ、ゼラニオンでござると?」
「とおー」
桜は、あらかじめ陽二たちがスタンバイしていた場所に降り立った。シャキーン!
「ゼラ、レッド!」
「ゼラ、ブルー!」
「ゼラ、イェロー!」
「ゼ、ゼラブラック!」
ダダンッ!
「4人そろって、美少女戦隊ゼラニオン!」
バーンッと決めポーズ。それに合わせ、各背後にドカーンと各カラーの爆発が起こった。
爆発は唯のお仕事である。タイミングもバッチリ。職人並みのグッジョブだ。
4人に増えたのでポーズが変わっていた。
4人が横向きに並び、掛け声に合わせて
4人そろってで、足踏みを3回
美少女戦隊で、片手を腰、もう片方を反対の肩の上に引いて
ゼラニオンで、一気に引いた手を相手に向かって伸ばす。
人差し指と中指だけを伸ばすのがポイントだ
最後に桜が投げキッスをするのだが、映画で見ている人にはカメラ目線になるので、大ウケ間違いないらしい。
それはさておき。彼女らの決めポーズを見たジェームスたちゴブリンは唖然としていたのたが、そのスキに唯が音もなく近づき、パトリックとハヅキを一瞬で連れ去っていた。
「むむむ、かっこいいでござるな。と言う事は僕らが悪役でござるな? 務めを果たすでござるよ!」
さすがに現代知識を持つジェームスであった。とてもノリが良く、瞬時に振る舞うべき立場を理解したのだ。
「諸君、ゼラニオンをやっつけるでごさるよ!」
「うおおっ!」
ジェームス首領の命令を受けたゴブリン怪人たちは、陽二を除いた3人にばらけて突っ込んだ。
真ん中のゼラレッドには、ゴブリン25体。
左右のゼラブルーとゼライェローには、ゴブリンナイト1体とゴブリンが5体だ。
ジェームスを乗せたキャロラインイグナスと、ファイヤーイグナス10頭は待機のようだ。
●ゴブリン25体 vs ゼラレッド
「
ゼラレッドは、ゴブリンの攻撃を盾で丁寧に受けると、乙女戦闘棒で確実に
まとめて倒したりはせず、囲まれないように動き回り1体ずつ時間をかけて倒していた。まるで尺を稼ぐように……
●ゴブリンナイト&ゴブリン5体 vs ゼラブルー
ゼラブルーは様子見とばかりにゴブリンの攻撃を、避けて避けて避けまくっていた。観客目線ではハラハラと手に汗握り、心臓に負担のある場面に見えるが、実は全く危なげなく優雅に舞う蝶のようであった。
そして、逆転の蜂のひと刺しが飛び出た。
「ヘルスパーク!」
誘導され一直線に並んでしまった5体のゴブリンは、黒い雷の餌食だ。そして
「
武器を取り出したゼラブルーは、満を持してゴブリンナイトと相対。相手のスピードに合わせ、
●ゴブリンナイト&ゴブリン5体 vs ゼライェロー
「
呼び出した乙女大剣によって、向かってくるゴブリンを1撃のもとに粉砕。あっという間に全滅だ。
そして当然、ゴブリンナイトとの1対1。見た感じ彼女とゴブリンナイトの実力に差はなく、優劣はつけられなかった。
「我が名はゼライェロー!」
「俺はゴブリンナイトだ!」
ゴブリンナイトは、体をすっぽりと守る鉄製の大きな盾と槍を装備していた。この個体の力はとても高く、相当な重さであろう武具を軽々と振り回す。
それもそのはず、この個体はジェームス隊のナンバー2なのだ。
「ふっ。ゆくぞぉ!」
「来い!」
キン! ガッ! ガキンガキン!
彼女は右へ左と乙女大剣で攻撃。それはゴブンリナイトに盾で防がれると、火花に変わり飛び散った。そのお返しとばかりに、カウンター気味の槍が彼女を強襲するが、乙女大剣を盾代わりにして防いだ。
「まだまだ!」
「やるな、これならどうだ。ナイトラッシュ!」
息もつかせぬ5連突きだ。
それを彼女は乙女大剣で弾き、弾き、弾き、防ぎ、防ぎきれず避けた。もしもこれが王国兵士や冒険者だったら、瞬く間に風穴を空けられていただろう。
「くっ、こっちの番だ。まとえ
乙女大剣を上段から振り下ろすと、纏ったばかりの風壁が発射された。
「そんなもの!」
ゴブリンナイトは盾を風壁に投げつけて相殺すると、振り下ろされる乙女大剣を避けながら彼女に一直線。
「ナイト
これは、ショットガンフォーメーションのゴブリンナイト版で、己を一つの弾丸に見立てて突っ込む、ゴブリンナイト最大の技だ。
「ぐっ!」
彼女は、素早く乙女大剣の腹で防いだものの、ゴブリンナイトの勢いは予想以上。受け止めきれず吹っ飛ばされ、武器も手放してしまった。
「まだまだぁ。行くぞ!」
ゴブリンナイトの勢いは止まらず、止めを刺すため彼女に向かって急旋回。
「風壁!」
体勢を立て直した彼女は、防御魔法を唱えた。風壁は簡単にぶち破られてしまったが、勢いを削ぐ事に成功した。またこれは、同時に見くらましも狙っており、魔法と同時に大きくジャンプした彼女は
「
空中で
「「勝負!!」」
「
「ナイト弾丸!」
正々堂々、正面からの力比べ。
お互いの武器がぶつかり、先端で火花を散らした。
ピシッ
その瞬間ゴブリンナイトの槍に亀裂が走ると、先端から粉々に砕け始めた。
「たああっ!」
彼女はゴブリンナイトの槍を砕きながら直進。そのまま神槍で体を貫いた。
「ぐっ……見事だっ!」
神槍で貫かれてしまったゴブリンナイトは、彼女に称賛の声を送るとあお向け大の字に倒れた。ナイトたる者、相手に背中を向けて倒れるわけにはいかないのだ
「貴殿こそ騎士であった!」
●ゼラブラックvsゴブリン5体
陽二はいまいち要領を得ず、飛び出すタイミングを完全に見失ってしまった。なので仕方なく彼女らの闘いを観戦していたのだが……
「まじか……」
迂回してきたゴブリンたちに襲われた。
幸いにも、変身した事で身体能力はゴブリンを上回っていた。そのおかけで、上手く逃げながら距離を作れた。
「ゼラソード、ゼラシールド!」
武器を呼び出した。
全くのずぶの素人である陽二だが、桜たちの戦闘を見て
―― 俺にだってできる!
と思い上がっていた。
パトリシアやカリンの戦闘を見た影響もあっただろうが、気合いはマックスファイヤーだった。
「おりやゃ!」
ガキン!
しかし先頭のゴブリンに斬りかかるも、あっさり盾で防がれた。
ブオン
ゴブリンの反撃だ。
『!?』と驚きながらもゼラシールドで防ぐことに成功した。だが、その衝撃は思いの外大きく、盾を弾かれてしまった。
―― や、やべぇ。めっちゃ強いぞ
「ふぁ、
プチパニックになった陽二は、咄嗟に防御魔法を唱えると
「
と唱え、大きく後ずさった。
命中したのかは分からないが、ドキドキと自身の動悸が聞こえるくらいに大きいのを感じていた。
ビクッッ!!
すると目の前に、1体のゴブリンが飛び出してきた。と思ったら目の前で転倒、
―― チャ、チャンス!?
そう考えた陽二は、咄嗟にゼラソードを叩きつけた。
それなら突き刺せば……と思ったのもつかの間。真横から衝撃を受けた陽二は、追撃のおまけ付きで吹っ飛ばされた。
「いってーー!」
ゴブリンに左足を斬られた彼は、うつ伏せに転倒。
乙女戦闘服のおかげで擦り傷程度だったとは言え、痛いものに不慣れなのもあってか、思わず声をあげるほどの痛みだっだ。
その陽二を馬乗りで押さえつけたゴブリンは、狂ったように背中を攻撃し始めた。
ガキン! ガキン! ガキン!
プスッ! プスリ! プス!
とても頑丈で高い防御力を誇る乙女戦闘服だが、その防御力は装備する者のステータスに左右される。その為、ほんの少しだけ剣先が貫通してしまい、チクチクと針を刺したような感触が陽二の背中を襲った。
「痛えっ! やめろ、止めてくれ!」
辛抱たまらなくなった陽二は、ゴブリンの顔に肘鉄を食らわせた。その瞬間、ゴブリンと
口元に笑みを浮かべるその目は血走り、狂気に溢れていた。
間近で見たその顔に、一瞬で恐怖に囚われた。
全身はガタガタと震えだし、カタカタと歯の音が耳の奥に鳴り響いた。
動けなかった。目をそらす事も叶わなかった。頭はパニック状態を通り越して真っ白になってしまった。
ゴブリンの剣を振り上げた姿が、スローモーションのように見えた。
「あっ、あっ」
言葉にならない渇いた声が、陽二の口から発せられたその時だった。
「
鈍い音と共に頭がクラッと揺れると、口と頭から緑色の液体を吹き出したゴブリンが、陽二に覆い被るように倒れてきた。
目を見開き唖然としている陽二に、滴り続ける緑色の体液
「陽二大丈夫か!」
戦いを制したランスロットが、陽二の危機に気づき助けに来てくれたのだ。
「ひっ、ひぃぃいい!」
悲鳴をあげた陽二は、ランスロットの胸に飛び込み抱きついた。そこへ、4体のゴブリンが襲いかかってきた。
「お前ら、私の陽二に……」
陽二の頭を守るように抱き寄せたランスロットは、次々と飛びかかってくるゴブリンを片手で操る神槍で、あっという間に突き刺すと息の根を止めた。
「もう大丈夫だぞ。陽二」
ランスロットが優しい声をかけても、胸に顔を埋めた陽二は、抱き付いた力を緩めず離さなかった。
否。手が離れてくれなかったのだ。さらに涙に鼻水、お小水まで垂れ流していた。
―― 情けねぇ! 情けねぇけど、怖かった。本当に死ぬかと思った。無理無理無理! 俺には無理だ!
「
陽二は突然、水壁に包まれた。
水壁は、ゴブリンの体液からお小水まで全てを洗い流した。
「陽二大丈夫だ。私が側にいる」
彼にかけられた彼女の言葉は、緊張と恐怖を優しく溶かし、包み込むような熱があった。
すると体の硬直がほぐれていくような気がして、激しかった鼓動も鳴りを潜めていった。
われを取り戻した彼は、気恥ずかさを隠すようにつむいだ。
「ランスありがとう。助かった」
お礼を言われた彼女は、その、すがるような目にキュンと胸が高鳴った。優しく抱きしめると、体を離し目を見つめ……自然と唇を重ねた。
時間にすれば1秒か2秒だろうか
―― はい?
「陽二、まだ終わっていないぞ? 怖いのは理解できる。私にだって恐怖心はあるからな。慣れろ、とは言わないが己で乗り越えなければ死ぬぞ。私は陽二に死んで欲しくない。だから、それまでは私が陽二の盾になろう。これは誓いだ!」
ランスロットは再度、唇を重ねた。今度は一瞬だけ
―― えっ? えっ?
されるがままにポカーンとしていた陽二の頭の中を『?』マークがくるくるくるくる。
そんな混乱した頭で、キスまではやり過ぎだと思うが、励ましてくれてるのだと陽二は解釈した。
「ありがとうランス。死なないために頑張るよ!」
「それでこそ私の愛する男だ!」
「きゅ、急にそんなことを言われても返答に困るけど……かっこいいな。
「ああ、どんどん惚れてくれ。むしろ惚れろ!」
とか言ってる裏で、ランスロットは
―― あああっ私は勢いに任せて何てことをしてしまったのだ! 恥ずかしい……しかし、もう後には引けない! ランスロットよ、押して押して
と思っていた。
そんな2人が見つめ合っている姿を、ゴブリンを始末し終えた桜がニヤニヤしながら見ていた。
その横には、祝福するように笑みを浮かべたアスモデウスと、少し怒った表情の唯がいた。
その隣にはパトリックとハヅキも居たのだが。
ハヅキは顔を赤らめながら
「女子と女子が
と
△△
ドゴーン、ドゴーン
戦いはまだ終わっていないのだ。ちょっといい雰囲気になっていた彼らの周囲に、砲弾が飛んできた。
すぐに唯とアスモデウスが結界を張り、それを防ぐ。
「どんどん撃つでござるよ!」
ファイヤーイグナスから次々と砲弾や火の玉が発射されるが、結界を破ることはできない。
「すごいのお! 狙いも正確ぢゃ!」
その様子を結界の中から見ていた桜は、砲撃の正確さに興奮マックスだった。
「母様、2人を安全な場所へ」
「うむ。頑張るのじゃ」
桜は、パトリックとハヅキを連れ立った唯を見送ると「見せ場ぢゃ!」と全員を見回した。
頷くゼラニオンメンバー
「「「「ゼラガイオー召喚!」」」」
作戦通り一斉に叫ぶと、5つの腕輪が光り輝いた。
レッドが持つ2つの腕輪から頭部と両腕が
ブルーの腕輪から胴体が
イェローの腕輪から両足が
ブラックの腕輪から三角の物体が飛び出した。
そして、どこからともなく音楽が鳴り響く。桜の腕輪からだった。
デデデーンデンデン! デデデーンデンデン!
胴体と両腕が空中でドッキング。
ガチーン! ガチーン!
そして地面に立っている両足に、胴体がドッキング。
ガシャーン
次に空へ飛びだした頭が胴体にパイルダーオン!
ガッチーン!
最後に、三角の物体が下半身に合体。
ガッチーン!
まるで、ビキニパンツの様だった……
完成したゼラガイオーは、○ンシャインみたいな角張ったゴーレムだった。それが、黒いパンツを履いている様に見えた。
体長20m、体重120tだ。
それを見た陽二は叫んだ。
「かっこ悪ぅ! パンツいらねーだろ!」
「ふう。これだから陽二は……心にゆとりを持つのぢゃ『遊び心と秋の空』ぢゃ!」
「それを言うなら、女心と秋の空だ!」
「ちっ。男の癖に小さい奴ぢゃ。おっとすまん、今は女ぢゃったな。よ・し・こ・ちゃん」
「なんで『よしこ』なんだよ。せめて陽子にしろよ」
「お約束のやり取りはしまいぢゃ。乗り込む!」
ゼラガイオーに搭乗するには、後ろに付いてる
「こえーよ。落ちたら死ねる」
「陽二早く登れ、下を見るな。後ろには私が控えているのだ! 気にせずに登れ」
「おまえ、どんどんイケメンに見えてくるな」
△△
ゼラガイオーの操縦室は頭部に配置されており、人間で例えると耳がある位置が入り口だ。
操縦室の壁面にはモニターが配置されており、360℃周囲の風景が映し出されている。
操縦席は全部で5つ。2・1・2の3列構成。
前2つがランスロットとアスモデウス
中央は、当然リーダー桜だ。
その後ろに2つ。陽二はその片方に座った。
なので、あと1人メンバーが増えても大丈夫なのだ。
とそこに
「唯さんどうしてここに?」
「見学じゃ!」
せっかくの娘の晴れ舞台である。その目に焼き付けておきたいのは当然の親心。フリーダム過ぎるが、決して遊びに来たわけではない。
「ゼラガイオー発進!」
桜の号令で
ギギギギダーン、ギギギギダーンと
スローモーションの様にゼラガイオーは歩みを進み始めた。
「おせーよ!」
当然の如く陽二がツッコミを入れた。
ちなみに部屋の中は震度4くらいの揺れがあり、腕輪に付いている『状態異常防止』がなければ、リバースリサイタルを誘発する『酔い』を防ぐのは、余程慣れた強者でないと骨がおれる。
あと視界の揺れも結構大きいので、改良を期待したい。
陽二がチラッと横を見ると、なにやら唯の顔色が優れない。
目が合った。唯はニヤッとほほ笑み
「マジかよ。ひでーよ唯さん!」
流石の唯もゼラガイオーの前には形無しのようだ。
そのゼラガイオーは現在、ファイヤーイグナスの砲撃を避けもせず堂々と正面から受けていた。ドゴーン、ドゴーンとほぼ100%の命中率。
砲撃の腕が良いのか、全く避けようとしないゼラガイオーがカカシなのかは言わずもがな。
「なんのお! ゼラガイオーの底力。耐えるのぢゃ!」
「耐えんのかよっ。避けるなり防ぐなりしろよ!」
コテンと首を背もたれに倒し、後方の陽二に目をやった桜は、やれやれ分かっとらんのお。そんな感じで口を開いた。
「これぢゃからぬしは阿呆なのぢゃ。受けてみんと、
なるほどである。ゼラガイオーは初の実戦投入であり、様々な実験を経ているのだろうが、実戦のデータ取りは重要と言うことなのだろう。流石は桜ちゃん、思慮深いものである。
等々そんな事を言ってる間にも、ドゴーンドゴンと集中砲火は続き、操縦室にもその振動が伝わってきた。
既に歩みを止めてしまったゼラガイオーは棒立ち状態。これは砲撃の訓練なのだろうかと疑うほどの的であった。
そして、いまだに顔を突っ込んで嘔吐いているのは唯。司がこの姿を見たら100年の恋も覚めるのは間違いない。
さて、そんな集中砲火・雨あられ状態の中でも桜は、腕を上下左右に動かしたり、足踏みしたりジャンプしたりしてゼラガイオーの動きを確かめ始めた。
おまえらの攻撃など、蚊に刺された程度。という大物っぷりで。
ちなみにジャンプから着地したとき足にヒビが入った。支障はないが、改良の余地ありだ。
いい加減限界が近いのか、前面モニターに赤文字で警告が出始めた。
「ふむ、ここまでぢゃがデータはまずまず。アスモ、防御壁展開ぢゃ!」
「お任せ下さい! えいっ」
「アスモさんが直接張るの? ゼラガイオー無能かよ!」
「バカもん。アスモもゼラガイオーの一部ぢゃ!」
「なんだよそりゃ。それより攻撃しようぜ、何か武器はないのか? 」
「くっくっくっ。あるに決まっておるぢゃろう」
「ならさっさと反撃しろよ!」
「ぼーくらーのゼラガイオー!」
「何故に歌い出した!?」
「ガイオーパンチで敵を討て! 行け、行け、ゆけえぇ!! ぼーくらの」
「「「ゼラガイオー!!」」」
陽二が歌い出した桜に驚いていると、突然アスモデウスとランスロットの2人も『ゼラガイオー』の部分から歌い始めた。
「俺知らないけど、いつ練習したんだよ。のけ者? 報連相大事だよ?」
そうツッコミを入れる陽二の横には、スッキリした表情で唯が歌に入るタイミングを探っていた。
「唯さんもう大丈夫なんですか? そんな事より、俺の収納スペースはどのような惨事に?」
物を取り出したら
「陽二、攻撃準備ぢゃ。あっポチっとな!」
なんやかんやで既に歌は終わっており、桜がボタンを押すと陽二が座っている席の下に穴が開き、座ったまま中に吸い込まれた。
「シュート・インぢゃ!」
「だああああー!」
吸い込まれた陽二は、ゼラガイオーの体内を下腹部まで落下。着地前に落下速度は遅くなり、衝撃はなかった。
驚いて閉じてしまった目を開くと、前面の壁が直径2mほどの円形に開き、外の景色が見えるようになった。
現在陽二のいる場所はゼラガイオーのビキニパンツの部分になり、外からも丸見えである。
室内は2畳程の広さで、壁の前に大きな装置があった。
真ん中に四角いモニター。その中心には、十字の赤い照準。
横には2つのレバーがあり、そのレバーを両手で動かしレバーにあるボタンで弾を発射する仕組みだ。
ゲームセンターにあるガンシューティングの機械を想像してもらえれば分かりやすいだろう。
すぐに仕組みを理解した陽二は叫んだ。
「弾はっ?」
「装填済みぢゃ。1発しかないが外れてもよい撃てぇー!」
背もたれ部分から桜の声がした。操縦室との通信も問題ない。
「了解した!」
「陽二、右から3番目を狙うのぢゃ!」
「任せとけ!」
陽二は桜の指示に従い、3番目のファイヤーイグナスに照準を合わせた。ゲームセンターにあるガンシューティングと、感覚はほぼ同じだ。
「発射!」
発射スイッチを押すと、30cm程の金色の玉がボンッと発射された。2mくらい飛んだだろうか、しかし重力に負けてそのまま落下していった。
「なんだこりゃ?」
期待外れもいいところであった。
すると地面に落下した玉はコロコロと転がり始めた。どんどん回転数が上がるとみるみるうちに大きくなって、とうとうファイヤーイグナス2頭分を軽く
そしてグジャ! ベキボキっと音を立て3頭のファイヤーイグナスを無情にも踏み潰すと、海の中へ吸い込まれていった。
ゴブリン達は
「あ、あの攻撃はヤバイでござる! 狙われないように分散して進むでござるよ!」
流石はジェームス。いち早く気を取り直すと全軍に指示を出した。ゼラガイオーの左右に隊を分けて、両側から攻撃するつもりだ。とりあえずゼラガイオーの正面を外せば、あの玉は驚異ではないとの考えだ。
それに次はすぐ避ける。
ジェームスに同じ攻撃は2度も通用しない。通用させてはならないのだ。
しかしながら本条桜は、その斜め上を軽く行く頭のおかしな幼女だった。
「くーくっくっく。みずからゼラガイオーの間合いに入ってくるとは愚策ぢゃのう。全員、緊急脱出ぢゃ!」
「うむ」
「分かりました」
「分かった」
すぐさま全員が脱出を開始した。ところがどっこい
「ちょ、ちょっと待て。俺はどこから脱出すればいいんだ?」
「急ぐのぢゃ!」
彼の声は誰にも聞こえていなかった。彼の通信は、操縦室にむなしく響いた。
ジェームスは、ゼラガイオーの左側にキャロラインイグナスとファイヤーイグナス2頭を、右側にファイヤーイグナスを5頭進行させていた。
桜は右手に向かって、ゼラガイオーでジャンピングボディプレスを敢行。と同時に最後の桜が脱出した。
スドゴーン!! グラグラグラ!
それは120tの物体が呼び起こした大地震だった。
それで巻き起こった暴風と土嵐。まさに自爆といっても過言ではない恐るべし攻撃だった。それを敢行した桜は、めったに見れぬ光景を見たとご満悦の様子である。
その横で、ランスロットが叫んだ。
「陽二ー!」
「惜しいやつを失ってしまったのぢゃ。安らかに眠れゼラブラック!」
「うっうっうっ陽二くん……」
期待の新人ゼラ・ブラックを失ってしまったゼラニオン。しかし敵は残りわずか。
さあ、弔い合戦の始まりだ!
△△
ゼラガイオーは倒れてボロボロになってしまった。
だが敵にやられたわけではない。桜が使った自滅技のせいである。
「コアも回収したし
満足げに、残骸になってしまったゼラガイオーを尻目に彼女は
「ゼラ・ブラックの犠牲は無駄にはせぬ。これを期に、ブラックゼラガイオーと名前を変更してもよいくらいぢゃのう。わーはっはっは! わーはっはっは!」
それが聞こえてしまったジェームスは叫んだ
「仲間を簡単に切り捨てるとは、外道でござる!」
これにはパトリックやハヅキも同じ気持ちで、桜に怒りの目を向けていた。
「仲間を見殺しにするとは……それでもスーパーヒーローだというのか!」
「卑劣だぞ!」
そもそもセラガイオー内部で起こった出来事を、ジェームスやパトリックがなぜ知っているのか? ツッコミはなしでお願いしたい。
「うぬらは黙っておれ」
パトリックとハヅキの背後に、殺気を放つ鬼がいた。
2人は忘れていたが、彼らを避難するように連れ立ってくれたのは唯だ。
「いつの間に?」
ハヅキは、一切の気配も察知できなかった事に
「ウチの娘に文句があるのなら
あれが演技なのかと、パトリックは率直に思った。しかしそんなやり取りなど、桜にはどこ吹く風である。
「アスモ、ランス一気にケリを着ける。ジェームスとでっかいやつはわらわが捕獲する。残りは任せたのぢゃ」
「分かりました」
「任せろ。ブラックの敵討ちだ!」
彼女たちには大義名分がある。その燃え盛る闘志を持った3人は、横並びでジェームスたちファイヤーイグナスへ向かってゆっくりと歩んだ。
はた迷惑極まりないでござる。
何故か敵討ちの相手になってしまったジェームスの心境を表すと、こんな感じだろうか。
何はともあれ、このまま負ける訳にもいかない理由がジェームスにもある。
「けっ、蹴散らすでござるよ。撃て、撃て!」
2頭のファイヤーイグナスは口から炎酸を次々と撃ちだし、キャロラインイグナスの背中では、ジェームスが1連砲台を4つ並べて次々に弾を発射した。
「ランスちゃん!」
「分かった」
「「
アスモデウスが作り出した膨大な水の塊を、ランスロットの風魔法で槍に変化させ、炎酸を的確に
「次はわらわの番ぢゃな。
桜の放った乙女指弾は、ジェームスが撃った砲弾の半分を破壊してみせた。
「母様!」
その言葉だけで唯は理解する。
本当に優しくて、
「任せるのじゃ。
ピストルを
「そ、そんな……うそでござるよ」
「さすが母様ぢゃ!」
「やりますね、唯!」
「あ、あのくらい私にだって……」
ランスロットは、ちょっとだけ強がってみせた。
その光景を、真横で見せ付けられたパトリックとハヅキは、口を大きく開けていた。
「あの様に連続で来られると、私の盾でも防ぐのは無理だ……」
「1発1発が、私の昇斬波と
「桜、決めてくるのじゃ!」
パトリックやハヅキの呟きは聞こえていたが、唯にとっては意味がない。それよりも娘の成長を見て、それが誇らしげであった。
「
「
「
△△
「
ランスロットは走るスピードを上げ、炎酸を弾き返しながらファイヤーイグナスの上空に跳んだ。
「
ファイヤーイグナスの上空まで到達したランスロットは、剣先を下に向けると急降下。ファイヤーイグナスの固い鱗を乙女大剣で串刺しにすると、体内でアクアストームを放出した。
「ギャアオーーーーー!」
ファイヤーイグナスの断末魔が響いた。
△△
「ファイヤーイグナスちゃんは、火の耐性が高いのですよね?」
死神鎌砲の中心部分から2本の支柱が飛び出し地面に突き刺さると、その場に固定された。
アスモデウスは照準を合わせると、手前にある穴に腕を突っ込み魔力を注入。
「
銃口から炎が放出された。炎は
焱龍にかみつかれたファイヤーイグナスは瞬時に燃えつきてしまったが、焱竜の勢いは衰えることはなく、そのまま海の中に突っ込んで行った。
ジュッ! ジュワッ、ジュー
の音とともに大量の海水が蒸発して、あたり一面が何も見えない深い
「なにも見えないでござる。あ、熱いでござる」
桜はその水蒸気の中、キャロラインイグナスの
ドスーンと、たまらずキャロラインイグナスは地ベタに
「顔がガラ空きぢゃー。ゼラレッド、キッーク!」
桜はその反動で跳び上がり『熱い、熱い!』と騒いでいるジェームスの前に舞い降りた。
ぴゅーっと、周囲一面にあった蒸気が晴れていった。その時ジェームスは、初めて自分以外の仲間が倒されている事を知ったのだ。
桜は、ビシッと乙女戦闘棒をジェームスの鼻先にかざした。
「ジェームスとやらおまえたちの負けぢゃ。おとなしく、わらわの元へ来い! 大サービスの3食昼寝付きぢゃ!」
全てを悟ったジェームスは、ワナワナと震え涙ながらに訴えた。ここまで壊滅的なダメージを受けてしまっては、彼の希望はもう
しかし目の前のスーパーヒーローが『来い!』と手を差し伸べてくれている。もし自分に利用価値があるのならば、助けてくれるのなら全てを
「
「むむ?」
いまいち理解しきれない桜は、
「任せるのぢゃ。われらゼラニオンに不可能はない!」
その瞬間ジェームスは桜の軍門にくだった。
そして、ゴブリン達の作戦の
△△
「たぶん、ここら辺ぢゃな」
ゼラガイオーのなれの果て。大量の土の残骸の上で桜が指を差した。現在、埋もれたゼラブラックの発掘作業中なのだ。
「生存は難しいのではないか?」
ハヅキがそう
別の場所では、アスモデウスとパトリックがジェームスに付き添い、魔石の回収及び、亡骸を集めて形ばかりの墓を作った。
さすがにそのまま放置しておけるほどの仲ではなく、ジェームスの事情はひた隠しにしていたが、苦楽をともにした仲間だったのだ。
キャロラインイグナスだけは、桜の捕獲宣言通りに無事だった。傷を治療するも暴れる事なく従順だった。これはジェームスに懐いているのが大きかった。
「陽二。陽二ー!」
ランスロットは、彼の名を呼びながら土を掘り起こしていた。
その名に気付いたパトリックは『まさか?』と思いながらも、アスモデウスに尋ねた。
「アスモ殿。つかぬ事をお聞きしますが、もしや陽二とは……」
「はい。パトリック様が思っている方で間違いないです」
その数分後、ランスロットの手によって陽二は無事生還した。
桜は脱出する際、陽二がいた部屋を防御壁で守っていたのだ。当然、ゼラニオンメンバーと唯は気付いていたので、そこまで心配をしていなかったのだ。ランスロットは心配していたと思うが、少しだけ『心配している私』に酔っていた節があったのかもしれない。
陽二は陽二で、桜の性格、諸々を何となく理解していたのだが、いざ1人になると、どうしてもゴブリンの恐怖心に囚われそうになったので、セナドゥースの部屋へ行きレヴィアタンを
そして、最初こそ女の子の陽二に驚いていたパトリックだったが、ゼラニオンに加入した経緯などを説明すると『そんな事もあるのか』と納得していた。
「映画と顔ぶれが違うのは、正体を隠していた。ということなのですか……」
当然、ゼラニオンが本当に実在していたのにも驚いていた。
パトリックと久しぶりの
当然の如くマナリシアの生還を喜んだパトリックが、すぐにでも野営地へ戻ろうとしたのだが、桜がそれに待ったをかけた。
桜は、ジェームスからゴブリンの動向や作戦を聞いていたのだ。そこで、パトリックにも指示を出すらしい。
ちなみにパトリックは、王子だということを忘れてはならない。
ゴブリンの作戦で、現在最も危機が迫っているのが大森林シノフィールと言うのが発覚した。ジェームスの『鷹の目』で確めたところ、すぐにでも助けに行かないと危ないという。
シノフィールには『作造樹』と呼ばれる200mを超える大きな木が生えていて、同時にエルフが住む城になっている。
その中腹当たりの伸びた枝の先に『精霊の園』と呼ばれる聖霊シノフィールの血筋が育った場所があり、現在ではエルフの子ども達が育てられているのだが、今、まさにその場所が狙われているのだ。
そこで、ゼラニオンメンバーがそれに対応する事になったのだ。
「パトリックとハヅキは、王妃とシアを回収しつつ王都に戻り、ゴブリンたちの説明とこれからの対応ぢゃ!」
「承知した!」
「ジェームスは……陽二、光って見える場所とはどこぢゃ?」
「おなかのそこら辺だけど?」
陽二がジェームスの光っている部分を指で差すと、アスモデウスが間髪入れずにソレを抜き取った。
陽二以外から『おお~』と声があがった。彼には分からないが、見た目が人間に戻ったのだ。
「ジェームスも王宮へ行くのぢゃ。キャロラインには、のちほど迎えをよこす」
「それならキャロラインで野営地まで送り、その場に待機させておくでござるよ」
「うむ。任せたのぢゃ」
「では、陽二とランスは先に飛べ。
「準備万端でござるよ!」
3連結した砲台を背負ったキャロラインを、誇らしげに見たジェームスが言った。
「まさかと思うけど……アレで飛べと?」
「大丈夫ぢゃ陽二。ゴブリンで実験済みぢゃと、ジェームスが太鼓判ぢゃ」
「ランスおまえは平気なのか? どう考えたって危ないって」
そのランスロットは、キャロラインを見ながら顔をニマニマさせていた。
彼女は全く危険視していなかった。むしろ、早く飛びたそうにしていた。
「わらわたちも結界路を抜け、すぐにでもシノフィールへと転移する考えぢゃが、それでは間に合わぬかもしれぬ。先に行ってエルフ共を救ってやれ。時間がないのぢゃ、つべこべ抜かしとらんでさっさっと飛べ!」
▲▲
「ランス殿。精霊の園上空で開くように計算してあるでござるが、念のため確認を怠らないようにしてほしいでござる。それと、
「任せろ」
2メートル程の輸送ポッドの中に2人で入り、それを飛ばすのだ。当然ながら抱き合う様な形になり、外の様子は小さな窓からしか確認できず、運を天に任す状態に近い。
もともとゴブリンを町に突入させるために開発した兵器だ。
「ところで、俺も行く必要ある?」
桜は実験をその目で見てみたいし、アスモデウスは転移先のシノフィールでスムーズに行動する役目に必要で、唯は嫌がった。ただそれだけなのだ
じゃあランスロット1人に行かせればいいのでは? と思っただろうが、陽二の捜索が面倒くさいと考えた桜は、ランスロットに言ったのだ。
「1人で捜索するなら陽二の同行を許す。狭い場所に2人きりぢゃぞ?」
とたきつけたところ、見事ランスロットが釣れて陽二を発見した。そういう事だ。ちなみに輸送ポッドの仕組みなどは不明だが、1人よりも2人分のバラストがあった方が安定する。というのが正解なのだ。
「では発射するでござる」
そういう訳でエルフを救うべく、2人を乗せた輸送ポッドは大森林シノフィールへ向けて飛び立ったのだった。