※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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王妃の帰還/間に合ったスーパーヒーロー

 

 陽二とランスロットの乗った輸送ポッドが、シノフィールへ向けて発射された。

 

 桜はそれを見送ると、ジェームスから得られたゴブリンの情報を整理していた。

 と言っても、彼も全てを把握していた訳ではなく、大体の情報になるが……

 

 そのひとつ目が、ダンジョンの存在だ。

 この森の中にはダンジョンが2つあり、そのひとつがゴブリンたちの本拠地になっていた。

 

 そににはゴブリンキングと呼ばれる強力な魔物が居て、その下にゴブリン将軍を軍隊長とした複数の軍団が5つ以上ある。

 軍団の規模そのものは不明だが、軽く見積もっても1軍団300ゴブリンは確実との情報だ。なので、このダンジョンだけで1500ゴブリン以上の戦力を有している事になる。

 また、このダンジョンは生きているので、攻略できれば『叡知の玉(ダンジョンコア)』の入手も可能だ。

 

 もうひとつのダンジョンは既に死んでいて、本拠地の近くにある。現在は、拐ってきた人族を幽閉する場所として使われているらしく、ハヅキの母親もここに囚われているようだ。

 

 ふたつ目は、本拠地以外で様々な活動をするゴブリンの情報だ。

 

 隊の規模は100ゴブリン以下と小さいが、その数は未知数で将軍不在の隊は『班』と呼ばれる。また、繁殖する権利を有している為、総数は増加傾向にあるとの事。

 パトリックたちが討伐したゴブリンの巣も、その班のひとつと思われる。

 

 その中でゴブリン将軍が率いている隊は3つだけ。

 トパンの村を拠点としてい隊と、シノフィールとサラデインの中間の森で魔物を集めている隊と、シノフィールを挟んだ反対側の森に駐屯する隊だ。

 

 トパンを拠点としている隊は、サラデイン襲撃作戦の鍵を握る前線基地だ。結界路の内側に位置しているため、サラデインから宿場町への街道を封鎖する役目もある。

 噂によると、特殊なナニカを開発したようだ。将軍ゼブラが見せた寄生虫による強化方法だろうと、桜は当たりをつけた。

 

 中間の隊は結界路破壊の後になだれ込んで、王都からの援軍を牽制する部隊だ。それと同時に集めた魔物を使って混乱を引き起こすのだ。

 

 反対側の森の隊は、シノフィールへ侵入する実働部隊だ。主な目的はエルフの誘拐で、長年の地道な作業で侵入する方法は確立済み。しかし、町を守る結界路を隊だけで破壊できる戦力はない。

 

 この3つの隊と本拠地の軍団。そしてジェームスたち砲撃部隊で計画されていたのが、約1か月半後に予定している大規模な襲撃作戦である。

 計画通りに進めば、セナドゥースとシノフィールを含む、3つの町が陥落する公算が高い。

 

 実はこの作戦。

 遠く離れた場所に住むゴブリンエンペラーに、献上品であるハヅキの母親を送るのに邪魔だった結界路。それを破壊するためだけの目的だったものが『苗床確保による勢力の拡大』に変わってしまったものだった。

 

 △△

 

「なるほど、森の中で遭遇したあ奴らか……」

 合点がいったと納得して頷(うなず)いてる桜に、ジェームスが問いかけた。

 

「ご存じで?」

「うむ。『中間の隊』と集められていた魔物は、わらわと母様で全滅済みぢゃ。ついでに、トパンの村を拠点にしておったゴブリンどもも、アスモが殲滅(せんめつ)しておる」

 

 それを聞いたジェームスは、きょとんと鳩が豆鉄砲。だが、すぐに『いや、まさか』そんな感じで首を振ると、桜に問いただした。

 

「ほ、本当でござるか? トパンの隊も森の魔物を指揮していた隊も、戦闘力の高い有能なエリート集団だったでござるよ?」

 

 ジェームスが疑心暗鬼になるのは致し方ない。

 中間の隊は、数千を超える野生の魔物を従えられるほどの力と統率力を、トパンを占拠していた隊は、一騎当千のゴブリンナイトを多く抱え込み、何かしらの隠し玉を持つ恐るべき強さを誇っていた部隊だったのだ。

 

「トパンに住んでいた彼らは、寝込みを襲って跡形もなく燃やしてしまいましたので……」

「確かに手ごわかったが……ほれっ」

 

 そんなジェームスの説明に、アスモデウスは『手応えなかったですね』そんな感じで申し訳なさそうに答えると、桜はジェームスへ何かを投げ渡した。

 

「へし折る約束をしておったのぢゃが、仮にも乙女戦闘服(ゼラスーツ)に傷を付けた剣なので拾うて来たのぢゃ(ランスロットが拾ってきたのを奪った)」

 

 投げ渡したそれは、ゴブリンナイトが使っていた『ゴブリン狩り』だった。

 

「この刀は序列1位の……僕は幸運でござる。桜殿に着いていけば、僕の願いは叶ったも同然でごさるよ」

 

 この『ゴブリン狩り』はその昔、大鬼(オーガ)の武人が使っていた刀で、多くのゴブリンを屠(ほふ)った事からその名が付けられた。

 元の名は、島と島を繋ぐ大地を斬り裂いて海に沈めたと言われる名刀『風一文字』だ。

 見た目は、真っすぐな片刃の日本刀。己で主人を選ぶと言われ主人と認められなくとも、ある程度の力を得る事ができる。

 

 

 △△

 

 

「では話した通り、1週間後ゴブリンのダンジョンを攻める。それまでには鍛えてやるのじゃ」

 

 桜たちと1人だけ別行動になった唯は、パトリシアたちが居る野営地へ向かうその道中、キャロラインに同乗していたパトリックとハヅキに発破を掛けた。

 

「よろしくお願いします」

「承知した。必ず、この『風一文字』をモノにしてみせます」

 

 さて、どうして唯1人だけ別行動をしているのかと言うと……陽二とランスロットが出発した後の事だ。

 

 最初桜は、ゼラニオンと唯だけでゴブリンの本拠地であるダンジョンを攻める。と作戦の計画を話し始めた。

 それを聞いたハヅキは、母親の事もあり同行を訴えパトリックもそれに続いたのだ。

 

 しかし、桜からしてみれば2人の実力は未知数。パッと見では陽二より幾分腕はたつようだが、所詮ドングリのなんとか。その程度と見た。

 なので却下。足手まといは、戦力の低下と仲間の危機を招きかねない。

 しかし2人は、特にハヅキが同行を懇願(こんがん)するので、唯が実力を測るテストを行う事になった。

 

 結果は、2人ともあえなく撃沈。

 

 ハヅキ渾身(こんしん)の昇斬波は、いとも簡単に唯の指鉄砲1発で相殺され、2発目の指鉄砲に対応できずあっさりダウン。

 パトリックは、単発の指鉄砲を受ける事はできたが、1歩たりとも動けず簡単に盾を捲(まく)られ、これまたダウン。

 

 それを見た桜は、何気なく『風一文字』をハヅキに手渡した。

 すると風一文字で出された昇斬波は、指鉄砲を2発まで耐えた。その間にパトリックの動くチャンスが生まれ、ハヅキと見事な連携を見せ始めたのだ。

 

「ふむ。妾(わらわ)が、面倒みようかの」

 

 と、なんとか仮合格をもぎ取った。

 同行するには、唯の特訓に1週間耐えられたらの条件付きで。

 そういう訳で唯は、彼女らに同行する事になったのだ。

 

 野営地でパトリシアや母マナリシアと合流したパトリックは、積もる話もそこそこに城の壁(キャッスルウォール)で森を横断する、王都までの近道を作り出すと、ライブスたちよりも早く王都への帰還を果たした。

 

 △△

 

 王都に入り歩いて王宮へ向かっていると、知らせを受けた見慣れた馬車が、勢いよく近づいて来た。

 すると、まだ止まってもいないその馬車の中から『マリア!』と、王妃の愛称を叫びながら王ダグリオスが飛び出して来た。

 

『王様。マナリシア様がっ!』その先触れを聞いた彼は、居ても立っても居られず確かめに来たのだ。

 半信半疑。

 自分の眼(まなこ)を疑い遠巻きに見ていた町の人々も、彼の叫びで奇跡が起こったのだと集まってきた。

 あっと言う間に大挙密集人の山。彼方此方が歓喜と号泣の声で埋め尽くされた。

 

 ―― 愛されとるのお

 

 その光景を見た唯は、パトリックとハヅキに『町の入り口で待つ』と、目配せで伝えると消えるように姿をくらませた。

 

 パトリックは帰路の道中、野営地で待っていた全員にこれまでの事を説明していた。

 なのでこの場は事情を知っている王妃や情報を持つジェームスが居れば、自分たちが残る必要はないだろうと判断した。

 ハヅキに声をかけた彼は、早速特訓を始めてもらうために人混みをかき分け、入り口で待っていた唯と合流した。

 

 △△

 

 キャロラインの砲台から発射された陽二とランスロットの2人を運ぶ輸送ポッドは、ジェームスの計算通り『作造樹』の枝先にある『精霊の園』上空で2つに開いた。

 彼女は速やかに、輸送ポッドが町や精霊の園に落下しないよう遠くへ蹴り飛ばした。

 

 作造樹とは、シノフィールのシンボルになっている巨大な樹木で、様々な木の特性を併せ持つ。根元こそ結界路内にあるが、伸びた枝葉の距離は余裕で1Kmを超え、結界路外にせり出している部分も多い。

 精霊の園も結界路外に伸びた枝先にあった。150m上空にあるため、魔物に侵入される心配もなく安全な場所だ。

 

 広さは、小さなグラウンド程。

 そこは木の上とは思えない程の風景。色とりどりの鮮やかな花が咲き誇る大地で、地上と何ら遜色がなかった。

 現在そこで、エルフの子ども10人と世話係りの若いエルフ数人がキャッキャッと遊んでいた。

 

 そんな幸せな空間の真下に、魔の手が忍び寄って来ていたのだ。

 

 名称は不明だが、植物に寄生して地面に自身を伸ばしながら、淡い光を醸し出す果実を付ける頑丈なツタがある。

 そのツタが、精霊の園の下から地面に向けて大量に伸びていた。それこそ、ゴブリンが秘かに種を撃ち付け育てていた秘策だった。

 

 長い間、安住の地になっていたので油断していた。常に上から見下ろしている者は下でもがいている者の存在など、己の足の裏程にも気にしていなかったのだ。

 そこに目を付けたのがゴブリンだ。彼らはツタをよじ登り、精霊の園の裏側に到達しようとしていた。

 

 ジェームスの鷹目でも精霊の園の裏面は確認できない。しかし、今か今かと周囲の森で待ちわびる彼らの姿を発見した作戦計画を知るジェームスは、まさに今、危険が迫っていると桜に進言したのだ。

 

 △△

 

「ねえ待ってよー」

「待たないもーん!」

 

 元気に走る子どもたちを、若いエルフたちが見守っていた。そんな幸せな空間を破壊するゴブリンが、樹面からボコボコと這い出てきた。

 初めて間近で見るであろう醜いその姿に、悲鳴をあげて逃げ惑う子どもたち。あと少し遅ければ、この場にいた全てのエルフが攫(さら)われていた事だろう。

 

「土壁(アースシールド)。土壁!」

 

 大空から、正義の味方ゼラニオンが舞い下りる。

 

 小脇に抱えられたゼラブラックが、ゴブリンとエルフの間に高さ3メートルの土壁を作り出し、お互いが接触するのを防いだ。

 さらに集まったエルフたちを包むように土壁を唱えると、ゼライェローがその土壁の上に降り立ち、彼に指示を出した。

 

「無理に戦わなくていい。接近する奴らだけ魔法で牽制するのだ」

「わ、分かった。1匹も近づけさせはしない!」

「乙女大剣(エシャロット)!」

 

 土壁から飛び下りた彼女は、着地と同時に駆け出すと。縦横無尽にゴブリンを一刀両断。

 弱いゴブリンしかいなかったのも幸いして、あっという間に決着が付いた。彼も土壁の上から土塊の攻撃(アースボール)で援護射撃の大活躍だ。

 

「私は裏側に行ってツタを落とす。陽二はこの場を頼んだ!」

 

 神槍(ランスロット)を取り出した彼女は、大きくジャンプすると空中で太くした神槍に風魔法を纏わせ樹面に投げつけた。

 

「行け!」

 

 神槍はドリルのように回転しながら樹面に突き刺さると、彼女ひとり分の通り道を作った。その穴へ彼女はダイビング。

 その間にも樹面はボコボコとせり上がり、ゴブリンが這(は)い出ていた。

 それを確認した陽二は、後方の土壁を解除して叫んだ

 

「今のうちに逃げて!」

「どなたか知りませんが、助けてくれてありがとうございます。すぐに応援を呼んできますね」

 

 そう言った世話係りのエルフは、子どもたちを引き連れて逃げ出した。

「土壁!」

 陽二はこの場所を封鎖する目的で壁を追加すると、不退転の覚悟で時間稼ぎする事を決めた。

 その時だ。ひとりのエルフが彼の横に飛び乗ってきた。

 

「同胞を救ってくれてありがとう。よかったら、もう少し助力をお願い。私はエフィよろしく」

 

 清涼感のある緑色の髪の毛をなびかせたお姉さんエルフだった。見た目は20歳前後と若そうだが、エルフと言えば長寿の種族。また、年を召しても見目の変化が少ないのが定番中の定番。

 しかし、女性に年齢を尋ねるのは禁句中の禁句だ!

 

 それを瞬時に導き出した陽二は、想像通りの姿と先が尖っている長い耳に目を向けながら

 

「こちらこそ助かります。俺はじゃなくて、私は通りすがりのスーパーヒーロー。ゼラブラック陽子です!」

 

 変身中なので見た目は女の子だったと気づいた彼は、とりあえず女性として自己紹介を済ませた。

 

「『助かります』は、私たちのセリフ。風矢(ウィンドアロー)!」

 

 エフィが弓を引くように手を広げながら魔法を唱えると、その間に風の矢が生成され発射された。

 

「クギャッ! グギャャー」

 

 風矢は命中すると、その数秒後には消える仕様のようだ。ゴブリンは、キズ穴からダラダラと鮮血を垂らし、のたうち回っていた。

 バシュッ!

 エフィは、頭部を貫きとどめを刺した。

 

 見た感じ風矢は風の攻撃(ウィンドニードル)に似ていた。なので陽二は、魔力操作の違いであの形と仕様になるんだろうな。と推測した。

 

 △△

 

 陽二が体や足元を狙い転倒または動きを止めると、エフィの魔法が的確に頭を射抜いた。

 

「すごい命中率、100発100中だね。土の攻撃(アースニードル)!」

 

 余裕が生まれた陽二は、チラッとエフィを見て話しかけた。

 

「エルフですからね! 風矢!」

 

 しかしながら、エフィは少し苦笑いすると

 

「ちょっと数が多いかな、MP(魔力)が持たないかも……」

 

 普通はそうである。

 MPが多いと言われるエルフでも、枯渇する数だけの魔法を使っていたのだ。

 さすがにMPだけは多い陽二は、まだ余力はあった。さらにゼラガイオーを呼び出すために使った鉱石(MP残量2万)を腕輪に装着したままだったので、心に余裕を感じていた。

 

「土壁」×3

 

 足止めになるように複数の土壁を作り出すと、素早く瓶と複数の素材を取り出した。

 

「調合!」

 急いでいた事もあり、吐物には気付かなかった。

「鑑定!」

【MP回復薬(Y印) 回復0~500】

 

 MP回復薬だと確認すると、試した事はないができると確信を持って唱えた。

 

「複製(コピー)ダブル。それと鑑定!」

 

 少し性能の落ちた【MP回復薬0~350】が別に2つできた。複製した薬を2つとも手渡し、オリジナルは収納スペースへ投げ入れた。

 

「エフィ1本ずつ飲んで。全快しなかったらもう1本もいって」

「ありがとう陽子」

 

 エフィは1本飲み干すと、もう1本にも手をかけた。この事から、彼女のMPは350より多いと陽二は見抜いた。

 

 足止めの土壁を消すと、10体以上のゴブリンが密集していた。這い出てくるゴブリンの姿はもう確認できない。そらそろ打ち止めらしい。

 

 ―― ランスが裏側も処理してくれたんだ!

 

「陽子って、土の魔法(カノン)撃てる?」

「バッチコイ!」

「合図したらゴブリンの真上に撃って」

「任せろ」

 

 エフィが長い詠唱を始めると、太い風矢ができあがった。

 

「今よ、撃って!」

「土塊の大攻撃(アースカノン)!!」

「早っ……。とにかく借りるね風土塊降矢(ロックストームレイン)!!」

 

 ゴブリンの上空で、2人の魔法が融合。細長い岩に風がまとっている矢が無数に形成されると、一気に地面へ降り注いだ。

 

 ズドドドドドドドドドッ!

 

 全てのゴブリンが、何もできず貫かれたり串刺しにされた。見るのも躊躇(とまど)うほどのバラバラでぐちょぐちょの、エグい死にざまだった。

 風土塊降矢が消えた後には、大量の死骸と酷(ひど)い臭気が充満していた。

 

「ひ、酷ぇ。……うおぇ」

 

 陽二は、我慢限界からのリバース。3mからのリバースは、キラキラと輝き滝の様であった。

 

「陽子大丈夫?」

 

 救助してくれた人物だからなのか、いつの間にか陽二を自身のパーソナルスペースへ招くように接していたエフィは、陽二のリバースなど気にも止めず懸命に背中を介抱し始めた。

 そこへ、全てのツタを切り落とし、裏側にいたゴブリン全てを叩き落としたランスロットが帰ってきた。

 周囲を見回すと、脅威が去ったことを確信。

 

 陽二に労いの言葉をかけたランスロットは、少しジェラシーを感じつつもエフィに介抱を任せると、魔石を回収しながら踏み荒らされた精霊の園の上から、死骸など諸々をアクアストームで洗い流した。

 

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