スーパーヒーローって儲かるの?
「陽二くん、起きてください」
脳が溶けるような甘い声が、眠る陽二に
「んんーだれぇ? はっ、天使!?」
たとえ紡ぎ車の
そんな感覚で覚醒した彼を起こしに来たのは、天使ではなくアスモデウスだった。
―― あなたが天使かっ!
「ご気分はどうですか?」
「はい。だいぶ良くなりました」
現在、アスモデウスの魅力にどうしても負けてしまう彼が居る場所は、鉱山都市スノームにある魔王のダンジョン地下200階。
その階にあるのが、チームゼラニオンが暮らす桜の屋敷。
このフロア全てが彼女所有の土地で、許可がなければ、このダンジョンの主である魔王だろうが、入れない特別なフロアになっていた。
それはさておき。
どうしてここに陽二が居るのか説明すると、精霊の園で起こった戦闘のあと、エフィに介抱されていた彼は自力で立てなくなってしまったのだ。
「あとの処理は任せておくのぢゃ!」
「お任せください」
遅れて到着した桜とアスモデウスにそう促された彼は、エフィや他のエルフとの挨拶もそこそこに済ませると、ランスロットに運ばれゼラニオン本部で休んでいた。
しばらくすると桜だけが戻ってきて、気づかってくれたのだろう
「当分の間、泊まっていくがよい」
と、自宅に招いてくれたのだ。
その時はまだマシだったが、桜の言葉に甘えて部屋のベッドで横になっていると、次第に頭痛と吐き気が酷くなってきた。
彼は、その時から目覚めるまでの出来事を全く覚えていない。なので、疲れと緊張が重なって眠ってしまったのか。と考えていた。
△△
ベッドから起きた陽二は、気持ちのいい風が吹き込む窓に誘われ、歩み寄るとそこから外を見下ろした。
眼下には、きれいに
さらに絨毯のように区分けされた緑の芝生に、
まるでセレブの、否。
彼は、おとぎ話の屋敷に招かれたような気分になっていた。
「すっごくきれいで心が洗われるような、そんな落ち着く幻想的な場所ですね」
彼はセンチにも、初めに感じたそのままを口にした。
「桜ちゃんの趣味です」
「庭園を作るのが、ですか?」
「色々ですよ。ここはほんの一部ですが、花を愛でて木を植え育て整える。―― あの噴水のデザインも、桜ちゃんなんですよ」
『庭園は携わった人の心を、愛情を表現するんです。強さ、孤独、ちょっぴり意固地。でも……』クスッと笑みを浮かべながら楽しそうにアスモデウスは語った。
―― それら全てを包み込む優しさ。それが桜ちゃんです。
「センスが素晴らしいですね。あいつって有能すぎません? ……でも、普段のヤツからは想像できないですね」
「桜ちゃんは照れ屋で、本音はあまり話さない子ですからね」
「照れ屋ですか……」
△△
屋敷の1階。
階段で正面エントランスに下りると、その隣にあるリビングダイニングへと案内された。
「めちゃくちゃ美味しいです!」
彼は、アスモデウスの手料理。朝食をご馳走になっていた。
メニューは、パンとスープとスクランブルエッグ。
パンは焼きたてなのか、外はサクサク中はもちもち。
スープは、細かく刻まれた野菜が奏でるハーモニーが素晴らしく、パンに吸わせて食べてもたまらない。
スクランブルエッグをパンに挟んで食べた。ひかえめな塩味と甘さが交わり、これま絶品。
彼が、ここぞとばかりに彼女を褒めちぎっていると
「おーいアスモ。陽二は起きたか?」
と、扉の開く音の後にランスロットの声が聞こえてきた。
「ランスも泊めてもらったんですか?」
「いいえ、ランスちゃんもここに住んでいるんですよ。聞いていませんでしたか?」
―― へぇそうなのか。
ゼラニオンのメンバーはこの屋敷とゼラニオンの本部に、個人の部屋を用意されていると教えてもらった。しかし彼女たちは外で活動する機会も多く、この屋敷で寝泊まりするのは月に半分あるかないか、との事。
そんな説明を受けていると、運動した後なのだろう汗だくになった
心配のし過ぎで、体を動かしていないと落ち着かなかったランスロットは、食事にがっつく彼の姿を見て安堵した。
もう平常心だ。隣の席に座りながら口を開いた。
「陽二、気分はどうだ?」
「すっかり元気だよ。もう大丈夫」
力こぶを作って、元気をアピールする彼の姿が嬉しい。
「ランスちゃんがずっと手を握っていたんですよ。ねっ!」
外へ体を動かしに出る時とは、明らかに違う表情筋のランスロットに、アスモデウスのイタズラ心がくすぐられた。クスッとほほ笑むその姿は、仲間を超越した家族のようだ。
「ゆ、言うな。心配するのは当然だろう……」
だがしかし……。
心の中で後ろめたい秘密を隠しランスロットへ真っ直ぐ顔を向けた彼は、素直に感謝の言葉を告げた。
「気にするな!」
ここに男前が居た。
ぶっきらぼうに返したランスロットは、ぷいっと反対側を向いて顔を隠してしまった。熱をもった頬と、ニマニマしそうな口元を隠すためではない。「暑いなー。本当に暑いなあ」と、タオルで汗を拭う彼女の代弁としておく。
「それより陽二くん。魔力の管理を怠っては駄目ですよ? 桜ちゃんが気付いて、すぐに戻ったので大事には至りませんでしたが」
唐突に説教モードが発動した!
はて、なんの事でしょうか? と彼はきょとーん。
「
「そうだぞ。飲ませるのに苦労したんだぞ?」
気分が悪くなった原因のひとつとして、エフィに倒されたゴブリンの惨状を見てしまったのもあるが、そのあとの頭痛や吐き気そして昏睡は、ばかすかと魔法を使いまくった少ないMP残量の状態のまま、箪笥のMP吸収がMPの回復力を上回った結果、魔力の枯渇を引き起こした現象だったのだ。
それに気づいたのが、経験者である桜。彼女の指示で、眠る陽二の口にMP回復薬を突っ込み、少しずつ飲ませ回復させたのだ。
流石は桜。経験者幼女は伊達じゃない、ひと味もふた味も違うのである。
「今の陽二くんは、MPの回復量が吸収量に負けている状態なんです。常に残量には気を配り、特に! 睡眠前はある程度回復させるようにして下さいね」
「はい。これからは肝に命じておきます。あれ? でも(仲間の)
「勘違いしたんですね。腕輪のMPはあくまで“ゼラニオンスーツなどの維持用”なんです。桜ちゃんの持つ2つの腕輪だけは違って ―― そうですねぇ陽二くんの、いえ全員の腕輪でも玉の魔力を使えるように改良しましょう」
箪笥の事もあり、桜の持つ腕輪だけが“特別製”だった訳だ。なら箪笥が陽二に移された今、その“特別製”は彼に譲るのが道理となってしまう。
しかし、桜がゼラレッド。ゼラレッドと言えば桜である。その簡単な解決策としてアスモデウスは、全員の腕輪を桜の持つ腕輪と同等へと改良してもらう事にしたのだ。
ちなみに腕輪を町中で装着していると(買い占め問題と許可制の子ども用玩具になっている現状)色々な問題がある。なので、人の目に触れない対策として、腕輪を認識できなくなる機能を使わなければならない。
△△
陽二とランスロットが、アスモデウスに腕輪を渡すと
「それではランスちゃん、陽二くんをお願いしますね」
と頼んでいた。
その言い方から彼は、事前に頼み事を受けていたのだろうと考えた。もしくは、腕輪の依頼で留守にするため面倒を任すと言う意味だろうかと。
何はともあれ、聞いた方が早い。
「今からどっか行くのか?」
ランスロットに問いかけると、さも当然と
「練習に決まっているだろう!」
と言われたのだった。
スーパーヒーローたる者、日々の努力なしでは強大な敵に遅れをとる可能性は高い。胡座をかいて怠けるなど言語道断なのだ。例えば3分しか戦えないヒーローでも、その準備に数百倍の労力をかけるとかかけないとか
そんなこんなで、後片付けを始めたアスモデウスと軽く言葉を交わしたランスロットは、陽二を引っ張って別の部屋へと連れて行った。
そこには『ようじ』と書かれた黒いジャージが置いてあった。よしこでも陽子でもなく、彼の体型にマッチしたゼラニオンの正式な練習着だ。
ジャージに着替えて外に出ると、振り返って桜の家、その全貌を目にした。
宮殿だった。テレビで見た事のある、三角の屋根がたくさん付いた洋風の宮殿だった。言い替えれば、小さな城でも通用するレベルだった。
庭も広大で、まさしく別世界。間違いなく、王都の宮殿より大きかった。
―― やつは何者だよ。ゼラニオンって儲かるのか?
何部屋あるのか想像すらできず、使われていない部屋が間違いなく多い建物に、庭師がダースで必要なほど広い庭の維持に一体いくら必要なのか。
―― あいつ、絶対世間様に顔向け出来ない事をやってるだろう
と邪推した。
△△
「このジャージって何か意味があるのか?」
彼は、ランスロットの『着替えろ』の催促が、やたら強かったので気になっていたのだ。
「そのジャージはな、全体の筋力配分から弱い部分を見つけて、負荷を与える効果があるのだ! ……多分」
「多分かよ。もっと自信持って言えよ」
「すまない。うる覚えだ」
「別にいいけど、うろ覚えな」
「くっ。どっちだって良いではないか! 取りあえず走るついてこい!」
外玄関の門を飛び出したランスロットの後を追って、陽二はフロアの中を走り回った。
山あり谷あり。
油断すると足首を捻りそうなデコボコな場所や、砂浜みたく力が入らない場所や、森の木々の間をジグザグに走り抜けたり、遊具の
3時間をかけて、屋敷の前まで戻ってきた。
「ゼェゼェー、ゼェゼェー」
「これでいつもの半分だ。時間は3倍かかったがな!」
ランスロットが毒を吐いた。
おそらく本人にその気はないが、うろ覚えの仕返しが微粒子レベルで存在していないとは言い切れない。
次は、息を整えながらのストレッチだ。
回復魔法が存在する世界だからなのか、かなり無茶が効くようでスパルタだ。しかしながら、痛みと苦しみが避けられるはずはない。
「陽二あと少しの辛抱だ、この程度で死にはしない。ほら、身体を柔らかく保つのは、基本中の基本だぞ!」
ランスロットは、陽二の背中を100万馬力でグイグイと押す。足を開いて地面に胸を着ける開脚前屈だ。
陽二が押される力に反発しても、股を少し閉じて膝をこそっと曲げて楽するのを狙っても、すぐに矯正される始末。
「いてぇー。この苦しみから逃げられるのなら死にたい。ギャーー」
片足をロックされた陽二は、ランスロットに股を広げられていた。「ギエーー!」
股裂きと呼ばれるプロレス技に見えなくもないが、これも立派な股割りストレッチだ。
痛みに我慢した陽二はその結果、頭がベタッと膝関節に着くまで前屈できるようになり、元スケート選手のアサーダーマーオのように、足が真横に開くようになった。
な訳ないだろう。
前屈は、確かに曲がるようになった。しかし、股割はまだまだお笑いの域だ。逆に痛みを知った分だけ、恐怖が残ったのは言うまでもない。
「何にでも言える事ですが、柔軟も継続が大事なんですよ」
腕輪の改良を頼み終えて帰ってきたのだろう。彼に助言しながら近付いてきた、ジャージ姿のアスモデウスも練習に合流した。
「そういえば、桜ってどこに居るんですか?」
「桜ちゃんは、ゼラガイオーの稼働実験です。とっても楽しそうでしたね」
―― あいつだけサボタージュかよ! いいなぁぶっちゃけ合流したいし、この場から逃げ出したいぜ。
陽二はそんな気持ちを隠しつつ、もうひとり姿の見えない人物について訪ねた。
「唯さんも桜と一緒なんですか?」
「いいえ。唯は、パトリック様とハヅキさんを特訓中です」
「えっ? どうした経緯でそうなったんですか?」
アスモデウスは、陽二たちが出発した後に起こった出来事をかい摘まんで説明。
―― 王都で特訓かぁ……
陽二はアスモデウスの話を聞きながら、ランスロットと背中を合わせ背筋を伸ばす運動をしていた。交代してランスロットの背筋をいざ伸ばそうとすると、話の続きだと言わんばかりに彼女も話に参加してきた。
「桜は、陽二を
外す。つまり、カチコミには連れて行かないと言う事だ。彼から見ても、明らかに彼より実力のあるパトリックやハヅキが、次点もしくは補欠扱いで猛特訓中なのである。
なので彼は、桜の戦力外通告とも取れる言葉を全面的に支持出来るほど納得していた。
―― 当然だろ。俺でも足手まといを連れていく愚策はしねーよ。それに俺だって、毛の先程の自信も覚悟も実力もないのは分かってるっつーの。
「ランスの言いたい事は理解できるし、俺の事を思っての事だから正直嬉しいよ。でも! 桜の考えは正解だ。分相応って言ってな。だから……留守は俺に任せて行ってこい」
ゴブリンの本拠地。危険なダンジョンへ踏み込むのだ、苛酷で凄惨な戦場になるのは容易く想像できた。
「そうか、陽二が決めたのだからしょうがない。しかし無駄にはならないからな、出発するまで一緒に特訓を続けるぞ。死なないための実力を身に付けるのだ!」
「もちろんだ。俺は、強くなりたい!」
「私もお手伝いしますので、頑張りましょうね!」
△△
宣言したからには、真剣に取り組まなければ口だけ野郎のダメダメになってしまう。陽二は、今から本気を出す所存だ!
幸いにもアスモデウスが合流してくれた事で、最高の先生が教鞭を振るってくれるのは確実だ。
時間は有限。早速、魔技の練習が始まった。
最初に基本中の基本を念入りに繰り返すと、彼女は彼に、新しい練習方法を指導。
動きの意味を考えながら、ひとつの動作を“全力”と“5秒以上でひと動作を終える”をひたすら繰り返す。
全力の初動は、一気に100%を意識。終の止めは地面に張り付くように、全力で動かした力を全力で0に止めるのを意識。
微動だにしてはダメなのだ。
5秒以上は、初動から終わりまで止まるのは厳禁だ。どんなにゆっくり動いても10秒以上かけてもいいが、とにかく常に“動き続けなければならない”
楽なように感じるが、実は力を入れっぱなし状態にするため、目茶苦茶辛い。
アスモデウス先生の激が飛び交う中、午前の練習が終了した。
昼食をもりもり食べ、休憩を挟んで
形とは、仮想の敵を想像しながら動く決められた動きだ。
一流の選手が行う形は、指先まで目が離せなくなるほど素晴らしく、戦っている相手が、ありありと想像出来るほどである。
実は魔技創設者のひとりである本条司が、空手を習っていた経験から魔技にも取り入れられた。ただしそのままではなく、先人の教えを借りて改良したものが元になっている。
彼女は、陽二に形の動きを1つ1つ丁寧に教え、その動きの意味の理解を促す。
どれだけ理解したかで、体が覚えた動きが状況に合わせて発揮されるのだ。とは言え、教えられた意味は数ある答えのひとつである。つまり、正解はひとつではない!
「次は形通りに動かず、様々な状況や場面を想定しながら頭で考え理解して動いてください。今は無理でしょうが、それがいずれ陽二くんの目指す形になり、助けてくれるはずです」
「はい!」
「最初は、私が教えた形の動作を参考にすればいいですよ」
形は進化し続けるのだ。
次に彼女は、剣を持った状態での形を指示した。
「なるほど、剣を持っても動きが生きてますね! 桜が言いたかった事が分かった気がします」
「魔技をベースに考えれば、全てに通じるのです」
そんな陽二の動きを見ていたランスロットは、彼女、アスモデウスに提案した。
「あと足りないのは、力とスピードか? アスモ、勇闘者のレベルを9まで上げればどうだ?」
勇闘者とは、
「そうですねぇ。9まで上げて様子を見ましょうか」
「ちなみに、どうしてレベル9なんですか?」
「10以上にすると、極端に“熟練度”の上がりが悪くなります」
「レベル9以下が肝心なんですね」
「その通りです。なのでランスちゃんも桜ちゃんも、勇闘者のレベルは9で止めてあります。熟練度というのは非常に大事なんです。熟練度1(1級)がレベル10、段を超えるとレベル100以上に匹敵するといっても過言ではありません。正直に言ってしまえば、レベルだけ上げて熟練度を軽視している方々は大間違いです」
陽二もアスモデウスの言っている事は理解できるが
―― でも結局ステータスが低いと、いくら熟練度を上げても通用しないんじゃないかなあ?
と疑問を感じていた。
△△
勇闘者のレベルを上げるため、ダンジョンに入る事が決まった。陽二のステータスは改造済みなので、表と裏の職業を同時に育成する事ができる。それを利用すべく、彼が欲していた『冒険者』の職業を得るため協会を訪れた。
「初めまして、見習い試験を受けるんですね」
「はい。お願いします」
「それでは、これをどうぞ。期限はありません」
陽二は、受付のお姉さんから依頼の内容を書いた紙をもらった。この依頼を達成すると『冒険者見習い』になれるのだ。
「陽二、どういった依頼内容だ?」
「えっと……緑草(薬草の一種)を10株納品だな。アスモさん、緑草の生えている場所って知ってますか?」
「なぜ、私に聞かないのだ!」
―― おまえが知ってそうに見えないからだけど?
と、ランスロットを無下に突き放してもいいが、彼女には色々と心配をかけたし、その口ぶりに自信を感じた。
なので聞いた。
「じゃあ、どこに生えているのか教えてくれよ」
「この前まで覚えていたんだが、どこだったかなぁ……」
ランスロットは、助けを求めるようにアスモデウスへ視線を送った。
―― 思った通りじゃねーか!
陽二が呆れる顔をランスロットへ向けると
「ランスちゃんは、妙な強がりや意地を張らなければ可愛いのに。陽二くん……」
ちょいちょいと手招きしたアスモデウスは、陽二の耳にゴニョゴニョと簡単な解決方法を伝授。
「そんなやり方でいいんですか?」
「紙には何と書いてありましたか?」
陽二は依頼の紙に目を落とすと、別の受付で緑草を10株購入。それと依頼の紙を、依頼を受けた受付に提出した。
「はい、確かに受け取りました。それでは冒険者について説明いたします」
「いえ、説明はいいです」
―― とんちかよ
少し興醒めしてしまった陽二は、
―― こんなんでいいのか冒険者!
と思いながら説明も聞かずに外へ出た。
「陽二くん、これも機転ですよ」
アスモデウスの言うとおり、機転と言えば機転なのだろう。肩透かしを受けたような陽二は「そうですね」と呟きながら自身の職業が『冒険者(見習い)』になっている事を確認した。
―― 冒険者って……
ケチが付いた。と考えた訳ではないが、スマホがあるので取得した職業は何時でも変更可能である。
気分を新たにするため、職業を『異世界人』に戻した。
「取りあえずレベル上げだ、いくぞ!」
ランスロットに引っ張られた陽二は、魔王のダンジョンでレベルを上げるためトンボ帰りした。
―― 協会に来る必要なかったな……
△△
ここは、魔王のダンジョン地下31階。
調整の済んだ腕輪を受け取った陽二は、ゼラニオンへと変身していた。
彼は今、アスモデウスとランスロットが見守る中、結界路の外で桜が倒した熊に似た魔物と戦っていた。
「やはり、力が足りないのではないか?」
「おかしいですね……」
アスモデウスとランスロットは、戦っている陽二の後ろで見学しながらアレコレと意見を交わしていた。
手助けする気は皆無だが、1対1の状態を維持すべく邪魔な魔物は瞬殺していた。
「その前に相手がおかしくない? 最初はスライムとか弱い魔物でレベルを上げるべきじゃない?」
魔物の攻撃を必死にゼラシールドで防ぎながらも、軽口を叩けるくらいの余裕を見せ始めた陽二は、ゼラソードでチクチクと反撃。
ゼラニオンに変身しているので、身体能力はかなり上昇している。そのお陰で、2mを超える威圧感たっぷりの魔物を正面に相手取っていた。恐怖心は確かにあった。それでも、あの時のゴブリン程ではなかったのだ。
予想だが、人型じゃないのが幸いしている。と陽二は考えていた。
魔物の打ち下ろし平手を盾で防いだ。巨大な岩が直撃したような威力だ。それでも陽二は、受け止める事ができていた。
「陽二くん。基礎を思い出しながら
「陽二よく見ろ! そいつらは初動が分かり易い。半身で構えろ」
アドバイスを受けた彼は、魔物に対して半身になり間合いを意識し始めた。
―― 盾があるから受けようとしちゃうのかも
彼はゼラシールドを、ついでにゼラソードも腕輪に収納すると、無手で構えた。取り敢えず、避けることを優先させたのだ。
「いっその事、変身も
ランスロットの馬鹿なむちゃぶりが爆発した。
「一発で死んじまうだろーが! 死なないための特訓をしてるのに特攻しろってか!?」
「陽二くん余裕が出て来ましたね。色々な攻撃方法を試してみましょうね」
「無理ですって」
そんな余裕もない言い方をする陽二であったが、魔物の動きに目も慣れてきて、ますます恐怖心が薄れてきていた。
なので口で『無理』と言いながらも、一歩踏み込む行動が生まれ始めていた。
だがしかし、リーチの差もあり魔物本体に攻撃は届かない。なので彼は、
―― できるかな……
彼は閃いた。桜から教わった方法で左手に魔力を集めた。そして
イメージは、カマイタチだ!
ブシュッ!
魔物の腕に荒いヤスリで削られたような傷が生まれ、毛が飛び散った。
―― で、できた!
「あれは、魔力操作!?」
「すごいぞ陽二。教えてもいないのに使えるようになっているなんて!」
「陽二くん。次はそのまま剣をイメージしてみましょう」
陽二の魔力操作に驚きを見せたアスモデウスは、彼に真っ直ぐな喝采を贈るランスロットの声を聞きながら、瞬時に彼の現段階での実力を見極めようと考え、指示を出した。
その声を聞いた陽二は、同じように魔力を集めた。そこから更に剣をイメージ。すると、手の中に30cmほどの剣っぽいのができあがった。
魔物の攻撃を
バキッと、魔物の爪を2本へし折った。ゼラソードで攻撃していた時よりも、明らかにダメージを与えていた。
―― 剣より魔法の方が強いのかな?
波に乗った彼は、多めに魔力を集めて明確に剣をイメージ。すると、70cmほどのライトセイバーみたいな剣ができあがった。
しかしそれで斬りつけても、魔物は無傷だった。
―― なるほどね。ただ単に剣をイメージしただけじゃ足りないんだ。
そう解釈した彼は、爪をへし折ったカマイタチ+剣をイメージ。同じ攻撃では意味がないと言わんばかりに、それを魔物の心臓目がけて
―― 発射!
イメージは、唯の指鉄砲だ。
ものの見事に撃ち出されたソレは、魔物の体に当たり『ブシュブシュ』と突き刺さった。
―― す、すげえ!
思い通りに事が運んだことで高揚した陽二は、自画自賛。
戦意を喪失しボタボタと血を流しながら
「グオー!!」
魔物は必死の形相。
窮鼠猫を噛むではないが、魔物は口を大きく開き威嚇する咆哮を上げると、傷口を押さえながらもう片方の手を大きく振り上げた!
ビクッ!
陽二はその必死な形相におじけづき、躊躇《ちゅうちょ》してしまった。チャンスの後にはピンチが! 形勢は逆転。
「陽二!」
危険と判断したランスロットが飛び出し、魔物を蹴り飛ばした。
「陽二! しっかりしろ」
「あっ、ああ……」
「さあ、今のうちに楽にしてやるのだ」
陽二は、ランスロットに蹴られ虫の息になってしまった魔物に
―― 危なかった……
陽二は、油断からの萎縮という経験を反省しながらステータスを確認。異世界人のレベルが2に上がっていたが、特に何かが上がったとかのお知らせはなかった。
「アスモさん。力や素早さって、ステータスで分からないのですか?」
ゲームのステータス画面を想像した陽二が尋ねるも、アスモデウスの答えは否。そもそも、その日その時で体調は変化するもの。当然ながら力も俊敏さも常に変化しているので、数値化はナンセンスと彼女は語った。
―― ステータスって意外と使えないんだな……