※この作品はR-18です。

異世界生活 冒険譚~   作:すったふ

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スノーム1日目/陽二勉強する

 

 

 陽二は変身していた事に加え、ランスロットとアスモデウスの手助けがあった。その為、地下31階の魔物となんとか戦えてはいたが、当然ながら場違いなのは言うまでもない。

 ゲームで例えると、序盤に出てくるモンスターをすっ飛ばして、中盤に出現するモンスター部屋へ突撃するに等しい。

 

 それでも一応、最後の最後でランスロットに助けてもらったが、ひとりで戦い抜き見事魔物を討伐した。

 この経験は大きく、成長の礎になるのは間違いないだろう。

 

 ところで、ここへ訪れた目的は『勇闘者』のレベル上げである。そのまま彼に戦闘経験を積ませるのもいいが、目的は『魔技』の習得であり、その為のステータスアップだった。

 本当なら急激なレベルアップよりも、体を作りながら段階を経てレベルアップした方が、経験や体力的な諸々を考えても本人のためになるのは当然の帰結。

 

 しかし、スーパーヒーローは危険と隣り合わせ。いつ命に関わる状況に陥るとも限らない。早急に生き残れるだけの実力を身に付けなければならない。なので、段階的なレベルアップは省く。それに一応、彼に実戦を経験させ、現時点での実力も確認できた。

 

 という訳で、アスモデウスとランスロットの助けを借り陽二のレベリングが始まった。

 ものの数時間で勇闘者のレベルは9まで上がり、遅れて『異世界人』も9まで上昇した。

 

 ―― レベルアップってすごいな……

 

 本格的に実感できたのは、アスモデウスに言われ変身を解除した後のレベル5の段階だった。明らかに違う体の軽さと、ゼラソードを振ってみた時の安定感。

 回復していないので、HPとMPの最大値は不明なものの、身体能力が上昇していると確信できた。

 

「では帰りましょうか。陽二くん、夕食後に鍛練を再開しますので、それまでは自由時間にします。その間に(体の変化に)慣れておいてくださいね」

「はい、わかりました!」

 

 なるほどね、しっかり自分の体を把握しろって意味か! と理解した陽二は、グーとパーを繰り返す手のひらを見つめた。

 ―― それなら休憩ついでに……

 

「アスモさん。屋敷の近くにMP回復薬の素材を採取できる場所ってあります?」

「素材ですか? お屋敷の裏庭で桜ちゃんが色々と育てていますけど……」

 

 桜はどこそこに出掛けた際、珍しい植物や素材になりそうな植物を見つけると、目敏く集めている。

 育てるのに失敗する事も多々あるが、屋敷の裏庭に育成場があり、同時に素材となる植物も数多く植えられているのだ。

 

 ―― あいつ……実は農家なんじゃね?

 

 桜の職業に疑問を持った陽二は訊ねた。

「戻ったら確認させてください。それって採取しても大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」

 

 △△

 

 陽二は屋敷の玄関まで戻ると、夜ご飯の支度をすると言うアスモデウスと別れた。早速素材の物色をするため、ランスロットの案内で屋敷の裏へ歩きだした。

 

「そう言えば、剣で斬るのって難しいのな。てっきり、当たればズバッて斬れるものかと思ってたよ」

「ただ当てるだけで斬れる訳がないだろう? あまり意識した事はないが、私の場合は重量のある乙女大剣(エシャロット)だから叩き斬る感じに近いが……普通の剣の場合は、引くか押すかの力で斬るのではないか?」

 

「そうか、次は意識して試してみるよ」

「それより陽二、ヤリはどうだ? 突きはカッコイイぞ!」

「突きねぇ。剣でも突けるけど……そうだなぁ、今度試してみるか」

「それなら特別に神槍(ランスロット)を貸してやろう」

 

「前から思ってたけど、自分の名前を武器に付けるってどうよ。頭の痛い子だと思われるぞ」

「言っておくが、神槍は本当にある武器の名だ。当然、乙女大剣もな。実物が何処にあるのか知らないが……本当だぞ?」

 

「なるほどね。実際の武器にあやかって名前をつけたのか」

「まあ、そうゆう事だ」

 

 そんな会話をしながら裏庭に到着すると、ビニールハウスっぽいものや倉庫みたいな建物、そして植物が生い茂る畑がいくつもあった。

 見た目だけで判別できない陽二は、鑑定を駆使してMP回復薬の調合に使えそうなグリーングローブや魔茸(またけ)を採取した。

 

 グリーングローブは、高さ2m奥行き10mほどで格子状のトンネルを覆うように蔦がびっしりとからまっている場所、そこに数多くぶら下がっていた。

 見た目は、緑色の葡萄(ぶどう)。大ぶりのマスカットが一番似ているだろう。陽二も所持していたが、赤ければレッドグローブと呼ばれる高価なレアモノだ。

 

 魔茸はビニールハウスの中にあった。中の温度は一定の範囲内に保たれており、湿度が高い。その中に水分を含んだ布を上下に巻きつけた原木が無数に立て掛けてあり、その原木にポコポコと魔茸が生えていた。

 

「桜って、どうしてこんなに栽培しているんだ?」

「私が知る訳ないだろう?」

 

 めぼしい物を採取した陽二は、収納スペースの整理と確認をするため闇(ギフト)で中身を取り出した。

 

 ―― なんじゃこりゃ!?

 

 少し甘酸っぱい臭いがした。

 取り出した持ち物に、妙な液体がたくさん付いていたのだ。

 スマートフォンは防水機能で被害を免れたが、地図帳はベチョベチョになっていた。

 これでは乾かしても波打ってしまい、見るのは困難だろう。

 

 ―― ま、まじっすか……

 

 液が滴る地図帳の角を指で挟み、揺らしながら呆然と呟く陽二に

「な、なんだそれは?」

 と、鼻をつまみながら後退《あとずさ》っていくランスロットが問いかけた。

 

 ―― おい、自分だけ逃げるなよ!

 

 ランスロットへ向けた目を地図帳に戻した陽二は、コレが何か分かっていたが、念のため鑑定した。

 

 ―― こ、これは!?

 

 唯の吐物(ゲロ)らしい。詳細を見るとそこには

【魔力を含んだお姉さまの体液(エキス)。グレードアップ効果】

 と特殊な性癖を持った人には、ご褒美になるような説明があった。しかし彼はドノーマルの妹紳士なので、紙一重で反応する事はない。

 

 ―― グレードアップ効果だと!? 神素材かよ!

 

「いや、流石にこれは無しだろう……」と思い止まった陽二は「なぁ収納スペースって洗浄できるのか?」

 とランスロットに訊ねた。

 

「試した事はないが、私が水で流してやろう」

「おっ、頼むよ」

 

 水があふれても濡れないように、闇(ギフト)を使って陽二が収納スペースを開くと、そこへランスロットが手を突っ込んだ。

 

「水(アクア)!」

 ―― あくあ?

「なるほど……それが水(イガネオ)になったのか?」

「んー済まない。私にも詳しくは分からないが、今のは『イガネオ』とも言えるし『水魔法』とも言えるかもな」

 

 つまり『水(イガネオ)』『水(ギフト)』『水(アクア)』のどれでも同じ効果を発揮するのだ。そしてランスロットのように、固定概念に縛られておらず、当たり前のように水魔法を使いこなす者が使うと、魔法同等の効果を発揮するのだ。

 

 ちなみに広く知られていないが、水(アクア)や火(ファイ)のように、イガネオと同じく属性名だけで魔法を使う事もできる。

 

 収納スペースをある程度洗浄したランスロットは、腕を突っ込んだまま「これがギフトだな。火風(イガネオ)!」と唱えた。

 

「ああそれな。精霊の泉んとこで火水(温水)と一緒に習ったから覚えているよ」

 簡単に説明すると火風(ドライヤー)だ。

 

「復習だ!」

「はいはい」

 

 陽二は体液を洗い落とし、ある程度乾燥させた持ち物を並べて整理し始めた。

 王ダグリオスに貰った金貨と銀貨は結構残っており、魔札は日本の紙幣と同様、水に濡れても大丈夫な作りになっていた。

 

 ―― 着替えとシノフィールで作ったMP回復薬が1個。桜にもらったMP回復薬が10個と、宿場町でくすねた青い玉と精霊の泉の水が入った瓶と調合セットは、問題ないな……地図帳はどうだ?

 

 乾燥して波打ってはいるものの、バリバリっとページをめくれば見られない事はなかった。

 

「まあ、被害は小さかったなかな? そうだ、ついでに鑑定してみるか」

 

【桜印MP薬 回復1000~】

 ―― なんちゃう回復量や、すっげぇなあ……

 

 その性能に驚きつつ、桜に作り方を教えてもらおうと考えた陽二は、思い付いた。

 

「なあランス、いいもの見せてやろうか?」

「なんだ陽二。私の心をドキドキさせてくれるのか?」

「おまえの言ってる意味が分かんなくてドキドキするわ。まあちょっと見てろよ」

 

 シノフィールで作ったMP回復薬を手に取る。

 

「複製(コピー)!」

「んっ? こぴーとはなんだ?」

 

 ―― あれ、複製できない。なんでだ?

 

「おかしいなあ。ちょっと待てよ……」

 

 首を捻(ひね)るランスロットに声をかけた陽二は、桜印MP薬を手に取りもう一度試した。

 

「複製!」

 

 今度は成功。桜印MP薬が2つに増えた。

 

「おおっ! すごいな陽二、それは魔法なのか?」

「まーな、すごいだろう。俺も何でかは分からないんだけど、アスモさんにステータスの改造をしてもらったその後から使えるようになったんだよ」

「不思議だな……」

 

 ―― まあそれはいいとして。ちょっと確かめてみるか

 

 今複製に使った桜印のオリジナルとコピー品で複製を試す。

 ―― 複製できないか……じゃあ

 別の桜印を手に取り複製

 

 ―― できた! なるほどな、どうやら1回しか複製できない『ワンウェイ仕様』ってやつか。それに、複製品からのコピー防止機能までついてやがるとは……ちっ、コピー作戦で増やしまくろうと考えていたのにな。そうは問屋が卸さないって訳か……

 

 まあ、そんなに甘くはないわなー。とキッパリ諦めた陽二は、複製品の桜印を鑑定してみた。

 【桜印MP薬 回復700~】

 

 ―― コピー品は、大体70%くらいの性能に劣化か。それでも破格性能、桜印は使えるな……

 

 幼女恐るべし!

 と生意気な桜を素直に褒めたくない旋毛曲(つむじまがり)の陽二は、混同して間違える可能性をなくすため、複製品と複製に使用した薬は自分の収納スペースへ、複製未使用の桜印と採取した素材は大倉庫へ分別して収納。

 

 この大倉庫もステータスの改造後から使えるようになったもの。同じく使えるようになった『一括管理』を併用することで、収納した品物が《薬草(9)》と分かりやすくリスト化され簡単に出し入れできる優れ物だ。

 正直なところ箪笥より使いがってが良さそうである。

 現在の収納率も《1%未満》と表示されるのもありがたい。

 

 ―― あっそうだ。いいこと思いついた! 

 

 善は急げとばかりに、陽二は金貨を拾い上げると『複製!』と唱えた。

 

「あっ陽二。待て!」

 

 ランスロットの制止は少しばかり遅かった。彼の手の中で、金貨がサラサラと砂のように崩れ落ちた。

 

「なっ!? 俺の100万円が……」

「遅かったか……。陽二。この国のお金は、手のひらに乗せた状態で魔力を使おうとすると、魔力の回復ができる。その代償が、それだ」

 

 ただし例外あり。また、金貨と銀貨には不慮の事故を防ぐ機能も搭載されているが、緊急性または悪意には敏感に反応する。

 

 陽二の手のひらを指で差しながら説明したランスロットは、とても残念そうな顔をしていた。

 

「悪い事をしようとした罰なのか?」

 呟いた陽二はうなだれた。

 

 ―― くっそぉ100万は痛すぎる。まずは銀貨で試せば良かった。ん? MP回復? 

 

 MPを確かめると2640もあった。

 

 ―― いつの間にこんなに増えたん? レベルは9しか上がってないはず。そんなに増えるもんなのか?

 

 その数値も最大値なのかは不明である。もしかしたらもっと増えているのかもしれない。

 しかし陽二は、薬がもったいないので回復してまで確認しようとは思わなかった。

 そんな事よりも、失敗から学ぶ気持ちを優先したからである。

 

 ―― やってしまったのは仕方ない。これも勉強だと思えば安い物だ。……や、安くはねーな。くっ! 気持ちを切り替えよう

 

「なあランス。ここら辺にタングリ落ちてないか?」

 

 意外と役に立つのがドングリだ。

 なぜか変化してしまったものの、一度は完全回復薬を作った実績を持つ彼は、ドングリのお陰だったと勘違いしていた。

 なので一定の信頼と“取引に使えた味”をしめた彼は、優先的に確保すべき素材として認識していた。

 

「タングリなら、向こうの雑木林にたくさん落ちていたはずだ」

「よし。行くぞ!」

 

 意気揚々と歩きだした陽二を追うように、ランスロットも歩きだした。

 

 △△

 

 雑木林に到着したふたりは、仲良くお喋りしながらドングリを拾っていた。

 

「しっかし不思議だよな。ドングリって、普通は秋なんだけどさぁ」

 

 頭上を見上げると、所々ではあるがドングリがぶら下がっていた。

 

「陽二は博識だな。私は気にもした事ないが、ここにはいつもぶら下がっている気がするぞ」

「そっか。年中ぶら下がっているのも不思議だけど……まあラッキーだからいいか」

 

 良く見てみると、様々な形大きさのドングリが落ちていた。そして、見覚えのある茶色い物体を発見したのだ。

 

 ―― ど、どうして今の時期にこれが!?

 

 一度見つけると、次から次に目にとまるようになった。動き回って場所が変わったのも当然あるが、気がつけば緑の物を含めるとアホみたいに落ちているではないか。

 キラリーン! と目を光らせた陽二は、ランスロットがこちらに背中を向けたのを確認したと同時にソレを拾いあげると、彼女の背中へ向けて軽く投げた。

 

「ふっ。甘いなっ陽二、バレバレだ!」

 

 彼女は気付いていた! くるっと振り向くと、上手に勢いを殺してキャッチしてみせたのだ。

 そう。彼がランスロットへ投げたのは、いがぐりだった。

 

「な、なにぃ見抜かれていただと!?」

「ふっ。散々桜に投げられたからな……」

 

 ランスロットは遠い目をしていた。彼女は今、一体何を思っているのだろうか。その彼女の重い言葉にあっさり納得できたのが陽二だ。

 

 そりゃそうだ! と陽二は心の中で呟いた。

 ―― あの桜が、いがぐりみたいなオモチャを見つけてイタズラに利用しない訳がないだろう。

 

 これを聞けば、桜もとんだレッテルを貼られてしまったと憤慨ものだが、当事者からすれば、ふざけるなよテメエと言ったところか。そんなこんなで被害者の会を立ち上げそうになった陽二は、お前の気持ちは理解できる。と言わんばかりの言葉を投げ掛けた。

 

「大変だったな。桜の事だ、無傷で済むわけないよな」

「陽二は知っているか? そのトゲトゲが体の中に残ってしまったら簡単には取れないのだぞ?」

 

 哀愁が漂っていた。

 彼女はいがぐりを見つめながら、何かを思い出しているようだった。心の傷はでかいのだ!

 

「あいつ、悪魔だな」

「全くだ!」

 

 被害者の会は、饒舌に桜の悪口を言いながらドングリ集めに精を出す。桜に対するネタは、尽きる事を忘れたらしい。

 

 陽二は一瞬。

 もしかしたら、どこかで聞かれているのでは? と寒気を感じてしまったが、赤信号みんなで渡れば怖くない。と考えると強気になれた。

 ―― 流石の桜も、そこまで地獄耳じゃないだろう

 と作業に没頭するのだった。

 

 △△

 

 桜に魔力の扱い方を教わったおかげで、ドングリの中身を取り出す作業が捗(はかど)っていた。

 

 なのでランスロットには、栗集めをお願いした。

 栗は大粒で、一片7cmはある大物だ。

 大きいと大味になると言うが、夕食の足しに使ってもらってもいいし、渋皮煮を作った経験もあるので、今日のお礼に作ってみようかな、と考えていた。

 

「そろそろやめよーか」

 

 声をかけ、取り出したドングリの中身を大倉庫に収納。ランスロットの元へ近づくと、予想以上の大収穫だった。

 

「流石ランス。すげーな」

「陽二も頑張っていたではないか」

「お互い良い汗かいたな!」

 などなど。

 他愛もない話と、お互いの健闘を褒め合いながら屋敷へ戻った。

 

「お帰りなさい。お望みの素材は見付かりましたか?」

「はい、ありがとうございました。桜にもお礼を言わないといけないですね」

「あら? そちらに寄りませんでしたか? 一度帰って来たのですけど、やる事が残っているからと出て行ったのですが……」

 

 ―― ドングリ拾いをしている最中か? 顔も出さなかったって事は急いでたんだろうけど、あいつも本当に忙しそうだなぁ。ゼラガイオーだったっけ? 着々と完成に近付いているんだろうな……

 

 と桜を労うような考えを持ったものの。彼は、アスモデウスに栗拾いの成果を報告したかったので、その考えはすぐに破棄した。

 

「これを拾ってきたんですけど、食べられますか?」

「まあ、立派な栗ですね。栗きんとんや甘露煮もいいですけど……今度、栗ご飯と煮物に使いましょう!」

 

 元世界と同じく食材としても問題なさそうだ。3人で殻を割り、渋皮の部分をナイフで削り取った。

 ここで、意外な事実が発覚した。

 ランスロットの手際が、早い。綺麗。と、とても素晴しかったのだ。流れで陽二が話を聞くと、料理も人並みにできると判明し、高い女子力を持つ彼女に驚愕していた。

 

 しかし桜の屋敷では、アスモデウスが料理を担当しており、ランスロットは一切の手出しを厳禁となっていて、その腕をふるう出番はない。

 そんな話を、アスモデウスが離れた隙に小声で聞いた陽二は

 

 ―― 台所に女性2人が立つとケンカが絶えないって聞くし、円満なチーム作りをするためのルールが存在するのかねぇ?

 と考えていた。

 

 ―― あれ? そう言えば、精霊の泉でもアスモさんが仕切っていたな……ランスの女子力を見る機会はないかもな

 

 △△

 

 渋皮をむき終わり風呂をすすめられた陽二は、ランスロットと一緒に風呂場へ向かった。

 当然ながら男湯、女湯と2つある訳でもなく一緒に入浴する訳でもない。場所の案内だ。

「ランス、案内ありがとう!」

「ああ、ゆっくり楽しむといい」

 という訳で、ありがたく風呂を頂戴していた。

 

「ふいー極楽だな」

 

 着替えは全て唯の吐物が付着していたので、整理のとき洗っていた。しかし乾かすのを忘れていた陽二は、火風を駆使して乾燥させた。便利である。

 そのあと今日着ていた服を洗濯して、風呂場を後にした。

 

 リビングに居たランスロットへ風呂から出た事を告げた陽二は、部屋に戻ってそこら中に洗濯物を干す。一応、洗濯物を入れるカゴも風呂場に置いてあったが、そこまで甘える訳にもいかないと考えたのだろう。

 

 ―― ついでだ

 

 陽二は大倉庫からドングリを取り出し床に並べ始めた。そのまま置いておけば、ある程度乾燥するだろう。

 調合の本にも書いてあったが、乾燥させて使うのがベターなのを覚えていたのだ。

 終えるとベッドへダイビング。そのまま寝転んでいると、ランスロットが呼びに来た。

 

 △△

 

 場所はリビング。

 桜はまだ帰宅しておらず、3人で食卓を囲んでいた。

 栗の甘露煮も出てきたので、陽二は舌鼓を打った。

 片付けを済ませると、アスモデウスによる魔技と魔法の勉強会が始まった。

 

「10級から使える魔技は、弱体化(デチューン)と部分強化(ブースト)の2つです」

「はい」

 

「まずは弱体化を説明しますね。

 これは、自分の身体能力を下げるために使います。自分より弱い魔物を倒しても、当然ですが熟練度はなかなか上がりません。他にも理由はありますが、大きな理由はその為の措置と覚えておいてください。陽二くんは徐々に下げていって、0.5まで下げられるように頑張ってください。取りあえずですが、今から0.9に下げて生活してくださいね」

「分かりました。弱体化(0.9)!」

 

 ―― あまり変わらないような気がするけど……

 

「当分そのままで行きましょう。実感ないくらいが、ちょうどいいんですよ。級が1つ上がれば、また0.8に下げましょうね」

「分かりました」

 

「次ですね。部分強化は、指定部位の筋力を一時的に強化します。無理に強化するので、あとから痛みを伴います。しかし、上手に使えば短期間で体を鍛える事にも使えます」

 

 ―― 筋肉痛って事か? 違ったら怖いな……よし、使わない。

 

「次、魔力についてですが……現在判明していることをお教えします。空気中には窒素、酸素とその他の気体が存在するのをご存じだと思いますが、窒素の中には魔力の素を持つ窒素があります。

 これを魔素と呼んでいますが、魔力の素と魔素は全くの別物です」

 

 ―― 少しややこしいな。でもそれなら、魔力の素を魔素って呼ぶように統一すればいいのに……そう言えば、桜の父親が書いた神の書にも窒素が魔素とか書いてあったな……

 

 アスモデウスは説明を省いたが、魔素は空気中にしか存在しない。そして、人が魔力を得る方法で最もポピュラーなのが呼吸である為、魔力の素を持った窒素が魔素と呼ばれているのだ。

 要は、昔からの研究過程の名残である。

 逆に魔力の素は何処にでも存在し、自然を介して循環している。

 

「魔素は、体内にいる魔菌によって魔力に変えられ、約半分は魔菌がそのまま保有して、残りは体外に放出されています。これを『魔力の回復』と呼びます」

「なぜ残りは、体外に放出されるのですか?」

 

「残念ですがそれは分かっていません。ですが、何か意味があるのでしょうね。そして、その放出される魔力を利用しているのが『ギフト』であり、この国の『お金』です」

 

 ―― その説明は唯さんが教えてくれたのと同じだな。魔力放出の件が少し違うけど、あとから判明した研究結果なんだろうな……

 

「それと魔力回復による魔力放出の件ですが、魔技の級が上がれば、放出を抑制できるようになります……例えば魔力を身にまとったり、桜ちゃんのように乙女指弾(ゼラバスター)への転用も可能です」

 

 なるほど……級が上がれば無駄なく使えるようになるのか

 

「とは言え、魔力や魔素は“そんなもの”くらいの知識で十分ですよ。それ以上知ったとしても、意味がありませんしね」

「そうなんですか?」

「ええ。それ以外でお聞きしたい事はありますか?」

 

「ギフトの仕組みはわかってるから……魔力を吸収したお金は何に利用しているのですか?」

「各硬貨は、魔力を吸収して魔鉄や魔銀といった鉱石になります。なので、武器や道具の材料ですね。

 魔札は、単に魔力を集めています。それをスノームで吸い出して、さまざまな用途に使われます。代表的なのは結界路と魔王のダンジョンの維持です。ちなみに、桜ちゃんが使っていた玉の補充にも使われています」

「なんか搾取(さくしゅ)? しているみたいですね」

 

「そう言われてしまうと困りますが、魔力を提供していただいている代わりに、結界路の維持や雇用、食糧や生活用品などあらゆる面で魔王サイドが手助けをしているのが現状となります。これは秘密のお話なので、お口にチャックをお願いします」

 

 ―― 要は、助け合いやギブアンドテイクか? どこか引っかかる部分もあるけど、俺が口を出せる問題じゃないな。そう言えばダグが、魔王のことを裏の王様って言っていたけど、納得だ。

 

「では話を戻しますね。

 魔菌によって作られる魔力は、大きく分けて3つに分類できます。1つは、魔物や魔石の魔力。これをA(1)とします。次に植物や鉱石に含まれている魔力。これをB(5)とします。最後に、人族が作り出す魔力。人によって変わりますが平均してC(10)とします」

 

「その3つは何が違うのですか?」

「私も最初は理解できなかったな……」

「存在感薄いなあ。今までランスが居るの忘れてたわ」

「酷いぞ陽二!」

「ランスちゃん。陽二くん。話を進めてもいいですか?」

「すみません!」

「すまん!」

 

「こほん! えっとですねぇ……魔力の質(・)が違うんです。人の魔力を1得ようとしたら、Aなら10、Bなら2必要になります。もし全てをCに合わせてしまうと、効率がものすごく悪くなります。そこで発明されたのが、Aの電池(魔電池)やBの電池で動く魔道具や装置なんです」

 

 ―― だから魔石の用途は電池なのか。人から集めた魔力は結界路だったかな? 植物は薬か? 例えると、100Vや200Vの電気みたいだな……

 

「次は、魔技の基礎を練習します」

 

 その後、魔技の基礎をびっちり教わった陽二は、明日アスモデウスと桜のふたりが、ジェームスと港町サラデインへ出かけるので不在になる事を伝えられた。

 

「明日はよろしく頼むよ」

「任せておけ!」

 

 という訳で、ランスロットがスノームを案内してくれることになった。

 

 

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